デート・ア・グリムロック   作:三ッ木 鼠

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35話 最強タッグ! こいつはすごいぜ!

 辺りが燃え盛り、砕けたフラクシナスの破片や壊れた機材が散乱している。放っておいてもフラクシナスがこのまま爆発を起こしたりはしないだろうが、この空中艦を人の目に晒すわけにはいかない。炎の中でつんざくような鋭い金属音が響き、時には鈍く震えるような音もした。

 二人の鋼鉄の巨人は殴り合い、斬り合い、撃ち合いと刻々と間合いを変化させながら一瞬も気の抜けない攻防戦を繰り広げていた。ユニクロンに乗っ取られたメガトロンはダークエネルゴンを自在に操り、腕をダークエネルゴンの鎌や砲口に変形させて多彩な攻撃を仕掛けて来る。

 二人の拳がかち合い、空間が震え、散らばっていた残骸が何度か転がった。オプティマスはユニクロンを睨み、ユニクロンは悠々と見下ろして来た。

 腕を払い、ユニクロンの懐に入り込むと顔面に頭突きを入れ、よろけながらも鎌を振り回すが咄嗟に身をかがめられて空ぶった。

 ブラスターを撃つ寸前、ユニクロンに頭を捕まれ、地面に転がらされたオプティマスは直前に既に迫っていた鎌の切っ先を紙一重で避けた。禍々しい鋭利な刃は、顔の横に深々と突き刺さっている。

 腰を上げる勢いと共にユニクロンの顔面に蹴りを決めてオプティマスは、一度距離を置いて休まずにブラスターとロケットを叩き込んでやった。

 火器が通用しないのはすぐにわかった。ユニクロンの周りには火器に反応して薄いダークエネルゴンの膜で覆われて射撃武器を無効化していたのだ。

 火器が通用しないなら話は早い。オプティマスは即座に武器をエナジーアックスに変えて斬りかかった。鎌で防御に出たがオプティマスは容易くダークエネルゴンの鎌を両断してから腹を蹴り、身軽な動きでユニクロンの腕に乗って首に回し蹴りがヒットした。

 更なる追撃を試みたが、ユニクロンも意地で反撃をして来た。鎌から砲へ形態を変化させてオプティマスの真正面にダークエネルゴンの砲弾を炸裂させた。爆風で吹き飛ぶついでにエナジーアックスでユニクロンの顔を僅かに斬りつけ、頬に薄い傷が入った。

「メガトロン、聞こえるか!? ユニクロンに体を乗っ取られるとは呆れた破壊大帝だな!」

 オプティマスは意識の無いメガトロンをなじった。

「無駄だプライム。メガトロンは余の物となった。貴様の声は届かぬ」

「誇りも根性も失ったか? 今がお前の限界なら興醒めだ。その程度で宇宙の支配を目論むなど笑い話にもならないぞメガトロン!」

「何度言っても無駄だ。メガトロンには聞こえない」

 今度は鎌でも砲口でもなくダークエネルゴンの鞭を形成し、離れたところからオプティマスに絡みつかせた。力ずくでほどこうとしても鞭は千切れず、離れず、体を持ち上げると地面へと叩きつけ、岩や残骸など障害物に手当たり次第にぶつけた。

 視界が乱れる程に振り回される中でオプティマスはなんとか片腕だけを自由にし、剣を伸ばして鞭を斬った。もう一本がすかさず飛んで来るがロケットで撃ち落とし、着地する瞬間にトラックへトランスフォームした。

 アクセル全開、道を蛇行しながらユニクロンの砲撃をかいくぐってそのまま突進した。横転すると同時にロボットへトランスフォーム、オプティマスは顔面を踏みつけ脚部のホイールを高速で回転させて顔面を削る。ユニクロンは悶えながら地面を叩き、地中から無数のトゲを発生させてオプティマスを退かせた。

