リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第十五話 邪神様、君に決めた!

 最近、アリサの不機嫌ゲージがグイグイ上がっている様子。

 お昼休み時間に珍しくイエーガーズの数人となのはちゃん。すずかちゃん。俺。のメンツが揃って短くも楽しいひと時なのにアリサの不機嫌ゲージが上がっていく。

 この調子でボルテージが上がりつつ攻撃力が上がるなんてないよね。

 我慢だ。我慢。ステイ、ステーイ。

 

 アリサは我慢している。

 

 その我慢が解き放たれ、俺に向かない事を祈るばかりだ。

 いつものようにメダルトリオに追いかけられつつも、イエーガーズの協力もあって逃げ切れつつあるのだがなのはちゃんは上の空だし、すずかちゃんはジュエルシード探索に付き合ってもらっているからか、幼馴染からはぶられているように感じているのだろうか。

 かという俺もジュエルシードを探しているからアリサとなかなか遊べていない。

 そんなイライラが溜まっている様子になのはちゃんとすずかちゃんは気が付いているようだけど、ジュエルシードの事を迂闊に喋れないからアリサの質問をうまくかわして、お昼ご飯後の歯磨きをするためにその場を後にする。なのはちゃんは少しあわあわしていたけど…。

 このままだと喧嘩になりそうだったが、『イエーガーズ』と俺がいるから我慢しているアリサは体をプルプルと震わせながらもお弁当箱を片付けている。

 メダルトリオは女子ならともかくアリサ達と遊んでいる男子に喧嘩を吹っ掛けまくるから自然と周りの男友達がいなくなる。根気強くというか、遊べている男子の殆どが『イエーガーズ』のメンバーである。

 前世ボッチだった裕にしてみれば望外な友人の数だが、その友人達と会うたびに喧嘩が起こるのは結構ストレスがたまるのだろう。実際俺もそうだし…。

 ほら、こっちの視線に気が付いたアリサが無言で睨みつける。

 

 アリサの睨みつける攻撃。

 裕は逃げられない!

 

 壁際に座ってお弁当を食べていた俺に追いかぶさるように、そして逃げ出さないように壁に勢いよく手をつく。

 これが噂の壁ドン。…ドキドキしちゃう。

 アリサの意志が強そうな瞳、彼女の息遣いの音、自分の心臓の音すらも聞こえちゃうじゃないかと思うその距離。そして、鼻を貫かんばかりの痛みと鉄の匂いがぁ?!

 

 アリサの鼻フックの攻撃。

 裕はアリサと向き合った。

 二人の間にラブコメの空間なんて生まれなかった。

 

 「裕!最近あの二人付き合い悪いわよね!そうよね!」

 

 アリサから俺への対応はどうなのだろう?

 鼻フックされたお蔭で鼻から鼻血がドバドバと出てくる。

 同意の言葉も反対の言葉も発することが出来ない。イエーガーズの皆も巻き込まれるのはごめんだとそそくさと自分達の教室帰ってしまうし…。

 

 「ハアハア言ってないで何か言いなさいよ!あんた何か知っているんでしょ!」

 

 お前に鼻を潰されたから口呼吸しか出来ないんですけど?!

 お、俺、ロリコンじゃないし…?

 

 「いや、二人共たまたま都合が悪かったんじゃねえの?俺だって『イエーガーズ』の皆と毎日遊べるわけじゃないし」

 

 そう言えば、今度の休みにポケモンバトルをする約束もしている。

 初代のポケモンはやっぱりいい。151匹だけでいいよ、ポケモンは。この世界ではまだ続編が出てないから151匹のままだが、次世代が出る事を考えるとお小遣いも溜めないとな~。

 ちなみに主力はピカチュウ。フェイトと出会ったその日からカラーリング的に合っていると思う。ニックネームもフェイトにしている。

 フェイト!メガトンパンチだ!

