テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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あけましておめでとうございます!
onekouでございます。
これが投稿されている頃、私はきっとお寺さんでおしるこを配っている事と思います。
あったかくて甘ーいおしるこは、寒い夜には最高ですよ!


さておき、大変遅れて申し訳ありません、いや毎回言っている気もしますが、諸事情ありまして暫く更新できておりませんでした。
まあ理由(愚痴)はまた後書きにて・・・。

ではどうぞ。


『stage11:この一休みにも祝福を!』

 

 

 

「あっははははは!!! ぱ、パンツ何で! スティールでっ!! パンツ!!! あ、あかんて、腹がよじれ、ぶくふふふっ」

 

「アタシそれどころじゃないんですけどぉ!! ってだからパンツ返してよぉ!!!」

 

「どうやらカズマは冒険者からいつの間にか変態にジョブチェンジしていたようですね」

 

「流石私が見込んだだけのことはあるな」

 

 何だこのカオスは・・・・・・。

 とりあえずそこの変態騎士は黙ってろ。

 そうだそれで良い。顔を赤らめて興奮させてしまったが余計なことを口に出していないだけましだ。

 兎も角、そう、どうしてこうなったかだ。

 いや、原因は明白だな。

 俺の手の中に在る、薄らと温かい白い布きれがそれを教えてくれている。

 

 ・・・・・・PANTSUだ。

 

 Pantsではない。PANTSUなのだ。

 

 布きれ一枚で男心を此処まで苛む物が他に在ろうか、いやない。

 それが今まさに俺の手の中に在る。

 スティールを使っただけなのに、何故かここにある。

 

「ふ、ふひ、くふっ、ほんとカズマは飽きないなぁ。何でそんな物を盗っちゃうんだか。流石だ」

 

「俺が知りたいよ」

 

 というか何が流石なのか小一時間問い詰めたいが、それをすると藪蛇になりそうなのでそれはさておき、だ。

 改めて冷静に考えると、俺はただクリスの挑発に乗り財布か短剣辺りが欲しくて『スティール』を使ったというのに、何がどうなったら金目の物がパンツになるんだよ。

 確かに財布や短剣に比べたらパンツの方が欲しいよ?

 だけど今はその時じゃないだろう。

 この場において必要だったのはクリスの所持品の中で俺の財布より貴重であり、尚且つクリスへとそれなりに仕返しできるものだ。

 やられたらやり返す、更に言えば男女平等主義な俺は結果が大事であり過程はそれほど気にしない。

 そんな中でクリスへと最上の一撃を与えるためには―――、

 

 

 ―――いややっぱパンツか。

 

 

 よく考えてみれば考えうる中でも一番の一撃を与えることが出来たのではないか?

 実際に、いま目の前でズボンを押さえながら涙目でこちらを睨み付けるクリスを見れば、俺と彼女とでどちらが勝者なのかはっきりとわかるというもの。

 そう思うと途端に高揚感に包まれる。

 これが勝利の美酒(パンツ)か・・・・・・。

 

「ちょ、ちょっとアタシのパンツをどうする気なの!?」

 

「え?」

 

 驚愕に声を荒げるクリス。

 俺は一瞬なんの事だか分からず間の抜けた声を出してしまうが、クリスの視線は俺の手の中にあるパンツへと向けられているのがわかった。

 そこで自身が無意識にポケットの中へと仕舞いこもうとしていることに気づいた。

 いや違うんだ、ただ神棚に飾ろうとしただけなんだ。

 しかし意志に反して俺の手はポケットの中でその柔らかな布地を手放し、そのまま出てきてしまった。

 

「あれ?」

 

「あれじゃないよ!! アタシのパンツ返してよ!!! ほら財布返すから!!!」

 

 クリスが涙ながらにそう言うが、不思議と心は動かない。

 当然だろう。

 小遣い程度しかお金が入っていない財布と、脱ぎたてパンツ。そのどちらを選ぶかと言われたら後者しか在り得ない。

 故に俺はついつい、クリスが必死に返そうとする財布を見て大きく溜息を吐いた

 

