俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero 作:IMBEL
新年一発目は、2巻決着のエピソードから!!
「まだまだですわ!」
イエローの肩アーマーが開き、内蔵されているバルカンが火を噴いた。ヒビだらけのアスファルトに着弾したそれはあっという間に舞い上がり、煙がもうもうと立ち込める。
「むうっ!? 煙幕とは卑怯な…!」
「敵であるあなたがそれを言えまして!?」
舞い上がった煙の中でテイルイエローとクラーケギルディが交差する。
「ヴォルテックスブラスター・トンファーモード!」
クラーケギルディの剣に対して、イエローは自らの銃をまるでトンファーのように使用して、接近戦を挑んでいた。…実際はただ銃を逆手に持って、ぶん殴っているだけなのだが、イエローの中では銃がトンファーに変形してそれを武器にしているイメージらしい。
「じ、銃で殴り合っている!?」
「あらレッド? 銃はただ構える武器ではありませんことよ! そして…ツインニードル!!」
「! ちぃ!」
射出されたニードルガンをレイピアで弾く。接近戦をしながらも時折、遠距離攻撃も混ぜるイエローの戦闘スタイルに、クラーケギルディは非常にやりづらそうな顔をする。
「黄の戦士よ…戦いの経験をまるで持たない貴様が、何故この決戦の場に姿を現した! 何故そこまで戦える!?」
クラーケギルディはイエローの攻撃を受け流し、再度接近戦を挑む。イエローもまた、果敢に距離を詰めていく。
「経験ならありますわ…!」
「何…?」
「物心ついた時からずっと…古今東西世界中のあらゆるヒーローの戦いを目に焼き付け、記憶してきました! どんな敵と戦うか! どう勝利したか! それが私の戦闘経験となっているのです!」
「馬鹿な…想像だけで片がつくのなら、誰も鍛錬などせぬわ!」
「ではあなたが今押されているのに説明がつきまして!? プラズマニー!!」
イエローは力強く言い放ちながら、銃のトンファーによる強烈な打撃で怯んだ隙に、膝のスタンガンでクラーケギルディへとダメージを与える。
「私の心にはヒーローを愛する心があります! それが、私の糧となって突き動かしているのです!!」
テイルギアは心の力で動くデバイス。今のイエローは全てを振り切り『ヒーローのように戦う』という信念で動いている。わざわざ言わなくてもいい武器名を叫んだり、もったいぶった言い回しをしているのがいい証拠だ。実に生き生きした表情で、クラーケギルディと戦っている。
「ふん、ならば…その焼きついた記憶とやらに聞いてみるがいい!」
クラーケギルディは触手を地面に叩きつけて、その反動で無理矢理距離を取った。そして自分に残っている全ての触手をピンと伸ばし、扇状に展開させる。
「我が全力の一撃を、どう防げばいいかとな!!」
叫び声と共に突き出された右腕を合図に、全ての触手が一斉にイエローへと襲い掛かった。
「まずいっぃが!?」
イエローを逃がそうとレッドは何とか動こうとするが、身体に走る強烈な痛みにたまらず、片膝を落とす。その間にも見る見るうちに無数の触手がイエローへと近づいていく。その光景はおぞましいを超えて、どこか壮観ですらあった。
「逃げろイエロー!!」
「いいえ、私は逃げませんわ! ――どうすればいいかですって?」
だが、イエローはレッドの忠告を受けず、逃げも隠れもせずに両の足をしかと踏みしめた。
「こういう場合は――」
イエローは迫りくる触手の雨を凛と見据える。ギアが壮大なうねりを上げて、身体にあるアーマーのあちこちが展開し、発射形態を取っていく。
「全て撃ち落とすのが、お約束でしょう!」
そして大気がはじけ飛ぶような爆裂轟音と共に、テイルイエローの全身から武装が発射された。
肩、腕、腰、背中、足。ありとあらゆる場所から雷を纏った弾丸とレーザーが触手へと向かう。
触手と弾幕は2人の丁度、中間地点でぶつかり合い、押し合いを開始した。
「はあああああああああ!」
クラーケギルディが叫び声をあげると、触手が回転を始める。それらが千切れ飛ぶのも意にも介さずに、クラーケギルディの突貫は勢いを増していく。
「ぐ、ぐうううううう…!!」
強力な触手の突貫と、斉射による反動。2つの想像を絶する圧力により、じりじりと後退していくイエロー。踵はアスファルトにめり込むが、それでもなお止まらない。
「…ッ!!」
じりじりと追いつめられていくイエローを見て、レッドは思わず叫んだ。何故だかは分からない。弾かれたかのように、腹から声を振り絞っていた。
