俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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第27話 変身とツインテール

「お呼びでありましょうか、ダークグラスパー様?」

アルティメギル秘密基地の一角に新たに作られたであろう入り口を前に佇むフェンリルギルディ。その入り口の向こう側にはあの噂の処刑人、ダークグラスパーが控えている。

何故彼がここにいるか? それは話を少しだけ戻さなければならない。

いつものように目的もなく廊下をブラブラしている時、突如フェンリルギルディは何故か沈鬱な顔をしているスパロウギルディに呼び止められた。そして彼に短く、たった一言だけ言われた。「…ダークグラスパー様がお前を呼んでいる」と。すぐに謁見に参れ、という命を受けた。

その瞬間、自分に巡って来た好機にフェンリルギルディは内心ほくそ笑んだ。先日、来日したという噂は聞いていたが、まさかこんなにも早く地獄の処刑人から、名指しで自分を指名するとは。

力を合わせろという首相の心遣いも虚しく、今、この部隊は巨乳と貧乳の2大勢力で大いにもめ、対立が起こっている。

そんな部隊の面子にきっとダークグラスパーは見切りをつけたに違いない。そして、ダークグラスパーは自分へと目を付けた。…これは出世、いや上手くいけばそれ以上の地位を手に入れられるチャンス。

(…勝った!)

きっとスパロウギルディが沈鬱な顔を浮かべていたのは、大出世の階段を上ろうとする若造を見て、悔しがっているからに違いない。

(私は…これを機に、地位を掴む!)

そして、部屋の中から声が聞こえてきた。

「うむ、入れ」

「はっ!」

中から許可が出たのを確認し、部屋の中へと足を踏み入れた。一歩踏み出した途端、妙な違和感を感じた。どうやら、あの入口は別の場所へと転移するゲートだったようだ。

「来たか」

「…!」

まずフェンリルギルディの目に映ったのは目に悪いとさえ思う程、色彩溢れる色をした壁だった。ピンク色が基調としてあり、何やら細かな字がびっしりと書かれている。だが何を書かれているのかまでは確認できなかった。

…そして何よりも驚いたのは、その部屋の中心に置かれている玉座を連想させるような椅子に座っている人物の顔が予想だにしていなかったからだ。

(に、人間、だと!?)

椅子に座り、ノートパソコンを動かしている人物は、紛れもない人間の少女であった。

漆黒のマントを纏い、マントにも負けずとも劣らない黒髪はツインテールに纏めあげられており、胸元へと垂れていた。そしてその人間は、自らの存在感を出させるような程の輝きを放つ、アンダーフレームの眼鏡をかけていた。

それはどこか理性的で、魅惑な雰囲気を放っていたがフェンリルギルディはどこか興ざめしたような顔をしていた。

(人間が、我らの味方をするとはな…)

どうせアルティメギルが侵略したどこかの世界の住人である少女が、人類を裏切り我々の同胞にでもなったのだろう。しかもあんな小娘が首領様直属となれるとなると、よほど上手い事、媚を売ってきたのだろう。

フェンリルギルディは出世の高揚感が冷めたような気分だった。アルティメギルも刈るべき対象の人間を同士として迎え入れるとは。実に嘆かわしい。

しかもあの小娘もツインテールではないか。確かに見事なツインテールであり、その属性力も高そうだが…ツインテールにしていればウチは人間でも、ゴリラでも蛮族でも雇うのか?

(やはり、このままではいかん。支配するはずの人間がウチへすり寄って来ているではないか…やはり、自分のような若者がアルティメギルを変えていかなければ…!)

仄かに野心が心の中で芽生える。…だが、その前に上司の機嫌を上げなければ。まずは気に入られて、確かな信頼を得るのだ。

「…失礼ながら、ダークグラスパー様でお間違いないでしょうか?」

「違いない」

短く答える少女。…そして少女の視線がすぐにノートパソコンへと視線が戻ってしまう。

「…?」

会話が途切れてしまったことに違和感を感じ、フェンリルギルディは目を凝らして、少女の周りをよく見てみた。それで何かが分かるかもしれないと思ったからだ。

(…大きな箱が散らばっている。いや、これは積まれている?)

