対『邪神様』プログラム起動中
管理外世界地球を旅立ってしばらくして。
ヴィータと裕が『闇の書』内部に潜入して十八時間ほど経過した。
残り時間三時間を過ぎた。それ以上の滞在は脱出不可能。それは裕自身の死亡を意味する。
WCCで入り口までの避難経路は常時維持しているとはいえ、既に『闇の書』は邪神と謀反を起こしたに等しい鉄槌の騎士の存在を感知している。
それだからだろう。
『闇の書』の中核に近付けば近付くほどヴィータの鉄槌では押し潰しにくいスライム形態の物から細かく小さい飛来物が飛んでくる。
邪神対策だろうか生体。まるで内臓の中の様にグロテスクな物に変化してWCCの効果があまり効果を及ぼさない。完全に生体ではなく無機物の要素もあるからその通路を潰そうとしても、WCCで上書きし、通路をこじ開け進んでいくヴィータと裕は歩むのを辞めない。
だが、どんな物でも『生きている』なら学習能力はある。
ヴィータと裕の弱点は小さく細かい『生体』の攻撃。
それをいなしているのは二人の目的が『はやてを救う』という目的の為か時にはヴィータが裕はかついで攻撃を躱し、裕が邪神の力で壁を作り出し防ぎ、その壁を攻撃に転用し、進んでいく。
それでも『闇の書』。元は違う名前で呼ばれていただろうそれにいつの間にか帰省していた『呪い』は侵入者を許しはしない。
生体による攻撃だけでなく人間の体を持っている以上その反応を示すだろう裕に対しての妨害処置を強くする。
時に大音量で集中力を途切れさせようとしたり、強力な光量を出して視力を奪おうとする。だが、裕が身に着けているのは月村・バニングスの両方の家から揃えた最高品質の服とアクセサリーにテスタロッサの科学力で加工を行った物にWCCで底上げした効果を施した物だ。裕の集中力を途切れさせたいのであれば、殺す気で来るか余程の不意打ちをしなければならない。
だが、それを許すほどヴィータの技量は甘くない。その障害を叩いて潰す。
邪神が道を作り、騎士がその道を突き進む。
自分達を止めるモノは何もない。
「そうだろ、アイゼン?」
『いやぁっふぅー』(某配管工ボイス)
「裕、いい加減アイゼンの声を元に戻せよっ!」
「べつにぃ~、いいじゃね。金貨を独り占めするような騎士にはお似合いだろ?それに声を戻したらパワーアップ要素も消えるし」
魔法というスタートダッシュが効く力を持つヴィータに金貨をごっそり持ってかれた裕は彼女の要求を却下する。
もちろん、声を直すとパワーアップ効果が無くなるというのも嘘だ。
自分とはやての命がかかっているという緊張感をほぐすために施したおふざけだが、カートリッジシステムというブースト機能を使うたびに自分の相棒から配管工の声が聞こえるヴィータは脱力していく。
「声なんか集中していれば気にならないって」
「そうは言うがな…。アイゼンの声がこうも変わると…」
『ノンノン。イッツミー、マリオ』
「やっぱり戻せよ!」
「ちゃんと機能はしているんだから文句を言わない」
騎士として、長年の相棒がここまで変わると泣けてくる。
ヴィータは変わり果てた自分の相棒。その原因を作ってしまった自分の行動に後悔していた。
そんな中、邪神と騎士がじゃれ合っているように突き進んでいく。この二人を止めることが出来ないものか。
『闇の書』は思考しながらも思いつく限り抵抗をする。
何が有効打になる?あの騎士に?あの邪神に?
