デート・ア・グリムロック   作:三ッ木 鼠

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好き放題やった結果がこれさ☆


40話 パーセプターの発明品 PART2

 さて、パーセプターの発明品 PART2を始めよう!

 パーセプターの作ったゲームにより電脳世界へとダイブしたオートボットと精霊達。各々、最初のスタート地点からの近くの村にて初期クエストとは思えない高難易度のクエストを受注していた。

 そんな中、オプティマス・プライムと琴里は平和に暮らしていたが、ゲリラ豪雨のごとく現れた魔族の襲撃を受けて琴里を誘拐されてしまったのだ!

 

 横一閃、一筋の光が流れた。スライムの体は二つに両断されて生命活動が停止すると腐れて地中へと溶けてなくなって行った。刃についたスライムの体液を払い、士道は剣を鞘へ収めた。これで一〇〇体目のスライムを撃破したわけだが、士道のレベルはようやく三になった所だ。これだけ敵を倒しても貰える経験値は微々たる物だ。ここまでレベル上げが苦痛なゲームも珍しいかもしれない。

 士道の中でこのゲームはクソゲーに認定していた。現在の士道のHPが二〇〇あるがオークの一撃で一五〇も持っていかれる。オークの王のラウルの一撃を食らえば士道は即死だ。せめて一発は耐えれるようにと十香達がレベル上げを手伝ってくれている。今のところは目に見える成果は無い。

「想像を絶するレベルの上がりにくさだな」

「シドー、次のレベルまでどれくらいだ?」

「後……二〇〇〇ポイントくらいだな」

「スライムだけじゃあ何年かかるか分からないぞ。オークやトロルとかも倒したいが……」

 肝心のレベルが足りないので士道では太刀打ち出来ないのだ。

「仕方ない。私が士道を守る。十香とワーパスでオークの王を倒そう。私達のレベルならこれくらい簡単だ」

「何か……凄い世話をかけてるな。ごめん」

「良いのだ良いのだ。気にするなシドー」

 レベル上げは完全に諦める方向で進み、オークの王が統べる領土へと足を踏み入れた。その地に木々は無く、原始的なからくりと歯車が回り、大地は枯れて死に絶えている。空気は淀み腐った臭いが立ち込める酷い地域だ。時々、ゲームの世界だと言う事を忘れてしまいそうになる。

 流れる川もどす黒く濁って、厳しい生存競争に負けたオークの死体がぷかぷかと浮いて、水面を当て所なく漂っている。名もない荒野をワーパスが先頭を行き、最後尾をアインハイドがついて行く。マップには行き先が光って表示されているので余程の事が無い限り道に迷う事は無い。

 荒野の空には雲に隠れた太陽が浮かんでおり、地面を曇らせている。しかしどうしてか体を襲う熱気は凄まじく、額や首筋から汗が滲み出る。辺りにはオークの無惨な死骸が転がっていた。その死骸には禍々しいカラスがたかり、肉をついばんでいる。

 黙々と歩を進めているとワーパスは頭を撫でて汗を拭うと元気の良い声を出した。

「おい! この小山を越えたら目的地だぞ!」

 ワーパスが指した山は確かに斜面はなだらかで山という程の高度も無く、みんな安堵のため息を吐いた。

「士道平気か? ここの空気は本当に悪いからな」

 ステータスには状態異常のような物は確認出来ないが、リアリティのある臭いや暑さに参ってしまっている。アインハイドに背を押されながら、更には十香に手を引かれながら山を登った。ワーパスは大股で山を駆け上がり、いち早く小山の頂に辿り着くと両手を挙げて盛大に叫んだ。

「イェェェイ! 待ってろよオーク野郎!」

 簡単に蹴散らしてやろうと背負ったハンマーを用意した。意気揚々と準備を進めるワーパスの意気込みに水を差すようにアインハイドは指摘した。

「…………。ワーパス、良く見ろ」

「あぁ?」

 アインハイドの言葉にワーパスと十香は首を傾げた。

 ラウルの居城の前と士道達の小山の間には広大な荒野が広がっている。荒野の色は黒く薄汚れて見えていたが実は違うのだ。荒野が黒いのは汚れているからではない。オーク達の戦列、数え切れない程の膨大な量のオークの兵士が大地を黒に染め上げていたのだ。

 その事に気付くと全員、揃って肩を落とした。オークは雑魚に過ぎないが万を越える数がいれば面倒にも程がある。ここは正面から行くのではなく迂回してこっそりと忍び込むのが得策だろうとアインハイドは発案した。

