デート・ア・グリムロック   作:三ッ木 鼠

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43話 恐怖のミニコン

 雲を切り裂き、およそ地球上には存在しない形状の戦闘機が恐るべき速度で飛行していた。この戦闘機の速度に追い付ける航空機もまた地球上には存在しない。大気圏さえも楽々突破出来る出力を持つスタースクリームはイギリス政府からはロシアが開発した偵察機、と予想して戦闘機を向かわせたがあっさり振り切られてしまった。トランスフォーマー、精霊、この二つの存在は地球上で知る者はほとんどいない。が、しかしオメガスプリームの一件により隠す事が殆ど不可能になっていた。

 目撃者は相次ぎ、ネット上でオメガスプリームの画像や動画がアップロードされるとラタトスク機関が即座に消して回っていた。メガトロン討伐以外頭にないスタースクリームは自分が映っていようが関係ない。

 スタースクリームは空中で格好良く変形し、宙に放り出されたエレンをキャッチして着地した。そこは一面が焦土と化したDEM本社跡地だった。

「こんな所に来てどうするつもりです?」

「まあ見てな」

 スタースクリームは胸のダークスパークをここぞとばかりに光らせ、全身を紫色に変色させると両腕を地面に向けてダークスパークのエネルギー波を放った。焼けた大地には紫色の光がひび割れのように無数の線を刻み込み、染み渡って行った。ダークエネルゴンの力が地中で永遠に眠る者に半端な命を与える。

 エレンは顔をしかめて紫色に変わって行く地面を見つめていると何者かの腕が突き出した。腕がエレンの足を掴むと思わず声を上げて蹴り飛ばした。

「スタースクリーム、何ですこれは!」

「ダークスパーク、そんでもってコイツ等はテラーコン、俺様の軍団さ」

「軍団って……この壊れたバンダースナッチやCR-ユニットがですが!?」

「おうよ」

 自信満々に言うスタースクリームを見てエレンは何歩か後退りした。

「ダークエネルゴンの効果、それにあなたのダークスパークの力……最初からこうやって操るつもりだったんですね! アイクにダークエネルゴンを兵器に使わせて、全部横取りする気だったんですね」

「ああ、そうだぜ。結果的に廃物利用になったんだ良かったじゃないか」

 エレンはペンドラゴンを展開すると魔力槍を手にした。

「おいおい、俺達はパートナーじゃないか!」

「何がパートナーですか!」

「俺を殺してどうする気だァ、おい。テメェはオメガスプリームに負けっぱなしで終わりかァ?」

 負けっぱなし、その一言がエレンに堪えようのない屈辱的な言葉になった。野望は成就出来なかったが、生き延びた今、オメガスプリームに一杯食わしてやる事は出来る。エレンは魔力槍を形成していた魔力を霧散させて、ペンドラゴンも光と共に消した。

「少しはあなたに協力します」

「へへっ、利口だぜ」

 

「一体誰じゃ! 上で騒がしくしているのは!」

 そんな怒号と共にマンホールくらいのサイズのハッチを開いて悪の天才科学者Dr.アーカビルはひょっこりと顔を出した。

「アーカビル」

 スタースクリームは無造作にアーカビルを引っ張り出すと地面に落とした。

 

「やいアーカビル、お前は俺様の手伝うんだ良いな!」

 随分と高圧的に命令した。

「それが人に物を頼む態度かスタースクリームよ」

 スタースクリームの態度に気を悪くしたアーカビルは当然反抗的な態度を取る。

「生い先短い爺さんならせめて人の役に立つんだな!」

 テラーコン化したバンダースナッチがアーカビルの肩を掴んだ。

「お、おい! やめるんだスタースクリーム! 分かった分かったからコイツ等を離すよう言ってくれぇぇ!」

「ふん、最初からそういう態度を取っていれば良いんだ! さてと……」

 手を頭に当ててスタースクリームは考え込む仕草を取った。このテラーコン軍団ではディセプティコンには到底太刀打ち出来ない。エレンの戦力は十分だが、まだまだ心もとない。

「スタースクリーム、何を考えているんですか?」

「メガトロンの野郎の首を取るにはどうするか考えてるんだよ、少し黙ってろ」

 スタースクリームに今ある戦力はテラーコン、エレン、アーカビルだ。

 対するメガトロンの戦力はプレダキングにプルーティカス、サウンドウェーブ、ショックウェーブ、一〇〇〇を超える兵士だ。

「戦力が足らないな……。まずは戦力増強と……」

 スタースクリームはエレンを見下ろした。

「コイツの強化だな」

 エレンのペンドラゴンの強化だ。

 

 

 

 

 北極の寒さはトランスフォーマーの駆動系をも凍らせる。北極での長居は死を意味する。北極大陸で妙な信号をキャッチしたオートボットは、オプティマス・プライムとアイアンハイドが探索に出掛けていた。

「信号はもう直ぐだ!」

 吹雪を避けるように顔を手で覆いながらオプティマスは先頭を歩いていた。視界も悪く、もしディセプティコンが攻め込んで来たらひとたまりも無い。施設も山もない白の平原の中にポコッと地表から盛り上がっている物を発見した。

