「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「「「「お帰りなさいませ。若、姫様」」」」
夕方。奴良組の屋敷に帰ってきました。
七時に学校に集合なので、夕食を食べ終わったら家をでるようですね。
「ねぇ、桔梗。本当に行くの?」
「しつこいですね。行くと言ったらいくのです。女に二言はありません」
「うっ……。だったら、ぼくから絶対に離れないでよ!」
「はいはい。わかりました」
まだ納得のいっていない顔をしていますが、リクオは部屋へ着替えに戻りました。
私も、洋服に着替えてから夕食をとることにしましょう。
いつもは和服で食べるのですが、今回はすぐにでますからね。二回も着替えるのは少し手間です。
と、その前に。
「雪女」
「あっ、お帰りなさいませ、桔梗様。何か御用ですか?」
「えぇ。今日の夜、リクオたちと旧校舎に探検に行くのだけど、懐中電灯二つ、どこにあるか知っていますか?」
「旧校舎に……あっ、はい!とってまいりますね!」
「ありがとうございます。部屋までお願いしますね」
これで準備は整いましたし、久々に洋服へ着替えるとしましょう。
夕食です。
手伝おうとしましたが、もう終わっているといわれてしまったので、今回も何もすることがありませんでした。
片づけを手伝いたいところですが、夕餉のあとすぐにでなければ七時に間に合いませんね。
残念ですが、また今度です。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「じいちゃん、ぼくたち出かけてくるね」
「まつのじゃリクオ」
立ち上がったリクオに、おじい様が呼び止めました。
いつになく真剣な表情です。
そういえば、今日幹部の方々が集まって話をしていましたね。
「どうじゃ、少しは三代目を継ぐ気になったか」
「またその話?ぼくの考えは変わらないよ」
「じゃが、お前の中にはこのわしの血が四分の一も流れておるのじゃぞ?」
「そんなの、桔梗も同じじゃないか」
「桔梗は妖怪の血より、人間の血が濃くでておる。しかしリクオ、お主はれっきとしたぬらりひょんとして――――」
「ぼくは人間だ。人間のぼくでは組を継げないよ。じゃぁね!」
そういうと、リクオは走って行ってしまいました。
「……幹部の方。誰も承認していないようですね」
「知っておったか」
「何度も幹部を集めていれば、いやでもわかりますよ。リクオも、それに気づいていると思います」
「うむ……」
おじい様は箸をおき、目をつむりました。。
「桔梗よ。リクオはどう思っているだろうか」
「……それは、三代目になることでしょうか」
おじい様は何も言いませんでしたが、私はそれを肯定と受け取りました。
「……強くなりたいとは思っているでしょう。今も、毎朝おじい様の素振りに付き合っていますし」
そう。リクオは四年前から毎朝欠かさず素振りをしてきました。
強くなりたい。
そう、思ってはいるのです。
しかし、それが三代目になりたいと思っているかは、四年前から聞いたことがありません。
けれど――――――。
「心配しなくても、リクオは三代目になりますよ」
おじい様は、目を丸くして私を見ました。
「……以前、同じようなことを聞いたきがするな」
「私の答えは変わっていませんから」
私が笑うと、おじい様もやっと笑ってくれました。
「お主は本当に、珱姫に似ておる」
「光栄です」
「桔梗!早く行くよ!」
リクオの少し怒った声が聞こえ、私はおじい様に一礼をして、その場を去りました。
さぁ、探検の始まりです。
※※※※※※※※※※
浮世絵中学校の横を走る東央自動車道の向こう側に、その旧校舎はあります。
まわりは鬱蒼と木が茂り、懐中電灯の明かりがなければ真っ暗で何も見えないでしょう。
「ぶきみっすねぇ」
集まったメンバーは全員で五名。
紗織さんと夏実さんは家の事情で抜け出せなかったみたいですね。
「怖くなったらすぐにいってね」
「うん」
……ほう?
なんだかリクオとカナちゃん……。
「本当に入るんですか、清継君」
「ぬふふふふっ。妖怪がいそうじゃないか」
……清継君の笑い声の方が不気味だと思ってしまう私は、おかしいでしょうか?
「いるいる。絶対いる!」
旧校舎の中は、長い間誰も立ち入っていないため、歩くたびに埃が舞い上がりました。
「どうしよう、ちょっと怖くなってきちゃった」
「大丈夫。なんかあったら絶対ぼくが守るから!」
ほうほう!
