あれからも『闇の書』の足止めは続いた。
邪神と鉄槌の騎士はサブカルチャーに弱いと見た『闇の書』の数々の足止めを行う。
時に音で体を操り(音頭)
時に物欲を刺激したり(ニンテンドウ)
と、様々な足止めの罠が襲ってくる中で特に苦しめたのが。
劇的ビフォアー・アフター。
『桃太郎の実家、改装計画』
―鬼の屍の上に立つ家―
『森の泉の精。殺人事件』
―血に濡れた金の斧。銀の斧―
うさぎとかめⅡ。
『うさぎリベンジ』
―もう、眠らないー
という、日本童話をどこぞの番組やハリウッド風にアレンジした映画館を作られた時は本当に苦しんだ邪神と鉄槌の騎士。
『闇の書』の所有者のはやての記憶をたどって様々な映画を作り上げる『闇の書』は間違いなく凶悪だ。
「だが、ここで最後だ!最奥部に突入するぞヴィータ!」
「おう!」
邪神とヴィータは迫りくる欲望を必死に抑えながら残り一時間になってようやく『夜天の書』のバグ。『闇の書』に変化してしまっただろう原因地点にたどり着いた。
厳重そうな扉で行く手を阻んでいたが、邪神のWCCで罠ごと撤去され、内部へと踏み込む二人が目にしたのは、鈍重そうな鎖で体を縛られ、身動きの取れない女性の姿だった。
それを見たヴィータと裕。そして、クラールヴィントの片割れ越しのシャマルはお互いの目を見て頷いた。
「「『罠だな(ね)』」」
「そう決めつけるのもどうかと思うぞっ」
鎖に繋がれた女性は疲れ切った表情をしながらも、自分を罠だと断定した彼等にツッコミを入れる。
「いやいや、だって、あのはやての持つ『闇の書』だよ。動けない美女を配置するってことは絶対罠があるって・・・」
「ああ、はやてだからな。あいつシグナムやシャマルの乳をもごうとする手つきで揉みまくりだからな。きっと、自分がこんな状態だったら、罠にかかろうともあの乳をもごうとして罠にわざと突入するだろうし・・・」
今まで散々な足止めの罠を受けてきた邪神と騎士は彼女自体が罠なんじゃないかと疑っていた。
クラールヴィント越しに見ているシャマルも同じ意見である。
「主はやては」
「とりあえず、このおっぱいには触らないで鎖の方から調べてみるか」
「そうだな」
「主は」
『その鎖に生体。魔法的な罠はないわね。だけど、『闇の書』暴走の原因はそれかも』
「ある」
「WCCだと・・・。うわっ、やっぱりこれか。装着した奴に『強化』と『狂化』のステータスがかかってる。『魔力吸収』に『生体吸収』。『緊急脱出』は例の転生機能か?とりあえず全部削除しても大丈夫かなっと」
「おいおい、反動とか気をつけてくれよ」
「大丈夫、プレビューで見てみると『闇の書』から魔力が大量放出されるだけだから」
『それって危ないんじゃないの?』
「あ」
「一時的に周りにいる魔導師達の魔力が上がるだけみたい。というか、この鎖が魔力の粒子になって飛び出す。のか?だとしたらはやて達には別の星に行ってもらわないと駄目か。犯罪者がパワーアップして脱獄。何てなったら後先やばそうだし・・・」
「それ自体を無くせばいいじゃないか」
「・・・」
「うーん。そうなんだけど、この鎖ってカプセルみたいなんだよね。無機物で周りを囲って中にある肉を保護しているみたいな?肉自体は生きているみたいでウイルスみたいに凄く細かいから干渉できない」
『とりあえず、他の場所に転移しておくわね』
「オッケー。転移が終わったらこの鎖を分解すれば『闇の書』も直ると思う」
ある程度鎖を分解して、捕らわれの美女を解放した時、彼女の方から鼻をすする音が聞こえた。
「うっ、ひっく、ぐずっ」
「うおおおいっ、ちょっと無視されたぐらいで泣くなよ。お前も騎士だろ?」
ヴィータは慌てて彼女に話しかける。
