俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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ひと月弱となる、久しぶりの更新です。いつ3巻編が終わるんだか…。
あと、メガ・ネの武装は完全に作者の趣味が入っています。元ネタ、全部わかる人がいるかな…?
2015/10/25 大幅の修正をいたしました。


第52話 有線とツインテール

「最後って…?」

「ええ、言葉の通りよ。皆のヒーローのテイルファイヤーは今日、この会場に来ることはないわ。永遠にね」

レッドは信じられないような顔でケルベロスギルディを見る。今、彼が発した言葉が間違いであればいいのに、と祈りながら。

だが、その祈りは直後に返された言葉によって、無残にも否定された。ケルベロスギルディはバツが悪そうな顔を浮かべながら、言葉を続ける。

「本当はね、私だって反対したかったわよ。テイルファイヤーは倒すにはあまりにも惜しい子だし、生かせる魅力がいくらでもあったもの。でもね、ダーちゃんは私よりも地位が上だし、作戦の直接的権限も持っているし…それに、長い目で見たら今のうちに倒しておいたほうがいいって意見もあるらしいし…話によれば、あなたとファイヤーは別の派閥にいるらしいじゃない?」

「……………」

レッドは黙って頷いた

「じゃあ、レッドちゃんはテイルファイヤーがどうして戦っているかは知っている?」

「それは、俺たちと同じでツインテールを守るために…」

レッドが何を当たり前なことを…といった顔をしたのと同時に、ケルベロスギルディの6つの目が一斉に細ばった。

「テイルファイヤーがツインテールを守るために戦っているのは誰だって知っているわ。それを抜きにして、本当に彼女を信用できるのかって聞いているのよ」

「!」

「今までずっと一緒に戦っていて、みんなすっかりファイヤーを信頼しているみたいだけれど……本当に味方なのかしらねぇ? …ファイヤーのバックアップをしている子ですら、あなたたちは最近知ったって話じゃない? どうしてそこまで頑なに正体を隠そうってするのかしら? 何かファイヤーにも後ろめたいことがあるからなんじゃない?」

ケルベロスギルディの表情がいじめられっこを追いつめるみたいな嫌らしいものへと変わっていく。下を向き、何かを考えているレッドに徹底的な揺さぶりをかけていくかのように言葉を続ける。

「レッドちゃんだって、心のどこかでは本当は味方なんかじゃないって思っているんじゃないの? あなたの中にある信頼も『テイルファイヤーは正しい』っていう思考停止に近い前提に基づいた物なんじゃないの?」

「……………」

突然問われたその問いに、レッドは黙るしかなかった。

確かにファイヤーはツインテールを守るために戦っている。ワイバーンギルディ戦でもそのことは大声で発しており、今や世界中の人間がその事実を知る所となっている。ピンチの時には颯爽と駆けつけて助けてもらったこともあるし、周囲が奇人変人のオンパレード状態な中でも比較的普通とも言える振る舞いもしており、常識的な思考をしていることも分かっている。

…だが、分かっていることと言えばこれだけなのだ。最も長くファイヤーと接しているレッドですら、世間一般の人々が周知としている事実とほとんど変わらないことしか知らないでいる。その正体や出身地、ましてや変身前の性別ですら。一般人が知らない情報と言えば、その変身者のバックボーンにはトゥアールの親友であるレイチェルという少女が絡んでいる事くらいだ。レイチェルの話から察するに、そこまで悪い人間ではないらしいのだが…これはあくまでもレイチェルの意見なので、直接見たことのないレッドにとっては裏付けの取りようがない。

ファイヤーという少女は『信頼』できるのは確かなのだ。今まで何度も助けてくれたし、自分の身が傷つこうとも庇ってくれたこともある。一緒に怖がってくれたことも、抱き着いてくれたこともある。

しかし、ケルベロスギルディの言う通りに絶対に『信用』できるとは必ずしも断言できないのもまた事実であり、見逃せないような怪しい点もいくつかある。例えば、オウルギルディ戦で腕の擦り傷を指摘された時、不自然に逃げた時だ。あれは、何か都合が悪いから逃げたのではないのか? あの傷は、自分の正体に繋がると感じたから逃げたのではないのか? 彼女が正体を隠し続けるのは後ろめたい何かがあるからではないのか? だが…。

