デート・ア・グリムロック   作:三ッ木 鼠

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今回はネタ回です。


47話 クリスマス

 季節は冬、十二月も中旬を過ぎてもうじきクリスマスがやって来る。士道はジャズの中のシートに身を預けてクリスマスの事について考えていた。

「どうしたんだい士道? ずいぶんと深刻な顔をしているね」

「ああ、そろそろクリスマスなんだ」

「クリスマス? ああ! サンタクロースという髭のお爺さんがプレゼントを配り歩くんだろ?」

「そう、それ」

 人間の文化にはオートボットの誰よりも敏感なジャズはクリスマスやサンタクロースという情報は頭に入っている。

「実はさ今朝、十香達にもクリスマスの事を聞かれてさ。プレゼントの事を話たら凄く期待してたんだよ」

「ふむ……。でも何で士道が悩むんだい? プレゼントはサンタクロースが持って来るんだろ?」

「いや……サンタクロースは……」

 ジャズはサンタクロースは本当にいると思っているので士道は口を噤んだ。ジャズにサンタクロースなんていないなど言えなかった。五河邸の前まで来ると基地への隠しゲートが開き、ジャズは基地へ向かう通路へと入って行く。通路を抜けて広間に出るとジャズはトランスフォームした。

「みんな、クリスマスはサンタクロースに何を願うが決めたかい?」

 基地に戻るなりジャズはオートボットの皆に尋ねた。オートボット以外には琴里と令音が来ている。

「そうか、人間にはクリスマスという物があったな」

 オプティマスもクリスマスという物は知っていたらしく、ハッとした顔をして何か欲しい物を考えた。

「オレは新しい重火器でも欲しいぜ! 思い切りぶっ放してぇ!」

 と、ワーパス。

「私はそうだな……皆が健康なら何もいらんよ」

 アイアンハイドは年寄りくさい事を言った。

「私は平和……だな」

 オプティマスの願いに基地内は一瞬にしてクリスマスのムードから一転して暗くなってしまった。クラスメートが言っていたら「臭いこと言うなよ~!」と茶化したり出来たが、オプティマスが言うとかなり現実味が出て来る。

「パ、パーセプターは何かないの?」

 士道は無理矢理、パーセプターに話題を振った。

「クリスマスかい? あんなのは巨大なおもちゃ業界の策略だよ。何億というお金をCMにかけて子供達にサブリミナルメッセージを刷り込んでいるのさ。イベントに合わせて生産者側が効率良く消費者に上手くお金を使ってもらう良い機会だ。メーカーの稼ぎ時に躍らされる世のお父さんお母さんは大変だよ、まったく」

「……」

 また基地内の空気が沈んでしまった。

「ジェ……ジェットファイアーは何か欲しい物は!? 欲しい物!」

「そうだな……」

 ジェットファイアーは何かに思いを馳せるように上を向いて静かな声で呟いた。

「かつての友が戻ってくれれば……ね」

 先ほどまでクリスマスと和気藹々としていたが、今はもう葬式の会場のように暗い雰囲気に包まれてしまった。琴里は精霊達がいなくて良かったとホッとしてソファから立ち上がって手すりに手をついた。

「はいはい、暗い話は禁止ね。精霊達はサンタクロースとクリスマスとメチャクチャ楽しみにしてるんだから」

「間違ってもサンタクロースなんていないなんて言ったらダメだよ」

 付け加えて令音が念を押した。

「しかし、実際にサンタクロースは――」

 パーセプターがまた何か言おうとしたのでワーパスが口を手で押さえて黙らせた。

「パーセプター、サンタクロースはいる。はい、復唱」

「サンタクロースはいる」

「よし、十香や他のみんながクリスマスを楽しみにしてンだ。夢をぶち壊すような事は禁句だぜ」

「な、なあジャズ」

「ん? どうしたの? 流石にサンタクロースの事やクリスマスの企業の事情くらい知っているよ」

 士道は少し安心した。

「でもね。どこかに一人くらいは本物のサンタクロースはいると思うんだ」

 トランスフォーマーやら精霊がいるのだからサンタクロースが今さらひょっこり出て来ても士道は不思議には思わない。

「確かに……」

「士道、クリスマスに備えて十香達が何が欲しいか聞いて来るのよ」

「あ、ああ。任せろ」

 クリスマスを心から喜び、サンタクロースの存在を信じているのは十香、四糸乃、八舞姉妹だ。狂三や七罪、美九は流石に純真な子供のような幻想は持っていない。きっと七罪ならパーセプターと同じような事を口にするだろう。基地を出て、自宅に戻った士道はリビングに真那と十香、四糸乃、耶倶矢に夕弦がいるのを確認した。

