俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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今回、狂戦士が出ます。


第22話 巨乳とツインテール

アルティメギルの秘密基地。

海竜の怪人、リヴァイアギルディは小包みを一つ持ち、悠然と廊下を歩いていた。そして、目的の場所にまで辿りつき、懐から一枚のカードを取り出す。

「…」

スパロウギルディから借りておいたカードキーを使って、無言でロックを解除すると、リヴァイアギルディはとある一室へと足を踏み入れた。

「ふん、相変わらず女々しい趣味だ…」

目の前に広がる光景を見ながら、リヴァイアギルディはどこか懐かしそうに呟く。相変わらずの趣味であった。

部屋の広さは6畳ほどであったが、そのほとんどを占めているのが女の子のフィギィア。本棚、机、ベッド。ありとあらゆるスペースに隙間なく、己の愛するツインテール少女のフィギィアが置かれていた。

(最後に奴の部屋を訪れたのはいつの話か…)

ここはつい数日前まで隊長であったドラグギルディの部屋だ。

同じ部隊にいた昔は、互いの部屋へ行きツインテールについて熱く語ったものだ。特に『おっぱいとツインテールの定義』については一晩会っても語り尽くせなかったほどだ。何故おっぱいとツインテールは揺れるのだろうか、と世界の心理に到達するかもしれないような話題は、若造であった2人には少し早すぎる話題だったのかもしれない。

だが、そんな2人も部隊の長となり、中々会う機会もなかった。会えたとしても年に1度か2度か…そして、突然の奴の死。奴は、ツインテールを愛していたドラグギルディは、一足先に逝ってしまった。

「…馬鹿野郎め」

リヴァイアギルディの股から生えている触手から、水滴がポタリと垂れ、地面を濡らした。

…悲しくない、といえば嘘になる。元々長く生きられるか分からない侵略活動、その中で同胞が散っていく姿など何回も見てきた。心の中ではしょうがないと割り切っている部分もあるが、それでも別れというものはつらいものだ。

エレメリアンは死ぬと光になる。死体は残らず、其処にいたという形跡も何一つ残すことなく消えてしまう。だからエレメリアンには墓標を置く習慣はない。精神の力である属性力を糧とする彼らは精神エネルギーの塊ともいうべき存在。ただ消えるだけの存在に、宗教の教えである生まれ変わりなど望めるものではないからだ。

消える時は潔く消えよ――これがアルティメギルの掟であり、信念だ。我々は死ねば消えてしまう存在。ならば、無様に恥を見せるな、恥を晒すな。

(そして、自分がここにいたという証だけでも世界に刻んで散れ…!)

まだ自分がひよっこだった頃、隊長にそう教えられた言葉だった。…そんな隊長ももう随分前に逝ってしまった。

ふと、ドラグギルディが事務で使う机の上にちょこんと一つの箱が乗っていることに気がついた。机に近寄り、箱を確認する。

その箱は『完全可動・アクションフィギィア テイルレッド』と書かれており、まだ封を切っていないようであった。どうやら最後の出撃の際、戦いが終わった後にでも開けようとしていたのだろう。奇しくもそれが、ドラグギルディの墓標のようになっていた。

(テイルレッド…か)

箱に書かれた文字と写真を見ながら、先ほど拝見した資料映像のことを思い出す。

テイルレッド、噂で聞いていた通りの強さだった。ドラグギルディが生涯最強の敵、最高の思い人と宣言しただけはある、その強さはまさにこの星の守護神ともいうべき存在だった。

「ふん…受け取れ、ドラグギルディ。俺からのせめてものの餞だ」

その即席の墓標に、リヴァイアギルディは小包みから取り出したおっぱいマウスパッドを供えた。幼女とは対極にある、豊かなバストを模したマウスパッドだ。

本来、人間ならば、ここで花や酒を供えるのだろうが…エレメリアンは精神の生命体だ。花の芳香(にお)いも分からなければ美酒(さけ)の味も分からない。人に似て、人ではない生命体、それがエレメリアン。

だからそんな彼が、亡くなった同胞の死を悼んで捧げるものは…おっぱいマウスパッド以外に何があるというのだ。

「お前はツインテールを愛し、それを力に変えて戦った…だが、もうよいのだ。ゆっくりと休め、ドラグギルディ。そしてたまには幼女だけでなく、豊かなバストのお姉さんにも目を向けてくれ…。戦いを忘れ、心安らぐことを祈っている」