「な、なんで!? 君の財布だよ!? ほ、ほーら大事な財布だよー今ならちょっとくらい中身を足しちゃっても良いよー」

 

「・・・・・・ハァ」

 

「なんでなのー!?」

 

 思ったように事が運ばず叫ぶクリス。

 まるで駄々っ子のようだ。

 それにこれではまるで俺が悪者みたいではないか。

 そもそもの話、これは向こうから吹っかけて来た勝負であるし、その結果得た正当な報酬である。

 つまり俺は悪くない。

 ここに理論武装は完了した。

 

 ということで、家に持って帰って大事にしまっちゃおうねぇ。

 俺は踵を返し、足を家(コウジュが借りてくれている部屋)へと向けた。

 

「待ってよ何で帰ろうとしてるのかな!? だから私のパンツ!!」

 

 やれやれだぜ・・・・・・。

 様々な作品の主人公がそう呟きたくなるのがよく分かる。

 そう思いながらもどうやらこのままでは埒が明かないので、ダッシュでもしようと思ってたところ声が掛かった。

 

「まあまあカズマ、ここらで許してあげようよ」

 

「コウジュさ・・・・・・ん! 助けてくれるの!?」

 

 振り向くと、救いの女神でも見るようにクリスが声の主であるコウジュへと目を向けていた。

 勢い余ってコウジュ様とでも言いそうになったのか、途中で言い直しはしたがそれほど今の状況では有りがたいということなのだろう。

 そんなコウジュは何とも言えぬ微妙な表情でこちらを見ている。

 

「あー、気持ちはわかるけど、そろそろクリスが可愛そうなんだよねぇ」

 

「む・・・・・・」

 

 子供を諭すように言葉を選びながらいうコウジュ。

 さすがの俺もばつが悪い。 

 ただ、だからと言ってそう易々とこの戦利品を返せるかと言ったら否だ。

 この、そこはかとなく神聖さすら感じる純白のパンツは、俺にとって初のパンツだ。

 勿論俺がパンツに触れるのが初と言うわけでも履かない主義と言うわけでもなく、異性のパンツに触れるのが初ということだ。

 ただでさえ引きこもっていた加減で、というかその前からも女子との録な交流すらなかった俺にそんなものあるわけがない。

 それにコウジュはどう見たって女の子だ。

 俺のこのリビドーを真に理解できるとは思えない。

 わかってくれとは言わないよ?

 でもさ、この世界にはビキニアーマーな女戦士とか、目の前にも居るけど動きやすさ重視の獣っ娘とかさ、純粋な少年心へのいけない誘惑が多すぎるんだよ。

 

「・・・・・・何のつもりさカズマ」

 

 気づけば俺は手をコウジュへと向けていた。

 

 

 

 

 

「これは俺の戦利品だ。もし奪うって言うなら当然俺は抵抗するぞ。スティールで」

 

 奪って良いのは奪われる覚悟のあるやつだけだ。

 今の状況で引用するには申し訳ない言葉だが、俺にとってはそれぐらい大事なことだ。

 普段の俺ならここまでのことはしないだろう。

 だけどここ最近は・・・・・・オブラートに包んで言う所のガス抜きも出来ていないからリビドーが溜まりに溜まってしまっている。

 いやね、前はちょくちょく隠れてしていたんですよ。

 馬小屋生活の時も仕方なくちょいちょいしていたのが、今ではアクアと同室とはいえベッドは別だしコウジュは自分のマイルームに行くのでベッド上でゴソゴソしても大丈夫になった。

 だけどさ、どうもコウジュにはその、致した次の日の朝とかにさ、気付かれてるっぽいんだよな。

 確証はない。確証はないが、うんうんと一人頷いたり、どこか遠い目をしたり、スンスンと幽かに鼻を鳴らしたりと、そういう行動が何度か見られた。

 それ以来俺はコウジュが気になって事に及ぶことができないでいた。今となっては定期的に部屋を開けるのも違う意味があるんじゃないかと疑ってしまう。

 