「何をやってんだイエロー! お前の本当の力はそんなものじゃないだろ!! 胸の中にあるもの全部、俺たちに見せてみろおおおおおお!!」
その叫びは辺り一帯に響き渡り、クラーケギルディにもそしてイエローの耳に入った。
「―――!!」
そしてイエローの中で何かが…弾けた。『全部』『本当の力』…その言葉が、イエローの中にあった最後の壁をぶち壊した。
「…かしこまり、ましたわ」
ニコリと優越そうに口元を吊り上げ、はぁはぁと息を荒げ始める。
「全て…全て、お見せしますわ…私のありのままの姿を、隅から隅まで!!」
瞬間、押し切られていたイエローの攻撃が、勢いを取り戻しかのように激しさを増していく。
そして吹き飛ばされそうになっていたイエローの身体がピタリと静止した。突如地面に吸い付いたかのようにイエローの体勢が安定し、不動になる。
「まさか…あれは!」
爆風がうごめく中で、レッドははっきりと見た。地面に、何かが突き刺さっている。それがイエローの体勢を安定させている。
それは先ほどまでただ爆風にはためいていただけであったイエローのツインテールだった。先端の縦ロールがドリルとなってアスファルトを抉り、船を支える錨のような役割を果たしているのだ。
「ツインテールをアンカーに…いいぞ! やれば、やれば出来るじゃないかイエロー!!」
「や、やれば…や、やる……そうですわね…! もっと、もっと見せてあげますわ!! 本当の私を!!!」
真っ赤な顔をするイエローの声に応えるように、突然胸のアーマーが開閉し、ミサイルが胸から射出された。この前のロケット花火みたいな弾道ではなく、高速で追尾する巨大なミサイルとなり、後ろで構えるクラーケギルディ目がけて襲い掛かる。
「その技は効かん!
ここでクラーケギルディはレッドの必殺技をも封じた絶壁を展開する。だがそれを分かっていたかのように、イエローは高らかな声を上げる。
「分離ですわ!」
と、射出中のミサイルの上下が分離し、ロケットのように上段部分が絶壁へと向かう。絶壁に触れると、当然のように上段部分が跡形もなく消失した。だが、数瞬遅れて、下段部分のミサイルが、上段が着弾した部分をすり抜けて、クラーケギルディへと着弾する。
「何ぃ!?」
自慢の絶壁を攻撃が突きぬけたことに驚きを隠せないクラーケギルディ。
クラーケギルディの奥義『
攻撃を受けると、その攻撃によって消失した部分を埋めようとし、展開するバリアが一瞬だけ弱まる。その隙に弱まった部分を突けば、この技はあっさりと攻略が出来るのだ。
発射し終えた胸アーマーがパージされ、地面へと落ち、イエローの胸がたゆんと揺れた。
そしてミサイルの一撃を受けたクラーケギルディが操る触手の動きが鈍ると、イエローはすかさず両腕の銃で全て撃ち落とした。
「ぐ、ば、馬鹿な!!」
そして永劫に続くと思われていた技のぶつかり合いは、両者相打ちにて終わりを迎える。
「はぁ…はぁ…、まだですわ…!」
だが、イエローは止まらない。突き刺したツインテールを元に戻すと、腰部分のブースターを吹かし、更に追撃を始める。
「はああああああああああ!!」
「いいぞイエロー!! ヒーローだ、完全にヒーローだよ!!」
「あっ、はぁ…嬉しい…私、私…嬉しいですわ――――――!!!」
その叫びと共に、銃を乱射し、背中に装備されていた巨大な砲門をパージするイエロー。何故か頬を赤らめながら、すっきりしたような顔をしている。
「………………ん?」
その光景にレッドはどこか嫌な予感がし始める。着弾した弾丸で舞い上がった煙の向こうでは次々とイエローがアーマーをパージしており、邪魔だと云わんばかりに脱ぎ捨てていく。
「お、おいイエロー!! どうしてアーマーなんか脱ぐんだ!?」
レッドからしてみれば貴重な遠距離武器を自ら捨てていくイエローの行動が理解できないでいるのだろう。脱いだところでスピードが上がったりパワーが上昇する訳でもないのにも関わらず、何故イエローは脱ぎ捨てるのだろうか、と。完全なる無駄な行いにレッドは首を傾げる。
だが、イエロー本人からしてみれば自分を包んでいるこの重厚なアーマーは、自分を抑え込んでいる拘束具でしかない。この熱く火照った身体を沈めるには、本当の自分を解放するには、テイルファイヤーに繋がれた時の感覚にたどり着くには、そして自らのツインテールに応えるためには自分をとことんまで見せ、解放するしかないのだ。
「ああ見られている! こんな…こんな私を、本当の私を…皆が見ていますわぁ―――!!」
テイルイエローが、神堂慧理那がたどり着いた境地、それは…『脱衣』と『ドM』であった。
