俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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ゴッドイーター2RBが面白すぎてヤバいIMBELです。下手くそですけど、下手くそなりに楽しんでプレイしています。
ちなみにウチの主人公の性別は当然のことながら女で、髪は赤、ツインテールで眼鏡という自分のロマンをこれでもかとつぎ込んだ子になっています。
…俺ツイとコラボしねえかな、GE。
それと、UA15万突破ありがとうございます。


第46話 擦り傷とツインテール

その日の昼休み、総二は何故か尊に呼び出された。

総二はてっきりまた婚姻届でも渡されるのではと警戒していたのだが、どうやら違うらしい。…そもそも尊は婚姻届をこっそり渡すなどといった常識的な行動はまず取らないだろうし、彼女もそんな考えには至らないだろう。

なんせ尊は、婚姻届でガラスを切り裂いたり、コンクリートを貫通させたりできる人なのだから。総二は最近、婚姻届の定義が分からなくなっている気がする。普通、婚姻届ってそこまでの強度じゃない気がするのだが…。

そして職員室の一角で、尊からとんでもないことを言われた。

「今日の放課後、遂にお嬢様がエロ本を買いに行かれることになった」

「………………………」

どうリアクションをしていいか分からない総二は、渋い顔でただ沈黙するしかなかった。

もの凄いシリアスな顔でエロ本というワードを述べるのが場違いな気がしてならない。そしてそれが自分の為に買おうとしているのがまた…。

「そこでだ、お嬢様の護衛を頼まれてくれんか、観束」

「ご、護衛?」

「ああそうだ。校内中で聞き込みをして、遂にお嬢様はエロ本の品ぞろえのいい書店を知ったそうでな…」

ああ、だから…と、総二は一人納得する。

というのも、総二はここに来る間に『慧理那が男子生徒にエロ本のことでいろいろ聞き込みをしている』という情報を小耳に挟んだのだ。好みは何だとか、値段やサイズ、絵柄といった、生徒会長が聞き込むには明らかに間違っていることを真面目に聞きまわっている…という半ば信じられないことであったが、あれは事実だったのか。

何故か、そんな慧理那の奇行には一年の丹羽という男子生徒が一枚噛んでいるという噂もあるのだが…まあ、これはガセだろう。まさかあの真面目を絵に描いたような男の光太郎がエロ本の件で関わっているとは到底思えない。

「本来ならば私がついていくべきなのだが、お嬢様からついてこないで欲しいと言われてしまってな」

「…でも、俺、護衛なんてできませんよ」

総二の護衛のイメージはどうしても黒服を着たSP的な何かであったが、残念ながら総二は普通の男子高校生。多少の格闘技の嗜みはあるものの、それ以外に関してはずぶの素人もいい所だ。

「難しいことは頼まん、ただこっそりと見張るくらいでいい。いざとなったら観束には変身という切り札があるではないか」

「わざわざ護衛に使うには過ぎた力だとは思うんですけれど…」

元々は対エレメリアン用の武装であるテイルブレスを護衛に使うのは過剰防衛になるのではと総二は思ったが、一応、誘拐などの最悪の展開に対しての選択肢の一つに加えておくことにした。

「そもそも、俺が護衛している間、先生は何してるんですか? せめて遠くからナビゲート的なことをして欲しいんですけど…」

「私には部下のメイドと一緒に、近い縁談の妨害工作をしなければならないのだ。前にも話しただろう? お嬢様の奥様が次々と縁談を取りつけているという」

「ああ、あれですか……」

確かに今後のツインテイルズの活動にも支障をきたすかもしれない縁談の妨害の方が重要な問題だろう。総二は今更ながら、護衛を仲間に任せざるを得ない程、問題が切迫していたことに驚きを隠せなかった。

「それでも大丈夫なんですか? もし暗躍していることがばれたらクビにされたりとか…」

「なあに、その時はお前にでも貰ってもらうさ」

セリフはハードボイルドっぽくてかっこいいのだが、机の引き出しからチラリと顔を出している『婚姻届』と書かれた書類の存在が全てを台無しにしてしまっている。しかも確認できるだけでも、その全てに先生の名前がキッチリと書かれている。固ゆで卵(ハードボイルド)どころかコンニャクゼリーよりも柔らかそうに見えるほど、残念すぎた。