「あれですオプティマス!」

 アイアンハイドが叫んで早足で隆起した場所へ急ぎ、雪を払いのけると金属が顔を出した。オプティマスがペチペチと叩いて見る。

「……地球の物ではないな」

「なるほど、ではセイバートロンの?」

「だろうね。引っ張り出してみよう」

 オプティマスとアイアンハイドは氷のような雪を手でかき出してから地中に埋まっている金属の塊を引っ張り出した。

 塊の正体はポットだ。しかし、アークの脱出用ポットではない。

「何ですこれ?」

「私にもさっぱりだよ。とにかくパーセプターに調べてもらおう。そろそろ私達の活動時間も限界だ」

 オプティマスはパーセプターにグランドブリッジを開いてもらうと球体のポットを玉転がしのように二人で押してグランドブリッジの中へ消えて行った。光の道を通って北極大陸からオートボット基地へと帰還したオプティマス達が持って帰って来た金属の球体を見て、その場にいた面々は首を傾げた。

「何ですかそれは?」

 ジャズはアイアンハイドと同じような質問をした。

「不明だ。パーセプター、済まないがこれを調べてくれ」

「わかりましたよ司令官」

「頼んだよ」

 とりあえず保管庫に球体ポットを持って行かせた。

「おや、ダイノボット達は?」

「四糸乃と出掛けたぜ。あぁーあ、目立つような行動は控えねーといけねえのによお!」

「そうだな。オメガスプリームの件で人間達が多く見かけるようになった」

 真剣な声で言いながらオプティマスはトラックの姿へとトランスフォームした。

「オプティマス、どこへ?」

「ラタトスク機関のウッドマン卿と琴里とこの後、会う約束がある」

「お気をつけて」

「ありがとう」

 基地の出口までのゲートを開放してオプティマスは通路を抜けて外へと出て行った。

 

 

 

 

 その巨体故に基地へは入れないオメガスプリーム。ずっと空中を浮いているのも不可能ではないが、ラタトスク機関はオメガスプリームにも休める住居を用意してくれた。天宮市を取り囲む山の一部を買い取り、山腹をくり抜き、オメガスプリームが寝られるだけのスペースを作ったのだ。寝る以外出来ないが、オメガスプリームは大層喜んでいた。

 ベッドに横たわり、オメガスプリームはあくびをかいた。

「オメガスプリーム!」

 遥か足下で声がしたのでオメガスプリームはゆっくりとした動作で下を向いた。オメガスプリームにすれば狭い寝室だが、十香や士道等からすれば巨大な広場になる。

「やあ、君達ですか」

 足下には士道、十香、真那、折紙がいた。

「新居が見つかったみたいですしちょっと顔を出しに来ました」

「さっきも私の寝室に遊びに来てくれましたよ。双子の子や片目が文字盤の子に根暗そうな子、綺麗な声をした子がね」

 特徴だけで一体誰なのかすぐに分かる。

「誘宵美九からお茶の煎れ方を習いました。今から是非ともあなた達に振る舞いたい」

 オメガスプリームの申し出を断る理由はないので来客用の椅子に腰掛けた。オメガスプリームから見た人間はアリ同然の小ささで。人間が使う食器など掴みようがない程に小さいが、オメガスプリームは鼻歌を歌いながら器用に人間用のカップをテーブルに並べて、巨大なポットで紅茶を注いだ。

「デカい割には器用でやがりますね」

「全く驚き」

 オメガスプリームの煎れた紅茶を飲むと皆、驚きと同時に感嘆の声が上がった。

「美味しいですねオメガスプリームさん」

「私などの紅茶で喜んでもらえるなら光栄です」

 背もたれに体を預けてオメガスプリームはくつろいだ。

 

 カチャンとカップを置き、十香はオメガスプリームを見上げた。本当に山のような大きさだが、今の彼には優しさに満ちており威圧感は感じられなかった。

「あのだな、オメガスプリーム……シドーを救ってくれて……ありがとう」

「そんな事ですか。私は私の使命を全うしたに過ぎません」

「兄様を助けてくれたのは感謝してもしきれねえです。それと……アイザックを倒したのもあんたって聞きましたよ? 本当でやがりますか?」

「本当です。彼の生命活動の停止を私は確認しました」

 出来れば自らの手でカタをつけたかったが、結果的にアイザック・ウェストコットという巨悪を滅ぼしたのだからこの守護神にはその件についても感謝したい真那だった。

 オメガスプリームへの挨拶も終わって士道達は新居を後にした。高層ビルのような高さのテーブルに置いていたタブレットをオメガスプリームは手に取り、今日までのディセプティコンとの戦いをチェックした。特に最初に地球へやって来て人間や精霊とコンタクトを取ったグリムロックの事は念入りに調べた。

 オートボット内でも凶悪で暴力的な集団の筆頭であるグリムロックの評判はオメガスプリームがいた時代からでも芳しくはない。グリムロックが敵を粉々にする様を見ればディセプティコンと勘違いするだろう。

 ゼータプライムを慕い、グリムロックは唯一命令を素直に聞いた。

 オプティマスやアイアンハイドよりも長く生きているオメガスプリームの記憶にはセイバートロンの戦争が良く記録されてある。プレダコンとダイノボットの争いは古くから運命づけらていたのかも知れない。

 オメガスプリームがそう考えていると新居に新たな来客が来た。一台のトラックに黒いバンが十数台も並んだ。それでもスペースは有り余っている。

 赤いトラックはトランスフォームして見事な変装を解いてオプティマスとしての姿を現した。黒いバンからはまずは数十人の魔術師(ウィザード)が出てから厳重な警備を固めた。その後から赤い髪をツインテールにした琴里とその琴里に介抱されるようにウッドマンが車を降りて、車椅子に乗せた。

 人間一人に随分な警備だとオメガスプリームは思った。そもそもこれが警備になっているのかオメガスプリームから見れば疑問だ。吹けば飛ぶような存在を吹けば飛ぶような存在が警護をしているのだから。