『あ、ええと、その、君! 大丈夫!?』

『ええと、テイルレッド、ちゃん?』

『俺は今からあいつと戦う。…テイルレッド、君はどうするんだ?』

『だから君は…好きなだけ撃ってくれ!!』

しかし、レッドは…いや、観束総二はテイルファイヤーの言動を嘘や演技だと思いたくなかった。人として、そして何よりも同じツインテール属性を持つ者として。

あのレインボーブリッジでの叫びは映像越しでもツインテールへの想いや力を感じることはできた。ツインテールを愛していなければ、あのような事を発することは出来などしない。

そして、レッドと同じかそれ以上にツインテールを愛しており、互いの立場の違いから戦わざるを得なかったドラグギルディもまた、こう言っていた。『ツインテール好きに悪い奴などいない』と。

『限られた時間の中で、本当に自分が納得できるまで悩みに悩んで、そこで決断を出せばいいと思うよ』

―――悩まずとも、答えなど最初から出ていた。このことは、最初から解決していたことではないか。

千の言葉より一のツインテール。ツインテールを見るだけでなく、その輝きを感じ、その声を聞くだけで、ツインテールへの想いを理解するだけで、良いか悪いかは判別することができる。ならば、本当に信じるべきなのは自分の想い、ただそれだけ。信じるべきは目の前にいるケルベロスギルディの言葉などではなく…。

「…落ち込んでいる所悪いけど、私にもツインテイルズを足止めするっていうお仕事があるから、戦ってもら―――」

「そーいうことに耳をかしちゃ…駄目よっ―――!!」

「!?」

「かまーお!!」

ステージは空から降り注いだ衝撃波で爆裂し、ケルベロスギルディは空高く舞い上げられ、そのまま奇妙な悲鳴と共に地面へと強烈に叩きつけられた。それと同時に、ブルーとイエローも空から着地する。

「ごめんなさいですわ、レッド! 先ほどからここら一体で通信妨害が発生してて…そのせいで遅れましたわ!!」

「…?」

レッドはのろのろとギアを操作してトゥアールへと通信を送ろうとするが、ザーザーとノイズが混じり、まともに通信が取れなくなっていた。どうやらアルティメギルサイドも通信を妨害して徹底的にファイヤーを隔離しようとしているらしい。

「とりあえず、通信の方はトゥアールが急ピッチで対策をやってくれて……ねぇ、聞いているの!?」

「ど、どうしたのですか!? お腹でも痛いのですか!?」

イエローとブルーの説明も耳に入らないのか、ブツブツとレッドは下を向いて何かを呟いているだけだ。不審に思い、2人が聞き耳を立ててみるとようやくその声が聞こえてきた。

「…怪しいのは、確かなんだ。でも、俺に気を遣っているのか分かんないけど、たびたび子ども扱いするし、突っ込んで怪我ばかり追うし…!」

「「??」」

何のことを言っているのだ? 話が見えてこないブルーとイエローの2人は頭を?マーク全開に首を傾げる。

「あら、やっぱり…?」

「それにな!」

「「「!?」」」

レッドの声のトーンが1オクターブ高くなり、ビクッとケルベロスギルディの身体を震わせた。

「どこの誰かなんか俺は全然気にしないのにいつまでも正体を明かさないし、パンチの打ち方も受け身の取り方も危なっかしいし、いつも他人のことばっかり考えて自分のことは二の次で! 俺の気持ちも、少しは考えろよなコノヤロ―――!!」

息継ぎなしで一気にファイヤーへの不満を叫びに叫んだレッドはゼーゼーと息をむさぼる。

「え、えと…」

「色々、溜まっているかしら…? もしかして、レッドって今日は女の子の月に一度は来るあの日…?」

全員が呆気にとられている中レッドは剣を取り出すと、切っ先をケルベロスギルディへと向け、ニヤッと笑った。

「…これが俺の本音だよ。けど、俺はそれでもファイヤーを信じるって決めてんだ! どこの誰だろうが、あんたが何を言おうが関係ない! 俺が信じないで、誰があいつを信じるっていうんだよっ!!」