 よろめきながら立ち上がるとオプティマスの拳は目の前にあり、何も出来ずに殴られ、腹や胸やらと体の至る所を滅多打ちにされた。

 腕に力を込め、オプティマスは怒りに満ちた声を発しながらユニクロンを思い切り殴り飛ばした。息を切らしてユニクロンは起き上がろうと上体を起こすが、オプティマスの足に踏まれて地面に固定された。

 オプティマスはエナジーアックスを出して振り上げる。この頭を斧でかち割ろうと決心したのだ。

「プライム……!」

 憎々しげにユニクロンは睨んで来る。決着をつけるために斧を打ち下ろすと、オプティマスは目を見開いて驚いた。エナジーアックスを片腕で受け止められたからだ。

「いちいち勘に触る奴だオプティマス」

 斧を払いのけるとメガトロンは顎に強烈な一撃を見舞った。

「ずいぶんと好き勝手言ってくれたな。ユニクロンもこの儂の体を好き勝手使いよって腹立たしい事この上ないわい」

 メガトロンは既に破壊大帝としての威厳を取り戻していた。乗っ取られた意識をメガトロンは奪い返し、本来の状態へと戻る事が出来たのだ。そして、尻餅をついたオプティマスの下にゆっくりとした歩調で歩み寄り、メガトロンは手を差し伸べた。オプティマスは不信感を抱きながらもその手を取って起き上がった。

「不思議な物だ……さっきまで殺し合っていた我等がこうしているなど」

「そうだな。どういうつもりだメガトロン?」

「儂と手を組もうじゃないかオプティマスよ。今はオートボット、ディセプティコンと言い争っている時ではない。この地球、いや宇宙に関わることだ」

「そんな話に私が乗ると思うのか? 私の仲間を砕いたお前の話を!」

 アックスの刃が赤々と光り、オプティマスは身を乗り出したがメガトロンは落ち着いた調子で言った。

「ユニクロンがどこにいるのか、お前は知っているのか? 知らなければ倒しも出来ないだろう?」

 メガトロンに指摘され、オプティマスは踏みとどまった。確かにユニクロンが今どこにいるかを知らない。居場所もわからない敵を倒すなど不可能だった。この銀白色のトランスフォーマーはかつてセイバートロンを滅ぼした。地球さえも己の支配下としか考えていない。そんな奴を信用など出来ないはしない、いくらかつての友であってもだ。

「お前にユニクロンの居場所が分かるのか?」

「もちろんだ。儂の意識に入り込んだユニクロンだが、逆に儂も奴の意識に入り込んでやったわい」

 回答を渋っているとメガトロンの頭上からディセプティコンのエンブレムを付けた者が六人、降って来た。プレダキングにコンバッティコンだ。

「メガトロン様! 力ずくで戻しに来ましたよ」

「この儂を力ずくだと?」

 オンスロートの発言に気を悪くしたメガトロンはコンバッティコンに睨みを利かせると五人は縮こまった。

「ユニクロンの呪縛など儂には恐るるに足らん。よく覚えておけ」

 オプティマスの方を向き直し、メガトロンはより強気で言って来た。

「儂と手を組もうオプティマス」

 七対一、これは殆ど脅しと取っても良いだろう。

 だがオプティマスの背後、遥か先から土煙を上げながら何者かが近付いて来る。地面を揺らしながらオプティマスの身を案じてダイノボットとオートボットが駆けつけたのだ。

「プレダキング……!」

 赤いボディーのグリムロックは牙を剥くとプレダキングも爪をギラリと光らせて互いに威嚇し合った。

「オートボットも勢揃いか。ならばちょうど良い。我等と手を組もうじゃないか」

 メガトロンの一言にアイアンハイドとワーパスは怒り狂ったように怒鳴った。

「なんだとクソッタレ! お前の所為でどれだけのオートボットが死んだ!?」

「お前がくたばればディセプティコンの野郎に総攻撃をかけて一つにまとめてやらぁ!」

 二人が声を荒げるのも仕方のない事だろう。メガトロンに捻り潰された者は少なくない。その中に知人、友人はいた。

「血の気の多い奴等だ。儂を殺したくてしょうがないだろうが、今はそう言っている場合かね? オプティマス、少し時間をやる。決断しろ」

 メガトロンはコンバッティコンとプレダキングを引き連れて月面基地へと帰って行く。残されたオートボットは、オプティマスへ視線が注がれた。

「我々も基地へ帰るぞ」

 帰路を行く最中、誰も殆ど言葉を口にしなかった。

 

