デート・ア・グリムロック   作:三ッ木 鼠

34 / 55
32話 虫の王

 アークはオートボット最後の希望だ。そのアークはディセプティコンの戦艦ネメシスと交戦し、ボロボロになって傷付き、至る所が破壊されていた。そんなアークの船体後部ではメガトロンが立ち、オプティマスが片膝をついて息を切らしていた。

 メガトロンは勝利を確信したように墜落していたディセプティコンの降下シップからエネルギー砲を剥ぎ取った。

「エネルギーを無駄にしたくないからな。コイツに手伝ってもらうか」

「メガトロン……!」

 エネルギー砲をオプティマスに向け、大きなエネルギー砲弾を発射した瞬間、オプティマスを援護する為に隠れていたバンブルビーが飛び出し、オプティマスを庇った。 エネルギー弾を直撃したバンブルビーは吹き飛び、オプティマスにぶつかったがしっかりと受け止めてくれた。

「バンブルビー!」

 ぐったりと力が抜けたバンブルビーの手をオプティマスはぎゅっと握った。

「メガトロン、お前の言葉から真理を見いだしたぞ」

「ほう? それは何かねオプティマス?」

 メガトロンは手から一本の柄を出し、それを剣に変形させながら歩み寄った。

「この宇宙がどれだけ広くなろうとも、私とお前が共存出来る広さには断じてなり得ないという事だッ!」

 オプティマスは力任せに拳をかち上げ、メガトロンをアッパーで殴り飛ばした。メガトロンが転んだ所に剣を突き立てたオプティマスが落ちて来る。急いで避けるとさっきまでメガトロンが倒れていた場所にオプティマスの剣が突き刺さっていた。顔を上げ、宿敵を睨み付け、剣を引き抜くとオプティマスは怒りのこもった声で叫んだ。

「決着をつけるぞメガトロン!」

 

 

 

 

 オプティマスは顔を上げ、セイバートロン星を脱出した時の記憶を掘り返していた。あの時、メガトロンに投げかけた言葉は間違いなく決別の言葉だった。それはオートボットとディセプティコンが永遠に交じり合わない事も意味していた。

 士道が狂三を封印し、真那との関係を少し改善したと聞いてオプティマスは驚いた。

「オプティマス? どうされました?」

 いつも以上に険しい顔をしたオプティマスにアイアンハイドは心配そうに声をかけて来た。

「いや、人間は幼い種族と言ったが……私達も見習わなくてな」

「ああ、狂三と真那の件ですか? やはり士道は大した男ですよ。あの狂三さえも信じた愚直な少年、素晴らしい扇動者で空想家、昔の誰かさんにそっくりですね」

 オプティマスは少し顔を背けながら首肯した。

 

 

 

 

 ディセプティコンの月面基地、ショックウェーブの研究室では珍しく改造や研究はおこなわれていなかった。気を失っていた折紙が起きるとトランスフォーマー用の椅子に座っている事に気付き、そして頭にはいくつものコードが取り付けられている。隣にはショックウェーブが同じような椅子に座っている。ショックウェーブの他にもメガトロンと他に情報参謀も確認出来た。

「何をする気?」

「私の開発した脳内侵入プログラムを使う。キミの頭の中を少し覗かせてもらおう」

 記憶が無い、と言っても消えた訳ではない。うろ覚えと言っても記憶されていない訳ではない。ただ本人が思い出せないだけだ。折紙の復讐心は明らかに常軌を逸している。ショックウェーブは、診断も兼ねて折紙の頭の中を覗こうと言うのだ。

「私の頭の中を?」

「そうだ。では始める」

 折紙に有無を言わせずに脳内侵入プログラムを起動した。ショックウェーブの意識は折紙の記憶の中へと転送されるのだった。

 折紙の記憶は研究室の画面に表示されている。

「どんな記憶が飛び出すのでしょうカ、メガトロン様?」

「さあな……」

 メガトロンはつまらなそうな目で画面を眺めていた。そこへ、研究室のドアが開くとスタースクリームとコンバッティコンの五人もぞろぞろと入って来る。

「おい、ショックウェーブ! インセクティコンの観察室にいないと思ったらこんなトコにいやがったのか……。何してるんだ?」

「これから、鳶一折紙の記憶を覗くんだ」

「脳内侵入プログラムか……あんまり感心しねぇな~おい。それで、コンバッティコンは何してんだ?」

「俺達も興味があるんだ。メガトロン様、我々も同伴しても良いですか?」

「好きにしろ」

 ショックウェーブの研究室にはディセプティコンの幹部格が勢揃いし、折紙の頭の中の内容を見ているという光景が出来上がっていた。

 

 記憶へのダイブが完了した折紙は目を開けると天宮市のある病院にいた。病院の廊下にいつ移動したのか考えてみるが、折紙の最後の記憶はショックウェーブの研究室にいた事しか思い出せない。

 ひとまず移動しようと歩き出した所で折紙は立ち尽くした。折紙の視線の先、そこにはスーツ姿の男性が急ぐように早足で向かって来ていた。

「誰だあれ?」

「さあ?」

 画面を見ているディセプティコンは首を捻った。

 折紙にはその男性が誰なのか一目でわかった。

『お父さん……!』

 折紙が手を伸ばして父に手を伸ばしたが、掴む事が出来ずにすり抜けてしまった。まだまだ若いが自分の父親に出会えたのに触れる事が出来なかった事がとても虚しく感じていた。

