デート・ア・グリムロック   作:三ッ木 鼠

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44話 プレダコン計画

 スタースクリーム軍団の本拠地は今までDEM社だったが、焼け野原と化したそこにはもう用は無くDr.アーカビルがかつて使用していたラボを拠点と使っていた。アメリカ、テキサス州に存在する人里から離れた煙突型に地面から隆起した岩を綺麗に内部だけをくり抜いて、表面はそのまま自然のままを残していた。人がいない閑散とした荒れ地にラボを構えたのは、人目につかない事も理由に挙げられるし、何か大規模な実験をするにも都合が良かった。

 政府や学界に頼んで作らせたのではない非合法なラボは見つかれば即撤去されてしまうだろう。元来、人間しか使用が想定されていない為トランスフォーマーにはかなり窮屈な空間に仕上がっていた。鋼鉄の何やら大層なアーチ状の装置がアーカビルのラボの三分の一を締めており、アーチからは無数のケーブルがエレンとその少女が着装するペンドラゴンに取り付けられていたプラチナの外装は相変わらずの美しさで兵器とは思えぬ芸術性が光る。

 だが実に三十回以上のアップグレードを繰り返したペンドラゴンはとても洗練されていた。身を守るのは不可視のシールド、武器はトランスフォーマーの技術から応用して打ち上げた西洋風なロングソード、そして盾だ。火器も全て盾に搭載されてあらゆる物が簡略化、強化に成功した。

 歪みし希代の天才科学者アーカビルが考える限りの知恵を絞り出して作り上げたペンドラゴンだ。

「調整終了じゃ」

 アーカビルの報告と同時にエレンは目を開いた。ペンドラゴンはエレンに応えて思い通りに動く、寸毫の誤差も存在しない。

「生まれ変わったようです。流石はDr.アーカビル」

 謀反の疑いがあったが、そんな企みなどもう何でも構わない。アーカビルの技術力にエレンは純粋な気持ちで感心した。

「ハンッ! やっと終わりやがったか。おせぇんだよアーカビル」

「少しは褒める事が出来んかのぉ?」

「そうですよスタースクリーム、彼は随分と力になってるじゃないですか」

 そんな事はわかっている。しかしスタースクリームは中腰に首を曲げていなければラボには入れず、極めて劣悪な環境で過ごしているが辛抱出来ない段階だった。

「チビ共の部屋は俺には狭すぎるんだよ!」

 窮屈な空間に悪態をついた。

「外で少しテストをしても構いませんか?」

「ああ、大丈夫じゃろう」

 アーチ状の装置がペンドラゴンに取り付けていたケーブルを巻き取り、ペンドラゴンを解放した。エレンが天井を見上げると幾層にも分かれたゲートが開き、青い空を覗かせた。

「ペンドラゴン、発進」

 四枚の羽を展開し、小型だが高出力の六基のスラスターが耳を塞ぎたくなるような轟音を慣らし、衝撃波と爆風をラボに撒き散らして一瞬の間に上空へと飛び去り、エレンの姿は見えなくなった。

「大した加速だな、アーカビル」

「当然じゃ、儂の発明に間違いはないわ」

 スタースクリームにも匹敵する速度で飛行を続けるエレンは雲を突き抜けてからロングソードを抜いた。エクスカリバーと命名した剣の刀身から黄色い光が放たれ、高密度なエネルギーソードが出来上がり、軽く一振りすると半月状の光波が雲を切り裂いて、彼方へと消えてから大爆発を起こした。暴風に美しい金髪を揺らしながらエレンは満足げな表情を浮かべた。

「素晴らしい……!」

 続いて左の盾を展開すると蒼白の膜が盾に張られた。真ん中から裂けるように展開された盾からは銃身が現れるとエレンは何もない空に向けてトリガーを引いた。するとどうだろうか、かつては集束と発射に時間がかかっていた魔力槍を連射し、横に線を引くように撃ち込む。爆発により空は茜色に染まった。

