そんな痛ましい折紙をメガトロンは両脇にスタースクリームとサウンドウェーブを置き、腹立たしく思いながら観察していた。人間一匹がどうなろうと知った事ではないが、基地を破壊されてはかなわない。
「ええい、やめんか折紙!」
メガトロンが怒鳴ったが折紙は獣のように暴れて話など聞こうとしない。仕方なくメガトロンはスタースクリームに命じた。
「スタースクリーム、ナルビームだ」
「おまかせ下さい。そこらへんの原始的な兵器と俺様のナルビームと一味違う所を見せてあげます。受けてみろぃ!」
スタースクリームのナルビームが折紙に当たると麻痺効果によって折紙は動けなくなった。しかしそれでも激しい痛みは残るので人とは思えぬ声を上げて悶えた。
「スタースクリーム、ショックウェーブを呼んで来い。サウンドウェーブ、折紙を連れて行け」
「はいはい、わかりやしたよ」
「了解シタ、ランブル、イジェ~クト」
サウンドウェーブの胸が開くとランブルが変形しながら飛び出して来た。
「はいよ! 呼んだサウンドウェーブ?」
「あの人間を連れてイケ」
「おぉ~こりゃまた美人さんでござんすねぇ~。まあ、このランブルにお任せ!」
ランブルはちょこちょこと歩いて折紙の所まで歩くと軽々と持ち上げてから基地の中に連れて行く。
「ふんっ……復讐にしか生きられない愚か者めが……」
愚かな行為と思うがメガトロンに止める義理は無い。ただ利用出来ればなんでも良いのだ。
メガトロンとサウンドウェーブが基地へ帰ろうとした時、プレダキングがのそのそと巨体を揺らして近付いて来た。
「どうした、早く基地に戻れプレダキング」
プレダキングの報告を聞きたいが、コイツは喋れないと思っているので期待はしていなかった。だがプレダキングはメガトロン達の前で変形して獣から人の姿を取った。
「報告いたします。メガトロン様」
メガトロンを凌駕する体躯に威圧的な出で立ち、それでいてプレダキングの話し方はとても紳士的だ。落ち着いた声色でイカレた獣性など微塵も感じさせない。本当にあのプレダキングなのかと疑いたくなるくらいだ。メガトロンは驚愕を隠しきれずにプレダキングを見上げていた。
「ショックウェーブとスタースクリーム、すぐにここに来い」
メガトロンは二人にそれだけ連絡を入れて折紙の事は後回しにして呼び出した。少ししてから二人は慌てたように走りながらやって来た。スタースクリームはプレダキングが変形している姿を見た途端にメガトロンの後ろにサッと隠れた。
ショックウェーブも己の計算を超えて進化するプレダキングを嬉しくも怖く思えた。それはグリムロックの一件で思い知らされたからだ。
プレダキングは生みの親であるショックウェーブを見ると近付き、片膝を付いて頭を下げた。
「私に力と命を授けたマスターには感謝してもしきれません。これからも私はディセプティコンに忠誠を尽くします」
プレダキングは反旗を翻すつもりは無いらしい。だが、スタースクリームは突っかかった。
「騙されちゃダメですメガトロン様! こんな奴信用出来ませんよ! いつ裏切るか分かりゃしない!」
「黙れ愚か者! 少なくともお前よりも信用出来るわ!」
スタースクリームは押し黙った。
「プレダキングよ、解せない点が一つある。変形能力があるなら何故、今まで隠していた? 話せるならコミュニケーションをもっと上手く取れた筈だ」
「説明します、メガトロン様。私が知能に目覚めたのは昨日、一昨日の事です。変形能力と会話能力に目覚めたのは今日、グリムロックを倒してからです。決して隠していた訳ではありません、ただ自分でも短期間にあらゆる力が伸びてどうすれば良かったのか整理がつきませんでした」
「ほう……。ところであのグリムロックを倒した、そう言ったな?」
「はい」
「詳しく聞かせてくれ」
ディセプティコンの目の上のタンコブであるグリムロックを撃破したという話ならメガトロンも嬉しくて聞きたくなる。
「もはや、ダイノボットは私の敵ではありませんでした。そのリーダー、グリムロックも私はエネルゴンの溶岩に叩き落としてやりました」
