俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

50 / 56
最近、ジェルボール洗剤にハマっているIMBELです。部屋干しの時、匂いが全然違くて、衝撃を受けました。
…では、本編スタートです。


第47話 疑惑とツインテール

オウルギルディとの戦いを勝利に収め、迎えた次の日。

光太郎はいつもと同じように、徒歩通学の集団に紛れ込みながら一人歩いていた。ただいつもと違うのは、その右腕に包帯が巻かれていることだった。

「うーん…どうも調子が狂うな…」

光太郎はそう言うと、そっと包帯が巻かれている部分を擦る。その包帯の下には昨日、オウルギルディに吹き飛ばされた時に出来てしまった傷がある。

幸いにもそれほどひどい怪我でもなく、大した痛みも無い為、レイチェルには特に何も言っていない。妙な心配をかけたくなかったので、昨日は怪我した右腕を巧妙に隠しながら生活をした。が、流石にそれでは限界がある為、今日、レイチェルが目覚めるよりも前に起きて、傷を隠す為にこっそりと包帯を巻いたのだ。

今朝、レイチェルは俺の腕に包帯が巻かれているのを不思議そうな目で見ていたが、『朝食の準備の時、包丁が手元から滑ってうっかり切ってしまった』という根も葉もない嘘で適当に誤魔化した。

(包帯はやりすぎだったか…? でもこうでもしないと、俺も気にしちゃうしなぁ)

どうも包帯の感覚は慣れない。だが、こうでもしないと傷口をかきむしって、うっかりカサブタを剥いてしまいそうだから、傷が治る数日は我慢するしかないだろう。この傷は出来るだけ早いうちに直しておきたかった。

(…それにしてもテイルファイヤーに変身した時でも、身体の傷までは誤魔化せないというのは盲点だったなぁ)

性転換するのだから、変身さえしてしまったら身体の傷も消えてしまうのではないかという仮説は覆ってしまった。いくらテイルギアがオーバーテクノロジーで出来ているとはいえ、所詮は機械。性別は変えられても、四肢の損傷や身体の異常を誤魔化せるほどではなかったのだ。

それに、レッドにあの傷口を見られたのは今となってはまずかったと思うし、言い訳に困ってしまって咄嗟に逃げてしまったことも尚のことまずかった。レッドにあらぬ心配をかけてしまったかもしれないし、正体バレに繋がる事にはならないが、レッドには自分とファイヤーを結びつける一つの情報を与えてしまったことになる。

(まあ、ファイヤーに変身している間は実の親でも見抜けないらしいから大丈夫なんだろうけどさ…)

だからこそ、テイルギアには変身者を特定できなくするという認識攪乱装置が備え付けられている訳であって、それは光太郎もレッドも同じだ。

光太郎がレッドの正体を見抜けないのと同じように、向こうもまさかファイヤーの正体が男などいった発想には辿りつかないはずだ。

…大丈夫、大丈夫。レッドは俺の正体には絶対にたどり着けない。第一、右腕に傷がある人間なんてこの世に何人いると思っているんだ? そのヒントだけでは絶対に俺は該当しないはず、恐らく…。

(でもなぁ…)

そう安堵しつつも思い浮かべてしまうのは、昨日の去り際に見たレッドの戸惑いと驚き、悲しみのようなあの表情。逃げる時、光太郎も思わず罪悪感に駆られてしまった。

…もしかしたらレッドは、何時までも正体を明かさないでいる俺に、不信感を抱きつつあるのかもしれない。戦いが始まって早2か月。自分の正体どころか、戦いでしか彼女らとは接していないのだ。いい加減あちら側でも、テイルファイヤーについて疑ったり、懐疑的な目で見られてもおかしくはないのかもしれない。

(…もう、正体を誤魔化せられなくなってきているのかもしれないな)

戦いは激化の一途をたどっている。

出現するエレメリアンも雑魚クラスであってもどんどん強くなっているし、後ろにはダークグラスパーも控えている。今まで以上にツインテイルズは力を合わせて立ち向かわなければならないのに、自分の正体を隠したままでいる今の関係でいるのも限界が近づいているのかもしれない。