そうだ、あの邪神だ。
あの邪神が現れてから騎士達もおかしくなった。『闇の書』の侵攻に歯止めがかかった。
だから、考え得る限りの手を打とう。
その変化は『闇の書』の外側でも変化が起こっていた。
八神はやてとその騎士達。執務官のクロノとその師、リーゼロッテ・アリアをある星に降ろした後、その場の監視をアルカンシェルという高出力の魔道の大砲を乗せた航行艦に乗ったグレアムとプレシアが監視している。
不穏な動きがあれば彼等ごとアルカンシェルで吹き飛ばす算段だ。
もちろんそれは最悪の手段である。使うことなく、使わないでいることが最優先だ。
「・・・という事から『闇の書』とその主、八神はやて。そして守護騎士達を道徳的に考え、保護してきました。つきましては彼女の延命処置の為に魔力の収拾をお願いしたいのです」
「だが、暴走する可能性がある。その被害はリンディ君。君にもわかっているだろう」
そんな中でリンディ・ハラオウンは自分の愛する旦那。クライドも連れて管理局上層部に直接嘆願を出している。
「その可能性も視野に入れて彼女達には既に別空間で待機してもらっています」
「な?!あそこは次元犯罪者を投獄している世界でその星そのものが監獄の場所だぞ?!しかも、死刑や終身刑が決定している極悪人だけの場所っ、そこで『闇の書』が暴走し、奴等を逃すようなことになればただでは済まんぞっ!」
「その為にもグレアム提督には『闇の書』の所有者ごとアルカンシェルで攻撃。暴走勝利をしてくれます」
「な、ならんっ。あそこにいる奴等の中にはまだ改心の余地がある奴等もいるっ!それこそ人道的に反する!」
「失礼ながらあそこにいる彼等に改心の余地はありません。罰を受けながらその生を全うするまでそこに留まる。なんの感情の起伏無く凄く罪人達がいるだけの星です。・・・そして、非合法な薬品や魔法の人体実験場でもあります」
「・・・なんと」
「既に彼等には監査が向かっています。それに『夜天の書』。アレの傍には私の息子と友人でもある使い魔達もいます」
「・・・そこまでの覚悟を決めているのか」
下手をすれば自分の息子まで死んでしまう。
それでもこうやって行動に出るからには何らかの勝算があるのだろう。
「勝算はあるのかね?」
「あります。濡れ衣を着せられた天才大魔導師プレシア・テスタロッサ。そして『闇の書』の主とその騎士達の協力。更には今現在も『闇の書』、いえ、『夜天の書』に関する情報を聖王教会からも助力を得ています」
「それが来てからでも行動に移せばよかったのではないか」
「それでは遅すぎるのです。『夜天の書』の主。八神はやてを救うにはあまりにも遅かった」
「それは早計という物では…」
「・・・ゲッター」
「なに?」
「すでにご存じの方もおられるでしょう。人の進化を見届ける存在。私はそれに賭けました」
人の口に戸は建てられない。
JS事件でアユウカスとしてゲッターロボを駆使し解決し、テスタロッサ一家を救った存在を上層部が掴んでいないはずがない。
少なくても暗部を知るプレシアとその娘の存在を知る彼女達に何かがあっただろうと勘ぐるのが普通だ。
「その存在に私も助けられた」
「・・・クライド君」
「どうか信じてください。『闇の書』いえ、八神はやてとその騎士達。そして、彼女達を救おうとしている存在を」
夫婦の訴えをそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。
しかし、奇跡の体現者が今、目の前にいる。
それに救われ、また今もすわれようとしてる小さな少女の動向。
それが失敗に終わっても愛する我が子を犠牲にする覚悟。いや、成功するだろうと信じているからの行動に上層部は小声で相談し合い、審議を続ける。
そんな時だった。
『闇の書』に変化が現れたという情報が届いたのは。
「映像を出してっ!・・・これは」
映し出された映像には『闇の書』の拍子が紅白に点滅している様子があった。
爆発。いや、暴走の前触れかと計器を見るが魔力の乱れが少しある物の暴走の類ではないらしい。だが、『闇の書』で何かが起こっている。
邪神が何かしでかしたのだとハラオウン夫妻はそう思った。
「音声来ます!」
「・・・これは」
ハーッ、ラッセーラー、ラッセーラ♪
ソーラン♪ソーラン♪
ハーッ、ドッコイショー、ドッコイショ♪
アーッ、ドッコイショー、ドッコイショ♪
ソーラン♪ソーラン♪
軽快な音楽と共に赤白に光る『闇の書』はまさにお祭り騒ぎだった。
『闇の書』の主であるはやてはもちろん、『闇の書』に直接触れているシャマルもびっくりを通り越してあきれ顔。
シグナムにザフィーラの脳裏に腹を押さえて笑い転がっている少年がよぎり、クロノとリーゼ姉妹はこれは本当に『闇の書』か?と疑いの目を向けている。
残念な事に『闇の書』本物である。
すべてあの邪神の所為だと裕の事を知っている人間は断定した。
「・・・リンディ君。本当に信じていいのかね?」
「・・・・・・・・・・・し、信じたいです」
「リンディ。そこはきっちり言いきろうよ」
「…だって」
ハーッ、ラッセーラー、ラッセーラ♪
ソーラン♪ソーラン♪
ハーッ、ドッコイショー、ドッコイショ♪
アーッ、ドッコイショー、ドッコイショ♪
ソーラン♪ソーラン♪
今もなお、軽快な音楽を流し続ける『闇の書』。
その内部では日本人の血を持って生まれてしまったがために体が音楽に連れられて踊っている邪神を止めようとしている鉄槌の騎士がいるという事を。今は誰も知らなかった。
邪神「体が、体が勝手にうごいちゃうぅうううう!!?」
駄目だ駄目だと分かっていても体は正直なのよね・・・。
じゃぱーにーず・まじかる・みゅーじっく『音頭』!
作者はインドアはなんであまり効果はないですが、アウトドアで活動的な邪神様には効果絶大です。