 似合わないとか言うな。データリセットしてから、まだ『いあいぎり』を手に入れてないんだよ。

 

 「~~~。…悪かったわよ。八つ当たりして」

 

 アリサはプルプルと震えていた拳を下ろして俺に謝る。というか、殴るつもりだったのか?バイオレンスなお嬢様になったものだ。

 

 「私はあんたになら素の自分をさらけ出せるし、なのはだって、きっとすずかだってあんたになら何でも話せると思うの」

 

 肉体言語は御免こうむりたい。

 

 「だから、あんたが知っているかもと思っていたんだけど」

 

 「…まあ、元気出せ?俺は『イエーガーズ』の皆とポケモン大会をするから今度の休みは遊べないけど」

 

 「…私も参加させなさい」

 

 「いいけどレベル制限つきでレベル上限50までだぞ?」

 

 「上等よ。私のアズマオウの冷凍ビームで一網打尽にしてやるわ!」

 

 あ、この調子だとアリサはバッジ全部手に入れているかも…。

 とにかく元気を出してくれたアリサの頭をポンポンと叩きながら俺達も教室に戻ることにした。

 

 

 

 放課後。

 俺はピカチュウ。ではなく、フェイトにジュエルシードを渡すためになのはちゃんの両親が経営する翠屋でのんびり過ごしていたら橙色の髪をしたお姉さんがフェイトと一緒に現れた。

 む。おっぱい大きい。あ、そんなに睨まんでください。

 てか、このお姉さん店に入る前からイライラしてないか?

 

 「…あんたがフェイトの言っていた協力者かい。ふん、どこにでもいそうなガキだね」

 

 「駄目だよ、アルフ。一応、彼は協力者なんだから」

 

 …おう、いきなりディスられたよ。

 高町道場に通っているからそこらへんにいる子どもに比べたら体力はある方だと思うんだけどな…。

 そしてピカチュウ。一応ってなんだ。一応って。俺達のきずなはそんなにそんなに薄っぺらい、物でしたね

 まあ、ここは俺の実力。というか成果(月村家の支援+ダイバーの免許を持っていた恭也さん)を見てもらおう。

 …俺だって、貢献したし。WCCで貢献したし。

 

 「とりあえず、三個。暴走要素は取り除いているからそのまま持って行ってもいいよ」

 

 「三個も!…あんた何者だい?」

 

 「邪神だよ」

 

 「邪神?」

 

 「言ってみたかっただけだ。気にするな、ピカチュウ」

 

 「私は電気ネズミじゃないよ」

 

 お前もポケモンやっているのか!…意外だ。

 

 俺が手に入れたのは、家に落ちてきたジュエルシードが一個。公園で拾ったのが一個。サッカーのキャプテンから一個。海で拾った物が二個。

 そのうちの一個はフェイトにとられたから四個なんだが、一つは探索用のサンプルとして持っておきたいと言っておく。

 ふと、フェイトの手に包帯が巻かれているのに気が付いた。

 

 「その手、どうした?」

 

 「あなたには関係な」

 

 「ある。ある意味爆弾を運んでもらうんだ。万全の状態じゃないとこの三個も、残りの一個は渡さない」

 

 フェイトは苦い顔をして話そうとしなかったが、隣にいたお姉さん。アルフが事の次第を話す。

 何でもなのはちゃんが名乗りを上げながらジュエルシードをめぐった喧嘩をして怪我したらしい。

 途中で榊原と名乗る銀髪もいたらしいが手につけたドリルとともに二人の魔法の攻撃の余波に吹っ飛ばされたらしい。どこのゲッターⅡだ、お前は。

 それにしてもなのはちゃんが魔法少女になったのか。魔法少女と言えばアリサ辺りがなると思ったんだけどな。ツンデレだし…。

 

 ツンデレ。魔法使い。ペッタン。馬鹿犬ぅうう。…うっ、頭が。

 

 それはさておき。喧嘩の原因となったジュエルシードを、これまたどこから現れたのか金髪こと王城君がキラキラ光る両手剣を持ってジュエルシードに斬りかかった。

 

 ジュエルシード暴走。余波でぶっ飛ぶ金髪。お星さまになる王城。

 メダルトリオはトラブルメーカー!

 ウザイ海鳴三連星(アリサ命名)でジェットストリームアタック!