 そんな風に、頭は冷静に自己判断を下しているというのに身体はやはりこのまま逃走しようと少しずつ後退りする俺。

 しかしコウジュはその間にも何かを思い付いたようで、不適に笑ったかと思うと今度はこちらへと大きく踏み出した。

 

「そ、それ以上近づくと撃つぞ!」

 

 俺は何を言ってるんだ。これではまるで人質をとった犯人のようではないか。

 まあ実際そうなんだけども。

 

 しかしそんな俺の脅しにも屈せずコウジュはこちらへと歩を進める。

 

「やりたきゃやればいいさ。ただしその時にはやつざk・・・・・・空を舞っているだろうけどな」

 

 ゆっくりと、しかし確実に狭まってくる距離。

 それに比例して俺の体中から汗が溢れるように流れる。

 あのあの、今この子八つ裂きって言いそうになってませんでした?

 確かにコウジュは比較的俺へと理解を示してくれる立ち位置に居てくれている。

 だが同時に、パーティの中では一番怒らせてはいけない存在でもあると思う。

 実際コウジュを怒らせた駄女神が先程打ち上げられたところだ。

 一応今のコウジュは怒っているというわけではなく、しょうがないなぁとでも言わんばかりの表情をしている。

 しかしそんなコウジュもこのまま俺が余計なことをし続けているとどうなるか分からない。

 殴られる? 打ち上げられる? 

 いや、女になればそんな気も無くなるよね的なことを言いながらTS化を迫る可能性もある。

 というかさっきの良いことを思いついたという表情がそれだったのかもしれないとすら思えてきた。

 更に流れ出る汗。

 俺は怖くなり、ついスキルをコウジュへと放ってしまう。

 

 「スティール!!」

 

 現状俺がコウジュに適う術は無い。

 ただ、もしもまたパンツを盗むことが出来れば可能性はある。

 幾ら女神とてパンツが無ければ恥ずかしくて動けないと思うのだ。

 特にコウジュは近接戦闘を主としている。

 少なくとも機動力を削ぐことは出来るはずだ。

 とはいえもし盗れた場合余罪が増えるので後が怖いのは怖い。

 先程とは違って故意にパンツを盗むわけだから罪の重さは倍プッシュどころではないだろう。

 でもとりあえずはほとぼりを冷ますためにも逃走だ!!

 

「っ」

 

「よし! これで動けないだろう!?」

 

 手の中に生まれる新たな布地の感触。

 成功だ。

 握った拳から僅かにはみ出したその黒い布地は、自身が穿くものとは違いとても滑らかな質感をしている。

 勝った、そう確信して俺はコウジュの方を見る。

 

 しかしコウジュは止まってはいなかった。

 想定していなかった事態に俺の思考が一瞬止まる。

 

「さてカズマ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?」

 

 そんな俺を見てコウジュは、むしろ獲物を見つけた肉食獣のごとく犬歯を剥き出しに笑みを浮かべていた。

 

「な、なんで!?」

 

 思わず驚きの声を出す俺に、コウジュは笑みを深める。

 

「カズマが会うことは無いと思うけど、世界にはな、くしゃみした拍子に魔法でパンツを吹き飛ばす輩も居るんだ。だから念の為に、そんな事故に(・・・)遭わないように対策をしていただけさ」

 

 ちょっと意味が分からないです。

 

 いやホント待って。

 俺が言うのも何だけどそんなはた迷惑な存在が居るのか・・・・・・?

