どこから間違えたのだろう。
自分は世界の主人公で、特別で、選ばれた人間だと思っていた。
憧れた力も手に入れて、憧れた世界で、無双できると思っていた。
だけど違った。
自分と同じようにそれぞれが憧れていただろう力を持った人間がいた。
彼等もまた神という存在に選ばれたのだろう。
一人は王の財宝を。
一人はドラゴンの力を。
そして、自分は天をも貫く事が出来る力を手に入れた。
奇しくも自分を含めた三人の力はほぼ拮抗していた。
だが、あいつの力だけはよく分からなかった。
あいつの力は直接的な物じゃなかった。それどころかあいつ自身も変わっていた。
この世界で主役にあたるなのは達と仲がいいはずなのに友達という一線を越えようとしていなかった。そして、ほかのモブキャラと言っていい奴等と共に遊んでいる事が多かった。
俺達がそうさせていたかもしれないが、あいつは気が付けば俺が欲しかったものを手に入れていた。
友人。家族。仲間。
あいつの周りは少しずつ変わっていき、俺が欲しかったものを全て手に入れていた。
いや、変えていたんだ。
あいつは何の変哲もないモノを少しずつ変えていった。それが羨ましかった。それが欲しかった。
だからこそ、あの青い宝石は光ったんだ。
あいつのように変えていきたいと、変わっていきたいと。
その光を浴びた瞬間に自分の中にあった黒い感情が体の中でぐるぐると螺旋を描いて体を飛び出して形を変えていった。
それは自分も世界も変えてしまいたいという願いを叶える為に変貌してしまった体は黒い魔人となって全てを壊そうとしていた。
他の三人を出し抜こうと、グレンラガンの鎧を見に纏って海の中に潜り見つけたジュエルシードの暴走で俺は海の中から空へと場所を移していく。
いつの間にか身に纏っていた赤い鎧もラバースーツのように細くなっていた。だが、漲る力はグレンラガンよりも強く感じられるバリアジャケットに変貌を遂げていた。
ああ、これは敵キャラのボスが使っていたラゼンガンだ。今の自分にピッタリじゃないか。自分が憧れていた世界の主人公たちを苦しめて、あと一歩のところで負けてしまったボスキャラの風貌だ。
周りの景色を見ると青い宝石が五つ自分の周りを衛星のように回っていた。
自分が集めていた物だ。
その回転に呼応するかのように海上には竜巻が幾つも巻き起こり、空は夜のように暗くなり、雷は所々に落ちている。風は嵐よりも強く荒く吹き荒れている。陸の方では大きな地震があったかのように地鳴りがしていた。
海鳴の町は突如変貌した天候に混乱しているだろう。そこに暮らしている人達。この世界の俺の家族。
こんな横暴な性格をしている俺でも迎い入れてくれた家族。今更になって気が付いた。こんな俺を大事にしてくれたお袋。親父。
こんな馬鹿な俺だけど、こんな事で死なせたくない。だけど、体は言うことを聞かずに町へと向かって行く。
それに連れられて竜巻と雷も町に近寄っていく。このままでは確実に海鳴の町は大参事に陥ってしまう。
今まで自分に悔いても遅いかもしれない。だけど、もし…。もし、もう一度変われる機会を得られるのなら!
誰でもいい!俺を止めてくれ!