そして、リヴァイアギルディはこう呟いた。

「貴様の意志は――この俺が継ぐ」

リヴァイアギルディは踵を返した。

「お前を破った最強の幼女…そのツインテールを倒すことで、お前への鎮魂としよう」

そう言い残し、部屋を出ると、大勢の部下がそこに待機していた。そしてリヴァイアギルディは一人の怪人に声をかけた。

「分かっておるな、クラーケギルディの部隊には負けられんぞ」

「はっ!!」

巨乳(ラージバスト)属性の強さを、奴らに示してみせよ!」

意気揚々と立ち上がるのは巨体なリヴァイアギルディをさらに上回る身体を持つ怪人であった。頭部にある猛々しい角が特徴の猛牛型の怪人、バッファローギルディである。

「必ずや、ご期待に応えて見せます!」

リヴァイアギルディの懐刀が、ツインテイルズ打倒に燃え、荒々しい足音で出撃した。

 

 

 

 

 

 

転校生のトゥアールさんの高校デビューが完全失敗したその日の放課後。俺がツインテール部という謎の部活の一員だと知られてしまったという事実と変な先生に目をつけられてしまったという2つの傷で痛む心を引きずりながらも、出現したエレメリアン退治へと赴いた。

アルティメギルは俺の都合を待ってはくれない。例え、幽霊部員なのに、筋金入りのツインテール馬鹿の総二と同類だとクラスメイトに勝手に解釈されたことや、愛香さんがもの凄く同情的に俺を慰めてくれたりしたこと、トゥアールさんがクラス全員から変人扱いされてしまっていることなんてお構いなしに、敵は現れるのだ。

「キャー!」

「助けてー!」

今日の戦いの舞台はグラビアアイドルのオープンコンテスト会場。大きな会場に現れた怪人に水着姿の美女たちが慌てて逃げる。彼女たちが逃げ惑い、跳ねるたびに胸がぶるんぶるんと揺れる。…正直目のやり場に困る。

「ああ…谷間なんてみんな無くなってしまえばいいのに」

そして今日のテイルブルーは今まで以上に怒っていた。俺がいるだけも不機嫌なのに、今日の怒りの矛先は何故か怪人より水着姿の美女たちに、その揺れる胸に向けられていた。

「ほんっと胸くそ悪い…! 早く終わらせて帰りたいわ…!!」

「いや、早く帰りたいのは同感ですけれど…」

「ああ!? 何か言ったファイヤー!?」

「いや、何でもないです!」

何故かそんなブルーの姿が、今日の怒った時の愛香さんとダブって見える。そういえばなーんかあの2人、雰囲気が似ている気がするんだよなぁ…。

「ふははははは! 現れたな、ツインテイルズ!!」

怪人が、ドシンとステージ上に現れた。その巨体が着地したことで、ステージに大きなヒビが入る。

「我が名は猛牛の戦士、バッファローギルディ!! 我が愛する巨乳(ラージバスト)属性を広めんとする大義を掲げる主の懐刀なり! さあテイルファイヤー、我と戦え!」

見た目は大変厳つい怪人だが、いつも通りの敵と同じく、顔と言動が一致しない。

「な、なんであいつ、テイルファイヤーを名指ししたんだ!?」

隣にいるレッドが不思議そうな顔をする。そんな疑問に、バッファローギルディは丁寧に答えてくれる。

「ふふふ…それはな、テイルファイヤー、貴様のバストが一番大きいからだ!」

「はぁ!?」

大きいバスト。そんな単語に反応し、恐ろしいまでの顔をしながら俺を睨むブルー。…勘弁してください、そんな人殺しのような目で俺を見るのはやめてください。

「我らが求めるのは巨乳! ならば、ツインテイルズ一の胸囲を誇る貴様を倒すことで、我らの侵略は第一歩を踏み出せるのだ!」

「…そんなに大きいのかな?」

女の子のバストのサイズとか、詳しいことがよく分からない俺は隣のレッドに聞いてみると、レッドはうんうんと頷く。ブルーは『嫌味か貴様』とでも言いたげな憎々しい目で俺の胸を見た。

「我の眼力による測定によると貴様の3サイズは上から82/56/82! …確かに貴様の胸は特別大きいとは言い難い。だが! 大きすぎもなく小さすぎもしない美しさが貴様にはある!! 自信を持ち、これからも精進したまえ」

