デート・ア・グリムロック   作:三ッ木 鼠

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次回で最終回です。
複雑な気持ちですね。


51話 One shall stand, one shall fall PART 2

 天宮市がディセプティコンの手に落ちてから早くも三日が経った。初日の襲撃で見事に陥落したこの町を奪回しようと自衛隊基地から何機もの偵察機、戦闘機、攻撃ヘリコプターがやって来たが全てたたき落とされてしまった。航空自衛隊の戦力もスタースクリーム、ショックウェーブ、ブレストオフ、ボルテックスの四人に遮断されて町に寄り付きも出来ない。

 機甲部隊の進撃もプレダキングが排除してくれた。最高級戦車をおもちゃのように投げ、踏み、粉砕して回った。時間が経てば町にトランスフォーマーの対空砲が設置され、町の防衛は更に堅牢なものとなった。

 ダークマウントの頂上には王座があり、そこに座するのはもちろんメガトロンだった。町の制圧を完了して地下から大量のエネルゴンを吸い上げて本来なら笑いが止まらない状況だった。だが、メガトロンの顔は険しく、ディセプティコンの兵士はその様子にビクビクとしていた。

「まだか、まだ見つからんのか五河士道は!」

 怒声と共に肘置きを叩いた。

「申し訳ありませんメガトロン様、捜索が難航しております」

 メガトロンが怒っていようともショックウェーブは一切ぶれない。普段と同じ声音で話した。

「人間一匹見つけるのに何故三日もかかるのだ!?」

「なにぶん、小さな種族ですので」

「ハァ~、やっとペンキが取れた。ようやく美しいボディが戻ったぜ」

 張り詰めた空気の玉座に気の抜けた声が響きわたった。水色に塗られた体を落とすべく仕事を放ってシャワーに行っていたのだ。

「スタースクリーム、五河士道の捜索はどうしたのだ?」

「はい? ああ、これから行きますよ――。げっ! まだ腰回りにペンキが残ってる!」

「この愚か者めが!」

 怒りいっぱいのパンチがスタースクリームに炸裂した。思い切り殴り飛ばされてスタースクリームはひっくり返り、尻餅をついた。

「何するんです!?」

「貴様のカラーリングなどどうでも良いわ!」

 倒れ込むスタースクリームをメガトロンは踏みつけて叱責した。

「人間を探せ! 人間一匹をだ!」

「とは言っても何十万人のウチの一匹ですよ!?」

「……」

 メガトロンは何かを閃くとスタースクリームから足をどけた。

「では人間共に探させれば良い。フハハハハ! サウンドウェーブ! カメラを用意しろ!」

「ハイ」

 メガトロンは王座に座ると王者たる堂々と胸を張った。そして少し待っていると中継用のカメラをサウンドウェーブがマイクをランブルが、スピーカーをレーザービークが運んで来た。メガトロンがこれから放送される映像は天宮市全域に流されるのだ。

 サウンドウェーブはカメラを構え、指でサインを送った。

「天宮市にはびこるウジ虫共よ。貴様等に命令を下す」

 映像では士道の顔が出ている。

「この小僧を探し出せ、期限はない。五河士道を捕らえた物には褒美をたっぷりとくれてやろう!」

 高圧的な放送はそこで終わった。

「なかなかの出来ですねメガトロン様?」

「ふん、これで少しは探しやすくなるだろう。サウンドウェーブ、今はどれくらいの人間が作業に従事し、どれくらいの人間がまだ逃げ回っている?」

「人口の九割ハ工場で奴隷トシテ働いてオリマス。僅かに抵抗シテイマスが、抵抗トハ呼べまセン」

「ほう……抵抗勢力か。我々に逆らう愚か者は叩いて潰せ」

「了解シマシタ」

「メガトロン、スペースブリッジの配置はもう完了したのだがスペースブリッジを何に使うんだ?」

 戦いには参加せずにアーカビルはメガトロンにスペースブリッジの大型化を命じられたアーカビルはそろそろスペースブリッジの使い道を知りたかった。

「スペースブリッジを何に使うかだと? ははは、もちろんセイバートロンを地球の隣に持って来る為だ」

「惑星を運搬するのか!? そんな事すれば地球はどうなる!?」

「もちろん地球はただでは済まんだろうな。しかしカラカラにエネルゴンを吸い上げてしまえばこんな星、どうなろうと知った事か」

「メガトロン! 地球のエネルギーを吸うのは構わない! だが地球の破壊は思いとどまってくれ! 儂が育った星が無くなるのは辛い!」

「何を言うか老いぼれ、ここまで手を貸しておきながら。そうだ、貴様にはもう用はないショックウェーブ、こやつを独房にたたき込め」

「はい、メガトロン様」

 ショックウェーブが手を伸ばすとアーカビルは白衣の裏側からレーザーガンを撃ち、ショックウェーブの手を火傷させた。殆ど効果がなくアーカビルは走って逃げ出したがサウンドウェーブが向かわせたレーザービークに呆気なく捕らえられてダークマウントの独房へと叩き込まれた。

「メガトロン様、アーカビルはどうするんで?」

 と、スタースクリームが尋ねた。

「地球と共に消えてもらうだけだ」

「エレンは、あいつはどうするおつもりです?」

「そうだな……人間にしては利用価値が高い。お前が好きにしろ」

「わかりました」

 

 

 

 

 

 遡る事三日前、フラクシナスが撃墜されて戦力の中核を失った。燃え盛る船体の中、クルーは奇跡的に全員生存していた。神無月は頭から軽く血を流していたが問題ない。他のクルーも体を負傷している。

 いつ爆発するか分からないフラクシナスからなんとか這い出した琴里以下数名。これから何としても士道達と合流しなければいけない状況だった。まともに動けるのは琴里だけで令音や神無月を率いてディセプティコンから逃げられるとは思えなかった。

「司令、早く逃げて下さい!」

 神無月が叫んだ。既にディセプティコン達が琴里達を捕らえに接近している所だ。

「バカ言わないでクルーを置いて司令官が逃げられるもんですか!」

「琴里、キミまで捕まればフラクシナスが払った犠牲は無駄になるッ」

 珍しく令音が声を張った。

「行くんだ。シンや他の子達にはキミが必要だ」

「行って下さい司令!」

「捕まらないで司令! ゴーゴー!」

 琴里はギュッと目をつむりクルー達に背を向けて走った。必ずディセプティコンから救い出してみせる。必ず、ディセプティコンを打ち倒す。琴里は心の中で何度もそう言った――。

 

 琴里が士道達と合流するとまずは作戦を考えた。士道をいかにしてディセプティコンの手に落ちないようにするかだ。それにはまずチームを分ける必要があった。

 士道、四糸乃、琴里のチーム。

 十香、耶倶矢、夕弦のチーム。

 狂三、七罪、美九のチーム。

 最後に折紙と真那のチームだ。現状、この二人が戦力の中核だ。人工精霊メタトロンとパーセプターお手製のCR-ユニットセンチネルはエネルゴンタワーの影響を受けずに行動出来るのだ。

 全員にインカムをセットして全てのチームには士道のクローンが投入されていた。

 クローン体でディセプティコンの目を欺くつもりだった。

「なあ琴里、三日もディセプティコンから逃げたは良いけどさ……これからどうするんだ?」

「予定では真那と折紙にあのエネルゴンタワーを破壊してもらうわ。でもタワーにもシールドが張ってあるから通常兵器がどうにもならないの。だから制御装置を見つけ出して破壊するのが最初の課題ね」

「エネルゴンタワーの破壊か……」

「防御膜が剥がれたら後は地球の軍隊がなんとかしてくれるかもしれないわ……」

 語尾に行くにつれて聞こえないくらい声が小さくなる。琴里にも正直な所、自信がない。地球の軍隊が総力を挙げてもディセプティコンが排除しきれるのか。もしかするとまだどこかに兵力を温存しているかもしれない。あらゆる考えが頭を巡ると琴里は少しずつ顔色が悪くなって来た。

「琴里、あまり一人で考え込むな」

 琴里の肩に手を添えて士道は身を案じた。

「ごめん……」

「折紙と真那が制御装置を破壊するまで逃げるしかないか……」

「今の私達じゃ……その……何にも出来ません……」

「エネルゴンタワーの所為で霊力が全く使えないんだったな」

 

 士道はふと空を見上げてると有無を言わさず琴里と四糸乃を突き飛ばした。強く尻を打ってしまい何か言おうとするもさっきまで琴里と四糸乃が立っていた場所にディセプティコンの兵士が着地した。

 強烈な衝撃と土煙で士道はひっくり返りながらも態勢を整えた。

「五河士道を確認しました。捕縛開始」

 ディセプティコン兵は士道へ手を伸ばして来るとそれをかわして足下へ潜り込み、未だに倒れている琴里と四糸乃の手を引いてひたすら走った。

 兵士はブラスターをしまい、大股開きで士道達を追いかけた。隆起したアスファルトを乗り越え、堀のようにえぐれた道に入り込んでと整地されていたいつもの道は酷い悪路と化していた。ディセプティコン兵は悪路をものともせずに歩き、徐々に士道達との距離を詰めて行く。

 逃げ切るのは無理か、そう考えて士道はスターセイバーを抜こうと胸に手を当てたと同時にディセプティコン兵の体を横一閃、更に縦に一筋閃いた。ディセプティコン兵の体は四つに分断され、立派な鋼鉄の体は無惨に瓦解した。

「大丈夫かね?」

 胴着を着込み、老いを感じさせる白髪頭にややしわぶいた顔をした六十を越えた辺りの老年の男性は日本刀を鞘に収めると琴里と四糸乃に手を差し伸べて起こしてやる。

「キミと私は何か縁があるのかな?」

 士道は男性の顔を見るとすぐに何者かを思い出した。いつぞやの剣道場の師範だ。

 狂三とのデートを動物園のチケットで支援してくれた事もある。

「先生……!?」

 士道は驚いた声を上げた。あの先生と再開を果たしたという事にだ。まだディセプティコンに捕まっておらず士道は安心もした。

「無事だったんですね先生」

「君もね。それにしても君も隅に置けないね。また美しいお嬢さんを連れて」

 親しげに話しかけて来る男性を見て琴里は肘で士道をつついて耳元でひっそりと尋ねた。

「士道、あの人誰? ってか何者?」

「ちょっと前にお世話になった先生だよ。俺を何度も助けてくれたんだ」

 名前も知らぬ剣道場の師範、士道が信頼を寄せているのなら大丈夫かと琴里は納得した。今はディセプティコン以外なら誰でも信用出来そうな気もする。

『いやぁ~すんごいね! 日本刀でぴゃぴゃっと片付けちゃうなんて! お爺さん何者?』

「ただの町の道場主ですよ。この町は想像以上に危険だ。それに君」

 その男性は士道を指差すとタブレットを投げた。タブレットを受け取ると電源を入れてみる。すると強制的にディセプティコンが流している映像に切り替わった。

『天宮市の愚民共よ! この少年を探せ! 捕らえた者にはたっぷりと褒美をくれてやる!』

「え……士道……さん?」

「ディセプティコン……人間に士道を探させるつもりね……」

「その通りだよ。くれぐれも気をつけるんだよ」

「ありがとうございます。あの――」

 士道はせめて名前だけでも聞こうとしたが、既にその男は走り去り、居なくなっていた。

「変な人」

「それでも俺の恩人だ。しかし参ったな~ディセプティコン以外に人間からも逃げなきゃいけないとはな……」

「出来るだけ人との接触を避けましょ」

「うん」

 

 

 

 

 十香、耶倶矢、夕弦そして士道のクローン体である心太郎のチームにはディセプティコンの魔の手が執拗に迫っていた。スタースクリームの直轄の航空部隊が十香達を発見し、空中からブラスターで威嚇しつつ迫っていた。

「無理無理無理無理~! もうダメだよぉ~! 捕まっちゃうよ~! やめてよして怖いよ~!」

「うっせーし! 士道はこんな弱音吐かないし!」

「耶倶矢、これはくろーんとか言う士道の偽物なのだ。士道ではないのだぞ」

「わかってるけどさぁ~」

「提案。心太郎が叫べないように口を縫い合わすというのは?」

「怖い!」

「乱暴過ぎるぞ夕弦!」

 航空部隊のブラスターは家屋に命中すると十香達の進行方向に瓦礫が落ちて道を塞がれた。

「危機。これはまずいです……!」

「じゃあ、こっちよ!」

 耶倶矢は心太郎の手を引いて家の塀を飛び越えようとジャンプした。力が少しでも行使していた頃の感覚で跳んだはいいが、見事に顔から塀にぶつかり、鼻を強く打ち目には涙が浮かんでいた。

「痛い……」

「忠告。夕弦達は霊力を完全にカットされています。耶倶矢の自慢のジャンプも今はへっぽこ丸です」

「誰がへっぽこ丸よ!」

 シーカー達は変形すると瓦礫で逃げ場を失った十香達にジリジリと歩み寄り、距離を詰めて行く。

「一瞬で足の下に潜り込んで逃げるか」

「同調。ナイスな提案です十香」

 シーカー三人はブラスターを展開した途端、先頭にいたシーカーの目に弾丸が撃ち込まれた。

「目がぁ! 目がぁぁぁ!」

 撃ち込まれたのは人間の武器の弾丸だ。対物ライフルの大口径弾丸に目を破壊されて一人が悶えている隙に二つの影が素早く動き、未確認の敵からの狙撃に怯える残りの二人のディセプティコンシーカーの足にC4を設置、その直後に爆発が起こった。

