俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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今回は所謂、繋ぎ回ですね。今後につながる色々な要素がありますよ~。


第45話 布石とツインテール

エレメリアンの秘密基地の朝は早い。特に雑用係であるフェンリルギルディの朝はなお早い。彼には早朝分の雑用が控えているからだ。

「モケ!」

「…ああ、分かっています。今日は清掃ですね」

一匹の戦闘員が指差した先にはタオルやシーツ、枕カバーといった大量の洗濯物が詰まれていた。全てこの基地内に暮らしている戦士たちのものであり、先日回収されたものである。

その隣にはバケツやモップが置かれており、掃除も雑用の内に入っているのだろうと察する。

「モケ!」

「はい分かっております。ピカピカに洗っておきます。それに清掃もですね」

「モケモケ!!」

素直に直立不動して答えたフェンリルギルディの姿勢に満足したのか、戦闘員はそれ以上何も言わずにデッキを後にする。

「…くそ!」

そしてデッキ内に人気がなくなった途端、フェンリルギルディは苛立ちをぶつけるが如くバケツを蹴っ飛ばした。

「くそ! くそくそ!!」

ガンガンと何度もバケツを蹴飛ばし、その度に蹴飛ばした音が辺りに響く。そして周囲のものを手当たりしだいに、殴り、蹴り、投げ飛ばした。メチャクチャに暴れまわり怒気をブチ撒けるフェンリルギルディの姿は恐ろしくもあり、同時に哀れにも見えた。

フェンリルギルディの本来の力ならば、バケツを蹴っ飛ばした途端に粉みじんに粉砕するくらい訳がない。だが、蹴飛ばしているバケツは破損どころかへこみの一つも見られない。

己の力の源である属性力の大半を奪われ、そして今もなお衰えているフェンリルギルディの現状は、年老いた老人そのものだった。戦えるだけの力どころか、今や戦闘員以下の身体能力しかフェンリルギルディは有していないのだ。

…やがて疲れたのか、それとも自分のしていることが馬鹿らしくなったのか、転がったバケツを起こすと項垂れるようにその上に座った。

「くそ…」

そしてすぐさま自己嫌悪に陥り、頭を抱えた。

確かに戦闘員にデカい顔をされて、腹が立ったのは事実だ。だがそれ以上に腹が立つ人物がおり、その人物のことを頭に思い浮かべるだけで苛立ちが募っていく。

それは己のプライドを傷つけたスワンギルディでも、ツインテール属性ばかりを贔屓するアルティメギルの首領でも、ましてや己に粛清を下したダークグラスパーでもなかった。

フェンリルギルディは己自身に腹が立っていた。あの時、何故自分は刀を抜いてしまったのだろうか…。あれさえなければ、自分はこうしていないのではないか…。そういった悔恨ばかりが頭を去来する。

フェンリルギルディはたびたび、現在のような状況にならなかった場合について、繰り返し夢想していた。アルティメギルが侵略してきた世界は、同じ人間が住んではいるものの全く違った進展を見せていた。そんな風に、何かのほんの些細な行き違いで何もかもが冗談ですまされるようなIFを想像する。

ダークグラスパーは何らかの都合でここへはこなかった。あるいは来たとしても数日でここを去ってしまう。そもそもこの基地に寄らずに直接地球に降り立ち、自分たちと違う第3勢力として活躍する。

そもそも自分はまだ暗躍などしていなかった。気を熟すまでじっくりと待ち、リヴァイアギルディとクラーケギルディが殉職したのを気に一気に行動を開始する。隊長を失い、どうすればいいのか分からないであろう連中を引き入れ、組織の中で発言力を得ていく…。

またはクラーケギルディの忠告を素直に受け入れ、己の属性力を高めることに集中する。そうしていく内に暗躍やくだらない野心が薄れていき、アルティメギルの掟を思い出していく。

あるいはダークグラスパーとの対談の際に手出しをしないで、じっと耐えている。そうすることで今の身分は失ったものの、力だけは奪われずにすむ。自分は落ち込むが、スワンギルディを始め、同僚たちが慰めにやってくる。最初は迷惑そうに思うが、人恋しさからか、しばしば自分も同僚たちと相手をするようになる。そしてその内に…。