『そんな……どうして……?』

『これは過去の記憶だ。記憶を見れても触れる事は出来ない』

 折紙の背後からショックウェーブが現れると淡々と説明した。

『キミの産まれてすぐの様子を見ようか』

 ショックウェーブの後に続いて鳶一夫妻がいる病室に行くと、そこには産まれて間もない折紙とその生誕を心から喜ぶ両親の笑顔が見えた。最大に愛をこの子に注ごうと両親は誓い、産まれたばかりの折紙の頬をプニプニと触ったり、あやしたりしていた。

「こりゃ驚きだ。人間ってのは産まれたては戦う事も出来やしねぇな」

 スタースクリームは小馬鹿にしたように笑った。

「儂も孫が欲しいな……」

「メガトロン様!?」

 ボソッとメガトロンが言うとコンバッティコンやサウンドウェーブが驚いたように声をあげた。

「なら、俺様がディセプティコンのリーダーになれば万事解決だぜ!」

「撃たれたいのか? スタースクリーム?」

「あ、い、いえ……でしゃばり過ぎました。お許し下さい」

 メガトロンにフュージョンカノン砲を向けられるとスタースクリームは大人しくなり、黙り込んだ。

「しっかし……折紙は母親似か」

「そうだな、親父の面が遺伝していたら大変だったろうな、ハハハ!」

「この母親もこれだけ美人でよくアレと結婚しようと思ったなァ、おい」

 コンバッティコン達は口々に両親の容姿を評価していた。

 折紙はと言うと、久しぶりに見る両親の姿や生活、当時の無邪気な寝顔を作る自分をぼうっと見ていた。記憶を少し早送りにして、三歳の時の折紙と両親の姿が確認出来た。

 この時も、やはり折紙に愛情が両親から注がれて幸せそうな暮らしがあった。

「メガトロン様、コレをドウゾ」

 サウンドウェーブはお盆にたくさん乗ったエネルゴンが入ったボトルを差し出した。

「悪い」

 メガトロンはボトルを取ってごくごくと飲み始めた。

「お前達も飲め」

 メガトロンから許しが出てコンバッティコンやサウンドウェーブが各々、一本ずつボトルを取った。

「おい、俺様の分は無いのか!?」

「アッハハ! 残念だったなスタースクリームさんよ!」

 ケラケラとランブルは笑って自分には少し大きいボトルを両手でがっちりと抱くようにして持っている。

「テメェ、チビ! 俺様の分だ返せ!」

「やだよーだ! これは俺のさ!」

 ランブルの後をスタースクリームが追い回すが、すばしっこく動くのでなかなか捕まらない。

「静かにせんかスタースクリーム! 続きが始まってるぞ」

 メガトロンに怒鳴られ、渋々スタースクリームは大人しくした。

「何で俺だけ……」

 映像の方では折紙が小学生になっており、今の人形のような無表情を貫いた少女ではなく良く笑い、泣き、喜び、悲しみ、感情の豊かな女の子だった。密かに男子に人気があり、密かに想いを寄せる男の子もいた。

「あの子がこんなにも表情豊かとは思いませんでした」

 いつの間にかプレダキングも鑑賞会に参加している。

「どうも嫌な予感しかしませんねぇ。両親が死ぬ様をもう一回見たらどうなるやら」

 スタースクリームは率直に感想を述べた。

 しばらくその平和な映像を見ていると問題の時に近付いて来た。その日、折紙は公園で一人で遊んでいた。友達は用事や塾で遊べず、仕方なく公園に来ていたのだ。

『ッ……!』

 折紙は忌まわしい記憶が蘇ったのか眉間にシワを寄せた。次の瞬間、町は真紅の炎に包まれた。熱い筈はないが、折紙は反射的に顔を覆った。

『キミの家の方に行ってみようか』

 ショックウェーブと折紙は鳶一邸の前で待っていると幼い折紙が両親を求めて走っている。

『折紙! 無事だったか。早く逃げるぞ!』

 家を出て来た両親は折紙の方を見ると心底安心したような顔をして腕を広げた。折紙も両親の胸に飛び込む寸前だった。黒い影が地面を伝って広がり、影はたちまち折紙の両親や家屋をバラバラに切り裂き、肉片へと変えてしまった。

 恐ろしい早技、意識していなければ見逃す所だった。

 悲しみと怒りで血涙を流す幼い折紙、その近くには黒い髪のアイザックが立っていた。

「アイザック?」

 唯一アイザックと面識のあるスタースクリームは首を傾げた。

「知り合いか?」

「はい、私が地球で一人で活動していた時にDEM社にいたんです」

 DEM社くらいならメガトロン達も知っている。

「そのDEM社の社長です。でも奴とは髪の色が違う。それに外見が全く変わっていない……」

 分からないのは彼が折紙の両親を殺した理由だ。ネメシスプライムは右腕にダークエネルゴンを蓄え、折紙の頭に触れると呪文のように言葉を投げかけて来た。

『憎め……憎め……精霊を抹殺しろ。お前の仇だ』

 それだけの言葉を残し、ネメシスプライムは消えてなくなった。その時、今の折紙にも変化があった。アラームがけたたましく鳴り響く。

「ほら、言ったじゃないですか! あんなショックな映像を見たら絶対、異常が出ますよ!」

「早く接続を切れ!」

 このまま折紙が暴れると脳内にショックウェーブの意識が置いてけぼりにされてしまう。スタースクリームは正常に脳内侵入プログラムをシャットアウトとするとショックウェーブは起き上がる。