大声で啖呵を切ったレッドは、ブン! と剣を薙ぎ払う。

「むこうで何が起こっているのか分かんないけど…さっさと片付けて、ファイヤーを連れ戻す!! お前なんかには負けねえ!!」

 

 

 

 

 

 

そして、高速道路のど真ん中ではファイヤーとメガ・ネの両者が睨みあっていた。背後にはミサイル発射の際に生じた火柱がゴウゴウと燃え、高速道路から脱出できない一般人は車を降りて、睨みあっている2人を遠巻きに見守っている。

「レイチェル? おい、レイチェル?」

ファイヤーは小声で何とか通信を繋いで、目の前にいるロボットの情報を少しでも得たかったのだが、一向に反応がない。返ってくるのは耳をつんざくノイズばかりだ。

「くそっ! さっさと会場に行かなきゃならないのに…!!」

これ以上通信しても無駄だと悟り通信を切ると、再度ロボットの方を見ようと視線を上げた瞬間、メガ・ネプチューン=Mk.II―――メガ・ネは足のスラスターを吹かし、殴る体勢のまま、一気に距離を詰めてきた。

「っ! 踏み込みなしで!?」

これまで戦ってきたどの敵にも当てはまらない奇妙な動きに面食らってしまう。

当たり前と言えば当たり前だ。敵は生物ではなくロボット。人間ともエレメリアンとも当てはまらないカテゴリーに当てはまる以上、予備動作なしで接近することなど朝飯前なのだろう。

「この…!」

ファイヤーも数瞬遅れて拳を構えるが、メガ・ネの右手首がギギギッ! と軋みを上げると、ガシャンと手首部分だけが高速回転を始める。まるで巨大なハンドミキサーのようなそれは、奇しくもテイルファイヤー十八番の右手ドリルに類似している。

「ドリル!?」

それを見たファイヤーもまた右手のアーマーを展開し、すっかりお馴染みとなったドリル形態へと移行する。

そして、白銀のドリルと紅色のドリルが空でぶつかり合った。ギャリギャリと火花を散らして、激しく激突する両者に、観衆は大いに盛り上がる。

「おお!」

「ドリル対ドリル!!」

激しい攻防が始まった。メガ・ネは鋭い攻撃を正確に繰り出し、ファイヤーは敵のドリルの直撃を避けるようにガードし続ける。

ギャリギャリと火花を散らして、激しく激突する2つのドリル。

ぶつかり、弾かれ、薙ぎ払われ、ガードしたかと思うとすぐさま貫こうとする互いのドリルの動きは早すぎて、素人目からでは互角に見えるだろう。

「くそっ…こいつ!!」

「………………」

だが、戦っているファイヤーからすると互角とは言えない。最初こそ上手くガードできていたのだが、それを察したメガ・ネはすぐさま作戦を変更。ファイヤーが決定的な隙を見せるようにと、揺さぶりをかけてきたのだ。

一回一回ぶつかり合うごとに、メガ・ネはドリルの回転数を上げ、ファイヤーが嫌がるかのような攻撃へと修正してくる。まるで心を見透かしているように攻撃の合間もただただじっとファイヤーの顔を見つめるメガ・ネにどんどん追い込まれていく。

「っ!」

十回ほどのぶつかり合いの後に、遂に拮抗は破られた。ドリル同士の真っ向勝負に負け、螺旋の大波に弾かれたファイヤーは後方へと押しやられる。ドリル同士の対決に負けた右手装甲は刃こぼれが起きたかのようにパキンとヒビが入った。

その隙を見逃さないメガ・ネは左手を殴るように突き出した途端、左手は有線式のロケットパンチになって射出される。

「! ブレイクッ…!」

後方へと押しやられるファイヤーは避ける動作に移行することができず、吹き飛ばされながらも急いで迎撃しようと右手装甲を唸らせる。

「シュートォォ!!」

右手から放たれた無線式の拳と、左手から放たれた有線式のロケットパンチが空中でぶつかり合い、ビリビリと生じた衝撃の末に互いの拳は弾かれた。

ファイヤーの右手装甲は弾かれながらも途中で静止し、元あった場所へと戻ろうとするが、メガ・ネの伸びきった左手のワイヤーはぶつかった衝撃のせいでたるみが生じていた。

「!」

それを見たファイヤーは咄嗟にワイヤーへと手を伸ばし、そのまま掴む。そしてそれを一本釣りの要領で手繰り寄せて、空いている左手でメガ・ネの顔面をぶん殴ろうとする。右手のドリルは起動まで僅かに時間がかかることは先ほどの動きから情報を得ている。大火力のミサイルも近接さえしてしまえば、自分をも巻き込むために使えないはずだ。

(まずは一発、ぶん殴って―――!?)