「お帰りなさい兄様!」

「シドー! 帰ってたのか」

「遅いではないか、おやつのプリンは我の腹へ堕ちて行ったぞ」

「ただいま。プリンは別に食べて良いよ。それより真那」

 廊下から真那を手招きすると真那は首を傾げて席を立った。

「ちょっと待ってて下せぇ」

 真那は廊下に出るとリビングのドアを閉めた。

「真那、今度クリスマスがあるだろ?」

「ええ、ありますね」

「一つお願いなんだが、十香と四糸乃それに耶倶矢と夕弦にはサンタクロースがいない、とかクリスマスは玩具メーカーの策略だ。とか言わないでくれないか?」

「ふふっ、兄様は十香さん達に夢を守る為に凄く頑張りますね」

「まあな。ちょっとハードル上げちゃったからな」

「ちなみに何を言ったんですか?」

『シドー! シドー!』

 リビングの中から十香が士道を呼ぶ声が響いて来た。士道が顔を出すと――。

「シドー! クリスマスにはサンタクロースが何でもくれるのだな!」

「あぁ~楽しみだなぁ! 何お願いしようかな!」

 テレビにはクリスマスに関するCMがやっており十香と耶倶矢はそれだけでテンションが上がっていた。

「こりゃかなり楽しみにしてますね……」

 これだけ無邪気にクリスマスを喜べる事が真那は羨ましく思えた。

「そうだな、クリスマスまで良い子でいたらプレゼントがもらえるぞ」

 そう言って士道は首を引っ込めてまたドアを閉めた。

「この通りだ真那。十香達の夢をぶち壊すような発言は禁句だ」

「わかりやしたよ、任せて下さい兄様」

「ちなみに真那、お前はサンタさんに何か頼まなくても良いのか?」

「子供扱いしないで下さい」

 真那はそう言ってそっぽを向くとリビングの中に戻って行った。士道も制服から着替えるべく自室へ戻ってから私服に着替えるとリビングのソファに座った。

「はあ……」

 学校も終わって一息吐くとジッと十香達が士道の方を凝視しているので目を丸くするとどうしたのか尋ねた。

「何だ? 俺の顔に何かついてるか?」

「い、いや……あのだなシドー。サンタクロースは何でもプレゼントをくれるのだな?」

「そうだよ、だから手紙を書いたりする子供もいるんだ。寝る前に枕元にメモを書いたりもするな」

「疑問。サンタクロースとはどのような方なのでしょう」

「え……。やさしい長い髭のおじいさんかな」

 実際、サンタクロースのイメージなどそんなものだ。

「士道……さん。サンタさんは……どうやって私たちの所へ……来てくれるんですか?」

 全員にキラキラとした純真な眼差しを向けられて士道は答えた。

「いい子にしていたら……かな」

 

 

 

 

 

 フラクシナスの艦橋にてワイヤリングスーツを着込み、CR-ユニットを装着した神無月恭平はいつになく真剣な眼差しをしていた。肩まである長い髪を邪魔にならないように髪留めで束ねて鋭い眼光はフラクシナスのスクリーンを睨んだ。