「見て、見て! 本当の私を! レッド、ブルー…そしてお姉さまたち!! 見てくれていますか!! イエローは、イエローは…うふふふふふ~~~っ!!」
「あ、あれぇ――!? 何か…何かが激しくおかしい気がする!! そしてどこかで似たような人物をつい最近見た気がする!!」
黄色い声を上げながら、大盤振る舞いとばかりに次々に武装を撃ちまくるイエロー。レッドの「やめろ」の忠告も耳に入らずに、次々と撃っては脱ぐを繰り返していく。
「何なのだこれは!? 何なんだこいつは、どうすればいいのだ!?」
クラーケギルディもわけが分からないといった顔をしながら攻撃をくらうがまさしくその通りだろう。味方であるレッドですらこんな事態、想定の範囲外なのだから。
「隠して! イエロー、隠して!! 駄目だ、そっち(変態)の世界に行っちゃ駄目だ!!」
「嫌ですわ! もっと、もっと見て下さいまし!! 私をもっとぉぉぉぉ―――!!!」
今やイエローは肌色の部分のほうが多いというとんでもない事態になっており、水着同然の艶やかな姿になっている。それは、先ほどまで見せていたヒーローの姿はどこにもなかった。ただの変態痴女と化した女子がそこにいた。
レッドやファイヤー、そしてここにはいないレイチェル。彼らは慧理那が押さえこんでいたツインテール属性と共にとんでもない災厄を解き放ってしまった。育ちのいい生徒会長の本心を閉まってあった箱は、開けてはならないパンドラの箱だったのだ。
「ああん、ファイヤーお姉さま!! イエローは…イエローは…あなたのように華麗に戦えていますか!!??」
「ちぃ!」
遂に全てのアーマーと武器を脱ぎ捨て、水着姿でファイヤーと同じように徒手空拳を繰り出すイエロー。奇しくも全ての触手を失い、身体一つという状況のクラーケギルディと対等の立場でぶつかり合う。
「部下や同胞の怠惰を憂いている場合ではなかったな…私自身、貴様にそれ程の
「はぁ…はぁ…。女という生き物は脱がなければ分からないものですわ…! あなたの目をもってしても私の全てを解き放った一撃必殺の奥義にして形態『
「ルビが何かおかしくないか?」
その心意気はいいのだが、何だかそのかっこいいルビを託すには漢字がはてしなく間違っている気がする。だがそんなレッドの叫びも熱く燃える両者には届かない。イエローは変態じみた表情を何とか沈め、凛とした表情へと戻った。
「お姉さまたちが教えてくれましたわ…真に大切なのは自分を信じる心! 自信を持って、ありのままの姿でいることだと!! そしてこの形態こそが本当の私自身なのですわ!!!」
そう力強く言い放つイエロー。…ちょっとカッコいいかな? とレッドは思ってしまった。
いつも周りの空気に飲まれずに堂々と戦うファイヤーと本心を見せろと言ったマネージャー。その2人と接したことでそのことに気づき、そして戦いを通してその真理にようやくイエローは到達したのだ。
誰がなんと言おうと、自分を曲げずに胸を張って堂々と生きている者こそが、最強なのだと。そしてそれこそがヒーローなのだと。…それが例え、露出癖でドMであったとしてもだ。
「イエロー…」
レッドは呆然としながらも、どこか胸が熱くなってきた。そしてその髪はますます煌めきを増して、輝こうとしている。そしてその輝きに満ちた力が今、解き放たれようとしている。
「これが! 私の! 本当の必殺技ですわ!!」
イエローがバッと構えると、自らのツインテールを鞭のようにしならせ、地面に叩きつける。すると縦ロール状の髪がバネのようにしなり、反動でイエローを天高く跳躍させた。
「ツインテールで…跳んだ!?」
予想外の行動にどこか胸を踊らせるレッドであったが、この状況をマズイとも感じていた。
必殺技を放とうにも、奴には絶壁がある。グランドブレイザーすら防ぐその壁をイエローに砕けるのか? ふとレッドがそう思ったとき、自分の足元に転がっているあるものに気付いた。
「…これは!?」
その間にもイエローの必殺技の準備は進む。イエローが
砲身を伸ばした巨大砲を中心に、ランチャー、バルカン、レールガン…各種武装が接続、ジョイントされ、最後にヴォルテックスブラスターがグリップのように底面後部へとはめ込まれる。
「ご覧あそばせ…私の
「何!?」
イエローの背後に全てのアーマーと武器が合体して出来た武装、
「オーラピラー!!」
「ぬう!?」
そしてその叫びと共に、主砲以外の砲門から拘束用ビームがクラーケギルディを包み、結界を作り出す。
「何をしようと…私の絶壁が迎え撃つ!!
