鉄槌の騎士と湖の騎士の闘志をくじいた邪神は、はやてとその騎士二人。そして、榊原君と共にテスタロッサ研究所に訪れた。
目的は一つ。『闇の書』の修復である。
WCCですぐに直せればよかったのだが。問題が一つ。
「・・・『闇の書』がバグっている」
そりゃあ、闇の書の暴走ともいえる影響ではやてが両足の麻痺という状況。
助けて、プレえもん。
いきなり計画がとん挫している邪神だった。
「正直に言ってあなたの力でどうにもならないのに私がどうこうできるとは思わないんだけど」
「いやいや、ゲッター。元は高性能なロボットを持っていたプレシアさんの科学力があればどうにかなるかと思って」
テスタロッサの科学力は世界一ぃいいい!
そう考えた裕だった。
第二候補として機械に詳しい月村忍の所も考えたが魔法が関係しているだろうと思い、プレシアに頼みに来た。
研究所に向かう前にはやて達から『闇の書』を見せてもらい、WCCを使ってみると、英語のような文字の羅列が上から下に滝のように流れ落ちていくステータス画面に邪神は下手に手を付けるよりも専門家を呼ぼうということになった。
自分の娘を助けてくれた邪神の頼みをないがしろにするわけにはいかない。かといって、その娘達に危害を加える可能性がある輩に自分達の居所を知らせるのもどうかと思うプレシア。
「ところで・・・。後ろの守護騎士の将?はなんであんなにも警戒しているの?」
プレシアと一緒に邪神もどきであるアリシア。その妹のフェイトの二人は裕と榊原が連れて来た集団に目を向ける。
そこには話題の少女。八神はやてを守るように佇んでいる五人。
はやてとヴィータ。シャマルと彼女に昨晩作ったご飯によるダメージからようやく復帰したばかりの二人の守護騎士がいた。
中でも、ピンクのポニーテールの女性が裕に物凄いにらみを利かせていた。
ただし、肌黒で白髪の男性。ザフィーラの後ろ。
シャマルとヴィータを傍においている。
はやてよりも彼等の前に出ているところは、さすが守護騎士の将といったところか。
「・・・ひっ」
裕と目があった瞬間。小さな悲鳴を上げる彼女。
彼女こそ守護騎士の将。シグナム。
本来なら二つ名である。烈火のごとく敵を叩き伏せる彼女の面影はまるでない。
それはまさに凶悪な化物を前にした女性のようにも見えた。
「いや、まあ、その、豊満巨乳(ビッグボイン)に警戒しているというか。なんちゃって神器に警戒しているというか」
「・・・ぼ、ボイン?なんちゃって神器?何があったの?」
守護騎士達の信頼を得て、ここに来るまでの話をすることになった。
今から1時間ほど前。
シャマルから念話で事前に裕の事を知ったシグナム。
裕の繰り広げた一つ星神器。鉄から始まったお披露目。ビッグボインの部分で念話が一時途切れたが、事の詳細を聞いたシグナムとザフィーラは未だに重い体を引きずって、裕達がいる管理外世界にやってきた。
「・・・主はやて?!ご無事ですか!」
「だ、大丈夫や。ちょっとツボってるだけやから」
転移してきてみれば自分達の主であるはやてがお腹を押さえて苦しんでいる。
だが、それは単なる痛みではなく、はやて達の目の前で自ら作り上げた豊満巨乳(ビッグボイン)を盛大に揺らしながら真面目にシグナム達の登場を待っていた裕の姿を見ていたからだ。
真面目な顔をしている少年の胸元に取ってつけたかのような巨乳。
真面目だからこそギャップがあって苦しいのだ。
裕の隣にいる榊原君。ヴィータとシャマルもキリッと表情を引き締めている裕の方を見ないようにしている。
シグナムと一緒に転移してきたザフィーラもいつもの冷静さを失って思わず噴きだすのを堪えるくらいだった。
「・・・ぷふぅっ」
(噴きだすんじゃねえよっ。つられて笑っちまうだろうっ)
榊原君の鼻から漏れた息にヴィータも思わず吹き出しそうになる。
「・・・貴様ぁっ。なんの思惑があって我等に近付いた!」