カウンターパンチの体制に入ったファイヤーは、ふいに何かを感じた。手繰り寄せられ、もうすぐ殴られるはずのメガ・ネの視線は相変わらずファイヤーの方を向いている。すると、チカッとメガ・ネの瞳が光った。まるで太陽に反射して煌めく、眼鏡のように―――。

(やばいっ!!??)

と、焼け付くような感触が背筋を走り、ファイヤーは反射的にワイヤーを手放して後ろへ下がる。と、次の瞬間、先ほどまで自分がいた空間が、目から放たれたビームが貫通していた。一体どこまで貫いているのか、なるべくは考えたくなかった。

まるで小学校の理科の授業で習った虫眼鏡で太陽光を集めるような光景だった。ただし、威力はあれの数百倍以上はあるだろうが…。

が、それを意識する間もなく、メガ・ネの胸部部分が開き、中から大量の何かが射出され、ファイヤーの周囲を囲む。

「なんだこれ…!?」

見た目は少し大きめの鏡みたいに見えた。特徴と言えば、その表面が大きめな眼鏡のレンズにも見えることだったが――。

そのレンズの分析を終える前に、メガ・ネが目からビーム射撃を再開してきた。

「! くっそ、レイチェルに分析して…」

動きは早いが、ビーム攻撃の軌道は直線。ファイヤーは軽くステップを踏んで射線から逃れた―――はずであった。

「もらわなっ…!?」

なんと、直線に進むはずのビームがいきなり鋭利な角度で軌道を変え、ファイヤーの背後にぶち当たった。まさかの出来事に、ファイヤーも顔を歪ませる。

「何が起こって…!?」

今度は背後の方で何かが光ったと思った瞬間、いきなり額にビームが直撃し、前髪が少しだけ焦げた。

(ビームが、曲がった…!?)

だが、今度はかろうじて空中で突然軌道が変わったのを目撃できた。そして、そのカラクリも大雑把だが理解できた。

(レンズを経由して、鏡のようにビームを反射させているのか…!?)

だが、そうしている間にも、メガ・ネはビームを反射してきた。その一撃、一撃がレンズに反射して複雑な軌道を描き、ファイヤーウォールを張る間もなく四方八方から襲い掛かる。そのどれもが決定的な一撃には成りえないものの、じわじわとファイヤーを傷つけていく。

「あがっ…!?」

そして遂にメガ・ネのビームが、ファイヤーの脚部を一閃。右脚部の装甲を剥がし、その内部の機器を引火させて爆発。その衝撃から膝をつくという決定的な隙をさらしてしまう。

「………!」

動きが鈍ったファイヤーにメガ・ネは渾身の力を込めたビームを一直線に放ってきた。

「…ここだっ! ファイヤーウォール!!」

ファイヤーは熱線による痛みに耐えながら、渾身の力を込めて左手を突き出し、正面にバリアを展開させた。

(やっぱりそうだ…!)

今の攻撃を反射させなかった理由。それはビームをレンズに経由させて反射させる都合上、あまりにも威力が高い攻撃ではレンズごと壊してしまう危険性があるからだ。そのリスクを避けるためにも、高出力のビームは反射させずに直接打ち込まなければならないのだ。――そしてそういう攻撃にこそ、この技は役割を果たしてくれる。

炎の壁にぶち当たったビームはズンッという重い衝撃に軋みを上げるが、何とかその熱量を吸収し、巨大な円形状の塊へと変化。

「このぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

そのまま押し出すようにして吸収した熱量の塊を射出した。放たれたビーム以上のスピードで迫りくる熱量に、あの眼メガ・ネもただでは済まないはずだ。たとえ避けたとしても熱量そのものが迫りくるのだから、かすりさえすればどこかしらのダメージは追うはず―――。

「………………………」

メガ・ネは反射された熱弾をなんともないように眺めていると、突然奇妙な動きと共に、見る間にその姿を変えていく。

人間には不可能な角度での手足の可動を行い、頭部を胴体へ収納、各パーツの収納及びに伸長をコンマ数秒で終わらせ、人型形態(ファイターフォーム)からメガネウィンガーと呼ばれる戦闘機形態への変形(フォームチェンジ)を完了した。

(変形した!?)

