眠い目を擦りながら庭から自宅に入り鍵を開けておいた扉をくぐるとお母様立っていた。
「ゆうちゃん。どこまで行っていたの」
「ちかくで散歩」
「もう、一言言ってから出かけなさい」
そう言いながら俺を抱きしめるお母様。ほ、豊満な胸が当たってヘブン状態に…。
いかんっ。この人は母親。この人は母親。この人は母親!
邪念を振り払い母の肩を軽くたたく、そして今日は友達のお父さんのお見舞いに行きたいんだけど、言うとお母様は今からリンゴとバナナの入った籠を渡してくれた。
母と父はこれから仕事があるので一緒にはいけない。
あちらの人にはよろしく言っておくのよと言われ、家を出される。その時ついでに大量のリンゴとバナナで見えなくなった下の部分にあった果物にWCCを使う。それにより『体力回復(微小)のリンゴとバナナ』が出来上がった。
そして到着して公園で待ち合わせをしていたのだが、高町親子はすでに到着していた
時間には余裕を持って出てきたのだが、それよりも速く皆様方は来ていたようで…。
「裕君」
「うーい。なのは、今日は元気だな」
「うん。裕君が来てくれてうれしいの」
実は朝の明け方よりも早く起きて海鳴病院の敷地全体にWCCをかけておいた。
WCCは規模にもよるが、たとえどんな物であろうとその力が働く際には光が零れるというエフェクトがある。
本当は夜中に忍び込んでやるべきかと悩んだが断念。それになのはの父、士郎さんだけでなく他にも重傷な方々がいるのでとりあえず病院の敷地内にWCCで『敷地内にいる全員に体力回復(小)。疲労回復(小)』の効果を付与した。
整備された病院と最新鋭の機材を設けた病院の希少度はほどほどに高かった。
ばれることを避けるために朝日でWCCの効果の光をごまかしたというわけ。
裕の家から病院まではかなり距離があるがそこはWCCの反則技。
裕がいる地面と病院内の一部を入れ替える。というシフトムーブという技で移動を行った。
裕の自宅と海鳴病院。そして、その間にある道路など、裕がやろうと思えばどこへでもシフトすることが出来る。
裕は早朝の散歩を表して家を出て、以前風邪を引いた時に海鳴病院を一つのアイテムとして認識していた。だからシフトムーブでの自宅と病院の往復は簡単だった。
そんなことは高町親子にわかる筈もなくただ久しぶりに行く父の入院している病院へと向かった。
桃子視点。
「あなた。今日はなのはや美由紀、恭也が来てくれたわよ。それになのはのお友達も」
返事はしないだろう夫の体に話しかける。
仕事で重体になった士郎さんの手に触れながら美由紀が椅子に座り、その傍に恭也が立つ。なのはと裕君は持ってきた果物を夫の左側にある棚に持っていき、そこにあった腰掛に座る。
「初めまして士郎さん。なのはちゃんの友達の裕です。からだの調子はどうですか。よくないとなのはちゃん悲しんじゃいますよ」
と、言いながら夫の左手を包むように握る。
すると、
「・・・う」
士郎さんが苦しそうに声を出した。
今まで瀕死状態で身動きどころか声を出すことが出来なかった彼がである。
それからは恭弥が先生を呼びに行き、美由紀はつないでいた手をさらに強く握ってお父さんと話しかけ続ける。
私はそんな美由紀の傍に行って旦那の顔を見ると重そうに、だけどしっかりと見開いた瞳は私を見て言った。
「…ただいま、桃子」
「…おかえりなさい。あなた」
そんな感動のシーンを裕君はベッドの端を握って見ていてくれた。
裕視点
(病院敷地内を『体力回復(小)』にしても効果が見られない。こうなったらなのはちゃんのお父さんの周りにあるもので回復に向かわせるか)
とりあえず士郎さんの手につけられたダイヤの指輪を包み隠すように手を握ってダイヤの指輪にWCCの力をかけて『自然治癒(大)』をつけることに成功した。
よほどいい金剛石且つ、リングもかなりのレア度だったため効果も高めに作ることが出来た。
手の中で光るWCCの光景をなのはの家族に見られることなく使えたので良し。