「……桔梗。なにニヤニヤしてんの?」
「いえいえ別に。なんでもありませんわ」
「口調違くない?」
「わたくしは以前から敬語で話していましてよ?」
「それはそうだけど……」
リクオは『敬語の種類が違う気がする』と、つぶやきながらも前に向き直って進みました。
それにしても……。
いますねぇ。奴良組でない妖怪たちがわんさかと。
おかしいですねぇ。ここは奴良組のシマですのに。
リクオが先に行って妖怪たちを蹴散らしていますが、このままではまずいですね。
これ以上探検を続ければ、強い妖怪に会ってしまいます。
幸いにも、妖怪に会えない清継君たちが退屈し始めましたし、ここが帰り時です。
「皆さん。妖怪はいそうにありませんし、もう帰りませんか?そろそろ家に帰らなければご両親が心配しますし」
「うーむ。桔梗さんの言う通りだな」
「そうっすねぇ」
私とリクオは顔を見合わせてほっと息をつきました。
「ならば、この部屋で最後にしよう」
!?
いけません!
部屋を開けた瞬間感じた血の匂い。
それに、他とは比べ物にならないくらい危険な妖力を感じます。
『ぐおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ』
「「う、うわあああああっ!!!!」」
「きゃあああああああ!!」
「カナちゃん!」
清継君と島君は真っ先に逃げていったので無事ですが、カナちゃんは転んでしまい、逃げ遅れてしまいました。
「伝風!」
『ぽーっ!』
待機させていた伝風が飛び出し、妖怪の気を反らしてくれます。
「今のうちに!」
「うん!カナちゃん!」
リクオはカナちゃんを立たせようとしましたが、カナちゃんは気絶していました。
そこに、二体目の妖怪が迫ります。
「リクオ!」
持っていた懐中電灯を投げつけ、妖怪の気をこちらに向けさせます。
狙い通り妖怪は怒り、こちらに向かっていました。
伝風がひきつけてくれた妖怪も、伝風に飽きてこちらに迫ってきます。
リクオがとても焦った表情をしています。
大丈夫ですよ。ちゃんと、準備をしてきたのですからね。
「お願いしますね」
「「お任せください」」
声が聞こえたのと同時に、窓を突き破って一匹の妖怪をふっとばしました。
もう一匹は、いつの間にか氷漬けになっています。
「リクオ様ご安心を。私たちがお守りいたします」
「若と姫に手ぇだすんじゃねぇ。俺たちが相手だ」
「雪女!青田坊!」
妖怪たちは瞬殺でした。
……いえ、特に戦闘シーンを描写するほどもないほど、あっけない終わりだったのです。
「お前たち、どうしてここに」
「若。俺たちは四年前のあの日から、ずーっと若をお守りしてました」
「いつも若と姫のおそばで」
「いつも?」
「はい!……桔梗様は、気づいていらしたみたいですか」
「えっ!そうなの桔梗!?」
「まぁ、ねぇ」
「くるっぽー」
伝風が肩にとまり、ふわふわの羽毛を擦り付けてきました。
よしよし。よくやりました。
いい働きをしましたね、伝風。
あとでご褒美あげますからね。
「話はあとです。一刻も早くこんなところでましょう」
青田坊が、気絶したカナちゃんを抱え、私たちは旧校舎をあとにしました。
学校の近くまで戻ってきて、いったんカナちゃんを起こすことにしました。
その前に――――。
「いつも、ってどういうこと?」
リクオが問い詰めてきました。
雪女たちは変化し、リクオに人間の姿を見せます。
「一組の及川さんに倉田くん!?」
「はい」
「桔梗はこのこと、知ってたんだよね?」
「私たちは、お二方に内緒で護衛をしていたはずなのですが……」
「容姿はそっくり。少し変な言動をする。私たちの傍に常にいる。四年前から姿が変わらない。そんな人間いませんよ」
「くるぽー」
「さすが桔梗様。完璧な変装だと思ったんですがね」
あんな小学生がいたらいやでもわかりますよ、倉田くん……。
「若、やっぱり若には三代目を――――」
「青田坊、雪女」
それ以上いう必要はありません。
リクオはおそらく、もう――――。
私の無言の言葉に、雪女たちはそれ以上何も言いませんでした。
さすが、長年私たちの世話係をやっているだけのことはあります。
言いたいことをちゃんとわかってくれます。
そう。リクオにはもう説得の必要はありません。
あとはきっかけだけなんです。
そしてそのきっかけはもうすぐ来る。
そんな気がします。
ね、伝風。
「くるぽーっ!」
※ぬふふふふ
清継くんの方が妖怪っぽいという事実。
※最強の小学生倉田くん。
桔梗は一発で見破りました。
※伝風登場!
いい働きをしてくれました。
ふわふわな羽毛に憧れます。
※待機場所
お姉さまの懐です。
あったかいんだから~。
ゴールデンウィーク最後の投稿でした。
またいつになるかはわかりませんが、はやくお父様を登場させたいと思ってます。
そのためには牛鬼編まで頑張るぞー!!
ではまたいつか!