夜。
奴良鯉伴は枝垂桜を見上げ、煙管をくゆらせていた。
「どうした鯉伴。難しい顔をして」
「親父」
そこにやってきたのはぬらりひょん。鯉伴の父であり、妖怪の総大将ぬらりひょんだ。
「……桔梗のことか?」
「あぁ……」
桔梗は双子のリクオとは違い、病弱だ。
妖怪の血がうまく体に馴染まず、いつ拒絶反応が出て死ぬか分からないのだ。
「ワシらが悩んでもしかたあるまい。頑張るのはあの子じゃ。あの子の生きる力を信じよう」
「あぁ。わかってる」
そう返事を返し、鯉伴は昼間のことを思い出して表情を柔らかくした。
昼間、リクオが持ってきた薬草を見て「ありがとう」と笑った桔梗。
あそこでオレが、桔梗に薬草は必要ないと言えば、リクオは落ち込んだだろう。
桔梗はそんなリクオを気遣い、笑って受け取ったのだ。
頭のいい子だ。薬草が自分に必要ではないと分かっている。
我がままも言わない。世話係の言う事はきちんと聞く。
本当に二歳児か、と思うくらいできた子だ。
だが、すぐに我慢してしまうらしく、そのせいでいつも寝込んでいる。
昼間も熱が出ていて身体がだるいだろうに「だいじょうぶ」と言ったり、無理してリクオに付き合ったりなど、しょっちゅうだ。
本当に辛くても笑って「だいじょうぶ」とか言うから、限界で倒れるまで世話係も気付かない。
「二歳児のくせに、人を気遣いすぎるんだよなぁ」
「確かにのぅ。リクオは子どもらしくやんちゃなんじゃが」
「親父に似てるよ、まったく」
リクオは通常の二歳児のように元気な子どもだ。
少々やんちゃすぎて世話係を困らせてばかりのようだが……。
そんな性格は自分よりも親父に似ている。
将来大物になりそうだな。
「ほっほっ。桔梗は珱姫にそっくりじゃな」
「あぁ。オレもそう思う」
リクオが親父に似ている反面、桔梗はオレの母である珱姫に似ている。
見かけはもちろん、雰囲気もそっくりだ。
「じゃが、貴族の珱姫より気品ありそうな子になりそうじゃな」
親父の言う通り、生まれて間もなく名前を付けるため子どもを見た瞬間、この子はどこか気品があると思った。
だから『桔梗』と名付けたのだが、その判断は間違ってなかったらしい。
「見かけも雰囲気もそっくり。あとは治癒の能力だけじゃが、今の所うすそうじゃのう」
母である珱姫は、病気や怪我をなんでも治す能力を持っていた。
それで親父に目をつけられたらしいが、その辺の話は親父の惚気話で何度も聞いた。
息子であるオレも、治癒能力を受け継いでいる。
だから、その子どもである、リクオや桔梗も受け継いでいる可能性はあるが、今の所その傾向はない。
まぁ、いつか分かるだろう。
「親父、一杯付き合え」
「お、いいねぇ。満開の桜見ながら酒とは」
「ちょっくら取ってくる」
「実はもう用意しておる」
そういって親父は後ろに隠していた酒を取り出し、ニヤリと笑った。
「何だよ、初めから飲むつもりだったのか」
「せっかく満開に咲いてるんじゃ。飲まなもったいないじゃろう」
確かに、満開の桜を見て飲まないなどもったいない。
オレ達は桜の下に座り、暫く酒を酌み交わした。
次は12日0時です。
ストックが切れる宣言するまで毎日0時に投稿したいと思います。