「何、エネルゴンの溶岩だと!? それでは無限のエネルギーが手に入るではないか! 場所はどこだ!」
「ダイノボットアイランドにあります。案内します」
「よろしい。ショックウェーブ、お前は留守を任せた」
「わかりました」
次にメガトロンは基地にいるコンバッティコンを何人か呼び出した。
「ブロウル、ボルテックス、お前達もすぐに来い」
『うわぁぁ! ババじゃねぇか! お? メガトロン様のお呼びだぜ!』
コンバッティコンはどうやらババ抜きをしていたらしい。ブロウルがババを引いた声はメガトロンに良く聞こえていた。
メガトロン率いる以下、サウンドウェーブ、スタースクリーム、プレダキング、ブロウル、ボルテックスはダイノボットアイランドへと向かう為にネメシスに乗り込み、月面を飛び立った。
ネメシスを見送ったショックウェーブは基地に帰って折紙の面倒を見に行く。ベッドに横たわる折紙を見下ろすショックウェーブは増大し続けるその憎悪に一つコメントを残した。
「醜いな」
感情論はショックウェーブに肌に合わない。ただ復讐や怒りは戦闘力に大きく影響を与える為にプレダキングに備え付けた。プレダキングはビーストとロボットの姿を行き来する事で本能と理性の両立をしている。本来ならば復讐などという論理的ではない思考の持ち主を仲間にしたくはなかった。
「ショックウェーブ……」
折紙が目を覚ました。その表情は疲れ切っていた。
「どうした?」
「もっと力が……力が欲しい!」
このまま力を与え続けるのは危険であった。折紙に対してもディセプティコンに対してもだ。折紙の今を例えるなら抜き身の刀だ。それを収める鞘が無い。
インセクティコン達はショックウェーブが鞘の代わりだった。
グリムロックは四糸乃が鞘だ。
プレダキングはロボットモードが鞘だ。
そして折紙には何もない。精神的に抑制出来る物がない折紙をショックウェーブは危険視していた。
「ショックウェーブ、私は精霊を絶滅させる力があれば私は――」
ショックウェーブは頭に電気ショックを浴びせて眠らせると掴み上げて部屋を移動した。
「ショックウェーブ、ブロウルとボルテックスを見てないか?」
部屋を出た時、オンスロートが声をかけて来た。
「二人はメガトロン様と共に作戦中だ」
「そうだったのか、わかった。その人間は?」
「新しい実験体だ」
実験体と聞いてオンスロートは嫌な気持ちになった。プレダキングは成功例だが、ダイノボットやインセクティコンに散々痛い目に合わされたオンスロートは、正直にショックウェーブの実験を喜べなかった。
オンスロートは、万が一プレダキングや折紙が手が付けられない程に暴走した際にブルーティカスとなって止めるようにとメガトロンから伝えられていた。
「用はそれだけか? なら私は失礼する」
「ああ」
ショックウェーブを見送り、オンスロートは厨房の冷蔵庫からエネルゴンの入ったボトルを三本、かっぱらうと自室に戻ってトランプの続きをした。
「遅かったなオンスロート」
スィンドルがボトルを受け取るとフタを開けてエネルゴンを飲む。
「ショックウェーブと少し話した。ブロウルとボルテックスは作戦らしいぞ」
「おいおい、俺達はお呼びじゃねぇのか?」
「ブレストオフ、俺達はここを守る為に残っているんだ」
「守るって何だよー! オートボットも人間もこの基地には手を出せないぜ?」
「連中じゃない。鳶一折紙という人間からこの基地を守るんだ」
「鳶一折紙……? あぁ~最近、入ったあの可愛い子ちゃんか」
ブレストオフもボトルを傾けてエネルゴンを飲んだ。
「んで、あの子がどうって言うんだよなぁ?」
「ショックウェーブの実験体だぞ?」
「何ィ!? それはまずい! まずすぎるぞ!」
ディセプティコンの大半はショックウェーブの実験体と聞くだけでロクな物ではないという認識なのだ。
「あーあ、可哀相に……。あの年で実験体か……流石に相手が人間でも同情するよ全く」
スィンドルはボトルを掲げて生存を祈るような口調で言った。
ダイノボットアイランドでは未だにグリムロックの引き上げ作業が続いていたが、ちゃんとした成果は出せずにいた。グリムロックが火口に落ちてからと言う物、何度も地面を叩くような振動が地中から発生している。