 足を吹き飛ばされ、目を撃ち抜かれ、冷静さを失った三人の頭に的確に五〇口径弾が撃ち込まれ、ディセプティコンシーカーは力尽きて倒れた。

「危ない所だったね十香ちゃん!」

「ぬ? 何者だ! いや、待てよ? その声……聞いたような」

 十香達を助けた者はフードを脱いでその素顔を晒した。

「あ! お前は、亜衣!」

「亜衣だけじゃないよー」

 更に麻衣、そして見事な狙撃で敵を倒した美衣が姿を見せた。

「怪我はない!?」

「夕弦ちゃんに耶倶矢ちゃんも平気!?」

「間に合って良かったわ!」

 亜衣、麻衣、美衣の三人は十香達との再開を喜び抱きしめあう。十香も亜衣達が無事に生き延びていて安心していた。

「質問。その様な武器をどこで調達したのですか?」

「ん? 美衣のお父さんってヒットマンだからさ家にいっぱい銃があるんだよね」

「詰問。何故そこまで使い慣れているのです?」

「そりゃあ私はCall of Dutyで二千時間くらいやりまくってたしね?」

「私はバトルフィールドを主に」

「私はOperation Flashpointで鍛えてあるから狙撃は自信あるよ」

 全てゲームだ。

「納得。ゲームで鍛えたのですね」

「いやいや、納得出来ねーし」

「嘲笑。耶倶矢のようなヌルゲーマーには理解出来ない境地です」

「む~話についていけん。心太郎、何の話をしているのだ?」

「FPSの事だと……思う……」

「えふぴーえす?」

「今度暇な時に教えてあげる」

「それでさ、あの変なロボットが五河くんを捕まえろとか言ってたけど五河くん何したの?」

「え、僕は何にもしてないよ~」

「本当ぉ?」

「絶対恨まれてるよね?」

「まじひくわー」

 窮地を救ってくれた亜衣、麻衣、美九の三人組と分かれて再び移動を開始した。

「……オートボットがいてくれたならな」

 十香がポツリと呟くと耶倶矢と夕弦は顔を暗くした。十香達に責任はない、しかしオートボットが追放される際に何も出来なかった事が悔しいのだ。

 耶倶矢は火星の石のペンダントを見てジェットファイアーの事を思い出していた。

「ジェットファイアー……」

 耶倶矢はジェットファイアーの事を想いながらペンダントをなぞったその時だった。

 ペンダントは赤く点滅を始める。そして小さいながらも良く響く音を空高くに轟かせた。

「詰問。耶倶矢、何をしたのですか!?」

「え? え? いや、わ……わかんないし!」

「ペンダントが光っているぞ」

「わかってる、わかってる!」

 音を止めようとペンダントを振ったりしてみたが、耶倶矢のペンダントは音は鳴り止まず、しばらくしてからようやく止まった。

「点滅して変な音が鳴っているから爆発するかと思ったぞ」

「怖い事言うの止めてよ……」

 

 

 

 

 

 地球から離れてエレンの追撃を受けて宇宙船ごと太陽に突っ込んだオートボット一行。普通ならば太陽の熱に体を焼かれ、溶かされ、今頃ならばただの溶けた鉄と化していただろう。

 その太陽の業火の中、一つの煌めく星のごとく何かが光を発して太陽の炎の中から脱出をしている。

 パーセプターを中心にしてオートボット達を覆い隠す膜が張られており、その膜のおかげで全員事なきを得た。

「パーセプター! お前は天才だぁ!」

「はぁ……はぁ……フォースフィールド発生装置を持って来ておいて本当に良かったよ」

 デスヘッドに積まれていたパーセプターの発明品の数々、中からフォースフィールド発生装置を探して太陽と衝突する寸前になんとか張る事が出来た。

「あと一秒遅れていたらボンッ! だったよ」

「いやはや、危ない危ない」

 アイアンハイドはひとまず安堵のため息を吐いた。

「ジェットファイアー、どうしたんだい?」

「ああ……耶倶矢から救難信号が出ているんだ」

「何ィ!?」

 オートボットは声を揃えて言った。

「耶倶矢に渡していた火星の石はもしもあの子達が危ない目にあった際に直ぐに助けに行ける為に救難信号を発生させられるようにしているんだ」

「ディセプティコンの連中、やっぱり攻めて来たってワケだな」

「オレ達を追放した人間を助けるのか……」

「スナール、そうマイナスに考えるなよう! 友達を助けるだ!」

「キミ達、フォースフィールド発生装置は長くは保たない。オメガスプリーム、早く私達を地球へ運んでくれ!」

《了解。ディセプティコン殲滅ミッション、再開》

「今度という今度はディセプティコンを細切れにしてやる!」

「逆襲だァ! 奴らを絶滅させてやんぜ!」

 血気盛んに声を上げ、オメガスプリームの背に掴まってオートボット達は地球を目指して行軍を開始した。

 

 

 

 

 士道や十香等が激しく攻撃を受けて逃げ回っている間、狂三達への攻撃は極めて少なかった。狂三のチームがする事はエネルゴンタワーの制御装置を見つける事だった。

「制御装置を見つけろって言ってもねぇ~。どうやって見つけんのよ」

「前は中ににダイノボット達がいましたので無理矢理、柱を折ってなんとかしていましたねぇ」

「前は? え、こんな絶対絶命的なの前にもあったの?」

 七罪は顔をひきつらせて聞いた。

「ありましたわ。そう言えば、あの時はまだ七罪さんはいませんでしたわね」

「うぅ……! やっぱりあたしはのけ者なんだぁぁぁ!」

「七罪ちゃん、落ち着こ? あんな経験、味わわない方が絶対いいからね!」

「そうですわ。わたくしですら死ぬ一歩手前でしたのよ」

「そう? のけ者じゃない? その話題で盛り上がってる最中にあたしだけ『ああ』『へへ』みたいな愛想笑いと相槌だけ打って蚊帳の外みたいにならない?」

「大丈夫ですよ! ……きっと」

「これからわたくし達でたくさんの思い出を作りますわ。そんなの些細な物ですわ」

「うん、わかった……」

 霊力を完全に封じられているのでいくらネガティブになっても力を行使出来ないだろうが、沈んだ気持ちでは作戦の進行に弊害が生まれる。

「制御装置の件ですけど、防御の要であるエネルゴンタワーの制御装置となればやはり……」

 狂三はダークマウントの方を見上げた。ダークマウントともう一つ、スペースブリッジの塔がそびえ立つ。最も戦力が集中しているその場所が怪しい、そう睨んだのだ。精霊の力があれば分身体に探させてやるのだが、今はそんな便利な能力は無い。

「あの大きな塔、そうかも知れませんね。だとしたら折紙ちゃんと真那ちゃんだけじゃあかなり厳しいですよね」

 制御装置はダークマウントにある。そう考察する狂三と美九だが七罪は違った。

「制御装置でしょ? そもそも見つかりにくい場所に置いてあるとか。例えば森の中、みたいな」

「森……」

 もしも見つかりにくくするべく森へ制御装置を隠したとしたら見つけるのはかなり骨が折れる作業だ。天宮市を覆う山々にはびっしりと木々が生い茂っているのだから。

 唐突に狂三は美九と七罪の頭を下げさせて近くの家の塀の陰に隠れた。その直後にエレンが高速で上空を通過して行った。

「エレン・メイザース……。彼女を追いかけてますわ」

「えぇ? 何でですかぁ?」

「彼女もディセプティコンの主力戦力、それなりの任についている筈ですわ。後をつける価値はあると思いますの」

「狂三ちゃんがそう言うなら良いですよぉ。狂三ちゃんは賢いですから」

 偵察の任務に美九と七罪はかなりのミスだと狂三は思っていた。かく言う狂三も特別運動神経が良いわけではない。十香や八舞姉妹のように日頃から体を動かしているアウトドア派と比べれば一段落ちる。

 狂三等の頭上を通過したエレンは山の中腹まで飛んで行く所まで観測出来た。

「真那さん、聞こえますか?」

『はいはい、聞こえてやがりますよ。どうしやがりました?』

「エレンさんが山の中腹で消えるのを確認しましたわ。今から偵察に向かうのでバックアップ、お願いしますわね」

『……いや、座標だけ送って下さい』

『今のあなた達は霊力が一欠片もないただの人間、エレンに見つかれば簡単に殺されてしまう』

 折紙も偵察を止めるように狂三に言い聞かせた。

「あそこに制御装置がある確証はないんですわよ?」

『その時はエレンを叩いて場所を吐かせます』

 通信を切り、狂三等はまた別の場所の捜索を始めた。

 

 

 

 

 

 スペースブリッジに大量のエネルゴンが流し込まれ、天を貫かんと立つ塔に無数の光の線が走り、頂上から淡い緑の光が成層圏を打ち破って宇宙へと飛んで行った。その光景は神々しくも禍々しい。これから何が起きるのか分からない、そんな不安が恐怖心をかき立てるのだ。空でエレンの後を追う真那や折紙もその光の柱はよく見えている。光の行方を目で追っていると空の彼方、何もない空間に大きな穴が空くのが見えた。グランドブリッジが開かれた際と同じ現象だが、その規模は圧倒的にスペースブリッジの方が大きい。空間にこじ開けられた光のゲートの先は暗く、何も見えてこない。その光景を目にしている者全てが固唾を飲み、体を強張らせて穴の行く末を眺めていた。真那や折紙も同様にゲートを睨んでいると何か丸い表面が確認出来た。あまりに大きく、一体それが何なのかもわからない。町の人間は唖然として言葉を失い、幾多の苦難を切り払って来た二人も不可解な情景に口をポカンと開けていた。

 ゲートを通過して来た存在に気付いたのは物体が半分まで姿を見せた時だった。巨大過ぎる存在を認識するまでかなりの時間がかかってしまった。セイバートロン星が地球の隣にまでやって来ている。そんな事、一体誰が理解出来ただろう。惑星を丸々、転移させるという人智を超えた所業、戦う前から戦意を叩き折る策略だ。『こんな連中と戦える筈がない』という思考を人類の脳の奥まで理解させるに十分な演出だった。真那は顔を何度か叩いて正気を取り戻した。そして自分に言い聞かせる。

「そうです。連中がバカげた科学力を持っているのはわかってやがります……。ビビってる暇はねーです!」

「真那ッ!」

 折紙が叫んだ。鼓膜を震わせる絶叫に真那は振り返ると遠方からエレンの魔力槍“ロンゴミアント”が眼前にまで迫っている。

 ――しまった! 真那が心の中で後悔と屈辱にまみれた声を上げると魔力槍は直撃する寸前で破裂した。強い衝撃波で態勢を保っていられず、真那はきりもみしながら頭から真っ逆さまに落ちていく。地面がどんどん近づき、寸での所でスラスターを最大出力で噴射してかろうじて墜落は避け、空中へ復帰した。

「サンキューです折紙さん!」

 魔力槍を迎撃したのはやはり折紙だ。メタトロンを起動し、金属質の袖の無いロングコートを着込み手を金属のグローブで守っている。頭を覆う保護シールドをロングレンジライフルに変形させて魔力槍を叩き落としたのだ。

「気にしないで。それより――」

「よく迎撃したと褒めてあげます。私を追っている事くらい気づいてましたよ。嵩宮真那、それに鳶一折紙ここから先は行かせません」

 ロングソードの刀身は黄色く煌めき、濃密なエネルギーが刃をコーティングした。エレンが戦闘態勢に入ると折紙は腕から肉厚のブレードを出し、真那は身の丈はある盾と左右に刃が取り付けられた剣を手にした。

 エレンの体が細分化され、粒子となって姿を眩ませた。真那は目で追ったが、折紙のメタトロンは早くもエレンを突き止めその方向にスピア型のミサイルを発射した。体を再構築すると同時に盾で身を守り、反撃へ転じると黒煙を目晦ましにして真那が速攻で剣を振るった。頭をかち割ろうとする大振りの斬り落としを僅かに身を引いて避け、切っ先がエレンの金髪を掠め、宙に舞った。

 反撃などさせぬように真那は休む事無く剣を振り、エレンは盾と剣で凌いだ。大きな盾を構える二人は自然と視界を盾に奪われて周囲に目がいかなくなる。エレンが真那の相手をしている隙に折紙は素早くエレンの背後を取り、がら空きの背中から襲いかかった。

 たった二方向からの同時攻撃で殺れる程、世界最強は甘くはない。折紙の殺気を感じ取り、真那の脇腹を蹴り、怯ませた所でブレードを受け止めた。すかさず膝で折紙の腹を打ち上げ、身を回転させしなやかな長い足で折紙の首を蹴り、折紙は真っ直ぐ一軒家に激突した。

「エレン! 食らえぇぇ!」

 盾を使った特攻を盾で相殺したかと思えば、真那は至近距離で腐食砲の引き金を引いた。腐食液が放たれるとエレンは粒子化して難を逃れていた。体を再構築してエレンが不敵に笑った瞬間、ロングレンジライフルの鋭い弾丸がエレンを吹き飛ばした。

 狙撃したのはもちろん、折紙だ。

「油断とは良い度胸」

 飛ばされた先で折紙は呟いた。エレンのアーマーにフックで引っかけて力任せに地面へと叩きつけた。

 巻き上がる土埃でエレンを肉眼では確認出来ないが、折紙のサーモグラフィーならば相手の位置が手に取るようにわかる。休む間も与えず腰回りのグレネードを取り、安全ピンを抜き投げつけて一気に上空へと退避した。直後、手投げ式とは思えぬ爆発と爆炎が無人の住宅街を火の海に変えた。

「人工精霊ってわりには精霊らしくねー戦い方ですね」

「この方が板についている」

 爆炎から魔力槍が放たれてそれは二人の間を掠めて飛んで行った。

「戦闘中にお喋りですか。いい気にならないで下さい」

 空中でエレンの体が構築されて行く。体が出来上がると額からかすかに血を流しているのが確認出来た。エレンは体を粒子化、再構築が可能だがダメージを受けない訳ではない。

 粒子化をする前に攻撃さえ当てれば手はある。エレンの隙を突き、粒子化される前に決定的なダメージを与える、そんな所だ。

 対峙した三人は睨み合い、緊迫した空気が張り詰める。

 拮抗状態を切り裂いたのは折紙だ。モーニングスターを投げつけ、相手がどうするかを見る。エレンは盾で払いのけると折紙は続いてブレードを変形させて大口径のブラスターで攻撃した。

 眼前に迫る光弾、その後ろにはブレードを構える折紙がいる。そして更に後ろを追従する真那、冷静に状況を分析してエレンは即座に魔力槍を光弾に撃ち込み、紫色の弾は破裂し、魔力槍は突き進む。

