プレダコンの研究所が破壊されたと知ってメガトロンは憤慨して壁を叩いた。貴重な戦力を削がれて今まで費やした時間と苦労があっさりと無駄になったのだ。怒るメガトロンにコンバッティコン。しかし、深呼吸をして冷静さを戻すとメガトロンは、納得のいかない点があった。
「メガトロン様、オートボットの連中に負けっぱなしは気持ちが収まりません。しっかりと報復を!」
「待たんかオンスロート」
エネルゴン反応遮断機を使っていたのは確かだ。けれどオートボットに位置を特定されてしまったそこが納得がいかない点だ。
「メガトロン様? どうしたんです難しい顔して」
「プレダコンの研究所を襲撃したのは本当にオートボットか。それを考えておった」
「そんなのオートボット以外にありえませんぜ!」
ブロウルもオートボットだと思っているようだ。メガトロンはジッと黙り込むとサウンドウェーブにグランドブリッジを開くように命令した。
「どこへ行くんですかメガトロン様!」
「確かめたい事がある」
「一緒に行きます」
メガトロンはオンスロートを引き連れてあのプレダコン研究所に移送された。グランドブリッジを抜けてかつては洞窟としてカモフラージュされていた研究所の外観は酷い有り様だ。グリムロックとプレダキングがかち合い、地面や岩肌が溶けたり、深く陥没して戦争でもあったのかという惨状だ。
「よくもまあ、あれだけ暴れられるものですね」
「洞窟が崩れて入れんな、他のコンバッティコンも呼べ」
「はい! コンバッティコン、メガトロン様がお呼びだ。早く来い」
気だるそうな返事が聞こえたかと思うとグランドブリッジが直ぐに開き、ブロウル、スィンドル、ボルテックス、ブレストオフが横に並んで出て来た。
「コンバッティコン、この瓦礫を撤去しろ」
「はい!」
全員がハッキリと返事をして作業に取りかかる。ボルテックスとブレストオフは終始ぶつぶつと文句を言っていた。
「あーあ、何で久しぶりの出番で瓦礫撤去なのかね」
「だよな、もっと派手にやり合いたいよな。こんな地味な作業は向いてねぇよ」
「ボルテックス、ブレストオフ! 愚痴ってないで手を動かせ手を!」
オンスロートに叱られて二人は渋々黙って竹箒で砂利を払ったり大きな岩を持ち上げた。
「オレの砲弾でぶっ飛ばすのはどうだ?」
「元々、研究所があった場所だからな。爆発と同時に何かに引火したら大変だ許可出来ない」
「オンスロート、どこまで片付ければ良いんだ?」
「なあオンスロート、運んだ岩はどこに置いておく?」
「オンスロート! 何か研究所らしい目印ってあるのか?」
「うるさいなお前等! 少し待ってろ! 俺も一度に指示出来ないからな!」
作業が一向に進まないコンバッティコンにうんざりしながらメガトロンも瓦礫撤去を手伝っていた。
「コンバッティコン、ブルーティカスに合体しろ。そして早くこの落石をどけるのだ!」
メガトロンから命令が下り、コンバッティコンはブルーティカスへ合体を始める。スィンドル、ブロウルが両足を形成し、胴体を担うオンスロートと接続される。ブレストオフが右腕、ボルテックスが左腕を担い、最後に頭部が現れた。二つの眼が光り、ブルーティカスは完成すると同時に腕を薙払い、平均的なトランスフォーマーくらいはある大岩を蹴散らし、さっきとは別格の働きっぷりを見せる。ブルーティカスになってから仕事は早く、岩の中からプレダコンが入っていたカプセルの破片が見つかった。
「よし、もうよい!」
ブルーティカスを止めさせてメガトロンはカプセルの破片を拾うと付着していた培養液がポタポタと滴り落ちた。もう少し掘り起こしてみればバラバラになった機材やカプセル以外の破片も見つかった。
――やはり、オートボットなのか。
そう決めようとした時だ。メガトロンは破片の中にある違和感を見逃さなかった。粉々で元が何かすらも分からない砂のように小さな欠片をつまみ上げた。ブルーティカスは合体を解除してメガトロンが険しい顔つきで睨んでいる欠片に集まった。
「何ですそれ?」
「爆弾の欠片だ」
「爆弾? じゃあやっぱりここを爆破したのはオートボットのヤローか!」
「いや……これはディセプティコン製だ」
「えっ……!?」
メガトロンの言葉に一同が驚きの声を漏らした。
「ディセプティコン製の爆弾など持っている奴はそう多くありませんね」
もっと手がかりはないかとコンバッティコンが掘って行くと次はディセプティコンの兵士の死体が見つかった。傷口の大きさや切断面、体に残った銃弾から犯人を割り出した。
「メガトロン様、もう犯人は分かりましたね」
怒りが一瞬にして頂点に達したメガトロンは適当に転がっていた岩を叩き潰して感情を表現した。
「スタースクリーム……! 今度という今度は奴を八つ裂きにしても飽き足りんぞ!」
「スタースクリームには散々邪魔されましたね。セイバートロンでの礼もしてやらなくては」
今まで多目に見ていたメガトロンが遂に我慢の限界を迎えた。
「これまで儂も我慢に我慢を重ねて来たがもう今日という今日は我慢出来んぞ!」