だが裏を返せば、総二に護衛役を任せたことということは、尊は総二のことを信用しているという証でもある。そうでなければこんな大役を総二に託すわけがない。

そして尊もまた、慧理那の為に身体を張っている。自分の首が飛ぶリスクを背負いながら、自分が出来ることを行っている。…ならば、男として取るべき行動は一つしかないだろう。

「…分かりました。護衛役、俺が引き受けます」

総二は凛とした表情で、尊にそう宣言した。

「すまない。お嬢様と仲が良いであろうお前が適任なんだ。護衛役、任せたぞ」

「任せて下さい」

グッとサムズアップをし、作戦成功を誓う総二。まるで出撃前のパイロットの気分だ。

もしかしたら上手くいかないかもしれない、慧理那にもばれてしまうかもしれない。でも、せめて、エロ本を買って距離を縮めるという、会長のささやかな願いだけは叶えさせてあげたかった。

「…ああ、そうだ」

すると尊はそういえば、とポンと手を叩いた。

「妨害工作チームの鉄砲玉として、津辺君を借りていくぞ。もし荒事になった時には、私の部下以上に役立ってくれるかもしれんからな」

一瞬、総二は普段のトゥアールとのやり取りをする愛香の姿がフラッシュバックする。ボコボコに殴られるトゥアールと殴るごとにキレを増していく愛香。

…もし、愛香がそのような役目を果たさなければならなくなってしまった時、相手は生きて帰れますように、と心の中で総二は祈りをささげた。

 

 

 

 

 

 

そして迎えた放課後。

授業が終わった途端、総二は大急ぎで家に帰ると、極力目立たなそうな格好に着替えた。白いシャツとチノパンに着替え、念のために黒色のキャップを目深く被ると、また大急ぎで学校へと戻った。

いつも慧理那は授業が終わると生徒会の仕事がある為、そうそう早く校門から出ることは無いと思うのだが…。

(…来た!!)

校門前で待つこと数分、さっと総二は近くの電柱へと身を隠した。校門から見慣れたツインテール姿の少女、慧理那が出てきたのだ。何とか間に合ってよかったとホッと息をつくが、護衛はまだまだこれからが始まりなのだ。ここからはばれないようにしなければ、とますます帽子を深くかぶった。

「…………………………」

幸いなことに慧理那は隠れている総二に気付くことなく、いつもと同じように歩いていく。総二もまた、電柱から電柱へ渡り歩き、素人丸出しの身のこなしで尾行していった。

(……結構な所まで行くんだな)

慧理那の足は、総二たちが普段通るような大通りからどんどん遠ざかり、裏通りへと向かっていた。

長年この町に住んでいる総二ですら迂闊に足を踏み入れないような裏道を慧理那は不安そうな足取りで歩いていく。そんな慧理那の姿を見逃さないように、総二もまた細心の注意を払いながら後をつけていた。確かにこんな道を通る必要があるのなら、護衛の一つや二つは必要だろう。もういかにも怪しい匂いがプンプンする。

幸いにもその道中は総二が想定していたようなトラブルも無く、比較的にあっさりとしていた。

慧理那のその凄まじいほどのツインテールのせいでもしかしたらエレメリアンとエンカウントし、道中で変身をしなければならないかも、と半ば覚悟していたのだがその心配は余計なものだったらしい。

そしてやっとの思いで到着した目的の書店は、年季の入った個人店だった。総二は自分の身体を十分に隠せる立て看板の後ろに隠れ、店内へと入る慧理那を見て、まずはほっと息をする。

(まずは折り返しまで来たか…!)

引き戸の向こうでは、棚を一つ一つ丁寧に見ている慧理那の姿があった。

しかし油断はできない。いつドラマのように、黒塗りの怪しい車が店先で止まるか分からない。心臓をバクバクさせながら、総二は慧理那が買い物を終わらせるのを固唾を呑んで見守る。

(…お、おお。店員が近づいてきた途端に、エロ本コーナーから児童書コーナーに移動した! 『あれ~、来週のボランティアで使う本はどこかしら~?』みたいな空気を全身で発している! そしてその動きに合わせてツインテールも揺れた!!)