ここに来ての新たな戦法に、状況はさらに悪化の一途をたどった。こんな戦い方をする奴の相手など、想定外すぎた。豊富な武装とビーム反射だけでも厄介なのに、更に変形機能まで持っているだなんて。

メガ・ネは迫りくる熱量が届かない大空までヒラリと急上昇すると、足に収納されていたブースターに火をつけて、これまで以上のスピードでファイヤーめがけて急加速してくる。

「速っ…!」

ファイヤーウォールを張る間も与えないほどの急加速を得た戦闘機型のメガ・ネが、流れるような動きで再び人型へとチェンジ。ブースターの加速とその重量を活かしたドロップキックが、とっさに構えたファイヤーの右腕へと直撃する。

(右手、が…!?)

バキバキとヒビが広がる嫌な音の末に、ファイヤーの右手装甲はあっけなく砕け散った。

その衝撃を完全に受け止めきれずにその身体は後方へと弾き飛ばされ、受け身も取れずにごろごろと地面を転がる。

「……」

しかし、メガ・ネは追撃の手を休めない。

身体に装備されているサブスラスターを数度噴射して加速の勢いを殺して姿勢を安定させると、肩に装備されたランチャーでロックオンし、吹き飛ばされるファイヤーめがけてミサイルを全弾解き放った。

それぞれが白い尾を引きながら、まっすぐ接近してくるミサイルに、転がり続けるファイヤーはどうすることもできずに…。

「…………………………!」

次の瞬間、最初のミサイルが爆発し、放たれたミサイルは次々と誘爆を起こし、その大爆発に驚いた市民は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う。ミサイルの影響で火の海で横たわっているファイヤーをメガ・ネはただただジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

(…あかん! やりすぎてもーた……)

全弾打ち尽くしたミサイルポッドをパージし、赤々と燃える高速道路をジッと構えている冷徹な風貌とは裏腹に、メガ・ネの心情は穏やかではなかった。

(手加減できる相手じゃないことは分かっていたんやけど、やっぱり遠距離攻撃は使用するのは駄目やなぁ…女の子の肌を傷つけてしまうもん…。うっかり変形(フォームチェンジ)したのもアカンかったし…そもそも、うちが何で戦っているんやろ…? 怪我させたら、やっぱり慰謝料とか払わなあかんのかなぁ…?)

どうしてこうなってしまったのか。話は昨日の深夜まで遡る。

自分の主であるイースナ――ダークグラスパーから与えられた命令は『テイルファイヤーの見極め』であった。

テイルレッドはトゥアールではなかった…この事実を知ったイースナは悲しむことはなかったものの、幸か不幸か、次の標的とされてしまったのはテイルファイヤーだった。

『この一件、裏でテイルファイヤーとレイチェルが何らかの糸を引いているのではないか?』

イースナの疑問は最もだった。それはかつてのトゥアールのパートナーにして、現在はツインテイルズのマネージャーを担当しているレイチェルの存在が大きく関係していた。

彼女は直接姿を現し、トゥアールの現状を知りつつも、それを隠す嘘をイースナに伝えた。

『つまりは…わらわを騙すためにあやつらは口裏を合わせたのじゃ!! わらわはただトゥアールとちょっとおしゃべりをしていたいだけなのに!』

『う、う~ん。向こうはイースナちゃんのおしゃべりの頻度がとんでもないほど多いから嫌がっているだけやと思うんやけど…』

『あの幼女好きなトゥアールに限ってあり得ぬ! きっとトゥアールはあの女狐に何か弱みを握られているに違いない! きっとトゥアール本人もわらわとメールや電話をしたがっているに違いないのじゃ!』