だが現実は何一つ変わりなどしなかった。戦士フェンリルギルディは死に、戦闘員にペコペコ頭を下げる雑用係のフェンリルギルディだけが残った。

「私は…雑用をするためにここにいる訳ではない…!!」

では何をするためにここにいるのか? そう問われると、何も言い返せなくなるのが現状だった。

戦士として戦える訳でもなく、戦士として死ねるわけでもない。戦う力すらない今の自分にとって、普通に出撃し、己の属性力について自由に熱く語れる同胞がハリウッドのセレブのように感じてしまう。

いっそのこと、ツインテイルズに殺される為に接触でも試みようか…そんな自棄気味な考えまでもが頭に浮かぶ。

「…仕事を、しなければな」

そんなことを呟きながらも、フェンリルギルディはばら撒いてあちこちに散った洗濯物を一つずつ拾う。

そんな堂々巡りの思考をしていく内にも時間は過ぎていく。もし時間内に仕事が終わらなければ始末書が待っている。最悪、雑用期間が延びて今以上に立場が危うくなるかもしれない。

「くそ………」

小走り気味で基地内を歩くフェンリルギルディの足音で、アルティメギルの朝は始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま…じゃ、行ってくる」

朝食をすぐさま食べ終えた光太郎は食器をシンクへと置き、通学カバンの中にテイルドライバーを放り込んで靴を履く。

「なあレイチェル、今日は遅くなるのか?」

「今日はずっと家に居るわ。昨日は心配かけさせてごめんなさい」

レイチェルは朝食をテーブルの上に乗せたまま、こちらを見向きもしないで答える。

「…帰りが遅くなるんだったら、連絡の一つでも入れてくれよ。こっちだって心配するからさ」

「…分かったわ」

思い出すのは昨夜のことだ。

学校から帰ってきたら、家にレイチェルの姿がなかった。この事は別に珍しくもなんともないのだが、いつもなら絶対に帰ってくる7時を過ぎても、一向に帰って来る気配がない。

光太郎も流石に心配だった。レイチェルは並行世界の住人だし、それが原因でアルティメギルの毒牙にでもかかってしまったのではないか…と要らぬ妄想までしてしまった。天才的な頭脳を持つあいつがアルティメギルに狙われてしまう要因なんていくらでも想像がつくし…。

心配で居ても経ってもいられずに部屋をうろちょろとし、時刻は8時に差し掛かろうとしたその時にレイチェルはようやく帰って来た。

思わず連絡の一つでもよこせ! という言葉が口から出かけたが、レイチェルの顔を見た瞬間に引っ込んでしまった。

『遅くなって、ごめん、なさい』

…何故ならレイチェルは目をパンパンに腫らしていたからだ。真っ赤な目でヒックヒックとしているレイチェルの姿は、家に帰って来る前にどこかで泣いていたのだということが光太郎には一目で分かった。

なにかあったのか、アルティメギルにでも襲われたのか、もしかしてダークグラスパーか?と問いただしたがレイチェルは無視を決め込んで、何も語らずに夕飯を食べまくっていたのでこれ以上聞くのはマズイと判断し、今に至る。