 

 

 

 何もない暗黒の空間には一匹の奇怪な姿をした虫のロボットがいた。クワガタムシ、カブトムシ、バッタの三種類の虫の特徴を合わせた混合虫は全身の浅い物から深い物までとあらゆる傷を負っていた。古代の王たるプレダキングを相手をして五体満足で帰ってこれたのだから、多少の痛ましい傷も軽傷と映る。

 ヴェノムはロボットモードに移行し、何もない空間をよたよたと歩いていると、暗闇からネメシスプライムが顔を出した。真那にかけられた腐食銃の傷も完治しており、元通りになっていた。

「ヴェノム……お前はどこへ行っていた? あの方はマトリクスを持って来いとおっしゃった筈だが?」

「おう、でもよ! リベンジしときたかったんだ!」

「そうだぜ、そうだぜ! 次はちゃんとやるって!」

「次はちゃんとリベンジ――じゃなくてマトリクスを持って来るゼ!」

 三人の人格が口々に話してかなり騒々しい。ネメシスプライムはヴェノムの肩にそっと手を触れた。

「マトリクスはもう良い。次はメガトロンが持っているダークスパークを持って来い。いいな?」

 ネメシスプライムに肩を触れられたるとヴェノムの体躯はさっきよりも大きくなっている。今のままでは常に恐ろしい早さで進化を続けるプレダキングに勝てない、だからダークエネルゴンの力でヴェノムを強化してやったのだ。ついでに従順になるように頭のプログラムも書き換えておいた。

 ヴェノムは混合虫の姿を取ると耳を塞ぎたくなるようなやけに甲高い鳴き声を上げながらその何もない空間から出て行った。

「さあ、次はお前だ。ネメシスグリムロック、お前はマトリクスを潰せ」

 何もない空間の奥で黒い肉体のネメシスグリムロックは頷き、持っていたメイスを肩に担いで消えて行った。ネメシスグリムロックに過去でグリムロックに敗北した記憶はある。

 今回は違う。トランスフォーマーのボディーに霊結晶を埋め込み、三日三晩寝かせて出来た。過去の天宮市で緊急で産み出されたネメシスグリムロックとはわけが違う。感情らしい感情と言えば全て負の感情だ。ネメシスグリムロックもヴェノムも障害を排除する為のただの戦闘の道具に過ぎないのだ。

 

 

 

 

 基地に戻るとパーセプターは普段通りに作業をこなしていた。基地を見渡すと十香達の姿が見られない。

「司令官、お帰りなさい。ちょうど十香達がいないので話をさせて下さい」

「何だ」

「士道くんの容態は悪くなる一方です。ユニクロンの力が強くなっているからでしょう。霊力の侵食が酷い」

 パーセプターの発言に一同を驚きを隠せない。グリムロックはパーセプターを持ち上げて思い切り体を揺らした。

「士道は、助かるのか!? どう、なんだ!」

「何とも……。ユニクロンを倒すか……また眠ってもらうしか……。出来るだけの事はする」

 パーセプターを下ろすとグリムロックは怒りに身を震えさせた。あの場でパーセプターが嘘を言ったのは正解だったろう。でなくては少女達の不安を掻き立てることになった筈だ。

「パーセプターは士道についていてくれ。今は君しか頼れない」

「尽力します」

 士道にしても地球にしてもやはり問題の根幹はユニクロンだ。奴を止めなければ明日は無い。オプティマスはオートボット全員の方を向いて本題に入ろうとした。そこへ、琴里と令音が士道の様子を見に入って来た。