早速、スタースクリームを探し出してやろうと海底基地に帰還したメガトロンは、ブリッジに立ち、サウンドウェーブにスタースクリームの捜索に取りかからせた。
世界中の監視カメラやネットワークをハッキングしてでもあの裏切り者を捕まえようと言うのだ。
「サウンドウェーブ、出来るだけ早く見つけろ!」
「了解シタ、それとメガトロン様。以前、スタースクリームが我々ニ見せた、ゼータプライムのメッセージノ暗号が、解読デキタ」
スタースクリームがディセプティコンに復帰の条件と同時に見せたゼータプライムのメッセージ、しかしあれはオートボットの言葉に暗号化されており、途中から内容を知れなかったのだ。その暗号が最近、サウンドウェーブの手によってようやく解読されたのだ。
「お、本当か! だが今はそれよりもスタースクリームだ!」
スタースクリームを懲らしめる事で頭がいっぱいのメガトロンがもう少し冷静になるまで待とうと判断し、サウンドウェーブはハッキングを始めた。
だが、この時何者からメッセージを受信したのだ。
「メガトロン様、メッセージデス」
「開けろ」
『よぉメガトロン! 俺様のプレダコン研究所の爆破のプレゼントは届いたかよぉ!? アッハッハ! 俺様を処刑したくてたまらねえンだろ? メガトロン、俺様と勝負しろ! 一対一だ! セイバートロンの掟に則ってだ。負けた方は暗黒の宇宙に消えて己を破壊する! どうだ! 座標はどうせサウンドウェーブが逆探知してるから分かるだろぉ?』
「スタースクリーム、儂の怒りに遂に触れてしまったのだ。その報いは絶対に受けさせてやる」
『ハッハッハー! メガトロン! そろそろ新旧交代の時期だ! それにテメェは俺様の軍団を人間とバカにしてやがるが、痛い目を見る事になるぜ! あばよ!』
スタースクリームからのメッセージはそれだけであった。
「おのれ愚か者めが! よしよし、良いだろう! 儂等の
メガトロンのかけ声と共にサウンドウェーブやコンバッティコン、後からプレダキングも出撃した。スタースクリームという最悪の反逆者に制裁を加える。サウンドウェーブを省いて、スタースクリームに礼をしなくてはもう収まらない。
スタースクリームに作戦を伝えられて待機しておくようにと指令を受けたエレンにアーカビル。本来ならアーカビルのような非戦闘員が前線に出るべきではないが、アーカビルはいつも白衣、それにサングラスをかけていた。アサルトライフルらしき改造銃を抱えている。エレンの方は既にペンドラゴンを展開している。二人が待機しているのは深い森が広がり、ポツンと森の真ん中に広場がある。木々を押して盛り上がった岩山が森からは何ヶ所か見えた。スタースクリームは単独で任務を、サイラスも武装を取りに行くと言い消えた。
エレンもアーカビルも作戦は聞いているが、今までのスタースクリームのおこないを見ていると成功するとは思えなかった。
「大丈夫ですかね?」
「……わからん。じゃがスタースクリームを信じるしかあるまい。せめてサイラスが到着するまで保たなくてはな」
「ええ……」
ディセプティコンの到着を待っているとエレンは空の向こうから飛来する機影を見つけた。
「アーカビル、あれを!」
飛行物は見る見るうちに近付いて来る。それがメガトロン率いるディセプティコンだと分かるまでに大した時間はかからない。
「ディセプティコン、降下、降下しろぉ!」
メガトロンのかけ声と共に軍団は着地した。
「スタースクリームはどこだそこの人間、怪我をしたくなければ下がるが良い。命は取らん」
「残念ながらこちらも退く気はありませんよ。初めましてメガトロン」
「様をつけんか、小娘」
エレンはメガトロンを見下ろした。軍団の首領としての風格を醸し出すメガトロンとその背後に並ぶ幹部クラス、そして百人以上のディセプティコンの兵士が控えている。
「一つ、質問に答えろ。スタースクリームはどこだ。隠れているなら出てこい!」
「スタースクリームはここには居ませんよ」
「何……? やはりあの腰抜けめ……セイバートロンの掟とぬかしておきながら人間に任せるとは……!」
メガトロンはエレンに背を向けて軍団に退却を命じた。
「ディセプティコン、引き上げるぞ!」
「どこへ行く気です? ディセプティコンの破壊大帝が逃げるのですか?」
と、エレンは挑発した。
「人間に用はない。儂等はスタースクリームに用がある」
「スタースクリームの計画はあなたがたを殲滅する事。メガトロン、あなたにはここで死んでもらいます!」
エレンが手を上げると地面からくたびれた腕が這い出したかと思うと土を払いのけながらテラーコン軍団が姿を見せた。その瞬間、ディセプティコンは発砲を始めた。
それだけではない、森に隠れていたメックの部隊も攻撃を仕掛けたのだ。
「ディセプティコン、応戦しろ!」
メガトロンは叫び、フュージョンカノン砲をテラーコンに見舞った。脆い体のテラーコンは簡単に破壊出来る。
「儂等も行くぞエレン!」
