ぬらりひょんの孫~双子の妹に転生しました~   作:唯野歩風呂

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第6話

 

 

 夜。

 

 

 奴良鯉伴は枝垂桜を見上げ、煙管をくゆらせていた。

 

 

 「どうした鯉伴。難しい顔をして」

 

 「親父」

 

 

 そこにやってきたのはぬらりひょん。鯉伴の父であり、妖怪の総大将ぬらりひょんだ。

 

 

 「……桔梗のことか?」

 

 「あぁ……」

 

 

 桔梗は双子のリクオとは違い、病弱だ。

 妖怪の血がうまく体に馴染まず、いつ拒絶反応が出て死ぬか分からないのだ。

 

 

 「ワシらが悩んでもしかたあるまい。頑張るのはあの子じゃ。あの子の生きる力を信じよう」

 

 「あぁ。わかってる」

 

 

 そう返事を返し、鯉伴は昼間のことを思い出して表情を柔らかくした。

 

 昼間、リクオが持ってきた薬草を見て「ありがとう」と笑った桔梗。

 あそこでオレが、桔梗に薬草は必要ないと言えば、リクオは落ち込んだだろう。

 桔梗はそんなリクオを気遣い、笑って受け取ったのだ。

 

 頭のいい子だ。薬草が自分に必要ではないと分かっている。

 我がままも言わない。世話係の言う事はきちんと聞く。

 本当に二歳児か、と思うくらいできた子だ。

 だが、すぐに我慢してしまうらしく、そのせいでいつも寝込んでいる。

 

 昼間も熱が出ていて身体がだるいだろうに「だいじょうぶ」と言ったり、無理してリクオに付き合ったりなど、しょっちゅうだ。

 本当に辛くても笑って「だいじょうぶ」とか言うから、限界で倒れるまで世話係も気付かない。

 

 

 「二歳児のくせに、人を気遣いすぎるんだよなぁ」

 

 「確かにのぅ。リクオは子どもらしくやんちゃなんじゃが」

 

 「親父に似てるよ、まったく」

 

 

 リクオは通常の二歳児のように元気な子どもだ。

 少々やんちゃすぎて世話係を困らせてばかりのようだが……。

 

 そんな性格は自分よりも親父に似ている。

 将来大物になりそうだな。

 

 

 「ほっほっ。桔梗は珱姫にそっくりじゃな」

 

 「あぁ。オレもそう思う」

 

 

 リクオが親父に似ている反面、桔梗はオレの母である珱姫に似ている。

 見かけはもちろん、雰囲気もそっくりだ。

 

 

 「じゃが、貴族の珱姫より気品ありそうな子になりそうじゃな」

 

 

 親父の言う通り、生まれて間もなく名前を付けるため子どもを見た瞬間、この子はどこか気品があると思った。

 だから『桔梗』と名付けたのだが、その判断は間違ってなかったらしい。

 

 

 「見かけも雰囲気もそっくり。あとは治癒の能力だけじゃが、今の所うすそうじゃのう」

 

 

 母である珱姫は、病気や怪我をなんでも治す能力を持っていた。

 それで親父に目をつけられたらしいが、その辺の話は親父の惚気話で何度も聞いた。

 

 息子であるオレも、治癒能力を受け継いでいる。

 だから、その子どもである、リクオや桔梗も受け継いでいる可能性はあるが、今の所その傾向はない。

 

 まぁ、いつか分かるだろう。

 

 

 「親父、一杯付き合え」

 

 「お、いいねぇ。満開の桜見ながら酒とは」

 

 「ちょっくら取ってくる」

 

 「実はもう用意しておる」

 

 

 そういって親父は後ろに隠していた酒を取り出し、ニヤリと笑った。

 

 

 「何だよ、初めから飲むつもりだったのか」

 

 「せっかく満開に咲いてるんじゃ。飲まなもったいないじゃろう」

 

 

 確かに、満開の桜を見て飲まないなどもったいない。

 

 

 オレ達は桜の下に座り、暫く酒を酌み交わした。

 

 

 

 




次は12日0時です。
ストックが切れる宣言するまで毎日0時に投稿したいと思います。

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