テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

お待たせしました。炎龍討伐編です(え


『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』

 

 

 

 

「よくもまぁやってくれたよなぁ、おい」

 

 赤い龍を前に、俺は怒気を露わにして立ちふさがる。

 普段の俺ならビビッて何もできなかっただろう。

 だが、そこらに充満する焦げたタンパク質や血の臭い、そして幾人かの死体。それらを目にして怒り狂わずにいられようか。

 ふと目をやれば手や足が獣のそれになりかけている。垂れる髪も黒く染まっていく。

 でもそれじゃあいけない。

 無理矢理意志をねじ伏せるように、黒くなっていく部分を落ち着かせる。

 獣化はともかく、狂化は完全に暴走状態だから意志も無くここら一帯を更地にしてしまう。俺が皆を殺すわけにはいかない。

 だから、我慢だ。

 この気持ちの全ては、目の前の龍にぶつければいい。

 御誂え向きに向こうさんもやる気のようだ。

 

「GYUOAAAAAAAAAA――!!」

 

 ぐちゃぐちゃに潰れた片翼を引きづりながらもこちらへと殺意を向けてくるドラゴン。

 そのドラゴンを見ながら、俺は右手に持つ物を引っ張る。

 ギャリリと金属音を鳴らしながら、たった今ドラゴンの翼を破壊したものを回収する。

 

「どたまカチ割りトゲボール……だと……」

 

 少し離れた場所で先輩がそう言ったのを俺の耳が拾う。

 でもこれ、一応“鞭”なんだ。

 

「どんだけお前の鱗が固いかわからんけど、諸共ぶっ潰しゃ問題ないよなぁ」

 

 光波鞭(ウィップ)系Sランク武器『ギガススピナー』。

 見た目は先輩が言った様に鞭には見えず、いわゆるモーニングスターのように鎖の先に棘付の鉄球が繋がっているというもの。若干違うのが、光波鞭の名残か鎖が(フォトン)で出来ている所か。

 そんなこいつだが、実はゲーム内で言えば特出した攻撃力がある訳でも特殊効果がある訳でも無かった。

 だが、この場においてはとても効果的なテキストを持っている。

 それは、“鉄球の一撃はどのような装甲も一振りで叩き潰す”というもの。

 

「っるぁぁぁ!!!!」

 

 俺は再びギガススピナーを振るった。

 ギャリギャリと擦れた鎖が甲高い音を立てながら棘付の鉄球を運んでいく。

 それを見てドラゴンはその巨体に見合わない素早さで地を蹴り、身体をずらすことで鉄球を避けた。

 構わず俺は伸び切った鎖を引っ張る。

 

「GURUAAA!?」

 

 避けたと思ったんだろうがウィップ系の武器ってのは中距離圏内の制圧に向いた武器だ。一撃目を避けた所でその刃の全てに注意を向けなければ意味が無い。先が飛んで行っても引っぱりゃ戻ってくるのは当然だ。

 俺が引くことで戻って来た鉄球は潰れていた翼の付け根に当たり、元々ボロボロではあった翼が根元から引きちぎれた。

 悲鳴を上げるドラゴン。

 だが、月並みな表現で言えばマグマの様に燃え滾っている怒りは罪悪感も何も生まれない。

 

「部位破壊は基本だよなぁ!!」

 

 もう一度振う。今度は対側の翼だ。

 当然ドラゴンは避けようとする。

 しかしそうは問屋が卸さない。

 

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――!!!?」

 

「これで逃げられないぜ!!」

 

 両側の翼が根元から無くなり、体積が半分ほどに減ったように見えるドラゴン。

 それでも龍は、俺の方をその隻眼で睨みつけたまま闘う意思を萎えさせないでいた。

 グルルと唸りながらこちらの様子を窺うドラゴン。

 両の翼が無くなり血も流しているというのに、俺の隙をいつでも突けるように四足を以て地を掴んでいる。

 俺は戻ってきた鉄球をいつでも振れるように構える。

 睨みあい。当たりは先程までが嘘のように静寂に包まれる。

 誰もが動かない。動けないでいる。

 しかしいつまでも待ってられるほど俺は落ち着きがある精神をしていない!