…忘れそうになるが、現在総二は『エロ本を買う上級生を離れた所から見張っている』という一歩間違えれば変態の道へ足を踏み入れるほどの特異な行為に励んでいる。

ふと我に返ると、自らの行いに疑問や羞恥を抱きそうになるが、そんな慧理那もまた、総二の為にあそこまでしてくれているのだ。ならば総二がするべき行動は恥ずかしがることではなく、慧理那がエロ本を買うのを固唾を呑んで見守ることだろう。

「…ん? 何だあれ?」

そう思った総二であったが、ふと書店と反対側に位置している歩道で、当地ゆるキャラのような着ぐるみフクロウの姿が目に入った。どうやら下校中の女子小学生に何かを配ろうとしているみたいだ。

「詩集だよ~、とっても素敵な詩集だよ~」

「ねぇ、詩集って何?」

「あ! 私知ってるよ! 針と糸で色々作ることだよね!?」

「いや、それは刺繍…私が言いたいのは本の詩集で…」

複数の女子小学生に絡まれてたじたじのフクロウを可哀そうな目で見る総二。あの年頃の女の子の扱いは難しいからな、と数年前の愛香を思い出しながらゆるキャラに同情する。

そんなことよりも総二にとっては、あの女子小学生たちがツインテール姿である事の方がよっぽど関心があったし、もっと言えば今は書店にいる慧理那を見張る事の方が大切であった。

だが慧理那の方へ向き直ろうとした総二はここでとんでもないものを目撃してしまった。

「あはは、何だこれきったねー字!!」

「ほんとだー!!」

「う、うむむ…ぬわああああああ!?」

身体にしがみついたり跨ったりするやんちゃな女子小学生のせいでバランスを崩したフクロウは、転んだ際の衝撃のせいで着ぐるみの頭部分が外れてしまったのだ。…いや、それだけならまだ子供の夢が壊れてしまうだけだった。中の人がいるという厳しい現実を突きつけるだけだった。

なんと、中から更にフクロウの頭が現れたのだ。どう見ても人間の顔ではないそれに、女子小学生の悲鳴が聞こえてくる。

「キャー!」

「こ、これって…」

「「―――エレメリアン!?」」

電柱の陰に隠れていた総二も女子小学生と同じように、いきなり現れたエレメリアンに面食らってしまった。まさかこんな時に怪人と遭遇してしまうとは…!

「ううむ…ばれてしまったのならば仕方ない。そう、いかにも! 私は文学を愛する戦士、オウルギルディ! 幼子たちよ、私は君たちに暴力を振るう気はない! ただこの詩集を君たちに受け取って欲しいのとその見事なツインテールが欲しいだけなのだ!!」

端から見れば凄まじい要求だが、無論、こんなことを許す女子小学生ではない。

「やだー!」

「きもーい!!」

「しかしだな…私はエレメリアンの戦士。ツインテールを奪う行為を行わなければ、文学も広められんのだよ…」

「詩集なんて見たくないよー!」

「私たちは漫画でいいしー!」

「そ、そんなこと言わずに…そのツインテールをわが手に!」

数歩下がりながら狼狽する小学生とにじりにじりと近寄るオウルギルディ。だが、ここで誰かが両者の間に割り込んできた。

「や、やめろー!!」

「!?」

その掛け声と共にバッとオウルギルディと女子小学生の間に入り込んだその人物の声と姿に、総二は再び驚いてしまった

「何だ貴様は!?」

「さ…さっさと離れろ!!」

なんとそこに立っていたのは他でもない、真面目を絵に描いたような男子生徒、丹羽光太郎だったのだから。

 

 

 

 

 

 

さて、何故ここに光太郎がいるのか? それを説明するには時間を少しだけ遡らなければならない。

光太郎は下校時刻になった途端、総二と同じように大急ぎで学校から逃げようとしたが、ここでトラブルが発生してしまう。

(う、うわ~、上級生が校門でうろついている…)

今朝の事件をまだ根に持っているのか、はたまた会長のエロ本事件に自分が関与しているという全くの濡れ衣を彼らは信じているのか…真相は分からないが、尋常でないような雰囲気で待機している先輩たちの姿を目撃してしまった。もの凄く怖い顔をした先輩たちの手には竹刀やバットが握られていたような気がしたが、それは自分の気のせいだと思いたい。21世紀の世の中であんなものを持って校門前に待機している生徒の姿が見えるとは…。

とにかく家に帰る為には校門を使ってはまずいと判断した光太郎は、大急ぎで裏門から飛び出すと下校中に先輩に遭遇しないようにと、裏道に次ぐ裏道で裏通りを通っての帰宅になってしまった。