捕らわれの銀髪美女は構ってちゃんだったのか。先程から声をかけても、罠に反応してはまずいと思ったヴィータと裕に無視されて鼻声になっていた。
もしくは自分の今の主がとても残念だから涙を流していたのか。
「な、泣いてない。ちょっと涙腺と鼻腔から水が零れそうになっただけだ」
ガン泣き寸前じゃないか。
「はいはい。せっかくの美人さんが鼻水を垂らしたらはやて同様残念な称号がつけられるでしょ」
残念な邪神である裕に言われても説得力はないが、彼が鼻に押し付けるハンカチでチーンッと音を立てて鼻をかむ。
そして、美女の鼻水がついたハンカチ。正確にはその鼻水をクラールヴィント。シャマルに良く見えるように広げる。
「シャマルさん。これに異常ないですか?WCCだと普通の鼻水みたいなんですけど?」
『うーん。ちょっと待ってね』
「・・・っ」(羞恥心で顔が真っ赤)
「・・・」
自分の鼻水を広げられてじっくり調べられるという羞恥プレイ(+拘束プレイ)に銀髪美女さんのまぶたから水が溢れそうになる。
そんな彼女を見てヴィータは邪神に関わったんだから諦めろと無言で首を振るだけだった。
銀髪美女さんの鼻水を調べながら着々と、彼女を拘束し、『夜天の書』のバグ。鎖をゆっくりと慎重に分解していった裕はプレシアとシャマルが作り上げたワクチンプログラムの入ったカプセルを準備する。
「はい、あーん」
「鉄槌の騎士!せめてお前がしてくれ!」
今度はどんな辱めを受けるのかと警戒心MAXの美女さんは必死にヴィータに助けを求める。
「あー、わるい。あたしも一応『闇の書』の一部だからそのカプセルには触れないんだよ。私を伝播してお前にワクチンに対する抵抗を覚えたらまずいだろ・・・。まあ、諦めろ」
「そ、そんな」
鉄槌の騎士の言葉により、絶望という色に染め上げられた美女。
そんな彼女に優しく邪神は語りかける。
「大丈夫大丈夫。ちょっと、『生臭くてぬめぬめした液体』と一緒にこれを呑みこんでくれればいいから」
「嫌だぁああああああっ!」
『生臭くてぬめぬめした液体』は元をたどれば『闇の書』。無毒化しているので害はない。
見た目以外は。
「胃カメラの時に飲むバリウムみたいなもんだって。ほら、ぐっといけ」
「あむうううぅっ」
「嫌がる美人に白い物を飲ませるのは興奮しますね」
『裕君、声に出てるわよ』
「おっといけない。つい、本音が。ほらほら、こんなじめじめした所から出れるんだ。これぐらい安いもんだろ」
「む、むん」
口から白い液体を少し零しながら銀髪さんは裕の言葉に頷き、バリウムもどきと一緒にワクチンカプセルを飲みこむ。
「お~、いい表情、いい表情」
「写メすんなよ」
「いや、動画だ」
『なお悪いわよ』
「~~~~っ!」
「冗談だよ冗談」
顔から火が出るんじゃないくらいに顔を赤くしている美女。
地面。『闇の書』ダンジョンの床から即席で作り上げた即席携帯電話を投げ捨てて、新しいハンカチを取り出して美女の口元をぬぐう。
バリウムも牛乳もクリームも。
白い物は大抵乾くと臭くなるもんな。
「もう、それは広げないでくれよ」
「わかった。大事に保管する」
「~~~~~~~~~~~~!!!」
「もうその辺にしてやれ。いい加減可哀相になってきた」
「わかった、わかった」
「そう言うんだったらちゃんと捨ててくれ!」
・・・ち、懐にしまおうとしたところをきっちり見ていたか。
闇の書ダンジョンを脱出した暁にはこれを使ってセクハラをしようと思ったのに・・・。
『裕君の場合。セクハラというよりも命の恩人という立場からのハラスメントだからパワハラよ』
「・・・毎度のことながらどうして俺の考えが皆には分かるの?」
「顔、顔」
現世邪神は考えが顔に出やすいようだ。
「・・・うう、はやく外に出たい。主はやてに会いたい」