 

「悪いがそろそろ終いだ!!」

 

 逆袈裟に右腕を振るう。それに合わせて飛んでいく鉄球。狙いはドラゴンの頭部。

 

「GURUAAAA――!!」

 

「なっ!?」

 

 だがドラゴンはそれを首を捻ることで避け、更には体を捻り尾をギガススピナーの鎖部分に当てることで鉄球部分を地に落とした。

 何故ばれた!?

 確かにギガススピナーの効果は鉄球部分にしかない。たまたま? いや、その割には動きに迷いが無かった気がする。

 本来であれば武器の種類的に鎖部分にも斬撃の効果が乗っているはずだがドラゴンの鱗がその程度の効果はものともしない様子。

 そして俺が驚いて反応が遅れた間に、鎖部分が引っ張られた俺は宙を浮く。

 まずい!

 そう思い、虚空瞬動擬きをしようと魔力(フォトン)を足元に固めようとするがそれよりも早くドラゴンの咢がこちらへ戻ってくるのが早かった。

 

「GAAAAAA――!!」

 

「ん、ぐぅっ!!!?」

 

 俺を喰らおうと閉じられるその咢。ギリギリ避けるも、右腕の先を持っていかれる。ついでに言えばギガススピナーの持ち手部分も持っていかれてしまった。

 未だ空中に浮かぶ俺の身体。無理に体を捻った所為で体勢が崩れている。

 そんな俺に、ドラゴンは追撃を駆けようと再びその咢を開く。

 もう一回食おうってか!? そう何度も食われて堪るか!!

 残った左腕、そちらにルゥカを取り出す。

 食われそうになった瞬間に口の中からズタズタにしてやろうと、構える。

 

「おいおいマジかよ」

 

 しかしそんな俺を知ってか知らずか、俺の目の前で開かれたドラゴンの大口、その中に見える俺の右腕とは別に、チロチロと赤いものが見えだす。

 炎のブレス。

 そう認識した次の瞬間には少し見えていただけの火の粉はすぐさま膨れ上がり、そして俺へと迫った。

 熱い、そう感じる暇も無く、俺の意識は炎の中に飲み込まれ、途絶えた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「あ……」

 

 間抜けな声が俺の口から出たのが分かった。

 巻き込まれないように離れさせたHMV、その中からドラゴンと後輩の戦いを見ていた。

 そのド派手な戦い、遠目で見るからこそ何とか見える程度の速度で繰り広げられる攻防。

 だがそれも終わった。

 右手の先を食われた後輩はそのままドラゴンのブレスの餌食となり、真っ黒なナニかになってしまった。

 

「え、あれ、やられちゃいましたよあの子!?」

 

 隣で同じように見ていた倉田が叫ぶ。

 ああ、そうだな。やられたな。やられてしまった。

 そう頭は認識する。だが、その現実を受け入れられずに、頭の中では言葉をなぞるだけで何も生み出さない。

 ぶっ倒すと言ったじゃないか。いつも言ったことはやってきたじゃないか。なのに、何故……。

 

「伊丹二尉! どうしますか!?」

 

 おやっさんが俺に問うてくる。

 意味は分かる。何をしなければならないかも頭の中に出来上がる。だが、動けない。

 数秒か、数分か、そのまま動けずにいるとすぐ隣から予想外の声が響いた。

 

「ふぅ~ん、あれでも生きてるのねぇ……。やっぱりあの子もそう(・・)なのかしらぁ?」

 

「生きてる…?」

 

「……あなたは知ってるんじゃないのぉ?」

 

 生きてる、そう言ったのは黒ゴス少女だ。

 言葉が通じていることにも疑問を抱く余裕すらなく、ただ“生きてる”という単語に反応してしまう。

 あの状態で? 生きてる? でも炭のようになってしまったじゃないか。見間違え? そもそもどうしてこの子は生きてると言った?

