俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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愛香さんの扱いが決まる回です。原作より…酷いのかなぁ?


第13話 波紋、ツインテール

「何なのよこれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

フォクスギルディとの戦いを終えた次の日、観束家の朝はいきなり上がり込んできた愛香のその咆哮から始まった。

「あ、おはようございます」

居間のテレビを眺めながら、総二はがっくしと肩を落とし、隣にいるトゥアールはわき目も振らずに挨拶だけを交わし、ノートパソコンに向き合っては、せわしなくキーボードを叩いていた。

『テイルレッドとテイルファイヤー。この2人が遂に手を取り合って―』

ネット、ニュース、諸々のメディアで特集されていたのは、怪物にいじめられてへたり込むテイルレッドの姿と、颯爽と現れてそれを救出したテイルファイヤーの姿。そして2人の戦士の熱き共闘の姿がほとんどで、テイルブルーについて触れるメディアはほとんどなく、2人のおまけ扱いされていれば上々、ほとんどが刺身の上のタンポポ程度の扱い…つまりはどうでもいいものとして扱われている。ぶっちゃけ敵であったフォクスギルディの方が確実に多く触れられているという有様だ。

勿論、資料が足りない、情報が少ないといったこともあったかもしれないが、新しい戦士の登場という比較的使いやすい話題でもあったにも関わらずこの扱いに愛香は憤慨した。しかも…。

『なるほど。つまりはこの青色の少女は味方かどうか分からない、と』

『ええ。この少女は昨今のヒーローのお約束をことごとく破っていますからね。他人が追いつめた瀕死の敵にいきなり乱入、開幕必殺技、命乞いに対して情け無用の一撃…これで味方と判断するほうが難しいですよ』

そう喋るのは、テレビをあまり見ない総二でも名前くらいは知っている有名な評論家であった。

『それに見てください、この目を。餌食となる獲物を見つけたと言わんばかりの暴力的な目ですよ。プロレスの悪役レスラーが時たまこのような目をするのを私は何度も見ていますからね、分かるんですよ。この手の輩はね、顔は笑っていても中身はひどく暴力的ですなんです。この少女にもその片鱗が既に見え隠れしていましてね…』

『なるほど。では次は―』

たまに話題に上がったかと思えばこれだ。正義の味方どころか、悪役か、もしくは敵か味方か分からない第3勢力の手先か何かという扱いを受けている。

評論家たちのテイルブルーへの鋭い意見に、総二は大体あっているんじゃないかなと思ったが、心の中だけに留めておく。もしうっかり口を滑らせたりしたら、きっとテイルファイヤーの拳と同クラスの一撃を生身で食らう羽目になるからだ。

『う、ああああああああああ!』

『よそ見を、するなぁ!!』

そんな扱いを受けたブルーとは対照的に、メディアに大々的に紹介されているのはテイルレッドとテイルファイヤーだった。適当にチャンネルを回してみても話題はこの2人で持ちきりだ。

『いやぁ、テイルレッドは今回も可愛らしいですねふひひ』

おい、発言に気をつけろよ、机の上に偉そうな肩書きを乗せているおっさん。この番組生放送中だろ? 今まで積み上げたキャリアを台無しにするような顔をテレビで映すな。

『流石は儂の娘、テイルレッドたん!』

『はぁ!? ちげーよ、テイルレッドたんは貴様の娘じゃねぇ! テイルファイヤーさんの妹に決まっているじゃねーか!』

『お前は馬鹿か!? テイルレッドたんはなぁ、テイルファイヤーさんがお腹を痛めて生んだ娘に決まって』

おっさん同士の醜い争いの途中で映像が切れ、ピーという音と共に「しばらくお待ちください」のテロップが流れた後、総二は感情の欠片もない能面のような顔でテレビを消した。

「もうやだ、この国」

愛憎表裏一体。応援してくれるのは嬉しいが、このままの応援だといつか自我や精神が崩壊を起こしてしまいそうな気分になる。

だが、総二以上に悩みを抱えているのが愛香だった。

「もう嫌なのは私の方よ!テレビでもネットでもあたしの評価酷いんだから! あんたはまだ人気あるからいいかもしれないけど、あたしほんとに評判悪いのよ!?」

「ネット? ネットなんて見ていたのかお前」

総二はここ最近、ネットを見ていないせいか自分がネットでどういう扱いを受けているのか分からなかった。…何故触れていなかったかは聞くまでもないだろう。放送コードという防護柵があるテレビですらこの扱いなのだ、誰が何とでも書き込めるネットの世界など怖くて触れることすらできない。