(あーあ、確かにあれは迂闊だと思ったけどさ…)

学園のアイドルの慧理那会長と何のとりえもない俺との握手が、認められるわけないもんな。いくら不可抗力だったからって、俺と会長じゃ月とスッポンもいいところだ。俺よりも頭が良くて、顔もよくて、運動ができる男子なんていくらでもいるし、彼らだって会長の隣に立つのがふさわしいに決まっているって思っているはずだし……嗚呼、何だか自分で言っていて悲しくなってきた。

光太郎にだってツインテイルズの一員であるテイルファイヤーの正体であるという、他の男子とは一線を画する大きな特徴があるが、こんなことおおっぴらにしたら火に油を注ぐだけだ。というか光太郎自身もまずいことになってしまう。

(…ま、俺なんてどこにでもいるような男子だし、先輩たちが気に食わないのも当然だろうし…)

やっぱり、慧理那会長と釣り合うにはそれなりのスペックがなきゃ駄目ってことなのかな。

会長はツインテイルズ好きだから、俺もそっち方面のイベントにでも参加して色々な知識を深めたりとかするべきだろうか? 現場では分からない声を聞いて、色々と理解を進めたりとか……いや、あの世界に飛び込んだら自分で自分が嫌いになりそうで怖い。

「あれ…? ここ、どこだ?」

ふと光太郎は足を止めると、自分がいつの間にか見覚えのない地点に突っ立っていたことに気がついてしまった。近くにはいかにも古そうな書店があったが、個人で経営している店なのか聞いたことも無い名前だった。

「まいったなどうも…」

先輩たちに会わないように裏道を使っていたのがどうも裏目に出てしまったようだ。来た道を引き返そうと思ったが、うわの空で歩いていたせいか、自分でも来た道が分からなくなっていた。ポリポリと頭をかきながらも、最悪レイチェルの転送を使って帰宅すればいいかと無理矢理楽観的に考えを戻す。

「…ん? なんだありゃあ?」

目の前に広がっていたのは、数メートル先でツインテールの女子小学生相手に何かを配っているフクロウ姿の着ぐるみだったが、残念ながら光太郎の興味を引いたのはそこから更に数メートル後にある立て看板の陰に隠れている人物だった。

白いシャツとチノパン姿で帽子を目深く被っているその男の姿は大変奇妙であったが、光太郎は見覚えがあった。

(…あれ…総二か?)

思わず二度見してしまったが、その特徴的な癖毛と赤い髪色が決め手となり、間違いなく総二だと見破る。

今の光太郎の心情は、こんな裏道で総二に会えた喜びよりも疑問の方が圧倒的なウェイトを占めていた。だって今の総二はどっからどう見ても不審者にしか見えないからだ。

その目はなにやらもの凄く真剣そうであり、その不審者じみたルックスと行動でますます怪しさに磨きがかかっている。

(まさか…)

ほんの一瞬だが、光太郎は総二のツインテール好きが加速したせいで、遂には幼女を観察対象にしているのではないか…とあらぬ妄想をしてしまったが、いやいや、それはあり得ないだろうと考えを改める。

いくらツインテール好きな総二でもやっていいことと駄目な事の区別はつくはずだし、まさか小さな女の子をストーカーだなんてそんなアルティメギルでもしないような行動を取る訳が…。

「あはは、何だこれきったねー字!!」

「ほんとだー!!」

「う、うむむ…ぬわああああああ!?」

と、ここで小学生サイドに動きがあった。

絡んでいた小学生のせいでフクロウがバランスを崩し、大きく転倒してしまったのだ。あーあ、可哀そうに…とフクロウに同情したのもつかの間、光太郎は度肝を抜かれた。

フクロウの着ぐるみの頭がコロンと取れ、なんと中から更にフクロウの頭が現れたのだ。

(エレメリアン!?)

フクロウ頭の中の人を見た光太郎はとっさに通学カバンにあるテイルドライバーを取り出そうとしたが、あることに気付いてしまい、動きが止まる。

(しまった…ここで変身は出来ない!!)

この裏通り、光太郎が立っている歩道には電柱以外に身を隠す場所がない。しかも電柱の陰に隠れてもその全身を隠せる訳じゃない。身体の半分を隠すことが精一杯だ。これでは変身時に起こる光を隠せず、変身しているということが筒抜けになってしまう。

そして…目の前には女子小学生やエレメリアン、何よりも総二がいる。彼らが光太郎の存在に気付いている可能性もゼロではない以上、ここでの変身はいくらなんでもリスクが高すぎた。

(どうする…!? このままじゃ…!)

