リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第十一話 邪神様、MVP賞受賞。

 日曜の昼。

 小川付近に整備されているサッカー場にて翠屋FCの名をうったチームに檄をする者がいた。

 

 「お前等ぁあっ!気合入っているかー!」

 

 「「「おー!」」」

 

 もちろんこの世界の邪神、田神裕。その人だ。

 『イエーガーズ』の皆と談論しているかのような翠屋FCのメンバーを鼓舞している。

 『イエーガーズ』の何人かがこのチームに入っている事となのは達がサッカーの観戦に誘った事で裕はこの場所にいた。

 しかし、試合に参加するわけでもなく応援、観戦するまで暇だったので鼓舞をすることにした。

 

 「この試合に勝って翠屋のケーキが食べたいかー!」

 

 「「「おー!」」」

 

 その光景を見てぼやく三人組がいた。

 

 「…あいつ、試合どころかサッカーチームじゃないのに何であんなに元気なの?」

 

 「裕君、昨日は道場に来なかったのに…」

 

 「まあ、元気そうでよかったね」

 

 裕は本来ならサッカー観戦などせずにジュエルシードの散策を行いたかったが、今日行われるサッカーを行う場所が子どもの脚では遠い場所にあったので、ついていくことにした。

 サッカー場とその付近をアイテムグループ化した裕は、そのエリアに内にジュエルシードが無い事を確認した裕は、皆に不審がられないようにいつものように『イエーガーズ』メンバーを含めたサッカーチームを鼓舞する。

 

 「あそこにいる美少女三人に良い所を見せたいかー!」

 

 「「「おー!」」」

 

 「にゃっ?!」「…あの馬鹿」「…田神君ってば」

 

 裕の声に鼓舞するサッカーのチームメイトと困惑するなのは達。

 

 「このチームのキャプテンとマネージャーのようにいちゃいちゃ空間を作りたいかー!」

 

 「「「おおおおお!!」」」

 

 「ちょ!?」「ええ!?」

 

 軽く他人のプライベートを暴露する裕。

 不意に自分達の事を言われた二人も顔を赤らめる。

 それを無視して裕は鼓舞を続ける。

 

 「羨ましいかー!」

 

 「「「おおおお!」」」

 

 「自分もあやかりたいかー!」

 

 「「「おおおおお!」」」

 

 「あの三人組のチアリーディング姿が見たいかー!」

 

 「「「おおおおおおおお!」」」

 

 「青春の炎はぁああ、熱く燃えているかぁああああ!!」

 

 「「「おおおおおおおおおおおおっ!!!」」」

 

 どこかで見たことがある光景になのははそれを思い出そうとして頭を捻る。

 アリサは何気にチアリーディングをやらせようとしている裕の行動に憤りを覚えていた。

 そして、すずかは、というと。

 

 「あの馬鹿は全く…」

 

 「ねえ、すずかちゃん。私、アレをどこかで見たことがヒィ」

 

 「………どうしたの、なのはちゃん」

 

 なのはが自分の隣にいたすずかに話しかけた瞬間に小さく悲鳴を上げる。

 まるで人形のように光の無い瞳になったからだ。つまり、

 

 「よー、なのは達じゃないか。奇遇だなぁ」

 

 珍しい銀の髪を有した美少年がなのは達の所へ歩いて来た。

 普通ならその美少年の風貌に頬を赤らめるはずだが、なのは達は彼に会ったその日に苦手意識を持っている。

 

 「…榊原君」

 

 「…なんであんたがここにいるのよ」

 

 なのはとアリサは榊原の登場に声質が落ちる。すずかの方は表情がより無機質になる。

 

 「日課のランニングをしていたらアリサ達を見つけたという訳さ」

 

 「そう、それじゃあランニングに頑張ってね」

 

 すずかが言葉の裏にさっさとここから離れて。と、表情の消えた顔と無機質な声で隠しきれて無い事がなのはとアリサには感じた。

 さわやかに笑顔で答える榊原にすずかの意志は通じず、なのはとすずかの間に座りこみながら、なのはが連れて来たフェレット、ユーノと呼ばれているフェレットの首を掴み上げると魔力を持つ人間にしか聞こえない会話。念話を使う。

 

 (あんまり、なのはにべたべたしいてると首をへし折るぞ?淫獣?)

 

 (っ?!)

 

 (榊原君!)

 

 ユーノを拾った日になのはが聞いた助けを呼ぶ声はユーノが発した念話であり、その次の日に動物病院で起きたガス爆発事件。それはジュエルシードが起こした異常事態であり、それを解決するためにユーノはこの地球へやって来た異世界の人間。