いつか、正体を明かさなければならない。少なくとも、今以上にばらしづらくなる前に。

しかし、そう覚悟しているのにも関わらず、もし自分の正体が知られたことで拒絶されてしまったら…という恐れをどうしても拭いきれない自分が心のどこかにはいる。

特に、自分を『お姉さま』と慕ってくれているイエローの存在が尚のこと正体バレに関して、その一歩を踏み出せないでいるのだ。あれだけファイヤーのことを慕ってくれている子がその正体が男だと知った日には、反動でショック死してしまうかもしれないし…。

(…………俺って情けねぇ)

はぁ…と、憂鬱そうなため息をついていると、丁度玄関で靴を履きかえている総二の姿が見えた。その隣には愛香さんやトゥアールさんも一緒だった。光太郎は駆け寄り、後ろから総二の肩を叩いた。

「よ、おはよう」

「! よ、よう…おはよう………」

「? …ああ、おはよう総二」

肩を叩かれた総二だけは大げさとも言えるくらい驚いた顔で光太郎を見ていた。肩を叩いたのは流石に驚かせてしまったかな? と思ったが、何はともあれ無事そうだったので光太郎は安堵していた。昨日は自分が吹き飛ばされた後、無事に逃げ出せたらしい。

「あらおはよう、光太郎」

「ああ、愛香さんもおはようございます。それと…トゥアールさんも…」

「…………おはようございます」

いつものメンバーといつも通りの挨拶を交わすが、自分に対するトゥアールさんの冷めたようなリアクションはいつも通りなので、もう光太郎は気にはしない。

「その…腕……大丈夫、なのか?」

総二は心配そうに光太郎の右腕を指さした。それを機に、愛香さんも心配そうな目で見てくるが、光太郎はさりげない声で答えた。

「…ああ。ちょっと軽く切っちゃってな。包帯は巻いているけれど、心配する程じゃないよ」

ほら、と光太郎は何にも気にしていないようにグルグルと腕を回した。

「ちょっと光太郎、これ何の怪我なの? 熱湯でも被っちゃったの?」

「あはは、うっかり腕、切っちゃったんですよ。でも、気にするほどの怪我じゃないから安心してください」

「そうなの?」

「ええ」

光太郎はわざと何でもないような雰囲気で話した。怪我をしたことは話したが、エレメリアンによって負わされたということは一言も発さなかった。周りに変な心配をかけさせたくなかったし、総二にも変な責任を背負わせたくなかったからだ。光太郎自身も、あの怪我は飛び出してしまった自分の責任だと思っているし、総二が悪いだなんて微塵も思っていなかった。