拘束されようとも、クラーケギルディは悠然と構え、属性力を展開する。目の前にそびえ立つは、全てを拒絶し、粉砕させる最強の壁。
「例え跳ぼうが脱ごうが何をしようと…我が絶壁は超えられん!!」
「…!」
その声を聞いたレッドは落ちていたそれを抱えながら、全速力で走り、クラーケギルディへと突進していく。そしてありったけの属性力をそれに込め、奴が展開している絶壁へと押し込んだ。
「…!? 何をする!」
「ぐぅ!」
途端にクラーケギルディの剣で吹き飛ばされ、力なく地面に転がるレッド。だが目的は成し遂げたと云わんばかりにレッドはニヤリと笑う。
何故ならクラーケギルディが展開した絶壁には、折れた剣が…レッドの武器であるブレイザーブレイドの刀身が突き刺さっていたからだ。その小さな刀身からは想像もできないようなツインテール属性を纏っており、絶壁ですら砕くことができない代物と化している。
「何かしようとしているらしいが…無駄な足掻きに終わったな、小娘!」
だがクラーケギルディは気にも止めずに、宙で何かを構えるイエローに意識が向かっている。
奴はまだ何も気づいていない。…決めるのならば、今しかない!!
「今だ、イエロー!!」
「――!」
その一瞬の間に全てを理解したらしいイエローは、自らの主砲を解き放つ。放たれた巨大なビームはイエローの身体を直撃させて、まるで解き放たれた弾丸のように彼女を加速させた。
「ヴォルテックゥゥゥッ! ジャッジメントオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
そしてそのままの勢いでクラーケギルディの絶壁を…いや、正確にはそこに突き刺さっている剣の刀身目がけて電の脚撃を放った。
「!!」
瞬間、天から降り注ぐ神罰ともいえる強烈なキックと全てを地へと返す絶壁同士がぶつかり合った。奥義と奥義のぶつかり合いで、強力なスパークが辺りに走る。
「ぬ、ぐぐぐ…!」
「はああああああああああああ!!」
クラーケギルディが展開した
だが、イエローが踏みつけている剣の刀身が絶壁の壁を超えようと踏ん張りを上げる。
「何!?」
まるで釘を打ち込むように徐々に徐々にと壁と削り…絶壁を突き破ろうとしている。レッドとイエローの属性力がその刀身に集まり、立ちふさがる壁をも蹴り砕かんとしている。
「だ、だからあの時…!」
クラーケギルディはレッドが刀身を突き刺した理由、それが何の役割を果たしているのかをようやく理解した。
1人で足りないのならば2人で。それは既にボロボロであるレッドが最後に繰り出した足掻き。展開されたバリアを破るにはそれ以上のパワーで貫いてしまえばいいというある意味、究極のシンプルな解決方法を成功させるための足掻きであったのだ。
「クラーケギルディ!! 光にぃいいいいなぁれぇええええええええええ!!!!」
イエローの力強い叫びに応えるように、遂に絶壁が砕かれた。その途端、レッドの刀身とイエローの蹴撃が叩き込まれ、まるでパイルバンカーのようにクラーケギルディを打ち貫いた。
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああ!!」
イエローは蹴り足を削岩機のように地面に突き立て、なおも止まらずにアスファルトを捲り爆走するが、ツインテールを突き刺してブレーキをかけることで、ようやく静止する。
そして一瞬の後に、クラーケギルディは大爆発を引き起こした。
「私の…勝ち、ですわ…」
イエローは満足そうに微笑みながら、気を失い、地面へと倒れ込んだ。その光景を見ながら、レッドはぽつりと呟いた。
「…見事なツインテールだったぜイエロー、いや…慧理那」
途中、露出癖に目覚めるというトラブルはあったものの、逆に言えばそのおかげでこれほどのツインテールを拝むことが出来た…感謝していいのか困っていいのか分からない顔でレッドはそっと微笑んだ。
―――テイルレッド&テイルイエローVSクラーケギルディ
勝者・テイルレッド&テイルイエロー
※
何とか立ち上がれるまで体力を回復させたレッドは