「はあ…どうも…」

何か反応に困るアドバイスを受け、とりあえずお礼を言っておく。

「次にファイヤーの娘、テイルレッドよ!」

「えっ!?」

レッドが困ったような声を出した。勿論、俺も驚いた。今コイツ、テイルレッドを俺の娘って…。

「そうだ、ファイヤーの一人娘、テイルレッド! 貴様のバストは…!」

「ちょ、ちょっと待てって! 別にファイヤーとはそんな関係じゃ…!」

「上から―」

「話を聞けぇ!!」

だがバッファローギルディはお構いなしに話を進める。

「61/48/64! 貴様はまだ小さいが…まだまだ成長段階! お母さんに劣等感を抱くこともあるかもしれないが、めげずに頑張りたまえ! 好き嫌いすることなくご飯をたくさん食べ、たくさん睡眠をとるんだぞ! いいな!!」

「お、おう…」

コイツ、良い奴なのか悪い奴なのか分からないな。いやそれはこいつら全員に言えることか。

「さあ、では戦いを始めようかテイルファ」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!! あたしは、ねえあたしは!?」

戦いに戻ろうとしたバッファローギルディに猛烈な勢いで糾弾するテイルブルー。

「なんだ貧乳女」

「ひんっ…!?」

超ストレートな悪口を言い放つバッファローギルディ。

…確かにテイルブルーはレッドや俺に比べて、露出が激しい。激しいのにも関わらず、ある特定の部位が若干寂しい印象を帯びている。けれどバッファローギルディのその言葉は、あまりにもド直球過ぎた。

「我は貴様に興味がないから一言で終わらせてやる…貴様は貧乳だ。迷うことなき貧乳だ。ファイヤーと同じほどの背でありながらバスト72とは…」

「あ、あんたねぇ…」

ああ、テイルブルーのツインテールが妖怪のように逆立ってきた。ワナワナと震えている。

「ひ、貧乳はステータスって言葉を知らないのかしら…あらゆる物は進化の過程で小さく、薄くなっていったのよ…テレビも電話もパソコンも…私たちの身近にある物はみんな小さくて薄いのよ…」

「つまりは何だ、貴様は今や巨乳の時代は終わり、貧乳の時代とでも言いたいのか?」

おい、もうその辺でやめておけ、バッファローギルディ! テイルブルーが拳を握り始めた!

「そうよ…今や貧乳は、私たちの世界のトレンドなのよ!」

「ふん、下らん! こうも堂々と言われると滑稽で憐れだな、テイルブルー…いや、タイラブルー!!」

「ああぁぁぁ!? 誰の何が平らだってぇ!!??」

「おぉぉぉおおお落ち着けブルー!!」

レッドが焦ったようにブルーに呼びかけるが、はたしてその声は彼女に届いているのだろうか? いや聞こえていないんだろうなこれは! 握りしめた拳から血が滲み出てきたぞ!!

「物事が小さいのがトレンド? 貧乳はステータス!? ありえんな、貧乳がトレンドならば、今頃世界中のメディアから巨乳は消え、エロゲや同人誌から巨乳が滅んでおるわ! 貴様はそれに気づかずに己の貧乳の身体を認めたくがないためにそうやって自己完結しているだけだ! なんと憐れな事か! …さあ、戦おうぞテイルファイヤー! 我の鍛え上げた巨乳属性(ラージバスト)と貴様のツインテール属性! どちらが強いかハッキリしようではないか!」

巨乳属性(ラージバスト)…」

そしてブルーはその一つのワードにピクリと反応した。

巨乳属性(ラージバスト)…つまりはあんたを倒せば、巨乳の属性玉が手に入るのね…?」

ブルーがブツブツと小さく呟いているのを、この場にいる誰もが気付かなかった。

「あんたの…!」

瞬間―。

「あんたの属性玉を、よこせぇぇぇぇぇぇ!!」

テイルブルーが一気に加速し、猛然とバッファローギルディに襲い掛かった。

「なっ!?」

「よこせよこせよこせ! あんたの力、あたしによこせぇぇぇぇぇ!!」

テイルブルーが武器である長槍『ウェイブランス」を取り出すと、バッファローギルディの横っ腹に突き刺した。…まるで通り魔だ。

「うおおおおおお!?」

「さっきから、貧乳貧乳貧乳貧乳…うるせええええええんだよぉぉぉぉぉ!!」

ゴスバキ、ドゴォ! 倒れたバッファローギルディのマウントを取り、目を血走らせながら何発も何発も拳の雨を降らせる。その姿は鬼神。マウントポジションを取って目を血走らせながら敵を殴るなんて、到底正義の味方の戦い方ではなかった。