思わず吹き出してしまいそうになる空間だったが、そこは歴戦の戦士。
はやての元で平和な暮らしをしていた事もあってか、場違いな裕の姿を見ても毅然とした態度で裕を問いただす。
「おいおい、俺が誰だって?海鳴の街に爆誕した邪神。田神裕さ!」
わざわざ前髪をかき上げながら答える裕。
それにつられて動く豊満巨乳(ビッグボイン)。
「ではなく、貴様達の目的は何かと聞いている!」
「歌って踊って戦える邪神。田神裕さ!」
なっているようでなっていない会話する二人の光景を見ていた少年少女達は笑いをこらえるのに必死だった。
シグナムが真剣になればなるほど裕は愉快な行動をとるのだ。
そして、共に何かしらの挙動を取れば揺れるボイン。
はやて達は必死にこらえた。それはもう、必死に。
「だっかっらっ!貴様等は何が」
「おいおいっ、俺のサインが欲しいのかい?ほら、受け取りな!サイン付きのベリーメロンを贈呈する邪神、田神裕さ!」
そう言って、胸元にあった豊満巨乳(ビッグボイン)の片方をもぐと、そこから不思議な光を出しながら形を変えたビッグボインは病院に持ってきたメロンへと姿を変える。
これは予め透明にしていたメロンを隠し持っていて、ヴィータ達に豊満巨乳(ビッグボイン)を見せつける時に服の胸部分に付けたメロンを、元に戻しただけである。
「とろけるベリーメロン!MADE IN JASIN?!」
食べ物を粗末にしてはいけないとはやてに言われていた守護騎士だったからこそか。
思わず受け取ってしまったメロンに掘られていた日本語を読み上げてしまったシグナムの声を聴いて我慢の限界を超えたはやてが大きく噴きだした。
「仕方ないな、俺の事をよく知ってもらうためにも一曲踊って見せようじゃないか。ミュージックスタート!」
残ったもう片方のボインをもいでWCCを解除する。
するとそこには軽快な音楽を流すメロンの姿があった。
「それはメロンじゃないのか?!」
こちらはメロンの形に変形させただけのラジカセであり、病院に持ち込んだ小道具の一つ。メロン同様透明にして隠し持っていただけだが、透明化だけを解除。メロンの形は維持させている。
ヴィータのツッコミにシャマルと榊原君は思わず顔をそむけて口を抑える。
静かにだがザフィーラの方も体を震わせていた。
そして軽やかに踊り出す邪神。
それは先程の行動。『乳をもげ』と言う。不思議な踊り。
自分達の元になっている『闇の書』には相手の魔力を吸い上げる蒐集機能がある。
今まさにそれを自分が受けているかのように錯覚するシグナム。
目の前の邪神の奇行ともいえる踊りが終えるまで無表情になっていたシグナムだったが、音楽が鳴りやむと同時に片刃の剣の形をしたデバイス。レヴァンティンを起動させる。
「さあ、構えろ!そっちの座興に付き合った。こんどはこちらの流儀に従ってもらうぞ」
「まだ、二番の歌があるんだが」
「あとにしろ!」
まだ不満げな裕に付き合っていたら戦意がどん底まで落ちてしまう。
現にヴィータとシャマルは陥落。ザフィーラも握っていた拳を完全に解いている。
というか、このまま躍らせていたらはやてが乳揉み魔から乳揉み魔神になってしまう。
「しかたないな。なら、そっちにも合わせるか。・・・相手に参ったと言わせればいいのかな?」
「そうだ。私は剣士だからな。このようなやり方でないと信じられん」
シャマルから聞いていた。
彼等は私達を助けるためにこちらと接触しに来たと。
確かに彼等に悪意。いや、悪戯小僧のような雰囲気はあるが敵意が無い事はわかっている。
だが、しかし。
それだけで彼等を信用するわけにはいかない。
守護騎士の将として、八神はやての騎士として少しでも危害を及ぼす可能性があるのなら油断はできない。
騎士でありながら剣士であるシグナムは剣を交える事で相手の事を理解することが出来る。
将としていきなり武力行使はどうなの?