「これほどの力が……」

 エレンは本当に自分の力なのか疑いたくなるような威力にほくそ笑んだ。精霊はもちろん、反転体すら凌駕する力を手に入れた。どれだけ通用するかは分からないが、オートボットの巨神にも立ち向かえる気がした。テストが終了してエレンはラボに戻って来る。ペンドラゴンはエレンの意思に反応して光の塵となって消えた。

「最高の出来でしたよアーカビル」

「よしよし、儂も作った甲斐があったわい」

 アーカビルも満足がいったように笑うとラボに取り付けられていた警報装置が突然、けたたましく鳴り響いた。

「敵か!?」

 スタースクリームが慌てて出向こうとしたが、狭さが邪魔して動く事が出来ない。

「お、時間じゃな。安心しろ、敵じゃないわい。スタースクリーム、お前さんが味方が多い方が良いと言うから儂が手配をしてやったぞ」

 ラボの入場ゲートから数台の機関銃を備えた装甲車が入って来た。装甲車のドアが開くと自動小銃を構えた兵士が勢いよく出て、素早く陣形を作り上げた。

「何モンだコイツ等はよぉ?」

「スタースクリーム、スタースクリーム、何度聞いてもその名には怒りしか湧いて来ないな」

 装甲車から最後に出て来たのは真っ白な短髪に軍人らしく全身くまなく鍛え上げられた肉体を有した中年男だ。顔にはいくつもの傷が残り、戦国時代の荒武者を彷彿とさせる。瞳の奥は濁り、スタースクリームはアイザックと同じ雰囲気を感じ取っていた。

「サイラス、よく来たな。歓迎するぞ」

 サイラスという男、しかしスタースクリームはこの男に全く見覚えがない。だがサイラスの方はスタースクリームにかなり怒りや憎しみを抱いているようだ。

「スタースクリーム、何かしたんですか?」

 エレンがこっそりと聞く。

「知るか! こんな奴初めてだ!」

「“初めて”か。確かに私と貴様は初めてだが、私は“スタースクリーム”にこれ以上ない程に苦しめられた!」

「やっぱり何かしたんじゃないんですか?」

「だから知らねえって! やい、サイラス! あんまりワケの分からん事ばっかり言っていると俺様のミサイル攻撃で吹き飛ばすぜ!」

 と、言いながらスタースクリームはナルビームの銃口を突き付けた。スタースクリームの銃口に恐れもせずにサイラスは鼻を鳴らした。

「ふん……まずは自己紹介からしようか」

 目出し帽にウェットスーツを着用した戦闘員を指差した。

「我々はM.E.C.H(メック)

 メックの名を聞いた時、エレンはどこか聞いたような気がして額に指を当てて思い出す仕草をした。

 メックはアメリカ合衆国に拠点を置く巨大な民間軍事会社だ。世間には報道されないが、横暴な行動が目立ち、頭のイカレた連中だと囁かれている。DEM、ラタトスクと比べれば技術力は幼稚な物でCR-ユニットを保有していない点、精霊に興味が無い点、これらから大した組織ではないと判断されていた。

「スタースクリーム、私はディセプティコンを憎んでいるのさ。心の底からね」

「だから、お前と俺は初対面だろ?」

 サイラスはゆっくりと首を横へ振り、それから部下に下がるように命じた。装甲車に乗り込んだ戦闘員はサイラスを残し、外へと出て行った。

「どうやら私は次元の壁を超越したらしい……」

 突拍子もない発言にスタースクリーム、エレン、アーカビルは素っ頓狂な声を上げた。

「次元の壁だぁ?」

 スタースクリームは口を曲げた。

「かつて、私はメックの司令官だった。民間軍事会社ではなくテロ組織のな」

 聞きたい事は山ほどあるが今は黙って聞いた。

「人造トランスフォーマーの研究を推進していたメックはオプティマス・プライムによって挫かれた! 瀕死の重傷を負った私だが……一命を取り留めた。トランスフォーマーの肉体を得てな」

