俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero 作:IMBEL
では、物語は2巻へと入っていきます!
第18話 始まりのツインテール?
メイド長、桜川尊(さくらがわ みこと)の朝は早い。日が昇るか昇らないかの時刻に起き、朝の細かな支度をする。時には自分より下のメイドに激を飛ばす。そして、日が完全に昇ると同時に、自分の仕えるお嬢様を起こしに行くのが、毎朝の仕事だった。
だが最近、そのお嬢様が中々起きてこない。寝坊したり寝過ごしたりと、生活サイクルに多少の乱れが出てきている。
このことは周りのメイドも不思議に思っている。規則正しく、礼儀正しくを絵に描いたようなお嬢様が何故?
説は色々あった。お嬢様はそろそろあっちのことに興味を持ち始めたとか、生理とかじゃないのかとか、お母様と同じようなあの兆候が見え始めているのではないかとか…。
尊から言わせてみれば、どれも的外れだ。お嬢様があっちのことに興味を持ち始めたのは中学に上がってからのことだし、生理はまだ来ていないはずだ。主人に仕える身としては、生理のサイクルくらいは把握しておかねば話にならないからだ。
お母様の兆候は…まだ見え始めていないが、尊自身、ああはなって欲しくはないというのが正直な意見だった。あの人もあの変な性癖さえなければ凄くいい人なのに…。お嬢様のお父様も、その…色々とあれだし。
「お嬢様、朝ですが…」
コンコンコン、と扉をノックする。反応は無し。…やはり、あれをやっているのだろうか。
「失礼します」
その言葉と共に部屋に入った尊はああ、やっぱりといった顔をする。席に座りながら、何やら作業をしているのは、自分が仕える幼き少女。高校2年生なのに、どう見ても小学生にしか見えない幼き風貌。生徒会長にして、学園のアイドルとして皆から優しい目で見られている少女。
そして一番に目につくのは、その金髪のツインテール。まるで絵本に出てくるお姫様を想像させるようなその柔らかな髪は、もうすぐ三十路に入ろうとしている尊にとって憧れの象徴でもあった。
「ふーん、ふふふ~ん♪」
ヘッドホンを耳に着けながら、鼻歌交じりでチョキチョキと鋏を動かしている少女、その名は神堂慧理那。それが桜川尊にとって仕える主人である少女だ。
「お嬢様…!」
もう一度、今度は声のトーンを張り上げて、慧理那に呼びかける。すると、ようやく気付いたのか、こちらを振り向き、驚いたような顔をする。慌ててヘッドホンを外して、何事もなかったように、慧理那はこちらを向いた。ヘッドホンからは慧理那お気に入りの曲が流れていた。
「ど、どうかしましたか、尊?」
「もうすぐ朝食です、お呼びに上がりましたのですが…」
「…ああ、もうそんな時間でしたの」
「ええ、もう朝の7時です。そろそろ食べないと、遅刻してしまいます」
そう言うと尊はチラリと机の上を見た。そこには慧理那が最近躍起になっている作業の形跡があった。
机に積まれているのは新聞と雑誌、ニュースサイトから印刷した情報の山。鋏が転がっているのはその中のとある記事を切り取っているからだろう。そして、黄色い表紙のスパイラルノートには、それらの記事が丁寧に糊付けされていた。それだけではなく、手書きの文字が細かく書かれていた。
スクラップ作業。慧理那がここ最近、躍起になっている作業はこれだったのだ。
「お嬢様の趣味に私はあれこれ言うつもりはありませんが…時間は守られた方がよろしいかと。お母様も心配いたします」
「…ええ、そうでしたわね。申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げた慧理那は、机を片付けながら、一つの記事を手に取り、うっとりとする。
「綺麗、ですわ…」
とろんとした表情で記事の中にある写真を眺める慧理那。
それはテイルファイヤーとテイルレッドが手を組み、共に戦っているという記事だった。確か、キツネ型の怪人と戦ったときの記事だったはずだ。
しばらくそれを眺めた後、名残惜しそうに記事を机の中に閉まった。机の中には同じような記事がいくつもあった。
そう、慧理那はツインテイルズの熱心なファンだった。学園での演説の後、彼女は熱心にこういった記事集めから動画鑑賞、聖地巡礼などを行っている。その度にあの忌々しい侵略者に狙われるが、ツインテイルズはことごとく慧理那を救出してくれていた。そのことには嬉しいのだが、慧理那に仕える身としては、気軽に出歩いて欲しくはないというのが尊の意見だった。
「では尊、行きましょうか」
「ええ」
慧理那の部屋の扉が閉まり、廊下をテクテクと歩きながらも、慧理那はツインテイルズの話題を辞めない。