アーカビルは岩山を滑りながらアサルトライフルで狙い、ディセプティコンの頭を狙撃した。弾丸は爆発し、兵士は一撃で倒れた。
「よし、まずは一人!」
年に似合わぬ動きで先陣を切るアーカビルに続いてエレンは盾を展開して魔力槍を撃ち込んだ。メガトロンのフュージョンカノン砲のエネルギー弾と激突し、大爆発を引き起こして森の木々がうねる。
「ランボル、レーザービーク、イジェ~クト」
サウンドウェーブが二人のカセットロボットを射出、レーザービークは空中を飛ぶエレンを追従した。
「ブレストオフ、ボルテックス、あの女を迎撃しろ!」
「おう!」
「任せろ!」
ボルテックスの衝撃波アタックが炸裂し空間を震わせた。強力な衝撃波を受けてエレンがバランスを崩すとブレストオフは照準を全てエレンにロック、六発のミサイルが白い軌跡を描いて真っ直ぐ飛んでいく。
ミサイルを剣で切り落とし、防ぎきれない分は盾を防いだ。ブレストオフのミサイルに気がいっているとレーザービークのブラスターが背中に被弾した。
「ちっ……! デカい割に素早い、それに連携も出来ている!」
「おうおう、そんなモンかよ世界最強の人間ってのは! 風使いの双子の方がまだ骨があるぜ!」
ブレストオフのそんな一言にエレンは腹を立てた。チャージが終了したボルテックスは再び衝撃波アタックを放ち、今度こそ仕留めるつもりで撃った。エレンは衝撃波より早い反応で剣にエネルギーを溜め、ボルテックスの衝撃波アタックを真っ向から斬って落とした。
「私を舐めないでもらえますか、ディセプティコン。世界最強を倒したいならせめてオメガスプリームクラスを連れて来て下さい」
「減らず口が……!」
苛烈な空中戦と地上戦が繰り広げられていた。形勢は圧倒的な程にディセプティコンが有利だ。プレダキングがいる、合体すればブルーティカスもいる。テラーコン、メックの兵士では相手も出来ない。
海底基地とトリプティコンの防衛を勤めるショックウェーブは息抜きとしてグリムロックの改造に取りかかっていた。ショックウェーブの研究所からグリムロックの叫び声が響いて来、その周辺にはディセプティコンの兵士は近付こうとはしなかった。何故なら、前のようにグリムロックが暴れ出してしまっては手がつけられないからだ。
「素晴らしい……!」
ショックウェーブは感嘆の声を上げた。
「レッドエネルゴン……これほどとは」
今まではグリムロックの知能の分を攻撃性に向けてパワーアップを図った。レッドエネルゴンは当人の持つ特徴をより劇的に尖らせる。攻撃力に特化したグリムロックを更に攻撃的に伸ばす事に成功した。
ただ投与するだけではレッドエネルゴン切れを起こすが、体を流れるエネルゴンを全てレッドエネルゴンに変換されたグリムロックは常に攻撃的で有り得ない力を発揮する。
「さて……この攻撃性は危険極まりないな」
「ショックウェーブ、殺す! 殺してやる! これを外せぇ! 殺してやる!」
「ふぅん……。キミは私を殺す前に処分する。レッドエネルゴンの有用性も分かった事だ。次の実験に移ろうか」
また何やら大掛かりなセットを持ち出す。グリムロックの方へ向けて三つの砲口が向けられた。耐久力の実験かとグリムロックは身構えた。
「そう構えなくても良い、痛くはない」
ショックウェーブがレバーを下ろすと砲口からエネルギーの奔流がグリムロックをたちまち包み込んでしまった。
「ぐ……ウオオオッ!」
エネルギーを払おうと暴れるが両腕の拘束具は外れない。エネルギー波が体にまとわり付き、グリムロックは悶える。
その時である。
グリムロックは拘束具を引きちぎり、機械を破壊するとショックウェーブ目掛けて突っ込み、拳を振り上げた。ショックウェーブは防御姿勢を取ってグリムロックのストレートを受け止めようとする。
当然、防げる筈が無い。唐突に暴れ出したグリムロックに出来る事はそれくらいだった。
破壊的なストレートが腕を折り、鉄のひしゃげる音と共にショックウェーブの腹をえぐる筈だった。しかし、グリムロックの腕はショックウェーブには届かず、寸前で止まっていたのだ。
「失礼、ショックウェーブ」
声、口調の穏やかさ、それらがいつものグリムロックとはまるで別人であった。ショックウェーブは恐る恐る、防御を解いてそびえ立つ巨躯を見上げる。グリムロックの赤いカラーリングが濃い紫色へと変食している。
グリムロックは手を差し出してショックウェーブを立たせた。
「どうかしましたか、ショックウェーブ。僕の顔に何かついていますかね?」
「グリムロック? 本当にキミかい?」
「マスター、噛んで含めるように説明しなければならないとは困りますな。僕はグリムロック、ディセプティコンに仕える戦士、あなたは僕を作り上げたマスターですよ」
ショックウェーブの実験は大成功だった。あの乱暴者が穏やかで紳士的、しっかりと言葉を話せるようになったのだ。荒々しく今にも獲物に飛びつかんとする猛獣の気配が消えてなくなったのは不思議だが、大人しく、理知的になったのならまだ扱いやすい。