そして、数瞬後、それが何なのかに気付いてしまった。

「うわっ!?」

フェンリルギルディの小さな悲鳴が上がる。少女の周りに、いや…この部屋全体に、エロゲの箱が綺麗に置かれていたのに気付いたのだから。少女の椅子の周りにはバリケートのようにエロゲの箱が山のように置かれていたし、さっきまで色彩溢れる壁だと思っていたのは全て、箱で出来た壁だったのだ。しかも壁一面に敷き詰められているエロゲには、上蓋の絵柄を並べることで、壁にツインテールの模様のアートが描かれていた。天井にもエロゲがびっしりと敷き詰められており、電燈を設置している部分だけがぽっかりと空いている。

四方八方エロゲだらけの空間。そこはフェンリルギルディならずとも、まともな神経を持っているのならば数分いるだけで発狂しそうなほど、異質な空間だった。

「ふむ…」

少女はPCのドライブからディスクを取り出し、そのディスクを空に放り投げると独りでにディスクは飛び上がり、開けっ放しのケースへと収まっていった。ケースは自動的に閉じられ、まるで逆再生をかけていくように箱へと収まり、少女の手元へと戻った。

「次は…」

少女がパチンと指を鳴らすと、その壁の一部が僅かに揺れ、塀から1枚のレンガが飛び出してくるように、1本のエロゲがぴゅん! と排出された。

飛び出した部分は穴が開いたが、エロゲの壁は崩れることはなく、依然とそこにそびえ立っている。物理の法則を無視したその現象を目にし、何か人ならざる力でその壁は守られているのではないかとフェンリルギルディは感じてしまう。

そして音もなく箱は少女の真横で静止し、ひとりでに外箱の口が開く。素手で開けると箱を破いたり歪ませたりしてしまうが、そうなることもなく綺麗に開いた。

内箱が飛び出されると、その中に入っている様々な付属品が出てくる。マニュアル、アンケートのハガキ、メーカーのチラシに初回限定の特典カード、その他もろもろ。箱の周りを悠然舞い、グルグルと回っていた。

そして最後にディスクケースの中からゲームディスクが飛び出し、静かだった動きが激しく変わりだす。

ギィィィンという効果音が聞こえてきそうなほどうねりを上げ、部屋中を飛び回ると、少女のノートパソコンの中に鮮やかに吸い込まれていった。

静かな読み込み音が続いた後、少女は画面上に現れたアイコンをクリックする。メーカーのロゴが表示された後、アニメ声の少女がメーカ名を高らかに読み上げる。

「……」

フェンリルギルディはどうすればいいのか分からなかった。あの少女が何故自分を呼んだのか、そして何故いきなりエロゲを起動させているのかが何一つ分からないでいた。

すると、その疑問に答えてくれるように、少女は画面から目を離さないで淡々と述べた。

「インストールすればディスク無しで起動するエロゲは昨今多いが…わらわはこの作業に風情を感じるのじゃ。エロゲをプレイする時、ドライブにディスクを入れる瞬間の感覚は―――戦の時に兜の緒を占める感覚と似ている、そうは思わぬか?」

「は、はぁ…」

これは所謂、面接というものだろうか? この状況下で何が出来るのかをこやつは試しているのか?

「だが…」

少女は『ロードする』を選択し、セーブデータを読み込んでいるその瞬間。

「緒の緩んだ戯け者がいる、ようじゃな…」

ほんの一瞬だけ、少女は氷のような冷徹な目でフェンリルギルディを一瞥した。それはまさに処刑人の異名を持つに値するほど、凍てつく視線だった。

「!」

それを言ったきり、少女はまた黙ってしまう。フェンリルギルディにとってそれはたまらない程苦痛な時間であった。

ジロリと観察する視線を少女に送りながら、フェンリルギルディは自問自答を繰りかえす。(こいつはもしや私の出方を伺っているのか…? いや、もしやそれ自体がブラフで、実はまだ策が…)

『いやぁん、エッチ!!』

そんな中、パソコンから漏れるエロゲの音声が部屋いっぱいに広がった。画面には登校中、うっかりヒロインの胸を揉んでしまった主人公とそのヒロインのイベントCGが展開されていた。

「ふっ…ふふふふ…」

イベントCGを見ながら少女はだらしのない顔で笑みを浮かべていた。その光景にフェンリルギルディは戦慄を覚えざるを得なかった。

(こいつ、人前でエロゲをああも堂々と…!?)

