俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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全然話が進まない!


第3話 怪人はツインテールがお好き?

『全てのツインテールを我らの手中に収める!』

開口一番、大声で世迷言を叫んだ怪人はその歩みを止め、パチンと指を鳴らした。

「「「モケモケー!!」」」

その合図でどこからともなく怪物の周りに全身黒ずくめの恰好をした奴らがわらわらと出て来る。全員同じ格好をしているこいつらは所謂、戦闘員って奴なのだろう。

「諸君! 今から我々は先鋒部隊として初めての任務を開始する! 体長殿の面子にかけて、絶対に失敗は許されぬ!!」

怪人は握りしめた拳を天高く突き上げ、戦闘員全員に向けて演説を始めた。

「まずは手始めに、この町にいるツインテールの女子全てをここへと連れてくるのだ! この周辺に極上のツインテール属性が集中しているのは既に調べがついている、草の根分けても探し出せ!」

「「モケケー!」」

怪人の演説に賛同するように戦闘員も次々と手を上げて、掛け声をあげている。その光景に満足したのか、怪人は「うんうん」と嬉しそうに頷いていた。

(…何これ、コント?)

目の前で繰り広げられている光景に光太郎はもう呆然とするしかなかった。こいつなんて流暢な日本語で犯罪ギリギリの発言を口走っているんだ。

「さあ行けぇ! 」

そして、戦闘員があちこちへと散らばっていくのを確認した後、怪人はうーむと顎に手をあてて悩み始める。

「ふむ…しかし、ツインテールの女子だけを集めるのはどうも、な。やはり私の好みであるうさぎのぬいぐるみを持った幼女も連れてこいと命じるべきだったな。よし、あやつらが帰ってきたら…む?」

「あ」

ぶつぶつと呟く怪人はふと何かの気配を感じ、ゆっくりと光太郎がいる方を向いて…互いの視線が交差した。

「「…」」

一体どれくらい見つめ合っていたんだろう? 数秒、あるいは数分? 初対面の怪人の知りたくもない好みを勝手に聞いてしまい、凄くきまずい空気が形成されていくのをはっきりと肌で感じる。

「…何だ貴様は」

先陣を切ったのは怪人だった。襲われてしまうのではと反射的に身構えていたので、怪人側からの対話に俺はテンパってしまう。

「あ、その、あなたは…さっきツインテールとか幼女とか、その…」

「ああ、言ったが?」

怪人はさも当然のような口調でそう言った。何だろうこの怪人、凄いダンディな声をしているのに、その声でツインテールとか幼女とかが混じっているだけで全てが台無しになっている気がする。人間と怪人、未知との遭遇の第一声がこんな会話で良いのだろうか?

色々と呆れる光太郎の気持ちなど知るわけもなく、怪人は光太郎の体を品定めするようにじろりと見て、ふんと鼻で笑った。

「なんだ、男か」

…何か無性に腹が立ってくるのは気のせいか? 何で俺は変態発言を繰り返す怪人なんかに鼻で笑われなければならないんだろうか?

「我らが求めるのはツインテール属性を持つ女子とうさぎのぬいぐるみを持つ幼女のみ! 男のお前になんぞ用はない!立ち去れ!」

光太郎は呆れるのを通り越して、頭が痛くなってきた。さっきから怪人は真面目な口調でとんでもない変態発言をズバズバ言っているし、それに…こいつのうさぎのぬいぐるみに対する並々ならぬこだわりは何なんだろうか。

「…早くここから立ち去れ」

いや、そんな唸るような声で立ち去れと言われても。俺は別に居たくてここにいるわけじゃないし、まだ昼食も全部食べてないし…。

「もう一度だけ言う」

怪人は自分の命令を聞かない光太郎に腹を立てたのか、ついに実力行使に出た。光太郎の目の前に駐車してある車をむんずと掴み、そのまま無造作に放り投げた。車はまるで見えないロープで吊るされているみたいに長い間空中を漂い、およそ数百メートル離れた地点に激突し、そのまま静止した。

「…とっとここから立ち去れぇ!!」

最後通告だ、と言わんばかりに怪人は恐ろしい眼光で光太郎を睨みつけた。

「は、はいぃぃ!」

俺は条件反射で飛び上がり、慌ててその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

予想外。今の状況を説明するにはその一言に過ぎるだろう。奴らの行動が予想よりもあまりにも早かった。

「モケー!」

「きゃあああ!!」

慌しく走り抜ける幾つもの戦闘員の足音と時折聞こえてくるツインテールの女子たちの怒声と悲鳴。その中を少女は疾駆する。

茶髪を靡かせ、白衣を揺らしながら走る少女は、心の中で毒づいていた。

(ああもう、まだこっちはこれの適合者も見つけていないのに!)