そう強く願った時だった。
空から現れた宇宙戦艦を模したような空に浮かぶ船。アースラ。そこから出てくる白と黄色の光。
・・・ああ、いつだってそうだ。
主役はいつも遅れてやってく
「はっ、最高の場面じゃねえか!見てろよなのは!フェイト!俺の勇姿を!」
「我が嫁達に見せてやろう!王の力をなあ!」
…お前等じゃない。
メダルトリオのうちの一人。銀髪こと、榊原 貫は目の前に現れた自分と同じ境遇の二人に落胆の想いを発した。
管理局の執務官とは冷静になって事態の収拾を行うことが必要である。
海鳴の街を中心にジュエルシードを探索していたら突如現れた膨大な魔力反応。高町なのはと月村忍にも警戒するように伝え、現場に向かうと黒い巨大な人間が空中を闊歩していた。
いや、あれは魔人とも言った方がいいだろう。
アースラのブリッジにいるはずの自分にも感じ取れるほどの魔力。その迫力にクロノは怖気づいていた。
本当にあんな物を相手にしていいのかと。
あれに挑む魔導師などただの馬鹿か。それとも相当腕に自信がある奴だろう。
先程、医務室で取り調べを受けていた王城と白崎という少年二人はこちらの制止を無視して突撃していったが、間違いなく前者だろう。
二人はアースラの外壁を破壊して飛び出していった。あとでその弁償をしてもらおう。月村忍の関係者だったら彼女と交渉を行い、損害賠償金を少しでも相殺するように頼むことも視野に入れておく。
黄金の鎧のようなバリアジャケットを見に纏った王城はまず巨大な鎖で黒い魔人を絡め取る。
最初はそれで動きを封じ込めたと思ったが魔人はその体に巻きつけたかのような黒いスーツから紡ぎだすかのように細い布のようなものが鎖の隙間から飛び出してレイピアのように鋭くなって全方位に突きでてくる。それはまるで栗のイガに見えた。
王城はその鎖の持ち主だからか、すぐに異変に気づき防御態勢になってその細い槍に耐えることが出来たが、背中にドラゴンの翼を生やした殆ど生身の白崎は体のいたるところを貫かれ海へと叩き落された。
測定した所、生身に見えても白崎の防御力は一般魔導師のバリアジャケットよりも二段ほど上を誇る。それが一撃で落とされた。
それを見たアースラスタッフは白崎を再び艦内に転送させる。
イガは再び魔人の形に戻る。そこに彼を拘束していた鎖などなかった。
王城はそれを見て再び己の魔力で鎖を作りだし、魔人の足止めを図る。と、同時に赤黒い剣を右手の中に作り出す。
『つけあがるな!ガラクタがぁあああああ!エヌマ・エリシュ!!』
その赤い剣から放たれた破壊のエネルギーは黒い魔人へと向かう。
その威力はオーバーSクラス。というか、結界も張っていないのにそんな高出力の魔法をぶっ放したら後ろにある街まで吹き飛んでしまう!
モニターしていた画面の大半が王城の放った攻撃でホワイトアウトしてしまう。だが、それから戻れば壊滅してしまっただろう街並みが広がっていると考えてしまった。
だが…。
その白い映像の次に映った映像は黒い点だった。
その黒い点はよく見れば勢いよく回転している。更にはガリガリと削り取っていくような音を発しながら王城の攻撃を受け流していた。
そう、黒い魔人は自分の下半身を大きなドリルに変化させて王城の攻撃を紙に穴をあけるように、それでありながら台風の目のように自分に向かって放たれた攻撃を拡散させていた。
「エイミィ!急いで彼を回収して!」
アースラの艦長、リンディは王城の回収を急がせる。
王城は自分の攻撃を受け流されたことに衝撃を受けたのか動きが止まっていた。そして、黒い魔人はそのままの形で王城に襲い掛かる。
こちらが彼を回収する作業と魔人の攻撃が襲い掛かるスピード。どちらが早いか。
答えは魔人だ。
このままでは王城は魔人のドリルでひき肉にされるだろう。
そうこのままでは、だ。
『ディバインバスター!』
『プラズマスマッシャー!』
桃色と黄色の砲撃が魔人を左右から攻撃してスピードを少しだけ遅くした。
更には赤いロボ。ゲッター1が王城を突き飛ばすように彼と魔人の間に割って入る事で彼の身代わりとなったゲッター1は遅れて襲い掛かって来た魔人のドリルで砕け散り、爆発した。