他人の前でエロゲをプレイ。これだけでも相当難易度が高い行為なのにも関わらず、あの少女は初対面の相手が目の前にいるのにも関わらず、それを何にもないように行っている。

普通なら、エロゲをやってニヤニヤしている所を他人などに見られたくはない。例え、見られたとしても全力でその証拠を隠ぺいし、何事もなかったかのように振る舞うのが自然な行為、人としての本能のはず。

なのに、そんな行為など無駄だと語るように、悠然とパソコンを操作している。本能すら超越したその行為は、その少女が伊達に処刑人という肩書きを背負っている訳ではないという確かな証拠になった。

…すると少女はフェンリルギルディの視線に気づいたかのように横を向き、目を細めて薄ら笑った。

「ふっ…エロゲを始める時に、まずオプションで文字速度を最速にするような小童が、幹部の座を欲しがるとはな…傑作ではないか」

「…!? 何を仰っているのか…」

「とぼけるな。貴様が野心を持っていることなど、わらわの目を持っていれば見抜くことは造作でもない。この部屋に入ってきた瞬間に見抜いていたわこの小僧っ子」

フェンリルギルディはグッと顔が強張った。己の胸に秘めていた野心が見抜かれたことに怒っているのではない、年端もいかない人間の少女に小僧扱いされたことを怒っているのだ。

「い、言わせておけば…!!」

フェンリルギルディはとうとう自分を律することができずに、尻尾に隠していた武器の長刀を抜いた。

「…貴様のその行為、何を意味しているかは理解しておるのだろうな?」

「…黙れ小娘! 我らアルティメギルの力でそこまで強くなれただけの分際で! その属性力、貰い受けるぞ!!」

若さゆえの暴走、ここに極まり。出世心を超えた下剋上という行為。自らとの力量差も分からない相手にあまりにも無謀すぎた。普段から高いプライドを持ち、それを踏みにじられたフェンリルギルディは冷静さを失ってしまったのだ。

「食らえっぁ…!?」

間合いに入ろうと詰め寄った瞬間…フェンリルギルディの周囲を、何かが駆け抜けた。そして、フェンリルギルディは苦痛に満ちた顔で無様に倒れた。手に持っていた刀も綺麗に切断され、自慢の毛皮も手足もあちこちが焼け焦げたような跡が見える。

(今、何が…何が起こった!? しかも、あの、小娘が纏っているのは…!?)

一瞬、眩いほどの光線がフェンリルギルディの横を通過したかと思えば、それがあっという間に自分を貫いていた。しかもそれは一度だけではない、前方、真横、背後、真下…。確認できただけでも8回は光線に貫かれた。しかも光線は自分の身体を通過したかと思えば、反射したかのように折れ曲がり、フェンリルギルディの身体のあらゆる位置を何度も撃ち抜いてみせたのだ。

「ふふ、わらわの眼鏡は全てを見通す、と言ったはずじゃぞ?」

立ち上がった少女の黒衣の下で煌めく鎧に、フェンリルギルディは目を疑った。それはあの憎きツインテイルズが纏う鎧と非常に似ていた。

「…貴様の謀反など、この部屋に入ってきた瞬間に見抜いていたと説明したはずなのだがな」

少女の眼鏡がギラリと輝き、倒れているフェンリルギルディ目がけて冷徹な笑みを浮かべた。彼女の周囲には、同じような眼鏡が何個も浮いて、まるで何人もの少女があざ笑っているかのようだった。…そこでフェンリルギルディは先ほどの全方位から打ち抜かれた技のトリックを理解する。