 なのはに拾われる前に一度、ユーノはジュエルシードの暴走体と対峙して負傷し、気絶する寸前に念話で助けをよんだ。それをなのはが救い上げた。

 ガス爆発事件はジュエルシードの暴走で、ジュエルシードは毛玉のような物、思念体へと変貌したものだった。

 その思念体はユーノが置かれていた動物病院に襲い掛かってきた。が、ユーノの念話を再び聞いたなのはが動物病院へ赴き、ユーノと接触。

 ユーノが持っていたインテリジェント・デバイスをなのはが起動したことでなのはは魔導師になることが出来た。だが、それだけではない。

 その現場にメダルトリオが現れた。

 金髪の王城は高笑いながら何もない空間から剣を作り出し、それを持って斬りかかるが毛玉に近付く前に毛玉から伸びた触手にやられた。

 茶髪の白崎もいつの間にか装着していた両手に赤と白の籠手を出現させるも王城同様に吹き飛ばされる。

 今、目の前にいる榊原も何かしようとした瞬間に他の二人同様に殴り飛ばされ、瓦礫の中に突っ込み気絶した。

 ただ、その別にどうなってもいいと思われている三人が吹き飛ばされている間になのはは集中することが出来た事により、ユーノの指導の下、思念体になったジュエルシードを封印することが出来た。

 その三人のうち、榊原はいち早く快復して退院を果たした。

 そして、≪リリカルなのは≫という原作知識を用いて、なのは達と関わり合いを持つために普段は行わないランニングをしてサッカー場の在り処をみつけると、なのはが魔導師になった時のリカバーをするためにこの場所に現れた。

 

 (榊原君、なんてことを言うの!)

 

 なのはは榊原からユーノを奪い取るように離すと榊原を睨む。

 

 (なのは。こいつは女みたいな声をしていても男だ。気をつけないと着替えとか覗かれるぞ)

 

 (ユーノ君はそんな事はしないの!)

 

 榊原を睨むのを止めないなのはを笑って受け流す。

 その様子にアリサは不穏な空気を感じて二人に話しかけた時だった。

 

 「あ~、榊原君じゃないですかー」

 

 白い髪を腰まで伸ばしたチアガールの女の子が四人の元に駆け寄ってきた。

 四人がその声の方に顔を向けた瞬間、なのは。アリサ。すずかの三人は思わず吹き出しそうになった。

 一見すると白い髪の少女にも見えるが、三人からしてみれば一発で分かった。

 あれは、白いかつらをかぶり、チアのコスチュームを着た裕だという事だ。

 裕はまだ九歳。声変わりもまだ先なので、女の子の格好をして、かつらを被れば一見すれば女の子にも見えなくもない。

 

 「…あれ、きみは?」

 

 しかし、裕の事を日頃からモブだと言っている榊原はそれに気が付かない。

 

 「ひどーい、榊原君。裕子、一年生の頃から君の事を知っているのにぃ~」

 

 「あははは、ごめんね。裕子ちゃん。今度からちゃんと覚えておくからさ」

 

 「ぶふっ」

 

 アリサは顔をそむけて抑えきれない笑いを抑えていた。そして気が付く。

 裕は背中であっちに行けと手を動かしていた。

 裕に注意が向いている間にアリサはなのはとすずかを連れて離れていく。

 

 「私、榊原君とお話がしたいんだけどいいかな?」

 

 「ここでじゃ駄目かい?」

 

 「ここじゃ、ちょっと…」

 

 と、顔を下に向ける裕。その表情は必死に笑いをこらえている。少しでも頬の筋肉が緩めば爆笑するだろう。

 内心では『俺も罪な男だな』と笑いが止まらない榊原に対して、なのは達も裕が女装していることに気が付かない榊原に笑いが抑えられないでいた。

 

 「それじゃあ、バニングスさん。榊原君を借りますね」

 

 「…ええ、どうぞ」

 

 アリサは離れていく二人を見ずに答える。今にも噴きだしそうな顔を見られたら怪しまれるからだ。

 そうやって榊原を近くのコンビニまで連れて行った裕はコンビニ裏にある駐車場に彼を連れて行きながら「ちょっと、飲み物を買ってくるね…」と、頬を赤めながらその場を去る。

 榊原の方は『今さら照れるなんて可愛い奴だな』と、勘違いしていた。実際は必死に笑いをこらえるのに顔を赤くした裕に気が付かないまま、その日一日待ちぼうけになるのであった。

 

 

 

 正午。

 

 「では、本日の勝利を祝って、かんぱーいっ」

 

 「「「かんぱーい!」」」

 

 待ちぼうけを喰らっている榊原の事など知ったことではないと、サッカー試合は行われ、2-0という結果で翠屋FCが勝利した。

 祝勝会を称して翠屋でケーキの食べ放題パーティーが開催された。

 裕も既にチアのコスチュームは脱いで参加している。

 

 「いやぁ、助かったよ。あいつ等俺達の試合をしていると途中から俺も混ぜろとか言って乱入してきて試合が滅茶苦茶になるんだよ」

 

 「…正確には私達が観戦している試合にだけどね」

 

 「あの三人はまだ入院していると思ったのに、もう退院したみたいで迷惑でしかないのよね。これじゃあ、私達また応援に行けなくなるわよ」

 

 サッカーチームのメンバーとすずかやアリサからの情報によるとメダルトリオは狙っているかのようになのは達の前に現れては試合を滅茶苦茶にするらしい。

 

 「だけど、今日は裕君があいつを引き離してくれたおかげでことも無く試合が消化できたよ」

 

