ぬらりひょんの孫~双子の妹に転生しました~   作:唯野歩風呂

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第31話

 

 

 

 【旧鼠組屋敷】

 【花開院ゆら】

 

 

 

 「ん・・・・・・ここは」

 「よう、陰陽少女」

 

 目が覚めたら檻の中やった。

 檻の外から、あのすかした妖怪がニヤついた目で見てる。

 

 「はっ!家長さん!」

 

 近くに倒れている家長さんの肩を揺すると、唸り声が聞こえた。

 よかった。ちゃんと呼吸してる。怪我もないみたいや。 

 

 「この子は関係ないっていうたやろ!放したり!」

 「ん、ゆら、ちゃん?」

 

 家長さんが目覚めたみたいや。まだ状況を飲み込めてないみたいやけど、意識はしっかりある。

 とりあえずよかった。

 

 「まだわかっていないようだな、陰陽少女よぉ」

 「!?」

 

 檻の間から胸ぐらをつかまれた。

 

 「式神のない陰陽師なんてなぁ、ただの女なんだよ!」

 

 ビリッ

 

 「キャッ」

 「ゆらちゃん!」

 

 制服が破られ、肌があらわになる。

 爪がかすったのか、血は出ていないがヒリヒリする。

 慌てて前を押さえて家長さんと檻の端ギリギリまで下がった。

 

 「くくっ。知ってるか?人間の血はなぁ、夜明け前が一番どろっとしてて美味しんですよ」

 「近づかんといて!」

 

 式神さえあれば、こんな奴には・・・・・・。

 

 「うっ、っ」

 

 家長さんが震えて泣いてる。けど、今の自分には何もできん。

 あかん。誰か・・・・・・。

 

 誰か助けてーーーー。

 

 

 

 

 ドガン!

 

 「!?な、何ものだ!」 

 「旧鼠様!あ、あれは」

 

 な、何や、何が起こったんや?

 いきなり扉っていうかその周辺の壁が吹っ飛んで、それから。

 

 「俺も初めて見たぜ。・・・・・・あれが、百鬼夜行!」

 

 百鬼夜行!?

 妖怪の主しか動かせないというあの・・・・・・。

 

 「テメェら!誰の命令で動いている!百鬼夜行は主しか動かせないはずじゃあ」

 「主ならお前の眼の前にいる」

 「何!?」

 「このお方こと妖怪の総大将ぬらりひょんの孫。次なる妖怪の主となるお方だ」

 

 妖怪の、主、ぬらりひょん!

 妖怪たちに囲まれている若い男。あれが、ぬらりひょん・・・・・・。

 

 ずいぶんと若い・・・・・・いや、妖怪やから見かけの年齢なんて関係ないか。

 けったいな頭しとるけど、あれも妖力で浮いとるんやろか。

 

 「か、回状は回したんだろうな!」

 「あぁ?そんな約束した覚えはねぇな」

 「なっ、テメェ」

 「俺は一言も回状を回すなんて言ってねぇだろ?質問はしたがな」

 「貴様ぁ。おい、女どもをやーーーー!?」

 

 後ろからバキバキっという音がし、檻が破られた。

 

 「さ、早く外へ!」

 

 なぜ助けてくれるのかわからん。けど、今はそんなこと言ってられん。

 

 

 小妖怪に導かれて外に出ると、一人の女性が待っていた。

 薄紫の着物に濃い紫の上着。頭には布を被り、目でさえも薄い布で覆われており、こちらからは見えなかった。

 だけどなんとなく、とても綺麗な女性なんだなと思う。

 なんでやろ?

 

 その女性は私たちを見ると近寄ってきてペタペタ触りだした。

 

 「な、なんなん!あんたは」

 

 女性は抵抗もなんのその。やがて、破られた制服に目を止め、動きが止まった。

 そして、爪が引っかかって赤い水ぶくれみたいな線がついた肌に手をかざす。

 

 女性との距離は結構近く、それでも薄い布に遮られて顔は見えなかった。

 

 あ、なんかいい匂いがする。

 

 

 「あ、ゆらちゃんの傷が」

 

 家長さんの驚いた視線の先を見ると、女性がかざした手が光っており、水ぶくれがみるみるなくなっていく。

 そして、あっというまに元通りの傷のない肌になっていた。

 

 「な、なんやこの力」

 

 治療ができる妖怪は何匹かいるが、こんな力は見た事ない。

 

 「いったい何者ーーーー」

 

 言葉は最後まで言えなかった。

 問い詰めようとした瞬間、女性が私と家長さんをぎゅっと抱き締めた。

 

 「!?」

 「なっ!?」

 

 離せ!何するんや!

 

 いつもならそう言って突き放すはずなのに、その暖かさといい匂いに力が抜けた。

 

 情けない。私は陰陽師。花開院家の時期当主になるため、この街にやってきた。

 守るべき主人もできたというのに、友達一人おろか、自分でさえも守れなかった。

 

 「悔しい」

 

 思わず声をこぼすと、抱きしめる力が強くなった。

 

 「首無、羽織を」

 「はい。姫様」

 

 姫?