 まあ、コウジュの言い方からするとこことはまた別の世界のことなのだろう。

 でもだからって生理現象と同じレベルでパンツを吹き飛ばすとか何て意味の分からない災害だろうか。

 意志を持って剥ぎ取る俺の方が幾分かましだろう(目逸らし)。

 

 ともかく、そいつのせいで俺の目論見は外れてしまった。

 手の中にある布地は微かに温かいのだが、フェイクだったということだろうか

 確かに、俺が後ずさるのにゆっくりと追いすがるコウジュの服の隙間からは未だ下着のような物が見え隠れしていた。

 それはいつもコウジュが着用していたゴムのような物で出来ているインナーで、丈の短いスパッツっぽいやつだ。

 自身の握った拳を軽く緩め、中から滑り出した物を見れば確かにそれは下着だ。

 つまりコウジュにとってはあれが無事なら下着位問題は無いということだろう。

 ・・・・・・ぬかった。

 見た目に反して男勝りな所があるコウジュだが、先程とられたクリスもどちらかというと男勝りな方だからコウジュも止まってくれると思ったのだがそうはいかなかったようだ。

 

 しかしそうなるとここはもう素直に謝るしかないのかもしれない。

 何せ背を向けて本格的に走り出したところで俺ではコウジュに一瞬で追いつかれてしまう。

 それはコウジュも分かっているようで、俺が次に何をするのかと楽しんでいる節すらある。

 

 ぐぬぬ・・・・・・と、にがい表情になっているのを自覚しつつ諦めそうになったところでふと思いつく。

 

「―――あれ待てよ?」

 

「どうしたんカズマ。まだ何かしてくれるのか?」

 

 ニマニマとしながら余裕の表情のコウジュを見ると、今思いついたことはただの間違いな気がしてきた。

 いやまさかそんなわけないよな。うん。

 あのアホ女神じゃないんだから、そのことに思い至らないわけはないって。

 だけど、コウジュが想定しているのはくしゃみみたいな魔法とかいうやつっぽいし、脱がす魔法だというならそもそもアレだけが残る理由が・・・・・・いやでもその場合はアレ自体に何か細工がされていて・・・・・・だけどそうなると効くかどうか・・・・・・でもコウジュは確かに事故対策って言ったよな?

 ええい、ままよ!

 とりあえず、試してみるしかない!!

 

 

 

 

「スティール!」

 

「あ」

 

 

 

 俺の手の中に新たに現れる布地。例のスパッツぽいやつだ。

 それがぶらぶらと、俺の手から溢れた部分が風に煽られ、揺れる。

 

「「・・・・・・」」

 

 俺たちの間に何とも言えぬ空気が流れる。

 

 暫くして、コウジュが何も言葉を発さぬまま足を抱え込むようにして蹲った。

 丁度服の前垂れで足全体を隠すようにしてだ。

 そして涙を目の端に貯めた状態で顔を真っ赤にしながらこちらを睨んだ。

 

 

 

 

「・・・・・・あとでぶん殴る」

 

 

 

 

 うん、コウジュってば色々考えているようでやっぱり脳筋タイプだな。

 事故って言ったからまさかとは思ったけど、2連続の生理現象でパンツが脱げるなんて想定してなかったんだろう。

 とりあえず怖いから逃げよっと。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 カズマが天井の無い場所でコウジュに高い高いされた次の日。

 一行は何事も無かったようにギルドの食事スペースで話をしていた。

 

「碌なクエストが無い?」

 

「そうなんだよ。コウジュ何か知らないか?」

 

「さてなぁ。俺も日課をすました後はそのままこっちに来たから」

 

 カズマ、アクア、めぐみん、ダクネスが座っていた席にコウジュが近づくなり和真からされた質問がそれだった。

 

 当初の予定ではカズマ達が先にギルドへ行きクエストを選んだところへコウジュが合流するという予定であった。

 しかしコウジュが到着すれば、面々は飲み物を片手に重い表情をしていたのだ。

 何かあったのだろうかとコウジュが近づいたのが今のことだ。

 

「この前のキャベツクエストで懐も温まり、その全てを捧げて新調したこの杖の威力を試してやろうと思ったのにこの始末。大量の雑魚モンスターを吹き飛ばしたかったのに・・・・・・。ああ、爆裂・・・・・・」

 

「私も一撃が重く、そして強いモンスターの討伐をしたかったのだが、カズマに止められてしまってな」

 