「早く折紙を拘束しなくては……!」

 ショックウェーブが折紙に触れようとするや否や目に見えない力が働き、ショックウェーブを押し返し“堕落せし者(ザ・フォールン)”を起動した。

 暴走した折紙、だが暴走したのは折紙だけではなかった。メガトロンは息を切らして片膝を付き、全身から紫色のダークエネルゴンの障気を放っていた。

「メガトロン様、大丈夫デスカ!」

 サウンドウェーブがすぐに肩を貸したが、メガトロンはサウンドウェーブを突き飛ばし、フュージョンカノン砲をあちこちに撃ち研究室をメチャクチャにした。

 折紙は錫杖を振り回し、天井を切り刻んで外へ飛び出した。

「スタースクリーム、ナルビームだ」

 ショックウェーブに言われて渋々スタースクリームはメガトロンにナルビームを放ち、大人しくさせたが折紙はどこかへ飛んで行き、行方をくらませた。

「全く仕方ないな、よし、ここは俺様が指揮を取る」

 スタースクリームが指揮を取ると聞いて皆、嫌な顔をしたがメガトロンとスタースクリーム以外に指揮出来る人材いない。

「ブレストオフ、ボルテックス、二人は折紙を探して来い」

「気に食わないが、わかった」

 メガトロンは医務室に運ばれ、ブレストオフとボルテックスは折紙を探しに出動するとプレダキングは不機嫌そうな顔でスタースクリームに詰め寄った。

「スタースクリーム、私にも折紙の捜索に加えてくれ」

「ダメだ。十中八九、折紙は地球へ向かった。お前はグリムロックのヤローと戦いたいだけだろ」

 プレダキングはギリッと歯を食いしばった。グリムロックとは早く決着を付けたいプレダキングは出撃したくてしょうがない。

 ショックウェーブからも説得されてプレダキングは引き下がった。

「メガトロン様の容態は随時、俺様に報告しろ、ショックウェーブ」

「何故だ? 医術に詳しくはないだろう?」

「詳しくなくても主人の容態を報告するのが当たり前だろ」

 ショックウェーブはとりあえずは「うん」と言ったが、スタースクリームは何か企んでいると決めて動く事にした。

 

 

 

 

 DEM社のCR-ユニットは北極で見つかったオートボット、ジェットファイヤーを解析したおかげで飛躍的な進歩を遂げた。肉体の粒子変形は回避や攪乱にも有効な手段で複数の武装を手軽に保有出来るのだ。

 体を解析を進められるジェットファイヤー、彼は既に北極の冷凍保存状態から解凍されていた。

「おはよう、ジェットファイヤー。気分はどうだね?」

 かつてはスタースクリームがいたDEM社だ。トランスフォーマーに対する設備が充実していた。ジェットファイアーは、ガラス張りの私室を用意されており手厚く保護をされている。

「ああ、私の体はいつも通りだ」

「それは良かった」

 アイザックは笑顔で言った。ところが、その瞳の奥は笑っておらず、常に何かを企んでいた。ジェットファイアーを解析したおかげでDEM社の技術力は目に見えて伸びているのが分かるし、当のジェットファイアーは随分とお人好しな性格でアイザックやエレンに対しても友好的な対応をして来た。

「それにしても、ここは私に合った設備がとても充実しているね」

「ああ……以前は君に似た男が住んでいたんだ」

「私に……?」

 ジェットファイアーは不思議に思った。

「スタースクリームという忌々しい男がね」

「スタースクリームだって!?」

 その名を聞いてジェットファイアーは思わず立ち上がった。

「おや? 知り合いかい?」

 アイザックの問いにジェットファイアーは苦々しい顔をしながら視線をそらし、呟くように言った。

「旧友だ……」

 あのスタースクリームに友達がいたとは驚きだった。

「彼は、彼は今どこにいるんだ」

「私にも分からないさ。単眼のトランスフォーマーと密通していたとか」

「ショックウェーブ……! ディセプティコンがこの地球にも来ているのか!」

「ジェットファイアー、聞きたい事がある」

「聞いてくれ」

「トランスフォーマーについて詳しく教えてくれないかい?」

 生真面目なジェットファイアーはオートボットの使命としてディセプティコンから人類を守ると心に決めてから、セイバートロンやオートボット、ディセプティコンについてアイザックに話した。スタースクリームはアイザックを信用していなかったのであまりちゃんと話さなかったので、ジェットファイアーから聞く情報がスタースクリームの物と違う所が多分にあった。

 最も意外だったのはディセプティコンのリーダーはスタースクリームではなくメガトロンと知らされた時だ。

「あの二枚舌め……。いや、ありがとうジェットファイアー」

「どうという事は無いよ。アイザック、私をここから出してくれないか。私はディセプティコンから君達を守らなければいけない」

「それは出来ないな」

 ジェットファイアーの頼みをアイザックはあっさり拒否した。

「どうしてだ」

「君は勘違いしているようだ。君はモルモット、自由はない」

 ジェットファイアーはまだアイザックを悪人と認識していない。恐らく、トランスフォーマーを見て動揺と恐怖からこうした発言をしているのだろうと考えた。

「アイザック、私は君には何もしない。ディセプティコンから人類を守るのが私の使命なんだ」

「その使命は私達が全うしてあげよう」

 アイザックはポケットからスイッチを出し、それを押すとジェットファイアーのいる室内に高圧電流が流れた。

「うぁッ!」

 全身が痺れ、ジェットファイアーは力無く倒れた。

「や、やめるんだ……」

 ジェットファイアーが止めさせようと手を伸ばしたが、再び高圧電流が流れ、ジェットファイアーは気を失ってしまった。

 