 真那と折紙は左右に分かれて回避した。あのままだと二人は串刺しになっていただろう。

 左右から迂回する形で肉薄するとエレンは盾で真那の剣を受け止めてから粒子化で折紙をいなす。背後から剣を振り、折紙は背中を斬られ鮮血が舞った。

 傷は浅く済んだがエレンの次の一手は真那へと進んだ。肩口を斬られて血は腕を伝って滴り落ちる。変形と構築を繰り返し、エレンは上下左右のあらゆる方向から切りかかり、二人は次第に傷を増やしていった。殺気を組み取って真那が剣を横薙ぎに振るうともうそこにはエレンはおらず、代わりに腹を斬られる。エレンをロックオンしてミサイルを放つも変形して逃げられるとミサイルは目標を見失ってどこかへと飛んで行き爆発した。

 エレンは刀身にエネルギーを溜めこみ、一気に半月状のエネルギー波を飛ばした。散会して避けたは良いがエレンは分かれたのを見計らってまずは面倒な折紙を狙った。剣を投げつけ、エレンは粒子と化す。飛んで来た剣を腕のブレードで上へ弾くとエレンは弾かれた剣をキャッチした。完全に背後を取られ、折紙は防御をしようとした。もう遅い、背中から串刺しにされた折紙は口から血を吐きだした。腹から飛び出したエレンの剣は折紙の血で濡れている。

「折紙さん!」

 明らかな重傷を負い、折紙はゆっくりと地に落ちて行く。介抱してやりたいが、そんな事をしている内にエレンに八つ裂きにされてしまう。真那は加速をつけてエレンに迫り、怒りに満ちた拳で頬を殴った。エレンはよろめくと魔力槍を発射しようと盾を構えた。そんな行動を予測していたように砲口に腐食銃を突っ込み、盾を一瞬で錆の塊へ変えた。盾を投げ捨てエレンは剣を掲げると黒雲が立ち込めると剣にエレンに雷が落ちた。落雷を浴び、エレンの剣に稲妻が帯びる。

 柄を両手で握り、ビュッと低い風切り音をならして稲妻を纏う剣を抜いた。すかさず盾でガードしたが、なんとエレンの剣は重厚な盾を真っ二つに両断してしまし、さらにう踏み込んで真那の五体をも裂かんとした。刃が体を斬る間際、真那もブレードでブロックした。それでも防御を押し切られ、真那の剣も根本からポッキリと折られてしまった。

「嵩宮真那! これで終わりです!」

 避けれない――。そう悟ると真那はスラスターを噴射して思い切りボディアタックを決めてエレンをよろめかせた。

「小賢しいッ!」

 パンチが顔にヒットし、真那の肩から脇腹にかけて切り裂き、真那は力を失い落ちて行く。トドメを刺さんとエレンが追撃を開始するとどこからか、ロングレンジライフルの弾がエレンの飛行ユニットを撃ちぬいた。

「何!?」

 片方のスラスターを破壊されて飛行が困難になった。飛来した方に目を向けてみると顔色が悪く、腹から取り留めなく血を流す折紙がビルの上から狙撃していた。

「鳶一折紙! おのれ! 死にぞこないめ! 覚悟して下さい!」

「覚悟すんのはあなたですよ、エレン」

 落下しながらも真那は腐食銃を構えている。行動が困難な時に折紙のライフル、真那の腐食銃の両方に狙われていた。エレンは剣を真那へ投げつけるが、それは頬をかすっただけであった。腐食液は最後のスラスターを腐らせてエレンは地上へと墜落した。

 飛行が不可能だが、最悪地上戦で決着をつけられる。エレンが落下した先は幸運にも自分が投げた剣が突き刺さった場所だったのだ。剣を抜き、強く打った左肩の痛みに顔をしかめ、受け身を取りそこなって横たわる真那の元へゆっくりと歩を進める。この状態なら仕留めるのは容易い、エレンは息を切らしながら剣を振り下ろすとギィンッと耳をつんざくような金属音が響く。

 真那の窮地を救ったのは折紙だった。エレンの剣撃を押し返して負傷した左肩に蹴りを入れ、反対に腹にパンチを貰った。真那はなんとか意識を回復し、ボロボロながらも腰に差した柄を手に取り、レーザーブレードを発現させた。真那と折紙は並び立ち、エレンと対峙する。

「アイザックからメガトロンへ乗り換えるとは尻の軽い女でやがりますね」

「めぐり合わせです。私の意思ではありません」

「それを良しとして協力したのはあんたでしょう」

 真那が仕掛けた。重傷であるにもかかわらず先ほどよりも鋭く速く剣を振るっている。エレンや折紙もそれに合わせて速く打つ。双方の剣の応酬が続き、エレンは二つの攻撃を正確に見切り、避け、的確な足さばきで戦いを有利に進めていた。

 ペンドラゴンの不調で粒子化が出来ない状況は絶好の機会だ。折紙はエレンの間合いに飛び込み、剣を握る手を掴んで離さない。すぐに引き剥がそうと帯電した剣を折紙に流し込み、折紙は電撃で気が狂いそうになる。真那は腐食銃の引き金を引いてエレンの剣を溶かした。全ての武装を失い、そこへ折紙のミサイルが全弾命中、爆発が収まった頃、エレンがいた所には何も残っておらず、CR-ユニットの破片だけが残っていた。

「はあ……はあ……なんとか、やりましたね……」

 真那は息を切らしている。折紙はその場で崩れ落ちると真那は急いで抱きかかえた。

「折紙さん!」

「私は問題ない士道のキスで蘇る。早く制御装置を……」

 真那は頷くと折紙の止血だけを済ませて士道に連絡を取り、制御装置の破壊へ向かった。

 

 

 

 

 

 ダークマウントの頂上から見えるセイバートロンの姿は壮観な物だ。セイバートロンから射出されたケーブルが天宮市の至る所に突き刺さり、そこからエネルギーを搾取している。錆びた色、灰色にまみれた星はほんの少しずつではあるが、地球のエネルゴンを吸って本来の姿を取り戻そうとしている。後は士道を捕まえてしまえばすべてが完了するのだ。

「どういう事だ!?」

 メガトロンは荒々しく叫んだ。エネルゴンタワーが張り巡らすシールドが解除されていってるのだ。

「エレンはどうした!? 何をしておるのだ!」

「メガトロン様、エレントハ通信が取れまセン」

「んぐぐ……! 使えぬバカ者めが! トリプティコン! 人間の勢力を見つけ次第、破壊するのだ! 良いな!」

 宇宙空間で戦艦モードで常に地球の軍隊の様子を見ているトリプティコンにメガトロンは命令を下した。しかし、トリプティコンからの返事はない。

「トリプティコン! 聞こえんのか!」

『メガトロン様! 現在交戦中です!』

「何!? 誰とだ!」

『オメガスプリームです!』

 

 

 

 

 地上より遥か上空、成層圏ではオメガスプリームがオートボットを乗せて地球へと戻る最中であった。耶倶矢からの救難信号やエレンからの攻撃がなければこのまま地球へ戻る事はなかっただろう。もう地球は間近に見えており、当然セイバートロンも見えている。

「スペースブリッジで惑星を運搬したのか……」

 ジャズはスコープでセイバートロンを観察し、更にセイバートロンと地球を繋ぐケーブルを確認した。

「まずいな……ディセプティコンはエネルゴンを地球から吸い出している!」

「オメガスプリーム、さっさとあのケーブルをぶっちぎっちまおうぜ!」

《障害確認:トリプティコン》

 ケーブルを守るようにしてトリプティコンは宇宙空間に浮いている。

《ターゲット:破壊する》

「待て待て! オメガスプリーム! 私たちをまず地球まで運んでくれないか!」

《了解した》

 オメガスプリームはロボットモードへ変形すると、手のひらにオートボットを乗せた。

「お前さん、何をする気だ?」

 アイアンハイドは何やら嫌な予感がしていた。そしてオメガスプリームはボールを投げるフォームを取った。どうやらアイアンハイドの嫌な予感は的中した。オメガスプリームはオートボット達を地球目掛けて思い切り投げた。

「うわああああああああああ!? オメガスプリームゥゥゥゥ!」

「おいおい、パーセプターそんなに叫ぶなって、地球に到着まで時間があるんだぞ。ゆっくりしようぜ」

 ワーパスは足を組んでくつろぎだした。

「何で余裕なんだお前は!」

「私とスワープは飛べるから良いが、この人数はちょっとね……」

「うん、オレならスラッグとスナールを持ち上げたらギブだな」

「でもこの調子だと海に落ちるね。それならまあ、なんとかなるかもね」

「何ともならないよ!」

 地球に向かって一直線に落下しているというのに妙に余裕のあるみんなにパーセプターはちょっとついていけなかった。最悪の場合はフォースフィールド発生装置でしのぐつもりだ。

 大気圏を貫き、宇宙からでなく地球の空から大地が見える。着地までもうあとわずかだ。ジェットファイアーとスワープは変形して出来る限り仲間を抱えたが、二人でも運べるのはせいぜい三人が限度だった。

「ヤベッ……下、海じゃねーじゃん!」

 予想よりかなり落下地点がズレており、真下は陸だ。ワーパスとジャズそしてアイアンハイド、スラージはまだ落下し続けていた。このままではぺしゃんこだ。ワーパスは急いでビークルモードに変形した。

「みんな! オレに掴まれ!」

「一体何をする気だ!?」

「任せろ!」

 ワーパスに何か考えがあるのか、とりあえず体にしがみつくと砲塔を真横に向けて砲弾を発射した。次弾を装填し、再び砲弾を発射、砲撃の衝撃でなんとか陸ではなく湖に落ちて難を逃れようというのだ。

「おいおい! 無茶だって! それよりオレに乗れ! 頑張ってみるからよう!」

「スワープ、お前は定員オーバーだ。乗れば真っ逆さまだ」

「かっこよく落ちてみるさ! 乗れ! スラージ!」

 落下まで時間がない。スラージは思い切ってスワープに飛び乗るとやはりスラージは重たすぎるのか、スラスターを噴かせ、力いっぱいに翼を羽ばたかせるが徐々に落ちて行っている。だが、スラージがワーパスから離れたおかげで車体は目に見えて分かるくらいに動き出した。

「あとちょっとだァァ!」

 砲弾を構わず撃ち続け、遂に三人は湖に突っ込んだ。その後にスワープ達ダイノボットが着水した。

 湖から這い出してまず目に入るのはダークマウントとスペースブリッジだ。

「何だあの違法建築は!?」

「冗談言っている場合じゃないぞワーパス」

 アイアンハイドが指をさすとダークマウントから大量の航空部隊が出撃しているのが見えた。エネルゴンタワーの効果が切れてASTの反撃が激しくなったのだろう。

 さあ、戦いだ!

 

 

 

 

 

 地球へと送り届けたオメガスプリームはトリプティコンと激闘を繰り広げていた。恐竜の姿となってオメガスプリームを迎え撃ち、ビルのように太い腕でトリプティコンを殴り、尾で叩かれ、その規模は他のトランスフォーマーとは一線を画していた。トリプティコンは噛み付き、オメガスプリームは顎をかちあ上げて腹に特大のレーザーを叩きこんだが、一切怯まずに肩と口から光線を吐き出し、オメガスプリームの装甲を溶かした。

「はっはっは! くたばれオメガスプリーム!」

 凶暴なモンスターは巨神と向き合い、低い声で笑った。尻尾のポットが開放、垂直にミサイルが打ち上げられ、オメガスプリームもミサイルで迎撃した。口からプラズマキャノンを吐き、オメガスプリームをよろめかせるが、姿勢を保持してトリプティコンの口に拳をねじ込み、頭を目いっぱい叩いた。

「グォオオオオオオオオ!」

 頭を押さえて悶え、トリプティコンは戦艦へと姿を変えると地球へ逃げ出した。オメガスプリームも戦艦へ姿を変えて追撃する。雑多な火器ではダメージすら入らないのは

分かっている。だからオメガスプリームはトリプティコンの真横に回り込み、体を思い切りぶつけた。トリプティコンも負けじとぶつけ、巨大な戦艦は火花を散らして地球へと降りて来る。海が間近に見えた途端、二人は同時にトランスフォームしてトリプティコンは尾をオメガスプリームに巻き付け、オメガスプリームはトリプティコンの首を締め上げて落下しながらも殴り、頭突きと熾烈な攻防を繰り広げながら海中へと落ちた。巨大な波が壁のように立ち立ったが、津波の心配はなかった。

 海中に沈みオメガスプリームとトリプティコンは取っ組み合い、一歩を引かずに力比べをしている。オメガスプリームは足払いでトリプティコンを転倒させると右手から引力光線で手頃な岩を引き寄せてトリプティコンにぶつけた。怒りを孕んだ唸り声を上げ、トリプティコンの尾はオメガスプリームを背中から突き刺した。串刺しになったじょうたいでトリプティコンはオメガスプリームを叩きつけ、なんとか尾を抜くとトリプティコンの頭と背中を持ち上げて海底の岩にぶつけ、尻尾を掴んで振り回した。

 海底での死闘は人間に被害はない。それでもこのままトリプティコンに気を取れれていてはオートボットの助けに行けない。

《索敵開始:海底火山、確認》

 オメガスプリームが早急に決着をつけるにはトリプティコンを海底火山に叩き落とすしかないと考えた。二人の立っている場所は海底火山地帯だ。

《トリプティコン:ここがお前の墓場だ》

「墓場? オレの? お前のだろッ!」

 挑発に乗ったトリプティコンは走ってくる。オメガスプリームはエネルギーをチャージしてトリプティコンの足下に大きなレーザーを撃ち、海底火山を噴火させた。地面が割れ、無数にひびが入ると割れ目から赤く煌々と光が見える。地獄の底の釜だ。トリプティコンは慌てて飛び上がろうとするもオメガスプリームの妨害があり、足を掴まれてひび割れた火山の中へと叩きこまれた。

「オメガスプリーム! オメガスプリーム!」

 復讐と怨念に漲る声と共にトリプティコンは火口へと消えて行く。オメガスプリームはオートボットを援護すべく地上を目指した。

 しかし、巨獣はこんなものでは終わらない。火口から飛び上がりオメガスプリームの体へ尻尾を巻き付け、両腕でオメガスプリームの腕をしっかりとホールドした。トリプティコンの体は溶けかけているが、邪悪なスパークだけは問題なく生きている。

「オメガスプリーム! お前も道連れだァッ!」

 トリプティコンの拘束は固いが、背負い投げで海底に叩きつけた。

《不祥:海底火山、活動停止》

 レーザー程度では火山は動かない。

 もっともっと強力な火器で大地を刺激しなくてはならない。起き上がろうとするトリプティコンを腕で押さえつけ、片方の腕でエネルギーをひたすらチャージする。ミサイル、ビーム、ブラスター、これくらいの物でなく特大のレーザーでトリプティコンごと体を貫き、火山と共に消す。