「ほんと酷いのよ。掲示板でブルーを絶賛するコメントを書いたら『自演乙』ってレスがすぐ帰ってくるんだから!」

「何の戦いを繰り広げているんですか、愛香さん」

「『本人さん、乙ですwww』『本人さんチース』とかも言われたし」

「事実じゃないですか」

「仕舞にゃ動画サイトであたしのIDをNG推奨って晒されたし! 酷いわよね!」

「迷惑な行為ですし、当然ですよね!」

「うるさ――い!!」

トゥアールの合間合間に挟むツッコミにキレた愛香は、どこから取りだしたのかトレーニング用のリストバンド(重り入り)をトゥアールの顔面へと叩きつけた。

…なんて斬新なツッコミなんだろう。トゥアールが来てから数日しか経っていないが、日に日に愛香のツッコミのバリエーションが多くなっている気がする。

「で、でも、テイルブルーを推す人もちゃんといますよ!」

鼻血を出しながら、トゥアールは笑顔で愛香にパソコンの画面を見せる。そこは申し訳程度のテイルブルーの横顔を映した写真と大量のコメントで構成されたページだった。

―以下、そのページに載っていたコメントの一部である。

・胸が平らなのに、胸元の開いたスーツを着るとはマゾの極みwwww

・一瞬セクシーなのかな? と思ったけどよく見たら違った、ただ貧相なだけだった。

・貧乳なのに、セクシー衣装で顔面テイルブルーwww

・ぶっちゃけ、ファイヤーさんと被っている。というか胸も性格も全てが劣っている。

・もしかしてあれか、彼女は貧乳を求める怪人なのか? だから恰好も貧乳なのかな。

…もはやイジメとしか思えないコメントがページいっぱいに書かれていた。ほぼ挙げられる話題が貧乳っていうのが酷過ぎる。

「――これ、学校で誰かが言ったら、あたしそいつをぶちのめしたいという衝動を抑えられないわ、きっと」

パキパキと拳の関節を鳴らしながら、愛香は親の仇を見つけたような顔で画面を睨む。が、そんな愛香を呆れたような目で見るトゥアール。

「そういう所が悪いと思うんですよねぇ…」

「何よ!」

「ほら、そうやってすぐ手を出そうとするんですね! 悪い癖ですよ!!」

「こ、のぉ……」

頭上で拳を握ったまま、プルプルと震わせる愛香。トゥアールは愛香が言い返せなくなったのを好機と見たのか、ねちねちと言葉のナイフを武器に反撃を始めた。

「愛香さんのそういった短気な行動や暴力的な態度が、世界中の人に見抜かれているんですよ。だから人気が無いんです、貧乳って馬鹿にされるんです。悔しかったらそういった性格や人を殴る癖を直しましょうよ。直した頃には多少なりとも人気は上がるんじゃないでしょうか…まあ、いくら性格が良くても貧乳である以上、その道は大変厳しいと言わざるを得」

ズブリ!言い終わるか終らないかの内に、愛香はトゥアールの愛らしい瞳に、勢いよく指を突っ込み、目潰しをくらわした。

「ぎにゃ――――!!」

「だからお前はぁ! 言った傍からそれか!?」

「だってさぁ……こいつの話聞いていると、反射的に手が出るっていうか。多分、あたしはこいつの話を聞くと、脳から電気信号が送られるよりも前に体が動くようになっているのよ」

「どんな身体!? そんな身体になっていたらそいつは人間じゃねえよ、もはやサイボーグだよ!!」

「そ、総二様…愛香さんはきっと人間じゃないんですよ。昨日も私の関節をバラバラにしましたし、本当に人間なら躊躇したり、情けをかけたりできます。それができないのはきっと蛮族か何かの生まれ変わりなのでは」