結局、聞きだせないまま朝になってしまい、昨日レイチェルがどこに行っていたのか、何で泣いていたのかも分からないままだ。

無理矢理でも聞けば話してくれるかもしれないが、あの泣き具合はただ事じゃない。俺が傷ついたレベルの出来事があったのだろうと俺は勝手に想像する。

「じゃ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

レイチェルの見送りを受けて、俺はアパートの階段を下りる。

とりあえず、今日の晩にでももう一度聞いてみるとするかなぁとぼんやりと考えながら、外の空気を胸に吸い込む。

「…涼しいなぁ」

季節は6月。今日から衣替えが始まり、俺の制服も夏服へと変わった。

ブレザーを脱ぎ、半袖シャツとなった上半身は少し軽いものの、まだ少しだけ肌寒く、ぶるると身震いしてしまう。

そして、俺たちのツインテールを守る戦いも、早くも二カ月目に突入した。相変わらずアルティメギルの侵略は終わる気配がないし、ダークグラスパーの目的も分からずじまい。

俺としては一刻も早く、戦いが終わって平凡な日々が過ごせればいいんだけど…。

「やっぱり女たるもの、肌は出せば出すほどいいですよね! 水着で登校してもいいかも」

「ふーん」

「!」

すると背後から大変聴き覚えがある声が耳に入ってきた。思わず、さっと近くの電柱の陰に身を隠す。

「というかさ、あんたなんで夏服の上に白衣羽織ってんの? 暑苦しいわ」

「ふふん、分かっていないですね~! この白衣は自動温度調節機能がついているんですよ!! 夏は涼しく冬は暖かい! そう、この天才少女トゥアール様にかかればこんな白衣の一つや二つ!! 総二様もお一ついかが!? というか、むしろ私の物をプレゼント…」

「…あー、俺はいいや、うん」

数メートル先にいるのは、昨日エロゲなるものを学校に持ち込んだトゥアールさんとそのことについて必死の弁明をしてくれた総二と愛香さんだった。

(…まぁ、昨日の事件は…嫌な、事件だったね、うん)

昨日の部室内のアクシデントは、まるで超大型台風の直撃の如く俺に多大な被害を出した。

人様のパソコンを勝手に見てしまった挙句、しかもよりによって起動中のエロゲを拝見してしまうという、常人ならばもう学校に来れないであろう即死クラスのコンボをかましてしまった。

これがまだ本人にばれるのならまだしも、彼女の親友である総二や愛香さんにばれてしまったのがまた気まずい。あまり接点のないトゥアールさんにやられるよりも、知り合いの総二や愛香さんといった友達にばれたことこそが変な空気を醸し出していた。俺がこうやって物陰に隠れてしまうのもそのせいだ。

昨日は総二や愛香さんといったトゥアールさんを良く知る面子からの長時間にわたる説得と『このことは絶対、他言無用よ!』と悲しいほどまでの念押しを受け、帰宅を許された。…こんなこと俺だって話したくないし、きっと話す機会もないのだろうけど。

まぁ…昨日の総二たちの説明によると昨日の事件のそもそもの原因は『トゥアールさんが妙な知識が豊富なのもそういったことに多大な興味をしめすのも、性教育が発達している外国で育ったせい』という説得力があるんだかないんだか分からない原因があるのだが。

パソコンのエロゲも日本なら即アウト物なのだが、トゥアールさんが暮らしていた地域はエロゲなどの性的なアイテムに対しての規制が緩く、日本でいう携帯ゲーム機感覚で普通に持ち運びしているらしいのだ。

更に日本の文化が外人に人気があるのと同様に、日本産のエロゲも大変人気があるらしく、トゥアールさんもそういった日本産エロゲをコレクションしており、昨日はそのゲームディスクが偶々パソコンに入ったまま、学校に持ってきてしまった。

そして慧理那会長が彼女のパソコンにぶつかった際、偶然にも中断していたエロゲが再開されてしまって…といった数々の偶然が重なり合った結果、昨日の事件が発生してしまったというのが総二たちからの話を総括した事の真相だ。

まぁ、確かに日本産の商品は外人受けもいいし、誰かに悪気があった訳じゃない。幸いにも本人がいないので何も見ないことにした方が互いの為だし、俺だってこんなこと人様に話したくもない…と、このことはあの部室にいた全員だけの秘密ということで事件は一応の解決となった。

(でも、知らなかったとはいえ、人前でエロゲをプレイしたパソコンを放置って…なんちゅう精神力の強さなんだ…)

もし彼女がツインテイルズの一員だったならば、かなりいい線をいくと俺は思っている。なんせ、自分の知られたくない秘密が入っているパンドラの箱を宙ぶらりんのまま放置とは、中々度胸が据わった子だと思う。やっぱり人種の違いっていうのもあるのかな? 彼女がツインテールに興味を持たないことが実に悔やまれる…。