「忍び込むか」

「忍び込む? オレ達が?」

 士道は戦力外としてここで揃っているメンツは誰がどう見ても忍び込むようなスパイのようなタイプではない。正面切って突撃するタイプだ。

 突撃タイプとは言ったものの流石に大地を埋め尽くすような数のオークを相手には出来ない。

 

 ちなみに付け加えて説明するがこのクエストは最初期のクエストである。

 

 攻め方について思案に暮れていた。ついと、十香は浮かび上がって来た疑問を口にした。

「オークはあれだけ集まって何をするのだ?」

 十香の一言にその場は一度水を撒いたように静かになった先で叫び声が小山の尾根に轟いた。

「それだぁぁぁぁぁ!」

 声を発したのはさっきまで死にそうな顔でぐったりと横たわっていた士道だ。あまりの大声に三人とも反射的に耳を塞いでしまった。一体何にそこまで過剰に反応したのかアインハイドは尋ねた。

「いきなり何だ騒々しい」

「オークの大群があれだけ武器を揃えて……うっぷ……戦争の準備を……うっ……吐きそ……。戦争の準備を整えているんだったら……ぁぁ……」

 やはりレベルに合っていない領域に踏み込んだ所為か、士道は全てを言い終える前に大の字になって倒れてしまった。

「シドー!? シドー大事ないか!?」

 戦闘不能の士道を十香が介抱してやった。膝枕で士道に対応しているが、鎧のゴツゴツした感触が邪魔で十香本来の太ももの柔らかな感触は味わえなかった。

 士道が途中まで話した所でアインハイドは何が言いたかったのかしっかり把握していた。

「オークがどこかに攻める準備をしているって士道は言いたげだったな」

「ゲームってそんな勝手にイベントが進むのかよ?」

「分からん。だがあのパーセプター製作だぞ?」

「インテリ野郎に作らせたらどこまで作り込むか想像も出来んな」

 パーセプターの作り込みはどれほどの物かは今まで見てきた風景を思い出せば分かる。ほぼゲームバランスなんて考えていないだろう。

「オークの進軍を止めるならやはり……頭を取るしかないな」

 軍団の奥にそびえる崩れかかった居城に目を向けた。

「作戦は私とワーパスが注意を引く。十香はその間にラウルを討て」

「うむ! 了解したぞ!」

 

 

 

 

 オークの群れは列を作り、鎧兜や武具の整備に忙しい。これから近くにある例の村を攻め落とす手筈になっていた。互いに装備を確認し合っていると、目の前の小山を勢い良く下って来る黒人男性と背の高い老紳士が映った。アインハイドは背中にふらふらの士道を背負いながら走っている。

 敵と判断したオークは弓矢を構え、弦を引き絞り、一斉に矢を放つ。

「矢だぞアインハイド!」

「止まれ!」

 腕を前へ突き出しアインハイドは透明なシールドを展開した。シールドの範囲は二人を矢の雨から守り抜くのに十分な範囲であり、飛来した矢はシールドにぶつかると折れて、次々と足下に転がった。シールドを取り払い、オークが構える盾を砕きながら大群に突っ込んだ。

 一方、十香に与えられた使命はオークの王・ラウルを討伐する事にあった。崩れかかった城の外壁を駆け上り、防衛に当たっていた兵を簡単に切り捨てて、勢いを殺さずに展望台へと躍り出た。

 展望台に巣くっていた弱々しいオークは十香を恐れて逃げ出して行く。

 ラウルは振り返り様にいびつな形をした剣を引き抜いた。顔や体には無数の傷跡があり、皮膚は死人のように白くて血の流れを感じなかった。

 十香は紫色のオーラを放つ剣を片腕で掴み、振り上げた。

 歩調を早める。

 ラウルもどっしりと力強い歩みから走り出し、二人の距離は徐々に縮まって行く。

 戛然、空中にラウルの折れた刀身が舞った。刃はクルクルと回りながら石材の床に突き刺さった。飛んだのは刃だけではない。胴体からズルッとラウルの首がズレたかと思うと、その巨大な頭部は床を転がった。

 とても呆気ない決着に見えたが、二人のレベル差を考えれば当然の結果だ。相手はただのレベル五〇、十香はプライムモードのレベル七〇。実に一二〇のレベル差なのだから。

 ボスを倒すと自然とオークの大群も消滅してしまった。

 

 

 

 

