俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero 作:IMBEL
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神堂慧理那がそれを見てしまったのは、本当に偶々だったとしか言い様がなかった。
偶々下校中に起こったアルティメギルとツインテイルズの戦闘を野次馬として観測している時。テイルファイヤーとリヴァイアギルディの戦闘が突如中断され、敵は撤退。そして倒れているテイルブルーの身体が光輝いたその瞬間、ブルーを庇うかのようにファイヤーが地面を殴り、辺りに土煙を舞い上がらせた。
この展開に野次馬の誰もが混乱している中で、慧理那は偶然にも赤色に煌めくツインテールの先端が、近くの路地裏へと消えていく光景を捕えた。そしてそのツインテールの持ち主は間違いなくテイルレッドであったことは慧理那には一目で見当がついた。何故ならテイルファイヤーのツインテールの場合、路地裏に消えていった色よりももっと濃いはずだからだ。そしてあの遠目から見ても分かる艶やかな髪質は疑いようもなくテイルレッドであった。
何かあったのだろうか、テイルブルーが倒れたことと何か関係があるのだろうか? と途端に不安になり、気がつけば路地裏へと足を踏み入れ、走っていた。
お嬢様! と付添いの尊の声が後ろから聞こえるがそんなもの聞いている余裕もなく、走った。勿論、背も小さく運動もあまり得意とは言い難い。いつものように追いかけてもすぐに見失ってしまうか尊に無理矢理止められてしまうか、と自分でも思っていたが、この日だけは何故か違った。
消えたテイルレッドがどの通路を通り、どこを曲がったのか…それが奇妙な感覚がするように、何となくだけど分かるのだ。そのおかげか見失うことも追いつかれることもなく入り組んでいる路地をスルスルと抜けていく。
(これも…あの子の言う『ツインテールの愛』というのでしょうか…)
テイルレッドが自分を助けてくれて、いつも彼女が別れ際に言う台詞が頭に思い浮かんだ。
もしかしたら何度も出会う内に、テイルレッドと自分との間に何か不思議なパワーでも生まれているのかもしれない。レッドと自分は同じツインテール同士、だから今の自分にはテイルレッドがどこにいるのかが何となく分かるのかもしれない…。
ふとそんな馬鹿な考えが頭に浮かんだ。そして自虐的に慧理那は笑った。
随分とロマンティックな考えだが、それは違う。同じツインテールでも、自分とレッドには根本的に違う点がある。
(私はこの髪を…ツインテールを…)
そして、遂に、テイルレッドらしき人物の人影を捕えた。ちょうど、向かい側の突き当りの路地の入口付近で小さな影が揺れていた。
(! 居た!)
途端に嬉しくなり、その路地に近寄る。近づいていくたびにレッドの声が聞こえてきて、ますます確信を強める。やっぱりそうだ、この向こう側にレッドはいる。どうやら誰かと通話でもしているらしい。
そして慧理那は突き当りの角を曲がりその先を見てー。
「え…?」
困惑と驚き。その2つが慧理那の頭を支配した。目の前ではテイルレッドが光に包まれ、今まさに変身を解除しようとする光景があった。光の中でレッドの小さな体がどんどん大きくなっていく。そして、その光の中から現れたのは…。
「…観束…君?」
そこには自分がよく知る、生粋のツインテール愛を持つ少年、観束総二の姿があった。
「生徒…会長…」
総二も驚いたような顔でこちらを見ている。彼の右腕には、テイルレッドがいつも付けているブレスレットがはっきりと見えた。…そして慧理那は一つの結論へと達してしまった。自分の憧れていたヒーロー、テイルレッドの正体を偶然にも知ってしまった。
「……嘘…観束君…が…テイルレッド……?」
その事実はあまりにも慧理那には衝撃的過ぎた。そして慧理那は眩暈を起こし…その意識が暗転していった。
※
突然目の前で倒れた神堂慧理那は緩やかに壁にもたれかかり、そのまま崩れ落ちた。恐らく、テイルレッドの正体が男だという事実を知ってしまい、あまりのショックで気を失ってしまったのだろう。
第三者に自分の正体がばれたということの方もショックであったが、目の前で人が倒れたことの方が大きな驚きだった。そんな総二とは裏腹に、トゥアールは大声で捲し上げていた。
『総二様! とりあえずそこの小娘を…裸に剝いて下さい! さあ早く!今すぐにです! 早くぅぅぅ!』
「何で!?」
『裸写真を撮って脅すからに決まっているじゃないですか!! 誰かにばらしたらあなたの裸をネットにばら撒くって脅す交渉材料にするんです! 正体がばれたヒーローと恥ずかしい写真を撮られた少女! これで条件は対等です!!』
「どんな法則だそれええええええ!?」
トゥアールの提案したあまりにも外道過ぎる交渉条件は常軌を逸していた。テロリストだって、もう少しまともで上品な交渉条件にするだろう。
トゥアールは自分を犯罪者か何かに仕立て上げたいのだろうか? それとも幼児体型の生徒会長の写真が欲しいだけなのだろうか?