 また後からバンを降りてウッドマンの車椅子を押す少女を見て、オメガスプリームは少し困惑した。エレン・メイザースと極めて似ていたからだ。一瞬でカレンの肉体をスキャンして姿形は似ているが、エレンとは別人であると看破した。

 

 話す準備が出来たらしく、ウッドマンは柔和な笑みを浮かべた。接触回数が圧倒的に琴里よりも少ない割にトランスフォーマーを恐れぬ胆力は大した物だ。

「初めまして、オメガスプリーム」

「初めまして、エリオット・ボールドウィン・ウッドマン卿。私にこれほどに素晴らしい住処を提供して下さったのはとても感謝しています」

「いえいえ、あなたの巨体には狭すぎますね。これで満足してもらえるなら私も嬉しいですよ。早速、本題に入りましょうか」

「そうですね、私も今回何を話すのか何も聞いていない」

 オプティマスはそう言いながら琴里を一瞥した。

「以前のオメガスプリームのDEM社への攻撃、及び崩壊はトランスフォーマーの存在を隠しきれないレベルにまで達している」

 今までラタトスク機関とDEM、そして自衛隊くらいがその存在を知っていた。しかし、月の消滅に続いてDEM社の崩壊、人類には不可能な事象が相次ぎ、一部オメガスプリームの映像が各国の首脳陣に出回っている。既に先進国ではエイリアンの地球の乗っ取り作戦と囁かれているのだ。

「人間達は我々を恐れる筈だ」

 と、オプティマス。

「せめて地球上の首脳陣だけに情報が止まって欲しいわね」

 地球人はトランスフォーマーを恐れるだろう。突然、鋼鉄の巨人達が町を歩いていれば地球はパニックに陥るかもしれない。

 だから身を隠す手段として車の姿を取ったのだ。

 今回の会談はトランスフォーマーの今後の生き方が分かれる。

 

 

 

 

 ネメシスをトリプティコンに目覚めさせるべく治療と改造に忙しいディセプティコンはあの巨大な艦を火星に置き、ショックウェーブの指揮の下に活動をしていた。さて、メガトロンを含むショックウェーブ以外のディセプティコン達は地球の海底に臨時基地を構えていたのだ。

 トリプティコン計画に加えてプレダコン計画が同時に進められて普通なら過労死をしかねないが、ショックウェーブは顔色一つ変えずに淡々と作業をしていた。

 海底臨時基地のブリッジではメガトロンが巨大スクリーンと向き合いながらショックウェーブと話していた。

『メガトロン様、トリプティコンを蘇らせるにはまだまだエネルギーが必要です。魔力生成機のメカニズムを利用したエネルゴン生成機を各パーツに取り付けてもピクリとも動きません』

「エネルギーが足らないだと? 分かった、それは儂がなんとかしよう」

 ショックウェーブの通信を切り、次にサウンドウェーブとの交信が始まった。

『メガトロン様、ちょうど良いエネルギー元を見つけまシタ』

「ほう、映せ」

 サウンドウェーブから送られてきた映像を見てメガトロンは目を見開いた。

「こ、これは……!」

 それは、滝だ。

『ナイアガラにも匹敵スルこの滝ハ半永久的に流れ続ケマス』

「良くやったサウンドウェーブ。ディセプティコン出撃だぁ!」

 ただちにディセプティコンの強奪作戦が始まったのだ!

 海底基地をメガトロンとコンバッティコンが飛び立ったのだ。

 

 

 

 

 そして、その問題の滝。

 滝に隣接した発電所では何にもの作業員が仕事に取り組んでいた。

「ふぅ~疲れたな。今夜飲みにでも行くか?」

「あ、良いですね!」

「よーし、後少しだな!」

 その時である。

 上空からメガトロン率いるディセプティコンが発電所を襲来したのだ。

「な、何だありゃぁ!」

「巨大なロボットだよ!」

「みんなで追い返しちまおうぜ!」

 作業員は口々で上げてから近辺に転がっている鉄パイプや屑鉄を掴んではメガトロンに投げつけた。

「帰れ帰れ~! 巨大な化け物め!」

「お前達の居場所じゃねぇんだよ! ハハハハ!」

「消えろぉ~!」

 足下からする罵詈雑言に加えて鬱陶しく飛来するパイプにメガトロンは苛立ったような顔をしてから落ちていた土管を拾って作業員達へ転がした。

 慌てて作業員は滝へ飛び込んだり、真横へ飛んで逃げた。

「ランブル、レーザービーク、イジェクト」

 サウンドウェーブの胸のハッチから小さなロボットが飛び出した。

「よし、総員発電所を乗っ取れぇ!」

 ディセプティコンの略奪が開始された。発電所の壁を破壊して乗り込み、発電所の機械を分解して水力発電によりエネルゴンを生み出す生成機を作っていた。作業員はあっさりと発電所を放棄して逃げ出し、ディセプティコンはあっと言う間に占領をしたのだ。

「いや、実に愉快だわい」

 メガトロンは嬉しくて笑いが止まらなかった。滝による水力発電で大量のエネルゴンキューブが生成されて行くのを見て爽快な気分だ。いつものオートボットも邪魔をしに来ないし、スタースクリームが余計な事はしないしでメガトロンのストレス値も平均にまで下がっていた。次々と生み出されるエネルゴンキューブをコンバッティコンの面々やディセプティコンの兵士が運び出し、グランドブリッジで海底臨時基地へと転送されて行った。この水力発電所だけでも十分なエネルギーを生産してくれるが、メガトロンは欲を剥き出しにして、もっと効率よく水力発電出来る方法はないかと、滝を眺めながら思案に暮れていた。この水量を増やし、且つ流れを大きく出来れば今の十倍のエネルギーを生産可能だ。水、水、っと頭の中で言葉を反芻させていると、メガトロンはピンっとある事を思い出した。そうだ、あるではないか、水を生み出す存在が……。