「よろしい、ではキミは私の手伝いをしてもらおうかな」
「トリプティコン計画ですね? トランスフォーム不可能になった戦艦ネメシスをもう一度、トリプティコンとして蘇らせる作戦。成功すれば対オメガスプリームとして切り札になりますね。で・す・がエネルギー面で大きな問題を抱えているのでしょう?」
「その通りだ」
実験室を出てグリムロックとショックウェーブは並んで歩きながら話を進める。
「マスターの知識と私の計算ではレッドエネルゴンをもっと増やして体に循環させなくてはいけませんね。何せこの巨体ですから」
あの頭が弱いグリムロックとはまるで別人、ショックウェーブと比肩する知識を得たグリムロックは進んでトリプティコンを手伝った。
グリムロックが計算した通り、レッドエネルゴンをエネルゴンの代わりにトリプティコンの体内に流す事で徐々に意識と体を取り戻しつつあった。
「いやはや、キミの頭脳には感心するよまったく。キミの活躍によってトリプティコンの目覚めはもう一息となった」
「マスター、僕の計算なら当然の結果です。あなたのイマイチな頭脳とは出来が違います」
単眼をピカピカと点滅させてショックウェーブは苛立ちを表現した。ついさっきまで殆ど喋れもしなかった恐竜ロボに頭脳をバカにされて腹が立たないわけがない。
「キミにここまでしてもらったんだ。後は私がやろう」
「わかりました、マスター。では僕はここのみんなに挨拶と早く慣れるように基地を見回ります」
「そうしてくれ」
部屋を後にしてグリムロックはトリプティコンの内部を歩き出す。流石は戦艦として使われていただけあって広さはグリムロックの予想外だ。スタースクリームを討つべく兵士は殆ど出払っているので艦内には少数の戦闘員と雑務をこなす大勢の非戦闘員しかいない。
「ここがキッチンか、ネメシスはなかなか充実した設備だな。ふむふむ」
キッチンの中では料理の担当をするディセプティコンの兵士が大鍋の前に立ち、お玉を鍋に突っ込んでクルクルとかき混ぜている。グリムロックは笑顔を作り、キッチンへ足を踏み入れると料理担当の兵士に労いの言葉を投げかけながら歩み寄った。
「料理、ご苦労様です」
「ああ、そんな言葉かけてくれるのはあんた――グリムロック!? た、助けてぇ!」
「落ち着いて下さい。僕はディセプティコンの戦士ですよ」
グリムロックの口調がいつもと違うのはすぐに分かった。こんな知性的で穏やかな話し方は以前のグリムロックなら絶対にしない。それに体のカラーリングを見てみればグリムロックはディセプティコンのような深い紫色、おまけに胸にはディセプティコンのエンブレムが刻まれている。
「でぃ……ディセプティコン? 本当にディセプティコンなのか?」
「ええ、僕はディセプティコン。あなた達の仲間ですよ」
粗暴なグリムロックなら既に掴みかかって鍋の中に押し込まれていただろう。しかし、それをしない所を見ると少し信用が出来る気がした。
「まあ、労いの言葉ありがとうな」
「いえいえ、料理担当とは必要で素晴らしい仕事です。戦うだけが軍団ではありませんから」
兵士は目からオイルを流した。
「ううっ……わかってくれるかグリムロック。ありがとよ、ディセプティコンの奴等、オレが料理担当で戦場へ行かない臆病者って言いやがんだよ! 兵士の飯作りがどれだけ大変か知らねえんだ!」
「それはそれは、かわいそうに……。大変な苦労をされたでしょうに」
グリムロックは兵士の肩を両手でしっかりと握った。そして持ち上げる。
「え……? 何すんの?」
「この苦しみから解放してあげます」
「えっ……?」
グリムロックは持ち上げた兵士をそのまま煮えたぎる大鍋へと頭から押し込んだ。
「ギィヤァァァァァァァッ!?」
体を二つに折ってから鍋に沈め、悲鳴が聞こえないようにグリムロックはフタをしてキッチンを出て行った。
例の過去へのタイムスリップ事件から亜衣、麻衣、美衣と殿町はどこか浮かれた雰囲気が漂っていた。トランスフォーマーについては他言はしていないようだし、士道はそれだけで安心した。
「やあ、五河くん。最近のオプちゃんどうしてる?」
「オプティマスの事だよな?」
「そうだよオプちゃんの事!」
「あれから見かけないよねー」
「ジャズっちも見ないし二人とも元気してるのかな~?」
何やら愛称が出来ているらしい。
「まあ……二人とも元気してるよ」
オプティマスやジャズの事よりも士道は行方知れずになったグリムロックが気になってしょうがない。
十香、折紙、アイアンハイド、ワーパスを助けるべくプレダキングに挑んだグリムロックが帰還しないとは十中八九、プレダキングに敗れたと考えるのが普通だ。しかし、パワーアップをしたグリムロックを破るプレダキング。短時間とは言え士道もプレダキングと戦った事はある。
ショックウェーブの改造を受けて、大量のエネルゴンを吸収して、まだ勝てない。士道はにやはり、信じられない。
「シドー、昼餉にしよう!」
ボーっとしていた士道の机に十香が机を合わせて来た。