「ど、どどどどうしたらいいんだこれ!? 気絶した女の子2人も抱えて…」
何よりもまずいのは、この状況だった。この路地裏に気絶した女の子2人に男子1人。しかも2人とも気絶している。…おまわりさんを呼ばれてもおかしくない状況だ。裁判やっても確実に敗訴する条件が着々と出来上がっていく。
変身して移動させようにも、慧理那と同じようなギャラリーがまだその辺にいるかもしれないという状況下では迂闊に変身するのもためらわれる。
とりあえず会長を助けようと近づくが、それを遮るように一人の女性が割り込んできた。
「……さ、桜川先生…」
「お嬢様の体重は軽いが、男1人で2人抱えるのはいささか厳しいだろう。手伝うぞ観束君」
尊は驚くほど冷静だった。まるでこんな事態を想定していたかのような風に淡々と言い、総二と向き合う。
「その代わり観束君…聞かせてもらえるな、君たちのことを。いや…テイルレッドといった方が正しいか? 隣に倒れている津辺君はテイルブルーか?」
「!」
総二は警戒するが、尊は心配するなといった顔をする。その口調も威嚇するというよりも嘆願するようだった。
「世間のあのバカ騒ぎを見れば、君たちが正体を隠したがるのも無理はないだろうさ。だがな…お嬢様はやつらに幾度となく狙われている。お嬢様を守る立場の私もいつまでも傍観者ではいられんよ」
「…」
「それにな…臨時とはいえ、君たちは私の大切な生徒だ。大人として先生として、生徒が戦場に出ているという事実は決して見逃せん」
真剣な顔でそう語る尊。その姿は、服装や婚活に対する行き過ぎた行動を除けば、一人の立派な大人だった。その真剣な目と燦然と揺れるツインテールは総二に尊を信頼するに値する条件としては十分すぎた。
「…分かりました。でも、この事は…」
「ああ、誰にも話さんよ。この、私の名前を妻の欄に書いた婚姻届に誓おう」
「あ、それはいいです」
「何だ、照れているのか? 何なら君の名前もここに…」
「ほんとにいいです」
「友達の丹羽君も」
「それだけはやめてくださいお願いします」
通信越しで聞いていたトゥアールも『一度基地まで2人を連れてきてくれ』という確認を取る。
総二は愛香を、尊は慧理那をおぶり、目立たないように路地裏を抜け、観束家へと急ぐのだった。
※
喫茶店を経営している観束家の厨房の一番奥にある大型冷蔵庫。その入り口が地下秘密基地へのエレベーターとなっているのだ。
「…ここまでとはな」
慧理那を背負った尊もポカンと口を開けながら驚いていた。トゥアールを軽くあしらった大人の余裕が今では全く感じられない。
「その…色々と言いたいことは分かりますよ」
「ふふ、部外者が入るのはあなたたちが初めてだものね」
母、未春も一応部外者という括りに入るのだが、もう普通に出入りするようになっているので、総二はため息しか出なかった。
愛香を背負いながらコンソールルームへいくとトゥアールがかんかんになって出迎えてくれた。しかもその標的は総二じゃなくて愛香だった。
「早く起きて下さい愛香さん! 押し付けるおっぱいも無いのに総二様におんぶしてもらうなんて! あなたは重しを背負って歩くだけの拷問を総二様に強いるつもりですか!?」
「おはようトゥアール。何だか面白いこと言っているじゃない?」
トゥアールの顔が石像のように固まった。それはまるで開幕必殺技を食らわせ、広がる爆炎を前に「やったか!?」と口走ってしまうほどの死亡フラグだった。そして愛香はその絶好のタイミングでフラグを成立させた。
「ねえ、トゥアール。私ね、あなたに借りていたツケを返さなくちゃって思ってたのよね、利子つきで」
そそくさと逃げようとするトゥアールに最高の笑顔で答えてくれる愛香。