 

 

 

 暗黒の空間には何も無い。重力も空気も光も無く宇宙でもないその空間に三人のボロボロになった無惨な姿のトランスフォーマーが当て所なく漂っていた。キックバック、シャープショット、ハードシェルはダイノボットの猛攻をその身にたっぷりと浴びた所為で体は破壊され、再生不可能なレベルのダメージを受けていた。

 ショックウェーブに見切りを付けられ、戦場に放置されていた。

 ――インセクティコン。

 暗闇で誰かが三人を呼ぶ。だが三人は既に機能を停止しているので動く気配は一切無い。

 埋められていた筈のインセクティコン達はどこか分からない空間で横に並べられていた。

 ――余の忠実な下僕となれ。マトリクスを破壊するのだ。

 闇から聞こえる声。その声の主がどこにいるかは分からないが、三人の胸にダークエネルゴンが埋め込まれると傷付いた肉体は徐々に再生を始め、それだけに留まらず、三人の体は一つに集まると複雑に絡み合い、一つの姿へと変形していくのだ。

 ――お前はヴェノム。“合体昆虫兵ヴェノム”だ。

 三人が新たな肉体となると暗黒の空間が取り払われ、そこは天宮市の端の山頂に立っていた。

 ――良いか、マトリクスを破壊す――。

「ンハハハ! 完全復活だぜ!」

「おい、シャープショット! これは俺の体だ! 黙ってろ!」

「まずはショックウェーブに復讐だァ、だァ、だァ」

 肉体の合体は成功したが、どういう訳か精神まで一つにする事に失敗したらしく、三人の人格が出てしまっている。三重人格だ。

 一つの体で三人分喋るとなるとうるさい事この上ない。

 ――ヴェノム、マトリクスを破壊するのだ。

「何だァ? 今の声はよ!」

「ヴェノムって誰だよ」

「ンハハハ! テメェ等幻聴でも聞こえてんじゃん!」

 闇の声の主はやれやれ、と諦めたように首を振り、次回再生をする時にしっかり精神も一つに纏めようと決めた。今のままではうるさすぎるからだ。

「とりあえず……」

「ああ!」

「ショックウェーブのヤローをぶち殺す! ンッハー!」

 ヴェノムの中の三人の意見は合致した。ヴェノムは昆虫モードへとトランスフォームした。

 バッタのように長く曲がった足に頭には触角が二本生えている。胴体はハードシェルのように太くがっちりとして重量感がある。キックバックの特徴である強靱な足はこのガタイでも高く飛ばす事が出来るだろう。

 次にシャープショットの特徴のクワガタムシを彷彿とさせる大きなアゴとハードシェルの長く逞しい一本の角が生え、アゴと角で左右と下の三方向から敵をホールド出来る。

 三人の体の特徴が出た混合虫の姿になったが三人はこれはこれで嬉しく思っていた。

 硬い背中の羽を広げ、そこから薄い羽が飛び出すと羽ばたかせながら尻からスラスターを噴射して飛び立った。

 ――アイツ等で大丈夫かな……。

 

 

 

 

 メガトロンの突然の暴走は意外な物だった。ショックウェーブはネメシスプライムについていろいろと考察していた。メガトロンが眠る医務室へサウンドウェーブが入って来た。

「どうしたサウンドウェーブ?」

「メガトロン様はダークエネルゴンを取り込んでイル」

「そうだな」

「ダークエネルゴンはユニクロンの血ダ」

「……。何が言いたい?」

「ユニクロンが目覚めようとスルト、メガトロン様にも悪い影響が出ル」

 メガトロンはかつてスタースクリームが管轄するダークエネルゴンの研究所を襲った際に大量のダークエネルゴンを自身の身に宿し、強大な力を奮った。ユニクロンが目覚め、メガトロンが支配下に置かれてしまえばディセプティコンは大ピンチだ。