乳とは、胸とは何なのだろうかと。どうして胸の大きさだけで争いは起こってしまうのだろうと。この一月弱、幾度となく繰り返された争いの根本的な原因をレッドは考えようとしたが、結局分からないという結論に達し、気絶しているイエローを運ぼうとしたその時。
「見事じゃ…更にツインテール属性の輝きを増したのう…」
周囲一帯の空気を、澄んだ声が震わせた。優しくもどこか恐ろしさが混じったような声色がレッドに鳥肌を立たせる。
「誰だ!」
レッドはボロボロの身体で構えるが、既にフラフラとよろめいていた。このままでは戦う事すらできない。
「安心せい、戦いに来たのではない…」
すると工場裏からスッと何かが現れた。工場の影と同化し、まさに影そのものといえるほどにこちら側に誰かが歩いてくる。
首から下を覆う黒衣、おさげのように胸に垂らされた黒髪のツインテール。凛然とした瞳を彩る、黒色のメガネ。そして今倒したクラーケギルディを遥かに上回る、周囲全てを覆い尽くすような、巨大な属性力。
全てが黒く、まさに影とも云わんばかりの恰好をした少女がこちらを見ている。
「…君は、誰だ?」
レッドは素直にそう問いかけた。むこうはこちらを知っているような口調で話してきたが、レッドは記憶をどれだけ探ろうと思い出せないからだ。すると少女は悲しそうに頭を垂れた。
「……そうか…分からぬか」
「え…いや…その…」
レッドは何とかして記憶の中から該当するであろう人物の検索に入るが、どうしても思い出せない。
あれほど眼鏡とツインテールが調和した少女を、物心ついて以来全てのツインテールの記憶を振り返ってみても、一向に思い出せない。
「いや、仕方あるまい。あの頃のわらわはまだ幼く、手足も伸びきっていない小娘であった。これほどに成長してしまっては、思い出せなくても仕方のないこと…」
すると少女はレッドの視線に目を合わせ、目許に涙を湛えた。
「だが…今度はあなたが幼女になってしまうとは、なんという皮肉なる運命…! そんな姿になってしまったのは世界を超えた弊害か、それともカモフラージュか!? わらわがこうして、あなたの愛を受け止められるだけの身体へと成長したというのに!!」
「ちょ、ちょっと待って…!」
少女は黒衣を投げ捨て、一気に全身をレッドへとさらけ出した。
「わらわの名は…ダークグラスパー」
「…! その姿!?」
ダークグラスパーと名乗った少女が全身に纏っている鎧に、レッドは驚愕した。
――それは、黒色の鎧であった。だが、その鎧は眩いばかりに輝いていた。禍々しさを超え、畏敬すら感じてしまう程に、強く凛々しく気高い純黒色に。
「テイル…ギア!? じゃあ君も…!」
ダークグラスパーが身に纏っているそれは、どう見てもツインテイルズが使っているテイルギアと類似していた。
「違う。これはグラスギア…頑強装甲グラスギア。お主らのテイルギアがツインテールを愛する力で動くのならば、これは眼鏡を愛する力で動く鎧じゃ」
「あなたに憧れて作ったのじゃ…トゥアール。同じツインテール属性で作らなかったのは、あなたへの敬意があってこそ…」
「あなた…トゥアール…? あの、人違いじゃ…?」
「とぼけなくても構わぬ…あなたが付けているそのギアの輝きは、あの頃と変わらないままじゃ…」
少女は、レッドを見ながらよく知っている人物の名前を言った。しかも少女はまるでレッドをトゥアールと勘違いしているみたいに話しかけてくる。スルッと芸術品を扱うかのようにテイルギアを擦る。そして、はっきりとレッドの目を見据えてこう言った。
「そして、今のわらわは、アルティメギル首領直属の戦士。あなたを迎えに来たのじゃ…トゥアール」
「…!」
レッドは息を飲むのと同時に、ダークグラスパーはその手をしかと握る。
「わらわと共に、戦って欲しい」
冷徹に光る、黒色の眼鏡。その透き通ったレンズが放つ光は、何も映さず、ただレッドのギアの中にあるトゥアールの属性力だけを映していた。
はい! というわけでイエローの覚醒のきっかけはファイヤーとレイチェルが行い、レッドが最後の一押しをしたという結末になりました。
このため、レッドを「ご主人様」と敬うルートが外れたことになりますが…この先、どうなることやら?
では次回を、3巻編に、こうご期待!!