 この人、いや妖怪は、姫?姫っちゅうことは、妖怪の総大将の・・・・・・。

 

 肩に羽織がかけられた。

 女性は手をぎゅっと握ると立ち上がり、ブンブン腕を振りながら屋敷へと戻り始めた。

 

 「ま、まずい。姫が怒っている。止めろ青田坊!」

 「あ、あぁ。姫様、あぶねぇですから行っちゃいけねぇ。若とも約束したでしょう」

 

 なおも行こうとしる女性を、青田坊と呼ばれた妖怪が抱きあげて止めにかかる。

 

 「い、いったい、何なの?」

 

 家長さん。私もそれ、言いたい。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 【突入前 奴良組屋敷】

 【奴良桔梗】

 

 

 「お前は留守番だ、桔梗」

 「嫌です」

 

 夜バージョンになったリクオと睨み合います。

 睨むと言っても、二人とも笑顔なんですけどね。

 お互い、どうやって説き伏せようか考えている、といったところでしょうか。

 

 しかし、今は時間がありません。

 旧鼠組は約束を守るような奴らではありません。

 夜明け前までに、二人に危害を加えない保証はないのです。

 

 それはリクオもわかっているようで、深々とため息をつき、乱暴に頭をかきました。

 

 「はぁ。わかった」

 「若!姫には危険です!相手は武闘集団なんですよ!」

 「もしあの二人が怪我をしていたら誰が治せると思いますか」

 

 烏天狗が黙りました。

 当然です。師匠は今、焼けた自分の屋敷の復興状況を見に帰ってます。なので、医者と呼べるのは私しかいません。

 

 「ただし、だ。外で待っていろ。絶対に屋敷の中に入ってくるなよ」

 「む・・・・・」

 「これが妥協点だ。これ以上望むなら、柱に縛り付けてでも止めるぜ」

 

 そんな時間ないことはわかっています。

 仕方ありません。今回は妥協しましょう。

 

 「わかりました。私は外で待っていましょう。ただし、速やかに二人を救出したら、私の元に連れてきてくださいね」

 「あぁ。約束する」

 

 

 百鬼夜行は出発しました。

 

 私は事前に用意していた布を被り、伝風に乗って後を追います。

 

 「なんだその布は」

 「私はあなたみたいに髪や身長が変わるわけではないですからね。バレないようにしないといけません」

 「それでその格好か」

 「着物の方が、お医者さんみたいでしょ」

 

 いつもの小袖は動きやすいですが、お医者様という感じではありません。

 それに今回は戦闘に行くわけではなく、治癒するために行きますので、動きづらい着物でも問題はありません。

 

 むしろ雪女や毛倡妓はよく着物で動けますね。

 いえ、雪の息だったり髪の毛を伸ばす技ですから、そんなにその場から動かないのでしょうか。

 

 

 いろいろ考えていたら屋敷へ着きました。

 いかにも成金が建てたような趣味の悪い屋敷です。

 小物感が半端ないです。

 

 「桔梗、お前はここにいろ」

 「はい」

 

 私と伝風は少し離れた場所で待機しました。

 そして、リクオたちは、屋敷の入り口の大半を破壊し、中へ入って行きました。

 

 まぁ、あれくらい壊さないと百鬼全部が入らないということもありましたが、やりすぎです。

 二人が怪我したらどうするんですか。

 

 すると間もなく戦闘が始まったような騒ぎが聞こえ始めました。

 それからしばらくして、首無と青田坊に連れられた二人がやってきました。

 よかった。見たところ、大した怪我はないようで・・・・・・。

 

 

 ・・・・・・なんてことでしょう。

 花開院さんの胸元の制服が破られています。

 しかも、爪が当たった痕なのか、血は出ていませんが赤くなっています。

 

 許せない。

 

 傷に手をかざし、治癒します。

 二人は驚いていたようですが、何かを言う前に二人を抱きしめます。

 

 かわいそうに。こんなに身体が冷え切って、震えています。

 怖かったでしょう。

 二人は奴良組の抗争に巻き込まれた被害者です。

 

 「悔しい」

 

 あぁ。

 花開院さんは陰陽師。

 何もできなかったことが悔しいのでしょう。

 

 その気持ちは、痛いほどわかります。

 前世の私も、何もできずに死んでしまいましたから。

 

 

 本当にあのネズミどもにはお仕置きしないといけません。

 この拳が砕けようとも一発殴らないと気が晴れません。

 

 止めないでください、青田坊。

 あ、先に戦場へ戻る気ですね首無。

 

 私も連れて行きなさい!

 

 

 

 

 

 




※けったいな頭
やっぱり不思議だよね。

※桔梗の格好
医者バージョンの桔梗。モデルは『るろうに剣心』の高荷恵です。

※小物感半端ない
リクオと同じ感想。さすが双子。

※この拳が砕けようとも
普通の人でも殴ったら桔梗の方がダメージ食らうと思う。

※止めないでください青田坊
乗り込もうとする桔梗を止める青田坊。戦闘に参加できず。
実は桔梗に金属バット持たせた罰だったり・・・。


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