俺、ツインテールになります。 The Another Red Hero   作:IMBEL

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今回はそれほど話は動きません。


第10話 裏方とツインテール

爆発。ヘッジギルディを貫いた拳の影響で、それは巻き起こった。その爆発で校庭に軽い火柱が上がる。その火柱を前にして悠然と立つ戦士、テイルファイヤー。散った怪人、立つ戦士。もはやどちらが勝者かは明白であった。

そして射出された右手が腕へと戻ってくる。がちんと収まり、射出形態に変形していた拳は元の籠手の姿へと戻った。

「ふう…」

軽く右手を動かして、腕が戻ったことを確認すると、光太郎は盛大にため息を吐いた。

初めての戦いは終わった。一応、怪人は消えたことだし、俺の勝ちってことになるんだろうな。

にしても、怖かった…。初めての戦いとはいえ、本気で諦めかけたし、泣きそうになった。あいつの属性力、かなり厄介だったからな。尖照(ツンデレ)があれほど恐ろしい武器になるとは。

幸いにも俺には対抗手段はあったものの、もしあいつとテイルレッドが戦っていたらと思うと一体どうなっていたんだろう。あの子の武器は剣だけだし、嫌でもあいつの懐に飛び込まなければならないだろうし。もし、彼女が傷ついたら…。ふとそう思ったが、首を振ってそれをかき消した。

もしも何てありえない。あの怪人は俺が倒した。テイルファイヤーが勝って、ヘッジギルディが負けた。それが全てだ。

「さて、と」

ファイヤーは身体に鞭打ちながらも何とかヘッジギルディが爆発した地点までたどり着き、そこにしゃがみこみながら一つの結晶を手にする。無機質なはずのそれは、まるで生きているかのように神秘的で、とても美しく見えた。

(これが、属性玉…)

それは属性玉(エレメーラオーブ)と呼ばれる、属性力が結晶化したものであった。属性力を糧にして生きるアルティメギルを倒した時に出る思いの結晶体。ヘッジギルティが愛していた属性、尖照(ツンデレ)への思いの塊がそこにはあった。

しばらくそれを眺めていた。あいつはこのちっぽけな結晶に、どれほどの思いを注いでいたのだろう…。俺のツインテールを正確に打ち抜いたあの一撃から、飛ばされた針に何かしらの思いは感じ取ることはできた。それこそ、俺がツインテールの思いで戦うのと同じように、彼もまた針に自分の思いを乗せて戦っていた。

彼は変態で怪物だった。しかし、ツンデレを愛する心は間違いなく本物であり、俺たち人間と同じだった。

そう思うと、掌に載せたこの小石ほどの結晶から、ずしりと千鈞の重みが感じられる。

「…」

それをそっと回収してベルトに収めると、校庭の隅で女子小学生を捕えているアルティロイドに視線を向けた。が、彼らは既に戦う気はないらしく、蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げていった。どうやらヘッジギルディが倒された今、彼らには戦う意思はないらしい。

さてと、俺も早い所逃げないと。アルティロイドが逃げたのならもう戦う相手はいない。だったら、ここにいる必要もない。動画や写真もごめんだからな。

くるりと踵を返し、さっさと帰ろうとしたが、グイッと誰かが髪の毛を引っ張られる。

(痛ッ)

じんじんと痛む頭皮を撫でながら、立ち止まり、毛先を見ると、一人の少年がファイヤーのツインテールを引っ張って、逃がさないようにしていた。

「ど、どうしたの?」

何かあったのか? そう思いながら、優しく少年に話しかける。

「おねーちゃん、今のどーやったの?」

「え?」

「ぶれいく、しゅーと!」

戸惑う俺を前に、少年は俺がさっき繰り出した技を見よう見まねでやっていた。

「ねえ、どうやるの? もう一度見せて!」

少年はまるで憧れの野球選手にサインを頼むかのようにまっすぐ、輝かしい瞳で俺を見つめてきた。

え、えーと。これは…。

「す、すまない。これは決して見世物じゃ…」

そのキラキラ輝く瞳から逸らし、この場から逃げ出そうとするが、そうは問屋がおろさない。いつの間にかその少年と同じような目をした何人もの小学生に囲まれていた。

「ねえねえ、他にも武器は無いの?」

「ビーム出せないの?ビーム」

「ちげーよ剣だよ剣!」

「バズーカも…」

「ヨーヨーや弓とか、ミサイルとかデッカいトンカチとかあるんだろ? 見せてよ!」

「「「見せて見せてー!!」」」

嗚呼、この世に神はいないのだろうか。小学生たちはテイルファイヤーの足や腕、髪の毛などにしがみつき、絶対に逃げられないようにしていた。

(こ、これヤバいんじゃ…)