これがギャルゲーならば、ハッピーエンドを超えた隠しエンドへの道が開けたのだろうけれども、残念ながらトゥアールが開いたエンディングはデッドエンド(死亡エンド)だったらしい。
トゥアールだった物体が部屋の隅っこで博物館のように展示される中、会長もようやく意識を取り戻した。
「…やっぱり夢ではなかったのですね」
意識を取り戻した慧理那は、基地の様子を目にして信じられないといった顔でそう呟いた。
そして事情を説明した。このことに関してはギリギリまで悩んだのだが、下手な嘘を言って更に事態が混乱するよりは真実を話してくれという尊の意見により、大まかな事情の説明をした。平行世界が滅んだなど、聞かれたらショックを受けるであろう話題には極力触れずに、これまでの体験や戦う理由、トゥアールの正体を説明する。
「そうなのですか…異世界から来た侵略者…」
「それにしてもツインテール部の部員のほとんどがツインテイルズ関係者とは…世間とは狭いものだな…」
慧理那の護衛の尊はすっかりこの場に順応しきっていた。一方、慧理那は頭に?マークを浮かべている表情をしていた。
「あの…ツインテール部の部員が関係あるのならば、同じ部員の丹羽君も何らかの秘密を知っているのですか?」
「…? いや、あいつは部の結成の時に帳尻合わせでの入部ですから、あいつは何も知りませんし、関係ないですよ。所謂、幽霊部員って奴ですね」
「…そう、なのですか」
「あの、何か気になるんですか?」
「! い、いえそうではないのです!!」
ぶんぶんと顔を振って、何でもありませんといった顔をする会長。そんな会長を見ながら愛香やトゥアールは距離を取って、離れていた。特に愛香からすれば自分が気絶している間に正体がばれたという羽目になったのだから、何か思うことがあるのかもしれない。
「…ごめん、総二、あたしが気絶しちゃったばかりに…」
「いえ、私も慧理那さんの存在に気付くのが遅れたのがそもそもの原因です。申し訳ありません」
愛香もトゥアールも謝罪するが、それだと会長が悪いといったような言い方だった。総二は女の怖さというものの片鱗を少しだけ感じた気がする。
「いえ、どなたのせいでもありませんわ。それに私…ずっと前から、あなたたちがツインテイルズと何か関係があるのでは、と思っていたのですから」
「何だって!?」
驚きのあまり、椅子から飛び上がりそうになる総二。
「何故、そう思ったのかは分かりません。でも…いつもテイルレッドに助けられるたびに、小さな胸に抱かれるたびに、いつも一人の男性を…ツインテール好きの少年を…あなたを思い浮かべていたのです。あなたとテイルレッドはどこか似ている部分がありましたし…でもまさか本人とは…」
「今の部分、録音しておいたかしらトゥアールちゃん?」
「大丈夫です、最高音質で録音完了です」
「ええ、台詞アーカイブに登録しましょう」
後ろで息子と生徒会長の台詞を録音し、スパイごっこをやっている母親とトゥアールをガン無視することにした総二だったが、納得できた事実が一つあった。
一度、慧理那には総二の右腕のテイルブレスを見破られたことがある。それは当初、ブレスの故障かと思われていたが真実は違った。慧理那はテイルレッドの正体をおぼろげながらも総二だという風に思い浮かべていたからだったのだ。
一度そういった風に認識してしまえば、認識攪乱装置が完全に作動しない。だからあの時、ブレスが見破られてしまったのだ。
「ごめん会長…あんなに応援してくれていたのに、騙しているみたいに振る舞って」
「いいえ、正体を隠すのは当然ですわ。ヒーローなんですから…」
すると慧理那はまた一つ思い出したかのような顔をする。
「あの…テイルファイヤーはもしかして、トゥアールさんが変身しているのですか?」