秘密をばれることを恐れる俺にとって、今回のことは良い教訓になったと思う…とりああえず、テイルドライバーの徹底的な管理をこれからは行おう、うん。会長の件についても、なるべく水際で済ませるようにしなければ。

と、ここでトゥアールさんはハイテンションな声がこちらまで聞こえてきた。

「うわー、テンション低いですね愛香さん! わーい、愛香さんの頭に私のおっぱい乗せちゃえ――!!」

「おのれが高すぎるんじゃクソボケェェェェェェェェェ!!」

ああまたいつもの光景が…と思ったが、今日は違った。

「!?」

「あ、あたしの拳が…!?」

なんと愛香さんの拳が空を切り、トゥアールさんは悠々と無防備になったその頭を胸に乗せたのだ。

「あんた、また変な発明使ったわね!?」

「ふっ…ミルクチョコレート並みに甘い発想ですね愛香さん。今までの愛香さんの攻撃に慣れた私にそんな雑なパンチなんて通じる訳がないじゃないですか」

「…!!」

怒りで我を忘れている訳でもないのに、あの愛香さんの拳が鈍ったとでもいうのだろうか?

「ふふ、教えましょうか? 何故愛香さんのパンチを見切れたか…! …愛香さん、あなたは夏服で胸を張ることを極端に恐れていますね? 汚れなき新雪のような夏服は胸部部分が目立ってしまう分、あなたのフォームは崩れてしまった。自らの貧乳をさらけ出すことを恐れてね…。つまり『ブレザー』という加護に守られていたあなたの拳は、衣替えによって半減したのです!!」

…全然、大した理由じゃなかった。むしろ愛香さんの怒りの炎に油をぶち込んだ。

「何憐れんだ目で見てんのよ! ミンチにするわよ!!」

「ふふ…出来るものなら、やってみてください! 貴方の貧乳をさらけ出してもいいのならばね…!」

「ぐ、ぐぐ…!」

愛香さんが怒りの形相で凄んでも、トゥアールさんは余裕を崩さない。むしろますます余裕に拍車がかかっている。

まるで虚勢を張る子供みたいに愛香さんは悔しそうに歯を食いしばっている。

そしてトゥアールさんのターゲットが愛香さんから総二へと移った。

「さあ総二様! 改めて見てください、この夏版トゥアールを!!」

「あ、あー…トゥアール、お前意地でも白衣を脱がないんだな…」

さあ、と言われても総二にはトゥアールの衣替えにそれほど劇的な変化を感じ取れなかった。

いくらブレザーを脱いだところで上から同じ白衣を羽織っているせいでほぼ変わっていないと言いたいのだろう。

「んもう! 全然違うんですよ! 白衣の透明度も3倍上がっていまして、お肌もスケスケに…!」

「いや脱げよ」

「ほぉううううううううううううううううううううううううううううううううううううまさかそんな大胆な発言が飛び出してくるだなんて―――――!!!」

汽車の汽笛のような雄叫びを上げたトゥアールは総二の「白衣を脱げ」という発言を全くの別の意味で解釈してしまったらしい。

目を血走らせながら白衣を脱ぎ、そして公然の場である通学路でシャツのボタンを引きちぎらせようとした途端―――俺は電柱から飛び出した。

「「「!?」」」

総二には悪いと思ったが、俺は総二の首根っこをむんずと掴むとトゥアールさんから少し離れた地点まで引っ張った。

「んなぁ!? このモブは私のサービスカットをことごとく…!」

突然の乱入者にトゥアールさんの反応が一瞬だけ鈍った隙を愛香さんは見逃さす、脱ぎ捨てた白衣をトゥアールさんの顔面へと巻きつける。

「モゴ――!!」

確かに彼女が言っていた通りに白衣はスケスケだった。じっとしていればあれだけ美少女なトゥアールさんの顔は、まるでストッキングを頭にかぶせられた妖怪へとなってしまっている。あるいは復活したてのミイラか。