 一拍置いて。

「ディセプティコンと結託した私はメガトロンに無惨に裏切られた! 貴様等の実験台にされんだ! ディセプティコンめ……! 死んだ私の魂はそのまま消える筈だった。しかし、何かの手違いで次元を超越して今に至る」

 どうやらこのサイラスは平行世界で死んだサイラスらしい。多少無茶だが、まだ話が分かる。

 スタースクリームはニィィっと笑うと唐突に優しげな声色に変えた。

「分かる。分かるぜサイラス!」

「本当はスタースクリームも憎しみの対象だが、こちらのスタースクリームは不問にしてやろう」

「サイラス、メガトロンの野郎は俺様の実力に嫉妬してやがる。だから、こうやって俺様を追い出したり意地悪するんだ。お互い、打倒メガトロンを目指そうじゃねえか」

「そのつもりだ」

 サイラスはディセプティコンの壊滅を。

 スタースクリームは新生ディセプティコンの結成を。

 目的がズレているような気もしたが、打倒メガトロンという点では一致している。

「それで、スタースクリーム。ディセプティコンを倒す為の何か算段があるのか?」

「当然!」

 スタースクリームは動きにくそうにしてラボから出るとジェットモードへ変形した。

「じゃあちょっくら行って来る!」

 作戦も告げずにスタースクリームは轟音を残してテキサスの空へと消えて行った。気が付けばもう空の彼方だ。

 

 

 

 

 火星にてトリプティコンの治療を続けている筈のショックウェーブは今は火星からトリプティコンごと引き上げて、ディセプティコンを海底臨時基地の隣に置いていた。スペースブリッジがあるとは言え、プレダコン計画にトリプティコン計画の二つの指揮をおこなうに当たって火星と地球を行き来するのはかなり手間だ。

 その日、ショックウェーブに呼ばれてメガトロン、サウンドウェーブ、プレダキングはとある洞窟に来ていた。

 巷ではトランスフォーマーの存在で騒がれているがディセプティコンにすればそのような事はどうだって良い。この計画が完成すれば人類がどう文句を言って来ようともたちまち黙らせられるのだから。銀色のスペースタンクからロボットへ変形し右のフュージョンカノン砲が光る。メガトロンの後にサウンドウェーブとプレダキングが各々のもう一つの姿からロボットの姿に戻る。メガトロンは洞窟の入り口を見上げた。入り口はそこまで大きくはないが、中に入ってみるとショックウェーブが三日三晩、寝食を忘れて作り上げたトランスフォーマーでも通れるような大きな通路がある。そこを抜けると次は、大きな広場に出た。やがてはこのサッカー場よりも遥かに広大なスペースもプレダコン計画に活用するのだろう。広場を更に抜けて奥へと突き進むとようやくショックウェーブの姿を確認出来た。

 ショックウェーブは舞台のような小高い足場に立っており、大型コンピューターの前に立ってカタカタとキーを叩いていた。プレダキングはショックウェーブよりも先に目に入ったのは、入り口から部屋の最奥部にかけて左右に均一に並べられた黄色い培養液が入ったカプセルであった。カプセルの中身は見間違えようもないプレダコン達だった。常日頃から怒りと憎しみを抱くプレダキングは出生から初めて喜びを感じた。家族との再会、プレダキングの兄弟となる子達が今まさに生まれる瞬間を目の前にして待っているのだ。

「ようこそメガトロン様。プレダキング、これがキミの種族だ」

「あんたには感謝してもしきない、ショックウェーブ」

 メガトロンは十数体はいるプレダコンを見て感心した。ここにいる全員が恐るべき戦闘力を誇る生物だとするとディセプティコンには強大な力となる。思わず息を呑む光景だ。

「いや、実に素晴らしい眺めだわい。完成はいつだ?」

 ショックウェーブの回答をプレダキングは楽しみにして待った。

「意識はもうあります。今日か明日には彼らは生誕を迎えるでしょう」

 その言葉にプレダキングは飛び上がって喜んだ。負の感情以外見せないプレダキングには珍しい行動で、少し微笑ましかった。ショックウェーブはその行動に内心驚きもしていた。怒り、憎しみしかプログラムしていない筈のプレダキングに喜びの感情が芽生えている事だ。グリムロックの件もそうだった。野生の獣性は悉くショックウェーブのプログラムをひっくり返して成長して行っている。