目の前では数歩後ずさる小学生と数歩近寄るエレメリアンといういつもの光景があった。だが、光太郎にとっては爆弾の導火線のように思えた。早く答えを出さなければ彼女らはフクロウにやられてしまう。

正直、ここで逃げるという選択肢を取るのも一つの手段だ。踵を返して、彼らから見えない位置まで移動し、変身して今度はテイルファイヤーとしてもう一度この場に駆けつける。それも悪くは無いだろう。

だが、その手段を取るのを光太郎は躊躇ってしまう。

もし、もしもだ。もし、自分が離れた間に女の子に危ない目に遭わせてしまったら? それに関係のない総二まで巻き込んでしまったら?

仮に属性力を奪われても、短時間であれば取り戻すことは可能だ。だが、その間に体験した恐怖は取り除けない。彼女らに暴力は振るわないと思うのだが、万が一のこともある。

「や、やめろー!!」

そして光太郎が取った行動は、最も勇敢で、尚且つ最も愚かな行動だった。

「何だ貴様は!?」

いきなり少女たちの前に躍り出た光太郎に、フクロウは大いに驚いていた。そして光太郎もまた、汗を噴出しながら、腕を大きく広げていた。

「さ…さっさと離れろ!!」

そう、光太郎が取ってしまった行動は『エレメリアンの前に現れ、少女たちを守る』といった死亡フラグバリバリの行動だったのだ。

「ええい、さっさとそこをどかんか! あいにくだが男には何も渡すものは無い!」

「はい、と言ってどく奴がどこにいるんだよ!」

フクロウと喋っている間にも、早くツインテイルズの誰かが駆けつけてくれないものかと願っていたが、その祈りは天に聞き届けられなかったらしい。待てども待てども、彼女らが駆けつけてくる様子が無い。まだ現れて数分も経っていない為か、敵の索敵が遅れているのかもしれない。

(くっそ…)

変身前でこうやってエレメリアンと対面するのがこんなに怖いものとは思わなかった。普段の言動で忘れそうになるが、こいつらは普通の戦闘員クラスですら人間を軽くあしらえるほどの戦闘力を持っている。

変身中でなら、ギアの力で多少の攻撃など屁でもないのだが、生身の今ではデコピン一つ受けただけで敗北してしまいそうだ。

「とにかく! 嫌がっているのに無理矢理そんなもん押し付けるのは良くないことだぞ!!」

だが、その光太郎の正論がフクロウ型のエレメリアンの怒りに火をつけてしまった。

「ぬう…男が私の邪魔をするなぁ!!」

「!」

フクロウは光太郎目がけて配っていた詩集の一つをウチワのように仰いだ。それはエレメリアンにとってはそよ風並みの風力なのかもしれないが、人間にとっては突風にも等しい。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

光太郎は絶叫と共に突風に煽られ、近くにあるゴミ捨て場まで吹き飛ばされる。そしてそこに勢いよく叩きつけられた。その衝撃でゴミ捨て場のゴミが舞い上がり、光太郎の身体はそれに埋まった。

「くそっ…痛ってえ…!」

光太郎は自分がゴミ捨て場に叩きつけられたのに気がつくまでしばらくかかった。

光太郎は自分の身体に乗っかっているゴミ袋をどけながら、忌々しく唸る。

やはりあんな行動取るべきではなかったと後悔したが、ゴミ山から顔を出した際に女の子たちがフクロウから離れて全速力でその場から逃げる光景を一瞬だが見ることが出来たため、結果オーライかと思うことにした。看板の陰から顔を出していた総二の姿も見当たらない。もしかしたらこの騒ぎに便乗して逃げてくれたのかもしれない。

そしてまた、フクロウ型のエレメリアンの姿も無く、もしかしたら撤退してしまったのだろうかという淡い期待がよぎったが、無情にも左腕のテイルリストから鳴り響いた甲高い音でそれはありえないなと思うことにする。