「いいわトゥアール、あたしは戦う…人として、女として…忌々しい夏と共に自分の胸ともね!!」

「コキュ――――! コキュ――――!!」

これ以上ないっていうくらいの必死な訴えも愛香さんは聞く耳持たずで、愛香さんはトゥアールさんに感謝の言葉を述べる。

「そして感謝するわ…あたしの拳が鈍ったのをわざわざ教えてくれて!!」

「ケッ、ケッチューサンソノード!!」

ああ、まるで愛香さんの姿はバッファローギルディ戦でのテイルブルーみたいだ。だがあの時のブルーと違うのは、その顔は怒りに染まっておらず、決然としていることだ。

まるで獲物をしとめた猟師の如く、白衣で縛ったトゥアールさんを引きずる最中、一陣の風が吹いた。

「なあ光太郎…」

「ん?」

ふと総二はそんな愛香さんを見ながら、俺に感情深く呟いた。

「愛香のツインテールさ、また一段と凛々しいじゃねえか…」

夏風にそよぐ青色のツインテールは、まるで愛香さんを代弁するが如く激しくそよいでいた。

ああそうだな、と俺は心の中だけで総二に同意した。

 

 

 

 

 

 

「お、おはようございますわ、皆さん…」

「おはようござ…いいっ!?」

光太郎たちは共に校門の近くまで来たところで慧理那会長と会った。丁度生徒会によるあいさつ運動を行っているらしい。だが、驚いたのはそれが原因ではなかった。

「え、えり…会長!?」

「す、凄いクマですね…」

総二は他の生徒もいる中で名前呼びはマズイと判断したらしく、会長と言い直した。

「ええ、インターネットで調べ物をしていて…少し寝るのが遅く…あふぅ」

慧理那会長の目の下には化粧でも隠せないのではというほどのスーパーなクマがあり、若干やつれている。思わず出てしまった欠伸と共に揺れるツインテールにメロメロになりかけるが、光太郎はグッと堪える。

「ですが…結局、家のパソコンではフィルターがかけられていて…どんなに検索方法を変えても、えろほんには辿りつけませんでしたわ…」

…ん? 今変なワードが飛び出したような…エロ本?

「そんなことあたしたちに言ってくれればいくらでも…」

「も、もがが…たかが電気屋のフィルターなんて私が解除して…!」

頼もしい発言であったが、捕獲された宇宙人でももう少し丁重な扱いを受けるだろう…といった状態で引きずられているトゥアールさんとそれを持つ愛香さんが言っても説得力が皆無だ。

「ええ…確かにそれも思いました…ですが! これは私に与えられた試練! 必ずや自分の力だけでえろほんを手に入れ、観束君の役に立ちますわ!!」

「……………………………………」

そう健気な笑顔で返す会長であったが、光太郎は訳が分からなかった。まるでパピヨンギルディ戦でイエローの変貌に付いていけなくなった時の光景とダブるな、とデジャブを感じていると総二はこそっと真相を囁いた。

「…どういう訳か、俺にエロ本をプレゼントすると仲良くなれるって思っているらしくって」

「なんでそうなったんだ!?」

「俺もいらないっていっているんだけど、どういう訳かだな…!」

「…ウー、ワンワン!!」

「――! きゃあ!!」

「「!!」」

すると突然、慧理那会長目がけて走って来る影に2人は気づき、咄嗟に前へ出る。大型犬が飼い主の手を振り切って、こちら側に近づいてくるせいだ。

総二は前方に躍り出て迫りくる犬をガードする壁の役割を、そして光太郎は慧理那会長を安全な場所まで離れさせる役目を僅かコンマ数秒の間に決める。位置的にも、愛香さんから一通りの武術を習っている総二の方が壁の役割は適任だろう。