「ショックウェーブ、もし無事に彼らが生まれたのならば私に彼らの教育と指導を一任して欲しい。同じ種族だ、連中がどういう思考でどういう奴に従うか私の方が理解している」

 凶暴極まるプレダコン、恐らく殆どが生まれたばかりのプレダキングのような獣としての性質が全面的に押し出されて話も聞かないような奴だ。メガトロンもショックウェーブもプレダキングを教育係りに任命する事を反対する気はなかった。

「私は構わない。メガトロン様、あなたの意見をお聞かせ下さい」

「儂も賛成だ。プレダキングにはその資格は十分にある。ただし、生まれてくるプレダコンに儂の命令を聞くようにしっかりと教育をするんだぞ」

 プレダキングは深々と頭を下げた。

「ありがとう。しかし生まれて来るのが楽しみだ」

「私も楽しみだプレダキング、教育係しっかりやるんだよ」

 プレダキングは力強くと頷いた。新戦力、兄弟誕生に和気藹々とした雰囲気だが、サウンドウェーブ一人は違っていた。バイザーが来た道をジッと観察して拡大やサーモグラフィーによる熱感知やエネルゴン反応を検出して違和感の正体を掴もうとした。けれどもこれといった反応は出て来なかった。

「どうしたサウンドウェーブ、めでたい日だぞ」

 サウンドウェーブは変わらぬ表情でメガトロンに耳打ちした。

「何かいマス。ここの見張りを強化して下サイ」

「何かだと?」

 メガトロンもセンサーを働かせて反応を読み取って見たが、それらしい結果は出て来なかった。

「見間違いではないか?」

「間違いありまセン。誰かいたのは確かデス」

 サウンドウェーブは優秀な部下だ。これがもしスタースクリームの発言なら蹴り飛ばしていた所だ。サウンドウェーブの忠告を聞き入れて、メガトロンはプレダコンの研究所にディセプティコンの兵士を数人配備してその場を後にした。ショックウェーブは次にトリプティコンの治療がいる。プレダキングは助手としての手伝いも残っている。武装した兵士は警備の任務を受けながら愚痴をこぼした。

「あーあ、ショックウェーブの野郎また気味悪いもん作ってやがんな」

「そうだよ、セイバートロンにいた虫に比べれば見た目はマシだけどよ。やられるオレ等の身にもなって見ろってんだ」

 全員、ショックウェーブの実験には反対な所があり、故郷にいた時からも敬遠されていた。いつ食らいついてくるか分からない実験動物を警備するのは酷く気が進まない話だ。銃を構えてセンサーを働かせていると、フラッと何かが動いた気がした。

「お?」

「どうしたよ?」

「あ……何だろ。今何かいたような気がしたんだが……」

「よせよ、まさか幽霊じゃないだろうな?」

「幽霊!?」

 兵士達は幽霊と聞いて震え上がった。

「確かにトンネルは霊が集まり安いって見たぞ!」

「怖ぇぇ~!」

「もう帰ろっかな」

『幽霊より怖い奴がいるって知ってるか?』

 不意にどこからか声が聞こえた。洞窟内に響く声で兵士達はみんな顔面蒼白で銃を落として身を寄せ合った。

「だ、誰だよぉ!」

 そう叫んだ一人の胸から突如として剣が飛び出した。背中からひと突きされてたちまち一切の動きを止めてうな垂れると、死に絶えた兵士はどこかへ投げ飛ばされた。目に見えない敵は一人、また一人と兵士を貫き、頭を跳ね、背中に爆弾を張り付けて殺して行く。最後の一人となった兵士はぶるぶると震えて泣きそうな声を上げていた。