「ブ、ブルーがキレた…」

「こ、怖ぇ…」

俺とレッドは互いに抱き合いながら、目の前の悲惨な光景を眺めていた。これは…まさに暴力だ。手加減とか、情けとか容赦とか今のブルーからは微塵も感じられない。ただ目の前の敵を倒さんとする力。俺たちは今本物の暴力を目の当たりにしているんだ。

「ふー、ふー、ふー…」

「あ、あ、あ」

バッファローギルディはマウントポジションから何とか逃れようと地べたを這うが、その隙をブルーは逃さない。

「ウェイブランス!!」

バッファローギルディの横っ腹に突き刺さった槍を抜き、そう叫ぶと、槍の切っ先が変形し、三又に別れた。

「くたばれぇぇぇぇぇ!!」

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

そしてそのままバッファローギルディに槍を突き立し、その際に発生したエネルギーで大爆発が巻き起こる。

「ひ、ひでえ…」

レッドがポツリと漏らした言葉に同意せざるを得ない。槍を地面に突き刺し、手を己の血で染め、鬼の形相で佇んでいるブルーを見ると、どっちが悪役なんだと思わず迷ってしまう。

そしてブルーは血肉を漁るハイエナのようにバッファローギルディが消えた場所を手で探ると、ほどなくして地面に落ちていた結晶を見つけ、手に取った。

「やった…巨乳属性(ラージバスト)ゲット…これで…これであたしも…フフフ」

やめてください、ブルー! 今日の戦いの場所が場所だけにカメラとかが滅茶苦茶回っているんです! その悪役みたいな笑みを今すぐ取り消してください! さもなければ明日、あなたは朝一でこのことについて絶対に後悔することになりますから!!

「テイルファイヤァァァァー! これで巨乳はあんたの専売特許じゃなくなったわよぉ!! 覚えときなさいよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

テイルブルーのその奇妙な勝利の雄叫びは会場中へと響き渡った。

テイルブルー…あなたは一体誰と何の戦いを繰り広げているんですか?

 

 

 

 

 

 

「愛香、もう諦めろって」

「ちょっと待って! 絶対、絶対発動するんだから! ワンカット挟んだら、ナイスバディになる私が立っているはずなんだから!!」

「そう言って何回目の挑戦なんですか、愛香さん?」

「72回目の挑戦ね、ええ!」

地下基地へと戻ってきた総二は隅っこでテイルブルーに変身して、左腕を叩いたり振り回したりしている愛香を見ながらそう言った。トゥアールもこの光景をどこか優越に浸っているような目で見ていた。

が、愛香はそんなこと眼中にないみたいに、何度も何度も巨乳属性(ラージバスト)の属性玉を左手に装備されている属性玉変換機構(エレメンタリーション)にセットして発動させようとしているが…結果はご覧の通りだ。ギアはうんともすんとも言わず、愛香の身体も何も変わらない。

ちなみに属性玉変換機構(エレメンタリーション)とは、テイルギアに標準装備されている武装の名前だ。ここに属性玉をセットすることで様々な能力を付加させることができるのだ。例えば兎耳属性(ラビット)をセットすると脚力強化、といった具合だ。

愛香は巨乳属性(ラージバスト)の属性玉をこの機能で使えば巨乳になれると思ったのだろう…だが現実は非情であった。

「使えない…」

愛香はこの世の終わりのような顔をしていた。その表情は数時間前の輝きに満ちていた顔と対極のものだった。

「お前、仮に使えたとしても、今まで名目通りの効果だったことがあるか? 兎耳(ラビット)だってウサギ耳が生えてきたりはしなかっただろ?」

「それでもねぇ、それでもあたしには最後の希望だったのよぉぉぉぉ!!」

愛香はおいおいと泣き始めた。まるであの鬼神っぷりが嘘のようだった。

ここで愛香が言っていた『使えない』という意味は能力が役に立たないという意味ではない。文字通り『使用できない』のだ。

トゥアール曰く、これは純度の問題らしい。これはエレメリアンたちの身体構造のせいで起きる問題なんだとか。

人間の趣味嗜好が一つではないように、エレメリアンも生きていれば人間と同じように多数の趣味や思い入れを持つようになり、それが時間と共に本来自分が持つ属性力とは違う属性力を備えてしまうケースがあるのだというのだ。