「なんかこのダイノボットアイランド、不安定じゃないか?」
スラッグは周期的に起きる地震や小山の噴火を見ながら言った。
「このままじゃ、アイツが溶けてなくなっちまうよう!」
「グリムロックはもうダメなんだ……データバンクがそう知らせてる……」
「スラッグ、グリムロックは平気だよな?」
「俺には分からんよ!」
ああでも無いこうでも無いと言い合っているとダイノボット達の前にグランドブリッジが展開された。グランドブリッジからは四糸乃が出て来るのを確認するとみんな、わざとらしく普段通りを装った。
『おんや~? グリムロックはまだいないのお?』
「おう、四糸乃達か! グリムロックならその……まだ治療中さ!」
「そんなに……酷いん……ですか?」
「まあ……治療と休憩を兼ねてるって言うか……。まだ引き上がってないと言うか……」
スラージはごにょごにょと歯切れの悪い口調でごまかした。みんなあまり嘘が得意ではない性格なのだ。
「そんな悲しい顔するなよう四糸乃、大丈夫! グリムロックはちゃんと戻って来るって!」
スワープが励ましの言葉を投げかけると四糸乃の表情からほんの少しだが、不安が抜けて行くようだった。
「溶岩にドロドロに溶かされたような奴がどうやって生き返るのかね?」
威圧的な言葉と共にメガトロンが地上へ降り立つとその後ろにディセプティコンの幹部達も参上した。スラッグが空を見上げると巨大空中艦ネメシスが浮遊しており、日の光を遮ってスラッグやメガトロン達がいる所が薄暗く曇った。
「溶岩……と、溶かされた……?」
四糸乃の声が震えだした。スラッグは四糸乃の精神状態が不安定になるのが分かると焦りを感じた。
「嘘……グリムロックさんは……負けません……」
「嘘ではない。グリムロックは私が溶岩の中に叩き落とした。間違いなく奴は死んだ」
プレダキングがたたみかけるように真実を突き付けて来る。
「おい黙れプレダキング! 四糸乃、聞くな! あんなのハッタリだ!」
スラッグが怒鳴り、四糸乃が不安にならないようにした。
「嘘はどちらだ。グリムロックの死は事実だ。忌々しいダイノボット! お前達も直ぐにグリムロックの所に送ってやる!」
プレダキングは怒りに身を任せてビーストモードへトランスフォームして大きな雄叫びを上げてスラッグに飛びかかった。しかし、プレダキングはスラッグを襲う前に氷の壁によって阻まれた。
「四糸乃!」
ダイノボットは四糸乃を見ると彼女を中心に紫色のオーラが包み込み、深遠でどこまでも悲しみに溢れた瞳からは涙を流し、プレダキングを睨み付けた。
「四糸乃、やめろ! プレダキングはオレ達が倒す! 落ち着くんだ」
大量のダークエネルゴンを暴走させて手当たり次第に攻撃を開始するその姿、それはまさしく反転体の精霊だ。
「
四糸乃が短く言うと四糸乃を中心にして円形に大地が凍り付き始めた。
「メガトロン様、コイツは私がやります。行って下さい」
「任せたぞプレダキング。ディセプティコン! この島のエネルギーを吸い尽くせ!」
プレダキングを残してディセプティコンは全員、エネルギー搾取に向かった。そして、反転体を目の前にしてもプレダキングは全く呑まれていない。ロボットの姿で身構え、プレダキングは右腕をブラスターに変えた。
四糸乃は氷の壁を何層も生み出すがプレダキングのブラスターによって全て粉砕された。四糸乃は次に島の半分はある巨大な吹雪のドームを作り上げた。
トランスフォーマーは強烈な冷却を短時間に与えられると関節が凍り付いて動けなくなる。プレダキングもそれは知っているので即時、決着をつける事にした。
吹雪のドームの外ではダイノボット達がどうやってこの戦いを止めようかと言い合っていた。
「おいおいおい! やべぇよ! 四糸乃が反転しちまったよう!」
「念の為、士道に連絡しておいたぞ」
スナールの迅速な判断に拍手を送りたくなる。
「スワープ、スナール、スラージ、お前達はディセプティコンを止めろ。オレはプレダキングと四糸乃を止めて来る」