「そうだな……」

 ショックウェーブが何かを言いかけた時だ。医務室に一般のディセプティコンの兵士が血相を変えて走り込んで来た。

「ショックウェーブ! どうなってる! インセクティコン共が暴れ出したぞ!」

「何?」

 ショックウェーブはすぐに雑多なインセクティコンにテレパシーを送って止めるように命令を送ってみたが、言うことを聞く気配が無い。

「ショックウェーブ! 虫だ虫だ! 早くなんとかしやがれィ!」

 自称ニューリーダーのスタースクリームもショックウェーブの下へ駆け込んだ。

「おかしい……インセクティコンが私の命令を聞かない筈はない」

「人望ないんだろ?」

 スタースクリームが鼻で笑いながら言った。

「お前が言うな」

 もう何回かテレパシーを試したが、インセクティコン達にはより強力な命令で動いている。

「強力な指導者がどこかにいる。それを倒さなくてはダメだ」

 スタースクリームが銃口をショックウェーブに向けた。

「私じゃない。もう一度、私に銃を向けたらお前をインセクティコンの餌にするぞ」

「この俺様がディセプティコンのニューリーダーになったらお前を絶対にクビにしてやるからな!」

「あの、あの何でも良いんで指示を下さいよ!」

 兵士が二人の喧嘩に割って入って叫んだ。

「インセクティコンはすばしっこい、天井にも張り付くから気を付けて対処しろ。全員にインセクティコンの排除を命じろ」

「ショックウェーブ! 何でテメェが仕切ってんだ。俺様の方が先輩なんだぞ!」

 ショックウェーブの肩を掴み、スタースクリームが突っかかるとショックウェーブは首を掴み、スタースクリームを片腕だけで持ち上げると単眼をピカピカと光らせながら顔を近付けた。

「私は今、機嫌が悪いんだ。分かるかね?」

「はい、すいません」

 スタースクリームを乱暴に降ろすと月面基地内にインセクティコンを排除するように命令を告げた。

「サウンドウェーブ、キミは医務室でメガトロン様をお守りしろ」

「了解シタ」

 サウンドウェーブは胸のハッチからランブルとレーザービークを出し、戦闘態勢に入った。

「オレとサウンドウェーブにここは任せろよ! メガトロン様はし~っかり守るぜ!」

 三人にその場を預け、ショックウェーブとスタースクリームは廊下を走りながら向かって来るインセクティコンを撃ち殺した。スタースクリームは普段から嫌な気にさせられていたので嬉々として銃弾を放つが、ショックウェーブの方は少し躊躇っている節があった。

「これからどうするんだ!」

「私は指導者を探す。キミはこのままインセクティコンを排除しろ」

「ケッ! わかったよ」

 スタースクリームは廊下で突然、変形するとジェットを噴き、高速で飛んで行ってしまった。インセクティコンの数はおびただしい、ディセプティコンの今の兵力を上回る数がこの月面基地に住んでいる。

 荒っぽいがショックウェーブは壁をぶち抜き、外へ出て来る。何もない月面の荒野をショックウェーブは見渡し、指導者と思われる存在を探した。インセクティコンを惑わす悪しき電波は外から出ていた。

 左腕のレーザーキャノンを構え、慎重な足取りで一歩、また一歩と歩いていた。ショックウェーブの中ではあの黒いアイザック、ネメシスプライムがメガトロンの暗殺として送り込まれて来たと予想していた。

 オートボットはこの基地に来る手段もなければこの基地の存在も知らない。

 突如、トントンと肩を叩かれショックウェーブは振り向き様にレーザーキャノンを放ったが砲身の向きをパンチで変えられ、青い光線はあらぬ方向へ飛んで行った。

 次の攻撃をさせる前にショックウェーブの腹に強烈なパンチが繰り出され、体は弧を描いて飛び上がり、態勢を立て直す前に空中で再び腹を殴られ月の大地に叩きつけられた。

「ぐっ、おぉ……」

「よくも俺達を見捨ててくれたなァ、ショックウェーブ!」

 現れたのはロボットモードのヴェノムだ。体は標準的なトランスフォーマーより一回りも大きく、プレダキングやグリムロックに次ぐ体躯を誇っていた。

 バイザー型の目はショックウェーブを見下ろした。

 ヴェノムは腕をクワガタムシの大きなアゴへ変形させる。

「ぷちッと捻り潰してやんぜ!」

「待てよ! オレの電気攻撃でじっくりといたぶってやらぁ! ンハハハハ!」

 一人で三人分喋るヴェノムを見て、ショックウェーブは怪訝な顔をした。少し考えるとショックウェーブはその特徴な声や喋り方から気付いた。

「シャープショット、ハードシェル、キックバック……! お前達か!」

「今は三人揃ってヴェノムだ!」

 声も三人バッチリ揃って言った。

 ショックウェーブは隙を見てヴェノムの顔にレーザーを浴びせ、怯んだ所で足払いで転倒させると、ヴェノムにのしかかり、マウントポジションで力任せに殴った。

「品性の欠片もない不細工なデザインだ。製作者の神経を疑うぞ。虫の出来損ないめ。本来の美しさなど見る影もないな」

 言葉でなじり、手を止めずに殴る。

 ヴェノムも負けてはいない。ショックウェーブの頭を掴むと軽々と引き剥がして体を地面に何度も叩きつけた。そこから三人の意識は不平不満を口にした。

「オレ達を捨てやがって!」

「どんなに寂しかったか!」

「お前にぁ分かんねーのさ!」

 レーザーキャノンの砲口にありったけのエネルギーをチャージし、ショックウェーブは悶えながらヴェノムの胴体に撃った。ヴェノムの体が仰け反り、ショックウェーブを手放した。その間に距離を取り、態勢を立て直した。厄介な刺客が送り込まれた、とショックウェーブは心の中で呟いた。誰が何の為に三人を蘇生させたのか考えたい所だが、ヴェノムを相手に戦闘以外に思考を使っている余裕はない。

 ショックウェーブはレーザーキャノンをヴェノムに突きつけた。この怪虫を叩きのめしてもう一度部下になるように頭の中をいじくりまわしてやろうと決めた。

 

 

 

 