「き、貴様…! 光線を、眼鏡で曲げたのだな…!?」

「ふっ…正解だ。小童にしては理解が早いな」

そう、少女はエロゲをしながらも、フェンリルギルディの周囲に、複数の眼鏡をこっそり配置していたのだろう。そしてフェンリルギルディが近づいて来たのを見計らって、光線を発射させる。そして放たれた光線を周囲に設置した眼鏡同士で反射させ、フェンリルギルディをあらゆる方向から撃ち抜いてみせたのだ。

だが口で説明するには簡単だが、これは恐ろしいほど高等技術が必要だ。瞬時に反射角を計算し、正確に眼鏡同士が反射するようにしなければならない。失敗すれば攻撃が外れるのならまだしも、最悪の場合それが自分に当ることも十分にあり得る。

それをああも平然と行う。やはり、少女とフェンリルギルディの実力差は歴然だった。

「貴様は謀反だけではない、一つのある反逆を犯した。それもわらわではない、首領様への反逆だ。分かっているのであろうな?」

「な…何の…こと」

「ツインテール属性を、不要と申したの」

「!」

フェンリルギルディは真っ青になった。何故こいつがそのことを知っている? そんな軽口をほざいたのはただの一度だけ。しかも話した相手はクラーケギルディだ。あの生真面目を絵に描いたような奴が告げ口をするはずがない。

(まさか…奴は本当に“全て”が見えるのか!? 私の心の中も、その先にあることも…!)

そしてようやく理解した。…こいつに手を出してはいけなかったという、ただ一つの事実にようやく気付いた。

「元より貴様らの個々の属性へのこだわりは、ツインテール属性を奪取した上で許されている! それをはき違えるとは…増長したものだなフェンリルギルディ?」

「わ、私は…」

「こともあろうに、ツインテール属性は不要…? そこまで断じるとは、首領様に、神に唾する行為! 大罪じゃ!!」

「私はただ…侵略を効率よく進めるためにはツインテール属性だけにこだわることはないと…首領様に楯突くなど微塵もありません!」

「…フェンリルギルディ…罪には罰、じゃ。…二度とつけ上がることがないように、教育を与えなければならない」

少女の眼鏡が怪しく光り輝いた。眼鏡から放たれた2つの光円はフェンリルギルディの視界を覆う程に巨大化していき、別の空間へと誘う。

「我が属性力より生み出されし奥義、眼鏡よりの無限混沌(カオシックインフィニット)! フェンリルギルディ、貴様は自分自身の心の闇と思う存分向き合うがいいぞ!!」

─────何だ、これは?

少女の開いたワームホールに呑み込まれ、気が付いたら見知らぬ部屋に佇んでいた。突拍子な状況に追い込まれ、フェンリルギルディは目の前の状況にただ呆然としていた。

そして、自分の周りに人が集まって来た。…ムキムキの身体と、えっほえっほと野太い声を発する男たちがぐるぐると自分の周りを円のように回っている。

「い、いやだ…いやだ!」

それはフェンリルギルディの一番恐れている事だった。それは女性用下着を愛するからこそ、同性の…尚且つガチムチの男たちを、彼らが纏う下着を、何よりも恐れていた。

ふんどしやピチピチのパンツ一丁の男たちが嬉しそうに円の幅を狭めた。汗に煌めく肉体がどんどん近づいてくる。濃い吐息が自分の顔に降りかかる。

「お許しを! ダークグラスパー様! どうかお許しを!!」

むせ返るような空間にフェンリルギルディの悲鳴が響くが、それは誰にも届くことはなく、フェンリルギルディはガチムチ集団に飲み込まれ…そして何も発しなくなった。

軽口も道化も、野心すらアルティメギルは寛大に許す。ただ…ツインテールを軽んじることは、何よりも重い罪に、禁忌に値することなのだ。

「安心しておけ…それは一夜の夢じゃ。貴様は大切な物を捧げることもなく、綺麗な身体で帰ってこれるぞ。…ただし本物よりもリアルな夢で精神に何らかの異常は現れるかもしれんがな…」