「私は借金を返して寂しくなった懐を温めて上げるためにもここらで大きく稼ぎたかったのにカズマがダメっていうの」

 

「そんなもん却下に決まってるだろう! リスクが高すぎるわ!! 高難易度クエストばっかりだったんだぞ!?」

 

 めぐみん、ダクネス、カズマが不満を口にするがそれに対して怒るカズマ。

 それは仕方ない、とカズマの言い分にコウジュは苦笑する。

 カズマを除いて全員が高位職業であり当然ながらステータスもそれなりに高い。

 防御という点に関しては魔法職であるめぐみんもそれほど高いわけではないが腐っても高位職。冒険者のカズマに比べれば上だ。

 だというのにその高位職たちの要望にばかり合わせてクエストを受けていれば瞬く間にカズマの命は消し飛んでしまうだろう。

 

 そんな彼らのもとに、受付嬢のルナが申し訳なさそうに近づいていく。

 ルナに気づいた面々は煩くしすぎて注意でもされるのかとばつが悪そうにするが、違った。

 

「大変ご迷惑をお掛けしております。先程皆様のお話が聞こえたものでご説明に参りました」

 

 ルナの言葉にカズマ達は顔を見合わせた。

 誰もが煩くした自覚があったため・・・・・・というかギルドの食事場所では騒ぎが起こる度に注意が入るのはよくあることだからだ。

 勿論その“騒ぎ”にも差はあるため“注意”にも差はあるが・・・・・・。

 兎も角、そうでないのではなんだろうかと面々は改めてルナの方へと顔を向けた。

 

「今現在、比較的低ランク用討伐クエストが皆無なのはこの辺り一帯の対象モンスターが逃げてしまったからなんです」

 

 そう告げるルナだが、イマイチぴんと来ずカズマたちも頭の中にハテナが浮かぶ。

 そもそもそう簡単にモンスターたちが逃げ出す様なことを起こせるのならばこの地域一帯の冒険者家業は上がったりというものだ。

 時々強力なモンスターは出るが、それでもこの町が初級冒険者の町足り得るのは雑魚モンスターが絶えず発生するからだ。

 まあそんなことがもしも可能になっていたならば、もっと早くから噂になっていてもおかしくはないはずだ。

 ということは偶発的に何かが起こったということだが、ファンタジーな世界だしドラゴンが出たとか?

 そんな風にカズマが考えていると、ルナが疲れた表情で口を開いた。

 

「出たんです・・・・・・」

 

『???』

 

 幽霊でも出たのだろうかと一斉に首を傾げるが、それなら浄化魔法を掛ければいいだけの話だし、そもそもがゴースト自体がモンスターの為、雑魚モンスターの代わりにゴーストの討伐クエストが出ている筈だ。

 それに思い至りさらにどういうことかと悩む前に、もっと厄介な物が原因であると告げられる。

 

「魔王軍の幹部が何を思ったのかこの近くに出てきちゃったんです。それでこの辺りの弱いモンスターは軒並みどこかに引っ込んでしまいまして・・・・・・」

 

「それでこの状況って訳だ」

 

「そういう訳です」

 

 納得がいったと頷きながら言うコウジュに、ルナが苦笑する。

 

「魔王軍幹部ともなれば前線に居る冒険者や騎士達が死力を尽くして相対するべきほどの敵です。なのでここ初級冒険者の町では全戦力を投入しても勝ち目は薄いのでどうしようもありません。そもそも何が目的かもわかりませんし、かといって藪をつついて蛇を出すわけにもいきません。まあ今のところここから少し離れた場所で何かするわけでもなく居るだけのようでして、下手に刺激しないように静観しているのが現状です」

 

「魔王軍の幹部、ねぇ・・・・・・」

 

 ルナの言葉を聞き、何かを思案するコウジュ。

 そんなコウジュをよそに、今度はカズマが口を開いた。

 