 基地内では暴れ出すインセクティコンの掃討に手を焼いていた。それでも、今まで散々好き勝手やられたインセクティコン共を公然と始末出来ると知ってディセプティコンの兵士達は嬉々として引き金を引いた。

 仲間や友人の遺体がインセクティコンに食われた光景を目にした者は数知れず、それでもショックウェーブのペットと言う理由で殺せずにいたのだ。

「やっちまえあの虫けらを!」

 スタースクリームは後方で威勢はたっぷりに指示を出していた。前線ではオンスロート、ブロウル、スィンドルが敵を迎撃している。

「スタースクリーム! 威勢が良いのは構わないが、インセクティコンをどうやって根絶やしにする! 数はあっちが圧倒的だぞ!」

 決して広くはない廊下を走り回るインセクティコンに重厚長大な二門のガトリング砲が火を噴き、次から次へと湧いてくる機械の虫を片っ端からスクラップに変えて行く。オンスロートもブロウルもスクラップメーカーの名に恥じぬガトリング砲の威力には大満足だ。

「ブロウル、天井を崩せ!」

「オッケー!」

 オンスロートの指示を受けてブロウルはビークルモードになった。続いて砲塔の向きを天井に変え砲撃した。爆発で天井が崩れ、何匹かが下敷きになったのが見えた。

「これでしばらくは進行を止められる」

 オンスロートは一安心して顔を拭った。

「そもそも、どうしてインセクティコンが逃げ出したりしたんだ?」

 スィンドルが疑問に思った事を口にした。

「何だかショックウェーブ以上にインセクティコンを操る力が強い奴がいるらしい。ショックウェーブの奴はそれを始末しに行ってる」

 スタースクリームは一仕事終えたような顔をした。

「……インセクティコンを収容しているカプセルがそんなにヤワな作りなのか? それにインセクティコンが暴れ出しても防衛設備が働いていない」

「観察室に不備があったのかもしれないな」

 オンスロートとスィンドルが言い合っているのを見て、スタースクリームはバツの悪そうに顔を歪めた。

 ショックウェーブを訪ねて観察室に行った時だ。スタースクリームは床に何本も散らばっていたコードに足を引っ掛けて転んでしまった。その際に、ベキッと何かを折った音がしたが気にしなかった。スタースクリームがその時に防衛システムの制御装置を壊していた。

 付け加えて言うなら足の引っ掛けた時にコードを引っこ抜き、インセクティコン達の睡眠状態を解いていたのだ。

 

 まだまだ心当たりはある。スタースクリームの顔が徐々に青ざめて行く。今回の騒動の直接的な原因ではないにしろ大きな原因である事は確かだ。

「スタースクリーム!」

 オンスロートに呼ばれて思わず背筋をピンと伸ばして驚いた。

「な、何だよ……」

 声が震えている。だが、みんなスタースクリームが今の状況に脅えていると勘違いしてくれた。

「お前も考えろ。あの大量の虫をどうするか」

「あ、ああ……」

 もしも、スタースクリームの失態がバレたなら何をされるか分からない。このままミンチにされてもおかしくはない。

「スタースクリーム、顔色が悪いがどうした?」

 さっきから落ち着きが無く顔色も悪いスタースクリームをオンスロートは心配した。

「いや、何でもない……何でも……」

 オンスロートは少し黙り込み、スタースクリームを少し観察した。どうにもさっきから様子が変だ。スィンドルが原因について話し出した時から、そわそわしている。こんな緊急事態でスタースクリームが大人しいのも気がかりだ。普段ならもっと騒ぐ筈だ。

「スタースクリーム、まさか、まさかとは思うが、お前何か知っているのか?」

「え、は!? 何をい、言ってるんだオンスロート! 俺は何も知らないぞ!」

「うーん、やはり観察室の不備かもな」

「そうだ! 観察室の不備に違いねぇ! あの部屋はコードがぐっちゃぐちゃで俺も転けたくらいだ――。あ……」

 スタースクリームの失言にオンスロート、スィンドル、ブロウルは一斉に彼の方を睨んだ。

「今日、観察室に行ったのか!?」

「ち、違う違う! 見ただけだ! 中には入ってねぇんだ!」

「今、転んだって言っただろ!」

 ブロウルは拳と拳をぶつけ合ってからスタースクリームの首を掴み、乱暴に持ち上げ、壁に叩きつけた。

「やってくれたなスタースクリーム!」

「ブロウル、まだ破壊するな」

「ま、待てよお前等! 俺はナンバー2だぞ! それにインセクティコンを全員倒す方法はあるんだ! だから――」

「お前の嘘は聞き飽きたぜ!」

 ブロウルは手に力を入れてぎりぎりと首を絞める。

「ケホッ……待て。ロボット昆虫殺虫剤があるんだ!」

「ロボット昆虫殺虫剤だって!?」

 三人は声を合わせて驚く。ブロウルは手を離してスタースクリームを解放した。

「よしスタースクリーム、そのロボット昆虫殺虫剤の所まで案内しろ」

「オンスロート! まさかコイツの言葉を信じんのかよッ!」

「どの道、それしか助かる方法はない。仕方ないだろ、ブロウル?」

 納得せざるを得ないブロウルは黙って従った。スタースクリームを先頭にブロウルが天井を崩した通路の逆を歩き始めた。一般の兵士もブラスターやマシンガンを構えていつインセクティコンの襲撃が来るか分からず、ビクビクと震えていた。