「尊、昨日のテイルファイヤーの活躍は見ましたか? あのクロスカウンター! 私、彼女たちが本当に大好きで…」
全く、お嬢様のツインテイルズ好きには勘弁する…。そう思いつつも、尊の口元は緩んでいた。新堂家の一人娘として、肩ひじを張った生活をしている慧理那がこうやって何かに熱中できるものがあるということは、嬉しく思うからだ。
(きっと彼女たちがお嬢様と同じツインテールだから、あれほど応援できるのだろうな…)
昔から続く優所正しき家系である新堂家には良く分からない決まりや家訓が多い。その一つが、一人娘である慧理那の髪型はツインテールであるのが絶対というものであった。
曰く、昔から続く伝統というが、そのせいで慧理那は自分の髪型があまり好きではなかった。そのせいか、ただでさえ幼く見える慧理那が子供向けの髪型であるツインテールのせいで更に幼く見えてしまうという悲劇が起こってしまった。自分の意志で髪型一つ変えることができない。それが慧理那のコンプレックスになってしまっていた。
だが、ツインテイルズが侵略者と戦い始めてから、慧理那の顔には笑顔が多くなった。
自分のコンプレックスであったツインテールを力に変え、颯爽と戦うヒーロー。ツインテールを愛し、それを守る正義の味方。日曜日の朝放送されている子供向けのヒーロー番組が好きな慧理那にとって、これほどマッチする組み合わせはないのだろう。
「ああ、何て素敵ですの…」
慧理那は顔をポッと赤くしながら、朝食の席へと向かおうとしていた。その顔はまるで恋する乙女のような顔をしていた。
※
「では、今日はここまで」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、先生が教室を出て行った。その途端、生徒達は騒ぎ出した。ようやく訪れた昼休みをありがたく思いながら光太郎も一息つき、机の前に広げていたノートを畳む。
「でさ、昨日のあれ見た?」
「見たよ見た見た! あのレインボーブリッジの戦いだろ!?」
「あのクロスカウンターは見事だったね!」
「それもそうだけどあのセリフに痺れた! 『お前を倒して、皆も、ツインテールも守る』って! カッコよすぎて血尿が出かけた!!」
「これ見て! テイルファイヤーの新作モデルのアクセサリー!」
「いいなー、私もそれ欲しいんだけど…」
今日の授業を終えた生徒たちは昼食を食べながら話す話題のほとんどが、昨日のレインボーブリッジでのワイバーンギルディの死闘だった。やはり、というかもうネットに動画がばら撒かれてしまったらしい。
皆がメインとしている話題はファイヤーであり、レッドの話題があまり上がらない。その理由は、昨日戦いを繰り広げていた場所が山奥の採掘所の為、誰にも気づかれない内に倒してしまったからではないかと光太郎は推測していた。
「やっぱり良いよなぁ、テイルファイヤーさん。優しくて強くて…」
「俺なんてテイルファイヤーさんの顔写真を印刷したTシャツ着ているんだぜ?」
「馬鹿言うなよ、俺なんてパンツにファイヤーさんの素手を熱転写したんだぞ! これでいつでもファイヤーさんは俺の尻を触っていることになるんだ!」
「その気持ちは分かる! もはや一緒にいないと学業もままならないもんな!」
「…まあ、お姉さま! 私と夜のボクシングをしてくれるんですか!? あ、いえいえ、私がサンドバック役になりますので、お姉さまはその迸る拳で私を…」(繋がっていない携帯電話に一人で延々と話しかけている女子生徒)
…こんな光景が当たり前のように繰り広げられるようになっているのは、もう、どういうことなんだろう。そして、それに順応してしまっている俺もどうなんだろう。
人間の慣れという感覚は恐ろしいと思う。こんな異常なことを皆が口走るようになってから、はや一ヶ月弱。最初はいちいちツッコミを入れなければやってられないと感じていたのに、今になってくるとそれが日常のBGMになっているのだ。もう今では馬鹿馬鹿しくて騒ぐ気力も湧かない。
世界の平和を守って、彼らがいつも通りの日常を過ごせるのはいいのだが、こう…もう少しだけでいいんだ、その騒ぐ気力を勉学や何かに注ぎ込めないのだろうか。
「なあ、光太郎」
と、ここでこの学園の中でもかなりまともな部類に入る生徒にして、俺の数少ない友人、観束総二が弁当を抱えながらやってきた。総二は空いている机に腰掛けながら、こっちを見る。
生徒会長の演説事件以降、総二とその幼馴染の愛香さんとはだいぶ仲が良くなった。やはりまともな感性を持つ者同士惹かれあうのか…俺たち3人は学校でもつるむことが多くなった。
ただ、愛香さんは何故かツインテイルズの話題、特にテイルファイヤー関連の話題が出ると、途端に不機嫌になってしまう。テイルブルーの話題を出されるのも嫌みたいだ。…何でなんだろう?