 先程までとは違い頭の中で疑問がぐるぐると生まれては消えていく。

 続けて問うてきたものに返す言葉も出さず、ただ考える。

 何か確認する方法は……。 

 そこでふと思い出す。

 あの後輩はサーヴァントで、そして俺はマスター。

 そこまで考えて俺は慌てて手に付けていたグローブを外す。

 そこには未だ血の様に紅い色で刻まれている3本の爪痕。令呪。

 

「全員待機! まだ大丈夫のようだ!!」

 

『隊長!? ドラゴンがこっち見てますよ!? うお、こっち見んなトカゲ野郎!!』

 

 令呪を意識した途端に、そこからあいつの鼓動が伝わってくる気がした。

 それだけで不思議と心が凪いだ。

 それによって言い忘れていた指示を思い出し慌てて言うが、無線越しの声もまた慌てた物だった。

 

「けどこっちに来てますよあのドラゴン!!」

 

 運転席の倉田が指示通りに待機したまま、いつでもアクセル全開に出来るようにしながら問うてくる。

 そして倉田の言うドラゴンを見れば、確かにこちらへと向かってくる。

 それなりに距離があるし、後輩が翼を落としたからか四足を使ってそれほどの速度ではないが確かにこちらへと迫ってきている。

 その瞳に在るのは怒り。

 両翼も無く片目も潰れたドラゴンは、生物にあるまじき、怒りで以て逃げるという行為をせずにこちらへと向かってきていた。

 

「レウスがティガになってる!? しかも激昂してるじゃないっすか!!?」

 

 実は余裕あるだろお前。

 叫ぶように言う倉田の方を見ながらそう言いそうになる。

 だがそんな倉田を見て、一段と落ち着いた。

 パニック状態の時に慌てている他人を見ると不思議と落ち着くと言うのは本当だったのだろう。

 そして落ち着くと今度はちょっとムカッとしてきた。

 どういう原理かは知らないが後輩はあんな状態になりながらも生きているらしい。もしくはFateに出てきた第五次バーサーカーの様に命のストックが出来るのだろうか。しかしどちらにしろ高い生存能力があの後輩にはあるらしい。

 なら先に言っておけ、と。絶対他にも隠してるだろ、と。

 よくよく考えればサーヴァントとマスターという関係になったというのに原作通りに聖杯戦争がある訳でも無いからあまり深く聞いていなかったが、あいつには隠し事が多すぎる。

 確かに言えないこともあるのだろうし全てが全てを聞いていい訳でも無いだろう。

 だがそれでも、この現状を生み出してる力に着いて位は先に言っておいてほしかった。

 変な心配かけさせるんじゃねぇよバカ後輩!!!

 

 だから―――、

 

 

 

「だから、さっさとぶっ倒せバカ後輩!!!!!!!!!!」

 

 

 

 そう俺が叫んだと同時、ドラゴンの後方で黒く炭化していた何かが光に包まれるのが見えた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 今先輩何か言った?

 いやぁ、びっくらこいたよホント。あのタイミングでブレスが来るとはねぇ……。

 しかもブレスが中途半端に俺の耐性でレジストされたからか死に切るまでにちょっと時間が掛かってしまった。

 おかげで復活するまでが痛いのなんのって、頭がおかしくなりそうだったよ。ならなかったのは死ぬのが初めてじゃなかったからかな。いやこの考え方はどこかおかしいな。

 まぁでも一回死んでちょっと冷静になった。

 怒り心頭の状態で狂化しないように変に理性を働かせていたからか、あまりに俺らしくない動きをしてしまった。戦闘中に自分らしくない動きをしてしかもやられたなんて佐々木のアサシン師匠に怒られてしまう所だ。