『光太郎!? あんたがいるすぐ側でエレメリアンが出現したわ!』

「あー…そうかい」

『…? あんた、どうかしたの?』

「なんでもない…」

『なら、いいんだけど…』

もうレッドとエレメリアンが対峙しているわ、というレイチェルの声を聞くか聞かないかの内に通信を切る。

「おちおち…寝ても…いられないか……」

ちっと舌打ちをすると光太郎はゴミ山から這い出て、道の向かいにある立て看板へと向かった。

そしてその陰に素早く隠れると、急いでカバンからベルトを取り出し、慣れた手つきで腰に当てると、いつものように構える。

「変身…!」

そしてテイルファイヤーに変身すると、ギアの情報を読み取り、急いで現場まで駆けつけることにした。どうやら近くの路地裏で戦いを繰り広げているらしい。

だが、光太郎は気づいていなかった。ゴミ捨て場に突っ込んだ時に自分の右腕を大きく擦りむいていることに、そしてテイルファイヤーに変身した今でもその擦り傷は健在だということに…。

 

 

 

 

 

 

路地裏ではテイルレッドに変身を遂げた総二とフクロウ型エレメリアンのオウルギルディの戦いが始まろうとしていた。

「我が属性力…滅びゆく文学属性(ブック)の未来の為には、あの書店のようなツインテールな文学少女が必要なのだ!!」

「だからって、そのために誰かを傷つけていいはずがない…誰かの邪魔をしていいはずがない!」

総二の中には二人の人物が渦巻いていた。一人は慧理那、もう一人は光太郎だ。

光太郎が飛び出てきたことは総二にとって衝撃的であったが、オウルギルディによって吹き飛ばされてゴミ捨て場に叩きつけられたということが尚のことショックであった。そして、あの右腕の擦り傷…思い出すだけで悔しくなる。自分がもっと早く変身して飛び出していればあのような事態になっていなかったのでは、と思わざるを得ない。

そしてオウルギルディは次なるターゲットを書店にいる慧理那へと定めた。その見事なまでのツインテールに惹かれるようにふらふらと近づいていた。

その光景に総二は震えた。友に手をかけながらも、尚ツインテールを欲するのかと。恐ろしいほどまでに頭の中が鮮明になっていくのが自分でも分かっていた。

そしてすぐさまレッドへと変身を遂げると、そのままオウルギルディに掴みかかり、路地裏へと転がり込んだ。

全ては傷つけられた友の為に…そして、慧理那が安心してエロ本を買えるために。ただそれだけの為にテイルレッドはオウルギルディの前に立ちはだかった。

レッドはリボンを弾き、ブレイザーブレイドを出現させ、オウルギルディは懐に忍ばせておいた詩集のページを破り取ると、まるで金属製の刃物のように硬質化を果たした。

「「…!」」

そして二つの刃が交差し、激しい剣術戦の幕が開けた。

「ぐっ…!」

「このお!!」

数度のぶつかり合いの後、レッドのブレイザーブレイドの一太刀はオウルギルディの紙のナイフを容易く切り裂くが、すぐさまオウルギルディは詩集の数ページを破り、破り取ったページを投擲する。ページはその手から離れると、即席の手裏剣となってレッドへと襲い掛かる。

咄嗟にレッドは回避したものの、オウルギルディはこれを好機と睨んで果敢に接近戦を試みる。そして突如、肩にあるバズーカのような砲塔をレッドへとむけ、零距離で弾丸を放つ。

「!」

この突然の攻撃をレッドは腰のブースターを吹かせることで無理矢理回避するが、弾丸は右腕に着弾し、大きく餅状に伸びる。そしてその腕を絡め捕り、近くの壁へと拘束してしまう。

「鳥だからトリモチを使うってか!?」

もの凄い粘着力で右腕を拘束するが、レッドはこの事態を貼り付けられた壁ごと引き抜くといった荒技で対処する。小さな身体にくっついたブロック塀といった光景は実にシュールといえる。