手元に握られているベルトに視線を落として、舌打ちをする。結局の所、今に至るまでこいつを扱える人間が見つけられなかった。昨日、これを扱える人物を取り逃がしてしまったミスをますます責め立てる。

そしてさらわれていくツインテールの少女たちを放って逃げている自分。せっかく奴らに対抗できる力が手元にあるのに、何もできない。でも自分が捕まる訳にもいかないから逃げるしかない。

そんな自分の行動が情けなくて、悔しくて、泣きそうになる。

…こんな時、あいつならどうするだろうか? ふと、ここにはいないある人物の事を思う。あの無駄に良いスタイルと天才なのか馬鹿なのか良く分からない頭脳を持っているあいつならばこの状況でどうするだろうか?

ぼんやりと頭にその人物が浮かんだが…直ぐに振り払った。

あいつは今ここにはいない。いない人物を頼ったってすがったって仕方ない。それに…仮にあいつに会ったところで何を話せばいいんだろう?

「…!」

とにかく、今はこれを扱える人間を探し回るしかない。少なくとも彼女たちがツインテールが奪われても、短時間であればまだ取り戻せる。

だから、まだ諦めては駄目だ。少女は溢れようとする涙を引っ込めて、走るスピードを上げた。

 

 

 

 

 

 

『マクシーム空果』の屋外駐車場の一角。そこには戦闘員に捕えられたであろう女性たちが複数いた。年代は小学生から高校生まで様々で、彼女らに共通しているのはツインテールをしているということのみ。彼女らを囲むように戦闘員が待機しており、何人かにはバズーカとも見える武器を所持している。そんな彼女たちが怯えているその横で、コソコソと動く人影が一つあった。

犯罪者は必ず現場に舞い戻る。嫌な言葉を頭に浮かべながら、光太郎は怪人と遭遇した駐車場脇のベンチを目指して、音もなく駆け抜けていく。

(…ちくしょう)

さて、何で俺が怪人に追い払われてもこの現場へと戻って来てしまったか? その答えは俺がとある忘れ物をしてしまったからだ。

ベンチ下にある小さなスペース。そこに俺の通学カバンをすっかりそのまま忘れてきてしまったのだ。別に通学カバンぐらい放っておいても…と思う人がいるかもしれないが、そうもいかない。なんせあそこには財布やケータイ、自宅の鍵や生徒手帳など今後の生活の必需品がこれでもかという程に入っている。あのカバンがなければ俺は買い物どころか家の中に入る事すらできないのだ。だから絶対にカバンを回収しなければならなかった。

「それにしても、ツインテールの少ない世界よ―嘆かわしい! これだけ電気と製鉄にまみれながらその実、石器時代で文明が止まってると見える!!」

もう何なんだろうな、あいつ。駐車場脇の茂みの陰に隠れて、匍匐前進をする俺は怪人の怒りの叫びを聞きながらつくづくそう思う。

もう、とことん意味が分からない。なんでそこまであんたらはツインテールを求めているのだとか、ツインテールを奪うだとか。ツッコミどころは探せばいくらでも出て来る。もう俺の中ではツインテールという単語がゲシュタルト崩壊を起こしていた。

さて、俺が荷物を回収するにあたって、一か所だけ危険な場所を通らなくてはならなかった。最後の砦、ベンチまで残りの数メートルの直線だ。茂みが無く、隠れる場所もない。さて、どうするか…。

「何、ぬいぐるみを持っている幼女がいない!? ふむ、女がぬいぐるみを持たぬなら、持たすが男の甲斐性よ! 構わぬ、連れてまいれ!!」

また怪人の怒りの叫びが聞こえた。ああ、もう黙っていてくれ、怪人。

が、ここで光太郎にとって思いがけない幸運が回って来た。

「離しなさい!」

誰かは分からないが、怪人が誰かと口論になっているのだ。それにつられて、戦闘員も女性たちも視線が口論へと向いていた。今や、俺の方を向いているのは誰もいない。どこかで聞いたことがあるような声のような気がしたけれども、今は気にしている余裕はない。

この千載一遇のチャンス、俺は身を屈めて、ベンチまでの数メートルを一気に詰め、ベンチ下にあるカバンを掴んだ。そしてそのままスライディング気味に地面を滑り、茂みへと戻る。その時間は僅か数秒、だが光太郎には数分にも数時間にも感じられたに違いない。

(…やった!)