「二人とも怪我はないか?」

「ええ、平気よ」

「私も問題無しだ」

「フラクシナスは一応、持って帰ってある。修復にはまだまだ時間がかかる」

「艦はまた直せば良いわ。クルーが助かって本当に良かった。それで、何の話をしていたの?」

 精神面では、琴里はまだ未熟だ。年相応だとオプティマスは思っている。十香達に比べれば安定はしているし、話を良く聞けるだろう。本来なら傷を治す筈の琴里の霊力すらも士道を侵食する毒となっているのだ。 オプティマスは現実を話した。

「士道の話だ。琴里、士道に封印された霊力は今、抑えきれずに士道の体を侵食している」

「え?」

 やはり琴里は呆気にとられたように表情から思考や意識が飛んだのがわかった。

「質問を良いかい?」

「ああ、どうぞどうぞ」

「シンと精霊は経路のような物で繋がっている筈だよ。霊力を抑えられないなら普通は霊力が逆流する筈だが?」

「私が説明しよう」

 と、パーセプターが言い出した。

「士道くんの中にプライマスの意識があるのは前に話したね? ユニクロンの力の増大で霊力が高まる一方でプライマスは衰弱している。その所為で抑える力や経路も薄れ、逆流が出来ない状態なんだよ」

 説明を聞いて、令音は何度も頷き琴里を心配するように肩にそっと手を置いた。

「気持ちの整理は出来たかい琴里?」

「え、ええ! もちろんよ。私の事よりも士道や他のみんなよ!」

 声が震えている。オプティマスは琴里の襟をつまんで持ち上げると士道が横たわる担架の隣へ置いた。

「今の君は司令官じゃない。ただの妹だ。泣くという動作も人間には必要だ」

 琴里は士道にしがみついて体をぷるぷると震わし、泣いている事を悟られないように取り繕っていた。感情を吐き出せば、また元に戻るだろうというオプティマスの考えだ。

 さあ、ずいぶんと遠回りしたが、これからが本題だ。ディセプティコンと手を組むのかどうかだ。話し合いを始めようとした時、令音がふと気になった事を口にした。

「おや、グリムロックはどうしたんだい?」

 その一言に全員が見回し、グリムロックを探したが、見当たらない。

「ちょっと見て来ます」

 ジャズは素早く変形して基地を出た所ですぐにグリムロックを発見した。

「おいおい、グリムロック。どうした? 早く基地に戻るよ」

「俺、グリムロック。奴を倒す」

「奴?」

 グリムロックの体から顔を出して前を見ると、黒い中世の騎士を彷彿とさせるトランスフォーマーが立っていた。メイスを肩に担ぎ、全身からはもやもやと怪しげなエネルギーを放出している。

「ジャズ、基地に、いろ」

 グリムロックに基地の防衛と奴の排除を託し、基地の中へと入って行った。加勢しても良いが、巻き込まれたら粉々にされてしまいそうで大人しく引き下がった。基地へ向かうハッチが固く閉じ、グリムロックは腕から大剣と巨大な盾を出してゆっくりと、そして徐々に歩調を速めてネメシスグリムロックに近付いて行く。

 ネメシスグリムロックの方もただ待ち構えるだけでなくメイスと盾を持って一直線に走って来るグリムロックに立ち向かった。一歩一歩が重く、アスファルトの地面が割れて僅かに足が埋まる。十分な助走とチャージが完了した二人は全く同じタイミングで盾を突き出した。

 衝撃、轟音が天宮市に轟いた。近隣の家の屋根が剥がれ、塀や道路は衝撃波でバラバラになってしまった。オートボットのいる基地では、地震のような揺れを感じていた。強烈なぶつかり合いだが二人は一歩も引いていない。盾を引っ込めてネメシスグリムロックのメイスがグリムロックの胸を叩き、大剣は腹を斬りつけた。一撃必殺クラスの攻撃力の筈だが、二人の装甲が固すぎてどちらも傷一つついていない。

