鎮守府に変態が着任しました。   作:「旗戦士」

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夕立「提督さん」
提督「はい」

夕立「E1で私を間違えて大破進軍させて轟沈させた気持ちをどうぞっぽい」
提督「首吊ってきます」

※実話です。


第Ⅱ充㈣集

<高速バス・車内>

 

 

 「すごーい……鎮守府の外に出てきたの初めてだ……」

「そういえばふぶきんは外出は初めてなんだっけ? 」

「はい、鈴谷さんも? 」

「あたしは時々熊野とかと一緒に買い物行ったりするかな。今度の休みふぶきんも一緒に来る? 」

「いいんですか! お願いします! 」

 

辺境鎮守府の艦娘たちを乗せた高速バスは現在海老名ジャンクションから圏央道を走行しており、渋滞にも嵌る事無くスムーズに移動している。

霧島や足柄たちを乗せたリムジン、天龍の運転する"トヨタ・ランドクルーザー"、明石の自家用車である"シルビア S15"が彼女らの乗る高速バスを追従し、同じくシルビアに乗る叢雲は恥ずかしながらも吹雪に手を振り、叢雲の隣に座るヲ級も両手を上げた。

 

「へぇ、明石さんがスポーツカー乗ってる姿って意外ですね」

「そうか? アイツは暇さえありゃちょくちょく自分のシルビアを改造してたぞ」

 

吹雪の背後に座る木曾が座席のリクライニングシートから顔を出し、吹雪の隣に位置する鈴谷とも視線を交わす。

 

「マジ? まあメカニック気質もあるし似合ってるっちゃあ似合ってるけど」

「ふふふ……そんな事言ったら扶桑姉さまもご自分のバイクをよく整備してたわ。休日にはいつもツーリングに出かけるの。私も一緒にね」

「扶桑の姉御は見かけによらずアグレッシブなんだな……」

 

木曾の言葉と同時に茶色いライダースジャケットを羽織り、黒いスキニーパンツに身を包んだ長身の女性が黒塗りの"HONDA CBF 1000"を駆りつつ高速バスの横を通り過ぎた。

木曾の隣にいる山城はその女性の姿を見るなり身を乗り出し、目を輝かせる。

 

「扶桑姉さま! あぁ、バイクに乗る姿も美しい……」

「えっ!? あの女の人扶桑さんっぽい!? 」

 

夕立が声を上げた瞬間に、CBF1000に跨る扶桑へバスに乗った艦娘たちの視線が集中した。

扶桑も彼女たちの視線に気がついたのか、バイクの速度を緩めつつも視線は前方に保ちつつ彼女たちに向けて手を挙げる。

 

「かっこいい……扶桑さん……」

「でしょう? でもお姉さまは私のお姉さまよ。吹雪には渡さないわ」

「えっ、ずるいですよぉ! 」

 

悪戯に笑う山城の表情に少し胸を打たれつつも、吹雪は自分の座席に置いてあったペットボトルの炭酸飲料の蓋を開けた。

キャップに口をつけ少し中の飲料を口に含むと、爽やかな味わいが彼女の口内に広がる。

 

「ふぶきん、お菓子食べる? あたしめっちゃ多く作り過ぎちゃって食べきれないんだよね」

「いただきます! これ、マドレーヌですか? 」

 

「そうそう。意外とあたしも女子力高いっしょ? 」

「俺も貰っていいか? 甘いものが欲しかったんだ。ほら、山城の姉御も食いなよ」

 

「じゃ、お言葉に甘えて」

 

それぞれマドレーヌを口にするとレモンの風味と甘い食感が彼女たちを占め、全員は感嘆の声を上げる。

吹雪達の表情を見てご満悦な様子の鈴谷に、もう一人から声が掛かった。

 

「鈴谷殿。自分も貰っていいでありますか? 」

「どうぞどうぞ。というかあきつんも来てたんだね」

 

「その言い草はちょっとひどいであります……。自分もこの鎮守府を守る陸軍の艦娘という事で提督殿が誘ってくれたのでありますよ」

「あはは、ごめんごめん。けど人数が多い方が楽しいしいいよね! いつも一緒の憲兵さんはどしたの? 」

 

「彼は自分の車で来るそうです。根っからの車狂らしく、久しぶりに走らせたいと意気込んでいましたよ」

「へぇ、何乗ってるんだ? 」

 

木曾の問いにあきつ丸は顎に手を当てる。

どうやら憲兵の乗る車の名前は知っている様だが、どうにも名前が思い浮かばないらしい。

 

「確か……えぬえすえっくす、なるものだったかと」

「HONDAのNSXか! そりゃあいいセンスしてるな! 」

 

「木曾も車詳しいの? 」

「あっ、ま、まあな。姉貴たちや知り合いからは"女の子らしくない"って言われてるから隠してるんだ。……やっぱり、変か? 」

 

「そんな事ないよ、最近だって女の子のスポーツカー好きは増えてるみたいだし。木曾も似合うんじゃない? 」

「そう間近で言われると照れるな……。ま、褒め言葉として受け取っておくぜ」

 

照れくさそうに頭を掻く木曾を横目に、吹雪はふと窓に視線を傾ける。

天龍のランドクルーザーや明石のシルビア、扶桑のCBF1000が横に走る光景の中で、一つだけ異質なものが見えた。

思わず彼女は目を疑いもう一度目を擦るが、その姿は紛れもなくヤツである。

 