と、裕に呆れられた。が、痴態行動に不思議な踊りを披露した彼程、信頼することはできないだろう。
「・・・でも、俺の戦い方だと余計に悪印象が残るような」
「安心しろ。これ以上ないくらいに私にとってお前の印象は悪印象だ」
性格的に体育会系のシグナムにとって裕のような人間はあまり好印象ではないのだろう。
「じゃあ、これ以上悪くしても問題無い?」
「ようやくその気になったか。聞けば、お前は巨大なゴーレムを瞬時に作り出すようだな。それを相手にしてやってもいいし、お前自身でも。その両方でもいい。どんな形でも私に勝って見せれば少しは信用してやる」
「どんな形でも?」
明らかに話し合い(物理)をしたがらない裕の態度にイライラしているシグナム。
「しつこい奴だなっ。騎士に二言はない!」
「言質は取ったよ」
邪神に『何でも』は禁句であると、後にその場にいた全員が語ることになる。
「では、好きにやらせていただきます。十ツ星神器、魔王!実行!」
裕はWCCのカスタマイズ・ウインドウを開き、先程ノリで出したゴーレムにある程度の遊び心を加えて実行に移す。
WCCの光が右隣の地面から溢れ出すと同時に、巨大な腕が二本、這いずり出てきた。
威風堂々(フード)を思わせる腕だが、その腕に続くように巨大な顔が出てくる。
まるで墓地から這い出るゾンビのように出てきたゴーレムにシグナムはごくりとつばを飲み込む。
ゴゴン。
重量感のある音を立てながら現れた十ツ星神器、魔王。
それは邪神が想像した通りのゴーレムを作り出す。お手軽WCCコードネームである。
顔の部分だけでも二メートルはあるだろうゴーレムから放たれる重圧感を邪神以外の誰もが言葉を発することが無かった。
そして、先程とは違うゴーレムの肩から上が見える。
顔つきはヴィータ達が見た山羊の頭ではなく女性の頭。
アジア系というよりは人魚を思わせるウエーブの髪を象った髪型をした女性の上半身を象ったゴーレムが現れる。
バルンッ。
と、女性像の頭よりも大きい乳房と共に。
「「「「「「 」」」」」」
胸の部分だけでも二メートルはあるだろうゴーレムから放たれる重圧感を邪神以外の誰もが言葉を発することが無かった。
顔の部分よりも胸の部分が大きい分余計に。
「ゆくぞ、邪神Aよ!あの堅物女騎士を共に倒すのだ!」
『オー、イエー』
地の底から響くような声を上げながら女性の上半身。
だけ。の、ゴーレムが腕を大きく上に伸ばした。
その光景にとうとうシグナムがキレた。
「貴様ぁあああっ、どこまで私を馬鹿にすれば気が済む!」
「馬鹿になどしていないぞ!俺の力は物体に干渉する力だ!見た目だけで判断すると痛い目に逢うと知れ!邪神Aよ、必殺『ボインチョップ』だ!」
『イエェエエエエエイ!』
シグナムの言葉を否定するように裕は作り出したゴーレム。『邪神A』に指示を出す。
ビシビシビシビシビシビシビシッ!
と、土や岩でできているとは思えないほどの質感を感じさせて、邪神Aはその巨大な両手で自分のボインをチョップする。
「「「 」」」
(あれ、どっかで見たことがある。どこだっけ?)
(乳ネタを連続で使うなんて・・・。スベッたな、裕君)
何も言えなくなったヴィータ、シャマル、ザフィーラの守護騎士三人に対して、榊原君は前世であのゴーレムに似た光景を思い出そうとしていた。
はやてに関しては裕の持ちネタが滑ったと勘違いしている。
そして、はやて同様にまた自分がからかわれたと思ったシグナム。
「貴様という奴は、どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのだーっ!」
と、激高したシグナムが邪神Aから裕に視線を切り替えた瞬間だった。
「光子力ミサイル!」
邪神の声に合わせて発射される邪神Aのボイン。
ドゴォオオンッ。と、轟音を立てながら二つのボインが飛び出し、シグナムの目の前に着弾、破裂するとボインがはじけて辺り一帯が砂煙に覆われる。
ミサイルとは名ばかりのただの煙幕弾だが、当然、発射した裕にしかその事は分からない。不意打ち当然の攻撃に、
「「「「「汚っ!!」」」」」
と、はやて達の声が聞こえたが、裕は聞こえなかった事にする。