光太郎は手元にしっかりと自分の通学カバンが握られているのを確認する。よし、目的は達成した。後はさっさとここから退散するだけだ。

「他の子たちを解放なさい!!」

ここから立ち去ろうと歩を出そうとしたその時、俺の足が止まった。どこか幼げに聞こえるが、凛とした華やかなこの声。やはりそうだ、この声は聞き覚えがある。しかもつい数時間前に聞いたばかりじゃないか。

光太郎は茂みから少しだけ顔を出して、怪人との口論を繰り広げている少女の姿を捉える。そして疑惑は確信へと変わった。それは彼女の髪を見ればすぐに分かった。

(生徒会長…?)

そう、そこにいたのはオリエンテーションの最後に現れ、新入生に軽いスピーチをした生徒会長、神堂慧理那(しんどうえりな)その人だった。彼女は津辺愛香と並ぶか、それ以上の素晴らしいツインテールの持ち主であり、その美しさは怪人と口論している今も健在だった。

「ほほう、なかなかの幼な子! しかも、どうやらお嬢様のようだな!! 金髪でお嬢様ツインテール…まさしく完全体に近い! 貴様が究極のツインテールか!!」

「究極…!?それよりあなた、何者なんですの!? 人間の言葉が分かりますのね!? 他の子たちを解放なさい!!」

「わかるとも。こうして意思の疎通ができているではないか。故に、解放はできぬと断ずる」

「では答えなさい、一体何の目的でこんな真似を!」

「いずれ分かる!まずは、者のついでよ―」

意思の疎通はできても、共存はできない。そんな状況でも会長は怯むことなく口論を続けるが、怪人はそんな会長を無視して、すっと彼女に大きなぬいぐるみを差し出した。

「貴様はこの子猫のぬいぐるみを持つがいい! 敵意もまた愛らしさと光る…わんぱくな幼女には、子猫のぬいぐるみがよく似合う!! さあ、抱けい!!」

戦闘員たちがどこから持ってきたのか、横幅3メートルほどのピンク色のソファーを担いできた。

ぬいぐるみを持たされた会長は、怪人に無理矢理ソファーに座らされる。

「お前たち、この光景をしかと目に焼き付けよ! ツインテール、ぬいぐるみ、そしてソファ-にもたれかかる姿! これこそが、俺の長年の修行の末導き出した黄金比よ!!」

「「「モッケケケーー!!」」」

なんというアホな光景なんだろうか。会長のぬいぐるみを持つ姿に顔を真っ赤にして興奮している怪人に、それに賛同するように猿のような雄叫びを上げている多数の戦闘員。

眩暈すら覚える光景だが、同時にそこに座る会長の姿が神々しく見えてしまう。俺は肩を震わせながら、会長の姿をまじまじと見る。

(ちくしょう…可愛すぎる!!)

あの怪人! 分かっているじゃないか、くそぅ! 確かにこれは、会長の可愛さのツボをついている見事な組み合わせだ!

生徒会長という人の上に立つ立場上、真面目でお固くて、融通が利かないという先入観がどうしてもある。だが、ここにぬいぐるみという一つのアイテムを持たせるだけでどうなるだろうか?

表では凛とした表情で活躍する真面目な子、しかしその裏の顔はぬいぐるみなどの「可愛いもの」などが大好きで仕方がない、非常に女の子らしい子。この2つの顔が容易に想像できるんだ!

そしてここに出てくるピンクのソファー! このピンクというのがまた上手い! ソファが置いてあるということは恐らくは自室かまたはそれに準ずる空間にいるのだろう。その空間にぬいぐるみを抱きながら、女の子を象徴するピンク色のソファーに座る! 誰にも見せないもう一つの顔、その空間にいる間だけ、彼女は女の子としての顔を見せてくれるー、そんな想像ができてしまう組み合わせ!

そして会長をますます輝かせるのはそのツインテールだ! 津辺さんの直線的で思い切りのいいツインテールとは違い、ふわふわと丸まっているツインテール。それが会長の小学生ほどの背格好と見事にマッチしているのだ。どこか凛としながらも、お嬢様言葉を使い、頑張って背伸びをしている幼子のような空気がそこにある。

(グレートですよ、こいつはぁ…!!)

俺はもう、感無量といった感じだった。この光景を見るために、俺はもしかしたらツインテールを愛していたのかもしれない。

本気でそんな思いがちらついたその時、誰かが茂みを蹴る音が聞こえた。

「?」

怪人が作り出した神々しい光景に見とれていたせいで、その音への反応が一瞬遅れてしまう。そして次の瞬間、いきなり俺は首根っこを掴まれて一気に茂みの中へと連れ戻された。

「!?」

いきなりの出来事に混乱する俺だが、次の出来事にますます混乱するになる。

「見つけた…」

そう呟き、嬉しそうな顔をしているのは、昨日街中でぶつかった白衣姿の女の子だった




次辺りでようやくあいつが登場できるかなぁ…?

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