 グリムロック、ネメシスグリムロックは全くのノーガードで大剣とメイスを力任せに振り回し、互いに体を打ちのめし合ったが、一向にダメージが通らない。

「ウオォォォォッ!」

 グリムロックが気合いを込めて斬ると遂には根本からポッキリと大剣が折れてしまった。そこへネメシスグリムロックのメイスが頭に落とされたが、こちらもメイスの先端が砕けて武器として使用出来なくなった。

 武器がなくなったのなら五体を武器にするしかない。二人はビーストへトランスフォームし、グリムロックは喉に食らいつき、家屋を破壊しながら押し倒した。ネメシスグリムロックは必死に逃れようと暴れて尻尾で顔面を叩くと首への顎の力が緩んだ。

 グリムロックは叩かれた鼻先を手で押さえながら憤慨した。

「俺、グリムロック。痛い、怒ったもんね!」

 ネメシスグリムロックの鼻先に頭突きをお見舞いし、怯んだ瞬間に口から砲弾を発射した。相手も同じように砲弾を撃って、空中で迎撃した。基本的な所はグリムロックの模倣(コピー)だ。だがスパークを核に動くグリムロックと違ってネメシスグリムロックは霊結晶を核にして動く。

 すなわち、体を流れるのはエネルゴンではなくダークエネルゴンだ。ネメシスグリムロックには一つ、グリムロックには出来ない事が出来るのだ。

 ネメシスグリムロックが天を仰ぎ、雄叫びを上げると天宮市の町に空間震警報が発令された。人々がシェルターへ逃げ込むという何度も見た光景だ。そう、ネメシスグリムロックは意図的に空間震を発生させられるのだ。

 空間震くらいではやられはしないが、その発生ポイントが十香達の特設マンションなら結果は最悪だ。

「四糸乃が……みんなが……!」

 グリムロックは足を大きく開いて固定すると口を開けた。背中と腰のコンバーターからエネルギーを吸収して体内ではレーザーファイヤーと混ぜ合わせ、グリムロックの口には高密度なエネルギーが圧縮されたスフィアが形成されていた。空間震が起きる寸前、ネメシスグリムロックに膨大なエネルギー激流が襲いかかった。極大に照射されたエネルゴンファイヤーは、ネメシスグリムロックを飲み込み、彼方へと消えて行った。

 空間震はすんでのところで阻止出来て、グリムロックは四糸乃が守られたと安堵したが、肝心のネメシスグリムロックを倒した手応えは無かった。照射が終わり、体の各所から蒸気を放出して熱を吐き出した。

 そんな所にグリムロックの側面からネメシスグリムロックの顎が首に噛みついた。グリムロックは激しく抵抗してちょうど近くにあった敵の小さな手を食いちぎった。

 痛みを感じないのか、悲鳴も上げずネメシスグリムロックは力も弱めない。グリムロックの背面のハッチが開き、二基のスラスターを展開して噛みついているネメシスグリムロックごと空に飛び上がった。

 上空へ舞い上がってからグリムロックは弧を描いて方向転換し、道路へ激突した。その弾みでネメシスグリムロックは離れ、下顎からすくい上げるようにしてグリムロックの頭突きが炸裂した。

 クラッとネメシスグリムロックの足がもつれたが、意地で大地を踏みしめて態勢を保つと口から黒い炎を吐いてグリムロックの体を焦がした。

 炎から逃れようとグリムロックは背後へ飛び退いた。

 ネメシスグリムロックは長い尾の先端から中ほどまでにエネルギーを溜め込み、色が濃い紫色へと変色して行った。過去の時代で見せたネメシスグリムロックの最大の攻撃だ。

 グリムロックは相手のその仕草を見ると、それに応えるように最大の攻撃で奴を撃破する事にした。

 肉体がエネルゴンの燃焼で燃え上がるように見えた。後ろを向いた二本の角が前を向き、赤い目は青色へと変化するとグリムロックの口に並んだ無数の牙はエネルゴンの光を宿した。この世に存在する物全てを例外なく切り裂き、噛み砕く。

 先にグリムロックが仕掛けた。その脚力は相変わらずの力でアスファルトの道路は土か砂を巻き上げるように軽々と剥がしてしまう。荒々しいグリムロックに対してネメシスグリムロックは待つ、ただ静かに待ち、限界まで脱力をして時が来るまで息も殺して待つ。