今ではなのはちゃんが父親の手を握って話しかけている。
皆がなのはちゃんのお父さんに向いている間にベッドの端を掴んでWCCの力を使う。
シーツの下だから光に気づかないだろうと思い、WCCを使い、病院のベッドを『病院のベッド。回復力(小)』を付加する。
それを行ったおかげで士郎さんの怪我は回復に向かって行く。
そして恭也さんが呼んできた医者に連れていく。生憎ベッドはその場で普通のベッドに戻した。が、ダイヤモンドの指輪がそのままなのはマズイ。なので、士郎さんを応援するつもりで手を取って頑張ってくださいと言いながら指輪を元に戻す。
それから検査を受けた士郎さんは二週間後には退院可能という結果が出た。
この病院一帯に体力回復(小)。疲労回復(小)という効果がある。もしかしたら入院する期間はもっと短いかもしれない。
それから数日後。
いつもの公園でちびっこ達と一緒に遊んでいたらなのはちゃんとそのご家族が公園の傍で俺を出迎えに来てくれた。
なのはちゃんの心の底にあった寂しさに気づかせてくれたお礼だと言われ、士郎さんの退院祝いもかねて夕食を御馳走させてほしいと、一応母上には連絡をつけている。OKだそうです。
なのはちゃんの家の玄関をくぐると小さな池がある庭に結構大きな家(屋敷?)だった。
御馳走がたくさん並べられた居間に招かれパーティーが始まる。
自分も何か持ってきた方がよかったかなと言ったら、子どもがそんなに気をつかわないでもいいと、桃子さんに言われた。
それからパーティーは無事終わり、お開きになった。
お風呂に入って、今日は泊まっていくといいと言われた。なのはちゃんの方は嬉しそうにそうしたほうがいいよと言ったが、俺は枕が変わると寝つきが悪くなると伝えたら、桃子さんの手に俺の枕があった。
どうやら事前にお母様からお泊りセットを受け取っていたらしい。
俺が御馳走を食べた代わりにお母様の方には桃子さんの経営する喫茶店翠屋のシュークリームを頂いたそうな。
御馳走を食べただけでなくお風呂まで頂いた。途中でなのはちゃんが入って来ようとしたけど、彼女の後方で異様な殺気を放つ恭也さんと士郎さんの支援(私怨?)を受けて丁重に追い返す。
お風呂をあがった後は寝るだけなのだが、その時なのはちゃんが一緒に寝ようと言い出した。もちろんこれをお断りするとこだったが、桃子さんの謎の圧力を受けてストッパーである士郎さんと恭也さんは沈黙。なのはちゃんと同じ部屋で寝ることとなりました。
その後、なのはちゃんの部屋に案内をされ、彼女のベッドの横に布団を敷いて眠ろうとすると、なのはちゃんが話しかけてきた。
自分の悩みを聞いてくれて、そして、それを解決させてくれてありがとう。と、自分は特に何もしていないと伝えた。だけど、きっかけをくれたからありがとうと。
確かにWCCを使ったけど、ばらされたくないからそれは黙っておくことにした。
そこからいろいろ話した。明日は公園の皆と遊ぼうとか、来年の小学校はどこに行くのかとか。そんなことを話しながら就寝することになった。
なのは視点。
私の友達の裕君。
公園に一人でいる私に何度も話しかけてくれて、私の不安や悩みを聞いてくれて、最後には解決してくれた男の子。
裕君に出会ってから本当に何もかもうまくいってきた。
お兄ちゃんやお姉ちゃん。お母さんにも甘えられるし、お父さんともお話が出来るようになった。
タンポポの匂いがする男の子。
一緒にお風呂に入るとお姉ちゃんに言われた時、びっくりした。だけど、一緒に入ってもいいかなとも思った。
裕君は男の子で私は女の子なのに…。
くかー、くかー。と寝ている男の子。
その寝姿を見た私はそっとベッドから這い出て裕君の頬を撫でる。そして、そのほっぺたに唇を押し付けた。
恥ずかしくなってすぐに布団の中に潜りこんだ。
お母さんが入院中のお父さんによくしてあげた事をしてみたけど、自分がやってみると恥ずかしいよー。
…だけど、嫌じゃない。
なんだか胸がポカポカする。
この気持ちは何?
今度、お母さんに聞いてみよう。