「副司令、間もなく作戦領域です」

 中津川は報告した。

「ご武運を副司令」

 川越は神無月の無事の帰投を願い、他のクルーも同じように祈った。

「任せて下さい皆さん。サンタクロース捕縛作戦を開始します! レーダー範囲を最大に! 反応があれば直ぐに報告しなさい!」

「ハッ!」

 神無月恭平、以下フラクシナスのクルーはサンタクロースを捕縛し琴里に本物のサンタクロースを見せてやろうという作戦を考案したのだ。

 琴里のいない時に密かに進められていたサンタクロース捕縛作戦。相手は得体の知れない男、トナカイとソリで武装し、天を翔る頂上の存在だ。何を仕掛けて来るか分からない。フラクシナスは最大の警戒態勢でサンタクロースに挑んだ。そして、サンタクロースの捕縛を引き受けたのは元・自衛隊ASTのトップエース神無月恭平だ。

「サンタクロース……どこです……」

 いつも以上に緊張感を持ちクルー達も飛行物の反応を探していた。小鳥一羽たりとも逃さない気持ちで意気込んだ。サンタクロースは未知の生命体だ。誰もが知っていて誰も見たことがない。

「――!? 副司令! 未確認飛行物体、発見しました!」

 静まり返った艦橋に箕輪の声がこだました。

「解析を急ぎなさい!」

「はい!」

 椎崎や幹本はコンソールを操作して飛行物の外見を読み取り、スクリーンに映した。

「なっ……!?」

 神無月は喜びと共に驚愕した。スクリーンにはそりとそれを引く数匹のトナカイと思しき四足獣、そして大きな人が座っているのが見えた。

「さ……サンタクロース!?」

 驚喜した神無月はフラクシナスをそりに近付けるように命じた。相手は何を仕掛けてくるか分からない以上、近付け過ぎるのは危険と判断した。

「皆さん、後は私がやります! 私がいない今は椎崎、あなたが指揮をして下さい」

「はい、了解しました」

 フラクシナスから一筋の光が流星のごとく夜の空を駆けて行った。恐るべき速さで移動するトナカイとそりに接近した神無月はスラスターを切り、そりの上に立った。

「何者だ。人のそりに無断で乗るのは何者だ」

「ラタトスク機関、副司令官神無月恭平、あなたをサンタクロースとお見受けします」

「左様、わしはサンタクロース。世界の子供達に夢を与える者」

「一緒に来てもらいます」

「断れば?」

「力ずくでも連れて行きます」

 老齢な男は小さくこらえるように笑っていると遂に堪えきれずに声を上げて笑い出した。そりからゆっくりと立ち上がったサンタクロースを神無月は見上げた。背は二メートルを超え、肩幅の広さ、分厚い胸板、大木のように太い肢体に神無月は冷や汗を流した。

 最新鋭の武装で固めているのは神無月だ。対してサンタクロースは丸腰で厚手の赤いコートを着込むのみ。武装の差は歴然、それでも威圧されているのは神無月の方だった。

 右目は失明し、顔の半分には大きな切り傷が残り、頬と頬を横断するように長い縫い痕がある。額には深いシワが何本も刻まれて険しい表情に拍車をかけていた。

 印象的な長く真っ白な髭は胸まで伸びている。サンタクロースというより荒武者と言った方が的確かもしれない。

「もう一度聞こうか、同行を拒めばどうすると?」

「力ずくでも連れて行きます!」

 姿に威圧されたが神無月は恐怖心を泰然と跳ね返した。

「行くぞッ!」

 サンタクロースは上方から拳を打ち下ろすと神無月は身を低く構えてこれをかわし、スラスターを最大出力で噴射してタックルを決めた。まずはそりから落としてやろうと考えた神無月だが、スラスターを噴射して押していた筈がいつの間にか逆に押し返されていた。

「手加減は無用だぞ。若い戦士」

 サンタクロースの手刀を神無月はレーザーブレードで受け止めた。その瞬間、神無月の足下がひび割れ足首までがそりに埋まった。

「ぐっ……! この力はッ!」

 神無月はサンタクロースの手刀を側面から叩いて軌道をズラす。神無月では何もない空間を打った手刀は衝撃でサンタクロースを中心に円形の波が走って行った。ふくらはぎのスラスターの推進力を利用した大加速の蹴りをサンタクロースの足に打つ。