「あら、ごめんね十香ちゃん。五河くんとの昼ご飯の邪魔しちゃ悪いしね!」
「良い昼ご飯を!」
「永久に幸あれ!」
十香の邪魔をしないように亜衣等はすぐに身を引いて自分の席へと戻って行った。
「なあシドー、グリムロックはまだ見つからないのか?」
「そうみたいだな、四糸乃も心配しているし早く見つけるか、戻って来て欲しいんだがな」
「士道、お昼を食べよう」
士道の反対側の机を折紙が寄せた。
「ああ、一緒に食べようか」
「グリムロックの所在はまだ分からない?」
「何でみんな、俺に聞くんだよ。まだ分からないよ。パーセプターがテレトラン1とにらめっこしているから何かあったらすぐに分かるんじゃないか?」
二人とも自身を守ってくれたグリムロックが帰って来ないので随分と心配してくれていた。
「士道、士道!」
窓の方から小さな声で士道を呼ぶ声がした。十香や折紙も窓に目を向けると、ジャズが学校の壁に掴まって頭だけ出して士道を呼んでいる。
「ジャズ……! 何してるんだよ!」
士道は小声で叫んだ。
「急用でやがります兄様、グリムロックらしき反応が見つかったそうでいやがります」
「グリムロックの?」
「とにかく、来てくれ」
士道は教室を見渡してから殿町の席に『早退するから』と書き置きをしてから窓から飛び出してジャズに飛び乗った。
士道達が窓から飛び出す瞬間に隣の教室の外から八舞姉妹も同じように窓から飛び降りているのが見えた。耶倶矢と夕弦は空から伸びるハシゴに掴まってそのままどんどん上空へと昇って行く。
ハシゴの回収先にはジェットファイアーがいた。
「かか、士道よ。我等は先に帰るぞ!」
「警告。耶倶矢、早く登って下さい。パンツ丸見えです」
「ちょっと、見んなし!」
「耶倶矢、私も人目を忍ぶ身だから早く乗って欲しいんだが……」
「うぅ……ごめん」
「感嘆。ヘコむ耶倶矢も可愛いです!」
スカートの裾を気にしながら耶倶矢はジェットファイアーの操縦席へ夕弦が後部座席へ座った。ジェットエンジンが点火、青い炎が噴き上げ、同時に耳をふさぎたくなるような音が学園に響き渡り、生徒が窓から顔を出した時にはジェットファイアーは肉眼では見えない地点まで上昇していた。
他の皆を乗せたジャズは既に発進して姿を見られる心配はなかった。
早めに学校を切り上げて基地へ戻って来た士道達を見てオプティマスは目を丸くした。
「士道、それにみんな学校はどうしたんだ?」
「え……? オプティマスの指令じゃないの?」
「何の事だ?」
「ジャズとジェットファイアーがグリムロックが見つかったからって迎えに来たんだよ」
「私は学業に支障をきたすような命令はしない。君達は学生だ」
「指摘。耶倶矢は勉強がサボれて良かったと考えているのでは?」
「ギクッ……。かっかっか、そんな筈がある訳ないぞ! 完璧にして至高の存在である我が勉学など怖い筈ないわ!」
強気な発言の割に声が震えていたのは誰も指摘しなかった。したら泣いてしまいそうだからだ。
「すいません、オプティマス」
「グリムロックの反応が見つかった事を知らせるだけのつもりでしたが、つい。耶倶矢と夕弦の勉強は私が責任を持って教えます」
「あ、あのジェットファイアー! そんなに無理しなくても良いし! ね? ね?」
「耶倶矢は勉強が足りないならもっとしなきゃダメだぞ!」
「十香にだけは言われたくねーし!」
「はいはい、もうそれくらいにしてオプティマスの話を聞こう」
耶倶矢と十香を宥めてやり話の軌道を修正した。
「では話を進めるぞ。グリムロックの反応はだが、どうしてか海中から出ている。しかもその反応は移動している」
「反応の行き先はどこに向かっているんだ?」
「ここだよ」
パーセプターが予想目的地を点滅させた。その目的地とはメガトロンとエレン等が交戦している地域だ。オートボットは連中が交戦中など知るよしもない
「グリムロックが護送されている可能性を考えて、我々はここで待ち伏せしてディセプティコンを叩く! オートボット、出動だ!」
オプティマスのかけ声を合図にビークルへトランスフォームし、士道と真那はジャズへ十香はアイアンハイドに折紙はワーパスに搭乗した。耶倶矢と夕弦はいつものようにジェットファイアーに乗り込む。全員の準備が完了すると、グランドブリッジが開き、オートボットは出動した。
トリプティコンの内部を悠々と闊歩するグリムロックの手には真っ二つに引き裂かれた無惨な姿と化した兵士がぶら下がっている。ゴミのように投げ捨ててグリムロックはまた別のディセプティコンの兵士を見つけると柔和な笑顔で迫った。
「お勤めお疲れ様です」
「ああグリムロック。そういえば、見張り役の連中を見てないか?」
「見ましたよ。すぐに合わせてあげます」
「え? どういう……」
グリムロックの腕が兵士の腹を貫く。
「ウッ……!? グリムロック……何でぇ……!」
「間抜けな兵士ですね」
剣を抜き兵士の頭は宙を飛んで地面を転がった。
「ある程度は排除したか。次はショックウェーブと取れば、僕がこのディセプティコンを支配出来る!」