痛い所を突かれたような顔を総二はした。ここにはレッド、ブルーがいる。ならばツインテイルズ最後の一人、テイルファイヤーもここにいるのだと考えるのが自然だろう。
そしてその正体はツインテール部の部員であり、今現在秘密基地にいるトゥアールが変身していると考えるのが最も自然だ…でも慧理那は知らなかった。
「…いや、トゥアールは俺たちのサポートに専念しているんだ。残念ながら違うよ」
「ちなみに私でもないわよ?」
母が笑顔で手を振ってくるが、最初っからそんなこと信じる人などいない。
「ではどなたが?」
「それが…俺たちにも分からないんだ。彼女が何者なのか、どうして助けてくれるのか…そして彼女が俺に似ている事とか…何一つ分からないんだ」
「そう、でしたの…」
そして再び沈黙が訪れる。慧理那は何かを考えているような、総二は今後をどうするかといった感じだ。そして、先に口を開いたのは総二だった。
「会長、俺をヒーローと言ってくれるのならば、世間に正体がばれたらどうなるか分かるよね。俺たちはあいつらとは戦えなくなる。…このことを絶対に秘密にして欲しいんだ」
「それは…勿論ですわ! 私…これ以上、あなた方への迷惑をかけたくありませんから」
そう言いながら笑う慧理那の髪がふわりと揺れた。会長のツインテール。毅然としていても、怖がっていても、凛としていてもその美しさは何も変わらなかった。
(…やっぱり、会長には)
総二は決意した。あれを託すのは、彼女しかいないと。
総二は椅子から立ち上がると、トゥアールが使う工具やスクラップが散乱する格納棚に置かれているあれを覚悟と共に掴んだ。そしてトゥアールに、真剣な眼差しで懇願する。
「なあトゥアール! このテイルブレス、会長に託していいかな?」
「そ、それは…」
総二の手に握られていたのは、愛香が使うことができずに本当に託すべき人に渡すと決めた黄色のテイルブレスであった。
「総二! あんた本気なの!?」
「ああ、本気さ」
困惑する愛香とトゥアール。その間に、後ろからひょいっとブレスを総二の手から奪い取られた。
「桜川先生!?」
「これが君たちが使う変身アイテムか…」
尊は色々な角度からテイルブレスを観察する。そして何を思ったのか、とんでもないことを言いだした。
「君たちの話を聞く限り…これはツインテールの女性であることが使用条件なのだろう? …だったら私がお嬢様の代わりにその役目を背負おう! 私が4番目のツインテイルズだ!!」
「えっ!?」
「…何だその『えっ』ってリアクションは。それは驚いたリアクションとして何か違うんじゃないかトゥアール君。えっ、あなたその年でツインテール戦士でもやるんですかの『えっ』じゃないのか君? 私はこれでも28なんだぞ!?」
「イヤソンナコトナイデスヨ」
感情の欠片のない顔で機械のような音声で喋るトゥアール。…総二も同じようなリアクションを心の中でしてしまったのは秘密の話だ。
そして愛香もツッコんだ。
「そもそもの話、先生にツインテール属性があるの? それがなきゃ変身できないわよ?」
「いえ、残念ながら尊先生にはツインテール属性の属性力はないでしょうね。慧理那さんの側に居ながらも、尊先生は奴らに一度も狙われていない。この事実から分かる事です」
「むう…」
「ツインテールにしていれば、誰だってツインテールの属性力を得られるわけじゃありませんからね。こればっかりは個人差としか…」
「その根拠は?」
「愛香さんが貧乳を理由に告白されたほどの超絶貧乳の持ち主の癖に、
「なるほど」
その瞬間、愛香はトゥアールの頭を掴み、テーブル目がけ豪快なダンクシュートをかました。
「そう言うのであれば、辞退するしかないな…。私は結婚を控えた身だからな、身体を労われと言っているのだろう。未来の夫、観束君?」
「いや全然違います」
「照れるな」
「いいえ、意味が分からないだけです」