「居場所が分かっているのに何も出来ないって、それほどこの街の戦力は低いんですか? 何だかんだ強そうなやつが居たりするし、全く勝ち目がなさそうには思えないんだけど。それとも幹部ってのがヤバすぎるだけ?」

 

「敢えて言いますと・・・・・・そうですね、後者でしょうか。何故かこの町には上級冒険者の方々もそこそこいらっしゃったりしますが、それでも幹部を相手取るにはリスクが高すぎます」

 

 その言葉を聞き、カズマは机に項垂れる。

 

「ってことは、やっぱりその幹部とやらがどこかに行くまでは冒険者業は休みってことだな。金が保つかな・・・・・・」

 

『異議あり!!』

 

「却下だ戦闘狂ども! 俺の身体がいくつあってもたりねぇって言ってるだろうが!!」

 

 カズマのぼやきにアクア、めぐみん、ダクネスが不満の声をあげるが、すかさずカズマが却下する。

 その理由は当然先と同じものだ。

 それでもガヤガヤとカズマに食って掛かる面々。

 最初は何とか我慢していたカズマも次第にイライラが募り、そして爆発する。

 

「うるせぇぇぇぇ!!! ダメなものはダメなの!! ほら! 冒険者以外の金策を考えないとだから今日は解散!! 散った散った!!」

 

 カズマが声を荒げるのを見て、納得はしなくとも今は何を言っても仕方ないかと一旦諦めた彼女たちは席について食事に戻った。

 ただ、ギルドに着いたばかりで席につかず仕舞いのコウジュは、今から注文しても食事時間がずれるかと場を後にしようかと踵を返した。

 

「あれ、コウジュは食べて行かないのか?」

 

 コウジュが去ろうとするのに気付いたカズマが声を掛ける。

 それに振り返るコウジュだが、逡巡した後いつものように快活に笑った。

 

「偶には違う所で食べるのも一興かなって思ってね」

 

「・・・・・・すまん」

 

 コウジュが去ろうとする理由に思い至ったカズマがバツが悪そうに言う。

 本当ならもう少し待とうとカズマも思ったのだが、気付いたらどこぞの駄女神が頼んでいた為なし崩し的に食事に入ったのだ。

 とはいえ元々食事をする予定ではなかったし、コウジュもそれほど気にはしていなかった。

 むしろカズマの気遣いに笑みを深める。

 

「なっはは、気にしなさんな。こちらこそ気にしてくれてありがとうよ」

 

 そこまで言って、いやらしく口元を歪めて小悪魔のように笑いながらカズマの耳元へと近づいた。

 そしてカズマにだけ聞こえるように囁く。

 

「……その気遣いが常に出来れば異世界ハーレムも夢じゃないのでは?」

 

 

 

 

「やかましいわ!!」

 

 

 

 ダンッと顔を真っ赤にしながら立ち上がるカズマ。

 突然の大声にアクアたちだけでなくギルド中の人たちがカズマへと注目を寄せる。

 注目されることに慣れていないカズマは、視線の波に耐えられず萎むように着席した。

 

「くっふふふ、そいじゃあまたな」

 

 そんなカズマに満足したのかコウジュが笑う。

 そして再び踵を返した。

 

「次はどこへ行くんだ?」

 

「最近知った魔法道具店なんだけど、中々面白いラインナップでね。そいじゃあね。晩御飯は一緒しようぜ」

 

 そう言うなりコウジュはタタタッと身軽に走り去った。

 カズマはあっという間に扉の向こうへといったコウジュの方を見て、溜息を一つ。

 

 コウジュは前日の一件以来、カズマを弄るようになっていた。

 と言ってもイジメのような陰湿なものでは当然なく、コウジュとしては元男であった感覚で冗談を言う程度のものだ。

 まあそれがカズマにとってドギマギする様な距離感であったりするわけだがともかく、神ということもあり未だどこか距離感が掴めないでいたカズマとコウジュの距離は少しばかり近くなった。

 

「なんだかなぁ・・・・・・」

 