 何もしていない士道だったが、さっきのクエストクリアのおかげでなんとレベル十五まで上がったのだ。

「ふぅ~! いやあ助かったよみんな! ありがとな!」

「意外と簡単なクエストで助かったわ」

 オークの領地から戻った士道はすっかり元気を取り戻していた。最初のクエストが終わって、ようやく町へ行く権利を手にし、村長の家の地下に用意されてある転送装置を使って町へと転送された。

 トランスフォーマーのグランドブリッジというよりフラクシナスの転送装置に似た感覚だ。景色はがらりと変わり、四人の目に入って来た光景は壮大な物だった。白亜の城が一際目立ち、町の広間には噴水が作られてそこを中心に店が並び、活気に溢れている……筈だった。

 実際にオンラインゲームなら他のプレイヤーが見られただろうが、残念ながらこのゲームにいるプレイヤーは総勢、二十人にも満たない人しかいない。最低限のNPCばかりでサービス終了寸前のような過疎状態だった。

「誰もいない……。俺達が一番乗りなのか?」

「フィールドが壮大な割りにプレイヤーがオレ等だけだからスゲーしょぼく見えるぜ」

 町の転送装置は一個所、つまり士道等はここで待っていれば他のメンバーが次々と送られて出会える筈だ。一番乗りと思って待っていた四人、ところが一人のプレイヤーが近付いて来た。

「士道、十香! 君達もやっと来たのか!」

 声をかけて来たのはオプティマスだが、人間の姿をしている所為かだれもオプティマスだと気付かない。全員、顔を見合わせながら該当しそうな人物を頭に浮かべていたらオプティマスが先に答えを明かした。

「私だオプティマスだ」

「あぁ、オプティマスか!」

 ワーパスは納得したように相槌を打った。

「見慣れない二人はワーパスにアインハイドだな?」

「よくわかりましたねオプティマス」

「当然、雰囲気で分かる。ところで君達はプレダキングは見ていないか?」

「プレダキング? まさか、ディセプティコンがいる筈ないですよ!」

「そうだが……確かに見たんだプレダキングを」

 オプティマスやアインハイド、ワーパス等三人がプレダキングの存在を危惧して慌ただしい空気が流れていたが士道は、少し考えるとオプティマスの言うプレダキングが分かった気がした。

「オプティマス、それってドラゴンじゃないかな?」

「ドラゴン?」

 オートボットの三人は一斉に首を傾げた。

「羽が生えた火を吐くトカゲだよ」

「やっぱりプレダキングじゃないか!」

「だから……えぇ~っと……プレダコンみないなのを地球じゃあドラゴンとか竜って言うんだよ!」

「う~ん、なるほどな」

 オプティマスは顎をしゃくって納得した。

「竜がどうしたの?」

「そうだ、大変なんだ私は家で琴里と二人で過ごしていた……。だが魔族の一団が家に攻め込み、琴里を誘拐した……」

「琴里を……!?」

 士道の目の色が変わった。ゲームであっても琴里が誘拐されたと聞いては穏やかではいられない。

「助けに行きたいが、場所が分からない。手がかりは竜が誘拐したくらいだ」

「手がかりが少なすぎるな」

 琴里の救出は困難を極めるだろう。

 その時である。

 突然、空からのアタック。

 降り注いだ火炎を十香が切り払い、全員事なきを得た。大空を巨大な翼を持った生き物が飛んでいる。強固な鱗が全身を包んでいた。太古から生き延びていたのだろう、長い首をゆっくりと動かしてプレイヤーを索敵している。

 邪悪で黄金に輝く二個の目はオプティマス達を発見すると、一気に高度を下げて火を吐き出した。

「伏せろ!」

 アインハイドがシールドを張って防御した。

「剣や斧じゃああんな竜、どうしようもないですよ!」

「私に任せろ」

 オプティマスが一歩前へ出た。オプティマス・プライムの職業は“コマンドー”。その特性は多彩さにあった。

 腕時計を確認、何やらボタンを押している。その間にも竜は旋回して向かって来ているのだ。

「危ないオプティマス!」

 士道が叫ぶと、オプティマスは竜の炎に包まれた。いくらプライムモードのレベル八五と言ってもイベントボスキャラの竜の炎を受ければただでは済まない。

 ちなみに死ぬとゲームから強制シャットアウトされて現実に戻される。

 

 まとわり付く炎を払いのけ、オプティマスは変わり果てた姿を現した。全員を纏うのは迷彩柄の衣類ではなく赤い装甲が首からつま先まで余すことなく守っている。直にヘルメットが装着される。顔にバイザーが降りて戦闘準備完了だ。

