ゆらゆら、ゆらゆら――――。
温かくて気持ちいモノが、全身を包み、ゆらゆらとあやすように揺れています。
どこでしょう、ここは。
真っ暗で、温かい場所。
体の自由は利きませんが、不安がありません。
ふと、隣に私と同じような存在があることに気付きました。
いったい誰でしょう。
分かりませんが、私にとって当たり前で、とても大切な存在のような気がします。
……もしかして、ここは羊水――――母親のお腹の中なのではないでしょうか?
「ぬら孫」の世界に行ってくれと神様は言っていましたが、まさか転生ですか。しかも産まれる前。
神様……戻しすぎじゃないですか?それとも、こうして産まれることに何か意味が……。
あ、引っ張られる感じがします。
もう一人と一緒に動きますが、二人一緒では産む穴は小さすぎるでしょう。
なら、もう一人が先にいってください。
もう一人を送り出すと、私もそれに続きました。
さぁ、私は誰に産まれるのでしょうか。期待大です。
「オギャー、オギャー!!」
「生まれました!二人目、女の子です!!」
「やりましたよ、若菜様!」
どうやら無事、外に出られたようです。
産声は呼吸をしようと思ったら自然と出てきました。どうやら精神はともかく、体は本当に赤ちゃんなので、必要なことは本能的にやってしまうようです。
なので、こんなに泣いたのは久しぶりです。……いえ、初めて、というべきでしょうか。
そんなことを考えているうちに体を洗われ、布に包まれてどこかに置かれました。
さて、私はいったいどこに産まれたのでしょう。
懸命に瞼を開けてみると、ぼんやりと、私と同じように布に包まれた赤ちゃんが見えました。
この子が私の隣にいた子なのでしょう。
今、この場にいるということは、私たちは双子。後から生まれたので、私は妹ですか。
なんだか新鮮です。ずっと姉をやってきたので、上の兄弟がどういうものかよくわかりませんが、数分の違いですので、あまりそういう意識はないかもしれませんね。
もう一人も、目を開け、こちらを向きました。
私は無意識に、もう一人に手を伸ばしました。
もう一人も、私に小さな手を伸ばしてきます。
そして、私たちは当たり前のように手をつなぎ合いました。
足りないものが埋まったかのような充実感が全身を満たし、眠気をさそいます。
あぁ、まだどこに生まれたか分からないのに、ここで眠っては…………無理です。
どうやら、体が眠る事を優先したようで、眠気に逆らえません。
まぁ、いいです。次に目覚めたら、確認すればいいだけの……はなし……ですから――――。
※※※※※※※※※※
「若菜」
「鯉伴さん」
母子がいる部屋に、着物を着崩し、黒髪が異様に横に伸びて立っている男が入ってきた。
鯉伴と呼ばれた男は若菜の隣で手を繋いで眠る二人の子どもを見ると、愛しそうに頬を緩めた。
「男の子と女の子の双子です」
「あぁ、よく頑張ったな」
鯉伴は妻にねぎらいの声をかけると、若菜は疲れ切った顔に嬉しそうな笑みを浮かべた。
「名前を、つけてあげて」
「名前……そうだな――」
鯉伴はしばらく顎に手をあてて考えた後、深く頷いた。
「うん、決めた。男の子は“リクオ”」
「りくお……どういった字を書くの?」
「カタカナで“リクオ”だ。今の妖世界を象徴した子どもだ」
そして、と隣の女の子を見る。
「“桔梗”だ」
「紫の花の?」
「あぁ。見ろよ、赤ん坊なのに、どこか気品を感じる。きっと、綺麗な娘になるだろうな」
「えぇ。そうですね」
二人の子どもの名は“奴良リクオ”と“奴良桔梗”。
これからの妖世界に留まらず、日本中を変える双子が今、誕生した。