「死ぬ気かオメガスプリーム! はっはっは! 覚悟はあるのか? オレにはある!」

「いきがるな、私にもそんなものはある」

 トリプティコンはショルダーキャノンでオメガスプリームではないく海底を攻撃した。大地の変動を感じさせる地震が起こり、周りの火山が噴火を始めた。

「メガトロン様万歳! ディセプティコンよ永遠に!」

 蓄積されたレーザーがトリプティコンを貫通した。同時に火口から溶岩が噴火した。水面を破り、巨大な水柱が昇った。その直後には海面にトリプティコンと思しき残骸が浮かび上がって来た。その中にはオメガスプリームの物も存在した。

 ディセプティコンの最大の戦力トリプティコンとの勝利はほろ苦いものだった。

 

 

 

 エネルゴンタワーのシールドが外れたのは誰もが確認出来ていた。士道達からも、十香達からも、狂三等からも幕が消え去って行くのが見えていた。制御装置の捜索もしなくてよくなり、更にある程度の精霊の力が行使出来るとなるとまだ望みはある。

「ふぅ……お腹の底から何だか少し力が湧いて来るようですわ」

 狂三は足下から影を円形に広げるとそこから狂三の分身体達が這い出して来た。

「さあわたくし達、まずはあのスペースブリッジを破壊したいのですけど、弱点を見付けて来て下さる?」

「承りましたわ、わたくし」

 三人の分身体は丁寧にお辞儀してまた影の中へと消えて行った。

「便利な能力ですよねぇ、狂三ちゃん」

「美九さんの歌声も便利そうで羨ましいですわ。人を思いのままに出来ますし」

「うっ……。あの荒れてた時期の事はすごーく反省してますぅ……」

 士道に封印される前、自分の殻にこもって人を傷付けていた頃の事を思い出すと美九は胸が苦しくなる時がある。士道はもう気にするなと許してくれたが、生涯を賭しても返せない恩を感じている。

 不意に遠方から風切り音が聞こえて来た。見上げると一発の砲弾がこちらに向かって飛んで来ていた。

贋造魔女(ハニエル)!」

 箒を振って七罪は砲弾を大きなマシュマロに変えてしまい、狂三の歩兵銃で穴だらけに変えてしまった。

 その直後、上空から一人のトランスフォーマーが降ってきた。サウンドウェーブだ。

 着地するなり音波攻撃で三人を吹き飛ばし、サウンドウェーブは胸からランブルとレーザービークを射出した。

「ランブル、レーザービーク、精霊を破壊セヨ」

「了解でさぁ!」

「カァァァッ!」

破軍歌姫(ガブリエル)円舞曲(ロンド)”」

 美九の足下から一本のマイクが現れると肺一杯に息を吸い込み、声を張り上げた。

「ああああああああッ!」

 サウンドウェーブの音波攻撃を弾き返し、ランブルとレーザービークを跳ね返してサウンドウェーブを転倒させた。

「誘宵美九、小娘メ」

「気安く名前を呼ばないでくれます? サウンドシステムの面汚しさん」

「口先だけのイカレサウンドが」

 サウンドウェーブの前に泰然と立つ。

「狂三ちゃん! 七罪ちゃん! ここは私に! 私は決着をつけなくちゃいけないんです! あのカラオケでの借りを倍返しです!」

 七罪が何か言おうとするも狂三は七罪を抱えて美九にその場を預けて去って行った。

 

 

 

 

 

 折紙が負傷したと聞いて士道等は真那に知らされた座標へたどり着いた。折紙の傷は思ったよりも酷く、巻かれた包帯には血が滲んでとても痛ましい。琴里の力や四糸乃の力も使えるがこれでは治療が出来ない。琴里の炎は自身にしか発動しない。

「四糸乃、近くの薬局から新しい包帯と消毒液を拾って来て! 士道は綺麗な水をお願い!」

「は、はい……」

「いや……そんなのはいらない、多分」

「はぁ?」

 士道は折紙の体を起こしてやる。腕で上体を支えて士道は泥や血で汚れた綺麗な肌を手で拭うと健康的なピンク色の唇にそっとキスをした。琴里は顎が外れるくらいに口を大きく開け、四糸乃は思わず目を覆った。

 二人の唇が離れる。そして、瞬時に折紙の腹や背中に残る深い切り傷、肩や太ももの爆弾の破片で切った傷も全て無くなってしまった。治癒とは言えない、ただ無くなったのだ。

「ぐぅ……!?」

 そしてその傷、痛み、疲労は全て士道の体に還る。だが士道には琴里の回復力があり、瞬時に全てが再生した。

「……士道、一体何をしたのよ」

「何でもねぇよ……」

 プライマスとの融合は徐々に進んでいる。こんな力、以前なら出来なかっただろう。

 折紙は目を見開き、飛び起きた。

「今、とても惜しい体験を逃した気がした」

「逃してはないわね。士道の力で一命を取り留めたのよ」

 琴里の説明を聞き、折紙の目は士道に向いた。

「私に何をしたの?」

「え、え~……キス……かな」

 歯切れの悪い返事をした。すると折紙は力を失ったようにその場に倒れ込んだ。

「おい、折紙! 大丈夫かよ!?」

「キス」

「は?」

「力が足りない。もう一度お願い」

「傷はもう平気だろ?」

「お願い」

「あ、う……」

「お願い」

 士道は殺気立つ琴里やあたふたとする四糸乃に目を配りつつ諦めたように顔を寄せて行く――。

 ところがである。

 ブラスターがアスファルトを破砕し、地面が剥がされて土煙が舞い上がった。

「ラブラブ展開は止めてくれよミサイルぶち込みたくなるからよぉ」

 空にはスタースクリームが浮かび、道路にはディセプティコンの兵士がいた。

「俺様からのスペシャルプレゼントさ、受け取れ」

 空中からスタースクリームが士道等に何かを投げた。折紙はすぐにそれがフラッシュグレネードだとわかった。強烈な光と音が瞬いた。

 視界がようやく正常に回復した頃、士道は地上にはおらずスタースクリームの手の中に収まっていた。

「ハッハッハ! コイツさえ手に入れりゃあこんな薄汚ねぇガキにようはねーよ! 始末しろ、俺の無敵部隊!」

「スタースクリーム! 士道を返しなさい!」

「お断りだぁ!」

 スタースクリームは変形して自分だけさっさとダークマウントへと帰って行った。残された琴里、四糸乃、折紙は眼前に並ぶスタースクリームの部下のディセプティコン兵を前にして身構えた。霊装を限定的に解除、退く事は出来ない。進むしか道はないのだ。

 ディセプティコンの部隊がブラスターを構えて三人の少女に無数の銃口が向けられた。

 赤い点が最前列にいた一人の頭に浮いていた。他の兵士もその赤い点の存在に気付いた途端、その兵士の頭は粉々になって吹き飛び、その後ろにい何人かも巻き込んで行った。

 琴里等は弾丸が飛んで来た方向を追うように振り向く。

 三人は目を疑った。四糸乃は腹の底から歓喜がこみ上げ、不思議と涙が溢れかえった。

 巨大なライフルの薬莢を排出し、ゴォンという低い音が響いた。人くらいある弾丸を装填して銃口から硝煙をあげて立っている。

「奴らを生きて帰すな」

 オートボット総司令官オプティマス・プライムとそしてダイノボットのリーダー、グリムロックだ。

 生前よりも逞しくなったグリムロックは地面にひびを入れながら力強く歩み、オプティマスもゆっくりと歩を進めた。

 携えたマトリクスセイバーを横へ振る。隊列を組んでいた兵士は胴体から真っ二つに切り裂かれ、連鎖的に体は吹き飛んで行った。ディセプティコンの兵士はマトリクスセイバーの一振りで全て片付いた。

「オプティマス……?」

 琴里は確かめれるように尋ねた。

「そうだ、琴里、四糸乃それに折紙」

「四糸乃ぉ~!」

 大きな足音を立ててグリムロックは四糸乃と他に琴里や折紙ごとすくい上げて抱き締めた。

「ぐ、グリムロック! ぐるじい……!」

「グリムロックさん……生きてたんですね……!」

『嬉しいよグリムロック! でも苦しい……!』

「め、目眩が……」

「良いじゃないか、せっかく再開したんだ。しばらくこうしてたい」

 再開と同時にお別れになりそうなのでオプティマスは手を伸ばしてグリムロックの腰辺りをペンペンと叩いた。

「それくらいにしようか、みんながミンチになってしまうよ」

「お~、悪い悪い」

 グリムロックは三人を下ろすと懐かしい顔ぶれにどこか安堵した。

「ただいま、四糸乃」

「お帰りなさい……グリムロックさん」

「グリムロックっていつからそんな喋り方だったの? 前はもっとこう……バカっぽいって言うか」

「話せば長くなるんだ。それより他のみんなは?」

「琴里、状況を聞かせてくれないか?」

「状況はかなり悪いわ。士道がたった今、スタースクリームに連れ去られたの。十香や耶倶矢それに夕弦の三人と狂三、美九、七罪のチームの三人で分かれて行動しているの」

 オプティマスは顎をさすり、理解したように頷いた。

「なるほど。了解した」

「要するにディセプティコンの奴らを全員、ぶちのめしたら完了だろ? ダイノボットはどこだ? 俺の部隊なら一瞬だ」

「ごめんなさい、オートボットは地球の決議で追放になったの」

「そうか、サミットの結果はそうなったのか」

 オプティマスは残念そうに首を横に振る。

「サミット? 何だそりゃ」

「あんたはいなかったからね。ショーン・バーガー、彼がディセプティコンにそそのかされてオートボットを追放に追いやったの」

「そうか、皆がいないのならしょうがない」

 オプティマスは片腕を空に突き出すと背中から四枚の翼が生え、六基のスラスターが変形しながら形作った。

「とにかく士道を助ける。そしてメガトロンを倒す!」

「俺もケリをつけたい奴がいるしな」

 グリムロックは拳をぶつけて力強い音を鳴らした。気合いを入れて闘志を燃やすグリムロックに真横から突如、強烈な体当たりが決められた。ビーストモードのプレダキングはグリムロックを前足で掴んで引きずり回し、空中高く放り投げてから手を離して地面に真っ逆様に落とした。

 ロボットモードにトランスフォームしてからプレダキングは落下の勢いを利用し、拳を繰り出した。すぐさま立ち上がったグリムロックはプレダキングのパンチを受け止め、首を掴んで足払いと組み合わせ、後頭部から叩き落とした。

 プレダキングは一度退いて距離を置く。

 グリムロックは身構え、背後のオプティマス達に注意を払った。

「早く行け! 俺はコイツとカタをつける!」

 対峙した両名は視線と気迫がぶつかり合う。手が震えているが恐れから来るものじゃない、武者震いだ。殺気を漲らせ獲物に目がけてまさに飛びかからんとする獣のようだ。野生の本能には逆らえない。全身をめぐるエネルゴンが滾る、炎のように燃え、焼けつくような感覚だ。

 勝利か敗北か、生か死か、グリムロックにもはやそんな事は些細なものに過ぎない。

 怨敵を喰らう……それがすべてだ。

 

 

 

 

 

 十香達にもディセプティコンの魔の手は迫っていた。ASTの再稼働に当たってディセプティコンは完全に敵勢力を黙らせるべく動いていた。その際に十香達はディセプティコンと遭遇する結果となったのだ。限定的だが、霊力が戻り十香は鏖殺公(サンダルフォン)を手にディセプティコン兵を切り倒した。

「あ~もう! 何でいきなりこんな敵が湧いて出てくんのよ!」

「指摘。エネルゴンタワーがやられて防衛をしようと言うのでは?」

「このままではいくら倒しても切りがないぞ!」

 精霊の力は不完全な状態だ。一般の兵士くらいは問題なく倒せるだろうが、大挙して押し寄せられれば防ぎきれない。

「包囲して押しつぶせ! 目的は確保したそうだ!」

「撃て撃て撃て!」

 兵士達は大声で指示を出し、崩れかけの家屋や瓦礫に隠れながら十香達を包囲してブラスターを撃っている。十香も兵士と同じく物陰に隠れているが、ブラスターにより瓦礫が割れたりと徐々に隠れられる面積が狭くなっていた。

「シドーはもう捕まったのか?」

「ああ、言ってるけどどうだろうね。あやつがそれほど簡単に捕まるとは思えんが」

 このまま耐えていても助けは来ない。それどころか物陰がなくなって障害物のない状態で四方から飛んでくる光弾に晒される事になるのだ。

「瓦礫を破れ! もう少し――」

 兵士の声が不自然に途切れ刹那、上空から爆弾が投下されてディセプティコンを爆撃して行く。戦車の砲弾やロケットが遠方から撃ち込まれたかと思うとディセプティコンを撥ねながらトラックと戦車、それにスポーツカーが突っ込んで来た。その車達は当然のようにロボットへ変形し、武装を展開してディセプティコンを撃ち返した。続いて鋼鉄の恐竜が戦場に躍り出た。強靭な角や体躯を駆使して十香等を包囲していたディセプティコンを瞬く間に殲滅させてしまった。