総二は尊からブレスを返してもらい、意を決して慧理那の前へと差し出した。
「あなたに…ツインテイルズに、第4のツインテール戦士になってもらいたいんだ…会長」
「わ、私が…?」
会長は当惑し、数歩後退った。
「実を言うと、テイルギアが増えるって聞いて、真っ先に俺が頭に浮かんだのが会長だったんだ」
「それほんと!?」
「うん」
愛香があんぐりと口を開けた。
「俺が知っている中で、あれほどのツインテールを持つ人物は愛香以外に会長しか知らないよ…勿論、ブレスの開発者はトゥアールだ。トゥアールが駄目だって言ったらダメだけど」
「そういうことじゃないんですよ総二様! 本人が納得していないのにむやみやたらブレスを押し付けるようなことが…」
「いや、そういうことじゃないんだけど…」
トゥアールには似つかわしくない真面目なセリフだったが、総二は伊達や酔狂でこのブレスを会長に渡すわけじゃない。
「勿論、無理矢理に会長に戦いに参加してもらおうって訳じゃないんだ。それは俺たちの仕事だから。けど、会長はツインテールにしている以上、これからも狙われる可能性が高い。だから自衛手段として、このブレスを使ってもらおうって思ったんだ」
このまま使えないブレスとして埃を被っているのなら、せめてものの役に立ってほしい。敵を倒せとは言わなくても、せめて逃げるくらいの時間を稼げることが出来ればこのブレスだって喜んでくれるだろう。
だが案の定、愛香が割って入ってきた。かつて総二がトゥアールにブレスを託された時に止めたより以上に、真剣な顔になる。
「総二…もっとよく考えて! 一般人にこれを渡すのがどんなに危険なことか分かるでしょ!? もっと情報を集めて本当に信用できるか…」
「いや、できるさ」
「どうして!?」
「会長のツインテールを見れば分かるよ」
総二がキッパリと言う。
「神堂会長のツインテールは、会長の心そのものだよ。いつだって眩しくて…変わらなくて…。その輝きを見れば分かる、会長は絶対に悪用なんかしたりしない。千の言葉なんかより、一のツインテールだ」
総二は人生の格言ともいえるべき言葉を語る。これは総二の信じるべき言葉であり、テイルファイヤーと初めて会った時も、これがあったからこそ、彼女を信頼するべきに値できた。心からの言葉を言い放ったのに、愛香は総二を宇宙人か何かを見る目で「理解できない」と残念そうに言った。
慧理那もかなり悩んだような顔をしたが、やがて総二と同じように意を決したような顔をする。
「…ええ、分かりました。私にどれだけのことが出来るか分かりませんが…」
「ちょちょちょ! ちょっと待って会長!? あなた自分が言ったこと分かっているの!? ただの悪党と戦う訳じゃないのよあいつら全員変態なのよ!? 公衆の面前で巨乳貧乳ツインテールうなじと喚く奴らよ!! 多分そこには会長が憧れるようなシチュエーションは一切無いわよ!?」
「でもテイルファイヤーはいつも真面目に戦っているではないですか。きっと心の持ちようですわ。それに私、ヒーローに憧れていますから、悪と戦うことに何の戸惑いもありません」
「いや、でも…!」
「彼らが常軌を逸した存在であることは身を以て理解しています」
あまりにも説得力がありすぎる言葉をありがとうございます。会長はかれこれもう2桁目に行くんじゃないかっていうくらいアルティメギルの被害にあっているものな。
「私は…ただ守られているだけでは嫌なのです。もし私に戦える力があるのならば…私は、あなたたちの仲間になりたいのです!!」
トゥアールの方も不本意といった感じであったが、頷いた。彼女は託すべき人物だということなのだろう。
「…じゃあ会長。これを…」
「あっ…待って下さい。観束君が…私にはめてくれませんか?」
「うっひょおおおおおう!!」