 俺の持ち味はスピードとパワー。

 なのにウィップ系の武器は変に中距離武器で、しかも振るった軌道を気にしないといけないからそれほど自分が動けないのを忘れていた。

 だけどついつい固い鱗の上から叩き潰すという思考で頭がいっぱいになってしまいギガススピナーなんてものを出してしまった。

 だがギガスの装甲破壊の効果は鉄球部分にしかない。当たればでかいが、当たらなければそれほどの脅威ではなくなる武器だ。

 確かにギガス自体は悪くはないが、状況に合ってない舐めプになってしまっていた。

 まったく、痛い勉強代になってしまったぜぃ。

 けどまぁここからは油断せずに行こう。むしろさっさと終わらそう。

 人型でなく遠慮する必要が無いと言うのなら、ただぶっぱすればいいだけじゃないか。

 

「まぁそんなわけで、今度こそ終いにしようか」

 

 決意を込めてそう口にする。

 それが聞こえたのだろう。進んでいた足を止めこちらを振り向くドラゴン。

 その瞳には驚愕、益々激しさを増す怒り、そして……怯え。

 まあ何とか殺したはずの奴がすぐに生き返ればそうなるわな。

 でもごめん。

 お前が皆を喰おうとするなら、躊躇っていられないんさ。

 

「来い、エリュシオーヌ……」

 

 右手にずしりとした重みが生まれる。

 呼び出したのは、長剣(ソード)系Sランク武器、☆15の究極を冠する剣。

 紫紺の柄に黄金の峰、そこから淡く光るフォトンが刃を構成している。

 PSPo2i中の武器の中でもかなり高位に当たる武器だ。

 それを、俺はただ上段に構えた。

 

「悪いけど、さよならだ」

 

 もう一度、俺を殺そうと迫るドラゴン。

 片目は潰れており、両翼は引きちぎられ、その紅い体は血でさらに染まり見ていて痛々しいほどだ。これじゃあどちらが悪者かわからない。

 けど、前の世界でも決めたことだ。

 やる時はやらなければならないと。さもなければ失うのだと。

 だから―――、

 

「消し飛べえええええええええっ!!!!」

 

 ドラゴンの牙が俺を噛み砕こうとする瞬間、軽く、振り下ろす。

 それだけでこいつが持つ概念はどれだけ固い鱗だろうと容易く切り裂く。

 何故なら、この剣は惑星を切り裂くとされるから。

 だから、擬音語にすればコツンと言ったところだろうか、その程度の接触。しかしその接触が、ドラゴンを死へと追いやる。

 当たった瞬間に辺りへと吹き荒ぶ風。それはその一撃の余波でしかない。

 その風によって周囲の大地は巻き上げられ、視界を遮る。 

 同時に鳴った轟音はあまりの大きさに耳が痛くなるほどだ。

 

 そして暫くして、土煙が晴れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべぇこのスプラッタどうしよう……」

 

 先程までの昂ぶりなぞ吹き飛び、思わずそう零してしまう。

 前を見れば辺りの大地は巻き上げられてるわ、血みどろなうえ肉片が散らばってるわ、視界の限界のそのまた向こうまで大地が切り裂かれてるわ、ちょんって当てただけなのにやばい概念を持つ武器の中でも特にやばいシリーズってこんなにやばいのか。ってやばいを言い過ぎてゲシュタルト崩壊してきた……。

 

「コウジュ!!」

 

 目の前の真っ赤な大地をどうするか考えていると、大急ぎで来たのであろうHMVから転げ出るように走ってきた先輩が声を掛けてくる。

 その姿を見て、思わずホッとする。良く分からない安心感だが、先輩ってそんな雰囲気出してるんだよ。

 そんな先輩にビッと親指を立てる。

 なにせ今回結構頑張った。

 例え最初は衝動的に飛び出したのだとしても、やはり村人達がやられるのを見てられなかった。

 確かに救えなかった命もあるけど、それでも救えた人達を誇りにしたい。そう思う。

 そうしなければ前の世界で“正義の味方”と共に学んだことが嘘になってしまうから。

 

「このバカ後輩!」

 

「にゃ、にゃにすしゅりゅんしゅか!!?」

 

 しかし先輩は走り寄るなり俺のほっぺたを抓り引き延ばす。

 自動防御(レジスト)さんはどこ行った!? 地味に痛いから止めて!?

