みなさんは、妖怪を信じるでしょうか。そして、その妖怪に殺されるなど、考えたことはあるでしょうか。
おそらくないでしょう。
いえ、それが当たり前です。だって妖怪は存在しないのですから。
だからそんなことを考えるのはおかしい。
……そう、おかしいと思っていました。
しかし、私の目の前には、その妖怪がいます。
私は、悪い夢を見ているのでしょうか。
数時間前
「お姉ちゃん、今日は『ぬら孫』の発売日だよ!買っていい?」
「ふふ。毎回楽しみにしてるものね。学校が終わったら買に行きましょうか」
「わーい!」
そういって小学生の弟は無邪気に喜びます。普段、あまり見せない嬉しそうな顔に、こちらも嬉しくなってしまいます。そして、いつも苦労かけていることを思い悲しくなります。
私たち姉弟は、現在二人暮らしをしています。
こんな状況になったのは一年前、父の会社が倒産してしまったことが始まりです。
それまでは、私もお嬢様学校に通う富豪の娘で、とてもいい暮らしをさせてもらっていました。
しかし会社が倒産し、その後始末に奮闘した父は脳梗塞で倒れそのまま帰らぬ人に。父を引き継いだ母はすべての借金を払い終わり、千人を超える従業員もの就職先を見つけたあと、父の後を追うように亡くなってしまいました。
残された私たちはやっかいものとして親戚中をたらいまわしにされ、このままでは小学生の弟の心に傷をつくるだけだと思い、私たちは慣れない二人暮らしを始めました。
学費や部屋代は親戚が払ってくれることになっていますが、それ以外の服や玩具、本などを買うお金は自分達で稼がなくてはなりません。
なので、私はアルバイトでそれらのお金を稼いでいます。
仕事などしたことがなかったですが、アルバイト先の店長が親切な方で、料理の作り方や洗濯の仕方まで、教えてくれました。店長がいなければ、私は弟に不便な思いをさせたままだったでしょう。
弟は転校した先でうまくやっているらしく、よくお友達の話を聞かせてくれます。
最近では、『ぬらりひょんの孫』という漫画に夢中なようで、最新刊が出るたびに楽しそうな顔をしています。
学校が終わると、急いで弟の通う小学校へ行きました。
弟はすでに校門で待っていて、私を見ると嬉しそうにしたあと、膨れて「遅い!」と起こられてしまいました。
私も授業に必要な本が買いたかったので電車で二駅先の大きな本屋に行きました。
「あ、あったーっ!」
弟は本当に嬉しそうに漫画を手に取り、私に見せてくれます。
早く早くとせっつく弟に、私も目的の本を手に取って会計を済ませました。
今にも読みだしてしまいそうな弟をなだめ、帰るために駅に向かいました。
その時です。
大きな交差点の真ん中に、大きな門がコンクリートの地面を突き破って現れました。
その拍子に車が横倒しになったり、急ブレーキで玉突き事故が起きたりしていますが、誰もそのことに注目する人はいませんでした。
突然現れた門は、禍々しい炎をまとっています。このよのモノとは思えないまるで地獄の――――。
「地獄の門だ……」
弟がポツリと呟いた途端、門から無数の光が飛び出し、地面に降り立ちました。
それは異形のもの……。
妖怪――――なのでしょう。
妖怪は近くにいる人を無差別に攻撃し始めました。その妖怪が人を殺したのを見たとき、人々はやっと我に返り、悲鳴を上げて逃げ始めました。
しかし、門からは次々と妖怪が出てきて、人々を襲います。
あちこちから火の手が上がり、それは地獄絵図を見ているようでした。
「っ!早く逃げ……!?」
やっと我に返った私は逃げようとしましたが、隣にいたはずの弟がいません。
あたりを見回すと、弟は地獄の門へ向かって走っていました。
何を考えているのでしょう。
地獄の門周辺は妖怪で溢れています。そこに向かっているなど、殺されに行くようなもの――――。
背筋が凍りました。
このままでは弟が死んでしまう。
そんなのは、絶対に嫌だ!!
