リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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 自分が手にした力は邪神の力。ワールド・カスタマイズ・クリエイト。
 甘いリンゴを辛くしたり、少し足が速くなるという効果を持つ下着を作ったり、焦げた鍋を直したりする。物体に干渉する力。
 前世に出来なかった青春を謳歌するためにこの力を使って気楽な人生を過ごすつもりだった。
 この世界の主人公。高町なのはにあうまでは…。




無印編
第一話 邪神様はタンポポの香り


 おっす。オラ、田神裕。

 お母様はゆうちゃんと呼ぶが仕方がない。だって未だに四歳なんですもの。

 実は中身は三十過ぎのおっさんだったりする

 いや、別に脳みそを幼児と取り換えたとかそんなんじゃない。

 いわゆる転生というものらしい。

 お気に入りのライトノベル。ワールド・カスタマイズ・クリエーターというノベルを読んで眠り、目が覚めると白い世界にいた。

 そして、目の前にA4サイズの紙とペン。

 紙の上の部分には『あなたのこれまでの人生は消失しました』。『欲しいものを一つ書いてください』。と書かれた紙。

 よくできた夢だと思いながら、ただ何も考えず、眠る寸前に呼んでいたライトノベル。ワールド・カスタマイズ・クリエーター。略してWCCと書くと白い空間が暗くなる。

 そして、目が覚めたら赤ん坊。

 

 「ばぶう」

 

 いや、なあにこれ?

 最初の頃、これは夢だと思いたかったが、熱いものに触れば熱いし、転べば痛い。カレーは辛い、お母様のお胸はやわ、げふんげふん。

 とにかく、自分が接触するもの全てが現実のものだと言っている。

 ちなみにお母様はおっとり系の金髪美人。父上は生粋の日本人。

 無難に公務員と言う職につきながら美人のお母様を嫁に出来た時点で人生の勝ち組だ。

 そんな二人の間に出来た俺の容姿は、父上の血を濃く引き継いだのか何処にでもいそうな黒髪黒目の男の子。

 ただ、普通じゃない所があると言えば、

 

 「…実行」

 

 人目につきにくい公園の茂みで地面に手をついてそう呟く。

 すると手を付けた部分。範囲にして半径十センチぐらいの部分が光る。

 数秒もしないうちに光が消えうせると同時に手をどけるとそこには金色に光る米粒。砂金があった。

 この砂金。実はこの公園一帯から金の成分だけを抽出して作り出したものだ。

 これが俺と他の人とは変わっている所。

 少し前に人の背中に羽が生えて超能力が使えるという奇病が流行ったが、それとは違う。その証拠に俺の背中には羽は生えていない。

 

 ワールド・カスタマイズ・クリエーター (以下WCC)

 正式名はカスタマイズ・クリエイトだが、原作を忘れないようにワールドを頭につけることにした。

 

 邪神として異世界に呼ばれた少年が物体に干渉する力を持って活躍する物語で駆使された力であり、ラノベのタイトルにもなっている。

 その力はボロ布をジーパンやシャツに作り替えたり、素材の山を使い、一瞬で砦を作るという力。ただし、そこに元になる物が何もなければ何もできない。

 だが、レア度。希少価値があれば付与効果も持たせることが出来る。

 例えば、ゲル○ニウムブレスレットにその力を使い『体力回復(小)』という能力を持たせ、実際に怪我の治りを早くしたり、『敏捷度アップ(小)』と言う能力を持たせて動きが素早くなったりすることも可能。ただし、レア度。希少度というものがどの物体にもあり、それが低ければ効果も(大)から(小)になり、付与できる効果もいまいちな物になる。

 そんな力が自分にも使える。

 四歳ではあるがこの力を乱用すれば世界がやばい。と言う事を前世のラノベで読んでいたので知っている。

 この力があれば、材料があるだけでミサイルや戦車という兵器が一瞬でしかも大量に生産できる。だからこの力を使うのは人目につかない場所。自分の事だけに使うと決めた。

 

 「この砂金を自分の靴に合成して実行。レア度が上がったから、『敏捷度アップ(中)』にする。と、」

 

 この力を使うとその対象になった物は装備状態から装備前になる。

 『普通の靴』はWCCの効果を受けて『砂金が混じった普通の靴。敏捷度アップ(中)』という物へと変化した。

 実はすでに俺が着けている物はWCCの効果受けている物で、

 