以前戦ったフォクスギルディは自分の核となる髪紐属性(リボン)と後付けの人形属性(ドール)、2つの属性力を所持していた。あれがいい例かもしれない。

そして、後から得た属性力が大きければ大きいほど、本来自分が持っている属性力の純度が下がっていってしまうというのだ。今日倒したバッファローギルディはもしかしたら他にも属性力を備えていたのかもしれない。だから手に入った巨乳属性(ラージバスト)も純度が低い属性玉となってしまったのだ。

「濃いドリンクを水で割るというのが分かりやすい例えかもしれませんね」

トゥアールはテーブルに置かれている乳酸飲料と水を手に取った。『本来の属性力』を白い乳酸飲料で例え、『後付けの属性力』を水と説明しながらテキパキと2つのドリンクを作っていく。そしてテーブルの上には白さが濃く出ているドリンクと水っぽいドリンクの2つが出来上がる。

「おお、分かりやすい! じゃあ今日手に入れた属性玉は…」

「そうです総二様、この水っぽいドリンクが該当しますね」

そしてテイルギアもある程度の純度の属性玉でないと、発動しないようになっているらしい。そして今日得た巨乳属性(ラージバスト)の属性玉はそのレベルを超えていなかったらしい。

「じゃあ、これどうすればいいのよ…」

愛香は宝の持ち腐れとなった属性玉を床へと転がした。

「そのことについて、私から案があるわ!」

するとどこからともなく声が聞こえたが、皆騒がなかった。もう声色で誰か分かっているからだ。

「お義母様!?」

唯一反応するのはトゥアールだが、もうこの2人の悪の幹部ごっこにリアクションするものは誰もいない。これも慣れてしまったからだ。

「そのコアを使って、新たなテイルギアを作ればいいのよ!」

その言葉と共に入ってきた母親の恰好に、総二は口に含んだ乳酸飲料を思いっきり噴き出した。

「あら何を驚いているの総ちゃん? 飲み物がトゥアールちゃんにかかっちゃったじゃない、女の子に迷惑をかけちゃダメだってあれほど…」

「母親が平然と悪の秘密結社みたいなコスチュームで入ってきたら誰だって驚くわ!!」

「いえ、これは迷惑ではなくてご褒美ですよお義母様! 総二様の白くて口に含んだあれをぶっかけられるなんてご褒美以外の何がありますか!」

「もう黙っていてくれトゥアール!!」

「はい黙っています!」

そう…総二の母、未春は悪の幹部が身に纏うような黒いマントと髪飾りを着けて、地下基地に現れたのだ。中二病に関しては半分諦めていたようなものだが、もうここまでのレベルに達してしまったか…と総二はがっくりと肩を落とす。衣装もどこで作ったんだ、と言わんばかりのクオリティに仕上がっている。この恰好に黒いフルフェイスヘルメットを被ったら、もう完全に某宇宙戦争の暗黒卿だ。

「-で、さっき言っていた新たなギアって何だよ?」

諦めたようにテーブルの席に座り、母親に問う総二。

「だから、この間総ちゃんが手に入れたツインテール属性があるでしょ? それと今日手に入れたコアを組み合わせての新しいギアを作ったらどうかしらって。ここらでもう一人追加戦士をテコ入れしてもいいかなって話よ。ほら、良くあるでしょ二つの力を一つにって!」

ツインテールの属性力を力としていたドラグギルディとの戦いを制した総二は、ツインテール属性の属性玉を持っている。だが、それを属性玉変換機構(エレメンタリーション)で使うことはトゥアールから固く禁じられていた。ギアに内蔵されているツインテールの属性力と合わさると暴走の危険があるからだという理由でだ。結局、それは日の目を見ることもなく、総二のギアの中でそのまま保管されている。

未春はその使っていないツインテールの属性玉を使ってもう一つギアを作ってみないかと提案してきたのだ。

「…あのなぁ母さん、そんなこと簡単に言うけど、できる訳が」

「いえ、できますよ」

「「ええっ!?」」

総二も、この話題に今まで興味を示さなかった愛香もトゥアールがあっさりと言い放った発言に面食らった。

「これ以上新しい戦士はどうかと思いますが、少なくともここら辺で予備のギアを開発したいかな~って思っていたんです。で、そのギアに属性力のハイブリット技術を組み込んでみましょうか」

前方の電子パネルにハイブリット技術の概要が現れた。難解すぎてちんぷんかんぷんだが、その中に2つの属性玉が存在することは辛うじて分かった。

「要は総二様が変身した時に起こる幼女化現象の逆を意図的に行うんです。さっきの使えない巨乳属性(ラージバスト)の属性玉を上手く利用すれば、属性玉の本来の性能を発揮できなくても身体変化くらいの力を発揮させることができるかもしれません」