「軽い!」

 神無月の攻撃などものともせずにサンタクロースは振り返る。

「ぐあぁッ!?」

 サンタクロースに蹴りを入れた神無月は突如足を押さえて悶え苦しんだ。

「鋼鉄の壁を叩けば砕けるのは己だろう」

「……! 本当に生身ですか……」

 ドシン、ドシン、と重たい歩みと共にサンタクロースは迫る。

『副司令! 逃げて下さい!』

『死にますよ!』

「黙りなさい……!」

「今なら見逃してやろう神無月恭平、このままやれば死ぬぞ」

 麻酔薬は既に足に投与済み、常人なら立てぬ痛みも消えて神無月の顔に溢れた汗も引いて行く。

「これから幼稚園の子供にプレゼントを配らなくてはならないというのに……」

 サンタクロースは嘆かわしげに首を振る。神無月はレーザーブレードを抜き隙を突いてサンタクロースの胴体を両断しようと試みる。

 レーザーブレードの刃を素手で掴み取りサンタクロースは不適に笑うと神無月のレーザーブレードをへし折った。

「無力」

 傲岸不遜な態度で言い放つ。神無月はミサイルをサンタクロースへ撃ち込んだ。ミサイルは目標へ命中する前に爆発し中から煙幕を撒き散らした。視界を極端に悪くなりサンタクロースは舌打ちをした。

 ゆらりと煙幕の中で何か動くとサンタクロースはその方向に向けて回し蹴りを入れた。しかしサンタクロースの蹴りは空振りした。

 目標を見失ったサンタクロースの背後から神無月が現れると首に腕を絡めて締め上げる。

「強靭な肉体があっても酸素供給を絶てば生けてはいけな――」

 不意を突いた神無月だが、これはサンタクロースに読まれていたらしく、背中にしがみつく神無月の頭部を挟み込むように拳を打ち込まれた。

 目や鼻、耳からも流血して神無月は力が抜けてそりの上に落ちた。

「諦めろ。神無月恭平」

「いいえ……」 神無月はもう一本のレーザーブレードをそりに突き立てた。

「私の主人はサンタクロースを見たいと願っているんです。今年、やっと接触出来ました! 死んでも連れ帰ります!」

「サンタクロースは誰かの物ではない。わしは信じる者の前に現れる」

 大量の出血で意識が鈍り、手に力が入らなくなって来る。止血剤が投与されて血は徐々に収まるが満身創痍なのは変わらない。

「右足完全骨折、肋骨のひび六ヶ所、左腕筋肉断裂、大腿骨にひび1ヶ所、出血多量、脳内出血および両鼓膜の破損。だから何ですか。これが司令から受けた傷ならむしろご褒美だったんですがね」

 重傷も意に介さぬ面もちで神無月はレーザーブレードに持ち得るパワーの全てを注ぎ込んだ。

「何人にもサンタクロースは止められん! プレゼントは必ず届けてみせる!」

 サンタクロースを腕を振り上げる。全身から力強い生命力を漲らすとサンタクロースの元に黒雲が立ち込めた。黒雲から稲光がほとばしり、一筋の(いかづち)がサンタクロースに落ちた。

 右前腕が稲妻に満たされサンタクロースは踏み込み、巨体に似合わなぬ速さで神無月に殴りかかった。

 神無月はレーザーブレードの切っ先を拳をぶつけ、一瞬の拮抗状態が生まれた。拮抗はすぐに崩れ、サンタクロースの前腕が真っ二つに裂けて鮮血が噴き出した。神無月の全身全霊を込めた一撃がサンタクロースの必殺の正拳突きを打ち破ったのだ。

「ッ……まだだぁ!」

 退く事を知らぬサンタクロースは残った左腕を突き出し指先が神無月の肩に突き刺さる。それと全く同じ瞬間にレーザーブレードがサンタクロースの心臓を貫通していたのだ。

 よろめき胸に刺さったブレードを抜き捨てると険しい顔で神無月を見た。

「……名は何といったかな……」

「か、神無月恭平……」

「神無月、貴様に約束しよう。だからわしとも約束しろ」

 サンタクロースの爪先から光となって消えて体の消滅が始まった。

「プレゼントを……わしの代わりに配れ……そうすればわしは来年、必ず会いに来る」

 サンタクロースと共にそりも消滅を始めた。神無月はなんとか立ち上がり、頷いた。

「はい、約束は守ります」

「ははは……約束したぞ。メリークリスマス!」

 サンタクロースの全身が消えた頃には神無月にはプレゼントが入っているであろう袋を受け取った。崩れ行くそりから戻り神無月はフラクシナスに帰投し、約束を果たすべくフラクシナスを走らせた。