その瞬間、トゥアールの雄叫びが基地中に響き渡った。ビクッと慧理那が怯えた。
「はめて? ハメてくれ!? いやぁいいねぇいいですねぇ! その幼い外見とは正反対のドスケベな台詞ぅ!! 私待ってたんですよぉ、こういう破壊力のあるセリフをぉ! いやっほぉううううううううう!!」
トゥアールはいけない薬でも使っているんじゃないかってくらいハイになっていた。発想がもう、そこら辺のエロ親父レベルに達している。
「あの時私も言っておけばよかったな―! 『総二様、私がハメてあげますね』って言えばよかった――!! ひと月前の私を全力でなぐりたいわぁあああああああああ!!! ロリコンでよかったさいっこううううううううううううううううううう!!!!」
グルグルと回転椅子に跨りながら、ヘビメタ風の振り付けとエアギターと共に卑猥なセリフを連発している。…もうこのまま警察を呼んでも問題ないんじゃないかなって思ってしまう。
とりあえず、このまま会長を留まらせておくのはマズイと総二は判断し、ブレスを渡すのは明日にすることにし、会長を家に帰すことにした。
「ところでお母さん、観束君に渡してほしいものがありまして…」
「あら何かしら?」
…尊先生にもお帰り願った。渡されたものはやっぱり婚姻届だった。母さんは喜んでいたけれど、すぐに店のコンロで燃やした。
※
アルティメギルの秘密基地の廊下では、リヴァイアギルディが身体を引きずりながら歩いていた。所々壁に寄りかかりながらも、ゆっくりと進む。
「ぐぐ…」
額には大粒の汗が幾つも浮かんでいた。それは…テイルファイヤーとの最後に繰り出したあの奥義が原因だった。あれは強力な反面、己自身をも傷つける諸刃の刃。その反動を久々に食らったリヴァイアギルディは大いに苦しんでいた。
(奴は…俺にそれを抜かせるほどの実力があるということか…)
恐らくは次回の戦いでケリをつけなければならない。この技を使えるのはせいぜい全力で2,3回が限度だろう。
(だが…何故なのだろうな…)
人間という生き物は、面白いものだ。テイルレッドがドラグギルディを倒したように、あいつにも、テイルファイヤーにも期待してしまう。貴様はどれだけ俺を楽しませてくれるのだろうか、と。
そして格納庫へと続くドアが開き、何食わぬ顔でリヴァイアギルディは並んでいる列の中に紛れ込んだ。今日はここへ来る客人を向かい入れなければならない。この基地にいる部隊長全員が並び、その人物が来るのを待っていた。
「…あれが噂の?」
「ああ処刑人の乗っている船だってよ」
格納庫には大型の移動艦が止まっており、積み荷の移動や着陸の手続きなどが行われていた。
ヒソヒソと聞こえる声を盗み聞きする。…噂の処刑人、部下たちも色々な話をしていた。
曰く、悪魔のように恐ろしい怪人。テイルブルーのように情け容赦ない性格。何か恐ろしい能力を持っている…噂は様々だった。
(…! 来たか!!)
遂に入口が開かれ、一人の戦士がこちらへと歩いて来た。恐らく、あいつがダークグラスパーだろう。後ろには付き添いなのだろうか、鎧型のロボットが着いて来ている。
「ふむ、中々いい所ではないか…」
そして、誰もが驚いていた。噂の処刑人の姿を見て、言葉を失っていた。リヴァイアギルディもその一人だ。…だがすぐに彼は笑った。
(だから、人間という奴は面白いのだ…!)
黒色の甲冑に身を纏い、その手には死神が持つような鋭利な鎌。眼鏡をかけ、悠然と歩く戦士、ダークグラスパー。その正体は、まぎれもなく自分たちが襲う存在である、人間だった。
地獄の処刑人、ダークグラスパー。人でありながらアルティメギルに身を寄せる戦士が今、地球侵略の前線へと降り立った。
会長はまだこの頃はマシだったんですよね、まだこの頃は。
さて、次回もお楽しみに!