 目の前に現れたその見慣れたロボット達。これは夢か何かか、そう感じずにはいられなかった。

「無事かね、耶倶矢、夕弦」

「怪我はねーか十香」

 ジェットファイアーは膝を曲げて二人の前に屈む。

「ジェットファイアー……本物?」

「本物だよ。人間にはまだ私を作る技術はないからね」

「驚嘆。どうして戻って来たのですか……?」

「耶倶矢、キミのペンダントが私達を呼んだ」

「え? これ?」

 先ほど点滅を繰り返してかなり驚かされたあのペンダントを見た。

「それには救難信号が組み込まれていたんだ」

「そうだったんだ!」

「安堵。自爆スイッチかと思いました」

「そんな危ないもの、持たせないよ。パーセプター、どうしたと言うんだ。さっきから難しい顔をして」

 立ち上がりジェットファイアーは腕のセンサーとずっと睨めっこしているパーセプターに声をかけた。

「いや、それがね。見覚えのあるオートボット反応が二つあるんだ」

「二つ?」

 オプティマスとグリムロックしか考えられなかったが、二人は死んだとここにいる皆は認識している。

「通信を繋いでみるよ」

 と、ジャズは疲れて眠っている真那を片腕で抱えて通信を繋いだ。制御装置の近くで倒れていた真那をジャズは偶然、回収出来たのだ。

「そこのオートボット、応答せよ」

 レーダー上では凄まじい速度で飛ぶオートボットの飛行体に向けて通信を飛ばすとジャズ達には最も愛され必要とされていた者から返事があった。

『こちらオプティマス。ジャズ? キミなのか?』

「オプティマス!? あなたは本当にオプティマスですか!?」

 ジャズがオプティマスという名を叫んだのでその場にいた皆がざわついた。

「おい、ジャズ! マジかよオプティマス・プライムが生きてんのか!?」

「待ってくれワーパス。オプティマス、私達はディセプティコンにこれまでのお礼をしようと考えてます。指示を下さい」

『わかった。すぐに降りる』

 レーダーに映る飛行物は自分達の頭の上まで来ると皆、顔を上に向けた。スラスターを切って着地するオプティマスを見てオートボットは確信した。間違いなくオプティマスであると。こらえ様のない歓喜がこみ上げる。これまでにない力が湧きあがって来るようだ。我らが司令官が戻って来た、そう思えば士気は極限にまで高まる。

「これから私は士道の救出に向かう」

 今からのおこなう事を仲間に報告し、オプティマスはダイノボット達の方を向いた。

「スラッグ、グリムロックも共に生き返った。キミ達のリーダーは今、プレダキングと戦っている」

「本当か!? あいつも生きてるのか!?」

「オレ達のリーダーもピンピンしてるのか! こりゃあ、俄然やる気が出てくるな!」

 グリムロックが生き返ったと知り、ダイノボット達は心に空いた隙間が埋められるような気持ちになった。やはり五人揃ってのダイノボット、一人でも欠ければ悲しい。

「ジェットファイアー、キミはあのセイバートロンと地球を結ぶケーブルを切り離して来い!」

「了解しました!」

 ジェットファイアーはふわっと浮かび上がるとスペースジェットに変形して飛行機雲を残して飛んで行った。

「町にはASTが抵抗を続けている。他の者は出来るだけ人間を救うんだ!」

 オプティマスはスラスターを展開して飛び上がる動作に入ると十香が走り寄って来た。

「オプティマス! 私も連れて行ってくれ!」

「危険だ。了承できない!」

「頼む! シドーを助ける手助けになる筈だ!」

 オプティマスは少しの間黙り込むと十香を掴んで両手で優しく包み込んだ。

「士道を見つけたらすぐに逃げるんだ。いいな」

「わかったぞ!」

「お待ちください」

 優雅な口調でオプティマスを呼び止めると円形に影が広がり、そこから狂三と七罪が出てきた。七罪はオプティマスがいる事にかなり驚いているようだが、狂三は別段それを表情には出さなかった。

「スペースブリッジの弱点を発見しましたわ」

「ほう、それは興味深いな」

 オプティマスはスラスターの出力を緩めてまた地上に足をつけた。

「あのスペースブリッジの制御盤はダークマウントにありますわ。構造は――」

「そうかスペースブリッジの中を循環するエネルゴンを逆に流してやれば良いんだね!」

 これから狂三が言おうとしていた事を先にパーセプターに言われてしまい狂三は頬をふくらませて酷く不満げな表情を作った。

「あ、すまないね狂三。私が説明してしまって」

「もういいですわ!」

「それではスペースブリッジはパーセプター、キミに託そう! ダークマウントで私が戦う間にスペースブリッジを破壊して欲しい」

 オプティマスは再びスラスターを点火して飛び上がりダークマウントがそびる方へ飛んで行った。

「皆、やる事は決まったね。私は真那を少し安全な場所に置いてから参戦する」

「え~っとあたしはスペースブリッジ破壊で良いのかな?」

「お願いしますわ七罪さん。わたしくはパーセプターさんを無事にダークマウントまでお運びしなくてはいけませんので」

「参ったな……ついてくる気満々じゃないか……」

 

 

 

 

 強烈な音波によって美九の体は容易く飛ばされてしまい、更にはランブルやレーザービークの援護もあって美九は先ほどから逃げるしか出来ていなかった。

「ハハハハハハハハハハハ! ドウダ!」

 普段と違い、妙にテンションの高いサウンドウェーブは連続で音波攻撃をまき散らし、逃げ隠れする美九をあぶり出そうと無駄な破壊で瓦礫の山を作っていた。運動が苦手な美九には追撃を避けながら足場の悪い戦場で戦うのは辛いものがあった。けれども美九には負けられない意地がある。なんとしてもサウンドウェーブにやられた借りを返さなくてならない。

追奏曲(カノン)!」

 音を一点に集めまるで砲のように美九は声の砲弾をサウンドウェーブに向けた。圧縮された音を浴びてサウンドウェーブは多少、揺らいだがそれでは居場所を教えるだけに過ぎなかった。

「逃がしハシナイ」

 ブラスターを撃ち、美九は足下の瓦礫を崩されて転がり落ちる。限定的な力ではサウンドウェーブに太刀打ちが出来ない。しかし、霊力を全て解放してはどうだろう。まだ足りないかもしれない。

「痛ッ……!」

 立ち上がろうとすると美九は足首に痛みを覚えた。瓦礫の山から落ちた時に足首を痛めてしまったのだ。泣きそうになるが、痛みを堪えて美九はある場所に移動していた。サウンドウェーブはレーザービークを呼び出して美九を探すように命じた。

 己よりも遥かに小さく武装もない。優秀なカセットロンも持たず攻撃の手段は弱々しい音波のみ。誘宵美九の歌唱力はサウンドウェーブは百点を付けても良いと認めている。だが音波対決、これだけはサウンドシステムとして負ける訳にはいかなかった。相手は音の精霊と言うならサウンドウェーブに気合いが入らぬわけはない。冷静に的確に美九の戦闘力を割り出すサウンドウェーブは淡々と美九を追い詰める。いつ封印を解き放ち、反撃に打って出るか密かに楽しみに感じていた。次は何をするのか、レーザービークの追跡を逃れたら何をするか、サウンドウェーブに見つかればどう攻撃するか、まともなダメージを与える為に何を工夫して見せるか。今の美九にはそれが求められていた。右足首を強打した美九は鎮魂歌(レクイエム)で痛みを和らげて天宮ホールに向かって移動していた。

 天宮ホールは初めて士道と出会った場所だ。ホール内はよく反響し、そして大きな拡声器がいくつもある。逆転を狙うにはそこしかないと判断したのだ。金切り声と共にレーザービークは目からビームを発射して空からアタックを開始した。美九は苦々しい顔を作り、息を吸って円舞曲(ロンド)を歌う。広範囲に破壊的な音波を発生させる円舞曲(ロンド)はレーザービークを撃ち落とした。

「ランブル、イジェクト。美九を破壊セヨ」

「お安いごようさ!」

 胸から今度はランブルが飛び出すと腕をハンマーアームに切り替え、人工地震を引き起こして積まれた瓦礫を倒壊させ、地割れを引き起こした。

破軍歌姫(ガブリエル)独奏(ソロ)”!」

 どこからともなく美九の声がし、ランブルの頭を揺さぶった。そして無性に美九を守りたくなる衝動に駆られるとブラスターを握るサウンドウェーブへいきなり飛びかかった。

「サウンドウェーブ! 美九たんに手を出すなァ!」

「オオォ! ランブル、リターン!」

 飛びつくランブルを平手打ちで目を覚まさせるとサウンドウェーブはランブルを再び胸へと戻した。一瞬でもランブルを洗脳し、主人に襲わせる極めて恐ろしい能力だとサウンドウェーブは認識した。また次にレーザービークに使われては厄介だとレーザービークもカセットに戻した。

 ランブルを洗脳して消しかけている隙に美九はなんとか天宮ホールへ入り込む事が出来た。奇跡的にもまだこの場所は戦いの戦火に巻き込まれずに済んでおり、壁の塗装が剥がれたり、ガラスが割れている程度の被害で済んでいた。

 美九が中央のステージに上がった所で壁を破壊してサウンドウェーブが突入して来た。美九は拡声器を起動させてマイクのスイッチを入れる。

破軍歌姫(ガブリエル)円舞曲(ロンド)”!」

 拡声器で何倍にも増幅された破壊音がサウンドウェーブへ襲いかかった。サウンドウェーブも当然、胸から破壊音波レゾナンスブラスターを使って応戦し、遂には美九の音波を打ち破った。ホールには虚しい残響が延々と聞こえていた。

「嘘……スピーカーで何倍にも増幅されてるのに……」

「誘宵美九、キサマはここでシヌ」

 サウンドウェーブはここぞとばかりに肩を変形させて細かなパーツが拡張して行き背負うような形で大きなスピーカーが出現した。ここにあるどのスピーカーよりも大きい、そんな物でさっきの音を受ければ木っ端微塵だ。美九はマイクを握りしめて敢然とサウンドウェーブを見た。

神威霊装・九番(シャダイ・エル・カイ)

 美九の足下から光の粒子が舞いあがりつま先から頭頂にかけて一瞬の内に霊装を纏う。精霊の最高の防具、そして最高の武器、天使を美九は顕現させた。背景にはパイプオルガンを連想させる天使“破軍歌姫(ガブリエル)”がいる。

 精霊として本来の力を取り戻した美九をサウンドウェーブは最大限に警戒した。一切の躊躇なくサウンドウェーブは全身全霊をかけて音の砲撃を美九に見舞った。

聖譚曲(オラトリオ)

 サウンドウェーブの破壊と殺意に満ちた音は歌う前に美九を飲み込んでいった。もやは影も残るまい、サウンドウェーブはそう確信したが、レゾナンスブラスターは美九を飲み込んだのではなく美九の周りに留まっていた。敵の攻撃を吸収して撃ちだす、それが聖譚曲(オラトリオ)だ。

「――!?」

 レゾナンスブラスターをそのまま跳ね返し更に美九の歌声を上乗せしてサウンドウェーブへぶつけた。壁はもちろん、美九の視界に存在していた有象無象は一切合財全て塵と化した。美九が歌い終わり、視線の先に残っていたのはかろうじて原形を留めるサウンドウェーブだ。

「見事だ……誘……宵……美九…………」

 全身にひびが入り、次の瞬間サウンドウェーブの体は爆発を起こし散って行った。情報参謀サウンドウェーブはここに眠る。

 

 

 

 

 ジェットファイアーはビークルモードで迫り来るディセプティコンの航空部隊と対空砲を避けながら壮絶な空戦を繰り広げていた。地球とセイバートロンを繋ぐケーブルはエネルゴンを送る管になっている。当然、防御は固い。機銃の掃射で対空砲を破壊しつつケーブルを守る装甲を剥がし、弱点となる節を探していた。

「ジェットファイアーを止めろォ!」

 ディセプティコンのシーカーはそう叫びながらジェットファイアーに捨て身の特攻を仕掛けて来る。華麗な変形でひらりと特攻を避けてからロケットでシーカーを爆散させて再びスペースジェットに戻る。

 アーマーをマシンガンで砕き、やっと節を見付けるとそこをミサイルで粉砕し、まずは一本目のケーブルを破壊した。

 残りは四本だ。

「ジェットファイアー!」

 どこからか甲高い声が名前を呼んだ。上空から急降下しながらレーザーを放つスタースクリームの攻撃を避けてジェットファイアーはロボットの姿を取った。スタースクリームも足からブースターを噴出して空中に留まっている。ナルビームとアサルトライフルを向けてくるスタースクリームにジェットファイアーもロケットキャノンを突き付けた。二人は睨み合う。かつての友、最悪の裏切り者、そんな言葉がジェットファイアーの脳裏をよぎった。

「決着をつけよう友よ!」

「ああ、そのつもりだ。ジェットファイアー、くたばれぃ!」

 スタースクリームが先にナル光線を撃った。ジェットファイアーはスラスターを真横に吹かして楽々と回避してからジェットモードにトランスフォームする。スタースクリームも変形してジェットファイアーの後を追った。

「逃げるな臆病者!」

「スタースクリーム! 聞かせてくれ! かつてキミ程名誉ある戦士はいなかった。何がキミを変えた!?」

 戦前、スタースクリームはゼータプライムの護衛を任させる程の誇り高いオートボットの戦士だった。そして戦争が始まるとスタースクリームはその護衛という栄誉ある地位から降格され、辺境のダークエネルゴンの研究施設へと一人、送られたのだ。孤独感と倦怠感、そして理由も知らされずに降格だけを突き付けられ、次第にスタースクリームは歪んだ性格へと変貌して行ったのだ。嫌な事を思い出してスタースクリームは苦い表情を作った。

「何が変えただと!? テメェに言う必要なんかねーな!」

 スタースクリームは複数のミサイルを発射し、ジェットファイアーは唐突にスピードを緩め、更に急旋回でミサイルをやり凄しスタースクリームの背後に回り込んだ。スタースクリームもすぐにジェットファイアーの背後を取ろうと急旋回する。相手の背を取ろうとする壮絶なドッグファイトが繰り広げられ、無理に機首を下に下げてスタースクリームは降下して加速し、ジェットファイアーと距離を離す。ジェットファイアーもまたすぐに後を追い、スタースクリームに機銃やレーザーを降らせた。絶妙な動きでジェットファイアーの攻撃を紙一重で避けつつ、スタースクリームは変形してジェットファイアーの体に飛び乗った。

「あばよ!」

 ナルビームを撃ち込もうとした所でジェットファイアーも同じくロボットの姿になり、スタースクリームを振り落した。顔面を思い切り殴り、スタースクリームは仰け反ると歯を食いしばり回し蹴りを首に当ててアサルトライフルでジェットファイアーの装甲を削った。

 瞬時に二人はジェットモードになり、赤と白の軌跡を空に描いて激しくぶつかりあい、カラフルな光弾が宙に躍った。音速を超えて円を描くようにまた巴戦を始めたかと思えばロボットモードで熾烈な肉弾戦を展開する。刻々と間合いへ変化し、戦闘の種類の移り変わりが激しい。空戦、接近戦、銃撃戦の三種を混じり合わせながら二人には誰も割り込めぬ、高度な戦いを繰り広げていた。ジェットファイアーはもちろん本気だ。だが、スタースクリームを仕留めきれない。スタースクリームも同じく本気だ。両者の傷は互いに浅いが、一つのミスが大ダメージと敗北に直結する。精神力をありったけ消費して集中力を保ち、戦いを進める。