グリムロックは笑い、ショックウェーブのいる研究室を目指した。兵士とすれ違う度に手刀で兵士の頭を潰して股までへこませる。またある者は五体を引きちぎられるなど、静かながらグリムロックは残虐な本能のままに暴れまわっていた。
音もない暗殺者のように静かで、猛々しい狂戦士のように力強く、高名な科学者のような頭脳を持つグリムロックはあっと言う間に研究室のドアの前まで来ていた。
恐竜狂戦士の後ろには砕かれたディセプティコンの死体が延々と並んでいる。
グリムロックは研究室の分厚いドアを引きちぎり中へ入る。
「――!?」
研究室の中にはショックウェーブはいない。
「ショックウェーブ、どこへ行った!?」
逃げたのだと思いショックウェーブを探そうと室内を見渡した。突然、どこからともなくフープが飛んで来るとグリムロックの両足から腕、胴体を締め上げた。
「また私が同じミスをすると思ったのかい? キミが賢くなったのは予想もしなかった。だが、反乱は警戒して正解だったようだね」
電磁フープを引きちぎろうと暴れてみるが、グリムロックの凶悪な力を以てしても解除するのは困難であった。ショックウェーブは淡々とグリムロックを足で転がしてどけると顔面に左のレーザーキャノンを突き付けた。
「キミは処分だグリムロック」
ショックウェーブは感情のない単眼で見下ろして砲口にエネルギーを圧縮して行く。
エネルギーの充填が済むとショックウェーブは突如、横から見えない何かに殴られた。レーザーキャノンは明後日の方へと飛んでいき、足がもつれるショックウェーブに追い討ちをかけるようにボディーブローが打ち込まれた。何もない筈の空間からスタースクリームが現れるとショックウェーブはうろたえながらも反撃に移る。
剣を腕から伸ばしながら縦に斬りつけるショックウェーブを軽く避け、至近距離からのナルビームでショックウェーブを麻痺させた。
「手こずらせやがって」
スタースクリームはショックウェーブを足でどけると研究室のコンピューターをいじり、トリプティコン計画の進行度合いを調べた。
「よし、このトリプティコンはボディが殆ど戻ってやがる。後はパーソナルコンポーネントにエネルゴンを流し込めば……」
カタカタとキーを打ち、操作する。
「やったぜ、ベイベー! これでトリプティコンは復活だッ!」
歓喜の声を上げるとスタースクリームは急に揺れる船内にたじろいだ。戦艦ネメシスは本来の姿に戻ろうとしているのだ。巨大な宇宙戦艦は、体を大きく変形させ、細部は小さな変形がいくつも重なり、強靭な両足、小さな腕、山のようにどっしりとした不動の胴体、恐竜のような動物的な顔を取り戻した。深海に眠るトリプティコンが海を割って現れる。
「オレを眠りから覚ましたのは……誰だ……!」
野太く低い声が船内や外に響き渡った。
スタースクリームは不適に笑うと電磁フープで拘束されたグリムロックをナルビームで眠らせてからトリプティコンの口を通って外へ出た。
「よお、久しぶりだなトリプティコン。俺は航空参謀スタースクリームだ」
「スタースクリーム……? あの臆病なナンバートゥーか」
「まあな、でも元ナンバー2だ。メガトロンを倒し、俺がディセプティコンを率いるのさ。その為にはトリプティコン、お前の力を貸してくれ。メガトロンにあんな居心地の悪い姿にされたんだ。テメェも腹が立つだろ?」
「メガトロン……メガトロン……。ウォォォォッ! 俺はメガトロンを許さない! 俺をあんな姿に閉じ込めたメガトロン!」
トリプティコンはかなり根に持っているらしい。そうなればトリプティコンを抱き込むのは難しくない。
「俺もメガトロンに恨みがある。一緒に奴を倒そう! 俺とお前でディセプティコンを支配するんだ!」
「やってやる! やってやるぞ!」
トリプティコンは足と背中から巨大なスラスターを展開するとゆっくりと飛び上がり、スタースクリームの後を追った。
戦いはなおも続いていた。
テラーコンの部隊が全滅寸前にまで追い込まれた所でサイラスが率いるメックの本隊が救援に来たのだ。武装ヘリから飛び降りたサイラスはメガトロンの姿を見て、ピクピクっと青筋を立てた。
「メガトロン……!」
サイラスは鋭い眼光で睨み、メガトロンは堂々とした態度で見下ろした。
「何者だ人間」
「貴様は知らないだろう。だが、私は知っている。忌々しいディセプティコン!」
サイラスの腕と足、そこには細いリングが装着されている。リングが素早く点滅すると先ほどまでサイラスが搭乗していた武装ヘリが細かく分解された。それはエレンの量子化と酷似しており、細分化されたヘリはサイラスの体にまとわり付き、鋼鉄の五体を手に入れた。
プロペラが背中で折りたたまれ、左の手首は小型のローターが回転して丸鋸の役割として出来上がっている。黒色の鋼鉄のボディを手にしたサイラスに続いてエレンの量子化と同じ動きで人間の兵器達が奇抜な変形を見せる。
「人造トランスフォーマーはキミ達と違って痛みや恐怖のない純粋な殺戮マシーンだ」