「ぬう、なんというダイナミックな幼女だ!」

腕にブロックをつけたままオウルギルディに斬りかかるが、オウルギルディもまた素早い身のこなしでこれを回避する。

「テイルレッドよ、分かってはくれぬか! 世界にはただ滅びを待つだけの悲しき属性が数多く存在する! 文学属性(ブック)もその一つなのだ!!」

オウルギルディは足のかぎ爪を使っての攻撃を繰り出すが、レッドはこれを右腕にくっついたブロック塀でガードする。

「今ならばわかる! ダークグラスパー様もまた、私と同じ思いでこの世界に参られたのだと! 私はただそれを守りたいだけなのだ!!」

「結局は奪うくせによく言うぜ!! 文学が滅ぶ!? 現代人の本離れに嘆いているのかよ!? 悪いけど本を読む心は現代人からは失われていないぜ!!」

「いいや違う! 質の問題だ! どの世界に置いても、文明の進歩と共に消えゆくものがある!! 純なる文学を愛する心もその一つだ!!」

「純然たる…!?」

今度は腕の爪で攻撃が繰り出されるが、レッドもまた剣でそれを受け止める。

「ああそうだ! 今や小説といえば、なっていない文法や無駄なイラストが入っている邪な物ばかり!!これを文学と呼べるとでも思うのか!!」

「それはお前が思っていることだろ! 文学はお前が中心で回っている訳じゃない! そこに存在する以上、それは誰かに必要とされているんだ!! 俺だってパッケージにツインテールが描かれている漫画や小説ばかり読んでいるぞ!!」

「それはテイルレッド、貴様がまだ幼いからだ! 私は子供が文学に触れる入り口としての絵本までは否定せぬ! だがそれだけでは豊かな想像力は生まれない! いつしかお前も文字を通して頭に見えるツインテールの素晴らしさに気付く時が来るはずだ!!」

「それが余計なお世話だって言っているんだ!!」

「黙れぇ!!」

オウルギルディは詩集を繋ぎとめている糸を解くと、幾何物のページが宙を舞う。

「これが…純然たる文学属性(ブック)を愛した私の奥義だ!!」

そして硬質化を果たした紙たちは雨あられのようにレッドへと降り注ぐ。レッドは剣を構えるが、この量の攻撃を防ぐのはあまりにも厳し過ぎた。

「ぐ…!」

レッドの装甲に細かな切り傷が刻まれていく。あまりの猛攻にレッドも対処できなくなっているのだ。

「ふふ…これぞ紙の力なり…決して電子書籍などでは味わえない紙特有の…!?」

だが次の瞬間、その紙の刀は突如として現れた紅色の壁に阻まれる。

「そうやって小さな子に自分の考えを押し付けるのは感心しねえな!!」

「テイルファイヤー! 貴様…!」

オウルギルディは救援に現れたテイルファイヤーの声を耳にすると忌々しそうな視線で見つめる。

「来てくれたんだな、ファイヤー!!」

「悪いなレッド! 野暮用で少しばかり遅れてしまった!!」

申し訳なさそうに話すファイヤーだったが、レッドはそんなことで怒るほど小さくはない。

「構わねえ! おかげで…気合が戻った!!」

レッドは猛る心と共に剣を振るうと、剣から迸った炎で舞い上がる紙たちを一刀両断にする。

「ぬおおおおおおおお! 聖典が灰に!?」

「燃えるのが嫌なら初めから武器として使うな! オーラピラー!!」

レッドは剣を完全開放して、必殺技の体勢に入る。だが拘束されてもオウルギルディは最後の悪あがきとして、まだ燃えていない紙でレッドを攻撃しようと、背後にある紙を操る。

「! 危ない!!」

だが咄嗟にファイヤーがそれに気付き、レッドの後ろに回ってこれを右腕で弾く。

「…ぐ!」

だが、当たり所が悪かったのか、あるいはオウルギルディがその一撃に込めた想いが重いせいなのか…ファイヤーの右腕部分のアンダースーツがすっぱりと切れてしまった。

「ファイヤー!?」

「大丈夫、大したことじゃない! 構わず…突っ込めぇぇぇ!」

「…分かった!」

そしてレッドもまた、剣を構えたまま、腰のブースターで加速する。

「グランドブレイザアアアアアアアア―――!!」

「うおああああああああああああああああああ!!」

伸長したブレイザーブレイドに斬り付けられ、オウルギルディの身体からは炎が発火する。

「お前のこだわりは良く分かった…! だが、それを決めるのはお前じゃない、この世界に住む人々なんだ!! ただ押し付ける愛は、愛とは言わないんだよ!!」

「さ、さすがだテイルレッド……よもや幼子に説教される日が来るとは……む、無念だぁ!」

そしてその言葉を最後に、オウルギルディは爆発四散した。

 

 

 

 

 

 