最後の頼みの綱でレイチェルに助けを求めるが…。

『あはは、テキトーに相手して、そのうちに帰ってくればいいわよ。ちびっこの相手をするのも、テイルファイヤーの大事な役目よ』

それだけを言い放ち、通信は切られた。嗚呼、神は死んだ。

「うわ、ちょっと髪の毛はダ…変な所は触るなぁ! 誰か今、お尻を触らなかったか!?」

「「「触ってなーい!!」」」

「いや、絶対、今…おい! 胸は駄目だぞ、突っつくな! 後ろの坊主はツインテールを弄るなぁぁぁ…!」

炎のツインテール戦士、テイルファイヤー。ある意味、アルティメギルよりも強力な奴らとの第2ラウンドが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

その頃、光太郎の部屋では。

「ふう…」

レイチェルは小学生軍団にもみくちゃにされているファイヤーを眺めながら、映像を切った。まあ、あいつなら大丈夫だろう。適当な所で切り上げて、帰って来るに違いない。

それにしても、初戦を上手く乗り切ってくれた。やはり、あいつに私のベルトを託して、本当に良かった。

そう思いながら、電子機器を操作して、映像を別の物へと切り替える。正確に言えば、数分前、隣町で戦っていたもう一人の戦士の録画映像に切り替わる。

『くらえぇぇ!』

映像が現れると、今まさに必殺技を放たんとするテイルレッドの姿に切り替わった。炎の剣を振りかざし、タトルギルディへとその叩き込む瞬間。レイチェルは映像を一時停止させた。全身像が見えるこの瞬間の映像が欲しかったのだ。

そして、あらゆる角度から動画を検証する。揺れるようなリボン型のパーツ、水着のようなスーツ、剣、全身の装甲。全身像を確認した後は、映像の解析に映る。

まず間違いなく言えるのは、レッドが纏っているのはファイヤーと同じ、テイルギアだ。変身アイテムがブレスレットタイプであること以外、ほとんどファイヤーとパーツが変わらない。特徴的なパーツの数々が一致するし、テイルギア特有の装備も映像にしっかり映っていた。

間違いない、こいつが使っているのはテイルギアだ。外部の者(並行世界)から持ち込まれたと見て、間違いないだろう。そして彼女は光太郎と同じように、託され、変身して、戦っている。

(さあて、どこまで解析できるかしら…)

パキポキを指の関節を鳴らして、解析に映る。

テイルギアの標準装備には認識攪乱を行う首輪『フォトンサークル』が装備されており、当然テイルギアを装備しているレッドにもそれはある。そのせいで正体は見抜けないものの、どうしても誤魔化しきれない部分も存在する。口調や仕草などがその代表格だ。その細かな部分から、大まかな正体を割り出そうとしてみる。

キュルキュルと巻き戻して、再生する。必殺技のシーンから、タトルギルティの固い甲羅に剣がぶつかり、再度攻撃に移ろうとするシーンにまで戻る。

「…ここね」

ピッと停止し、映像を凝視する。ここがおかしかった。映像は立ち止まっているはずのタトルギルティとの間合いを間違え、勢いよく剣を空振りするというシーンだった。素人目からしてみればレッドの可愛さが滲み出るシーンでも、レイチェルからしてみれば今の場面はどこか違和感を感じるシーンだった。

(動きがぎこちない…バランス感覚が悪いのかしら。いやこれは、自分の体に慣れていない? 恐らく変身した時に身体能力以外にも変わっている部分が存在している…)

――身長操作。

そのキーワードに至った時、そして頭に一人の科学者の姿が浮かんだ時、レイチェルはテイルレッドの正体に一歩近づいた。

やはりそうだ。テイルレッドは変身時に身長を変えている。この場合、縮めているといえば正しいか? まだ2回目の戦闘で変化した身体に慣れていないのか、時折動きがどこか変だ。

同じほどの身長のレイチェルからしてみれば、剣を振るったり、走り出したりするテイルレッドの動作が不自然でぎこちなく見える。ファイヤーと比較してみると一目瞭然だ。一回一回の動作が不自然極まりない。

(恐らく、正体バレ対策で身長を無理やり変えているのね。この子は自分の縮んだ身体にまだ違和感を持っている…。この間合いから見て、40センチほど背を縮めているのかしら。変身者の本来の身長は160センチほど。だけど、伸ばすならともかく、わざわざ身長を縮めるだなんて。そしてこのレッドの外見…)

レイチェルは忌々しそうにレッドの姿を睨んだ。それで確信できる。こんなことを行い、かつ実装でき、テイルレッドの外見をこんな風にする人物を、レイチェルは一人しか思い浮かべられなかった。

「やっぱり、これはあんたの作ったものなのね…トゥアール」

ぽつりとそう呟いた。その言葉から、様々な感情が浮かぶ。嬉しい。けど、どこか複雑だ。

もしかしたらあいつは本当にこの世界に来ていて、どこかで生きているかもしれない。もしかしたらこの町にいるのかもしれない。できることなら一目会ってみたい。けど…顔を合わせるのがどこか怖い、できれば会いたくない…。そんな思いが胸にグルグルと巻き起こりつつあった。

レイチェルは反射的に映像を切って、電子機器を部屋の片隅へと投げ捨てた。このことはあまり考えたくなかった。

(…ま、あたしみたいに性別そのものを変えている訳じゃないから安心したわ。あいつにも人の心はあったのね)