「サウンドウェーブ、今からコイツを連れて来い!」

 画像データを見せつけるとサウンドウェーブは頷きすぐさまレーザービークに命令した。画像データに乗っていたのは四糸乃だった。果たしてメガトロンは一体何を企んでいるのか。

 

 

 

 

 狙われているとも知らずに四糸乃はダイノボットと散歩の最中であった。ダイノボット達の健康の為、ストレスが溜らない為に定期的に外を歩かせて散歩をする必要があった。でなければダイノボット同士がぶつかりあって基地をメチャメチャにされてしまうからだ。

「やはり外は気持ちが良いな」

 スラッグは身震いさせて自然の空気を楽しみ、他の面々も賛同するように頷いた。

『キミ達ってぇ~ずっと中にいたら暴れるじゃない? だからこうしてお忍びでお散歩してるんだよん』

 よしのんがお忍びとは言ったが、全く忍んでいない。むしろ注目を集めていた。

「俺、グリムロック。基地が狭いから悪い」

「やっぱりダイノボットアイランドが消えたのが惜しいな」

 スナールは残念そうな声で言った。事件は多かったが、あの島は皆気にっていたのだ。落着きのないダイノボットが唯一暴れまわっても怒られない島だからだ。

「最近は、体が鈍ってしょーがねーよな! どっかにディセプティコンの基地でもあればぶっ壊してやるのによう!」

「あ、あの……壊すのは……可哀想です……」

「俺、グリムロック。あんな連中に同情してやる必要ない。俺なら笑う、ハハハハハ!」

 河川敷を歩いていると、怪鳥のような奇声が空から聞こえて来た。カラスがヒステリックでも起こしたのかと誰も反応しなかったがスワープだけが、周囲を見渡して警戒をした。するとどうだろうか、スワープの視界にシャッと何か黒い影が高速で通り抜けたのだ。

 レーザービークだ!

 空中から奇襲を仕掛けて来たレーザービークは光弾を放ち、ダイノボットを撃ったが当然のごとくダメージは無い。しかし、レーザービークの狙いは他にあったのだ。スワープも降下して加速をつけてレーザービークを叩き落とそうとビームを放ち、地上からは変形したダイノボット達が銃を撃って来て援護射撃をしているが誰も一発たりとも命中しない。命中さえすればレーザービークは大破して任務を遂行出来なくなるのだ、必死で避けるのも頷ける。カラカラ、と喉を鳴らしながらレーザービークを四糸乃へロックオンすると、急降下して真っ直ぐ一直線に地上を目指して落ちてくる。

「撃ち落とせ!」

 グリムロックの命令でより一層弾幕に厚みが増したが、下手糞な射撃では何万発撃とうともレーザービークには当たらない。グリムロックの陰に隠れる四糸乃をレーザービークの鋭い爪が捕え、EMPを破裂させて全員に目晦ましを行うとさっさと退散してしまった。

「グリムロックさん! 助けてー! 助けてー!」

「よ、四糸乃ぉぉぉぉぉ!」

 四糸乃が誘拐されてしまった。グリムロックは怒りに任せて地面を殴るとアスファルト舗装をされた道路に拳がめり込み、バリバリと音を立てて砕け散った。赤い肉体のグリムロックに更に赤く燃えがるとスラッグは冷静な態度で肩に手を置いてグリムロックに冷静になるよう説得を始めた。

「待てよ隊長、怒るのは分かるがまだだ」

 グリムロックはスラッグの手を払う。

「四糸乃を、助ける!」

「そうだ、だけど一旦冷静になれって。四糸乃はディセプティコンに誘拐された。その理由を考えるんだ」

「理由?」

 スワープはグリムロックの肩に止まる。

「あいつ等の考えそうな事か……何だろ? 分からないな」

 スナールは首を傾げた。スラージも同様の仕草をした。

「グルルルル……! 考えても、仕方ない、匂い、辿れ! 見つけて、あいつ等を破壊する!」

 四糸乃の匂いはよく覚えている。全員ビーストモードに戻ると鼻を利かせて匂いを頼りに追跡を開始した。

 

 

 

 パーセプターは北極から持ち帰った球体のポットの調査をオプティマスから頼まれていた。しかし、ますそれには固まった氷を溶かす必要があり、保管庫を温かくして気長に待っている事にしていた。今日は特別、やる事もなくオートボットはオメガスプリームと会って帰って来た狂三、七罪、美九。耶倶矢と夕弦の相手をしていた。冬場でも暖房の利いた部屋でゆっくりせずに運動がしたい八舞姉妹はバスケをしようとせがんで来たが、運動が苦手な美九はパス、ゲームに熱中している七罪もパス、狂三も七罪とゲーム中なのでパスした。耶倶矢と夕弦は口を尖らせながらジャズやアイアンハイドにバスケをせがんで来た。

「かか、ジャズよ。我らとバスケをする権利をやろう!」

「懇願。バスケをしましょう。トランスフォーマーのバスケです」

「バスケかい? でも人数が足りないな」

「私は遠慮するよ。代わりにワーパス、お前さんがやってやれ」

「OK、爺さん! 俺様がバスケの激しさをタップリと教えてやるぜ!」

 とりあえず、二対二でも始めようとしたと同時に広間の奥、基地の保管庫がある方から重たい何かが倒れたような轟音が響いて来た。あまりに大きな音だったので全員がビクッと背筋をピンと伸ばして驚いた。