「バカか! お前が行ったら一瞬でスライスだ!」
スラージが声を荒げて言った。
「でも止めないと。グリムロックと顔を合わせた時、四糸乃に何かあったらオレがどやされるからな」
スラッグは身震いさせて地面を何度も足でこすり、突進の予備動作を取った。すると次の瞬間、吹雪のドームが弾け飛び地面を凍結させていた氷が徐々に溶けて行っている。吹雪が晴れて、視界が明快な物になって行くとプレダキングの前足に組み伏せられた巨大なうさぎ、よしのんとその近くには四糸乃が横たわっていた。
「四糸乃!」
スラッグは迷わずプレダキングに突進し、二本の角で突き刺したが分厚い金属の皮膚に弾かれて火花が僅かに飛ぶだけに過ぎなかった。
プレダキングは吼え、スラッグも威嚇するように咆哮を上げる。よしのんから手を離すと標的をスラッグに切り替えた。
「スワープ、早く行け! ディセプティコンを止めるんだ!」
残りの三人はスラッグの命令に従いメガトロンのエネルギー略奪を止めるべく駆ける。
プレダキングは突如、ロボットモードに変形した。
「我が種族の最大の報いを受けろ、ダイノボット」
スラッグもロボットモードになると腰から二本の剣を引き抜き、プレダキングに斬りかかった。プレダキングは長い腕で剣が届く前に力強いアッパーでスラッグをかち上げ、吹き飛ばした。
鋭利な爪にエネルギーを流し込み、プレダキングの両腕から爪にかけて光り輝くと空中で身動きが取れないスラッグに致命的一撃を加え胸を抉り、大量の部品やエネルゴンを垂れ流し、スラッグは地面に落下すると動けなくなった。
プレダキングは火山の方を睨み、残りのダイノボットを排除しようとビーストモードへ移行して翼を羽ばたかせて飛んで行った。
スナールから救難信号をキャッチしてダイノボットへとグランドブリッジでやって来た士道とジャズは、四糸乃やスラッグがやられてた光景を見て卒倒しそうになった。
「四糸乃! おい、返事をしろよ!」
士道は四糸乃を抱きかかえて必死に声をかけた。
「士道……さん?」
四糸乃の綺麗な顔は涙と鼻水でグチャグチャで士道の袖をぎゅっと握り締めてすすり泣いた。
「士道さぁん……グリムロックさんが……グリムロックさん……」
「グリムロックがどうかしたのか!?」
尋ねても四糸乃は泣くばかりて答えられない状態だ。
「士道! スラッグは無事だぞ!」
ジャズの報告を聞いて士道はホッとした。だが、重傷には違いなく、ただちに治療が必要であった。
「ま、待て……! ディセプティコンが……この島のエネルギーを……狙ってる……」
「おいおい、喋るな。死んじまうぞ」
スラッグと四糸乃をグランドブリッジで基地に戻してパーセプターと令音に治療を頼むとジャズと士道は再びダイノボットアイランドに帰って来た。
「敵はディセプティコンの幹部達か……」
「オプティマス達はどうしたんだ? 何でまた俺達だけなんだよ」
「オプティマスは町で起こっている騒動の鎮圧さ。恐らく、ダイノボットアイランドのエネルギー略奪が影響だろうね」
空には黒雲が立ち込め、落雷が降り注ぎ、地震の発生頻度も増していた。
「急ぐか」
ジャズが車モードにトランスフォームした時にタイミング良くインカムから琴里の声がさた。
『士道? 聞こえる? バカおにーちゃんがまた無茶やってみたいね』
「無茶で悪いな」
『そっちにはジャズとあんたしかいないんでしょ? 今から真那を送るわ』
「ああ、助か――何!? 真那だって!?」
『そうよ』
「真那はジャズに恋してるんだぞ! ダメダメ! 真那以外で頼む!」
『しょうがないわね。神無月!』
『私は幼女の為にしか動きません! アァ~! 司令、お慈悲を~!』
『やっぱり真那を送るわ』
「うん……」
通信を終了してからすぐにグランドブリッジが開かれて緑色の光のゲートから最新鋭のCR-ユニットを装着した真那が出て来た。その姿は以前、天宮市の攻防戦で見せた物ではなく、更に新しいCR-ユニットをもらって現れた。
全体的に赤を大部分を占めるカラーリングに加えて身の丈はある大きな盾を腕に取り付け、背中には二枚の金属の羽のような物が垂れ下がっていた。それ以外の武装は見受けられなかった。