気分を切り替えるように、ごろりと床に寝転んで、ぼんやりとそう思った。あいつは天才的な頭脳の持ち主だけれど、色々と残念すぎるところが多すぎるからね。前の世界では何度しょっぴかれそうになったことやら。

流石にテイルレッドの性別までは分からないけど、あの仕草はどう考えても女の子で間違いないだろう。そう、こんな可愛い子が男のはずないもの。

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!」

「あら、トゥアールちゃん、風邪?」

この町の片隅にある喫茶店『アドレシェンツァ』。ここの地下にある秘密基地でデータの解析をしていたトゥアールと、総二の母親の未春の姿があった。盛大にくしゃみをしたトゥアールを、未晴は心配そうな目で見つめていた。

「あ、いえ、大丈夫です。多分、埃が入っただけだと思いますので」

「そう…?」

「それよりも見てください! 現在の総二様の姿です! 最高画質で、しかも生中継ですよ!」

目の前の大スクリーンに映し出されたのは、体操服(ブルマ)属性を狙った怪人タトルギルディとの戦闘の舞台となった女子校の校庭。そこには既に戦闘を終えたテイルレッドの姿があった。だが、そこに映っていたのは…。

『はあはあ、一緒に着替えっこしましょう!』

『大丈夫、優しくするから! 先っちょだけ、先っちょだけだから、ね!!』

『うわ~ん、帰るぅ~道開けてぇー!!』

助けたはずの女子生徒に囲まれ、涙目になるレッドの姿だった。手足をばたつかせ、まるで本物の幼女のような姿を見せる息子に未春は震えた。愛する息子が女子生徒に襲われていることに怒っているのではない、このシチュエーションに感激し、震えているのだ。長年の夢が叶った、そう言わんばかりに。

「トゥアールちゃん…グッジョブ!」

「いえいえ、居候として当然のことをしたまでですよ」

未春はトゥアールによくやったとサムズアップをし、トゥアールもそれで返した。

未春はトゥアールの正体や敵の事、息子が幼女の姿で戦っていることも全て知っている。それを知った上でこの光景に感動しているのだ。

普通なら愛する我が子が戦場に赴くなど、頑として否定するだろうが、この観束未春という人物は色々とぶっ飛んでいる人間だったのだ。それこそ、ド変態で痴女な女科学者トゥアールとタメを張れるほどに。

未春は中二病という不治の病にかかっている。中二病とは所謂「俺の右手の封印が…」とか「邪気眼が…」とかいう、思春期特有の思想・行動・価値観が過剰に発現した病態である。夢見がちな子供の思考と背伸びしたい大人の思考が混じり合い、恥ずかしいことやおかしな言動をとってしまう現象のことだ。

そして未春は中学生でこれを発症し、完治しないまま一児の母へとなってしまった。そして異世界からの住人、トゥアールが観束家に転がり込んできた。

異世界からの住人、侵略者、変身、性変換、幼女…このシチュエーションはまさに私の望んだ展開そのものだ! ナイスな展開じゃないか!!

無論、この一連の事件を即信じ、トゥアールを観束家の一員として歓迎した。更に地下に基地を建設するのも二つ返事で承諾。このことを息子や幼馴染の愛香が騒ぎ立てるも、聞く耳を持たなかった。…そして、何故か未春は悪の女幹部的なポジションに落ち着いている。そこは総司令のポジションじゃないのかよ、というツッコミがあったが、末春的にはこっちの方が燃えるので、それでよしとなった。

「それとトゥアールちゃん、例のあの子なんだけど」

「はっ!」

「新しい情報は掴めた?」

トゥアールはカタカタとキーボードを叩いて、映像を出した。

『ちょっと…こら! 腕をつつくな、足を擦るな! それと、いい加減に離れてくれぇ――!!』

そこにはテイルレッドと同じようなシチュエーションに陥っているテイルファイヤーの姿があった。囲まれているのが小学生軍団であり、年上のはずの彼女は多勢に無勢で涙目になっていた。

「…この子の名前は分かった?」

「はっ、テイルファイヤー、と名乗っていました」

「この子、分かっているじゃない。レッドの次はファイヤー。常識だわね」

「ええ、それにこのカメラを意識した立ち位置。侮れませんよ」

未春はやるじゃないといった顔でファイヤーの顔を見た。この子、侮れない。息子と同じシチュエーションでありながら、逆のパターンで攻めてくるとは。トゥアールもそれを理解しているのか、ふひひと笑った。

「引き続き、データを集めて頂戴。とびっきりのシーンをリクエストするわ」

「かしこまりました、お母様。その命令は確かに…!」

そこには十数年越しの願いが叶って、ほくほくしている未春の顔があった。…人類とアルティメギル、果たしてどっちが悪役なのだろうか? それはまだ、誰にも分からない事である。




味方陣がホントひでぇなこれ…。ここから更に酷くなるだなんて、誰が想像できるだろうか?
次回もお楽しみに!

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