 士郎さんにあいつ呼ばわりされるほどメダルトリオはやって来たのかと裕は呆れを通り越して感心する。

 その情熱を人の役に立つことに使えばさぞかしモテていただろうに…。

 

 「ところで裕君。あのコスチュームはどうしたの?」

 

 「バニングスさん提供の元、高町士郎さん経由で田神裕が拝借して、近くのトイレで着替えました」

 

 突然上がったスポンサーの名前に驚くアリサをよそにチームの監督を務める士郎は続ける。

 

 「なんでパパが出てくるの?!」

 

 「いやー、チームの指揮を上げるためにはどうしたらいいのか。と、チームの皆で相談していたところに『すずかちゃん達が応援してくれるならやる気がもりもり出ます』という意見が出てね。どうせならそれらしい格好でと思って」

 

 「…『イエーガーズ』のうちの誰かだな。…わかっているじゃないか」

 

 裕の言葉にうんうん、と頷くサッカーチーム。

 

 「ところであの白いかつらは何処にあるの?」

 

 「あれならトイレに流した」

 

 「詰まっちゃうんじゃないの?」

 

 「大丈夫。ちゃんと流せた。百パーセント再生紙のかつらだったからな」

 

 「…あれって、トイレットペーパーだったんだ」

 

 WCCでカスタマイズした雨にも風にも弱いかつらだが、なんとかばれずにやり遂げた。

 

 「あんな短時間で作れたの?」

 

 「『こんな事も有ろうかと』。一度やって見たかった台詞なんだけどな。受け狙いで前々から作っていたかつらを服の中に隠し持っていたのさ」

 

 WCCがあれば即席で作れるがそれをばらすわけにもいかないので嘘をつく裕に、すずかは疑問を持った。

 彼女はとある事情で普通の人よりも嗅覚が優れている。裕が着けていたトイレットペーパーのかつらが放つすこし甘い匂いは一緒にサッカー場へ来た時はしなかった。だから、彼が言っているのは嘘になる。

 疑問には持ったけど榊原を追い払った。というか、連れて行った裕には感謝しているのでそのまま聞き流すことにした。

 そんなことを話している間に裕はなのはが連れて来たユーノが着けていた宝石が無くなっていることに気が付く。

 

 「あれ、ユーノ。お前が着けていた宝石はどうした?」

 

 「…きゅっ」

 

 そう言うとユーノはなのはの方を見る。

 それを見てなのはの方も、その視線に応えるように喋る。

 

 「ゆ、ユーノ君の持っていた宝石は私が預かっているの。飼い主さんが現れるまでは預かっておこうかと思って」

 

 「なるほど。つまりショバ代。預かり賃代わりに頂こうという訳か…。悪いな、なのはも。高そうだったもんな、あの宝石」

 

 WCCでかなりのレアものだと知っていた裕はからかい気味にそう言うとユーノが悲しそうな目でなのはを見ていた。

 

 「…きゅう」(…まさか、そのつもりで僕を)

 

 「ユーノ君、その目で私を見ないで!」

 

 「…なのは。…あんた」

 

 「…なのはちゃん」

 

 アリサとすずかも彼女がそんな事はしないとわかっていながらも悲しそうな目でなのはを見てはからかう。

 

 「み、皆までそんな目で見ないでぇえ、返すからっ。ちゃんと返すからぁあああ!」

 

 涙目のなのははからかわれているという事はわかっていながらも自己弁護をする羽目となった。その為に、サッカーチームの一人がジュエルシードをポケットの中に入れ直しているという場面に気が付くことはなかった。

 




 本日のMVP大賞

 「でも、田神君のおかげで今日は楽しかったよ。あの三人の前でも私って笑えたんだね」

 「いきなり無表情になるすずかちゃんは怖かったけど裕君が来てくれて助かったの」

 なのはとすずかはそれぞれ裕にお礼を言う。
 裕の方も苦笑しながらお礼を受け取る。

 「いや、それでもお前達大したものだよ。あれだけ勢いが強い奴を三人も相手するなんて大したもんだよ。実際相手してわかったけどあいつらグイグイ来るな。腰に手を回してきた時はびっくりしたぞ」

 「あいつら普通に私達の髪を撫でようとするからね」

 「触られたくないから距離を取るのが大変なの」

 「あー、わかるわ。俺の場合はかつらの質感でばれるかもしれないから、ずっと注意していたけど確かに触ろうとしてくるからな」

 裕は今日会った出来事をしみじみと考えていた。

 「そうだ、裕。あんたこれから女装して私達の代わりにメダルトリオの相手をしなさい」

 「断る!」

 「何でよ!別に毎日しろって言ってんじゃないんだからいいじゃない!」

 名案だと言わんばかりにアリサは席から立ち上がる。
 が、それを裕は力強く断る。

 「そりゃ、気持ち悪いからに決まっている!それにな、あいつコンビニの裏にある駐車場に連れて行ったら俺の唇を奪おうとしてきたんだぞ!」

 「く、唇…」

 「が、頑張ったわね」

 「…田神君。本当にお疲れ」

 三人娘は心の底から邪神に感謝した。

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