「シャラ――――プ!!」

ゴグシャア! 目潰しをされても懲りないトゥアールに遂に堪忍袋の緒が切れた愛香は折りたたまれたノートパソコンを殴り、無残にもそれを拳で貫通させた。

「ああああああああああああああ!! 私のウハウハフォルダがぁぁぁ!!」

数秒前まで電子機器の形をしていたそれは、拳大の穴が開き、火花が散る斬新なオブジェへと早変わりし、トゥアールは血の涙を流しながら蹲った。

「まあ、ぶっちゃけ、愛香が来なくてもどうにかなったしなぁ」

「…え?」

幼馴染のまさかのカミングアウトに呆然とする愛香。

「テイルファイヤーと一緒だったし、あのまま戦っても絶対に勝っていたと思うから…別に愛香が来なくても大丈夫だったんだぜ? ていうか基地で映像見ていなかったのか?」

トゥアールとの殴り合い(一方的)でそんなもの見ている暇がなかった愛香はそんなことがあっただなんて知らなかった。

「じゃ、じゃあ何? あたしの決意とか、意志とか気持ちとかは…」

「まあぶっちゃけ、全部無駄だったしか言いようがありませんね。世間からの評価が悪いのも愛香さんが貧乳で空気が読めないのが原因じゃ」

「うおわあああああ―――!!」

バーン! そう呟くトゥアールの顎を愛香は蹴り上げて、天井に首をめり込ませた。ぶらんと首から下の身体が揺れているその光景はホラー映画顔負けの光景だ。

「俺んちを殺人現場にするなぁぁぁぁ!!」

「あ、大丈夫です総二様! 私こういうことには慣れていますので…。それより総二様、私のスカートの中がしっかりと見えていますか、パンチラですよ、パンチラ!!」

…そんなやり取りも耳に入らず、愛香の心には暗い深海のように深い嫉妬が生まれつつあった。

(あ、あたしが本来いたはずのポジションをあいつが…!幼馴染のあたしのポジションが! あ、あいつがいなければ、あいつのせいであたしはこんな目にぃ……!!)

とばっちりと言わんばかりの理不尽な怒りでテイルファイヤーを恨む愛香。

(ぜ、絶対許さないんだから、テイルファイヤーぁぁぁ!! あんたさえいなければあたしだってぇぇぇ!!)

…人それを八つ当たり、はた迷惑な奴というのだが、今の愛香にはそんなことが理解できるわけがなかった。女の嫉妬だけが彼女の心の中に渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

――ブルッ。

「うおっ!?」

同時刻、光太郎の部屋。突如悪寒に襲われ、肩を震わせた。

「どうしたの光太郎?」

「いや、なんか…少し寒気が。ゾッとしたんだ」

「風邪じゃないの? クスリ飲む?」

「あ―、いらない。後でなんか温かい物でも飲むからいいや」

ミーティング中に光太郎を襲った悪寒。何か嫌な予感がしたが、特に気にも止めずに会議を続行することにした。

「レッドに続いてブルーか。俺も含めるともう3人目かぁ…」

先日現れた新戦士テイルブルー。俺たちが追いつめたフォクスギルディを開幕必殺技で倒すという衝撃的なデビューで飾った青色の戦士。はたして敵か味方か。今回の会議はそれが大きな話題の一つになっていた。

「レッドは信用できるんだけどさ、ブルーは味方なのかな? あの人何か怖くてさ…」

「やり方はともかく味方って認識でいいんじゃないかしら。少なくともこっちに危害を加えない今のうちはね」

「まあ、こっちに直接的な被害は出てないからいいんだけどさ。それよりも気になるのは」

「…何故あの子たちがテイルギアを持っているかってことね」

「ああ。俺の使っているやつと違う気がするしな」

やはり気になるのはレッドやブルーの外見だ。纏っているのは俺たちと同じテイルギアで間違いないだろう。ただ気になるのは、俺のギアとレッド達のギアの違いだ。

俺のギアはベルト型のアイテム『テイルドライバー』で変身するのだが、レッド達のギアにはベルトのような装飾品が見当たらない。そのかわりに腕のブレスレットのようなアイテムに俺のベルトと同じような機能が備わっている。

同じテイルギアのはずなのに、どこか違う。外見も違いが見られる。レイチェルが並行世界から持ってきたギアは俺のテイルドライバーただ一つだけ、誰かに他のテイルギアを渡したという説はありえない。これらが示すことは…。