「あ、アイアンマン?」

「違う、ターボマンだ!」

 士道の間違いにオプティマスは直ぐ訂正して来た。似ていない事はないのは確かだ。腕からブースターのスイッチがスライドされてオプティマスの手に収まるとスイッチを押した。

 背中のアーマーが展開、変形を経て鉄の羽とロケットブースターを出した。

「行くぞ、ターボタァァァイム!」

 二基のブースターが点火しオプティマスの体を勢い良く空へと持ち上げ、飛行機雲を引いて大空を舞った。

「良いなぁ、私も飛びたいぞ」

「飛ぶのは危険だから止めとけ十香」

 壮絶な空中戦が展開された。空には炎が躍り、オプティマスは両腕に装着されたターボディスクを飛ばした。丸鋸状の刃は鱗に命中しても鱗の硬さに負けて跳ね返されてしまうのだ。

 小バエのように鬱陶しく飛び回るオプティマスを睨むと竜は特大の炎を吐く。炎の大波が押し寄せるとオプティマスはブースターを切り、重力に従い落下を始めた。オプティマスのいた地点が炎が通過し、もしもまだそこにいたらと想像するとゾッとする。

 再度、ブースターを点火。竜の懐に飛び込むと渾身のパンチが竜の頬にめり込んだ。バランスを崩してよろめく竜の胸にターボブーメランを投擲、ついに鱗を剥がす事に成功した。

「やったぞ!」

 喜んだ束の間、竜が振った尾がオプティマスのロケットブースターを叩き、衝撃で動作不良を起こした。

「ほおおおおおおお!」

 真っ逆様に地面へ向かって行くオプティマスを地上から四人が見ていた。

「あれは司令官だ!」

「やられたんだ!」

「落ちてくる!」

 墜落したオプティマスは地面を何度も転げ、ようやく止まった。背中の壊れたロケットブースターは壊れてターボマンの装備もバリバリとノイズのような現象を起こしてスーツの姿を維持出来ず、消え去った。

 下で見ていた士道達が駆け寄って来た。

「オプティマス、回復しますか?」

「ああ、大丈夫……問題ない……」

「士道に回復してもらっては?」

「大丈夫だと言ってるだろうが!」

「まあまあオプティマス。精一杯やったんだからさ」

「しかし、結果がこれでは……」

 空を見れば竜はまだ暴れて町を攻撃している。ある程度、破壊されればゲームオーバーになってしまうので竜の迎撃は極力、急がねばならない。ちょうど、困っていると転送装置が起動し、一斉にジャズ、真那、狂三、七罪、美九が送り込まれて来た。

「いざ、町へ進出でいやがりま――えぇ!? 何でやがりますか!?」

 送られて来たメンバーは仰天した。てっきり美しい町並みが歓迎してくれると思っていたが、五人を待っていたのは燃え盛る町に空を舞う竜なのだ。

「みんな! 手を貸してくれ!」

「あ、だーりん! 会えて良かったですぅ!」

 美九だけ他とは違って戦うような格好には見えなかった。

 

 可愛らしい装飾が施され、スカートの丈はかなり短い。

「美九、その格好は?」

「はい、私の職業はアイドルですから! 私のスマイルにお客さんのハートキャッチ! 会場のテンションをマックスハートにしてやります!」

 おもむろにマイクを取り出して歌い出すとその場にいた全員のステータスに回復力上昇の効果と防御力上昇が付加された。サポート役に特化された美九の能力はパーティに一人いればありがたい存在だ。

 真那、狂三は竜を撃ち落とそうと弾を撃ち続けている。弾は確かに命中している。しかし、竜にダメージが行っている気配が一切無い。

「おかしいですわ」

「あんたもそう思いやがりますか……」

「どうかしたのか?」

「兄様、ありゃ特殊なアイテムでなければ倒せないパターンじゃないですか?」

 特定の武器を使わなくてはダメージすら通らないという特殊な敵だとしたら鱗が硬い柔らかいどこの話ではない。今までの攻撃は全て無駄なのだ。

「特殊なアイテム? あれか?」

 オプティマスが指差した先を当然、皆注目した。町の外を見渡すやぐら。オプティマスが見つけたのはやぐらではない。そのやぐらの上に乗っているものだ。

「ホタルだ!」

 ジャズが叫んだ。やぐらの台座の上に乗っている美しくも妖しい、巨大な光るホタルだ。

「ジャズ、あれで撃ち落とす!」

「分かりました!」

 木製の不安定なやぐらの足下へ急いで向かい、急なハシゴを登りながらやぐらの上へ上へと上がり、レーザーホタルが置いてある見張り台までたどり着いた。ジャズが困惑したようにレーザーホタルを触った。