 スタースクリームは早くショックウェーブが元凶を倒してくれる事を願った。

 基地の通路にはインセクティコンの死骸やディセプティコンの遺体が転がっており、壁や天井が割れて瓦礫も散乱していた。ここで激しい戦闘があったのがよく分かる。

「それで、ロボット昆虫殺虫剤なんざどこにある? 武器庫にはそんな物はなかったぞ」

「俺様の部屋だ」

「何で貴様の部屋にそんなものがあるんだ」

「いつかインセクティコンが危険になる前に俺様が密かに用意しておいた訳さ」

「インセクティコンを危険にしてくれたなスタースクリーム?」

「うるせぇ! 観察室を整理整頓しないショックウェーブが悪いんだ!」

 ちなみに観察室は関係者以外は立ち入り禁止の警告がされてある。

 スタースクリームの部屋まで今いる地点からそう離れてはいない。インセクティコンには出くわす事もなくたどり着けるだろうと高をくくっていた矢先、スタースクリームが角を曲がると、インセクティコンの群れがスタースクリームの部屋の前を占拠していた。

「あ……ぅ……」

 壮絶な光景にスタースクリームは声にならない声を洩らした。インセクティコンは床や壁をかじるのを止めて、じろりと複眼がスタースクリームを捉えた。

「逃げろオンスロート!」

「何がだ!」

「インセクティコンがいっぱいいるぅ~!」

「邪魔だ! ディセプティコン! 応戦しろ!」

 スタースクリームをどけてオンスロートはガトリング砲を発射し、インセクティコンを迎撃した。スィンドルもギアシュレッダーと呼ばれる武器を出し、丸鋸状のディスクを連射し、インセクティコンを切り刻む。

「ブロウル、お前はビークルモードで砲撃しろ! 奴らを跡形も無く消し飛ばすんだ!」

「おう!」

 大火力を発揮するタンクモードへトランスフォームしたブロウルは車体を床に固定し、自慢の大砲がうなり声を上げた。砲声に次いで爆発音が轟き、インセクティコンの群れの殆どが炭となった。

「次弾装填までちっとかかる」

「大丈夫、もう片付く!」

 ガトリング砲で始末しきれなかったインセクティコンを素手で捻り潰し、銃身で無理矢理突き刺し、スィンドルは近接ブレードでなぎ倒して、二人は残ったインセクティコンを撃破した。部屋にいた分を全て倒し終えるとスタースクリームは、また元気を取り戻した。

「よくやったテメェ等!」

 調子良くスタースクリームは部屋の中へ入って行き、その姿にオンスロート達はイラッと来たがまだ耐えた。

「メガトロン様に絶対、言いつけてやる」

「だな」

「もちろん」

 個人的に叩きのめしたいが、私刑は許されていない。

 スタースクリームの部屋は言うだけあって整理整頓されている。彼は意外に綺麗好きなのだ。ところが、インセクティコンに部屋を荒らされており、いつもの綺麗な部屋が無惨な姿で確認されスタースクリームは悲鳴をあげた。

「あの虫けらめぇ! よくも俺の部屋を!」

 瓦礫を足でどけながらロボット昆虫殺虫剤を探すと意外にすぐ見つかった。

「あったあった」

 両手で抱えなければいけない程に大きな缶を引っ張り出し、ノズルを伸ばしていつでも使えるように準備した。

「まさかそれでチマチマと潰して行く気じゃないだろうな?」

「……。そんな訳ないだろ! え~……とりあえず基地の消化装置のタンクにこれを流し込んで一気に散布するか」

「消化装置で散布しようにもパイプがあちこちかじられてるんだ。上手く働かない」

 と、スィンドル。

「そうだな……」

 スタースクリームとオンスロートは上手く一網打尽に出来る方法はないかと必死に頭を捻った。ああでもないこうでもないと言い争って、一向に話が前に進まない。どうすれば良いのか、決定的な打開策が思い付かないままだったが、スタースクリームは、ふと閃いた。

「おい、あのインセクティコンの餌はどうなってるんだ?」

「餌? あいつ等は基本的に何でも食べるだろ」

「そうだけど、ちゃんとした餌がある筈だそれにコイツをくくりつける」

 殺虫剤の缶ををこんこんとつついて見せた。

「なるほど、餌で釣る訳だな? 確か地球にも似た罠があったな。なんとかホイホイという名前だったな」

 やる事が決まれば行動は早い。ディセプティコンの兵士に囮を託し、四人は急いで観察室を目指した。途中、少数のインセクティコンに遭遇したが問題なく倒して全ての元であるショックウェーブの観察室の前まで来た。ドアは歪んで自動的には開かなくなっている。

 ブロウルが前へ出るとドアを蹴り力任せに左右へ開いた。

 中にはインセクティコンは一匹もいない。好都合と睨み、室内の至る所を見て餌を探した。

「おい、これじゃないか?」

 スィンドルがロッカーの中から引っ張り出したのは小さなエネルゴンの欠片が入った袋だ。ロッカーの中にはその袋がぎっしり敷き詰めてある。

「でかした! 早くそれを撒け!」

 餌の匂いが伝わるように袋を破り、床にエネルゴン片を撒き散らしてその中に小型爆弾を仕込んだロボット昆虫殺虫剤を置いた。

「なあスタースクリーム、これはトランスフォーマーに影響は無いのか?」

「無い……筈だ」

 不安だが信じるしかない。

「お前等! 匂いにつられて大量にこっちに向かってくるぜ!」

 ブロウルの報告を聞いて、オンスロートは天井に穴を開けて逃げ道を作った。

「全員、逃げろ!」

 スィンドルがグラップルビームで天井に引っ掛け、軽々と外へ飛び出し、屋根から三人を引き上げた。穴から観察室を覗くとそれはおぞましい光景だ。インセクティコンの群れで床は見えず、みんな必死に餌を取り合っていた。