「…どうしたんだ、総二?」
改めて総二と向き合う光太郎。すると総二は自分のカバンから何かを取り出した。
「何これ?」
「部活申請用紙だよ!」
満面の笑顔でそう答える総二。…確かに机の上に乗っかっている書類にはそう書かれている。
「でさ、新しい部活の申請には部員がある程度必要なんだ。それでさ、名前だけでいいんだ、書いてくれないか? 特に何かして欲しいって訳じゃないし、ほんとに名前だけでいいんだ」
部活申請用紙を覗き込む。…勧誘は上手くいっていないらしい。名前の欄には、総二と愛香さんの名前、そしてトゥアールという見知らぬ生徒の名前だけが住所と共に記されていた。
「へー、ちなみに何部なの?」
軽い口調で聞いてみる。すると総二は満面の笑みでこう答えた。
「ああ、ツインテール部さ!」
…はい? 不意打ちでデッドボールをくらったみたいな感覚がして、ポカンとした。
「つ、ツインテール?」
「ああ、ツインテール部さ。ちなみにこれ、部室のプレートな」
技術工作室で作ったんだ、と言いながら総二が取りだしたのは明朝体で綴られた『ツインテール部』と書かれたプレートだった。
…無機質な文字で『ツインテール』と書かれているのに激しいギャップを感じてしまうのは何故なんだろう? もっとこう…可愛らしい文字で書いた方がいいんじゃないかな?
「…総二、お前本気なのか?」
「ああ、本気さ。ツインテールに誓ってもいいぜ」
…いやそんな星条旗に誓うみたいに言われても。
呆れたような顔をする俺を尻目に、総二は真剣な顔をしていた。ここまで本気の顔をする総二を俺は見たことがなかった。
「大体何やる部活なんだよ、これ?」
聞く内容によっては、そそくさと立ち去ろうと、半ば覚悟しておく。
「ああ、あらゆるツインテールを研究し、見守る部活さ!」
「そうなのか」
総二の言葉を聞いて、俺は半分諦めたような顔をして、目を閉じた。
そうなんだよなぁ…こいつ忘れていたんだけど、結構な変人なんだよなぁ…。入学式で盛大な地雷を踏み抜いた男なんだよなぁ…。最近は大人しいと思っていたんだけど、遂におかしく…。
「そうかそうか。つまり、ああいうことをやる部活ってことなんだな」
俺が指を指した方向には、奇声を上げて『でもやっぱりテイルレッドたんも可愛いよぉぉぉぉぉ!!』とか叫んだり、『お姉さまのクロスカウンターを私の顔に!』とか喚いている集団がいた。
「違えよ! そういう意味じゃなくて…!」
残念そうな顔をして立ち去ろうとする俺を、慌てて総二は止めた。これでもかという程に全力で腕を引っ張られて、無理矢理椅子へと戻された。
流石の総二もあれと同類扱いされるのは勘弁願いたいらしい。俺だって嫌だけど。
「じゃあどういう意味なんだよ?」
こんなくだらない部活の申請がそもそも通るとは思えないのだが…一応最後まで聞いておこう。
「いや…ツインテイルズのことだよ。彼女たちがどこから来て、何の為に戦うのか、そのことを解明する部活なんだよ」
「それってオカルト研でもやっている活動じゃ…」
「それ専門の部活って事さ。それにさ、こういった活動を通せば、ツインテイルズの応援にも繋がると思わないか?」
…うーん。確かに今、陽月学園は小中高大一貫でツインテイルズフィーバーが巻き起こっている。こういった理由で立てられる部活が会っても、おかしくはないのか…?