少女の声を聞いたものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「こ、これがテイルブレスですか…」

場所は変わって陽月学園ツインテール部部室。

慧理那は昨日貰うはずだった黄色のテイルブレスを装着し、すりすり頬ずりをしていた。憧れのツインテイルズの変身アイテムの本物を自分が着けている。その興奮を抑えられないようだ。

一度、それを愛香がつけ、壁に叩きつけたり噛みついたりしていたのだと説明したかったのだが、あまりにも嬉しそうにしている慧理那を見ると、どうしてもその行動を取ることはできなかった。

「では実際に変身して見ましょうか…未知への世界の扉を開けましょうか、ふふふ」

トゥアールはわくわくするような顔で、涎を荒らしながら慧理那を見た。…おい、ここに犯罪者がいるぞ。総二は高らかに叫びたかったが、自重した。

「ええと、観束君。何か変身する際に掛け声はありまして?」

「か、掛け声? …俺たちはテイルオンっていつも言っているな。言っても言わなくてもいいんだけど、意識の集中にいいらしいから」

「それは是非とも言うべきですわ! そういう積み重ねがあると、終盤辺りに無言で変身する回がカッコいいって感じになりますから!!」

「は、はぁ…」

回ってなんなのだろうか? 総二は聞き返したかったが、更なる質問が慧理那から問われた。

「では変身ポーズは? 腕を出したり絡めたりしますの?」

「え!? い、いやポーズは特にないんだけど…」

「あ、そうでしたら…」

結局、質問で時間を食ってしまい、元の流れに戻ったのは1時間以上経ってからだった。その間、愛香とトゥアールは面白くなさそうな顔で総二と慧理那をずっと見ていたが、二人とも気付く事はなかった。

「そ、それじゃあ…いきますわよ!」

「うん。会長…変身するって意志をしっかり心の中で描いて」

「わ、分かりましたわ!」

慧理那は深呼吸すると、ブレスを胸の前にかざして凛々しく叫んだ。

「テイル――オンッ!!」

…しかし、何の変化も訪れない。

…故障か? 全員が焦ったが、一拍子置いて、慧理那の身体が光り輝いた。ああよかったと安堵する。

黄色の光が慧理那を包み、激しいスパークが巻き起こる。そして光が止り、自分の変身した姿を見て…慧理那は嬉しそうに声を上げた。

「こ、これが…私…?」

まず、声が大人びている。いや、声だけじゃない。あんなに背が小さかった慧理那は、今や総二と肩を並べるほどにまで成長していた。テイルレッドに変身する総二と同じで、変身前と後では別人ともいえるべき変化を遂げていた。

腰が高く、すらっと足が伸びている。胸も尻も、一般の女性何かよりも大きかった。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。モデル体型って奴なのだろう。

「…かなりの重装甲、ですわね」

「ああ、防御タイプなのかな?」

慧理那は自分の身体を見渡しながら、呟いた。慧理那が纏うギアは、レッドやブルーには見られない肩アーマーや厚い装甲で覆われている。背中に装備されたツインテールの形のようなブースターなど、これまで見たタイプとは違った形のギアであり、まるでロボットみたいなテイルギアだった。