属性玉・文学属性(ブック)を回収したレッドは、ファイヤーと共にオウルギルディが残していった本の一冊を手に取った。

「…コピーした紙で作った詩集みたいだな」

「何が書いているんだ?」

2人は何気ない好奇心からページをめくるが、書かれている内容に面食らってしまった。

「…………………………なんだ、これ?」

「落書きか?」

最初はミミズがのたくったような絵だなと思ったそれは、よくよく見れば文章のようであった。子供が書いた文章であるのだろうか? と思ってしまうが、それは違うと確信する。

この墨汁が和紙に滲んでいくような文字は、どう見ても子供が描ける文字ではない。どことなくどす黒い怨念を感じてしまうこれは、すぐさま神社でお祓いを頼むレベルの気持ち悪さを感じてしまう。

「……とりあえず、これはもう見ない方がいいな」

パタンと詩集を閉じ、何も見なかったことにするファイヤーであったが、レッドの興味は既に詩集には無く、オウルギルディに破られた右腕部分のアンダーシャツをジッと見ていた。

「…どうしたんだ、レッド?」

「いや…これ…」

まるで驚いたような視線でその擦り傷を凝視している。

「なぁ…ファイヤー、この擦り傷、どこで怪我したんだ?」

「え? ああ…」

ファイヤーが何かを喋ろうとしたその時、誰かがこの路地に近づいてくる足音が聞こえてきた。

「…すまない。この話はまた後で話すよ」

それだけをレッドに言うと、ファイヤーは書店の屋根にジャンプし、姿を消してしまった。急いで後を追おうとしたレッドであったが、ここで予想外の人物に足止めされてしまう。

「…観束君?」

「うおわっ!? え、慧理那会長…ぐ、偶然ですね」

路地の入口には慧理那が不思議そうな目でレッドを見ていた。総二もまさかずっと尾行していたとは言えない為、何食わぬ顔をして挨拶を交わす。

「もしかして、エレメリアンが現れたんですか?」

変身している総二の姿から、慧理那はこの近くでエレメリアンとの戦いが繰り広げられていたのだと察したらしい。

「…ん、まあね。さっきまでこの路地で戦いを繰り広げていたんだ。でも安心してくれ、敵は倒したから」

ほら、とオウルギルディが残していった属性玉を慧理那へと見せる。興味深そうに属性玉に触れる慧理那を尻目に変身を解除した総二は一人、物思いに耽っていた。

(あの傷…丁度、このくらいの長さで…)

ファイヤーのあの傷をどこかで見たような気がするのだ。思い違いかもしれないが、ほんの数分前に見た傷にどこかそっくりだった…まるであの時ゴミ捨て場から出ていた手みたいに…。

(…まさか、まさか、光太郎がテイルファイヤーだなんてことは…)

ほんの一瞬、思ってしまったことだったが、総二はいくらなんでもあり得ないことだな、と苦笑した。自分の立てた空中楼閣の仮説は、あまりにも信憑性に欠いていた。

いくらなんでも腕の傷だけ正体を決めつけるのは明らかに証拠不足だ。もしかしたらあの傷は元々あった物かもしれないし、腕の傷一つだけで決めつけてしまったら、いくらなんでも光太郎に失礼すぎる。

(それに、俺以外に女になるヒーローがいてたまるかって話だよな)

あはは…と空笑いをしながら自分の仮説を脳内のゴミ箱に放り込むと、慧理那は突然悲しそうにうつむき、無念だと云わんばかりにツインテールを震わせた。

「ど、どうしたんだ会長!?」

突然の行動に総二は驚き、慌てふためく。

「…観束君、私、あなたに謝らなければいけないことがありますの」

「あ…謝りたいこと?」

「……えろほんを、買えませんでしたわ。18歳以上でないと販売することが出来ないと店員さんから言われてしまいましたわ……」

「え」

涙目で震える慧理那に面食らってしまう総二。そして、この当たり前といえば当たり前な結末に、一気に脱力する羽目になってしまったのだった。




ちなみに作者は親父の書斎の引き出しで、偶然親父のエロ本を見てしまった時の衝撃が今でも忘れられません。知りたくもない親父の性癖を知ってしまった高校2年の夏…多分、死ぬまで忘れないでしょうね、あれは。

さて、総二に疑いの目を向けられた光太郎はこれからどうなってしまうのでしょうか?
それは次回のお楽しみという奴でしてね…。

では次回もお楽しみに!!

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