 

「お前なぁ! 無駄に心配かけさせるんじゃないっていつも言ってるだろうが!」

 

 抓りながら俺の顔を真正面から見て言う先輩。

 その表情から、本気で心配してくれていたのだと分かってしまう。

 

「しゅんましぇんっしゅ」

 

 だから、こちらも本気で謝る。

 抓られている状態だと日本語にすらなっていないが、そう言った俺を見た先輩は溜息を一つした後、抓っていた指を話してポスンといつものように帽子越しに俺の頭に手を置いた。

 

「まぁ分かればいいよ。ほんと生きててくれてよかった」

 

 優しい笑みを浮かべながらそう言う先輩に、俺は少し胸が痛くなる。

 他愛のない日常を享受し、いざ戦いの中に戻っても適当にやっていた結果がこれか。

 銀座で無双出来ていたからとどこか調子になっていたのだろう。だからドラゴンに一度殺されてしまった。そして先輩に心配を掛けた。

 これじゃぁ駄目だ。

 前世界の様に事前情報がある訳ではないこの世界でこの調子では、先輩を無事に日本へ返すという目標も達成できないかもしれない。

 まずは、そう、やはり先輩に俺というものが何なのか言ってしまおう。

 ファンタジーな世界があったんだから、今更俺という存在を隠す必要もないだろう。

 ここまで見られたんだ。もう後は行動するだけだ。

 

 しかし、だ。申し訳ない気持ちと共に、本気で心配してくれるということにどうも照れてしまう。

 イリヤの時もそうだったが、そう思ってくれる人が居るというのがこの上ない程に嬉しい。 前回も今回も、俺は本当にマスターに恵まれているよ。

 思わず笑みを浮かべてしまう。

 それを見て、俺の頭に手を乗せたままだった先輩はそのままそっぽを向いた。

 あ、照れてる。

 

「あの、隊長? そろそろその子に関して教えて欲しいのですが……」

 

 俺と先輩の方へと恐る恐る声を掛けてきたのは、先輩が栗林と呼んでいた女性だ。

 女性と言っても背が俺と20cm位しか違わないので綺麗系というより可愛い系なのだが、自衛隊として派遣されてるわけだし女性で良いだろう。

 その栗林さんがチラチラと俺の方を見ながら先輩へと問う。

 

「あー、こいつはだな。なんて言えばいいんだろう……」

 

「おいこら」

 

 先輩だけど思わずそう口にしてしまった。

 

「じゃあ逆に聞くけどお前どう自己紹介するよ」

 

「うぐ……」

 

 そう言われてしまうと弱い。

 言わなければならないことが多すぎて何から言えばいいのか確かに迷う。

 卒業した大学が一緒で、俺は後輩で、サーヴァントで、先輩と契約しちゃって、姿を隠すために狐に化けてて……と、先輩が知る内容だけでも訳の分からない情報ばかりだ。

 そこに別世界から来たことや実はもう40歳越えてること、チート性能なこと等々、まだまだ俺についての情報はたくさんある。

 いやま全部が全部いう訳じゃないけど、先輩と契約してることとかは他の人にも言っておいた方が良い気がするのだ。

 それに先ほどあとは行動するだけと決めた所だ。ここでまごついていても前へは進まないだろう。

 