 『銅が混ざった服。防御力アップ(小)』、

 『アルミの混じった短パン。筋力アップ(小)』、

 『タンポポの粉末が混ざった靴下。防臭効果(小)』

 

と見た目は普通の服装だが、本気を出せば大の大人ほど膂力を見せつけることが出来る。

 

 「やっぱり少なくても金を使うと効果が段違いだな」

 

 ほくほくした顔で公園の茂みから出ると自分と同じくらいの子ども達がサッカーで遊んでいたので混ぜさせてもらう。

 前世では自分自身に自信がなく若干コミュ症だった裕だが、WCCという力が自分にあると知って自分に自信が持てたのか積極的に地域の子ども達を遊ぶことにしている。

 もちろん、その時はWCCの力で向上した能力はオフにして遊ぶ。

 

 「またなー」

 

 「じゃーねー」

 

 ちびっこ(自分もだが)達と夕方ごろまで遊び、疲れたのかちびっ子達はそれぞれ帰っていく。自分もそれにならって帰ろうとしたが…。

 

 「…ぐす」

 

 公園の隅っこで泣いている女の子?スカートをはいているからそうなのだろう。

 そんな女の子は誰とも遊ぼうとはせずずっと一人でいた。

 最初はサッカーしようぜと声をかけたのだがスカートだから無理といわれた。かくれんぼや鬼ごっこも誘ったのだが断られた。

 今日も今日とて一人で過ごしていた。

 それが一週間くらい経ったので今日は帰り際にその理由を聞いてみることにする。

 帰り道が途中までは同じ(実は真逆)と嘘をついて幼女に話しかける。

 最初はだんまりだったが、次第にぽつぽつと喋り出す幼女はなのはという名前で、父親が重体で入院。母親は大黒柱無き父に代わって家を支えて、兄と姉はそれを支えるという形で家では構ってもらえない状態。というか、家族が頑張っているのが分かるので甘えられないというなのは。

 だからといって、公園にいる昼間遊んじゃいけないという事はない。

 というか、自分だけ楽しんじゃいけない。と考えているらしく彼女の家につくまでそんな話をしていると彼女の自宅までついた。

 自宅の前には彼女の姉と兄がなのはを迎え入れると同時に俺は子どもボディーを駆使して二人になのはは遊んじゃ駄目なんですかと聞いてみる。

 最初はその質問に不思議そうな顔をしていたが、慌てるなのはを無視して二人にこれまでのことを話すと涙を流しながら彼女を抱きしめて謝った。

 そこに母親も帰ってきて、事情を聴いて涙腺決壊。そして、親子兄妹揃ってなのはを抱きしめる。

 そんな家族になのはもまた泣いていた。

 なのはが我慢していた事に気づかせてくれてありがとう。と、お礼を言われ食事を御馳走しようとしたが丁寧に断る。が、お礼代わりに父親の名前と入院している病院を教えてもらう。

 今度一緒にお見舞いに行こうとなのはに伝えて今日の所は家に帰る。

 

 「ゆうちゃんっ。こんな遅くまでどこに行っていたのっ」

 

 ごめんなさい、お母様。

 今度からは午後八時以降まで外で遊ばないから許して。

 ・・・あと、明日の朝早く出かけることを許してください。

 

 「自分の為だけに使いたかったなー」

 

 だが、前世の記憶があるので自分より幼いなのはを放っておくわけにもいかない。

 そう思いながら俺は目覚まし時計かけて寝ることにした。

 いつもより三時間は早めにセットして。

 

 

 

 海鳴病院で働く一般看護師。

 

 あれは夜勤明けに見た幻だったのかもしれない。

 朝日に光る病院の敷地内が光に包まれた。それに驚いてその時飲んでいたホットコーヒーをズボンに零してしまい、ちょっとしたのやけどを負った。

 はずなのだが、交代する時には火傷が治っていた。

 それだけではなく、重体患者が入院している階の患者全員が完治に向かうという現象が起こった。

 昨日と何も違わない病院。ただ、消毒液臭い病棟の廊下にほのかにタンポポの匂いがする違和感を覚えた看護師が一人いた。

 


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