 引き金も作動スイッチも無いこのレーザーホタルをどうやって撃てば良いのか分からないのだ。オプティマスはアサルトライフルでやぐらから竜を撃って抵抗を続けた。

「ジャズ、何してる! 早く撃て!」

「こんな兵器、見たことないですよ! 普通の大砲と何もかもまるで違うんです!」

「どけ!」

 ジャズをどかせるとオプティマスはレーザーホタルを力任せに叩いた。

「動けこのポンコツが! 動けってんだよォ!」

 オプティマスが叩く事で何かに当たったのかレーザーホタルは羽を広げ、触覚が突き立ち、触覚の間にエネルギーを蓄えた。

「この手に限る」

 ジャズは羽の中に隠れていたトリガーを握り、レーザーホタルの照準を覗き込んだ。

「危ない!」

 オプティマスが叫び、ジャズを地面に伏せさせると竜のタックルがやぐらの屋根を吹き飛ばした。同時にオプティマスはやぐらから落ちて行った。

「くそっ……早く倒さないと」

 レーザーホタルを台座に置き直して照準を覗き込んだ。飛んでいた竜は羽ばたきながらゆっくりと降り立った。そこに向けてジャズは引き金を絞り、レーザーが竜の羽を撃ち抜いた。本来なら胴体を貫くつもりだったが外れてしまった。 ジャズは舌打ちをして狙いを定めた。

「ジャズ様! 手伝いに来ました!」

 ひょこっとハシゴを登った真那が顔を出した。

「すぐに逃げるんだ。ここは危険だ」

「狙撃なら私に任せて下さい! 私の専門ですよ」

 真那の職業はスナイパー、狙撃に関しては右に出る物はいない。

「一発で仕留めるんだ。いいね?」

「はいです」

 トリガーは真那に譲られて照準を覗いた。竜は首を真那達の方を向けると、家屋に手をついてゆっくりとだが重々しい歩調で迫って来た。

「そのからくりで我を倒す気だな。我を倒せても我の火からその子供は救えぬ。我の鱗は十重の盾、牙はつるぎ、爪は槍、尾の一振りは雷を起こし、翼は嵐を呼び、吐き出す息は、すなわち死だ!」

 喉から腹にかけて赤い光が漏れだし、竜が大きな口を開けると火炎が津波のごとく押し寄せた。

 ジャズは真那の手を握り、急ぎ、トリガーを引くと触覚の間にため込まれた凝縮エネルギーが竜の炎を口を喉を胴体を貫いて遥か、空の彼方へと消えて行った。体を一直線に貫通させられた竜は倒れ、その死体はすぐに消えて行く。

 町を包んでいた炎も不自然な勢いで消えてしまった。

 レーザーホタルがオーバーヒートを起こして機能が停止してしまっている。真那は発射の衝撃に耐えかねてひっくり返る所だが、ジャズが受け止めていた。

「初めての竜退治を採点してあげようか?」

「採点でいやがりますか?」

「一〇〇点だよ」

 

 

 

 

 クエストを終えて次は町へ向かう筈のグリムロック一向はどういう訳かまだ、初期の開始地点にいた。特にゲームなどをしなさそうな折紙はこのゲームについて深く考えてみた結果、別段何かストーリーがあるわけでもなくただ淡々とクエストを遂行して最後のボスを倒してエンディングを迎えるのがこのゲームの結末と予想していた。ストーリー性が皆無なのは四糸乃も薄々感づいていた。という訳で三人はこの世界のボスを直接倒しに行き、エンディングを迎えようと考えたのだ。自由度が高すぎる為、通常のRPGでは絶対に出来ないような事も出来てしまうのだ。

 グリムロック達がいるのは大陸の南側、魔王は東の側の海岸付近を領土としている。

「俺、グリムロック。作戦考えるの面倒」

「グリムロック、あなたはもう少し頭を使うべき」

「頭? 俺、グリムロック。頭突き得意!」

「そういう意味じゃない」

 きょとんとした顔でグリムロックは考え込んだ。頭を使うという本当の意味を考えているのだ。そうしながらも三人は東へ東へと歩を進めていた。途中、とある遺跡を発見してそこで休憩を取る事にした。南の大陸は日差しが強く、たびたび休憩を取らないとばてて来るのだ。石造りの壁には蔦が張り付き、コケやカビがしっかりと再現sれている。本当に古代の忘れられた遺跡にやって来たという気持ちになる。遺跡の階段に腰かけていたグリムロックは急に石の壁に頭突きを見舞った。