「-レイチェルと同じように並行世界からテイルギアを持ち込んだ奴がいる」

「ま、そういうことになるわね」

つまりはそういうことだ。レイチェル以外の並行世界の生き残りが、この世界に来ていることになる。

「…できることなら、会って見たいんだけどね。もし、そいつが生きているのなら」

レイチェルはぽつりと呟いた。

「やっぱりそうだよなぁ…」

俺もレイチェルの立場だったらそう思う。自分の知り合いがこちら側の世界に来ている、しかも生きているかもしれない。それだけでどれだけ嬉しいことか。

「でさ、このギア、誰が作ったかってのは分かるか? もし分かるのだったら、俺があった人の中にその人がいるかもしれない」

その言葉にピタッとレイチェルは静止する。聞かれちゃマズイことを言われたみたいに、黙ってしまう。

「? どうした?」

「…あ、うん。一応心当たりがあるっていうのか、無いっていうのか…」

「本当か!?」

「あー、まあ、勘っていうのか察しが付くかなってくらいで、確信には至らないんだけど…」

顔を背けながら曖昧なことしか言わないレイチェル。…何となく気まずくなってきた。

「まあ、その…言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ…」

「…ごめんなさいね」

「何か、ごめんな。俺も無理やり聞いちゃって」

「ううん、いいのよ」

光太郎は知らない。テイルブルーの纏っているギアが、レイチェルにとってもの凄く見覚えがあるということを、そしてそのギアの元々の持ち主がレイチェルの知り合いだということも。

そしてその本来の持ち主はスタイル抜群で、装着するギアもそれを前提に作られている為、貧相なスタイルのテイルブルーには壊滅的に似合わないということに気付いたのもレイチェルただ一人であったことも、光太郎は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

侵略者アルティメギルの秘密基地のとある一室。『事務室』と書かれたプレートが引っかけられているその一室では怪人たちが書類制作に励んでいた。

いくら戦いに明け暮れる侵略者でも組織という集団にいる以上、事務作業は必要であり、時折こうやって作業に励んでいる。

だが、作業に励むはずの怪人たちは心ここにあらずといった状態で、頻繁に私語を交わしていた。

「フォクスギルディもやられたらしいな」

「ああ、青い悪魔に倒されたってよ」

「ヘッジギルディに続いてベテラン二人が殉職か。俺たち勝てんのかねぇ…」

「知ってるか、この世界の侵略中止の案も挙がっているらしいぜ?」

「マジかよ…そうなったら新しい部署の転属になるかなぁ? 今の部署気に入っているんだけど…」

何人かの怪人が中学生の休み時間のノリで固まって話している。

「青い悪魔、テイルブルーか…あいつと戦うのは嫌だなぁ。貧乳は俺の好みじゃねえ」

「それは同じ貧乳のテイルレッドたんのファン全員を敵に回す発言とみていいのか?」

「どうせ倒されるのならレッドたんかファイヤーさんがいいぜ。あのツインテールを拝みながら散りたい」

「お前、散り際の言葉考えている?」

「いやぁ、やっぱり…」

その怪人の散り際が何なのか、周りの怪人は知る機会を失った。何故なら、どん、と机を叩く音が事務室に響いたからだ。

「…事務作業を続けろ。戦いだけが俺たちの仕事じゃない、書類制作も大切な仕事だ」

「わ、悪かったよ。ワイバーンギルディ…でもさ、俺たちも…」

「ああ…?」

翼竜の姿をした怪人、ワイバーンギルディはギロリと睨んだ。睨まれた怪人は何も言い返せずに怯え、しぶしぶといった気分で事務作業へと戻った。

「いいか、俺たちはアルティメギルだ。人間相手に臆するなどあってはならない!」

ワイバーンギルディは事務室にいる全員に聞こえるように大声を出す。

「相手はたかが鎧を纏った人間だ。青い悪魔? 違うな、俺たちが悪魔なんだ!!」

律儀な何人かの怪人が「はーい」とか「ふーん」とかの返事をすると、ワイバーンギルディは満足したらしく、書類制作へと戻った。

「ったく、相変わらずお堅いんだから」

誰かが子声で囁いた。

「しょうがないだろ? だってあいつは若手ナンバーワンだし、期待されているんだよ」

「ちえっ、羨ましいね」

「所詮たたき上げの俺たちとは違うってか?」

「いいねえ、エリート様は…」

ヒソヒソコソコソ。

「…」

子声はワイバーンギルディにも聞こえていたが、無視した。そう言われるのはいつものことだからだ。

(忌々しい奴らだ…!)

ぎりっと歯が軋む。仕事に励まない怪人もそうだが、彼らの話題の種であるツインテールの戦士の方も忌々しい。

4人、この短い期間で4人ものの怪人が殉職した。元々入れ替わりの激しい仕事だ、こうなることは覚悟していたが、たかが3人の人間の戦士に4人もやられたなど。

(今に見ていろよ…人間共!!)

静かな怒りをふつふつ燃やしながら、ワイバーンギルディは書類制作に励むことにした。

焦ることはない、チャンスは必ずくる。そう、チャンスはまだあるのだから…。




原作よりはまともじゃないかな?
次回は1巻最大の山場、ドラグギルディ編に入ります。お楽しみに!

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