「あんまり大袈裟にならなくても大丈夫ですよ。本当に軽い怪我なんですから」

「なーんだ、そうなんだ。あたしはてっきり、火傷でもしたのかと…」

「やっぱり、刃物って扱いには注意しなきゃ駄目ですね」

あれは事故であり、決して誰かが悪いわけじゃないんだぞという口調で話を進める。だが総二はそれでも光太郎の右腕が気になるようで、ジッと光太郎の腕を見つめていた。

「それよりも早く行こうぜ、総二。そろそろチャイムが鳴るぞ」

「お、おう…そうだな」

連れ立って階段を上がる光太郎であったが、総二の目は相変わらず光太郎の右腕を見つめていた。

「……………………………」

そしてトゥアールもまた、別の意味で光太郎をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

そしてその日の放課後。ツインテール部の部室では、慧理那が申し訳なさそうに部のメンバー全員に謝罪の言葉を述べていた。

「面目ありませんわ…私が幼いばかりに、年齢制限に引っかかってしまって」

「ちょ、ちょっと! 頭上げてよ会長!」

「でも………」

頭を下げる慧理那に何とか頭を上げて貰うが、納得していないようであった。

「…私、いつも守ってばかりで、その次はただ力を与えて貰っただけですわ。戦える時に戦えなくて、皆さんの足を引っ張ってばかりですし…」

慧理那は下を俯きながらテイルブレスをジッと見つめている。

「だからせめて、エロ本だけはと思ったのに…不甲斐ないですわ…!」

「そんなことないぜ、慧理那!」

重苦しい空気の中、総二は勢いよく立ち上がると慧理那のツインテールを掌で掬い上げた。

「俺は、いや俺たちは十分、慧理那のことは認めているよ。エロ本のことはその……確かに残念だったけど、その心だけで俺は満足だよ」

「で、ですが……お姉さまにも喜んでもらいたくてやったのに…これでは意味がありませんわ!」

「テイルファイヤーだってレイチェルちゃんだってきっと分かってくれるさ。あの人たちも、会長がそんな行動に出てくれたってだけで嬉しいはずだよ」

そう励ます総二であったが、どういう訳か脳裏には光太郎が現れては邪魔をする。さらに、昨日の切り傷のことが頭をよぎりそうになったため、慌てて打ち消した。

「…俺たちだってそうさ。今まで慧理那が、テイルイエローが邪魔だって一度でも言ったことがあったか? 俺たちは会長のその心意気だけでお腹いっぱいだよ」

それでも、と総二は言葉を繋げる。

「それでも距離を感じているなら、ツインテールを思い出してくれ。これがいつも、俺たちを繋いでいるじゃないか!」

「つ…ツインテールが…」

「ああ! それが俺たちと会長の絆を繋いでいるんだからさ!」

「み、観束君………!」

「会長―――――――――――!!」

なにやら甘い空気がプンプン匂ってくるが、そうはさせるかと叫び声と共に総二を押しのけ、愛香が会長に抱き着いた。

「きゃあ!? つ、津辺さん!?」

「ワタシタチ、トモダチ! ダカラ、ナカヨシ!! ネッ!?」

目の前でハグをしている幼馴染はとうとう野生に返りすぎて、喋る言葉も片言になってしまったのかと総二は一瞬だけども疑ってしまった。

「そーじばかりに頼らなくたっていいんだからねっ! あたしだっているんだからね!」

「は、はぁ」

「それに! 困ったときは愛しのテイルファイヤーにもっと頼ったほうがいいとあたしは思うわ!」

「で、でも…お姉さま方にあまり迷惑はかけたくは…」

「それが駄目だと思うのよっ!」

ずいっと愛香が慧理那に詰め寄った。

「そうやって変に壁を作ったって、あの子達と親しくはなれないと思うわ! 会長が今まで以上に親しくなるには、下手に敬うことをやめて、もっとフレンドリーになるべきだってあたしは思うわ、ええ!!」

「そ、そうでしょうか…?」

「そうよ! 総二だけに頼らなくたって、あたし達仲間でしょう!? だから、そーじだけでなく、もっとあたし達を頼ってよ!」

「な、仲間……。そ、そうですわよね! ありがとうございますわ、津辺さん!」

最後の言葉だけ聞けばもの凄くいい言葉なのだが、その過程がどうも怪しい。片言もそうだし、さっきの総二と慧理那のやりとりも面白くなそうな目で見ていたことだし、そのことを総二は気づいていなかった。そしてそれはトゥアールも同じようであった。

それは愛香達の目論見であった、『エロ本を通して女性に興味を持ってもらおう』作戦は完全に失敗に終わってしまったことを悟ったからかもしれない。さっきまで総二の手はしきりに慧理那のツインテールばかり触っていたし、話す言葉は相変わらずツインテールのことばかり。総二お得意の本人しか理解できないツインテール理論も飛び出してしまったし、事態は結局、何も変わらなかったのかもしれない。

「慧理那さん。渡したいものがあるんですよ」

だが、トゥアールは慧理那の元へ近寄ると、白衣のポケットから何かを取り出し、そっと手の上へと乗せた。

「これは…?」

「私たちが使っている多機能通信デバイス、トゥアルフォンです。慧理那さんの分が完成いたしましたので、お渡しします」

それは慧理那専用に作られたトゥアルフォンであった。今まで慧理那への通信はテイルギアを通して行われていたものの、やはり通信機器用のデバイスはあった方がいいとのことらしい。

「仲間の証として受け取っていただけますね?」

これをトゥアールが渡す、ということは慧理那を仲間だと完全に認めているというなによりの証拠に他ならないだろう。なんせこのトゥアルフォンを持っているのはツインテイルズに密接にかかわっている総二と愛香、それと開発者であるトゥアール本人だけなのだから。

「…トゥアールさん…! それに皆さん、ありがとうございますわ!!」

一つだけ、変わったことがあった。エロ本は買えず、総二は女の子に興味を持たなかった。が、今まで以上に皆の絆が深まった。それも慧理那がエロ本を買おうと、努力してくれたおかげで。