「誰なんだよ! 姿くらい見せろよぉ!」

 すると誰もいなかった空間がぐにゃりと曲がり、スタースクリームが現れた。

「ス、スタースクリーム!?」

「へえ、やっぱり俺様の読み通りだ。ショックウェーブの野郎が持っていやがった化石はプレダコンか。って事はまたプレダコンが複製させられるって訳かい。おい」

 スタースクリームは腕から剣を伸ばして兵士に突き付けた。

「他に知ってる情報はねえのか? もしあるなら生かしてやっても良いぜ?」

「わかった、わかった言うよ! トリプティコンだ! ショックウェーブの野郎はネメシスをもう一回トリプティコンに戻す計画を進めてやがんだよ!」

「ほう……なるほどな……。あの怪物をか」

 スタースクリームはまた何か閃いたような顔をした。

「ありがとよ!」

 残された最後の兵士の腹に風穴を空けてスタースクリームは手をパンパンと払った。

「さあて、良い情報も手に入れたしな。勝ちを掴むのは俺だ。しっかしあっさり口を割るたぁ、メガトロンの野郎も忠実な部下がいなくて悲しいなぁ」

 ぶつぶつと独り言を言いながらスタースクリームはさっきまでショックウェーブがいじっていた大型コンピューターの前まで行くとエネルゴン反応を遮断する装置を切り、スタースクリームはジェットモードへ変形して飛び立った。

 

 

 

 エネルゴン反応を遮断していた装置の電源が切れたという事は当然、テレトラン1に嗅ぎつけられるという事になる。年中、テレトラン1と向き合っているパーセプターがその反応を見逃す筈がなかった。

「おや? エネルゴン反応?」

「どうしたパーセプター。ディセプティコンか?」

「う~ん、そうでは無いんですが……どうも強力なエネルゴン反応が出ているんですよ」

「なるほど、偵察を出そう。ワーパス、アイアンハイド」

 オプティマスが呼ぶとちょうど十香と折紙と遊んでいた二人はパッと切り替えてゲームを中断してやって来る。

「ディセプティコンか!?」

「わからない、だから調査をして来て欲しいんだ。頼んだよ」

「今度はどこへ行くのだワーパス!」

「ああ? アメリカ、ネバダ州だっつても十香はわかんねーか」

「むう、失礼だそワーパス!」

 十香は頬を膨らませて怒ると笑いながらなだめた。

「ついて行きたいのか十香? でもダメだぞ、危険が多すぎる」

 アイアンハイドは頼まれる前に断っておいた。だが、ワーパスは十香の肩を持ってくれた。

「まあまあ、今回はディセプティコン反応もないんだろ? 偵察と社会見学だと思ってさ」

「十香は私が面倒見る。平気、これが何かしても私がしっかり止めてみせる」

「こら折紙! 人を子供扱いするな!」

 二人の親のようにアイアンハイドは喧嘩を仲裁した。もうこの手の事には慣れた。

「連れて行ってやるが、危ないと判断したらすぐに帰ってもらうからな」

「うむ!」

「了解した」

 話はまとまり十香と折紙がアイアンハイドへ乗るとワーパスを先頭にしてグランドブリッジをくぐった。一瞬で景色は切り立った崖と洞穴へと切り替わる。十香達が降りるとアイアンハイドはトランスフォームした。

「うーん……ディセプティコン反応無しだぜ?」

「そのようだな。ただエネルゴンの反応はバカみたいに大きい」

 トランスフォーマーも楽々入れるような大きな洞窟の入り口を睨み、アイアンハイドは呟くように言った。

「どうやらこの中からだな」

「オォー! 洞窟洞窟! 何か冒険が待っていそうだな!」

 注意も聞かず十香は一人洞窟の中へ走って行く。その後ろを折紙がスタスタとついて行った。

「こら、十香それに折紙。待つんだ!」

 アイアンハイドとワーパスは二人を追った。洞窟の内部がとても自然現象とは思えぬ程に整っており、用心深いアイアンハイドは早くも腕を重火器に変形させていた。それに倣ってワーパスも重火器を出してみせた。気をつける事に越した事はない。アイアンハイドはセンサーを頼りに広間を確かめるような慎重な足取りで進み、再び狭い通路に入った。