裕に馬鹿にされ続けたと激高していたシグナムは突如ミサイルのように飛び出してきた二つのボインに足を止め、更に、飛んできたのがボインだという事に、思考も一瞬止まる。
更には自身ではなく、一歩手前にボインが当たったことにより魔法による対空迎撃が間に合わず、目くらましとしての効果を発揮させてしまう。
更に、シグナムと裕の対決を邪魔しないように遠くから見ていたはやて達だからわかるが、裕を中心に半径百メートルほどの地面が光っていた。
裕はそれを自分が今いる場所も光っているとシグナムに見せたくなかったのだ。
裕のWCCは効果を及ぼす物。範囲にどうしても光が発生してしまう。
何もない、見通しのいいところでそれを使えば警戒されて、そこから退避されてしまう。
そうさせないための砂煙。
そして、シグナムを出来るだけ傷つけないように無力化させる物を出現させる。
「七ツ星神器、旅人(ガリバー)!」
辺り一帯の砂埃を吹き飛ばすように地面から飛び出した陰にシグナムを含め、守護騎士達は裕が負けたと考えた。
裕の使う旅人は捕獲用の地形変化。
だが、あんな土壁ごときでシグナムが止められるはずがない。
身体強化の魔法を使い、裕に突撃すれば彼女の勝ち。
そう考えた時点、シグナムの負けは決定していた。
「ゴキブリホイホイバージョン!」
「は?」
ぶちゃあっ。
と、砂煙を吹き飛ばした陰の正体は、地面をカスタマイズして、糊のような粘着性が非常に高い白い液体に変化させたものだった。
腰下まで埋まる程、糊で出来た深い水溜りに埋まったシグナムの上から更に大量の糊が振りかかる。
しかも、固まるのが早く、異様に粘着性が高い。
動こうものなら自分の髪を引っ張って痛い。それどころか肌も千切れるのではないかと思わせるほどに粘着性が非常に高い。
「ふっふっふっ。身動きとれまい」
「お前も埋まっているぞっ」
してやったりと、ドヤ顔を見せる裕だが、シグナムのように女性にしては身長の高い彼女が腰まで埋まってるのだ。子どもの裕だと首元まで糊の水溜りに埋まっている。
だが、それは裕が自分で作り出した地形だ。自分の意志で好きなようにいじくれる。
シグナムのツッコミを聞き終える前に地形の入れ替え。シフトムーブを行い、シグナムのすぐ目の前に転移。彼女の持っている剣。レヴァンティンに触れて、主導権を奪取。
待機状態になったレヴァンティンを手にした裕は再びシフトムーブを行い、シグナムを糊の水溜りに残して、一人脱出する。
全裸状態で。
はやてとヴィータはその姿に顔を赤くしたが、全身にこびりついた糊を落すために必要だったので仕方がない。
服を脱ぐのがお仕事の現生の邪神だった。
「俺の勝ち。イェイ」
「納得いかーん!」
呆気にとられている間に自分の相棒を取り上げられた上に身動きが取れなくなったシグナム。
納得がいかないのか抗議の声を上げるシグナム。
「やり直しだっ、やり直し!こんな勝負で納得いくかー!」
「やだよ。俺の戦いって、不意打ちか騙し討ちが基本だし、直接的な攻撃も加減が出来ないから相手するのもされるのも危ないんだよ」
服にこびりついた糊をWCCで取り除き、再び服を着直している裕。
「まあ、確かにあのでっかい鞭とか剣で殴られたらたまったもんじゃないわな」
非殺傷設定という魔法にはある意味安全装置が取り付けられているのだ。
だが、WCCで作り上げた神器にはない。
裕の邪神としての技量が上がれば可能かもしれないが、上げ方も上がる可能性があるかもわからない。
神器の威力は1か100。
今もなお、糊の水溜りから身動き取れないシグナムには粘着性が非常に高い罠で身動きを封じ込めているが、彼女の言う戦い。
それこそ、お互いに死闘を繰り広げるにはWCCという力は効果を発揮するには遅すぎる上に攻撃力に加減は出来ない。今の戦いのように変化球で攻めないとなると、
地面からトラバサミのように相手を両側から挟んで潰す四ツ星神器、唯我独尊(マッシュ)を連打する。
潰せなければ、百鬼夜行(ピック)で押し潰す。
押し潰せなければ、快刀乱麻(ランマ)でぶった切る。
ぶった切れなければ、浪花(なみはな)で壊れるまで叩き付ける。
なにせ、材料となる物があれば、実行と考えるだけで、それらの兵器を何の苦労もなく連発できるWCCという力。