 気づけば俺の周りには第三偵察隊の面々が揃っている。

 全員、先輩が近くに居るからか銃口は下げているが手に持ったままこちらを見ている。

 幸いにも敵意は無いようだ。かと言って友好的なものでもない。

 うん、怪しいですもんね俺って。しかもチートスペック晒しちゃったし。

 機関銃?的な物すら効かないドラゴンを一回やられたとはいえ一太刀でぶった切ってそのうえで大地を悲惨なことにしてしまったのだからまったく無警戒とはいかないでしょう。

 しかしこの雰囲気の中で自己紹介するのやだなぁ……。

 狐の時は和やかな目で見てくれていた分なんだか視線が痛い。

 ふむ、ここはひとつ場を和ませようか。

 

「俺の名前はコウジュ。通りすがりのサーヴァントさ!」

 

 先輩にはたかれた。

 でも運転手の人は笑ってくれてるじゃないか!!

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 最初は夢だと思った。思ってた。

 

 いつもの日常の後、いつものように就寝。明日もいつもの日常が来るのだろうと何気なく信じていた。

 明日は何をしようかな。またユノと川へ行こうかな。そんな他愛も無いことを考えながらいつの間にか夢の中へと旅立っていた。

 しかしそれもすぐに終わる。

 覚醒仕立ての頭は現状理解が遅れるが、目覚めた目の前には難しい顔をした父が居た。

 その父は、何故か闘う為の装備全てを持った状態で静かに私に告げる。炎龍が来たと。

 炎龍という言葉に寝ぼけていた頭が一気に覚める。

 慌てて自らも弓を取るが、父は早く逃げるよと私の手を取った。

 扉を出てすぐに身を襲うのは身を焦がすほどの熱気。

 辺りを見渡さなくとも夜の闇を消し去るほどに住み慣れた森は燃えていた。そして空を舞う龍が皆を襲っている。

 中には闘う者も居るが鎧袖一触、炎龍は何事も無いように容易く命を駆り取ってしまう。

 父の手に引かれながら走っていると、私を呼ぶ声がした。

 すぐさま振り向けば一番年が近いこともあってよく遊ぶユノがそこに居た。

 だがそのすぐ後ろには炎龍。

 私は持っていた弓を構えるも、それよりも早く、ユノは私の目の前で炎龍に噛み砕かれてしまった。

 そこで私の何かが折れた。

 弓を引く手から力は抜け、近づく炎龍を見上げながら震えることしかできなかった。

 ああ、ここで終わるんだ。そう思った。

 しかしそうはならなかった。

 父が放った矢、それが炎龍の片目を貫いたのだ。

 すかさず炎龍の口内をミスリルの剣で貫く父。

 炎龍はよほど痛かったのか苦しみ悶え、その場で暴れ出した。

 その隙に私は父に手を引かれ逃がされる。

 そして私は、生きろと言う言葉と共に井戸へと落とされた。

 落ちながら見えたのは笑顔の父。その後ろには炎龍が迫っているのが見えた。

 お父さん! そう叫ぼうとするも、水面にぶつかりそのまま沈んだ私にはそれは出来なかった。

 

 井戸の底には当然水がある。

 湧き水だからかそれなりに冷たい水は私の身体を冷やしていく。

 上を見上げる。

 それなりに高い場所に在る井戸の口。離れているからか、小さなものだ。

 そこから見上げれば時折見える飛ぶ炎龍や舞う炎、そして聞こえてくるのは炎龍の咆哮、それから聞き覚えのある者の悲鳴。

 それも段々と減っていく。

 私はそれを聞くしかない。

 そしてまた減っていく。

 気づけば、雨が降っていた。声はもう聞こえなくなっていた

 ああ、そう言えば山火事の後は雨が降ると父が言っていたな。

 麻痺した思考が唐突にそんなことを思い出す。

 そうだ。父だ。はやくここから出してくれないと風邪をひいてしまう。

 “無事だったかい?”そう笑顔をで声を掛けてくる父を幻視する。

 しかしその時はいつまで経っても来ない。

 降ってくる雨の所為で身体が冷えに冷えてしまい、頭がぼおっとし始めた。

 その時だ。あの子が降ってきたのは。

 自らの身体を抱えながら、少しでも熱を逃がさないようにしているとすぐ近くにボチャンと音を立てて何かが落ちてきた。

 それは何かの動物だったようで、わたわたと水面を泳いでいたので慌てて拾い上げた。

 目が合う。

 見たことの無い種だ。しかし愛玩動物の様に可愛らしい。それに暖かい。

 気づけば私はその子を抱きしめていた。

 