「ジェットファイアー! 覚悟しやがれ!」

 音の壁を超え、スタースクリームはスラスターが焼き切れんばかりに吹かせて加速して行く。ジェットファイアーも同じだ。真正面から避けもせずに二人はありったけの火器を前方へ向けて発射し、ボディアタックを決めるのだ。無論、音速同士の衝突が起きればどちらもただでは済まない。スタースクリームの計算では直前で回避行動に移るジェットファイアーをナルビームで仕留める算段だった。

 両者の間隔はみるみるうちに縮まって行く。ジェットファイアーは回避は愚か、減速さえしようとはしない。更に加速をつけて来た。

「覚悟するのはキミだ!」

「う……うわあああああああああああああ!」

 限界まで回避行動を取らなかったスタースクリームは刹那、反応が遅れた。正面からミサイルを食らい、更にはジェットファイアーの突進を浴びてスタースクリームは勢いよくダークマウントの外壁を突き破って吹っ飛ばされてしまった。

 かろうじてスタースクリームを退けたジェットファイアーは全てのケーブルの切断に成功した。

「こちらジェットファイアー、ケーブルの切断、完了。――わっ!?」

 ジェットファイアーが驚きの声を上げたのは目の前をブルーティカスが通過したからだ。

 合体兵士ブルーティカスはダークマウントから放たれると大きな地響きを起こして着地、それと同時に肩のプロペラで戦車をバラバラにカットした。

 

 

 

 

 

 ブルーティカスが投下されたのは自衛隊とASTが展開する防衛線だった。合体兵士の登場に現場で指揮を執っていた燎子は顔色を悪くした。パンチ一つで強力な戦車が屑鉄に変わり、ASTが総攻撃を仕掛けてもブルーティカスはケロッとして蚊にでも刺された程度にしか認識していない。

「あのトランスフォーマー……!」

「日下部隊長! もう無理ですよ~! 普通に敵を止めるだけでも精一杯なんですから!」

 ブルーティカスを見て美紀恵は弱音を吐いたが、燎子は最初から圧倒的な不利な事くらいわかっている。

「美紀恵、少しここを預けるわ!」

 燎子はそう言って自衛隊の駐屯地がある方へ飛んで行き、美紀恵と他の隊員はブルーティカスの前に取り残された。

「どけ、人間のチビども!」

 ブルーティカスの剛腕が振るわれ、攻撃ヘリはその余波で制御を失い次々と墜落して行く。信じられない硬さと威力で自衛隊の防衛線を簡単に突破してブルーティカスは戦車をおもちゃのように持ち上げてから落とし、右手から炎を出して溶かしつくした。少しずつ機甲部隊は後退を開始し、ブルーティカスはここぞとばかりに拳に力を溜めて地面を叩いた。計り知れない衝撃波が前方へ飛び、戦車隊はたった一撃で壊滅した。守るべき兵器がなくなり、ASTも後退を始めた。

「ハハハハハ! こいつぁ、ちとアンフェアかぁ?」

 陸上自衛隊基地の前まで押し込まれるまでにさほど時間はかからなかった。ブルーティカスはただ歩いて目につく物を壊すだけで良いのだ。楽な作業だ。

「日下部隊長! まだですか! もうあの大きいのが基地をノックしてるんです!」

 通信機に向かって美紀恵が叫んだが、燎子からの返事はない。

「さっさとここをぶち壊すぜ。お邪魔しますっと!」

 基地の壁を蹴飛ばしてブルーティカスが乗り込んで来た矢先、体を妙な膜によってロックオンされた。

「照準ロック……発射……!」

 無数のミサイルが叩きこまれ、ブルーティカスは振り向いた。今までの兵装と段違いの火力を受けてブルーティカスはやっと戦う気になったのだ。白い硝煙を上げて燎子は気分の悪そうな顔で目元をぴくぴくと動かし、死人のような青白い顔をしている。

「日下部隊長……!」

 美紀恵は思わず口に手を当てて息を呑んだ。燎子が装着しているのは普通のCR-ユニットなどではなかった。最強の欠陥機ホワイト・リコリスだ。魔力砲を両腕のアームに蓄積、と同時に発射。図体が大きくて鈍重なブルーティカスには避けられぬ弾速だ。

 魔力砲が命中してもブルーティカスは活動を続け、背面の砲塔からミサイルが撃ち上げられた。燎子にホワイト・リコリスの操作はかなり無理があり、折紙のように素早く動く事は出来ない。朦朧とする意識の中でも燎子は引き金を引き、ホワイト・リコリスの膨大な火力をブルーティカスにぶつけ、それらのすべてを受け切り、ブルーティカスの肩のプロペラによってホワイト・リコリスは切り刻まれた。

 かろうじて燎子は脱出したので一命を取り留めはした。

「さぁて、後はここをぶっ壊しつくすだけだな」

 

 

 

 

 

 ブルーティカスの進撃は安全圏に真那を送り届けていたジャズがはっきりと見ていた。スポーツカーの騒がしいエンジンの音を鳴らしながら悪路を走り、変形と同時にグラップルビームを小高い建物に飛ばして瞬時に飛び乗った。屋根から屋根へと華麗なステップでジャズは進み、破壊を続けるブルーティカスの頭に飛び移った。

「やあやあ、ブルーティカスくん。少しおいたが過ぎるよ」

 ジャズはショットガンを取り出して顔面に数発叩き込むとブルーティカスは蚊を追い払うかのように腕を振り回し、ジャズはすぐに頭からどいてスポーツカーに戻った。

「ジェットファイアー! 空中から支援をくれないか!」

 ケーブル破壊の任務を終えたジェットファイアーはブルーティカスの上空を飛び、爆弾を落とした。

「了解した!」

 ブルーティカスがジャズを踏みつぶそうと片足を上げた時、ジャズは好機と睨んでもう片方の足にグラップルビームを巻き付けて引っ張り、転ばせた。転倒したブルーティカスへジェットファイアー、それにスワープの猛爆が加わる。戦場にはダイノボットにワーパスとアイアンハイドが駆け付けた。

「ダイノボット! ブルーティカスを片づけろ!」

 ワーパスの掛け声でスナールが先陣を切った。

「来たな雑魚ども!」

 奮起して立ち上がったブルーティカスはスナールを蹴飛ばし、その隙にスラージが突進した。両手を組んでスラージの手を叩いて怯ませると巨体を持ち上げてワーパスとアイアンハイドへ投げつけた。スラッグの頭突きがブルーティカスのバランスを崩させて、ジャズはアンカーを飛ばしてブルーティカスの顔へ飛び乗ると至近距離からショットガンを連射し、また退いた。

「このォ!」

 鬱陶しい攻撃が続き、ブルーティカスは怒りを増幅させてスラッグを殴って退かせ、尻尾を掴んでデタラメに振り回してオートボットを巻き込んで行く。ダウンしてもすぐに起き上がり、ダイノボットはブルーティカスを取り囲んで動きを封じ込めようするも、合体兵士のパワーには敵わず跳ね返されてしまった。地盤を引き剥がし、ブルーティカスは己の力を誇示するように見せつけてダイノボットへ投げつけた。

「生き埋めになりやがれ!」

「灰燼と化せ、灼爛殲鬼(カマエル)(メギド)】!」

 戦斧の先から膨大な熱の奔流が放たれてブルーティカスが引き剥がした地盤を一瞬にして跡形もなく消し去ってしまう。宙には霊装を纏う琴里に四糸乃、八舞姉妹が留まっている。美九が霊装を無理矢理、解放した為、たがが外れて士道に封印された霊力が持ち主に帰ったのだ。いきなり【(メギド)】を使用して琴里は頭痛に見舞われて顔色が悪かった。そのおかげでダイノボット達は助かった。

「チビ共が来た所で何になる!」

 ブルーティカスは足を上げるとパキパキッと凍りつく音がして足下に視線を移すとブルーティカスの両足は凍りついていた。

「えっと……その……今です!」

 何とか大声を絞り出し、四糸乃の声と共に爆撃と銃弾の豪雨がブルーティカスへ集中した。足を力任せに動かしてブルーティカスは氷を粉砕して再び動き出して肩のプロペラを回転させると夕弦のチェーンがローターに絡みつき、回転を止めた。真正面から耶倶矢がランスを構えて突撃してブルーティカスを押し倒す。頭上から四糸乃が凝縮した氷の塊が落とされ、ブルーティカスはその下敷きになった。

 沈黙が続きブルーティカスがどうなったのかは分からないが、少なくとも無傷では済まないだろう。警戒は解かずに銃口を向けていると山のように大きな氷塊を持ち上げてブルーティカスは再起動した。

「嘘だろ、無傷かよ!」

 ワーパスは舌打ちをして文句を言い、戦車砲を撃ちつつも後退した。氷塊をまずはダイノボットへ投げた。散会して避けようにも動きが鈍く、避けきれず氷塊の餌食となった。適当な長い瓦礫を掴んでチクチクと撃ってくるワーパスをホームランして、アイアンハイドを掴んだ。そのまま投げ捨てて次に精霊を始末しようと動き出した。

「あの装甲を破る攻撃……ジェットファイアーの爆撃じゃあ無理か……」

 ジャズはギリっと歯を食いしばって次の策を考える。

「破る方法ならあるぞ、ジャズよ!」

 芝居がかった口調で耶倶矢は言った。

「懇願。私達の為に時間を稼いで下さい」

 夕弦と耶倶矢、この二人には何か考えがあるらしい。

「わかった。出来るだけ私が足止めをする」

 ジャズはスポーツカーになりマシンガンを撃ってブルーティカスの注意を引いた。

「こっちだブルーティカス! またアークの時のように退治してやる!」

「小うるさいチビスケが! スクラップにしてやるぜ!」

 ジャズの挑発に乗り、ブルーティカスは精霊からジャズの方に意識が向いた。

 ジェットファイアーも援護して出来るだけ、耶倶矢と夕弦の為に時間を稼ぐ。

「EMPグレネードを投下する!」

 ブルーティカスの足下にグレネードを落としてジャズはそれを踏ませるように誘導した。足下で大きな爆発が起こり、ブルーティカスが転ぶ。怒りに駆られて力は大きくなるにつれてブルーティカスの思考は粗末な物になっていく。強烈なパワーでジャズを追い回し、ビルとビルをアンカーで駆け抜けて逃げ、ジャズが通った場所をブルーティカスは悉く破壊して行った。小さなオートボット戦士は巨大なディセプティコンの兵士を相手に大立ち回り、弱いサブマシンガンで挑発して常にブルーティカスの注意を己に任せた。

「無駄だ無駄だ! そんな小火器じゃあブルーティカスはやられない! 諦めろ雑魚め!」

「諦めるのはキミだよ。今謝れば許してあげよう!」

「その生意気な口を二度と聞けなくしてやる!」

 全身が兵器の塊であるブルーティカスにはジャズを殺す手段などいくらでもあった。左腕を射出、ボルテックスだけが合体を解除してジャズに掴みかかった。ボルテックスの攻撃を避けてジャズはビルの上に立つとボルテックスの衝撃波アタックがビルを倒壊させた。

「くっ……!」

 バランスを崩して次の建物に飛び移るタイミングを逃すとブルーティカスはジャズを乱暴に掴んだ。左腕はもう合体を済ましてある。ギリギリと締め上げられてジャズは苦しそうに顔を歪めて悶える。ジェットファイアーが空から火力支援したが、ブルーティカスは全く堪えていない。

「くたばりやがれ!」

「もう、遅いよブルーティカス」

「戯言だ!」

 握りつぶそうと力を込める寸前、ブルーティカスは振り返った。本能的に何か恐ろしいものを察知したのだ。背後には耶倶矢と夕弦が天使を顕現させて構えている。

「行くよ夕弦!」

「応答。いつでもOKです」

 二人の気持ちは重なり合い、耶倶矢の右肩の翼と夕弦の左肩の翼が輝きを放った。夕弦は巨大な弓を形成し、耶倶矢は突撃槍を矢として弓に装填した。八舞としての真の力が発揮される。

 

「――“颶風騎士《ラファエル》”【天を駆ける者(エル・カナフ)】!」

 

 風の精霊の吹き荒れる嵐を一転に集約された最強の矢は恐るべき速度で突き進み、周りの瓦礫を塵埃のごとく跳ね飛ばしてブルーティカス目掛けて一直線に突き進む。風の矢はブルーティカスの堅牢な装甲を貫き、胸のスパークを射止め、それでもなお威力を弱めることなく飛んで行き、山の山頂をえぐって彼方へと消えて行った。

 力が緩み、ブルーティカスの手からジャズが離れる。命の源、スパークを貫かれブルーティカスの全身から色が抜けて行き、大きな巨像と化してやがて突っ伏して倒れ込んだ。

 颶風騎士《ラファエル》の力を限界以上にまで引き出して使った二人も全身から力が抜けて落ちそうになった所をジェットファイアーがキャッチした。霊力を使い果たして二人の霊装は自動的に解除され、今は手の中で眠っていた。

 

 

 

 

 

 玉座に座るメガトロンは飽きれていた。そして怒っていた。とても静かにだ。その事を察している兵士は出来るだけその怒りの矛先を向けられないようにと必死で自分達の務めを果たしていた。トリプティコン、ブルーティカス、サウンドウェーブからの連絡が途絶えてメガトロンは握りこぶしを作って肘置きを叩き、ひびを入れた。玉座から立ちあがり、ダークマウントの頂上から天宮市という名の戦場を見下ろした。

「メガトロン様! 何かエアーボットがこのダークマウントに接近しています!」

 観測デッキにいた兵士の一人がそう言い、メガトロンはカメラの倍率を上げてエアーボットが飛んで来る方向を睨んでいた。ジェットファイアーでもスワープでもないその飛行物体が何か分かった時、メガトロンは口角が吊り上った。