地上で相手の動きを止めることが出来れば邪神の勝ちは決まったも当然なのである。
「だから、俺の勝ち」
「諦めましょう、シグナム。彼がやろうと思えば私達なんて彼の存在に気が付くことなくやられていたかもしれないのよ。はやてちゃんをどうこうしようと考えているならわざわざ私達に自分の存在を教えるはずがないわ」
未だに唸り声にも似た声を上げながら裕を睨むシグナムに優しく言い聞かせるシャマル。
糊で出来た巨大な水溜りはシグナムを中心に半径1メートルほどのドラム缶に首から下を詰められたような状態にされていた。一見するとさらし首のようにも見える。
シグナムをそこから出さないのは、彼女に戦うのをやめてほしいからだ。
デバイス。レヴァンティンが無くても多少の魔法は使えるが、裕の作り出した糊から逃げ出すには及ばない。抵抗しようものなら糊の水溜りの深さを深くして彼女を沈めることもできると告げる。
「諦めろ、シグナム。こいつは我々のような前衛の戦士ではない。むしろシャマルのようなサポートに適した術者だ。俺やお前のように拳や剣をぶつけ合うような奴じゃない」
同じ体育会系でも守備に力を入れているザフィーラに言われて苦い顔をするも、諦めきれていないシグナムにヴィータがとどめを刺す。
「平和の使者は槍を持たないというけど、コイツの場合。そこにある物、全部が武器なんだぜ。それなのに話し合いをしましょうとか言って、よくぜ、全裸になっているけど悪い奴じゃないと思うぜ。良い奴ともいえないけど・・・」
シグナムとザフィーラが来る前から戦闘意欲をバキバキにおられたヴィータは彼等の話を聞いてもいいと考えていた。
「シグナム。話聞くだけ聞いてみよ。駄目だったら逃げればいいだけの事や。それに裕君がここまでしてくれてるんやで、確かに人をおちょくっているように見えるけど、それは私達の誰も傷つかんようにしているからや」
「う、主はやて。で、ですが、万が一のことがあったら・・・」
はやての言葉は無視できない。だけど、もしもの事があったらと考えるシグナムに意外な所から声がかかる。
「俺が言うのもなんだけど、早くこっちの話を聞いた方がいいと思うぞ。その万が一が起こるその前に」
どこか諦めきった顔をした榊原が裕の方を向けと促すと、そこには『モザイク加工さている蠢くめく何か』を手に持った裕の姿があった。
「・・・裕君。何を持っているんや?」
「答えはきっと、あなたの心の中に」
「あらへんよっ、そんなモザイク処理がされる物あらへんよ?!」
はやてとそんなやりとりをしながらゆっくりとシグナムに近付く裕。
手には地面からWCCで作り上げた『モザイク加工さている蠢くめく何か』を持って、一歩。また一歩と近寄る。
「・・・何なの。それ?」
「玩具ですよ。すぐ傍の地面を材料にして作った玩具・・・」
エロ同人誌みたいなものじゃないよ。エロ同人誌みたいなものじゃないよ。
「・・・それを、どうするんだよ」
「それは、もちろん。・・・聞き分けのない人に使おうと思って、ね」
ヴィータの質問に答えながら近づくにつれ裕の邪悪な笑みが深まっていく。
それはまさに邪神と言ってもそん色ないモノだった。
「・・・主はやての前であまり過激な事は控えてくれよ」
「・・・ザフィーラ?!」
軽く見捨てられたことにショックを隠せないシグナム。
ザフィーラからしてみれば負けを認めないシグナムと、WCCの力を使いこなしながらもそれをあくまで攻撃に回さない裕を信じてみようという思惑からだった。
「今、シグナムさんは俺の手の平のうち。例えば身動き取れない。そう例えばこれをシグナムさんと埋まっている地面の間に這わせることも出来るんだよね」
にやりと笑う裕。
お話を聞いてくれないと『これ』をアレしちゃうぞ。と、邪悪な笑みで語っていた。
「わ、私は負けないっ。そんな『モザイク加工さている蠢くめく何か』に負けたりなんか」
少しだけ涙目になりながらも徹底抗戦の意志を伝えるシグナムに、邪神は容赦しなかった。
「実行~」
・・・『モザイク加工さている蠢くめく何か』には勝てなかったよ。
「と、いう事があったのさ」
騎士シグナムの闘志をバキバキに砕いた邪神にプレシアは途中でフェイトやアリシアに席を外してもらって正解だったと、ため息をつくのであった、