「嘲笑。やーい、耶倶矢がビビってます」

「はぁ!? ビビってねーし! 夕弦の方がビビってたし!」

 二人の可愛らしいやり取りを微笑ましく見ていたが、パーセプターとジェットファイアーは怪訝な表情で通路を睨んだ。

「変だね……。見て来よう」

 パーセプターがテレトラン1から離れようとすると、狂三がゲームのコントローラーを置いた。

「わたくしが見て来ましょうか? ちょうどゲームにも一区切りつきましたし」

「ああ、助かるよ」

 オートボット基地の巨大な通路を狂三は一人歩いて行く。思えば、基地の中を詳しく見た覚えがない。運動をするグランドとかはよく立ち入るが基本的には広間に集まっている。小型の無線機を渡されて狂三はスイッチを入れた。いつのまにここまでドックを増設したのかと思える程に今のオートボット基地は広い。総面積はそうとうな物だが、一部屋が小さく区切られているので、これではダイノボットが狭い狭いと文句を言うのは頷けた。

 とにかく何か異常を発見してパーセプターに伝えてあげようと保管庫へ続く道を急いだ。その道中でカツン、カツン、と何か金属の転がるような音を耳にした。狂三が振り返って床を見渡すと、ボルトが一本外れてしまい転がっていたのだ。流石はトランスフォーマーサイズのボルトだ。狂三が広いあげると、手にひらを優に超える大きさをしてまるでバトンのようだった。小首を傾げてとりあえずこれもパーセプターに連絡しようとした。まずは保管庫のチェックを急ごうと再び歩き出したと同時に狂三は何かに躓いて転んだ。

「痛いですわ……」

 膝をさすりながら一体何に躓いたのかを確認すると、狂三の足下には大きなくりくりとした目を二つ、頭は大きく、小さな足を4本と前足をすりすりと合わせながら非常に愛らしい小さなロボットが姿を見せた。大きさは狂三の膝までもない、小さなこの生物を見て狂三はパアっと顔が明るくなる。

「まあ! 何ですのこの可愛らしい生き物は!」

 小さなそのロボットは狂三をよく観察して匂いを嗅ぐような仕草をした。

「どうしたんですの? あ、まさかこれで遊びたいんですの?」

 さっき拾ったボルトをロボットの前に出して振ってやるとぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを露わにして円を描くように走り回った。その様子にも狂三は心をときめかせて、癒された気持ちになった。快くボルトを投げると小さなロボットは元気よくボルトに飛びつき、激しいドリルのような音と共に食べてしまった。

「あらあら、お腹が減っていましたの?」

 ロボットはボルトを食べ終えると狂三に近づいてから頬を足にすりつけて甘えたような行動を取った。行動がいちいち可愛らしくつい表情が緩んでしまう。狂三はロボットを抱きかかえるとそのままみんなのいる広間へと帰って行った。

 広間では天井のライトがパチパチと点滅をしたり、テレトラン1の動作不良を起こしたりと基地内には明らかに不具合が多発していた。

「やはり変だな。今朝、調べた時は異常がなかった筈なんだが……」

「パーセプターさん、ボルトが外れていましたわよ」

「ああ、おかえり狂三――って、ヴォワァァァァァァァァァァァァ!?」

 パーセプターはひっくり返り、必死の思いでジェットファイアーの後ろに隠れた。

「どうしたと言うんだいパーセプター――。うわあああああああああッ! み、みみ! ミニコンだぁぁぁぁぁぁ!」

 ミニコン、その言葉を聞いて基地内は騒然となった。

「きゃああああ! ミニコンだ!」

「た、助けてくれぇぇぇ!」

「は、早く始末するんだぁ!」

 いつも勇猛果敢なワーパスでさえ大きく取り乱して逃げ回った。ミニコンと比較すれば十数倍はあるトランスフォーマーが揃って怯えるのは中々、見れたものではない。

「えぇ~どうしたんですかぁ、みなさん。こーんなに可愛いんですよ?」

 狂三が持ち帰ったミニコンに精霊達があつまり、つついたりして反応を窺って楽しんでいた。

「だ、ダメだぜ! 早くそいつをどうにかしてくれよぉ!」

「一刻も早く潰すんだ!」

「ぷすー! 大きいナリしてだらしないな~もう。これの何が怖いのよ? 可愛さで負けて人気取られるのが嫌なんでしょ?」

 七罪は冗談を言ったがオートボット達に冗談を言っている暇はなかった。

「そいつらの餌は金属なんだ。特に超ロボット生命体の金属は大好物なんだ!」

 必死の形相でパーセプターは説明した所でミニコンが起き上がり、大きな瞳がオートボットを捉えると突如、口を大きく開き細かく鋭い牙を並べた口を動かしてジャズに食らいついた。

「う、うわああああああああああ! 助けてぇぇ!」

 足の表面を食らいつき、素早く足を上ってくるミニコンを見て初めて精霊達はゾッとした。そして狂三は歩兵銃を構えると躊躇いなくミニコンを打ち抜いた。力無く、地面へ落ちるとミニコンは火花を散らし、動かなくなる。

「これは大変な事態だぞ!」

 ジェットファイアーがスペースジェットに変形して基地の中を飛行して急ぎ、保管庫へ向かうと予想した通りの光景があった。壁は食い破られ、保管庫の中に置いてあった球体のポットも同様中から食い破られた形跡があった。間違いない、ミニコンを保管していたポットだ。どういう経緯で地球に流れ着いたかは不明だが、この緊急事態を一刻も早く収拾をつけねばオートボットに明日は来ない。

 