 がらがらと音を立てて壁は崩れるの見て得意げに鼻を鳴らした。

「うん、頭、使えてる!」

 そんな様子を見ながら折紙はため息を吐いた。やはり意味を理解していない。

「四糸乃、あなたは良く彼と一緒にいる。疲れない?」

「私は……疲れません……平気です」

 今まで会話らしい会話はしたことがない二人だ。思い出せるのはまだ未封印の頃、攻撃をしかけていた時の記憶だ。

「あなたに一つ謝っていない事がある」

「はい?」

「以前、あなたのよしのんを撃った事がある。許してほしい」

 未封印の時代、士道が四糸乃と接触を図った際に折紙は一度、よしのんを撃ちぬきその所為で四糸乃が暴走状態になった事があった。

「気……気にしてません……今は……もう」

 折紙は四糸乃の手をギュッと握ると身を寄せて来た。

「許してもらった所であなたに聞きたい」

「は、はい!」

「士道はロリコン?」

「へ?」

「あなたを封印する際、あなたともキスをした筈。士道がロリコンなら私もそれなりに覚悟を決めるつもり」

 覚悟を決めてどう行動に出るのか知りたい所だ。

「い、いいえ……違うと……思います……」

 否定の言葉を述べた瞬間。四糸乃達の耳にとてつもない轟音が届いた。折紙が立ち上がって様子を確認しようとすると、二人の前に白衣を着た長身の男性が弾丸のような勢いで飛んで来たのだ。男性は頭をさすり、細長い体を起こした。

「いきなり攻撃をするな君!」

 男性が怒鳴った先にはグリムロックがいる。大方、確認もせずにいきなり攻撃を仕掛けたのだろう。

「グリムロックさん、ダメ!」

 四糸乃が急いで止めに入り、大人しくなった。

「グリムロック、他人をいきなり攻撃してはダメ」

「うん、わかった」

「おや? 君たちは四糸乃に折紙だね?」

「……?」

「……誰?」

 白衣の汚れをはたきながら自己紹介をした。

「私はジェットファイアー、最近オートボットと合流したんだ。君たちとは仲良くしていきたい。ところでグリムロック、セイバートロンの時と相変わらず乱暴な奴だ」

「ごめん」

「おーい、ジェットファイアー! 我をおいて先へ行くでない!」

 耶倶矢と夕弦は大きな穴が開いてしまった壁を通り抜けてジェットファイアーの後を追って来た。先に進みたくてここまで来たのではない。グリムロックに吹っ飛ばされたからだ。

「驚嘆。マスター折紙! こんなところで会えるとは!」

「あ、四糸乃じゃーん! ってことはこの目つきの悪い子供はグリムロックか」

 思わぬところでばったりと出くわした。

『やあ、すごい偶然だよね~。どうして三人はここにいたのさ』

「私から説明しよう。三人で話し合ってみたんだがね。このまま魔王の領土に乗り込んでしまおうという結論に至ったんだ」

「私たちと同じ」

「補足。最初はカギ的な物がいると思われましたが、このゲーム、全オブジェクトの破壊が可能なんです」

「つーわけで魔王の城の門も壊せるんじゃね? って話になったの。一緒に行こ!」

 これで戦力は二つに分けられた。

 

 

 

 魔王の城は固く堅牢な守りだ。城の周りには広大な荒野が広がりそこにはオークが常に動き周り警備は厳重だ。

その城の最上階、そこは牢屋になっており琴里はそこに幽閉されていた。魔王の目的は基本的には勇者の抹殺と世界征服だ。このゲームの魔王もそうプログラムされている。琴里の部屋の様子を確認し終えた魔族の傭兵はナイフをちらつかせながら魔王スイフトに報告した。

「小娘の喉を切るのは、温かいバターを切るようだぜ」

「……ナイフは縛ってろ。その口も閉じとけ」

 スイフトは呆れながら言い、傭兵の肩を押して荒っぽくどけた。そして傭兵の軍団長を睨みながら小言を言い始めた。

「口だけは達者なトーシローばかりよく集めたものだな。まったくお笑いだ」

「スイフト、彼等は皆忠誠心の塊だ」

「俺なら瞬き一つする瞬間に皆殺しに出来る。奴等はきっと来る。だが、ここに攻め込んで来た時が最後だ。こっちには人質がいる」

 魔王達も戦備は整いつつあった。

 