前方で犬と格闘を繰り広げる総二に心の中で詫びながらも、光太郎は会長のツインテールを庇うように犬から離れて校門近くまで会長を避難させる。

賑わう生徒たちの隙間を縫いながら入っていたせいか、短い距離を走っていたにも関わらず、随分長い事走っている気がした。

「ふう…ここまでくれば…」

ワンワンという犬の声からだいぶ遠ざかったことから、結構離れた場所まで来てしまったなと思っていると、俺はふと大変なことに気付いてしまった。

「あ…!」

なんと会長の小さな手をぎゅっと握りしめていたのだ。逃げる時に無意識の内に掴んでしまったのだろう、会長の手は俺に握られたせいで真っ赤になっていた。

「す、すいません! 不可抗力とはいえ…!!」

「い、いえ…気にしていませんわ…」

慌てて手を引っ込めたが、会長は初めて会った時のように大丈夫だというディスチャーをしながらクスクスと笑った。

「それにしても…丹羽君は随分と慣れていましたね、なにかそういった習い事でもやっていたのですか?」

「あ、はは…いや、まぁ、慣れといいますか少しだけ…」

「慣れ…?」

ツインテイルズを初めて2か月ちょっと。どうしても避難させなきゃならないときはこうやった避難活動も行うため、自然と上達してしまったらしい。

…にしても、さっきの総二との連携はまるでレッドと組んでいるみたいだったなぁ、何でなんだろう?

「……?」

すると不意に視線を感じた。

登校中の生徒が足を止めて、俺たちを見ている。というか、ほとんどが好奇心ではなく、憎しみがこもった目でだ。

「あいつ、会長と親しげだが何者だ!?」

「一年の丹羽って奴だ! あいつ、会長に呼び出されたって後輩から聞いたぞ!!」

「畜生、なんであんな地味で根暗な草食系が慧理那会長と…!!」

ダラダラと嫌な汗が流れてくるのを感じ、俺はとっさにその場から逃げた。

「「「あの一年をひっ捕らえろおおおおおおおおおおお!!」」」

「じゃ、じゃあ! 会長、お元気で!!」

光太郎は生涯で一番早い身のこなしでその場を離れると、全速力で校舎へと向かった。

「この野郎! 喋るだけでなくお触りもしやがって!!」

「羨ましいぞ畜生!!」

「うわあああああああああああああああああああああああ!!!」

そんな絶叫のせいか、光太郎は慧理那がポツリと呟いた一言を聞き逃していた。

「…丹羽君、私を助けてくれたあなたはまるで…お姉さまみたいでしたわね」

 

 

 

 

 

 

一方アルティメギルの秘密基地の一室。足の踏み場もないほどの段ボールで埋め尽くされているその部屋の主の名はオウルギルディ。

「…やはり、身内から広めようとしたことは間違いであったか…?」

文学属性(ブック)をこよなく愛する彼は、同士たちにこの属性の素晴らしさを広めようとしたが、一向に上手くいかない現実に嘆いていた。

昨今、活字離れが社会問題と化しているが、その波の被害はアルティメギルも例外ではないらしい。オウルギルディも食いつきが悪い同胞に嘆き、自作のポエム集の普及を諦めてしまっていた。

曰く『文学は死んだ』『今はデジタル時代だ、アナログは廃れる運命なのだ』『古いものばかりすがっていては老人のままだ』らしい。

「ダークグラスパー様は侵略作戦である眼鏡属性(グラス)の拡散を成し遂げておられるようだ……さすが首領様の直属戦士。仕事の腕もエリートか…」

しかし、この程度で諦めるのならば、オウルギルディは再び決起することはなかったであろう。

オウルギルディは今朝、一つの希望を見出した。

「……」

彼は正座をしながら一冊のノートを眺める。その黒色のノートはゴミ出しの際に偶然、ゴミ捨て場から拾ったものである。

「…ふむ」

それは誰かが書いた自作のポエムノートであった。オウルギルディはまるで聖書を読むが如く、熱心にそれを読みふける。そして、最後のページの一文字一句まで読み終えると、満足げにノートを閉じた。

「…やはり…文学属性(ブック)は滅んでなどいなかったのだ!!」

感無量とばかりに叫ぶオウルギルディは、嬉しさのあまりに涙を流してしまった。それほどの感動がこのノートには詰まっていた。

「そうだ…これが文学だ…これこそが文学属性(ブック)だ…書き手の文字がまるで私の胸に染みわたっていくかの如く…」

決してデジタルでは感じられないであろう紙とインクの匂い、そして書き手の想いや癖がそのまま反映される文字…時代遅れと一喝するには惜しい魅力がその属性力には込められていた。