『いや、だからな、イースナちゃんはもうとっくにストライクゾーンから外れているからそれはありえな…』

ほぼ…というか完全にストーカーの領域に足を突っ込んでいるイースナにメガ・ネの説得は届かない。普段は引きこもりのエロゲーマニアなのだが、一度エンジンに火がついてしまうと保護者のメガ・ネですらどうすることもできはしない。

『それに! あの女狐と手を組んでいるテイルファイヤーも怪しい! あのレイチェルに最も近いツインテイルズはあやつらしいではないか!』

『まぁ…確認できる通信のやり取りなんかでも、ファイヤーがレイチェルはんとパートナー関係であうことは明確な事実らしいけど…うちはそんなに悪い奴に見えへんけどなぁ…』

『姿形が嘘をついていたレッドに似ている! これだけで怪しいという証拠は十分すぎるわ!!』

『う、う~ん…』

『あの極悪レイチェルのパートナーのことじゃ! きっととんでもない尻軽ビッチが変身者に違いない!』

…こうしてイースナは『普段からレイチェルに一番近いテイルファイヤーもまた、事の真相を知っているに違いない』という結論に至り、メガ・ネにファイヤーの事の真相の見極めを依頼したのだ。そして次第によっては倒してもかまわないと命じられ、最後には人前では決して喋るなと念押しされて。何でも『お前の声と喋り方はシリアスな空気を台無しにする』とのことらしい。

(…ま、ファイヤーの手の内も明かしておきたいっていうのもあるし、他でもないイースナちゃんの頼みやからな…)

このためにライブ会場に繋がる交通網を手中に収め、直接会場に来たならば、他のツインテイルズと孤立させる作戦だった。レイチェルからの横槍でまた嘘を言われないようにと、テイルファイヤーの周囲数百メートルには通信妨害用のジャマーも用意するという徹底ぶりだ。万が一会場内に直接転送してきたのならば、ケルベロスギルディに頼んでファイヤーだけをこちらへと転送させる準備も万全だった。

しかし、いざ拳を交えてみると、メガ・ネは面食らった。ファイヤーの戦い方や振舞い方…そのどれを取ってみても、イースナが語っていた尻軽だの、極悪だのいう言葉とは程遠い。メディアで見るいつものテイルファイヤーの姿があった。

(…やっぱり、嘘をつくような子じゃない気がするんやけどなぁ)

ロボットであるメガ・ネには、イースナと同じ属性力である眼鏡(グラス)属性がその体内に存在している。

そのせいか、イースナまでとは言わなくても、ある程度ではあるが人の心を読むなどの能力が備わっている。それで裏付けてみても、やはり人を貶めたりなどといった言動は見られないでいるのだ。

(…でもなぁ、少し気になることがあるんやけど…)

それはあの時、ブレイクシュートを左手のロケットパンチがぶつかり合った時に、ファイヤーの心の奥底から聞こえてきた声が原因だった。

その声は2種類あった。一つは『早くいかなきゃ』という焦りの感情の声、そしてもう一つはラジオのノイズのようにざわめく『ツインテール』というどこか屈託とした感情の叫び。

(あの時は驚いてしもーた……)

あのうめき声をなんと例えればいいのかは分からない。

あの声は―――ただ怒りや憎しみの感情だけでなく、どこか屈託した好意の感情も入り交じったような―――そう、愛憎一体の叫びと言えばいいのだろうか? 相反する2つの感情がコンクリートミキサーで交じり合ってぶちまけたような感覚は、メガ・ネにとって感じたことのない感情だったのだ。

(やっぱり、人間って色々複雑なんやなぁ…って!?)

ゆらり、と炎の中で動く影にメガ・ネが気付いた瞬間、テイルファイヤーは地を蹴り、炎の中から姿を現した。

(やっぱり、打たれ強いのは本当だったんやな…! まだ、勝負は続行かい!)

姿を現すと同時に、メガ・ネは左手を構え、有線式ロケットパンチ(ワイヤードフィスト)を放つ。

「!」

迫りくる拳を大きく屈んで回避すると、ブースターを吹かしてファイヤーは加速した。背後のタンクローリーに拳がめり込むのを尻目に、ファイヤーは見る見るうちに距離を詰めてくる。

(それは…読んでいたでぇ!)