 

 

 

 木で出来たテーブルに世界地図が広げられ、閉じないように地図の端をナイフで突き刺して固定した。

「まずここが魔族の領土だ」

 オプティマスが地図のある一点を差した。

「そして領土の反対側は海と切り立った崖で入り込むのは難しい。だから警備は薄い。私はここから潜入する。合図が聞こえたら君達も突入だ」

「合図? 合図は何ですの?」

「領土がドンパチ、賑やかになる」

 

 

 

 

 難攻不落の崖を攻めるオプティマス・プライムはカヌーを運転しながら浜辺へと近付いていた。高い崖だがオプティマスなら容易に入り込む事が出来る。ブーメランパンツ一枚の芸術的な筋肉を搭載したオプティマスは浜辺へ乗り上げると防弾チョッキを着込み、ブーツを履き、靴ヒモをしっかりと結んだ。

 ナイフを胸に携え、グレネードを防弾チョッキに引っ掛ける。拳銃にマガジンをはめ込み、アサルトライフルのコッキングレバーを引いた。そして、草木に紛れるように顔や体にインクを塗る。

 ロケットランチャーをカバンのように携え、アサルトライフルを肩に担いだ。

「さあ、出動だ」

 崖を易々と登るとまず見張りの魔族を静かに素早くナイフで仕留めた。敵を欺き、見つからぬように動き、オプティマスは魔族が住まう兵舎の一軒ずつに爆弾を仕掛けていた。

「動くな、手を上げろ」

 最後の爆弾を仕掛けて離れた所で魔族に見つかってしまった。剣を首に突きつけられてはいるが、オプティマスは平然としている。

「何者だ。人間だな?」

「いや、魔王様の同盟者だ。召集があって呼び出されたんだ」

「召集? 入国証はあるのか?」

「もちろん、入国証はこれだ」

 ポチッとボタンを押した瞬間、魔族の兵舎は炎に包まれて吹き飛んだ。背後から起きた巨大な火柱に魔族の男は振り返った。オプティマスは男の首に手を回してへし折った。

「敵襲だ! 撃退しろ! 血祭りだ!」

 

 兵士が動き出し、オプティマスの下に突撃を仕掛けて来た。アサルトライフルの引き金を引き、魔族の傭兵団、オークはバタバタと面白いくらいに倒れて行く。空のマガジンを捨てて腰のバッグからマガジンを持ち出し薬室に装填、コッキングレバーを引くと再び弾の嵐が吹き荒れた。

 アサルトライフルが弾切れを起こすとロケットランチャーを担ぎ、背後から向かって来た槍騎兵の一団を一瞬にして焼き払った。

 前方へ向き直り、ロケット弾がオークをまとめて消滅させるとオプティマスはロケットランチャーを捨てて軽機関銃を握った。

 

 

 

 

 オプティマスの宣言通り、魔族の領土が賑やかになって来た。士道等は魔王の領土の前まで来てはいたが、案の定鍵が必要で入れずにいた。

「鍵がいるみたいだけど誰か持ってないか?」

 士道が尋ねると全員、首を横に振った。

「ぶっ壊すしかねぇよ!」

 ワーパスがハンマーで門を叩いたが当然、ビクともしない。

「グリムロックがいればな……」

 士道は未だに合流していないグリムロックのパワーをねだったが、無いものは仕方がない。別の手段を考えだした。

「俺をお探し?」

 士道の服を引っ張って来たのは紛れもなくグリムロックだ。人間になっていてもグリムロックだけはわかる。

「グリムロック!? 四糸乃! 耶倶矢、夕弦、折紙まで!」

「俺、グリムロック。こんな門、頭使えば、大丈夫!」

 士道は一瞬でもグリムロックに何か策があるのかと期待したが、次の瞬間にはそんな期待は城門と共に粉砕された。グリムロックの頭突きは城門を突き破り、中へ突入。

 それだけでない。魔族の領土に侵入した瞬間にグリムロックの体に異変が起きた。小さな子供の体は真紅の色に染まり、肉体から赤い蒸気を放つと人の腕や足は張り裂けて中から太く、黒い手足が見えた。全身は黒く分厚い皮に覆われ、長い尻尾を振る。