自分に今一度火をともしてくれたポエムに報いる為に、オウルギルディは次の行動に出ることにした。

「…ツインテールを奪うという命題さえ成せば、己の愛する道は許されるということ」

オウルギルディは厚い布を糸で繋ぎ、丁寧に針で縫っていく。

雑用にまで格下げになったフェンリルギルディはツインテール属性を軽んじたせいで堕ちた。ならば、ツインテールを奪うという使命さえ果たせば、後は各自の自由ということになる。

「より多くの者にこのポエムを見せ、今一度文学属性(ブック)を復権させてみせる…!!」

男、オウルギルディ。命令を待たずに彼は、一世一代の作戦を成功させるための行動を始めていた。

 

 

 

 

 

 

一方同じ基地内にあるダークグラスパーの自室では。

「ない! ないないどこにもない!!」

ダークグラスパーが部屋中にある机や棚をひっくり返していた。その度にボロボロと紙束やディスクが散らばる。

「おいメ・ガネ!! わらわのノートを何処へやった!?」

「ノート?」

「A4サイズで黒色の奴じゃ!」

キッチンで朝食を作っているメ・ガネは面倒くさそうにチラッとだけ顔を出す。鋼鉄の身体にエプロン姿というその光景は実にシュールな光景だった。

「知らんわそんなこと…掃除した時に色々捨ててしもうたからなぁ…」

「! わらわの物には触れるなと言っているではないか!!」

「何度言っても散らかしたまんまのイースナちゃんが悪いんやないか…ウチは何度も言うたで! 片付けない物は捨てるって!床に放り投げられたノートなんかゴミと思って当然やろ!!」

「おかんか貴様ああああああああ!? あれは要らないんじゃなくて、テイルファイヤー用のエロゲ厳選でスペースが無くなって、置き場所がないから偶々あそこに…!」

「全く…変身ばっかりしているから悪い子になるんやでぇ…?」

甲高いが母性を感じる声で呟くメガ・ネプチューン。そんなメ・ガネの対応にいつもの威厳はどこへやら、おろおろと慌て始める。

「完全に捨てたのならばまだいい! もしあれが人目にでも晒されることがあってみよ!! あれはわらわの乙女の純情を書き示した淫心の書物、ここの馬鹿どもが目にした途端に果ててしまうぞ!」

「…それはないわ、絶対に」

「なんじゃとう!?」

「純情な乙女はエロゲなんかせーへんもん」

ゴミ捨てが完璧でなかったおかんロボットのおかげで、一人の戦士を果てさせるどころが回春させてしまったのだが、それを2人は知る由もないのだった。




何気にIMBELの周りには電子書籍派が多いですが、私は何時まで経っても本派ですね。
やっぱり実際にページをめくっているっていう感覚がなければ、読書をしているって感覚がないですから。原作小説も全部本ですしね…おかげで本棚がパンパンだぜぇ。
…では、ここら辺で恒例の嘘? 予告でもやりましょうか!


※この予告は“例のあの声”と”あのBGM”で再生してください。

次回予告

君達に最新情報を公開しよう!

遂に試練の時はきた! 総二の為にエロ本の購入に向かう慧理那!

そしてそんな慧理那へと近づくオウルギルディの姿が!

しかしそんな彼らの元には何も知らない光太郎までもが巻き込まれ…!?

我らがツインテイルズたちは、慧理那の試練を無事に成功させることができるのだろうか!?

The Another Red Hero ネクスト!『譲り得ぬ物』

次回も、このチャンネルでファイナルフュージョン承認!!!

これが勝利の鍵だ!! 【右腕の擦り傷】

…さて、お知らせがあります。
今後、この作品の更新ペースは今までよりも落ちます。…ですが、出来るだけ続けていきたいと思うので、応援よろしくお願いします。

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