ピン、と張って巻き戻されるワイヤーとトラックはファイヤーごと巻き込もうと見る見るうちに距離を縮めていく。『火気厳禁』と書かれた大型タンクごと、ファイヤーにぶつけようという魂胆だった。

「手繰り、寄せた!?」

万が一衝突して火花でも散らせて最後、タンク内に入っているガソリンに引火、周囲一帯は火の海へと変わる。メガ・ネやファイヤーだけならばどうにかなるかもしれないが周りにはまだ取り残されている一般人もおり、その人たちまでもを巻き添えにしてしまう。

「くっそ!!」

ファイヤーは後ろを一瞥すると、走っている勢いを利用して前方へとジャンプした。このまま走っていれば衝突は避けられないと思ったらしく、空中に逃げようという考えらしい。

(そうやな…そういう行動を取るハズやな…!)

だがメガ・ネの方程式は狂わない。ファイヤーの性格を考えれば、周囲を火の海に変えるリスクを背負ってまでも前進するとは考えられなかった。だからこそ、メガ・ネは爆発などさせる気など毛頭ないのに関わらず、タンカーごと引っ張るという無茶をやらかしたのだ。

テイルギアに備え付けられているブースターも加速と姿勢安定が主な用途であり、空中飛行するには向いていないこともイースナの持っているグラスギアの解析から知っている。つまり、宙に逃げれば逃れようがない―――テイルファイヤーはメガ・ネの戦術にまんまとはまってしまったのだ。

(これで―――終いや)

そしてメガ・ネは空いている右手を構え、左手と同じように射出した。

「右手も…伸びるのかっ!?」

ここに来て、ダメ押しの隠し玉にファイヤーは驚愕した。まさか、右手も同じような構造になっているとは思っていなかったらしい。

伸ばされた腕はファイヤーの足を掴み、その自由を奪い、装甲から飛び出したクローが文字通り爪を立てて固定した。そして、伸びきったワイヤーが収縮すると同時に肉薄する間合いまでファイヤーは引っ張られる。

「…まだだああああああああああああああっ!」

「っつ!?」

だが、この状況下でもなお反撃を諦めないファイヤーに、メガ・ネは悪寒が走るような衝撃を受けた。その目は絶体絶命の危機でありながらもその目は諦めの色を映してはいない。

一体、何がファイヤーの背中を押し、奮い立たせているのだろうか? メガ・ネは混乱する頭でそれを考えるが、答えは出てこない。

「ブースト…全開っ!!」

片足を巻き取られながらも腰のブースターを最大に吹かし、空中でバック転の体制に入った。空いている片足を構え、メガ・ネの頭部を狙いに定める。そう――この土壇場でサマーソルトキックを繰り出そうとしていたのだ。

「あ、足技ぁ!?」

拳ではなく、足。拳がメイン武器のファイヤーのとっさの行動に思わず声が出てしまう。

(…アカンっ!!)

メガ・ネが苦し紛れに放ったビームがファイヤーの身体を紙一重で外したとその頭部に強烈な蹴りが入ったのはほぼ、同時だった。

そして外れたビームはメガ・ネが出しっぱなしにしてあったレンズに数回反射し、そのまま接近してくるタンカーを突き破り――。

「「…あっ!?」」

両者の背筋が凍ったのとほぼ同時にタンカーに積まれているガソリンに引火―――メガ・ネとファイヤーの周囲は大爆発に飲まれた。




ドリルに有線ロケットパンチ、ビームにバルカンにミサイル、更には変形まで…自分でも盛りすぎじゃねえ? って感じがしますが…まぁ、全部私の趣味なんだ!! 申し訳ない! 私の中のイメージとしては『仮面ライダーオーズ』の2号ライダー『仮面ライダーバース』を想像して執筆していますが…。
やっぱり人とロボットが戦うとこんな展開になるんじゃないかしら? っていう想像でキーを叩いているので、ありえねぇ! っていう箇所が何個かあると思いますが…ご了承ください。というか、こうして見るとメガ・ネって相当強いよね…。
メガ・ネの変形プロセスってどんな風になっているのかが映像で見てみたいです。個人的にはマクロスのバルキリーみたいな感じだと勝手にイメージしているんですが…。

では、次回をお楽しみに!!

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