「こちらジェットファイアー、やはりあのポットはミニコンを格納していたみたいだ」

『分かった、ジェットファイアー。直ぐに戻ってくるんだ』

 単独行動は死を招く危険がある。ジェットファイアーは寄り道はせずに保管庫を出ると変形して広間へと戻って来た。

「ミニコンがこの基地を食い荒らしていたら大変だ。せっかくの基地が餌場になってしまう。私達も含めてね!」

「パーセプターさん、ミニコンは何匹いるんですの?」

「わからない……けど数万といる」

 数万のミニコンを想像してパーセプターは身を震わせた。考えたくもない光景だからだ。

「質問。ミニコンに弱点はないのですか?」

「弱点かい……? 構造はサイバトロニアンだから急激な寒さには弱い筈だ……」

「ほほう、極寒の魂まで凍てつく氷であるか」

「四糸乃ォォー! 早く帰って来てくれぇ!」

 アイアンハイドはみっともなく叫んだ。だけども仕方がない。人間で言うならピラニアの群を相手にしているようなものだ。「ミニコンの排除はともかく、まずは基地の復旧を急ごう! ジェットファイアー、君は耶倶矢と夕弦と行くんだ」

「分かった」

「心得た!」

「了解。ジェットファイアーは夕弦が守ります」

「ジャズは美九と、狂三はアイアンハイドと七罪はワーパスとだ」

 そしてパーセプターは一人で広間に残って手が届く範囲で修復作業に取りかかった。

 

 

 

 

 発電所でエネルゴンキューブを生み出してレーザービークの帰還を待つメガトロンはサウンドウェーブにレーザービークが早く帰って来るようにと命令した。

「サウンドウェーブ、レーザービークにもっと急がせろ」

「ご安心ヲ。到着シタ」

 サウンドウェーブが指を差すと四糸乃を運ぶレーザービークの姿が確認出来た。

「おぉ! 良くやったレーザービーク」

 甲高い声で鳴き、四糸乃をゆっくりと降ろすとレーザービークはカセットの姿となってサウンドウェーブの胸の中へ帰って行く。

「ようこそ、四糸乃。儂にはお前の力がいる。協力してくれるな?」

 突如、ディセプティコンの大帝の前へ引き出された四糸乃は頭を抱えて小さくなり、怯えてしまっている。

「怯える必要はない。儂等はお前に乱暴するつもりで呼んだのではないからな」

 メガトロンは右腕のフュージョンカノン砲を外すと四糸乃を出来るだけ優しくつまみ上げた。

「お、降ろして……下さい……」

「では、儂の申し出を受け入れるんだ。ここの滝の水量を増やせ、そうすればいつでも帰って良いぞ」

「へ……?」

『いが~い、もっとよしのん達に乱暴してああ、もうめちゃめちゃにするのかと思ったよん!』

「だから乱暴する気はないと言っただろう。ほら、この滝の水量を増やして流れを激しくするだけてお前さんは自由だぞ」

 メガトロンの言葉を完全に信じ切るのは危険だが、四糸乃に他に取れる選択肢はなかった。

 

 メガトロンの申し出を受け入れて四糸乃は発電所の屋上へと降ろされた。そこからはよく滝が見えて壮観な眺めだ。

「ほら、早くやらんか」

 せかされて四糸乃はおどおどとしながら霊力を発動した。流石は水と氷の精霊と言うべきか滝の水量は目に見えて分かる程に増幅し、エネルゴンキューブはどんどん生産されて行く。

「いやはや、実に愉快な眺めだわい」

『ほら、よしのん達の仕事は終わったよ。帰ってもいいよね?』

「ああ、そうだな」

 メガトロンが四糸乃を掴む。

「帰れるならな」

 サウンドウェーブが用意した小瓶に四糸乃を放り込み、きっちり蓋を閉めた。

『騙したな悪のロボット!』

「フハハハ! 頭を使え頭を。妙な事を考えるなよ? さもなければ――」

 落ちていたフュージョンカノン砲を取り付けてブロウルが持って来た作業員がたくさん詰め込まれた入れ物に砲口を突き付けた。

「人間共を木っ端微塵にしてやるからな!」

 高笑いを上げ、メガトロンは四糸乃に更に水量を増やすように命じてエネルゴンキューブの様子を見に行った。

 

 

 

 なんとかして基地の破損個所を見つけ出してテレトラン1を稼働させる必要があった。原因は分かっている。エネルゴンを循環させるパイプがどこか食われてしまってまともに機能していないのだ。

 冷静沈着、勇敢なる空の戦士ジェットファイアーは姿勢を低く取ってやや引き腰で銃を構えていた。

「耶倶矢、夕弦! そんなに先々行かないでくれよ。いつ連中が襲いかかって来るか分からないからね!」

「かか、情けないぞジェットファイアー。天空の騎士がそれではみっともない」

「安心。ミニコンなど私達の力で蹴散らします」

「そうは言っても……怖いんだよ……! 君達も虫に肌を食い破られて体の中を食い散らかされるのは嫌だろう?」

「イッー! やめてよジェットファイアー! そんな痒くなるような事言うの!」

 想像したらとても恐ろしくなって背筋に汗が滲み出した。不意にどこかでカチャンと音が聞こえるとジェットファイアーは飛び上がってパルスショットガンを出鱈目に発射した。そして天井が破れて大量の切れたコードが垂れた。

「うわああああ! いやだぁぁぁ! うわ、うわああああ!」

 ジェットファイアーはコードをミニコンと勘違いして手をバタバタさせて暴れまわっている。

「ジェットファイアー! ちょっと落ち着いて!」

「安静。それはミニコンではありません!」

 二人に言われてジェットファイアーは落ち着きを取り戻した。

「はぁ……何だコードか」

 しかし、天井に隠れていたミニコンが転がり落ち、ジェットファイアーに襲いかかった。

「いやあああああああ!」

 危うし、ジェットファイアー。

 