まあ、とりあえずは一件落着かな…と総二は思った瞬間であった。いきなり部室のドアが開け放たれ、一人の生徒が転がり込んできたのは。

「「「!?」」」

部室の中にいる全員の目がひん剥かれている中、唯一まともに反応出来たのは総二だけだった。そして部室に転がり込んで、肩で息をしている生徒――光太郎に真っ先に駆け寄る。

「あ…」

だが、ほんの一瞬、総二は躊躇いのような顔を浮かべた。昨日思い浮かべてしまった疑惑――目の前にいる光太郎が、あのテイルファイヤーなのでは? という疑惑のせいだった。

「…大丈夫か? 光太郎?」

何とかその疑惑を打ち消すと、すっと手を差し伸べ、光太郎を立ち上がらせた。…何故かトゥアールは「どうしてあのモブが総二様と握手をぐぬぬ」といった顔で光太郎を睨んでいたが、それに気付くものはこの場にはいない。光太郎の登場のインパクトで全てが吹き飛んでしまったからだ。

「どうしたんだよ、そんなに慌てて…」

「その…匿ってくれないか?」

「はぁ?」

「頼む」

心底疲れていそうな顔でそう語る光太郎に、並々ならぬ事態を感じる総二。そのとき、ふいに部室のドアの奥から誰かの声が聞こえてきた。

「おい、そっちにはいたか?」

「いや、いないぞ」

「くっそう、昨日は裏門から逃げたらしいが…」

「今日は逃がさないからな!」

「そうよ! 会長に近寄る悪い虫は一刻も早く追っ払わなきゃ!」

「ふひひ」

さっきまでゆったりとしていた部室の空気が一気に凍りついた。

その影響は凄まじく、普段は顔をしかめないトゥアールですら、生理的嫌悪なのか顔を強張らせている。

「「「「…………………」」」」

ドアの向こうでは聞き取れないが、不機嫌そうな会話が聞こえており、光太郎だけでなく総二や愛香も居た堪れない表情となった。

こんな光太郎の顔は、尊に婚姻届を投げつけられたりしている時にしか見た事がない。…つまり、事態はそれほどまでに深刻と化しているという事を表していた。

「…頼む。ほんの少しの間だけでいいんだよ」

そんな雨の中で佇んでいる子犬のような声で頼まれては、流石の総二も断る訳にはいかなかった。最近、エレメリアンよりも人間の方が怖くなっていると感じながらも、数日前と同じように光太郎を部室へと招き入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくの後、光太郎はぐったりとしながら、出されたお茶を力なく飲んでいた。そして数十分後、ようやく廊下が静かになると、盛大にため息を吐いた。

「その…大丈夫か…?」

「全然大丈夫じゃねえ」

「…ごめん」

「いや…いいんだよ、うん。大丈夫だからさ…」

「…!」

光太郎は泣きだしそうな声と共に総二を見るが、またもや総二は一瞬、戸惑いを見せてしまう。

「…どうしたんだよ総二? お前、今日ずっと変だぞ?」

「! い、いや…そんなことないけど…」

「…でも、なんか変じゃないか?」

「いや、俺は別に…! だ、大丈夫だからさ、うん!」

「………?」

きょとんとしている光太郎から慌てて視線を外す総二。何だか変にぎこちない総二に対して、光太郎も違和感を感じ始めている。

「……そ、そうだ! 会長からの差し入れがあるんだ、食ってけよ!」

「…いいのか?」

「いいって!」

そう言いながら、テーブルの上にある茶菓子を薦める総二は、目の前にいる友人のことを注意深く観察し始めた。

(腕の傷だけでは判断できないって昨日決めていたけど…こう見てみると…いや、でも…?)

いくら、昨日の件で『光太郎=テイルファイヤー説』がにわかに信じられないとしても、一度意識し始めると芋蔓式に次々と疑惑が思い浮かんでしまう。

いくら腕の傷だけで判断してはいけないとしてもだ、言葉づかいや振る舞い、リアクションや仕草。そんな細かなことですら、総二は怪しく見てしまう。考えれば考えるたびに思考の海にのめり込んでいく。

本当なら昨日の傷を改めて確かめたかったのだが、その傷はすっかり包帯で隠れている為、見ることは出来ないでいる。

(まさか…?)