その爆風で飛ばされた王城は自分を助けてくれたゲッターに悪態をつきながらもなのは達に爽やかな笑顔を向ける。
『俺を助けに来てくれたのか二人共!なんともいじ『…ディバインバスター』ぬわあああああっ?!』
笑顔を向けられると同時に隣にいたフェイトに聞こえるかどうかの声量で桜色の収束砲を撃つなのはの姿にリンディとエイミィは呆気にとられる。
『ね、ねえ。良いのかな?あんなことして』
『どうせ、何も考えないで突っ込んでいって撃墜されるのがオチだよ。ああいうのはさっさと退場してもらうのが一番なんだよ』
アースラの二人同様にフェイトもまた呆気にとられていた。
そこから少し離れた場所でこれから行われる戦闘に備えて、海鳴の街を守るための結界を張るユーノとアルフの姿も見えた。
『僕も同意するよ。あったこともない僕に対して淫獣だの。ムッツリだの。人の話を全然聞かない奴。いても邪魔なだけだし』
『あ、あんた達も苦労しているんだね』
ゲッター1の爆発によって立ち上った煙が晴れると、そこには王城の攻撃でだろうか、所々に傷が見えるものの戦闘には何ら支障はきたさない様子だった。だが、ダメージは確かに通っている。
細い身なりにしては異様な防御力を持つ黒い魔人にフェイトをはじめ、その場に駆け付けたクロノも決定打が打てるか不安だった。
「遅れてすまない。…ところで、よかったのか?王城とか言った少年を叩き落として?」
正直に言うのであればあの膨大な魔力攻撃の手法を失ったのは痛い。
≪クロノ執務官。それに関しては私達に考えがあります。私とマスター。そして、ユーノ氏でメダルトリオを消し飛ばす、もとい撃退するために組みだした魔法があります。しかも今の状況は最適です≫
消し飛ばすって…。そんなにいやか。と、思ったクロノだったがなのはが持つレイジングハートから渡されたデータを見てまたもや呆気にとられる。
空中に散った魔力をかき集めな、自分の魔力でそれを内包。圧縮させて放つ超圧縮砲撃。
スターライトブレイカー。
王城が放ったエヌマ・エリシュ。
Fate/stay nightという作品に出てくる英雄王の持つ天地開闢の威力を誇ると言われたその攻撃は王城が使うには技量が足りず、放出する魔力のみが膨大なだけ。文字通り力任せの攻撃だった。
そこに技量などはない。本当のごり押し。だが、その威力は英雄王の力を有している物。かなり劣化したその攻撃は半径一キロメートルのなのはの撃つディバインバスターだ。
なのはの放つスターライトブレイカーは、王城が攻撃した時に散った魔力の粒子をなのはがかき集めて撃ち放つそれは、王城の攻撃を圧縮した砲撃になるだろう。
なのはとレイジングハート自体に反動によるダメージ大きいだろうが、確かにこれならあの黒い魔人も止まるだろう。
そう打ち合わせをしている間、月村邸で待機していた複数のゲッター1が魔人の相手を務めていた。
魔人は蹴る殴ると言った単純な動作だったが、その動作でゲッターは次々と戦闘不能に陥る。ただ撃墜されるのではなく体に張り付いて自爆するゲッターもいたが数は目に見えて減っていく。
そして、最後のゲッターが撃墜された後、なのはとフェイトクロノの三人は黒い魔人。ラゼンガンへと戦いを挑んでいくのだった。
一方その頃、月村邸で邪神があっちにこっちにと指を移動させていた。
「帰ってきたらいきなり大地震とかクライマックス過ぎるだろ…」
海鳴の街の殆どをアイテムグループ化していた裕は海の上でなのは達が戦っている間にこの町に帰ってきたら、空は嵐のように荒れて、地面は今にもはじけ飛ぶのではないかと思うぐらいに揺れていた。
裕はそれを抑えるためにWCCのメニュー画面を開き、海鳴市全体に耐震補強を施すことにする。更に、崩れかかっている崖やビルなどメニュー画面からピックアップして修復・回収を行う。
今頃、海鳴市の住人は空に嵐。地面は地鳴り。住宅街がビル街の所々で煌めく建物を見て呆気にとられているだろう。