耳ざとく反応する愛香。見る見るうちに顔に輝きが戻ってくる。

「じゃあ…じゃあそのギアを使えば巨乳に変身できるの!?」

「まあ、あくまでも可能性の話ですけれど…」

「じゃあお願いトゥアール! それ私にちょうだい!」

愛香は空中に飛び跳ねると、一瞬のうちに変身を解除し、トゥアールの前で頭を下げた。なんという無駄のない無駄な動き…。

「愛香さんには私があげたギアが既にあるじゃないですか」

「新しいのがあるのならこれと交換して! このギア、起動する時変な音するし、温度はやたら上がるし、変な所でフリーズしたりする時があるんだから!」

もはや末期のパソコンのような症状だ。開発者を目の前にあれこれ好き放題言って、トゥアールに失礼だろう…と思っていたら、トゥアールは意外にも笑顔だった。

「そうですかぁ~、どうしても欲しいんですか~」

しかしその笑みは、ニタァーという効果音がつくほど、大変意地が悪い笑みだった。

「じゃあ愛香さんには今までの詫びをしてもらわなければなりませんね~、とりあえずは土下座と私に様付けで敬って貰わなければ新しいギアは渡せま…」

「トゥアール様! 今まで数々の無礼、誠に申し訳ありませんでした!!!」

その間、僅かコンマ1秒。謝罪の言葉と共に見せた土下座は美しく、優雅にさえ見えるほどだった。

「ひいいいいいい!? あの蛮族が私に土下座!? あなたにはプライドはないんですか!?」

どうやらトゥアールは土下座と巨乳の究極の選択で苦悩する愛香を眺めていたかったらしいが、そのリアクションから、全くの予想外の行動であったらしい。

「乳が手に入るのならねぇ、巨乳になれるのならねぇぇ…プライドなんて捨ててやるわよぉぉぉ!!」

ゆっくりと頭を上げた愛香の頬には、血涙が流れていた。それは魂の叫び、決して頭を下げたくない相手に下げてまで手に入れたい。その覚悟がひしひしと伝わってきた。

「あたしはねぇ、ずっと胸が欲しかった…その可能性が、希望が! 今、目の前にあるのよ! だったら飛びつくしかないじゃない!!」

「愛香お前、そこまで…?」

「総二様、私は基本的に愛香さんのいうことは全否定して生きていたいですが、こればかりは別です。胸がどうでもいい女の人なんていないんです。これは人生の命題なんですよ。ノースリーブのシャツの袖がどんなに伸びても長袖にならないように、貧乳はどんなに頑張っても谷間というものができないんです。だから寄せて上げるブラっていうのがあれだけ売れたんです」

深い。トゥアールのその言葉に、女の世界の奥深さを一つ知った総二であった。

「私はね、胸が手に入るのなら神にだって、悪魔にだって魂を売り渡していいわ!!」

そんな理由で売り渡されたら神様も悪魔も困るんじゃないかなあ?

「ああ、胸が、胸が欲しい…」

その悲痛な叫びは、まるで水を求めて砂漠を歩く、遭難者のようであった。そしてそんな愛香に救いの女神の手が差し伸べられる。

「…分かりました、愛香さん! その願い、聞き届けましょう!」

「トゥ、トゥ、トゥアール様!!」

愛香は感極まったのか、トゥアールに抱きつき、泣いた。その抱きついた部分が胸ではなく、腰というポイントに愛香の巨乳に対する恨みがひしひしと伝わってくる気がする。

「普段は敵ですが、今回ばかりは別です。つかの間の握手って奴ですよ」

「ありがとう、本当にありがとう!」

「いいんですよ、だって私たち…友達じゃないですか」

「あらあらいいわね、青春って奴ねぇ~」

女同士の美しい友情物語が目の前で繰り広げられているその中で、総二だけがあることに気付いた。

腰に縋り付いている愛香を慰めているトゥアールの顔が、かつてないほどの邪悪さで満ちていたことを。

そしてある一つの言葉が総二の頭に浮かんだ。…人は可能性に救われることもあるが、その可能性によって殺されることもある、と。




ブルー「本物の暴力を教えてやろう」
バッファローギルディ「アイエエエエ!?」
バッファローギルディは犠牲になったのだ…巨乳とリヴァイアギルディの変わりに殴られるという犠牲にな。
というかマウントポジションで殴りつけるってヒロイン前代未聞じゃ…いや、それが俺ツイか。
さて、次回もお楽しみに!

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