 グリムロックが射程に入った。当然、グリムロックの牙はまだ届きはしない、先に攻撃出来るのはネメシスグリムロックの方だった。最大の一撃を放てば、グリムロックの胴体から二つに裂いてやる事が出来た。

 鋭い金属音が一瞬だけ、町に響いた。

 ネメシスグリムロックがグリムロックを裂いたのか? いや、違った。そもそもネメシスグリムロックの尾はグリムロックに届いてすらいない。

 代わりにグリムロックの顎がネメシスグリムロックの首を食いちぎって足下を転がった所を足で踏み潰した。

 ネメシスグリムロックが尾を振り抜こうとした際、グリムロックはかわすわけでも耐えるわけでもなく、背面のスラスターで一気に加速をつけてバーテックスファングによって自己に勝利をもたらした。

 耶倶矢と夕弦と狂三の意見をグリムロックなりに解釈して名付けた名だ。

 ネメシスグリムロックの体が横に倒れ、ふつふつと沸騰でもするように体が泡を立てて肉体がドロドロに溶けてなくなってしまった。過去も現在も変わらず、グリムロックの勝利だ。

「俺、グリムロック。俺、最強ッ!」

 グリムロックは空に向かって勝利を示すように咆哮を轟かせた。

 

 

 

 天宮市の上空でディセプティコンの空中艦ネメシスが待機していた。艦長席に座るのは当然メガトロンで彼の表情には余裕に満ち溢れ、まるで相手の答えがわかっているようだった。月面基地にサウンドウェーブとショックウェーブの二大参謀に任せているので問題はない。どこかの愚か者が何故か今は不在だからだ。

 大事な時期にストレスの種が無いのでメガトロンも解放感がある。

「メガトロン様、ネメシスに向かって何か飛来して来ますぜ」

 ボルテックスが報告するとメガトロンは「撃ち落とせ」とだけ命令した。ネメシスの対空砲火を変則的な飛行で避ける巨大で奇怪な虫を見た瞬間、プレダキングは進言した。

「メガトロン様、あの虫けらは私に任せて下さい」

 プレダキングの申し出にメガトロンは黙ってすぐに許可をした。メガトロンもプレダキングならば仕留めるだろうと、確信にも似た期待を寄せている。プレダキングはブリッジを後にし、ディセプティコンの兵士達とすれ違いながらネメシスのデッキに出て来た。プレダキングを視認した途端、ヴェノムは散々に痛めつけられた記憶が蘇り、任務そっちのけでプレダキングに向かって来た。

 ヴェノムの行動はプレダキングにしてもありがたい。奴が賢くネメシスを集中的に狙って来るならプレダキングはネメシスを守りながらも戦うハメになっていただろう。だが、今は一対一に持ち込めた。混合虫からロボットの姿を取ると、プレダキングはヴェノムの大きさに違和感を覚えた。

 以前は見下ろすくらいだった背丈が今は同じ目線で立っている。大方、無理な強化を強いられたのだろうとプレダキングは考えた。

「ショックウェーブはいないのかよプレダキング!」

 キックバックの人格が喋る。

「主に貴様等のような気色の悪い奴とは会わせない。私が排除する」

 ディセプティコンとは思えぬ丁寧な口調だが、全身から吐き出す殺気は流石の一言だ。ショックウェーブがエネルゴンもオイルもない外道というのは知っているが、プレダキングにはどうだって良い事だ。力とチャンスを与えてくれたショックウェーブには死ぬまで尽くすつもりだ。

 獣性を剥き出しにプレダキングはヴェノムに掴みかかった。このまま押し倒してマウントポジションを取るつもりだが、ヴェノムの思わぬ力が発揮され、両者の力は拮抗していた。ヴェノムは頭突きを顔に入れ、プレダキングを転倒させた。