「フフフ……ハハハハハハ!」

 メガトロンは腹をゆすって哄笑し、フュージョンカノン砲をその飛行物に撃ち込んだ。右へ左へと避けるオプティマスは加速をつけてメガトロンを殴り飛ばし、手にひらにいた十香をそっと降ろすとメガトロンの顎をかち上げ、執拗に顔面を殴り、極めつけに腹にパンチを繰り出してメガトロンを玉座へと叩き込んだ。玉座は崩れて、その鉄くずの下敷きとなった。

「十香! 行くんだ!」

 オプティマスは叫び、マシンガンを取り出してその場にいた兵士を一人残らず弾丸の餌食にし、バラバラになった玉座を蹴り飛ばしてメガトロンはオプティマスの頭を掴んで壁に叩きつけるとトラックに変形してメガトロンを跳ね飛ばした。マトリクスセイバーを抜き、メガトロンに振り下ろす。光り輝く剣をエネルゴンの剣で防いだが、メガトロンの剣は容易く折れてしまった。

 胸に熱い痛みが走り、メガトロンは後退するとその手にはダークスパークが握られていた。

「ダークスパーク!?」

「そうだ、オプティマス。スタースクリームの奴から引き抜いたもう一つのダークスパークだ」

「やめろ、メガトロン! ダークスパークを二つも取り込むなど何が起きるか分からないんだぞ!」

「所有者の思うがままに事象を操るダークスパーク、それが二つある。すなわち勝利だ」

 メガトロンは二つ目のダークスパークを体内へ取り込む。

 直後、メガトロンから膨大な量のエネルギーがあふれ返り、紫色の光はダークマウントから空へ伸びて行った。

「ハッハッハ! 我は支配者! 我は破壊者! 我が宇宙の覇者だ!」

 ダークスパークの余波を受け、オプティマスは手で顔を覆ってなんとかこらえている。圧倒的なエネルギーの放出が終わり、メガトロンの全身は紫色に変化して、怪しげな瘴気を放出していた。

「お前がどんな姿になりどんな力を手に入れようとも、勝利はない!」

「勝利は儂にしかむかん!」

 オプティマスはマトリクスセイバーをメガトロンはダークセイバーを携え激突した。

 

 

 

 

 士道が幽閉されているのはアーカビルも閉じ込められている独房であった。簡単には突破出来ないだけの強固な造りである独房だが、幸運の女神がほほ笑んだのか外でジェットファイアーと壮絶な戦いを繰り広げたスタースクリームがなんと独房へ突っ込んで来、その為独房の頑丈なドアは破壊されて外へと出れるようになっていたのだ。

「スタースクリーム!? 何でコイツが……! いや、でも良いか」

 士道は壊れたドアをくぐって外へと出た。ダークマウント内のディセプティコンは出払って最低限の警備しかない。

「おい、お前。これからどうする気なんじゃ?」

 アーカビルもなんとかドアを潜って出てくる。

「え……?」

 どうするか、士道も考えていなかった。脱出したらしたでまた捕まる可能性もある。

「何も考えていないなら儂に手を貸して欲しい! スペースブリッジを破壊するんじゃ!」

「スペースブリッジをですか?」

「このまま、セイバートロンが地球の側に居続けたら地球は崩壊してしまう。儂はこれからスペースブリッジを壊しに向かう。お前もこれから地球に住むのじゃろう? 手を貸してくれ」

 地球が崩壊するのは絶対に避けなければいけない。士道は頷き、アーカビルに手を貸す事にした。

 その時である。

「シドォォォォォ!」

 長い廊下の向こう側から十香の声がした。幻聴かと思ったが、やけにしっかり聞こえてくる。暗い廊下を十香は猛スピードで駆け抜け、霊装を纏い、十香は士道を見つけるなり飛びつき、抱きしめた。

「シドー! シドー! ようやく見つけたぞ! 早く脱出しよう!」

「待て、十香。脱出よりも大切な事があるんだ」

「大切な事?」

 十香は首を傾げるとアーカビルが説明してくれた。

「お嬢ちゃん、今スペースブリッジによってセイバートロンは地球の衛星軌道上にやって来ている。このままだと地球は崩壊、儂等の住む所がなくなってしまうんじゃ」

「……?」

 説明しても無駄なようだ。

「え~そうだな……つまり、スペースブリッジとやらをぶっ壊せば良いのだな!」

「発想がダイノボットだぞ十香!」

 詳しい事を言っても仕方がないので十香にはスペースブリッジを壊すだけで良いと説明し、早速行動を開始した。アーカビルは元々はディセプティコンにいた。ダークマウントの中はよく知っている。もちろん、制御装置の場所もだ。

 アーカビルが先を歩き、制御盤への道を案内した。

「そう言えば十香、どうやってここまで来たんだ? ジェットファイアーに送ってもらったのか?」

「ううん、違うぞ。オプティマスが私をここまで連れて来てくれたのだ!」

「オプティマスが!? オプティマスがいるのか! 確か死んだ筈じゃ……」

「む~詳しい事は分からぬが生き返ったとかどうとか言っていたぞ」

「生き返ったって……無茶苦茶だぞそれ」

「まあ良いではないか。みんな戻って来たのだ」

「それとさ十香、何で霊装を使えるようになってるんだ?」

「これは……分からぬ。なんだかいきなり力がブワッーて湧いて来たぞ」

「またまたアバウトな……」

 十香と話していると前を歩いていたアーカビルの背中に士道がドンとぶつかってしまった。

「どうしたんですか?」

 士道が尋ねるが、アーカビルは何も言わず突っ立っている。自然とアーカビルが見ている先を見ると士道は全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。動悸が激しくなる。心臓の鼓動の音がやけに大きく聞こえるようになり、士道は眉間にシワを寄せてその表情は険しさを増していった。

 暗闇に一つ言霊のような光が浮かんでいた。その光が単眼だと士道はすぐに気が付いた。ダイノボットを折紙を改造し、皆を無理矢理にスピリットキャノンの動力にしようとした狂気の科学者、ショックウェーブが現れるとアーカビルは顔から脂汗を流してたじろいだ。

「スタースクリームが捕まえた対象を連れてどこへ行くのかね? Dr.アーカビル?」

「い、いや……これにはだな……つまり……その……」

「アーカビルさん、あなたは早く行って下さい」

 士道は一歩前へ出るとスターセイバーを払う。十香も鏖殺公(サンダルフォン)を握り締めてショックウェーブと対峙した。

「ショックウェーブ……! お前はどうやっても許せない!」

「武器を下ろして投降しろ、人間」

 十香が動いた。低空を滑るように高速で駆け抜けてショックウェーブとの距離をたちまち詰めて行く。鏖殺公(サンダルフォン)を振り上げて一気に刀身にたまった霊力の刃を発射するとショックウェーブは、危険と見抜いて身を反転させて避け切った。十香の刃は廊下を突き抜けてダークマウントの外壁を破って消えて行った。

 ショックウェーブがかわした先には士道のスターセイバーが迫っていた。大きなレーザーカノンで士道を叩き落とし、それから光弾を発射した。光弾は十香が受け止め、明後日の方向へと流してくれた。

 異様な回復力を備えた士道はもはや易々とは死なない。ショックウェーブは空いた腕から剣を伸ばしてまずは十香を仕留めようと狙いをつけると、壁を破り、パーセプターがショックウェーブの腕に掴みかかって取り押さえた。

刻々帝(ザフキエル)一の弾(アレフ)】」

 対象を高速化させる弾丸を十香に撃ち、十香は目にも止まらぬ速さで突き進み、攪乱しつつショックウェーブの頭を切り裂いた。

 だが、寸前でなんとか避けた為、ショックウェーブは頭を微かに斬られるだけに止まり、パーセプターの下腹部を膝で蹴り上げ、太いレーザーカノンで殴り倒した。

「邪魔だ」

 狂三に対し、砲撃すると光弾はまたも空中で四散した。士道がスターセイバーで切り裂いたのだ。

「助かりましたわ、士道さん」

「お安いご用さ。パーセプター、立って! 立って制御盤を頼む!」

 頭をさすりながらパーセプターは意識を正常化させると七罪に襲いかかるショックウェーブに足を引っ掛けて転ばせた。

「そうだ、制御盤だ!」

 パーセプターは急いで制御室へ行こうとしたが、思い止まった。

 ショックウェーブを相手にこの子ども達を残して良いものかと。

「パーセプター! 早く行くのだ! ショックウェーブは私達で食い止める!」

 パーセプターは十香の言葉を信じ、アーカビルを連れて走り出した。

 狭い廊下では士道達に分がある。おまけに完全状態の精霊が三人に常軌を逸した人間が一人。

 鏖殺公(サンダルフォン)の斬撃を避け、狂三の銃弾から逃れながらショックウェーブは壁を破壊して広めの部屋に飛び込んだ。後を追い、するとショックウェーブはまた壁を壊して別の部屋に移動している。

「終わりだ」

 ショックウェーブがレーザーカノンをチャージすると十香と士道は剣を構えた。

「皆さん! 逃げて下さい!」

 狂三がそう叫んだのはこの部屋が弾薬庫だとわかったからだ。弾薬庫ごと全員吹き飛ばそうというショックウェーブの策略だ。最初から光弾は十香達ではなく、弾薬ケースに向いていた。十香が走って止めようとしたが間に合いそうにない。

贋造魔女(ハニエル)!」

 箒をくるくると回し、先端からコミカルな星屑を飛ばす。星屑の行き先は部屋にある弾薬ケースであり、それらはたちまちぬいぐるみへと変身した。

 爆発はなんとか逃れ、士道は【一の弾(アレフ)】で加速されてスターセイバーを振り下ろす。

 瞬間、ショックウェーブの単眼は割られ、ショックウェーブの視覚に多大な影響を及ぼした。

「ぐ、ぐぉぉぉ!? 視覚センサー、異常……!」

 ショックウェーブは気が狂ったかのようにレーザーカノンを乱射し剣を振り回して暴れまわる。狂三は七罪が変身させた巨大なぬいぐるみをショックウェーブへ投げ、ショックウェーブは微かな視力でそれを撃ち落とした。

鏖殺公(サンダルフォン)!」

 十香は足下を蹴り、玉座を降臨した。玉座は砕けると細分化されて十香の剣にまとわり付き、別の姿へ作り替えて行く。

最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)!」

 十メートルはある剣は十香の切り札だ。天井を突き破り十香は大きな剣を振り下ろす。

 轟音に次いで爆発がダークマウントを突き抜けて飛んで行く。ありったけの霊力を込めた十香の最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)はショックウェーブの体を左右泣き別れとなって果てさせた。

 以前は制御不能で爆発しそうになった最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)を上手く制御して十香は剣を光と共に消した。

 力が抜けて十香は膝から崩れ落ちると士道はその体を受け止めた。

「十香、頑張ったな」

 士道は頭を撫で、十香は体を士道に預けた。

 

 

 

 

 

 制御室へ突入したパーセプターは警備のディセプティコン兵をショットガンを打ち倒して早速キーを叩いた。

「何っ……!?」

「どうしたんじゃ!?」

「スペースブリッジが固定されて操作するにはパスワードがいる。Dr.アーカビル、そのパスワードはご存知かね?」

「いいや、儂もしらん」

 パーセプターは苦虫を噛み潰したような顔を作り、制御盤の分解を始めた。本の電源を切ってしまおうという魂胆だ。

 分解は簡単だったが、障害にぶつかった。

「赤と……青……か」

 赤と青のコード、どちらかを切ればスペースブリッジはシャットダウンする。しかし、もし間違った方を切ればセイバートロンと地球は衝突、地球は無くなるしセイバートロンもただでは済まない。

「赤だ。赤を切ろう」

 と、パーセプター。

「赤じゃと!? 青に決まっておろう!」

 二人の意見が対立した時、ショックウェーブを撃破した士道達が制御室へやって来た。士道は十香を背負っている。

「士道くん! 赤と青どちらかの配線を切らねばならないんだ」

「小僧、青だ。青が正しい!」

「青だって!? 赤に決まっているだろう」

「二人ともどいて下さい! 一か八か……俺は赤にかける!」

 士道は思いきり赤のコードを引っこ抜いた。

 一瞬の静寂が訪れ、パーセプターは反射的に士道達を庇う。

「見ろ!」

 アーカビルが指差すとスペースブリッジが閉じ、セイバートロン星が元に戻って行く。士道の強運は正解を引き当てたのだ。

「何とか……助かった……」

 パーセプターは胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 太古の竜はたった一人きりだった。手を伸ばしても手に入れる事が出来ない。どれだけ敵を殺し、力を示してもグリムロックを打ち倒してもプレダキングは今後、永遠に一人なのだ。

 ドラゴンからロボットへ変形しながらグリムロックの腹を殴り、持ち上げる。自分よりも大きな体躯を手に入れたグリムロックを飛ばし、プレダキングはハイキックで首を狩る。

 後転してグリムロックはハイキックをやり過ごし、恐竜へ変形するとプレダキングに砲弾を撃ち込んだ。

 真っ向から砲弾を掴み、そのまま握り潰すと黒煙が充満した。煙の中からグリムロックの手が伸びると腕を掴んで引き寄せて来た。

 目前には剣先が迫り、プレダキングは強引に身を捻って顔面への直撃を避け、反対にグリムロックの胸を爪で切り裂いてやった。

 怯みもせずにグリムロックは頭を鷲掴みにすると地面にめり込ませ、そのまま走り出す。プレダキングの顔や体に岩や瓦礫がぶつかり、次の瞬間、グリムロックは大きく跳躍しプレダキングを頭から叩きつけた。