「兄様! お久しぶりです!」
真那はまず真っ先に士道へと抱き付いた。
「ぐぇっ! 真那、無事だったんだな」
CR-ユニットを着たまま抱き締められて腹の内容物が飛び出しそうになる。真那は士道から離れると次にゆっくりと視線を上にしてジャズを凝視した。
「あ、あなたは……! 私の初恋の人……!」
真那がジャズを認識するとトクン、と堪えようの無い高鳴りを覚えた。この感情は兄と再開した時よりも激しく起こり、顔が熱くなるのを感じた。
「あ、あの……これ……」
もじもじとしながら真那が手紙をジャズに渡した。封筒にはハート型のシールで封をされて、ジャズもこれが“ラブレター”という人間が愛する人に送るメッセージと言うのは知っていた。
「私にかい?」
「はい、ジャズ様。読んで下さいです」
士道は兄として複雑な気持ちだ。まさか実妹の初恋の相手がエイリアンになるとは思いもしなかったからだ。ジャズはラブレターを受け取るとその場では開封せずに胸にしまい込んだ。
「後で読ませてもらうよ」
「はいです……。ところで兄様、これから何をしやがるんですか?」
「琴里から聞いてないのか?」
「聞いてねーです」
「この島にいるディセプティコンを全員、ぶっ倒す、もしくは追い出すんだ」
ディセプティコンと聞いて真那はインセクティコン達を思い浮かべた。虫の大群など見て、気持ちの良い物ではない。真那は嫌な顔をしたが、仕方なく任務を開始した。
「さっさと行きやがりましょう」
真那は一本の柄を手に取ると背中に付けられた羽は実は抜き身の刀身であり、柄と接続させる事で柄の左右に刃が取り付けられた。以前よりも大振りな武装が増えた物だ。
真那は先に空から奇襲をかけるべく先行し、ジャズは士道を乗せて地上からメガトロンのいる地点を目指した。
メガトロン一味のエネルギー略奪により島に影響を与えていただけでなく、それはオプティマス達のいる町にも被害が行っていた。
「オートボット、止まれ!」
オプティマスが号令をかけてアイアンハイド、ワーパスが止まり、ロボットにトランスフォームした。
「何だあの変な穴はよ!」
三人の目の前に現れた物、それは謎の穴。
そしてその謎の穴からはなんと大量のマンモスと原始人が現れたのだ。
「マンモスだ! オートボット、アイツ等をあのゲートにもう一度押し込め!」
「ヨッシャ! オレ様の完璧な射撃でアイツ等を蜂の巣にしてやんぜ!」
「待てワーパス、相手は温かい血が流れた生き物だ。ディセプティコンのような蛆虫共とは違う。優しくやれ」
オプティマスが火器の使用を禁じるように言うとアイアンハイドもワーパスも両腕に展開していた重火器を格納して素手で相手をした。マンモスを取り押さえようとワーパスは掴みかかり、鼻を鞭のように使ってワーパスを振り払うとアイアンハイドが仕掛けた。
荒っぽく皮や毛を掴んでアイアンハイドはゲートへ投げつけて帰してやるとワーパスの手を引いて起こしてやった。
「だらしないぞワーパス」
「いやぁ悪いな爺さん」
体勢を立て直してワーパスはまた別のマンモスを持ち上げた。
「こりゃあ良い。重量上げでもして体を鍛えるか!」
持ち上げたマンモスをゲートに投げ、また帰してやった。
「稲妻を切り裂き! 骨をも砕くお手手! 今のがディセプティコンならバラバラにしてやったぜ!」
マンモス、原始人の追い返し作戦は順調とは言えなかった。たった三人では人数が足りないからだ。
「仕方ない。威嚇射撃だ!」
オプティマスが火器を出現させてマンモスや原始人に当てないように足下を狙った。銃声に驚きながらマンモス達は慌てて逃げて行く。行き先をワーパスやアイアンハイドが防ぎ、マンモス達を取り囲みながら距離を詰めて行くと辛抱出来ず、マンモスはゲートの中へと帰って行った。その直後、ゲートは閉じてなくなった。
「一件落着だ」
『オプティマス、聞こえる? 大変、また別の所でゲートが発生したわ!』
「わかった。すぐに向かう!」
琴里が代わりにグランドブリッジを開くとその中へ飛び込み、町という風景から一変して浜辺に到着した。