 暫くして私たちは救出される。私と、降ってきたこの子と。

 井戸から出されてすぐに私はその惨状を見て走り出してしまった。

 見知った人の家も、よく遊んだ場所も、皆が集まるための集会所も、全てが燃え、崩れ、灰となってしまっていた。

 頭がどうにかなりそうだった。心は悲鳴を上げていた。

 だから、ただ闇雲に走った。

 言っても小さな村だ。それもすぐに終わる。

 村の中を走りながらみんなの名前を叫んだ。でも返ってきた返事は一つとしてない。

 村の所々にあった黒いナニかの正体なぞ考えたくもない。

 暫くして私は再び井戸の前に居た。

 何をすればいいのか、何故私は生きているのか、もう何もかもが分からなかった。

 敬愛する父が死んだのだ。そればかりか友人も、皆も、村も、悉くが炎龍にやられてしまった。全てを失った。

 何も考えたくない。もうどうなっても良い。そんな事ばかりが頭の中に浮かぶ。

 でもそんな私をあの子は元気づけようとしてくれた。

 最初は何をしているのかは分からなかった。

 けどその小動物らしくない知性の宿った瞳で必死に何かをしてくれようとしている姿に、次第に意識はあの子へと向かっていく。

 終いには良く分からないダンスの様な物を始めた。何も考えたくなかったが、その姿に思わず頬が緩んだ。

 

 それから私たちは緑色の服を着た人達と共に避難することになった。

 炎龍からの被害を避けるため、コダ村の人達も一緒だ。

 しかしその道中、また奴は来た。炎龍だ。

 その姿を見て、私は全身の力が抜けた。あの村の惨状がフラッシュバックしてしまった。

 ふと見れば腕の中に居たあの子も居ない。

 また居なくなった。また失うんだ。

 思わず悲鳴を上げそうになる。

 しかし、暫く経っても一向に炎龍の攻撃は来ない。何故?

 気になった私は、驚くほどに透き通ったガラス(ラァスィ)窓から炎龍の方を見た。するとあの子が闘っていた。

 あの子は周囲から黒い泥の様でもあり影の様でもある物を生み出し、それを形を変えたりしながら炎龍と戦っていた。

 目が離せなかった。

 あの炎龍を、友達や皆を蹂躙し噛み砕いた憎き牙も爪も、うまく往なしながら果敢に闘っていた。

 その姿を見て、心に灯がともった気がした。

 

 暫くあの子は戦っていた。それを私はずっと見ていた。

 弓を扱う私は比較的遠くの標的を見ることに慣れている。それでも時折その姿を失ってしまうが必死に闘ってくれているのが分かった。

 産みだされる武器は炎龍に傷一つ付けてはいない。それでも炎龍を翻弄しながら注意を引き続けてくれている。

 その小さな体には過ぎた重荷だろう。でもあの子は全然諦める様子も見せず頑張ってくれている。

 しかし状況が変わったのか、私が乗っている馬も無く走る馬車とでもいうのか、乗り物が動き出す。

 馬ほどの速度を出しながらも素早い小回りをするこれに、周りのものにしがみ付くことで何とか耐えるがそれで精一杯。周囲を見る余裕は無くなる。

 だから私は聞くことで何とか状況を確認しようとする。

 聞こえてくるのは轟音。それも一つや二つではない。

 パパパと破裂するような音がこの乗り物からも外からも、それより大きな連続する破裂音の様な物も聞こえてくる。

 急な動きにも慣れてきたため、周りのものを掴みながらなんとか確認すれば緑色の服の人達が今度は戦っているようだった。

 彼らが持つ長いものから先ほどの轟音は生まれているようで、その先端から何かが飛び出すと同時に音は鳴っている。

 耳が痛いほどの音。

 それが続いたと思えば、最後には今までのものが可愛らしく思えるほどの爆音。そして炎龍の居た場所が吹き飛んだ。

 やったの?