まさか自分以外に、しかもクラスメイトがテイルファイヤーの正体…半ば信じられないどころか暴論もいい所だが、それが成り立ってしまうかもしれないのが恐ろしい。

なんせ総二たちがいるクラスは、他のクラスと比べても奇人変人の巣窟とかしているし、ツインテイルズの関係者のほとんどが集結してしまっている。そこにもう一人くらいいてもおかしくないんじゃないかな? とも思えてしまう。

(…仮に…仮にだ。もし、本当に、光太郎がテイルファイヤーだとしたら…俺たちの正体を知っているんだろうか?)

それは総二が一番気にしている所だった。

仮に光太郎がテイルファイヤーだとして、この場にいるメンバーの正体を知っているのだろうか? この部に身を置いているのも単なる親切心だけでなく、何か他の意図があって…例えば、総二たちの行動の監視をしやすくするためなのだろうか?

マネージャーであるレイチェルは『テイルファイヤーは自分の正体を自分の意志で明かそうとしている』と言っていた。…それは何か、正体を明かせない理由でもあるのだろうか?

自分たちが成長するまで、待っているからか? レイチェルとトゥアールは旧知の仲であるから、もしかしたら彼女らも何かを隠しているのか…? …いや、もしかしたら、ダークグラスパーとグルで、実は敵のスパイなのでは…?

(…そうじゃないだろ!)

ぶんぶんと首を振って、浮かんでしまった考えを拭い取る。いくらなんでもそれはありえない。彼女は最初から自分たちを助けてくれている、共に戦ってくれている。見返りを求める訳でもなく、自分たちと同じでツインテールを守る為に。

「…なあ、光太郎」

「?」

そして総二は真偽を確かめるために、ある質問をすることにした。この際、テイルファイヤーの目的は保留しておく。今は目の前にいる人物がテイルファイヤーなのか否なのかを確かめたかった。

「俺の…右腕を見てくれないか?」

「…右腕?」

「ああ、右腕だ。この辺を見てくれないか?」

「「!?!?」」

女性陣の顔色が変わったのにも気付かず、総二と光太郎は会話に没頭する。総二が空いている手でトントンと触れている部分には、テイルレッドになる為のアイテム―テイルブレスがある。勿論、認識攪乱装置は正常に働いている為、総二たち以外の人間には見えないようになっている。

「見てくれ。こいつをどう思う?」

「どう思うって…」

「何かが、見えないか?」

「何かって言われてもな…………………」

光太郎はじっと総二の右腕を見ている。そんな光太郎を総二は注意深く観察する。

(…どうだ…?)

そして全神経を集中させ、光太郎にツインテールの気配があるのかを探る。

これは一種の賭けであった。光太郎は本当にテイルファイヤーなのか、ツインテイルズに変身できるだけの属性力はあるのか、そして自分たちの正体に気付いているのか。…それらを証明するには、かつて慧理那に総二のブレスを見破られたあの状況を再現する必要があったのだ。

このブレスが見えていれば、光太郎は何らかのリアクションを起こすはずである。その時に感じる気配――所謂、ツインテールの気配を探る。今までは直接ツインテールにしてなければ気配は探れなかったものの、ツインテイルズとして活動していく中でその感覚は鋭さを増しており、今では直接ツインテールにしていなくてもその気配を探れるまでになっていた。

その気配で、光太郎とテイルファイヤーのツインテールの気配が一致するのかを調べる。見えていれば、光太郎はクロ――仮にテイルファイヤーでなくても、何らかの形で総二たちがツインテイルズであることを知っている可能性がある。

仮に見えなくても問題は無い。光太郎の正体を確かめる対策はいくつか考えてはある。だが、ここは多くの情報を引き出せるであろう前者の方を総二は行った。

「「「………………………………」」」

一歩間違えれば、テイルレッドの正体がばれるかもしれないこの状況、女性陣は戦々恐々な雰囲気で見守っていたが、光太郎が行ったリアクションは女性陣の予想とは違ったものであった。