「はやても俺くらいひょうきんな奴だぞ?」
「おいっ、ちょ、何度も言うけどお前も騎士だろっ。そんな子どもみたいに顔を振って戻ろうとするなっ」
まるで遊園地から出たくない子どもの様に足で踏ん張って外に出ようとしない美人さんを無理やり引っ張って出ようとするヴィータ。
衰弱しきった体の所為か、彼女の抵抗空しく引きずられていく美人さん。
終始、子どもの様な仕草を見せる美女に邪神が動かないはずがない。
『裕君もせっかく成功しかけているのに変な事を言わないの』
「・・・現実って、非情だよね」
「しみじみ言うなっ。ほらっ、お前もそんなにイヤイヤいわない!」
哀愁漂う感じの邪神に更に怯えた美女は抵抗を激しくする。
だが、もともとヴィータの方が力強く、更には彼女のデバイス。グラーフアイゼンはWCCで装備者の能力を大きく向上させる(マリオヴォイス付き)。
そんな騎士を相手に弱りきった美女の抵抗など本当に可愛いものだった。
邪神に目をつけられた獲物は苦痛(嫌がらせ)に会うのは必然だった。
銀髪美女がシグナム同様に裕の事を見ることに疑問というか疑惑を感じた幼馴染トリオ。
邪神は楽しそうにその事を幼馴染達に自白した。
もちろん、幼馴染達からはジェットストリームアタックを受けるのも必然ともいえる。
闇の書内部で珍道中を繰り広げている邪神達の詳細を事細かにはやてやクロノ達に伝えたシャマル。
聞かされたはやてを除いた全員が何やってんだと思っているなか、はやては悔しそうに表情を歪めて…。
「ちぃっ、邪神め。これでは私がセクハラしにくくなったやないか」
「そう言う問題なのか?」
「クロノ君もわかるやろ。綺麗なお姉さんが恥ずかしがっている場面を想像してみい。・・・萌えるやろ?」
「・・・。はっ!いやいや、そんな事はないぞ」
ここで即答できなかったクロノ。
後日談として、エイミィを初め、自分の魔法の師匠であるリーゼ姉妹からセクハラを受けることが確定した。
「警戒心の無い美人のお姉さんの『初めて』(のセクハラ)を奪い負ってからに・・・。これがNTRってやつか?!」
「主はやて。言葉を控えてください。というか、どこでそんな言葉を覚えたんですか」
「何ゆーてんの。シグナム(元父親)の部屋でや」
その言葉にはやてを除く全員が一歩シグナムから距離を取る。
「ちょ、私はそんな本や情報等は購入してません」
「泥棒をしてまでもほしかったんやなぁ」
「・・・シグナム。今のうちに守護騎士の将を辞任してくれ。新たに出てくるだろう新たな騎士の為にも」
「ザフィーラ信じてくれ。私は買ってないし、泥棒もしていない!」
「すまんな。俺は主はやての守護獣だから」
「ザフィーラァアアアアアっ!!」
自分に合わせるようにとシグナムに見えないようにウインクをしたはやてにやれやれといった具合に合わせたザフィーラ。
シグナムから見たそれは自分がエロい本を持っているように思われて失望したんだと感じ取れた。
邪神の手によって主はやての悪戯が加速した。
ある意味、守護騎士達(特に将であるシグナム)が被害を被っていた。
だが、邪神の手を取らなかった場合、被害は甚大な事になっていただろう。心労はあるがその見返りは大きすぎるくらいだ。
はやては新たな家族がもう一人増えると喜んでいたが。そのもう一人の家族候補の女性は『闇の書』。ではなく『夜天の書』の奥に逃げ込もうとしているらしいが・・・。
邪神と騎士達の手により、バグから切り離すことが出来そうで、今からこの宙域から無人の星がある世界へと転移しよう。
そんな時だった。
はやて達の後ろに陽光を弾くほどまばゆい光を放つ鎧を着た少年が現れるのであった。
前書きの答え。
邪神様&作者「私は大好物です」