「ふざけんな!!」
思わず汚い言葉がでてしまいましたが、今はそれどころじゃありません。
私は怒っているのです。
前世のお母様にも、目の前の父親にも。
「何が『生きていればいい』ですか。何が『幸せだ』ですか!そんなの、私には関係ない!」
鯉伴が唖然としているのがわかります。しかし、私は止まりません。止められません。
「これから幸せになる。そんなの当然でしょう!だけど、あなたがいればもっと幸せになれるに決まってるだろう!!勝手に人の先のことを考えて幸せに浸りやがって!こっちはその想像の中にあなたもいるんだ!」
この世界に生まれて五年。前世の記憶は日々薄れてきています。
最初は、年月が記憶を風化させているのだと思っていました。
しかし、少し様子が違うのです。
お父様やお母様が死んだとき、確かに『悲しい』『辛い』と感じていました。
あくまでも〇〇〇〇が思った感情として。
まるで他人事のように前世の記憶をそう思い出したとき、私はとても怖くなってこのことを考えないようにしました。
大切な思い出も、全部物語の中のことだったと思えて……。
しかしそんな考えも、今では違ったと断言できます。
前世の両親が死ぬ直前に感じだ『痛み』『焦燥』『怒り』。それは今、鯉伴を前にして感じる思いと、まったく同じなのです。
『怒り』にもいろいろありますし、まったく同じと言い切れることは、別の思考を持った他人である限り、絶対に、100%あり得ません。似ているだけで、どこか違うのです。
だけど、まったく一緒なのです。
ならば認めましょう。
名前も身体も違えど、前世も今も『私』であることを。
しかし、私が前世の私を別の人と思ってしまったのは、しかたのないことなのです。
だって、昔の私と、今の私は違います。
前世という経験があって、今の奴良桔梗があるのです。
そのことを、世は“成長した”と言うのですから――――。
手に宿した光が強くなります。
それを見て、鯉伴は私の手をつかみました。
「やめろ。これ以上力を使えば、本当に……」
鯉伴の顔は苦しげに歪んでいました。
それは、傷の痛みだけではないでしょう。
私という娘を失うかもしれないという恐怖からも来るのでしょう。
あぁ、こんな顔をさせたくはありません。
愛しい娘や息子を見つめる時の、優しい笑顔でいてほしいのです。
その顔が、前世のお父様とお母様の笑顔と重なります。
心の奥でずれていた部分が、カチッとはまったように感じました。
やっと、本当に、やっと“奴良桔梗”という私の人生を始められそうです。
だからもう一度言いましょう。
「ふざけんな」
鯉伴とは……父様とは一緒に幸せになりたい。
だから――――
「だから」
お願い――――
「死なないで……」
私の意識はそこで途切れました――――――。
これにてストックが尽きました。
再び投稿するのはいつになることやら……。