 狭いとは言え、トランスフォーマーが並んでも楽に動けるので十香達から見れば十分巨大だ。岩の通路を抜けてラボらしき広間へ到着するとアイアンハイド等は一斉に顔をしかめた。黄色い培養液に入ったプレダコン達が目覚める段階だった。

 カプセルから培養液が排出されて中のプレダコンがカプセルを割ろうと暴れている。

「ディセプティコンよるヤベェのを見つけちまったな」

「ワーパス、あれは何なのだ? 前見たプレダキングの仲間か?」

「その通り」

 ワーパスは至急、基地と連絡を取った。

「オプティマス、どうやらディセプティコンはいないみたいだぜ」

『おお、それは良かったワーパス』

「代わりにプレダコンの養成所を見つけた。奴等が目覚める前にぶっ放そう」

 プレダコンというワードが聞こえたからか無線の向こうではガシャンと何か割れるような音に加えて荒っぽい騒音がした。

『ワーパス、もう一度連中を化石に戻してやれ!』

 オプティマスの命に従いワーパスはガトリング砲をアイアンハイドは、サーモロケットキャノンをカプセルに向けた瞬間、まだロケットを放ってもいないのにカプセルは次々と爆発を始めた。機械の誤作動だと思い、十香と折紙を抱えて出口を目指した。

「何だ何だぁ!? 急に爆発したぜ?」

「機械の動作不良だろう。手間が省けて良かった」

 トラックと戦車が洞窟の通路を引き返していると広間を出た所でグランドブリッジが展開された。オートボットのグランドブリッジではないと察して立ち止まるとグランドブリッジからは威風堂々、王者の風格を見せ付けてプレダキングが登場した。

「警備隊の連絡が途絶えて胸騒ぎがしたと思えば……。オートボット、貴様等に私の兄弟をやらせない」

 生誕間近の兄弟達をオートボットの魔の手から救うべく出動したプレダキング。だが、一足遅かった。兄弟達が眠るラボから炎が噴き出し、爆発は洞窟内を大きく揺るがした。プレダキングの表情に驚きと悲しみが同時に現れた。

「兄弟達が……!」

 説明などせずとも分かる。間違いなく、兄弟達は死んだ。その事実を認識した瞬間、プレダキングは復讐の悪鬼と化す。

「そうか……これが……」

 プレダキングはアイアンハイドやワーパス、十香でもなく折紙を見た。

「鳶一折紙、これがお前が味わった苦しみか! 家族を目の前で殺された怒りかァ!」

 プレダキングは感情の赴くままに駆け出した。それを迎え撃とうと構えた重火器を同時に使用し、ロケットや銃弾の嵐が吹き荒れたがプレダキングはものともせず突進し、四人が立っていた地面に拳をめり込ませた。

 ロケットを放ちながら後退をするアイアンハイドを平手打ち一発で洞窟の天井へと跳ね飛ばし、背後から殴りかかって来たワーパスの右フックを見もせず受け止め、腕を掴んで豪快に振り回した。

「メタトロン……!」

 人工精霊メタトロンを発現、折紙はマスクを装着してから頭部を砲台へ変形させてプレダキングに砲撃をおこなった。飛来する鋭い砲弾を避け、プレダキングは真っ直ぐ折紙へ接近する。 次弾が発射されブレない弾道はプレダキングの目へと向かって行った。弾丸の軌道を読み、折紙の砲弾を腕で弾く。大きく振りかぶって折紙を叩き潰すように拳骨を落とす。片足を軸に身を反転させてプレダキングのパンチを避ける。スピア型の細長いミサイルを肩から出した所でプレダキングのもう一方の手が折紙を叩き、真横にぶっ飛ばした。