 

 

 

 

 皆が寝静まった深夜、士道の戦いは開始される。耳にインカムを装着してサンタクロースの服を着込み、琴里が用意してくれた袋を手に取った。窓から特設マンションの方を覗くとちゃんと部屋の光が消えているのがわかる。“いい子”にするべく今日は早く寝たのであろう。士道は音を立てないようにそろり、そろりと忍び足で玄関までやって来るとどてらを着て琴里が待機していた。

「準備はいいかしら?」

「問題ない」

 外へ出ると琴里は士道にプラスチック製のケースを手渡した。

「入る時はこれを使うのよ」

「了解、ってかピッキングで部屋に入るなんて……妙な罪悪感があるな」

「気にしない気にしない」

 士道は苦笑いを浮かべるとふわりと頬に何か冷たい物が当たり、消えて行った。空を見上げると白い氷の結晶が降って来ている。

「雪……珍しいわね」

「そうだな。もしかしたらサンタからお前へのプレゼントかもな」

「くさいセリフね、そういうのはあの子達に言ってあげなさいよ」

「へへっ、じゃあ琴里、メリークリスマス」

「メリークリスマス」

 マンションのセキュリティーはラタトスク側で全て解決してくれている。深夜だと言うのにエントランスへ入る自動ドアはロックもされずにいた。エントランスを抜けてエレベーターに乗るとまずは十香の部屋を目指した。チン、と到着した音がするとドアが開き士道は廊下を歩いた。表札を確認しつつ十香の部屋の前まで来ると先ほど琴里から手渡されたピッキングセットを床に置いてマニュアルを見ながら細い針を二本鍵穴に突き刺してカチャカチャと静かなマンションの廊下に響かせた。施錠された鍵が外れ、士道はゆっくりと中へ入る。ベッドではきなこパンの抱き枕を抱えて毛布を蹴っ飛ばし、枕も床に落ちた状態で眠る十香の姿があった。

「ったく……風邪ひくぞ」

 士道は落ちた枕を頭の下へ戻し、蹴っ飛ばした毛布を再びかけてやる。そして枕元に置かれたメモを広げてみると――。

『サンタさん、スーパー大きなハンバーグが食べたい』

 十香らしい内容に思わず笑い、琴里にプレゼントの内容を報告した。

「十香はメチャクチャ大きなハンバーグが食べたいらしいぞ」

『OK、今食材を送るわ』

 グランドブリッジを使って食材が転送されてくると士道はすぐにハンバーグの調理を始めた。直径六〇センチの巨大なハンバーグを完成させると士道は保温用の容器にハンバーグを入れて部屋を出て行った。

 次の相手は四糸乃だ。マニュアル片手にピッキングで開錠して士道は中に入ると枕元の置いてあるメモを拾って中を開いた。

『可愛い帽子が欲しいです』

『新しいお洋服が良いな~士道くん!』

 よしのんはサンタの正体に気づいているらしい。ポリポリと頬をかいて士道は四糸乃達の願いを琴里に言うとすぐに転送されて来た。枕元にプレゼントを置いてやり二件目もすんなりとクリアして廊下に出てくると屋上からぶら下がったジャズが顔を出した。

「こんばんは士道」

「お!? ジャズ? 何してるんだよ」

「オートボットもプレゼント大作戦を決行中なんだ。ジャズが指先で下を差すと士道は手すりから顔を覗かせて下を見ると超巨大なダンプトラックと比肩するそりにオプティマスが座り、それをダイノボット達が牽引しているのだ。