 

 

 アイアンハイドと狂三ペアもまたミニコンに怯えるアイアンハイドを宥めながら破損個所を探していた。

「あーあ、まさかあんなに凶悪だなんて残念ですわぁ」

「そうだろそうだろ! まだダイノボットの相手をしている方が遥かにマシだ!」

「それは、何とも言えませんけど……。あ、あれを!」

 狂三がエネルギー漏れを起こしているパイプを見つけ、アイアンハイドは少しホッとした。それと同時にダクトから顔を出すミニコンも発見してしまった。

「く、狂三! 奴だミニコンだぁぁぁぁ!」

 両腕を重火器に変形させてアイアンハイドは狂ったように爆弾とロケット砲を発射して壁ごと吹き飛ばした。壁に穴を開けた結果、大量のミニコンが這い出して来た。

 危うし、アイアンハイド。

 

 

 

 

 七罪とワーパスは既に漏れていたエネルゴンの循環パイプの修復を完了させて広間へ帰ろうとしていた。ワーパスは自分より遥かに小さな体の七罪を前にして隠れるように縮こまって歩いていた。

「あの、どんなに頑張っても隠れるのは無理だと思うんだけど?」

「お前達はミニコンに襲われないからそれだけ余裕なんだって!」

「まあ、ちょっとゾッとはしたけどさ」

 ミニコンがジャズを食べようとしたのは確かに恐ろしい光景だ。七罪が工具箱を誤って滑らせて通路に落とした瞬間だ。

「きゃぁぁぁぁ! ミニコンが来たぞぉぉ!」

 ワーパスは狂乱してガトリング砲を所構わずに撃ちまくる。

「ワーパス、ワーパス! 大丈夫だって工具箱落としただけだから!」

「はぁ……はぁ……何だ……工具箱か」

 ワーパスが安堵の溜め息を吐くと大量の金属の歩く足音がした。ワーパスと七罪の先にある分かれ道、そこを曲がってトランスフォーマーの匂いに誘われてミニコンの群が到着したのだ。ワーパスは血の気が引き、ガトリング砲を発射した。

「きゃぁぁぁぁ! 来るなあぁぁぁぁ!」

 危うし、ワーパス。

 

 

 

 

 ジャズと美九のペアも破損個所を見つけて帰る途中だ。既に何回か襲撃を受けておりジャズはへろへろだ。インセクティコンの群にも合体兵士にも恐れず立ち向かったジャズも今回は怯えきっていた。

「あのぉ、ミニコンってセイバートロンにもいたんですかぁ?」

「いたよ! でも殆ど見かけなくなったね。噂では天敵がインセクティコンとか……」

「インセクティコン? ああ、あの大きい虫さんですよね?」

「そ、そうだよ」

 何とか平静を保とうとしているが、落ち着いていないのは目に見えて分かった。

「見た目は可愛いのに」

「君はハムナプトラの虫が人間を食べるシーンは見たことあるかい?」

「ありますよ。止めて下さいよジャズさん。気持ち悪い」

「私達からしたらそれと一緒なの!」

「まあでも広間に帰ってしっかり守りを固めましょうよ!」

 帰るまでの道、既に悪夢は直ぐそこにまで迫っていた。独特な駆動音に大量の足音をジャズは聞き逃さなかった。スポーツカーにトランスフォームして美九を乗せると一目散に逃げ出した。

 逃げる最中、広間の方から悲鳴がした。

 

『オ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!』

 

「パーセプターの悲鳴だ!」

 ジャズはエンジンを更に噴かして広間へと突入すると既にそこはミニコン地獄となり果てていた。

「た、誰かぁぁぁ! 助けてくれっ――ヴォワァァァァァァ!」

 美九はジャズから降りるとくるりとターンをしてから空間にパイプオルガンを呼び出した。

破軍歌姫(ガブリエル)輪舞曲(ロンド)!」

 物理的な音波破壊攻撃はパーセプターに群がるミニコンを一掃、広範囲且つ高威力な有効打だ。全身傷だらけのパーセプターは地面を這いながらテレトラン1のスイッチを入れた。テレトラン1が上手く起動して少しは安心出来た。

「た、助けてぇ~……」

 もう叫ぶ力もないのかワーパスにアイアンハイド、ジェットファイアーのチームも破損個所を直して無事に帰還した。全身に噛みつかれた傷がある時点で無事とは言い難いが死人が出ていなければこの際構わない。

 もう殆どフラフラで全員元気は無い。次の襲撃が来れば持ちこたえられる自信はなかった。精霊達は各々、武器を構えたが数万のミニコンからオートボットを守れるとは思わなかった。

「パーセプター、な、何か良い案は無いのか?」

 アイアンハイドは息も絶え絶えに聞いた。

「私も思いつかない……」

「あ、わたくしにいい考えがありますわ!」

 狂三のいい考えにパーセプターは興味を示した。

「グランドブリッジを開いて北極に送り返すのですわ」

「いい考えだね。でも誰が誘導するんだい?」

「オレ等の中から餌を出せってのか! 狂三の鬼!」

 そうこう言っている内にあのカタカタと気持ち悪い足音と共にダクトを突き破ってミニコンの大群が広間へ乗り込んで来た。

「四の五の言ってられないな。グランドブリッジを開く!」

 パーセプターは最後の力を振り絞りグランドブリッジのレバーを下げた。いつもの場所に光の道が形成される。精霊達がミニコンを撃ち落としているが、早くも攻撃を突破してオートボットに襲いかかっている。

「ヴォワァァァァァァ!」

だが、誰も誘導出来る力は残っていない。

 危うし、オートボット!