「何だよそれ? 心理テストかなんかか?」

「…見えて、いないのか?」

「何にも見えないよ。だって総二の腕には何にもないじゃないか」

そう半笑いを浮かべながら、光太郎はカップに残っているお茶をすすった。総二は目を離さずに光太郎を観察していたが、嘘をついているようにも見えなかった。表情は相変わらず同じであったし、何かを察したような様子もなかった。更には光太郎からはツインテールの気配も感じなかった。

つまりは――シロ。光太郎は本当に総二たちの正体に気付いていない。テイルブレスが見えていないということは、総二たちがツインテイルズであることを検討もついていないことを表していた。

「じゃ、じゃあさ。もう一つ質問していいか?」

「ん? まあ、いいけど…」

「そ、そうか…」

少し拍子抜けしてしまった総二は保険にかけていたもう一つの質問をすることにした。心なしか、総二の身体は身を乗り出している。

「こ、光太郎はさ、ツイン…」

「それ以上は駄目ですよ総二様――――!!」

「!?」

次に総二が何を言おうとしたのかは、トゥアールが割り込んできたことで分からなくなってしまった。

そしてトゥアールは光太郎を親の仇でも見るような視線で睨みつけると、こう吐き捨てた。

「ど、同性だからって何でも許されると思ったら大間違いなんですからね!!」

「…同性?」

「とぼけないでください! あなたが何を思っているのかは分かりませんがねぇ、総二様の始めては私が貰うんですからね!!」

そう言うとトゥアールは愛香と共に部室の隅でコソコソと会話をし始めた。

「ちょっと、何あれ!? あたし、あんな反応のそーじ見たことないんだけど!?」

「…愛香さん、事態は想像以上に重くなっているかもしれません。もしかしたら総二様はその…あっち側の世界に足を踏み入れているのかもしれません…」

「あっち?」

「…BLの世界というのか…男の世界というのか…」

「はぁ!? いやいやそれは絶対ありえないわよ! あたしこー見えてもそーじとかなり長い付き合いなのよ!? そんなそぶり一度も見せてなかったわよ!?」

「だってあんな反応、私たちに一度だって見せたことあります!? あんなぎこちない反応、あのモブの前でしか見せていませんよ! この間のお茶の時だって、今回の時だって!」

「い、いや…でも、思い返してみれば、確かに…」

「でしょう!! いくらアプローチをかけても反応が薄いわけですよ。総二様の本命は女の子じゃなくてガチムチだったんですから」

「どどど…どうしよう!? あたしどうしたら…」

「とりあえず落ち着きましょう…今からでも遅くはありません、総二様をアブノーマルからノーマルへと更生させましょう! とりあえずはエロ本だけでなく、そういった知識の方から攻めていけば…」

…そんな会話をひそひそとしているのだが、残念ながら当の総二と光太郎には聞こえない。

どうしても気になったのか、2人はトゥアールたちの会話をどうにか聞くために近寄ろうとするが、慧理那に止められてしまう。

「あっ! 2人とも気にしなくてもいいですから! お茶のおかわりはいかがですか!?」

「あの…会長、お茶はもういいんですけれど…」

「いえいえ! まだ茶菓子がありますので、どうぞお食べになって…!」

そして無理矢理椅子に座らせると、いらないのに追加分のお茶がそれぞれのカップに注がれる。

「え、えええ…なぁ、総二? お前さっき何話そうとしていたんだ?」

「え…ああ、そう! お前…」

「あっ丹羽君! その…私、携帯の機種変しましたのよ!」

露骨に会話を妨害してくる慧理那の顔が何故か真っ赤だったのがとても気になったが、結局、2人が何を話しているのか、そして総二が何を話したかったのかが分からずじまいのままであった。

「ちなみに、私は男の友情までは否定しない。だが、それ以上の関係は大反対だ。私の婚姻相手が減る」

「…尊先生、いたんですね」

「最初からいたが?」

「…気づきませんでした」

「ほう? …ところで婚姻届はいるか?」

「間に合っていますから、勘弁してください…」

そして、椅子に座ったままの尊の存在に、今更ながら気付いた光太郎であった。




…という訳で、もう少しだけ光太郎の正体バレは延期となります。いい加減ばらせよ!と思う人もいるかもしれませんが…もう少しだけお付き合いください。

では、次回もお楽しみに!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。