 背中から尻尾にかけて透明な結晶が生え揃い、グリムロックの全長は一〇〇メートルにも達した。

「あれは……ゴジラ!?」

 十香は初めて見る怪獣に目をキラキラさせながら言った。

 士道と狂三はどうしたら良いのか分からない。というか、ツッコミが追い付かない。

「もう、勝手にしてくれ……」

「何でもありですわね」

「だな」

 魔族の領土は東側はオプティマス、西側は黒い大きな怪獣もといグリムロックに攻め込まれていた。

「シドー! 私も変身したいぞ! 変身変身!」

「十香はありのままで良いの!」

 

 

 

 

 魔王スイフトも敵が侵入したのは知っている。オプティマスが来る前に琴里を殺そうとスイフトはナイフをホルスターから抜いた。廊下を曲がり、琴里が幽閉されている部屋のドアノブを捻るとドアを開ける感触は無く、ドアノブはポロリと外れてしまった。

「……っ!? あのクソガキ!」

 ドアを破壊して部屋を見渡すとベランダの扉が開いているのが分かる。更にカーテンが破られてそれを使って下へ逃げた事もだ。

「逃げたかあのガキ!」

 ベランダから下を覗き込むと琴里が塔の下まで降りて逃げて行くのが確認出来た。

 スイフトもカーテンを伝って素早く下へと降りて行った。

 

 

 

 

 軽機関銃で魔族をなぎ倒すオプティマスは琴里がどこにいるのかを探しつつ敵を撃破した。

「オプティマス、助けて! 魔王がすぐそこに!」

 塔から逃げて来た琴里がこちらに向かって走って来ているのが見えた。オプティマスは兵士を片付けながら琴里を確保しようと走るとスイフトが琴里の襟を掴んで持ち上げた。

「キャァァッ!?」

「悪いなオプティマスじゃなくてな」

 拳銃を抜き鉛弾は左腕を撃ち抜き、オプティマスはよろめきながら大木に隠れた。

「勇者、腕はどんなだ?」

「こっちへ来て確かめてみろ」

「遠慮するぜ」

「魔王、その子は関係ない。離してやれ」

「ヘハハハハハ!

「スイフト、銃なんか捨ててかかって来い。ナイフを突き立て、私がもがき苦しむ様を見るのが楽しみだったんだろ? どうしたスイフト、怖いのか?」

「ぶっ殺してやる! ガキなんて必要ねぇ! ガキにはもう用はねぇ! ハジキも必要ねぇや。誰がてめぇなんか、てめぇなんか怖かねぇ! ……野郎、ぶっ殺してやぁぁる!」

 スイフトがコンバットナイフが抜き、オプティマスはテメノスソードを背中から抜いた。

「テメッ……! リーチが……!」

「はあぁッ! くたばるがいい!」

 テメノスソードの切っ先がナイフをスイフトの手から叩き落とし、スイフトの腹を蹴り上げた。完全に隙が出来た所にオプティマスはテメノスソードを投げつけ、土手っ腹に突き刺さった。

 地面に転がっていた斧を足で蹴ってスイフトの頭にめり込ませ、高速で肉薄すると後頭部に回し蹴りを入れられ、スイフトはつんのめって倒れた。

 頭にめり込んだ斧を引っ張り、スイフトの頭を脊髄ごと引っこ抜いて絶命させた。

「終わった。これで世界は救われたな」

 一瞬の決着に琴里は目が点になっていた。ゲームのプレイをほとんどが待機だけだった琴里は酷くつまらない思いだ。何故か怪獣が火を噴いて暴れまわっていたりと、質問をしたいが、そんな時間も無いままスタッフロールが始まった。

 

 

 

 

 ゲームクリアによりヘルメットが自動的に外れて、ソウルアンドオフラインをやっていたプレイヤーは解放された。

「おはよう、気分はどうだいみんな!」

「最高のゲームだよ」

「最悪な気分だ!」

 対極な意見が飛んで来てパーセプターは困った顔をした。

「おや? おかしいな、どこかでゲームバランスを間違えたかな? それともラスボスが弱かったかな? 次は裏ボスも作っておくべきかな?」

 パーセプターはぶつぶつとゲームの反省点を探し始めた。この調子ならまた作りそうだった。

 ヘルメットを外した狂三は隣にいた七罪に声をかけた。

「七罪さん」

「はひっ!? な、何よ。あたしを毒殺する気ね!?」

「意外とゲームも面白いものですわね。七罪さん、わたくしと今度、何か一緒にやりませんこと?」

「へっ……?」

 狂三の意外な申し出だ。

「うん、じゃあまずはフレンド登録からね! 部屋に溢れかえってる奴、一緒にやろ! 狂三!」

 七罪、友人三人目。時崎狂三、初の友達が出来た。

 


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