 …ロクなことにならない。

 

 慌ててフェイトが封印に取り掛かるが、なのはちゃんとの争いで相棒のバルディッシュがヒビだらけになり、仕方なくバリアジャケットで覆われているとはいえ素手同然で封印をして怪我をしたという。

 なのはちゃん。いや、目の前のフェイトもそうだが、あの鋼鉄の杖が壊れるまで喧嘩するなと言いたい。てか、ジュエルシードほったらかしにして喧嘩をしないで欲しい。

 

 「そのバルディッシュって、今持っている?」

 

 「持っていたらなんだっていうのさ」

 

 「ぱぱっと直す」

 

 「…はぁ?!そんなの無理に決まっているだろ!」

 

 「お姉さんうるさい。周りの人に迷惑」

 

 フェイトはアルフさんに俺の事は何も伝えてないんだろうか?

 俺はテーブルの上に置かれていたティッシュを一枚抜き取って、人目につかないようにWCCをかける。

 ティッシュは光と共に形を変えると、そこにはフィギュアのように作られたフェイト人形が置かれていた。

 素材がティッシュなのちょっとの風で倒れるが、その人形に折り目は無く切り取られた後も無い人形がアルフさんのところに転がっていく

 それを手に取ったアルフさんは思わず目の前にいるフェイトと見比べる。

 さすがにスカート中身までは再現できなかったがいい出来だと思う。

 

 「で、どう?バルディッシュが物である以上、俺ならぱぱっと直せるけど?」

 

 「…わかった。任せる」

 

 「フェイト?!」

 

 「今は少しでも早く戦力を整えるのが先」

 

 「う~~。あんた。変な細工をしたらただじゃおかないからね!」

 

 「俺にメリットが無いよ」

 

 てっきり、持ってきた手提げかばんの中にあると思いきやスカートから取り出した三角形の小物を渡される。

 WCCで見てみるとインテリジェント・デバイス(破損・自動修復中)と表記されていた

 とりあえず、破損したところはWCCで修復するとして…。

 

 「…これで良し。実行」

 

 二人の目の前で光に包まれた待機状態のバルディッシュは元の光沢のある形へと変化する。

 フェイトはそんなバルディッシュを念入りに調べていると、自分の体調の異変に気が付いた。

 

 「…手が、痒い?」

 

 包帯を思わず解いてみるとゆっくりとだが傷がふさがっていくのが目に見えてわかる。

 

 「一応、サービスで治癒効果を持たせた。それ以外は据え置き」

 

 フェイトは裕とバルディッシュを見比べて尋ねる。

 

 「どうして?」

 

 「一応協力者だろ。これくらいの支援はするさ」

 

 「…あんた、これだけの事をして何が狙いだい?」

 

 アルフは未だに。むしろ警戒心を強くしながら裕を睨みつける。

 正直それだけでブルってしまっている裕だが、理由はもう言ったが、それで納得しないなら今度なのはちゃんとジュエルシードを奪い合うなら彼女の話を聞いてほしいとだけ伝えた。

 

 「最後に聞きたいんだけど。…この白いジュエルシードはなに?」

 

 「エリクサーもどき。怪我をした時とか病気を患った時に早く治れ~って、思いながら強く握れば効果が出るよ。わかりやすくするために加工した」

 

 二人は怪しんでいたけど反応がジュエルシードのそれだから一応納得して、お土産にケーキを買って帰っていった。

 さて、次はなのはちゃんを問い詰めるとしますか。

 

 邪神は魔法少女になってしまった幼馴染の携帯に電話をかけることにした。

 

 




 フェイト達との会談が終わった後。
 恭也さんが店の奥からシュークリームを二つ持って現れた。

 「しかし、あんな小さい子に本当に任せていいのか?」

 「少なくても俺よりは強いですし、彼女の方にも保護者みたいな人がいるから大丈夫だと思います」

 しかし、アルフさんが終始睨んでいたからプレッシャーで本当に疲れた。
 恭也さんは俺に何かあったら飛び出してくるつもりだったらしい。

 「まあ、とりあえずお疲れ。これは俺のおごりだ」

 「御馳走になります」

 翠屋特製シュークリーム。
 庶民のお菓子とは思えないほどの代物。
 邪神の精神が少し回復した。

 「うん。これもおいし…」

 高町家長女特製シュークリーム。
 庶民のお菓子とは思えないほどの代物。
 邪神は力尽きた。

 「美由希ぃいいいい!」

 高町家長男の声が翠屋に響いた。

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