 

 

 

 

 トリプティコン復活までの十分なエネルギーを蓄えたメガトロン一行。オートボットも邪魔しに来ず、こんな嬉しい日は無い。

「ハッハッハ! 素晴らしい! これほどのエネルゴンキューブは見たことがない! 貴様にも感謝するぞ四糸乃! さあ、この愚かな作業員共を殺されたくなければ働け!」

 ケースに押し込まれた作業員達はギリギリと奥歯を噛み締めた。自分達の所為で何だか良く分からないが、とりあえず小さな女の子が苦しんでいると思えば腹が立った。

「この、この! みんなこんなケースを割っちまおうぜ!」

「おうよ!」

 作業員はケースに体当たりをかまして破ろうとした。メガトロンやサウンドウェーブは笑いながらそれを見た。

「ハッハッハ、バカ共めが。それは儂等を閉じ込めるようの強化ガラスケースだぞ。貴様人間共に破れる筈が――」

 バリィンと音を立てて作業員達のガラスケースが砕け散ったのだ。

「そんなバカな!? サウンドウェーブ! 奴等を捕まえろ!」

「ハイ」

 サウンドウェーブが手を伸ばして作業員を捕まえようとすると背後からブロウルが投げ飛ばされて来た。

「気をツケロ!」

「わ、ワリィなサウンドウェーブ。ってかメガトロン様、大変でさぁ! ダイノボットが!」

「何ぃ!? ダイノボットか!」

 メガトロンが忌々しくその名を口にすると森林を突き破ってダイノボットが発電所前へと乗り込んで来た。

「四糸乃、助けに来た!」

 ディセプティコン兵士のブラスターなと全く利かず、巨大な顎で食いちぎり、グリムロックはメガトロンの場所を目指した。

「何だあのバカでかい恐竜軍団は!」

「でもあの邪悪なロボットをぶっ倒してるぜ! きっと味方だ!」

 作業員は口々にそう言ってダイノボットの応援をした。

「コンバッティコン、ブルーティカスに合体しろ!」

 オンスロートの代わりにメガトロンが命令を下した。スィンドル、ブロウルが素早く脚部を形成、胴体部分にオンスロートが乗り、ブルーティカス誕生まで後僅か、その時、スラッグの強烈な突進が未完成のブルーティカスに激突した。ブルーティカスへの合体がキャンセルされてコンバッティコン達は尻餅をついたり、頭から落下したりと散々な目にあった。

「ぐぬぬ……ブルーティカスまでもか! ディセプティコン、撤退、撤退ぃ~!」

 メガトロンの指示で撤退を始めようと立ち上がるコンバッティコンにスラージは尻尾と首で叩き、谷底へと叩き落とした。

「メガトロン! お前も、落ちろ!」

「黙れ、時代遅れの生き物めが!」

 フュージョンカノン砲をグリムロックへお見舞いしたが、グリムロックの装甲には利かず胴体を噛みつかれそのまま滝壺へと落とされ、サウンドウェーブもスワープに掴まれてから真っ逆様に落ちて行った。

「ワハハハ、水泳でも、楽しめ! 悪いことした罰だ! 四糸乃」

「は、はい……」

 グリムロックの言いたい事を察して四糸乃は滝の水量を増加させてディセプティコンを押し流してしまった。

 グリムロックは変形してから四糸乃が閉じ込められたビンを裂いてから中から出してやる。

「あの……やっぱり……可哀想……じゃないですか?」

「メガトロンの野郎にはあれくらいでちょうど良いのさ」

 ビーストモードに戻るとグリムロックは四糸乃を頭に乗せた。

「おいおい! 恐竜軍団達! ありがとうな俺達と仕事場を守ってくれて!」

 作業員は嬉々とした声をあげて走り寄って来た。バッチリ姿を見られてもう言い逃れは出来ない。

「最っ高にクールだぜ! 恐竜がロボットに変形!? 格好良すぎだろ! 君達何者!? サインくれよサイン!」

「俺、グリムロック。オートボット、正義の戦士。あいつ等ディセプティコン、悪いロボット」

「分かりやすい!」

 どこまでも恐れを知らない作業員達はグリムロック等に分かれを告げた。ダイノボットもまた手を振って基地へと帰還した。

 

 

 

 ミニコンの攻撃を凌ぎ、耐え、オートボットは嵐のような猛攻に必死で抗っていた。塗装は剥げてジャズの美しいボンネットには穴も空いていた。

「警告。もうダメです。押さえ切れません!」

「死に場所は地球か……悪くない」

 ジェットファイアーが諦めの言葉を口にした。

氷結傀儡(ザドキエル)!」

 基地内に体の芯まで凍りつきそうな風が吹き抜け、さっきまで暴れまわっていたミニコンがたちまち氷結してその動きの一切を止めてしまった。

「はあ、はあ、四糸乃!? 四糸乃かぁ!? 助かったぁぁぁぁ! お前を待っていたんだ!」

 ワーパスは飛び上がって喜ぶと力尽きてひっくり返ってしまった。

「四糸乃ちゃん、もっと早く来て下さいよぉー! 基地では大変だったんですからね!」

 美九はぷくっと頬を膨らませて言った。

「き、基地の外から……パーセプターさんの……絶叫が聞こえて……急いで戻りました」

 四糸乃の他にもダイノボットが帰還している。あのダイノボットがミニコンを目の前にした時の反応も気になるが、何はともあれ基地はすんでのところで救われた。

 


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