「儂等はマシーンではないわッ!」
憤ったメガトロンはサイラスを蹴り上げ、反撃として頬にフックをもらった。背面のバーニアを噴射してサイラスにタックルを決めて押し倒すと頭を掴んで地面に何度も叩きつけた。猛攻の中、サイラスはパルスキャノンをメガトロンの腹に放って吹き飛ばすと間髪入れず、顔面に膝蹴りがヒットする。
サイラスの膝蹴りもものともせずに腕を顎に引っ掛け、力任せになぎ倒した。
「人間がトランスフォーマーの真似事とは笑わせる!」
背後から奇襲した人造トランスフォーマーをメガトロンは気配だけで察知してフュージョンカノン砲で吹き飛ばした。
「フハハハハ! スタースクリーム! いるのなら出て来い! この程度の相手、このメガトロン様には何千いようと相手ではない」
メガトロンにとってサイラスが眼中にない。そう分かるとサイラスは歯を食いしばり、胸や腕からポットを展開し無数のミサイルを放った。不意を突かれてメガトロンはミサイルをまともに浴びてしまう。
「敵を倒さないウチに他を気にするとは愚かだ」
「愚か者はお前だ。このガラクタめが」
メガトロンはケロッとして立っている。手から片刃の大刀を展開、それをサイラス目掛けて投げつけ大刀は体を貫いてサイラスは壁に張り付けにされた。
「コンバッティコン! ブルーティカスに合体しろ!」
メガトロンの命令が下り、コンバッティコンの五人は慣れた手順で合体兵士としての姿を作り上げた。
「スタースクリーム、出て来い! いるのはわかっているぞ!」
「スタースクリームはいませんよ」
エレンの言葉にメガトロンは眉をひそめた。
「ディセプティコンに送ったメッセージはスタースクリームの録音音声です」
「何だと……?」
「スタースクリームが来るまで私達は耐えるだけです」
「ほう、あの愚か者が何が出来るか知らんが奴が来るまでにお前達は消滅する」
エレンは地上に視線を落とすとプレダキングに破壊されたテラーコン軍団、ブルーティカスに一捻りにされる人造トランスフォーマーの光景が広がっていた。
「スタースクリームのバカについた自分達の軽率さを呪うがいい!」
「誰がバカだってメガトロン!」
騒々しいエンジン音を響かせながらスタースクリームはブルーティカスにロケットを叩き込んで空中で変形すると足からブースターを噴射しながらゆっくりと降下して来る。ブルーティカスに撃ち込んだロケットはやはり効いていない。
「スタースクリーム、よく来たなこの愚か者めが。降伏か処刑か最後に選ばせてやる!」
「へっ、ここまで来て降伏とかやるかよ! 俺様の切り札を紹介するぜ! 来いトリプティコン!」
スタースクリームの合図と共にトリプティコンはゆっくりと降下し、メガトロン達の背後に立った。その巨体を目撃するとエレンはオメガスプリームの恐怖がフラッシュバックした。
「トリプティコンだと……!? 貴様まで儂を裏切る気か!」
「俺を見捨てたメガトロン、ここで潰す!」
「メガトロン様、トリプティコンはネメシスに改造サレタ事を恨んでイマス」
サウンドウェーブは冷静な分析で導き出された回答を口にした。
「ええい、裏切り者は破壊してしまえ!」
ディセプティコンは全ての火力をトリプティコンに集中した。スタースクリームは意気揚々とトリプティコンの肩に乗り、高らかに笑う。
「ハッハッハ! どうだメガトロン! 降伏する気になったか!」
と、そこへ少し離れた所にグランドブリッジが開き、オートボットが到着した。
「既にパーティーが始まっているみたいですね」
ジャズはカメラで戦場を拡大して様子を見た。
「なるほど、メガトロンとスタースクリームの権力争いか」
「オプティマス、グリムロックの反応はあのトリプティコンから来てます」
「トリプティコン……再生されたのか」
「うわー、オメガスプリームみたいにデカいなアレ」
「そうだな士道。あれはディセプティコンの決戦兵器でもあった。さ、我々はグリムロックを救出してディセプティコン達の仲間割れを高みの見物と洒落込むか」
ブルーティカスやプレダキングの力を以てしてもトリプティコンという桁違いの怪物には通用しない。エレンやアーカビルはいい気な物で勝利を確信してハイタッチをしている。
「メガトロン、降伏かそれともディセプティコンのリーダーを俺に譲るか?」
「誰が譲るものかッ!」
苦し紛れにフュージョンカノン砲を撃つがトリプティコンには蚊でさされたような物だ。
「トリプティコン」
「うん」
尾の一振りで兵士の半数をスクラップに変え、トリプティコンは小さなてでメガトロンを掴み上げた。
「ぐおおッ! 離せ、離せスタースクリーム!」
「さあ、メガトロン。ディセプティコンの新しいリーダーは誰なんだァ?」
「お、お前だ……」
「何ぃ~よく聞こえないぜ!」
「お、お前だぁぁぁぁ!」
「みんな聞いたな、今日から俺様がニューリーダーだ!」
ニューリーダー誕生か、そう思われた時だ。トリプティコンの様子が変だった。自分の意思に反してメガトロンを手放した。
「どうしたトリプティコン!」