無我夢中で妖怪の中を駆けました。幸い私も弟も妖怪に気付かれずに走っています。
しかしそれもいつまでか分かりません。
その時、弟が立ち止まったのを見た。
弟は、誰かを見上げて固まっている。
その人は平安時代の直衣《のうし》でしょうか、そんな恰好をして宙に浮いています。
さらに近づくと、その人の手には禍々しく脈打つ刀が握られていました。
この人は、危険だ。
妖怪に襲われていないことから、この人も妖怪の仲間なのでしょう。いえ、それどころか、妖怪を従えているように見えます。
「お前、安倍晴明だろ!」
弟に追いついた時、弟はその人に向かって叫びました。
安部晴明は有名です。教科書にも出てくるのでしっています。
確か、平安時代の陰陽師……。
「頼む!反魂の術で、父さんと母さんを生き返らせて!」
なんてことでしょう。弟はやはり、心に大きな傷を負っていたのです。
気づかなかった……いえ、薄々気づいていたのに、何もしなかった。
それが、弟にこんなことをさせてしまったのです。命の危機まで犯して……。
弟の叫びにも関わらず、その人は見向きもしませんでした。
それどころか、弟の叫びに気付いた妖怪が弟に襲いかかります。
「ダメーーーーっ!!」
間一髪、弟抱きすくめて妖怪の爪を避ける事が出来ました。
「おねぇ、ちゃん」
「ごめんなさい……あんなこと、言わせてしまって……」
弟が、驚いたように私を見つめます。そして、地面に滴る血を見つけてしまいました。
私は弟を心配させないよう、笑顔を作ります。
「大丈夫です。大丈夫ですよ」
本当は背中が焼け付くように痛い。弟を守った際、妖怪の爪が当たってしまったようです。
「少し、眠ってなさい」
そうして瞼を押さえると、弟は眠ってしまいました。
よっぽど緊張していたのでしょう。それが切れて気を失うように寝てしまいました。
私は弟に笑いかけた後、宙からこちらを見下ろす男の人を睨む。
「あなたは、安倍晴明さんですか?」
男の人は眉をあげ、淡々と答えた。
「いかにも。我が名は安倍晴明。この世を闇で埋め尽くし、世界の主となるもの」
その答えに、私は無償に悲しくなりました。
「貴様、なぜそんな顔をしている」
「……それが分からないあなたは、とても辛いことがあったのでしょう」
私の答えに、彼は眉を吊り上げました。
妖怪が私たちを襲おうとしますが、彼は手を上げてそれを止めました。
「……そう。私は絶望したのだ。人の愚かさに。放っておけばどこまでもつけあがる、その傲慢さに!私はこの世界――――すべての世界を闇で覆い尽くす」
「そして、あなたは永遠に一人ぼっち」
「何?」
私が答える前に、彼は首を振って言葉を遮った。
「私としたことが……戯言に付き合う暇はない。貴様はどうせ死ぬのだから」
その言葉に、妖怪たちは反応します。
すでに周りは妖怪に囲まれ、逃げ場はありません。
しかし――――。
「えぇ、私は死にます。けど、私はいつか、あなたを倒しに行きます」
確か、人は死ぬと「輪廻の環」に帰り生まれ変わると何かで言っていた気がする。それが本当かは分からないが、もしそうなら、私は必ず生まれ変わり、私と弟、それに人々を殺した彼を打ちに行きます。
禍々しい刀が振り上げられます。
私は、彼の瞳から目を離しませんでした。
必ず生まれ変わります。
そして、言葉の続きを教えてあげます。
私の意識は、そこで切れました。
何かに引っ張られるような感覚を残して――――。
他の作品を放って、新しい作品を投稿します。
といっても、すぴぱるさんに投稿していたものをこちらでも投稿するだけですが。
基本、向こうを先に投稿するので、こちらは時間があいて気づいたときに最新話投稿しそうです。
こんなグダグダな作者ですが、よろしくお願いします。