「どうして俺たちを守ってくれるのかとかさ、もっと根源的なことが知りたいんだよ、俺は」
「…なるほど、ね」
まあ、確かに…。テイルファイヤーとして日夜活動する俺は、レッドやブルーが戦う理由はまだ明確に分かってはいない。俺とは違うテイルギアを使い、戦う戦士。何回か共闘しているものの、未だその正体も分かっていない。
…まあ俺とは違って、間違いなくその正体は可愛い女の子なんだろうな。男が性転換して戦うヒーローが俺以外にいてたまるかって話だ。
(総二たちにくっ付いていれば、もしかしたら彼女たちに近づけるかも…?)
部員の中には凄まじいツインテールの持ち主である愛香さんもいる。もしかしたらの話だけど、活動を通すことでアルティメギルに襲われる可能性もでてくるかもしれない。そうなった時に、被害者の視点からツインテイルズに遭遇でき、彼女たちの目的や正体に近づけるかもしれない。
何だか騙されている感覚もするが、まあ…そもそも友人の頼みだしなぁ。ひと肌脱いでやるとしますか。
「まあ…いいよ。名前だけでいいんなら、書かせてもらうよ」
そう言って、連絡先などを書類に書き込むと総二は嬉しそうな顔をする。
「サンキュー! いやぁ、ありがとう、持つべきは友だなぁ!」
まあ、何と調子がいいことで。書類を片付けながら総二は嬉しそうに語る。
「やっぱり俺はさ、ツインテールが好きなんだよ。今まで恥ずかしいって思っていたんだけどさ…!」
そうはしゃぎながら身振り手振りしながらあれこれ喋る総二。その表情は凄く幸せそうだ。
…やっぱり総二は羨ましい。そうやって自分の好きなことを正直に話せるんだから。俺も少しだけでいいから、そんな勇気があればなぁ…少しは違うんだろうに。どうしても、あと一歩の所で…。
「じゃ、ここが部室だからな、暇な時があればいつでも来ていいぜ!」
総二はこれから申請の手続きに行ってくると言うと、慌ただしく立ち上がり、バタバタと教室を出て行った。
※
「ふう…」
階段を下りながら、光太郎は腕に付けたテイルリストを見て時刻を確認する。日没までまだ余裕はあったが、蛍光灯がついていない校舎は薄暗く、気味が悪い。
「そろそろ帰んないとな…」
踊り場に足をつけると、近くの教室からバイオリンやサックスの音が聞こえてきた。吹奏楽部の生徒たちが教室を使って、練習でもしているらしい。テンポを崩して演奏しているのが聞こえてくる。
それをBGMにしながら、通学カバンを背負い、廊下を小走り気味で歩く。早く帰らないとレイチェルの機嫌が悪くなるからなぁ。あいつ、あんなに頭がいいのに、家事とかは全くできないっていうのがな…。せめて掃除くらいはできて欲しいんだけど…。
ボーと考え事をしながら歩いていたせいか、曲がり角から近づいてくる小さな人影に俺は気付くのが遅れた。普段なら、窓越しで見えるはずだったのに、この時ばかりは考え事で視界にそれが入ってこなかったのだ。
「うおっ!?」
「きゃあ!?」
チラリ、と見えた瞬間には遅かった。俺は曲がり角から来た子とぶつかり、無様に転んだ。ぶつかった衝撃で、背負っていた通学カバンの口が開き、中身がバラバラと廊下に転がった。
前にも、レイチェルの時にこんなことがあった気が…そう思いながら、俺はぶつかった子に謝ろうと顔を上げて…驚いた。
「生徒…会長?」
そう、何故なら俺がぶつかったのは、この学校の生徒会長にして、皆のアイドル、そして金髪に輝くツインテール。入学式で見とれてしまったあのツインテールの持ち主、神堂慧理那その人だったのだから。
「そ、その、大丈夫ですか!?」
あたふたと慌てながらも、俺は新堂会長を心配する。こんな光景を会長を愛でる上級生たちに見られたら何をされるか分かったもんじゃない。だから何事もないようにお願いします、と神様に願いながら俺は神堂会長に近寄る。
(しかし、こう近くで見ると…会長って背が凄く小さい。レイチェルよりは…一回りは大きいけど)
近寄りながら様子を見ると、会長の身体には特に目立った外傷はなかった。会長はぶつかった俺を見ると、大丈夫だというディスチャーをして、立ち上がった。
「…ええ、大丈夫ですわ。私の不注意で、ご迷惑をおかけしまいました、申し訳ありません」
小さな体をぺこりと下げて、俺に頭を下げる会長。
「い、いえ! お、俺が考え事をしていたせいで!」
「いえ、私が悪いのですよ。私も考え事をしていましたから…ええと、丹羽君、でよろしかったかしら?」
動機が少しだけ早まった。どうして会長が俺の名前を…?