「イェーイ! どうだ!」

「弱ぇ、弱ぇ、弱ぇ!」

「立ちやがれ、動物野郎! 俺達が八つ裂きにしてやんぜ!」

 プレダキングは以前のヴェノムではなく、全く新しい敵と対峙したと心得て気持ちを切り替えた。

「貴様等はショックウェーブの実験材料にしてくれる!」

 下手な脅し文句よりゾッとしたヴェノムだ。

 両手を合わせ、ヴェノムは電撃を放出し、プレダキングは横へ走りながらブラスターで電撃を迎撃した。ヴェノムが引き下がりながら電撃を広範囲に放つ直前にプレダキングが足下にブラスターを撃って来た。小規模な爆発だが、ヴェノムが姿勢を崩し、そこへプレダキングのタックルが見事に決まった。

 二人はもつれ合いながらネメシスから落下して行った。二人とも空は飛べるので普通なら墜落はしないだろうが、高速で落ちながら殴り合っているので飛ぶどころの話ではない。

「離せぇぇ!」

 ヴェノムの全身から電気を発してプレダキングを追い払おうと必死に攻撃をし続けた。電撃などダメージにもならないプレダキングは頬を殴ってからヴェノムを踏み台に飛び降りると空中でドラゴンにトランスフォームした。大きな翼を広げて空を舞い、いまだに落下を続けるヴェノムを火炎放射で火だるまにした。

「熱っちぃぃぃ!」

「許さねぇ、許さねぇ、許さねぇ! 電気バリバリだ!」

「いいや、強酸でドロドロに溶かしてやらぁ! ンハハハハハ!」

 ひとまずヴェノムも昆虫形態で飛行し、後ろから吐いて来る炎弾をよけつつ地上に下りようとした。濃い雲を突き抜けて二人はやっと地上が見えて来た。プレダキングはロボットに変形してヴェノムの背中に飛び乗ると手当たり次第に殴り、ヴェノムも必死にプレダキングを落とそうと乱暴な飛行を繰り返した。

 殴る事に夢中になっていたプレダキングはふと顔を上げた時、目の前には岩肌が迫っていた。そのまま岩に叩きつけられ、地面に墜落した。ヴェノムはまたロボットになると左右の腕を大きなハサミと強酸を吐き出す銃に変えていた。

「虫にいっぱい食わされたな。やるじゃないか腹立たしい」

 プレダキングはドラゴンに変形してからあの大きな翼を小さく格納して地上戦をやりやすいようにした。二人が落ちて来たのは谷底で、這い上がってもまた似たような谷が延々と広がる特殊な地帯だ。ヴェノムが強酸を撃った。

 プレダキングは崖を駆け上がった。強酸が当たった所をみると、地面の一部がドロドロに溶けていた。大した武装だ、決して当たる訳にはいかないと自分自身に言い聞かせた。

 プレダキングは炎弾を吐き出し、谷底をデタラメに撃った。

「どこ狙ってやがんだぁ! ハハハ! 降りて来やがれェ!」

 炎弾で余計な土埃が舞い上がり、ヴェノムは手を振り払っていると煙の中からプレダキングが突如現れた。右腕のエナジークローを発動させてヴェノムの腹を貫く。

「これを狙ってたんだな?」

「ッ……!」

 プレダキングが目を見開いた。エナジークローはヴェノムの腹で止まり、貫通していない。徐々にエナジークローの光が爪から消えて行くとプレダキングは一度、引き下がって距離を置いた。

 ヴェノムの方は考える暇など与えず、巨大なハサミでプレダキングをホールドしてから電撃を流しながら強酸を放とうと砲口を突きつけた。ところが、武装から火花が弾け、一部を食いちぎられたような跡があった。