「…裕君。貴方の用意したロボットの反応が今、全部消えたわ」
「データは取れていますか?」
「…ええ、でも正直言って怪物並の攻撃力と防御力よ」
裕の後ろから忍がプレシアから渡された電子端末を持って歩いてくる。
そこには最後に砕けた散ったゲッターロボが計測したラゼンガンの強度・パワーを見せられた裕だが、その顔には余裕の表情が見えた。
「どんなにパワーアップしてもバリアジャケット。WCCなら引っぺがせる」
「それって一回触らないと駄目なんだよね?」
裕の表情から余裕が消える。
忍のすぐ後ろから声をかける少女の声に裕は自分の能力を再確認する。
少女は少し前になのは達の援護に向かったプレシアに月村邸の中で待っているように言われたが、外で裕がWCCを使っている気配に気が付いたのか屋敷から出てきて目に入った裕に声をかけたのだった。
「だだだだ大丈夫だしっ。そ、それになのは達だけでもどうにかなるってプレシアが言ってたし」
「どもりすぎ。それに、それ。まだチェックし忘れているよ」
少女は裕に見えるように自らもWCCのメニュー欄を開いて見せる。
WCCが扱える邪神は基本的に裕以外考えられない。
もし例外があるのならそれは、『他の邪神の力に共鳴してその力を扱う事が出来る力』を持つ邪神もどきだけである。
裕がそのメニュー画面を覗こうと顔を少女に近付けると同時に頬に柔らかくも少しだけ熱い感触を感じた。
「な?!」
「まあっ」
慌てて距離を取る裕を見て、含みのある笑みを浮かべる少女。
忍はそんな二人を見て少しだけ驚いていた。
「にゅふふ。私が起きたらチューしてあげるって約束したもんね?思っていた通り、純粋だったんだね。ユウ」
少女に悪戯されたと事を抑えている裕は、そこから自分が顔を赤くしていると感じていた。
「チェックはお終い。妹とお母さん。そして、妹のお友達を助けてくれたら口にしてあげる」
「~~~っ!…歯磨きして待っていろ!!」
にゃふふ、と笑う少女に裕は仕返しとばかりに裕はそう言い放つと何もないように見える空間に手を当てる。
そこには黒いマントを体につけた鋼鉄の鎧。
ゲッター1を基盤に作られた空襲型パワードスーツ。
ブラックゲッター。
ブラックゲッターが光学迷彩を解いて現れると体の各パーツが分離して裕を覆うように再度合体していく。
WCCで強化した黒袴とアクセサリー。パワードスーツとなるブラックゲッターを着込んだ裕は空へと飛ぶ。
黒袴には『身体能力大』で身体能力、特に反射速度を上げる。
アクセサリーには『鎮静効果大』に『繊細操作』とつけて常に冷静にかつ繊細な動作を取れるようにする。
そして、ブラックゲッターの動力としてプレシアがこれでもかと込めた魔力WCCの効果で裕の念願だったビームを放つことが出来る。ただし、WCCで強化しているとはいえ連発すればオーバーヒートし、飛行能力を失う可能性がある。
しかも、もう一度WCCを使えば装備していると判断されているブラックゲッターの鎧は外れてしまう。
つまり、変形しようとすると効果を変えようとすれば強制解除になる。
空中でそんなことをすれば地面や海面に叩きつけられる。そうなればWCCでカスタマイズしている袴やアクセサリーをつけた裕でも死ぬ恐れがある。
だが、それがどうした?
それはなのは達も同じだろ。それにこのままだと世界が丸ごと吹き飛んで死ぬ。
進んでも死ぬ可能性がある。だけど、このままでも死ぬ可能性がある。
でも、先に進むことで生き抜ける可能性を増やすこともできる。
前に進む勇気は先程少女から貰った。
希望はプレシアが教えてくれた。ならば、その希望を守りに行こう。
勇気はある。希望もある。彼女達を信じる心もある。
命を燃やせ、今がその時だ!
「いくぞ、ゲッタァアアアアア!!」
黒い風となった邪神は海鳴の海で戦っているなのはたちの元へと全速力で駆け付けるのだった。
あとがき。というか、没ネタ。
アリシア「口にチューしてあげるからね♪」
裕「舌を入れるぞ!」
アリシア「ばっちこーい!」
裕「…冗談の言いあいで負けた」
アリシアさんはガチです。