「オォウ……」

「今、アイアンハイドが十香の部屋にプレゼントを届けている筈さ」

「ちなみにプレゼントの中身は?」

「エネルゴンソーセージ」

「腹壊すぞ!」

「ワーパスが四糸乃に所に確か……服だか鎧だかを届けたって言ってたな」

「鎧……って」

「次はどこへ行くんだい?」

「耶倶矢と夕弦だ」

 ジャズはジェットファイアーに連絡を取った。

「こちらジャズ、次は耶倶矢と夕弦だジェットファイアー」

『了解した。でもあの子達はまだ眠っていないようだよ』

 ジェットファイアーの報告を聞いて士道は頭を抱えた。大方、サンタの正体を見破ろうと起きているのだろう。ジェットファイアーに乗り込み士道は玄関からではなくベランダからの侵入を試みた。ベランダに上手く着地するとカーテンの隙間から居間でFPS系のゲームをやっている二人の姿が見えた。居間の隣の寝室へ移り、グランドブリッジで室内へ転送してもらい誰もいない寝室のベッドの枕にあるメモを開いた。耶倶矢はアクセサリー、夕弦はデジタルカメラと書いていた。

「ふむ、アクセサリーか……」

 ジェットファイアーは胸の中に格納していた物を取り出す。きらきらと宝石のように光るアクセサリーをペンダントに加工されており、士道はそれが何の石なのかは分からなかった。

「それは?」

「火星の石だよ。それと……」

 またジェットファイアーが胸のハッチを開けて何かを出した。取り出したのはデジタルカメラである。

「用意周到だな」

「まあね」

 寝室の外から耶倶矢と夕弦の声が聞こえた。

「何かさっきから寝室から変な音しない?」

「推察、きっとサンタです」

「よーし、捕まえるぞ!」

 士道は慌ててジェットファイアーに乗ってその場を後にした。

 

 

 

 残すのは後は美九、七罪、狂三だ。士道はすぐには部屋へは向かわずに待機を命じられていた。三人の願いは偵察のプロであるジャズが見に行っている。願い事が書かれたメモを回収して直に戻ってくるだろう。

「士道、ただいま」

「おかえりジャズ」

「はい、これ」

 三枚のメモを受け取るとまずは美九のメモに目を通す。

『ヤンデレすぎるだーりんCD。ツンデレすぎるだーりんCD。クーデレすぎるだーりんCD以上三種! だーりんの女装姿のブロマイド!』

「…………琴里、女性物の服と録音機を頼む」

「ハハッ、士道も大変だね」

 準備が出来るまでの間に七罪の願いを見てみると“化粧セット”と殴り書きされてある。相当書く事を躊躇っていたのかがよく分かる。続いて狂三の願いだが、メモには何も書かれていなかった。

「ん? 何も書いてないね」

「そうだな……いや、待てよ……」

 士道はメモを月明かりに照らしてみせるとメモに見えない塗料で書かれた文字が浮かび上がり、そこにはかなり小さな文字で“ペット”と書いてある。

「ペットか。琴里、ペットだってさ」

『わかったわ、狂三ならきっと子猫でしょう。餌やケージとかも用意しておくわ』

「助かる」

 その後、士道は恥ずかしい思いの中女装姿での撮影とアフレコを済ませて自宅へ帰った。サンタの服を脱いで士道は琴里の部屋に入るとそっと密かに用意しておいたプレゼントを置いておいた。そして、真那の部屋へ忍び込むとベッドで眠る実妹の姿がある。真那にも用意しておいたプレゼントを置くと既に真那の枕元には一つの小包が置いてある。誰からの物かは一目でわかった、封にオートボットマークのシールが張ってあったからだ。

 プレゼント作戦を終了した時には深夜の三時を回っており、士道が自室に帰ると小包が届いていた。

「オプティマス達、俺にまで……」

 士道が笑いながらプレゼントの箱を見回すとオートボットのマークがどこにもない。

「あれ……?」

 よくよく見れば包装も丁寧でさっき真那の部屋にあったような物ではなく、クリスマスらしい包装とリボンが施されていた。

「誰だろ……」

 中を開けるとマフラーが入っていた。マフラーが欲しいなど誰にも言った覚えはなかった。

「まさか……な」

 サンタが本当にいるはずないと言い聞かせて士道は床に就いた。


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