「コイツッ! いつの間にィ!」

「ハサミで切り落としちまおうぜ!」

 プレダキングを持ち上げた所で顔面に炎を浴びてヴェノムは思わず拘束を緩めた。

 尻尾でヴェノムを叩き、壁に打ち付けるとプレダキングの右腕はより強い輝きを放ち出した。

「こンの……! インセクティコン魂を舐めるなぁ!」

 ヴェノムの体からダークエネルゴンのトゲが無数に生え、ダークエネルゴンを圧縮して剣を作り上げると、飛びかかって来ているプレダキングに突き出した。

 エイペックスクローはヴェノムの剣を易々と砕き、腹へ到達した。エネルゴンが流れ出し、ヴェノムが力尽きる寸前、折れた剣をプレダキングに突き刺して、息絶えた。

 ダークエネルゴンの剣を抜いてプレダキングはロボットの姿になる。

「根性は認めてやろうヴェノム」

 ヴェノムを破り、プレダキングは悠々とネメシスに帰還した。

 

 

 

 

 フラクシナスが墜落していた現場には先にディセプティコンがいた。と、言ってもメガトロン一人でプレダキングやコンバッティコンの姿は見えなかった。対するオートボットはダイノボットさえいないが、パーセプターを省く他のメンバーは勢揃いしていた。精霊達も同行を願ったが、やはりオプティマスが許さなかった。

「他の連中はどうした?」

「この作戦には儂一人で十分だ。それで、答えを聞こうかオプティマス?」

 メガトロンの目を見てオプティマスは一歩前へ出る。

「手を組もう。ユニクロンを倒すまでな」

「良いだろう。奴を倒せばまた敵だ」

「ああ」

 ピリピリとした空気が突如、解消された。

「じゃあメガトロン、お前はユニクロンがどこにいるか知っていると言っていたな。どこにいる?」

「地球だ。正しくは地球がユニクロンだ。大戦よりも遙か前、プライマスとユニクロンの戦いが宇宙の歴史だった。次第に追い詰められたプライマスは、今のセイバートロンの姿になり、自身の眷属を創造した。それが最初の十三人じゃった。

 それからまたまた長い年月、戦い続けユニクロンは深刻なダメージを負った、スリープモードで体を休めていた。それが今の地球というわけだ」

 メガトロンが語り終えると一同は唖然とした。この美しい星が破壊神など考えたくもない。

「儂は奴の居場所が手に取るように分かる。奴の中枢まで案内してやろう」

「よし、ではすぐ行こう。早い方が良い」

 それには全員、同意だ。

「パーセプター、グランドブリッジで今からメガトロンが送る座標に転送してくれ」

『分かりましたオプティマス、気をつけて。それと……十香達がグランドブリッジで地球の内部に行った記録が残っているんですが……』「何だって!? どういう事だ!」

『わかりません! ただ私がトイレに行っている隙に……』

『パーセプター大変よ! 十香達がいなくなってるわ!』

 無線機の向こうからは琴里の声もして来ている。パーセプターは地球の内部と言ったが、それはもう明らかにユニクロンの中に突入した事になる。

「二人共、落ち着くんだ。誰がいなくなったか言ってくれ」

『えぇ、十香、四糸乃、狂三、耶倶矢、夕弦、七罪です』

「わかった探しておく。パーセプター、転送してくれ。ユニクロンとの決着が遅れれば地球は本当に危ない」

「ちょうど儂のプレダキングが邪魔者を排除した所だ。警備が整う前に行くぞ」

『では、グランドブリッジを開きます!』

 パーセプターがオプティマス達の足下にグランドブリッジを展開した。そんな所に作れば当然、落ちる。

「ウワアアアアア!」

「ほああああああッ!」

 叫び声と一緒に五人はユニクロンの体内へと転送された。

 

 

 

 

 薄暗い空間にグランドブリッジの淡い緑の光が生まれるとトンネルから五人のトランスフォーマーがぼとぼとと落ちて来た。

「ったく! パーセプターの奴、荒いな!」

 ワーパスが悪態を突いた。

「酷い転送だ。それでメガトロン、気付かれずに行けるのか?」

「勘違いするな。奴はもう気付いている。儂等にな」

 メガトロンを先頭に橋を歩き出す。オプティマスが見上げて見ると橋は毛細血管のように張り巡らされていた。

 これからトランスフォーマーと地球の運命に関わる戦いが始まる。

 


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