「はーっはっはっは!! ランドクルーザーもシルビアも今や目ではない! この私の愛車、メルセデスが最速! 君たちには速さが足りないっ! 」

「何だコイツ(素)」

 

本来のメルセデスベンツとは程遠い白と青のスーパーカブに乗る男が高速道路の中一人で高らかに声を上げた。

吹雪が頭を抱える理由はその男が彼女たちの司令官であるからだ。

 

「そこのスーパーカブ停まりなさい! スーパーカブで高速走るとか道交法ぶっちぎりで違反しているぞ! 」

「大馬鹿者め! この一流の変態紳士である私を国家の狗が縛れると思っているのかァーッ!! 」

 

「ちょっ、速っ!! なんだあのダルマスーパーカブ!? 出していい速度じゃないぞ!? 」

「はーっはっはっは!! 私が一番乗りだァァァァァッ!!! 」

 

提督の駆るダルマを乗せたスーパーカブは瞬く間に道路の向こう側へと消え、その後を警察車両が必死に追いかける。

何も見なかったことにしたかった吹雪は、そそくさと窓のカーテンを閉めた。

 

「ん、どしたのふぶきん? 眠いの? 」

「はい、なんだか関わりたくない人の乗るスーパーカブが見えたので」

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<草津・旅館駐車場前>

 

 

 その後高速バスは約2時間の移動を経て、無事に彼女たちが泊まる予定である旅館"華の館"の駐車場に停車する。

中年のバスの運転手に礼を告げて各々の荷物を受け取ると既にその駐車場には天龍たちや明石の車が停まっており、彼女たちは合流した。

 

「深雪ーっ! 天龍さんの車どうだった? 」

「もうすげえぜ! でかいしかっこいいし乗り心地も最高だった! 」

 

「止せよ、照れるぜ」

「天龍さん、今度私も乗せてください! 」

 

「おう、任せとけよ」

「天龍ちゃんは人気ね~。私もうかうかしてられないわ~」

 

龍田が駆逐艦娘たちに囲まれる天龍の姿を見つつ笑顔を浮かべる。

瞬間、爆音と共にスーパーカブに乗った提督の姿が駐車場に現れた。

 

「く、くそっ……! まさかメルセデスのリミッターを解除したらエンジンが爆発を起こして高速道路の外に投げ出されるとは……! 」

「あら~提督、ずいぶんとボロボロねぇ~」

 

「久しぶりだなみんな、とりあえず右腕の感覚がないから助けてほしい」

「特型流ツッコミパンチっ! 」

 

「げぶぁっ!! いきなり何すんのふぶきん!? 」

 

地面に叩きつけられた提督はまるで昼ドラのヒロインのような雰囲気で身体を横たわらせる。

 

「司令官はアホなんですか!? スーパーカブで高速突っ走るって普通感が無いでしょう!? 」

「私の中の小宇宙がそうしろって囁いたんだ」

「そんなアホみたいな小宇宙捨ててください! 一回ネビュラチェーンに引き裂かれろ! 」

 

横たわる提督……もとい私はこのアングルから見えるふぶきんのパンツを無論の事激写。

ツッコミに夢中でスカートの中を撮られているとは思うまい!

 

「……はっ!? そうだメルセデス! メルセデスは無事か!? 」

「ごめんなさい提督、助けられませんでした」

 

「嘘だろ明石!? あいつが、苦楽を共にしてきたあいつが死ぬわけない! 」

「事実ですよ……認めてください。彼女をもう……楽にしてあげて」

 

「ねぇこのクソ茶番いつまで続くの? 」

「クソ茶番の割には明石さんノリノリだよね」

 

明石君と私の名演技をクソ茶番の一言で片づけられるのはなんとも涙ものだ。

ちなみに霧島や鳳翔さんが来たら一発で止められるので早めに終わらせたいのが事実。

 

「嫌だ……メルセデス……! 」

「ご、ごめんね……私……もうダメみたい……(提督の裏声)」

 

「逝くなぁぁぁぁぁぁぁ!!! メルセデスぅぅぅぅぅぅぅ!!! 」

「ご臨終です……じゃ、私はこれで」

 

無慈悲にも明石君はその場を立ち去り、この場に嫌気がさしていたみんなもそそくさと駐車場を立ち去る。

そもそも駐車場でこんなクソ茶番繰り広げんなよハゲという正論はなしだ。

私は爆発四散したメルセデスの破片とダルマを抱え、立ち上がる。

上手くやり切ったドヤ顔を一人でする私を直後に襲ったのは殺気だ。

 

「て・い・と・く? 私、見てましたよ? 」

「ほ、ほほほほ鳳翔さん……? まだついてなかったんじゃ……」

「今着きました。それで、なぜスーパーカブで高速を走るという暴挙を? 」

 

無言で彼女の前に正座をする私。

鳳翔さんと一緒にリムジンに乗っていた霧島も彼女の隣に立ち、ただならぬ殺気を纏っている。

直後駐車場に突風が吹きすさび、鳳翔さんのスカートが捲れた。

 

「鳳翔さん」

「はい」

「普段はそう言う色、穿くんですね」

 

わたしは めのまえが まっくらになった !





お久しぶりです。
悲鳴と阿鼻叫喚ですいた。

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