「鳶一折紙、貴様はこれだけの怒りを許したのか!」

「復讐に勝るものを見つけただけ……」

 吹っ飛ばされ折紙へ更なる追い討ちをかけるプレダキングは横から強烈な力が加えられ、追撃が中断した。

 鏖殺公(サンダルフォン)を構えた十香だ。剣を両手でしっかりと握り、プレダキングとの距離を詰めて再び大剣を振り抜き、巨体を飛ばす。空中で態勢を立て直したプレダキングは壁を踏み台にして十香へ一直線に突進。

 幸い突進は当たらなかったが衝撃で十香は転倒した。精霊の力が完全でない十香には少しのダメージも致命傷になりうる。転んだ十香を拾い上げてギリギリっと手に力を入れた。

「アアッ……! うっ……ぐぅッ!」

 腹の中身が出そうな圧迫感、ゆっくりと十香を圧殺しようと言うのだ。

 重厚な砲弾の装填音がした。その直後、プレダキングにワーパスの砲撃が命中して十香を落とした。砲撃を受けてもなおも無傷、プレダキングは立て直したアイアンハイド等を睨み付けた。

 種を失い世界でたった一人の孤独、遂に兄弟が出来る瞬間に目の前で殺された怒り、それは計り知れない。負の感情が溢れれば溢れる程、プレダキングは強くなる。

 チラッと天井に目をやりプレダキングはブラスターを撃ち、落石を引き起こす。散会して散り散りになった瞬間を決して逃さず襲った。

 渾身のストレートを打ち、ワーパスは両腕でガードして耐えたが体は勢い良く後退した。プレダキングとワーパスが組み合い、純粋な力比べに入るとワーパスを軽々とねじ伏せ、起き上がれぬように足で踏みつけてから何度も殴った。

鏖殺公(サンダルフォン)!」

 十香が刀身に霊力を込め、三日月状に霊力の刃を飛ばした。霊力の刃を片腕で防ぎ、プレダキングは十香を殆ど無視してまずはオートボットを葬る事に専念した。

「ワーパスから離れろ!」

 アイアンハイドの飛び蹴りがワーパスからプレダキングを引き剥がした。よろめいた先には折紙の腕に装着された剣に叩かれ、倒れる事も出来ずに十香から霊力の刃を受けた。アイアンハイド、ワーパスを含めた四方向からのパンチやキック、斬撃に砲撃が重なり、プレダキングは足がもつれて壁に寄りかかった。

 折紙はプレダキングの頭上を見上げてミサイルを撃った。十香は折紙の意図を瞬時に察して鏖殺公(サンダルフォン)の斬撃でプレダキングを壁から離れられないように連続して刃を飛ばした。

 プレダキングは刃を振り払って力任せに暴れた所で巨大な岩が降って来た。見事、プレダキングは巨大な岩石の下敷きとなったのだ。

「完・璧! やるな二人とも!」

「うむうむ! まあ、私が奴に合わせてやったんだがな! 感謝するのだぞ折紙!」

「ええ、そうね」

 否定もせずかといって心底肯定している訳でもない。折紙の意識は落石の下の者に行っていた。プレダキングの境遇は確かに気の毒だとは思うが、折紙は士道から復讐から何も生まないと学んだのだ。

 大量の落石を受けて身動きなど取れない筈のプレダキングは動き出した。砂利でも払う、そんな仕草で岩石を押しのけた。それだけには留まらず、ビルような高さの柱を引っこ抜き、アイアンハイドを押しつぶした。

 スケールが違う戦い方だ。

 暴れるワーパスを鷲掴みにし、地面へめり込ませた。

 次なる標的である十香、折紙に狙いをつける。晴れる事のないこの憎悪、それがプレダキングに力を常に与え続けるのだ。希望、夢、優しさだけが強くなる手段ではない、負のエネルギーが己を奮い立たせる時もある。