「スタースクリーム、スイッチを押せ」

「言われなくても!」

 小型爆弾の起爆スイッチを押し、次の瞬間、観察室に殺虫剤が散布された。

 インセクティコンが室内に溢れかえる殺虫剤に悶えて次々とひっくり返って倒れてしまう。白い煙が晴れた頃には部屋に生き残ったインセクティコンは一匹もいなかった。

「やったぜベイビー! あの虫野郎を根絶やしだ!」

 基地に数匹、残っていたがそれもすぐに掃討され、インセクティコンの暴動はなんとか鎮圧出来た。

 

 

 

 

 ヴェノムは左手の角と右手のハサミでショックウェーブを追い詰めていた。角を振るって殴り飛ばし、倒れた所へ電撃攻撃がぶつけられた。

「かなり、強化されたな」

「余裕こいてるヒマはねぇーぜ!」

 ハサミでショックウェーブを押し倒し、しっかりホールドすると電撃で体を痺れさせ、顔に角を向けた。レーザーキャノンを腹にぶち込もうと砲口の狙いを定めるも、角で砲身を叩き、向きを変えるとヴェノムは足でショックウェーブの腕を踏みつけて、攻撃をする手段を封じた。

「あばよ、ショックウェーブ! ンハハハハ!」

 勝利を確信した顔を作り角でショックウェーブの頭を貫かんと振りかざした。いざ、振り下ろそうとするとヴェノムの腕はピタリと止まって動かない。

 ヴェノムの腕は何者かに掴まれていた。

「私の主人に何をする!」

 腕を捻られ、同時に顔面に痛烈な一撃を受けたヴェノムは地面を盛大に転がり、月面の岩に頭を打った。

 プレダキングはショックウェーブを起こすとヴェノムを睨み付け、鋭利な爪を剥き出しにして低く唸った。

「いってて……! ショックウェーブ、次はそいつがペットかよ! 俺達がいなくなりゃあすぐに次のペットを飼いやがって!」

「そうだそうだ!」

「ドラゴンの方がカッコイいからって酷いぜ!」

「ショックウェーブ、あれと知り合いですか?」

「昔の話だ。プレダキング、始末しろ」

 ショックウェーブの命令を受けてプレダキングは駆け出し、ヴェノムに殴りかかる。先が読めない奇抜な動きでプレダキングのパンチを避けると口から酸を吐き出した。濃度の高い酸を受けてもプレダキングのボディーには傷一つ付かず、大きく開けたヴェノムの口に拳をねじ込み、地面が深く陥没するほど叩きつけた。

 頭の中の回路がいくつかショートし、ヴェノムの平衡感覚がエラーが生じた。ふらふらと覚束ない足取りのヴェノムにプレダキングは一気にたたみかける。

 ストレート、フック、アッパーあらゆる殴打の嵐に体が火花を散らし、へこみ、破壊されて行く。上段蹴りが首を狩るように入り、ヴェノムの視覚センサーにも異常を来した。

「コイツ……強ぇ……!」

 助走をつけながら渾身の一撃がヴェノムの顔面を捉え、吹き飛ぶ瞬間に足を捕まえ、地面に打ちつけた。

 プレダキングはビーストモードに変形するとヴェノムをくわえて、振り回してから炎を吐き出し、月面の空に撃ち上げた。

 反撃などさせない圧倒的、実力でヴェノムを撃退したプレダキングは傷だらけのショックウェーブを心配するように歩み寄り、鼻先で体を揺すった。

「助かった。礼を言うぞプレダキング」

 ショックウェーブが顔を撫でると目を細めてプレダキングは嬉しそうな反応を取った。

 

 

 

 

 インセクティコンの騒動は片付いたが月面基地はメチャメチャだ。メガトロンが目を覚ました時、あまりの惨状に卒倒しそうになった。

 インセクティコンの全滅は手痛い戦力ダウンである。

 基地の司令室には画面に向き合うメガトロンとダウンしたシステムの復旧を急ぐサウンドウェーブにスタースクリームとコンバッティコンがいた。

「なるほどな……オンスロート、ブロウル、スィンドル。三人は下がって良い」

 事の顛末は全て聞いた。ヴェノムという謎の襲撃者にくわえて、スタースクリームの失態だ。

「では失礼します」

 三人が司令室を出て行くとメガトロンはスタースクリームを見下ろした。

「スタースクリーム!」

「は、はい、メガトロン! 聞いて下さい!」

「やかましいわ! 今は貴様の声など聞きたくもない! 儂のミスは貴様の存在そのものだ! 今日という今日は許さんからな覚悟しろ!」

 スタースクリームの頭を掴むとメガトロンはズルズルと司令室の外へと引きずって行った。

「お許し下さいメガトロン様ァ! 助けて! やめてぇぇぇぇ~!」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。