 プレダキングを叩きつけた時既にドラゴンの姿を取り、長い尻尾でグリムロックを叩きのめし、刃物のように鋭利な牙が噛み付いた。

 グリムロックもすぐに恐竜へ変形すると首を噛まれているにも関わらず、その圧倒的なパワーに任せてプレダキングを振り回す。

 背中から家屋にぶつけてプレダキングを離そうとグリムロックは力の限り暴れ、背面と足から炎を噴射して正面の家に突っ込み、プレダキングはやっと力を緩めた。

 今度はグリムロックの番だ。

 突っ伏したプレダキングを踏みつけて噛み砕こうと口を広げた。

 何もかもを砕いて潰す顎が迫っている。プレダキングは尻尾で適当な所に転がっていた瓦礫を突き刺してグリムロックの口にねじ込んだ。

「グゥッ!」

 うなり声を漏らし、瓦礫を噛み砕き、未だに地面に固定しているプレダキングに火炎を吐いた。

 烈火に包まれてプレダキングは反撃とばかりに業火をグリムロックに放った。二人の巨獣は炎に包まれながら変形、全く同じタイミングで拳を繰り出した。

 拳と拳がぶつかり、衝撃波が空間をビリビリと震わせた。

 両者は取っ組み合い、グリムロックは力のままに押し込むとプレダキングはその力を利用して巴投げで対応した。投げられたグリムロックはすぐに相手に向き直る。

 プレダキングは爪をぎらつかせて踏み込んで来た。グリムロックは剣を取り、手首を高速で回転させてプレダキングを跳ね返した。

 拳と武器を使った肉弾戦かと思いきや、獣同士の殺し合い、この二人も全く異なる二つの特性を生かして常に相手の命を取ろうと苛烈な攻防戦を展開していた。

 グリムロック、プレダキングの二人には会話はなかった。いや、喋る余裕などどこにもなかったのだ。精神を体の末端まで満たし、全神経を対象だけに絞っている。

 グリムロックは恐竜形態になってプレダキングを目指して走り出す。

「ハァァァッ!」

 気迫を込め、プレダキングは突進して来たグリムロックの頬を殴り飛ばし横転させた。

 グリムロックはトランスフォームして受け身を取った。そして再度、ビーストモードになる。プレダキングはゆっくりと体の細部を動かしてドラゴンモードにトランスフォームする。グリムロックの体は段々と赤みが強くなり全身から炎が立ち込め、牙から顎、首のラインにかけて煌々と眩い光を放っていた。バキバキっと地面に亀裂が入るのが分かる。足で大地を踏みしめるだけで地面は軽く割れる、それほどにまで力を込めているのだ。地球に来てグリムロックは多くを学んだ、それも人間や精霊達のおかげだろう、セイバートロンで戦い続けていれば手に入れられなかったものも手に入れられた。

 バーテックスファング、これを決めればグリムロックに、オートボットに、ダイノボットに勝利が来る。信頼を寄せる絶対の必殺技、愛しき怨敵を喰らう唯一無二の技だ。

 大股に前足と後ろ足を開き、プレダキングは顔を低く保った。右腕の爪からギア、前腕から肩へかけて黄金の輝きに満たされ、プレダキングは顎が痙攣する程に噛み締めた。これまで一人ぼっちでコイツを倒したこれからも一人ぼっちで生きていくだろう。哀れな己の宿命に自嘲的な笑いが込み上げる。けれど、どれほどに惨めでも兄弟を殺し、家族を奪った仇敵に負ける訳にはいかなかった。

 エイペックスクローはいつでも打てる。グリムロックも同様だ。睨み合い、仕掛けるタイミングを見計らう。

 二人の間をどこかで爆発した突風を吹きぬけて行き、壊れた店の旗が強く揺れた。いつ仕掛けるのか相手の意識の常に一手先、一手先を読み合い停止した状態から早くも三十分が経過しようとしていた。二人の心中の思惑が完全に符合した時にグリムロックは、プレダキングは、全く同時に攻撃を放った。

 地面が粉砕される脚力で前方へ跳ぶ、とてつもないスタートを切り、一歩一歩を鬼のごとく力強く踏みしめ、両雄の距離は瞬く間に縮まりそして――。

 

 金属音が辺り一帯を支配した。その後、衝撃にも空間を支配され何もかもを巻き上げて行った。

 勝負は一度、決着は刹那、二つの金属の巨獣は牙と爪で結ばれて一つの塊としてもつれ合っていた。グリムロックの牙は首に喰らいつき、プレダキングは傷口から大量のエネルゴンを流している。対するグリムロックも爪で胴体を串刺しにされ、その傷の深さは誰が見ても深刻だと判断出来よう。

 小細工なしのただ真正面からのぶつかり合い。グリムロックは力を振り絞り、脳裏に四糸乃を思い浮かべ顎に力を入れる。プレダキングも失いそうになる意識を呼び戻し、より深く刺した。

 スパークが力尽きるまで緩めるつもりはない。

 先に力を緩めたのはプレダキングだった。貫いた胴体から腕が抜け、プレダキングはゆっくりと崩れるように膝をつく。もうどこにも力が残ってはいない筈だった。だが、既に息絶えたプレダキングはグリムロックの足を死んでも掴んでいた。

「……」

 グリムロックは言葉を投げかけようとしたが、押し黙った。賞賛など意味は無い、野生の理に従い、より強い者が残った。それだけだ。

 

 

 

 

 

 この二人の戦いがトランスフォーマーの歴史と言っても過言ではないだろう。長きに渡る因縁、千万にも及ぶトランスフォーマーの戦いの歴史の中心にいつもこの二人がいた。

「くらえ!」

 メガトロンは吼えるとダークセイバーから光波を飛ばした。オプティマスも同じよう光波を飛ばして相殺した。

 剣を振り下ろす腕を掴んだメガトロンは横薙ぎにオプティマスを切断しようと考えたが、顔面に頭突きを入れられてよろめき剣は空振りした。オプティマスは瞬時にトラックへ変形し、突進してメガトロンを跳ね飛ばす。

「どうしたメガトロン! 時代遅れのロボットめ! スクラップが似合うぞ!」

「黙れ、黙れ! スクラップになるのは貴様の方だ!」

 メガトロンが戦車にトランスフォームして砲弾を撃って来ている。オプティマスはもう一度トラックへ変形して砲弾を避けているとメガトロンはタックルでオプティマスに激突し、車体は転がり、ロボットの姿に戻るとオプティマスは塔の端、落ちるかどうかという瀬戸際に立っていた。休む間もなくメガトロンがオプティマスに仕掛けて来た。メガトロンの剣をガードし、ジリジリとだが、確実に後ろへと押し込まれている。

「落ちろ、オプティマス!」

 オプティマスは足下にライフルの腕を向けて撃ち、爆発を起こしてメガトロンは後方へ飛ばされた。塔の中央へ戻るとオプティマスは剣を突出し、メガトロンも剣で突いた。二つの切っ先が衝突を起こすと刀身はなんと互いに亀裂が生じ、バラバラに砕け散ってしまった。

「剣が……! いや、貴様など素手で捻り潰してくれるわ!」

「お前が死ぬか、私が死ぬかだメガトロン! 雌雄を決するぞ!」

 メガトロンがフュージョンカノン砲を撃ってくるとオプティマスは横に転がり、上手く避けるとメガトロンは次弾を装填している。発射される前にオプティマスは転がっていた岩を拾って投げ、砲口の中に入り込むとメガトロンのフュージョンカノン砲は暴発してメガトロンはひっくり返った。立ち上がるとオプティマスの膝が顔面に決まり、えぐり込むようなパンチが腹に入った。ただやられているメガトロンではない。殴られてもすぐに反撃に出、軽く飛び上がり、かかと落としでオプティマスを昏倒させた。

 オプティマスの背後に回り込み、腰に腕を回すと体の反りを使ってバックドロップを成功させた。頭部に強烈なダメージを立て続けに受け、足下がおぼつかない。

 メガトロンは走り寄り、顎に腕を引っかけると胴体を捻り、同時に腕を振るってオプティマスにラリアットを叩き込んだ。

 倒れ込むオプティマスは膝から落下してくるメガトロンから逃れ、足払いした。メガトロンも何をして来るのか読んでいたのか足払いを避け、両腕からダークエネルゴンの結晶を生み出して鎌を生成した。

 鎌を振り降ろした先にはオプティマスはおらず、深く床を突き刺してしまった。そこへオプティマスの蹴りが顔面と鎌に入り、体は飛ばされ、鎌は砕ける。

 うつ伏せに倒れたメガトロンの頭を鷲掴みにすると何度も床に顔を叩きつけ、体を反対に向かせて右から左からと激しく殴りつけた。

「地球は貴様の物ではない!」

「世界は儂の物だ!」

 キックを受け、メガトロンから離れる。

 息もつかせぬ攻防と緊張が張り付いて取れない。場も煮詰まってきた所でダークマウントが急に大きく揺れ、オプティマスとメガトロンは何か適当な物にしがみ付こうとした。

『自爆スイッチが押されました。まもなく当施設は爆破します。自爆スイッチが押されました。まもなく当施設は爆破します。』

 館内にアナウンスが繰り返して流された。

「メガトロン、お前の負けだ」

「ディセプティコンに負けはあっても、儂に負けはない!」

 またも腕にダークエネルゴンの結晶が溢れて一本の槍を形成し、投射した。槍をかわしてメガトロンに仕掛けると床に突き刺さった槍は爆発し、更に頂上の床が崩壊を起こした。ダークマウントの内部はボロボロで、パイプが裂けてエネルゴンの溶岩が流れていた。二人が落ちた所は足場が少なく、落ちれば溶岩で溶かされてしまうような危険地帯だ。

「貴様の最後に相応しい場だろう、プライム?」

「お前の最後だ。間違えるな」

 オプティマスが背中のスラスターを展開して直線を高速で突っ込んで来る。メガトロンは高笑いをあげ、暗黒の剣を呼び出した。それを振るい、宙に羽が舞い溶岩に落ちて行った。

 背面のスラスターが爆発し、胸に深い傷を負うと膝をついて傷口を手で押さえた。

「長い間、儂はこの瞬間をずっと待っていた……。お前を殺しさえすればディセプティコンを再び創生し、オートボットを叩きのめせる。」

 暗黒の剣を構えて動けないオプティマスにメガトロンは歩み寄って来る。

「死ねぇ!」

 メガトロンは暗黒の剣を頭上へと持ち上げた。

「まだだぁ!」

 振り下ろされる前、オプティマスは力を振り絞って両手を組んでメガトロンの顎をかち上げた。予想外の力が発揮され、メガトロンの体は弧を描いて飛んだ。オプティマスは足を引きずって起き上がると、足下に砕けたマトリクスセイバーの柄が転がっていた。オプティマスはそれを不思議と拾い上げると強い光が瞬き、折れた筈の剣が再生を始めたのだ。

 甦ったマトリクスセイバーを見てメガトロンは全身から絞り出すように体を震わせ、先ほどの暗黒の剣よりも更に高密度な黒い剣を生成する。

 マトリクスセイバーの一撃を受け止め、メガトロンは踏ん張って持ちこたえる。今までとは違い、明らかにパワーが上昇している。ダークセイバーを持ち直し、気を引き締め、剣を低く構えた。まるで居合いでもするかのような姿勢だ。

 オプティマスは正眼が構えて真っ直ぐに突き進んだ。

「メガトロンッ!」

「オプティマァスッ!」

 ぐいぐいと踏み込み、二人は飛躍しながら剣を薙ぎ、突いた。メガトロンの一刀が胴を切断しようと伸び、吸い込まれるように進む。対してオプティマスの剣は槍の穂先のように伸びメガトロンの胸を貫き、ダークスパークに包まれた邪悪なスパークをそのまま一刺しした。

 メガトロンの剣もオプティマスにある程度切り込まれ、もしも一瞬遅れていたなら結果は変わっていた筈だ。

 胸に突き刺さったマトリクスセイバーをメガトロンは刃を握って引き抜こうとしたが、深く刺さって取れない。

「オプ……ティマス! 儂が……宇宙を……! 支配の先の……平……和を……!」

 敗北と死が目前でもメガトロンは悪鬼のごとき形相で戦意を剥き出しにし、腕を伸ばしてきた。

「さらばだ、我が友……」

 オプティマスはマトリクスセイバーを抜くとメガトロンは前のめりに倒れた。ちょうどダークマウントの自爆が始まり、瓦礫がメガトロンに落ちて来る。空からはジェットファイアーが救援に来てくれた。

 

 ディセプティコンはその日、司令官と幹部を失い、指揮能力のない軍団はオートボットに降伏した。直に散って行ったディセプティコン、オートボットにもこの事は耳に入るだろう。

 

 

 

 

 

 天宮市でのオートボットとディセプティコンの大決戦があってからかれこれ二週間が経過しようとしていた。ASTの復興能力は流石と言え、三日もすれば全ての建築物を元通りにしていた。伊達に精霊や空間震と長年戦ってはいない。

 ディセプティコンを招き入れた張本人、ショーン・バーガーはと言うとあれから法の裁きを受ける事が決まり、現在服役中だ。今回の一件でオートボットには地球への滞在の許可と資源の援助が約束され、オプティマス達はセイバートロンへ戻るつもりだった。

 いつものオートボット基地が懐かしく思える。そう、一番感じていたのはグリムロックだった。

「四糸乃! 何か暇だしバスケットでもして遊ぼうぜ!」

 以前とは違って流暢に話すようになってコミュニケーションが取りやすくなった。

「い、いや……体動かすの……苦手で……」

「しょーがねーな~。狂三――」

「嫌・で・す・わ!」

「ええ~」

「あなた大人げないんですもの! それに汗を流すような事、わたくしには似合いませんわ」

「何だよ何だよ~意地悪言うなよ! せっかく俺達の存在が認められて外を堂々と出られるようになったんだし、グラウンドとか公園で遊びたいんだよ!」

「今日も賑やかで良いな」

 奥の部屋からオプティマスが顔を出した。

「オプティマスか。今後、俺等はどうするんだ? 俺としては地球に残りたいんだが。オプティマスはセイバートロンに帰るんだろ?」

 すらすらと話すグリムロックにまだ慣れないのか狂三は微妙な顔を作ってそれを見ていた。

「復興には手がいる。例え壊し屋のダイノボットでもな。少しの期間、キミ達も来てもらう。スペースブリッジがあれば地球とセイバートロンの距離は大したものじゃない」

「帰るのか~。四糸乃、週五の頻度で地球に帰るからな」

『ほとんどじゃな~い。グリムロック、サボり魔だねぃ!』

「復興……頑張って下さい」

「おう!」

 グリムロックは親指を立ててサインを送った。

 いつもの風景が戻った。

 その夜、オプティマスはいる物といらない物を分けて荷造りに励んでいた。そこへ人間ようのエレベーターが動く音が聴こえて持っていた荷物を置いて出迎える準備をした。ゲートが開いて顔を出したのは士道だった。

「こんばんはオプティマス」

「ああ、こんばんは」

「オプティマス、話が、話があるんだ――」


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