 一瞬で肉体を滅ぼしてやろうと脇を締めて腕を引いた。腕武が少し変形して肘からスラスターが拳は鋭利に尖る。プレダキングの腕はまるでパイルバンカーだ。

「オオオォォ!」

 雄叫びを上げるプレダキング。十香に向かう鋭角な突きは、意外にも外れた。いや、正確には外してはいない。

 グリムロックの腹に突き刺さっていた。

「お前、ここで、消す!」

 十香を庇い、深手を負った状態からグリムロックの盾を用いた殴打がプレダキングを仰け反らす。

「今のうち、逃げろ!」

 グリムロックがプレダキングを引きつけている間にワーパスやアイアンハイドはなんとか再起し、十香達を連れて洞窟から避難した。

「目障りだグリムロック!」

「お前達、俺の仲間を、傷付けた許さない!」

「私の兄弟の無念を晴らす!」

 

 

 

 Dr.アーカビルのラボに帰還したスタースクリームはラボ前に待っていたエレン達に誇らしげな顔で言った。

「メガトロンはやっぱりプレダコンの増産をしてやがったな」

「ほう、それで?」

 サイラスは鋭い眼差しで聞いた。

「プレダコンの研究所にちょーっと爆弾を仕掛けてやった。俺の計算じゃあこれを引き金にディセプティコンとオートボットが小競り合いを起こすぜ」

「その小競り合いが何の意味があるんです?」

「プレダコンの研究所からエネルゴンの反応をだだ漏れにした。つまりオートボットが調査に来る。プレダコンのピンチにあのアホんだらプレダキングが動かない筈がねえ。プレダキングがオートボットの何人かを潰す、理想はグリムロックとかち合って二人とも疲弊する事だな」

「そんなに上手く行きますかね?」

「行くとも! この作戦を成功させる為にサイラス、テメェにコイツを渡しておく」

 スタースクリームは胸を開けると何やらディスクを手渡した。

「これは?」

「へへっ、じゃあ作戦を話すぜ――」

 スタースクリームは作戦を告げるとまだ一仕事があると言ってまた飛んで言ってしまった。スタースクリームが考案した作戦、そう言われば不安しかない。サイラスもかつての次元でスタースクリームと手を組んだ思い出があるが、ロクな事はなかった。

 一つ分かるのはスタースクリームが本格的に反逆に乗り出した瞬間、妙に生き生きしている事だ。

 

 

 

 

 プレダキングが帰還した先は海底基地ではなく海底に設置されたトリプティコンに戻る寸前のネメシスだ。その肩にはグリムロックが背負われており、プレダキング自身もかなりの重傷で二人の戦いがどれほど壮絶だったかは語るまでもない。

 紙一重の決着だ。もしも何か違えば今立っているのはグリムロックの方だったろう。

「ショックウェーブ、ラボはオートボット共に落とされました」

「遅かったか。だが、また作る。ところでそれは」

「グリムロックです」

「手土産と取って良いのかい?」

「はい、ショックウェーブは常々大きなエネルギーを探していたのでコイツを解剖してみては?」

「……。監禁室に入れておくんだ」

 プレダコン計画がスタースクリームの手で破綻したが、ディセプティコンは皆オートボットの仕業と決め付けていた。プレダコン計画が潰された今、最後の望みはトリプティコン計画だ。

 ショックウェーブは地球人から奪った新型の魔力生成機のメカニズムを盗んで作ったエネルゴン生成機のサンプルを手に取り、小瓶に入った赤い結晶を揺らしてみた。

 小瓶に入っているのはレッドエネルゴンだ。極めて純度の高いエネルゴンだ。未だに解明されていない点が多く不安定なエネルゴンだが、大きな力を備えているのは分かる。魔力生成機のメカニズムから希少なレッドエネルゴンの大量生産させたまでは出来たが、使い道が分からず困っていた所だった。

 使い方も分からない爆弾を大量に所持しているような物だ。

「ちょうど良い実験体がいたな」

 レッドエネルゴン、これをグリムロックに使ってみよう。と、ショックウェーブはそんな思惑が湧き上がった。だが、かつて腕を喰われた記憶がある。下手な力をつけて反逆されては以前と同じ結果になる。今回はオートボットをディセプティコンに変換する装置を同時に使うつもりだ。

 この実験が始められれば最悪の場合、その者は死ぬだろう。生きていてももはやグリムロックではかもしれない。

 


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