装甲のメインカラーは黄色であり、偶然にも慧理那の髪色と一致していた。

「黄色の…テイルギアですわね」

「ああ、テイルイエローの誕生ってとこだな!」

「! そうですわね、観束君!!」

感極まったかのように総二の手を握り、ピョンピョン飛び跳ねる慧理那。その度に、ブルンブルンと成長した慧理那の胸が乳揺れを起こす。

…すると総二は鳥肌が立つような寒気を感じ、愛香の方を振り返る。

「な、な、な…」

総二の嫌な予感は見事的中した。愛香は見事なまでの芸術的な絶句顔で固まっていたのだ。信じられないといった目で慧理那を見ている。

「なっている…」

一度手にするはずだったテイルギア。一度は手にするはずの夢。そしてそれを捨て、振り切ったはずなのに。

目の前で繰り広げられている現実を直視した愛香は絶望の声を上げた。

「巨乳に…なっている。あんなに、私よりも貧乳の会長が…」

「ええ、なっていますね―よかったですね―」

「よく、ないわよ…絶っっっ対、よくないわよおおぉおぉぉおぉおお!!」

トゥアールは面白いものでも見ているかのような暖かい目で愛香を見ていた。態度が余裕なのは、成長した慧理那でも胸のサイズは自分よりも下だと瞬時に見切ったかららしい。

「お願い交換してえええええええええええええええええええええええ!!!」

愛香は空中で変形する起動兵器よろしく、跳び上がりながら空中で土下座の体勢に素早くアクションを起こし、頭突きでも食らわせるのではというほどの勢いで地面に降り立ち、テイルイエロー目がけて土下座した。

「青! 青と交換しましょう会長! 会長、先輩なら後輩の心からのお願いを聞いてくれませんか、お願いします!!!」

「…見てて居たたまれないぞ。どうせ使えないんだから、諦めろよ」

「いいわよぉ! あんたにどんだけ笑われたってあたしは土下座を辞めないわ!! 頼むは一時の恥、頼まぬは一生の貧乳よ!!!」

幼馴染のこれ以上の凶行にもう見てられなかった。それに勝手にことわざを改造して使うな。

きっと先日、クラーケギルディに告白されたのがよほど応えているらしいな。

「津辺さん、私はこのギアに命を預ける覚悟です。はいどうぞと簡単に渡せませんわ」

「わかったわ! じゃあトゥアールのおっぱいをあげるから! 今引き千切って、会長にあげるから!!」

「トゥアールのおっぱいなんてあげてどうするんだよ! 何の解決にもならねーよ!!」

この部室をスプラッタ映画みたいな現場にするのだけはやめてくれないだろうか。するとトゥアールは嬉しそうな顔でほっこりしながら、総二の手を握った。

「総二様! 今、『トゥアールのおっぱい』って言ってくれましたね!!」

「はぁ!?」

「ほら証拠に!」

トゥアールは録音していたらしい小型の録音器を懐から取りだした。

『トゥアールのおっぱい』

再生された声は間違いなく総二の声であった。オウム返し気味にツッコミを入れていたら、とんでもない音声を録音されてしまった。

「よし、これからは私の携帯の着信音はこれでいきます!」

「やめろ―――――!!」

総二の絶叫が部室中に響いた。

嗚呼、これから俺たちはどうなってしまうのだろう。

自分以外でまともなのが会長とテイルファイヤー以外、ツインテイルズには存在しなくなってしまった。…いや、前以上に愛香とトゥアールが壊れ始めているんだ。しかも正体を知る関係者には飢婚者である尊先生や中二病母、未春も控えているし、もう嫌だ。

愛香は何時までたってもブレスを渡そうとしないのにキレて変身して、力ずくで奪おうとしているし、トゥアールは手に入れた着ボイスをパソコンに取り込んでいるし…。

「誰か…誰か! 誰か、俺を助けてくれぇぇぇええぇぇえぇぇええ!!」

…そして救世主は現れた。机の上に置かれたトゥアールのパソコンが、アラートを鳴らし始めたのだ。

『トゥアールのおっぱい』『トゥアールのおっぱい』『トゥアールのおっぱい』

その奇妙なアラート音に、部室にいる全員がパソコンへと視線が向いた。

トゥアールはきりっとした表情でパソコンを動かし、叫んだ。

「総二様…アルティメギルです!」

「やめろおおおおおお世界の危機を見過ごしたくなるそのアラート音を今すぐやめろおおおおお!!」

「観束君、敵が現れましたわ! すぐに現場に急行いたしましょう!!」

…最後まで真面目な会長の姿に、総二はとても感謝したくなった。




一番マシな総二ですらツインテールフェチという時点でこの世界がどれだけカオスかがわかる気がする…。
さて、次回もお楽しみに!

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