不思議そうな顔をしている俺に察しがついたのか、神堂会長はクスリと笑った。
「ふふ、生徒全員の顔を把握するのは生徒会長として当たり前ですわ」
…生徒会長って凄い。俺はそう思った。会ったことすらない生徒の名前なんて普通は覚えないものなのに。
「…あら? 荷物が散らばってしまいましたわね」
チラリと神堂会長が廊下を見ると、ルーズリーフやら筆記用具やら…俺のカバンから飛び出た荷物で辺り一面散乱していた。
「あ、これくらい大丈夫ですよ! 全然、大丈夫ですから!!」
俺は全然大丈夫だよというアピールをしながら、慌てて散らばった荷物を集め始める。やばいやばい…カバンの中にはあれが入っているというのに…。
「いえ、私にも非があるのです、是非お手伝いさせてください」
しかし神堂会長は優しかった。自分にも責任がある、と言わんばかりの顔で散らばった荷物を一つ一つ回収してくれる。…本当なら、泣いて喜ぶ状況なんだろうけど、今はあまり嬉しくない。早い所回収して、逃げ出さないと…!
ノートや教科書を小さな手で回収していく会長。と突然、会長の手が止まった。
「こ、これは…?」
会長は驚いたような顔で、俺に何かを見せてくる。
そして、神堂会長が握っている物体を見たとき、俺は、顔から血の気が引くような気がした。
会長の小さな手にある物体…それは俺がテイルファイヤーに変身する際に必要なベルト、テイルドライバーだったからだ。カバンの中に入れているそれが飛び出して、丁度、神堂会長の方へ転がってしまったのだ。
「丹羽君。あなたこれは…?」
ヤバい、これはヤバい! 俺は何とか頭をフル回転させて、それらしい言い訳を作り出す。
「こ、これは…そう! テイルファイヤーのアクセサリーなんですよ! 最近、この手のタイプ、よく見ますよね!?」
「え、ええ」
慧理那は昼休み、総二の腕につけられていたブレスレットのことを思い出していた。確かに今、ツインテイルズ関連の商品は一般でも販売されており、特にアクセサリー系が人気を博している。こういった関連の商品を光太郎が持っていてもおかしくはないだろう。
「だから…それなんです! 俺、テイルファイヤーさんのファンでして…本当は学校に持ってきてはいけないんですけど、その…」
まさか本物のベルトだなんてことは口が裂けても言えないので、それらしい言葉を並べまくってこの危機を脱しようとする。
「…そう! 限定モデルのベルトが昨日手に入りまして! つい嬉しくなってしまったので、学校に持ってきてしまったんですよ!」
「ああ、そうでしたの…」
会長はどうやら納得したようだった。…良かった、何とか危機は脱せたか?
「…ですが、一つ忠告しておきます。派手なアクセサリーの類は我が校では持ち込みは禁止されていますわ。今回は厳重注意としますが、次からは処罰の対象になりますから、気を付けてくださいね」
「は、はい!」
神堂会長は少しだけ厳しい顔をして俺に怒ると、すぐに笑顔に戻って、俺の手にテイルドライバーを乗せてくれた。
「それと…せっかくの限定モデルなのですから、あまり持ち運ばない方が賢明だと思いますわ。こういったものは傷がつかないようにするのが…」
「は、はい。善処します…」
背筋に冷たい汗がだらだら流れる感覚をしっかり味わいながら、俺はその場から一目散に逃げた。
そんな光景を見ながら、慧理那はぽつりと呟いた。
「…しかし、あんなモデルのベルト、いつの間に販売されていたのかしら…?」
…どうやら新たな騒動の種が捲かれてしまったことに、光太郎も慧理那も、誰も気づく余裕はなかったようだ。
さあ、ここからどう動かしていこうかなー!
尊さんを早く暴れさせたい…!!