 そう思ったが中からのそりと炎龍が出てくる。

 どうやら先程のものは地面に当たってしまったようで、炎龍の足元が大きく抉れている。

 あれが当たっていればひょっとして……、しかしそんなifを考えている場合では無い。炎龍は今までよりも怒りを露わにした状態でこちらを見ていた。

 しかしそれもすぐ終わる。

 先程とは違う、地を揺らすほどの爆音と共に炎龍が悲鳴のような咆哮を上げた。

 見れば炎龍の近くに棘付の鉄球が落ちていた。丁度その上にある炎龍の翼が血を流し抉れている。

 私は目を疑った。あの炎龍がその体から血を流しているのだ。

 龍種の中でも古龍は天災のレベルでどうしようもない存在だ。その炎龍が血を流し、その強固な筈の身体が抉れている。

 一体どうして……。そう思い、それを成した鉄球の先を辿れば幼い少女が居た。可愛らしい、まだまだ親元で蝶よ花よと育てられても良い年ごろに見える。

 しかしその表情には憤怒が見て取れた。肉食獣を思わせる、獰猛な表情。

 見た目と年齢の違いで言えば、エムロイの神官様も似たようなものだし私もエルフだから見た目と年齢の違いはある。あの子もその類いなのであろうか。

 そこでふと気づく。その幼い少女の髪色に何故か見覚えがあるのだ。

 ふと頭をよぎった想像を即座にかき消す。

 確かに先程まであの場所にあの子は居た。でもあの少女がそうなわけがない。

 しかしよく見れば、少女の耳元にはあの子を思わせる獣の様な耳がある。

 いやまさか。そう思っている間にも少女は鉄球を巧みに使い炎龍と戦い始めた。そして片翼を落とし、少ししてもう片方の翼も抉り落とす。

 私は奇跡の瞬間を目の当たりにしているのかもしれないと思った。

 だが、次の瞬間にはその少女も炎龍の餌食となってしまう。

 そして今度こそ、炎龍は私たちに向かってきた。

 父が貫いた片目は無い、両翼も無くしている。でも、それでも私たちにあれが倒せるとは思えなかった。

 やはり人類は炎龍にはかなわないのか、そう諦めた時、前に座っていた男の人が何かを叫ぶ。

 すると炎龍の後ろ、少女が燃えたあたりでまばゆい光が産まれる。

 すぐに光は溶けるように消えた。そしてその中からは先程の少女が出てきた。

 死んではなかった?

 そうホッとするのも束の間、少女は神々しい剣を虚空から産みだした。そしてそれを頭上に構える。

 それを見ていた炎龍が再び少女を喰らおうと迫る。

 しかしそれよりも一足早く振り下ろされる剣。そして何度目かになる爆音。辺りは土煙に包まれる。

 そして土煙は晴れ、辺りが見渡せるようになった。 

 見れば少女の正面一帯は真っ赤に染まり、地面には巨大な亀裂、炎龍は木端微塵になっていた。

 

 

 

 

 

「ふえ……?」

 

 変な声が出た。




いかがだったでしょうか?

炎龍はしめやかに爆発四散。気づけば大地を濡らす悲しい存在に。
さよならを言ったかは分かりませんが、こうなってしまいました。
哀れ炎龍、来る場所が悪かった。

さておき、テュカも原作とは違い色々見ていることでトラウマとかいろんなものが吹っ飛んでしまった様子。
鬱展開はやはり嫌ですしね!



それでは皆様、次回は市街地戦の予定ですのでどうぞよろしくお願いします。
少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
ではまたお会いしましょう!

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