 何とも言えない距離感に、カズマが呟く。

 話していると男友達相手のようにも感じるのに、距離が近づくと女の子であることを意識せざるを得ないのだ。

 どこぞの水の女神のように突き抜けてくれたらカズマも悩まずに済むのだが・・・・・・いやあれはあれで悩ましいカズマではあるが、身近な異性で最も安心できるのが今の所コウジュな為、近くなった分新たな悩みが増えてしまったカズマであった。

 

「どうしたんですかカズマ、へんたいごとですか?」

 

「おいそこのポンコツアークウィザード、“かんがえごと”みたいな感じに変態を混ぜるんじゃない」

 

「ポンコツ!? ポンコツって言いましたか今っ!?」

 

 カズマが珍しく難しい顔をしていた為茶化すめぐみんであったが、カズマの切り返しにティ〇ァールも驚きの高速沸騰した頭で杖を構える。

 其れにはさすがのカズマも周りの面々もビクッと構える。

 とはいえめぐみんも色々アレだとしても流石にここでぶっ放す気はないようで、杖を構えるのをやめてカズマへと近づき、空いている方の手でカズマを引っ付かんで引きずり始めた。

 

「逝きますよ! 改めて私の爆裂魔法の凄さというものを見せつけてあげます!!」

 

「おいやめろ! 今なんかニュアンス違ったし! だから引きずるなって!! 離せロリっ子!!」

 

「貴様言ってはならんことを!!」

 

 そんな話をしながら二人はギルドの扉を潜っていった。

 残されたアクアとダクネス。

 二人は静かに互いを見、苦笑いを浮かべる。

 

「あなたはどうするの?」

 

「私は一度実家に帰る必要が出てしまった。そう言うアクアは?」

 

「私? 私はー・・・・・・うん、とりあえずもう少し飲んでる!」

 

「そ、そうか、程々にな・・・・・・」

 

 そうして今度はダクネスがギルドの扉を潜り、一人アクアだけが残った。

 女神アクアは、握っていたジョッキを傾け、残りを勢いよく飲み干す。

 

 

「はぁ、楽に稼ぐ方法ないかしらねぇ」

 

 

 

 ガンッとジョッキを机に置いて呟かれた言葉は、ギルド内の喧騒に容易くかき消された。

 

 今日もこの世界は平和である。

 

 

 




いかがだったでしょうか?

今回は前回の続きと今後への導入で終わっちゃいました。
色々気になるワードが出てきたと思います。魔王軍幹部に魔法道具店・・・・・・。
その辺りにはまた次話から踏み込んでいきたいと思います!!

さて、それで遅れた理由ですがまあリアル事情というやつです。
何でか知りませんがいきなり学会出ろとか言われるし、同時進行で勉強会の資料も作らないとだったし、あと忘年会やら忘年会やら忘年会やらで中々書き進まず遅れてしまいました。失礼しましたただの愚痴です。
ほんとお待ち頂いていた方には本当に申し訳ない。
とはいえそれは言い訳でしかないと思いますので、この連休中に、というかお年玉企画?的な感じにもう1話明日か明後日に投稿したいと思います。
何かはお楽しみにお待ちいただければと!

それでは皆様、改めまして、新年あけましておめでとうございます!
拙作ではありますが、ちょこちょこ間が空いてしまってはいますがここまで続けられているのは皆様のおかげです。
今後とも、出来る限り頑張りたいと思いますのでよろしくお願い致します<(_ _)>


P.S.
感想全然返せていませんね;;
帰ってきたらすぐにでも返信いたしますのでもう少々お待ち下さい<(_ _)>


P.S.2
FGOやら何やら書きたいことがあるのですがこの2か月でイベント多すぎて何から書いたら良いやら!!
とりあえず皆様が先に引いているであろう福袋の結果はいかがでしたか?
思っていた鯖は引けましたでしょうか(*´▽`*)
今回私は無心になって引こうと思います。
この鯖以外ならとか思って引いたらその鯖引いちゃうので・・・。

P.S.3
スマブラ買ったけど全然出来てない;;

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