「体が……お、おかしい!」
見ればトリプティコンの尾が縮小を始め、勝手に手足が変形をしているのだ。
「なんだこれ!」
瞬く間にトリプティコンは戦艦の姿に戻されてしまった。ネメシスに戻り、ハッチが開くとショックウェーブの姿があった。
「でかしたぞショックウェーブ!」
メガトロンが賞賛の言葉を投げかけたがショックウェーブは反応がない。そして、次の瞬間ショックウェーブは前のめりに倒れてその後ろにはグリムロックが立っていた。ディセプティコンのエンブレムが消え、体が限界まで赤熱した姿だ。
主人であるショックウェーブを倒されてプレダキングはグリムロックに殴りかかるとプレダキングの腕を払いのけて強烈なアッパーカットでプレダキングを殴り飛ばし、足からスラスターを噴射して去って行った。
「メガトロン様、グリムロック追撃の命令を」
「放っておけプレダキング、儂等が探していた奴はこっちなんだ」
トリプティコンの突然の変形でバランスを崩して肩から落ちてしまったスタースクリームは強く打った尻をさすっていた。
「と、トリプティコンが……」
「そうだ、トリプティコンは無力化されたわい。そして儂はメガトロン、お前の指揮官だよ!」
スタースクリームの首を掴み、メガトロンは怒りに満ちた声で怒鳴る。
「め、メガトロン……お許しを……! 命だけは……!」
「いいや、今回は本当に最後だ!」
メガトロンはスタースクリームの胸からダークスパークを抜き取り、荒っぽく投げ捨てた。
「ブレストオフ、コイツ等を地球から永久追放しろ!」
「はい、メガトロン様」
「メガトローン! 必ずまた戻って来るからな! 覚えやがれよ!」
小惑星に乗せられスタースクリーム、エレン、アーカビルの三人は宇宙へと放逐されたのだった。
ブレストオフが三人を宇宙へと放ち、メガトロンはスタースクリームから奪った二個目のダークスパークを手にじっくりと眺めていた。
「さてと……結局、奴がどうしてダークスパークを持っていたのか分からずじまいだったが……この二つ目のダークスパークで余は無限の力を手に入れるのだ。オンスロート、あそこで伸びているサイラスという男を連れて行け。何故、儂を知っているかじっくり調べてやる」
ショックウェーブの治療を始め、スタースクリームの反乱によって発生した被害は計り知れない。
「待てメガトロン!」
「お前は、オプティマス!」
「ディセプティコンの仲間割れなら放っておいたが、ダークスパークが絡むなら私も黙って見てはいない」
「フハハハハ! 二つのダークスパークは余の物だ! そんな事よりも貴様の仲間がどうなっても良いのか?」
「どういう事だ」
「グリムロックの奴が暴れてどこかへ飛んで行ったのだ。儂よりもそちらを優先した方が良いと思うぞ。ハハハ!」
メガトロンはカノン砲をオートボット達の足下に放ち、足止めをするとネメシスに乗り込み、いそいそと撤退を始めた。
「オプティマス、ダークスパークが二個もメガトロンの手に渡ったのはまずいですね」
「ああ、そうだ。だが今はグリムロックだ。ダークスパーク……。もう一つは恐らく未来の物だ」
「未来?」
その場にいた全員が首を傾げた。
「以前、ロックダウンがタイムブリッジとダークスパークを未来から持ち込んだ。ロックダウンを倒すと同時にダークスパークは宇宙へ飛んで行った。それが偶然スタースクリームの手に渡ったのだろう」
森を駆け抜け大木をへし折りながらグリムロックは己の身の内側を焼く痛みに耐え、悶え苦しんでいた。レッドエネルゴンの異常な力に体が耐えきれないのだ。指先を見ると溶けているのが分かる。グリムロックはビーストモードに変形して痛みを追い払おうと岩に頭突きをかまし、尻尾で崖を削った。それだけ大暴れしているのであればセンサーを使わなくてもオートボットに位置が知られる。
赤熱したグリムロックを発見したオートボットは体から出る異常な熱気に顔を覆った。
「グリムロック……!」
「来るな、士道!」
吼えるように叫んだ。
「士道、俺、もう止まらない。四糸乃、悲しませる、ごめん」
「何を言ってるんだよグリムロック。パーセプターに診てもらおう。うるさいけど絶対治してくれるって!」
士道の言葉にグリムロックは首を横に振った。
「時間、ない」
ドロッと腕が溶けて落ちた。尻尾から鼻先にかけてグリムロックは融解が始まっている。周囲の地面や岩はグリムロックの異常高熱の影響で溶けており、グリムロックは足が崩れ、徐々に姿が認識出来ない程に崩していく。
「おい、冗談よせよ。グリムロック! なあ、お前は世界最強のロボットだろ!」
熱気の中を進もうとする士道をジャズが掴んで行かせようとしなかった。
「俺、みんなの、力になれない」
その言葉を最後にグリムロックの体は完全にドロドロの熱い液体となった。溶岩のような液体を押しのけて、グリムロックのスパークが浮かび上がる。
トランスフォーマーの世界で言う魂であるスパークは光と共に消えてなくなった。
野獣戦士の命はその日、瞬いて消えた。