「琴里、異変はどこにあるんだ?」
『海上よ。船を手配するわ』
「いや、いい……」
オプティマスはビーチに突き立てられたサーフボードを見た。
「私にいい考えがある!」
「え?」
「オプティマス、まさか――」
海上を行く三人のサーファー。それは人間ではなくトランスフォーマーだ。
「オプティマス! サーフィンで海を行くなんて無茶ですよ!」
「問題ない! それはそうと皆、どこで使い方を習ったんだ?」
「説明書、読んだんだ!」
波に乗った三人は沖へ沖へと進んで行くと一隻の大きな帆船が見えた。マストの天辺にはドクロが描かれた黒い旗が見える。それは間違いなく海賊船だ。
「オートボット、散会しろ!」
海賊船はオートボットを見つけた瞬間に大砲で攻撃を仕掛けて来た。船の上から何人もの海賊が古式のピストルを撃って来ている。
「オプティマス、これは沈めても良いだろ!」
「ダメだ。手荒にするな。彼等を元の世界に戻すんだ!」
さっき同様に威嚇射撃を試してみたが海賊達は怯む様子を見せず、ますます抵抗が激しくなって来る。敵の武装を無力化する為に大砲を破壊してみたが、効果は薄かった。
「私が直接、船長に交渉して来る。サーフボードを頼む!」
オプティマスは海賊船に乗り込んだ。
「化物が! くたばれぇ!」
「コイツ、銃が効かねぇよ!」
「抵抗をやめろ。船長はどこだ!」
オプティマスはマストを蹴り上げてへし折る。ここで海賊船の船長が現れた。左腕はフックで右目に眼帯を付けており、金銀財宝を身に付け、着ている服からも持ち主の威厳を表している海賊船の船長はオプティマスを目の前にして萎縮する船員の間を悠々と歩き出て来た。
「化物、俺に何の用だ?」
「あのゲートに入れ。お前達はこの世界にいるべきじゃない!」
「指図は受けない。俺達は海賊だ自由にやれなきゃ意味ねぇんだよ!」
オプティマスはもう一本あるマストを叩き折った。
「この海では好きにさせない! 早く行け!」
最後のマストを折って威嚇すると海賊達は仕方なくオプティマスの命令に従ってゲートへと行ってしまった。
「なんとか穏便に済ませられて良かった」
「オプティマス! 早くこの異変を突き止めねえと!」
ワーパスがサーフボードを持って来、オプティマスは海から這い上がってそれに乗った。
「メガトロンの仕業だ! みんなこのままダイノボットアイランドへ向かうぞ! メガトロンめ今度こそ覚悟しろ……」
メガトロン達のエネルギー略奪はなおも続いていた。エネルゴンキューブが面白いくらいに生産されてメガトロンは上機嫌である。
「エネルゴン、見る見るうちに、生まれてく」
メガトロン、渾身の一句だ。
「大量のエネルゴンが生まれていますが、どうも不安定なのが気になります」
スタースクリームはキューブ状に精製されたエネルゴンを見て不安を漏らした。溶岩のエネルギー源は強力で少量からでも多くのエネルゴンキューブを作れるが、いつ爆発してもおかしくない程に不安定だった。
「この大量のエネルゴンを前に臆しているのかスタースクリーム? エネルギーがいらんなら結構、儂がお前の分ももらってやろう」
「いえ、そう言う訳では……」
「だったらさっさとエネルギーを吸い尽くせ!」
「は、はいメガトロン様」
メガトロンが他の部下の様子を見に行き、離れて行くとスタースクリームはエネルギーを吸い取りながらほくそ笑んだ。
「メガトロンめ……まあ、この作戦が失敗したら奴は信用を失う。そうなるとニューリーダーは俺様の物だ……!」
順調にエネルゴンキューブを作り出し、全てが上手く行っていたかに見えた。すると島全体が大きな地震に見舞われ、積み重ねていたキューブの山が崩れ、いくつかが爆発した。
「何事だ!」
「キューブが爆発シタ」
サウンドウェーブが淡々と報告する。
「爆発だと? 一体何故だ。それにこの揺れは何だ。どんどん大きくなっているぞ!」
「島のエネルギーのバランスがおかしくなっているんです! この島は本来、この時代の物じゃない。既に時空に歪みが生じているんです!」
「ええい、構わん! 吸い尽くして撤退すれば済む話だ!」
黒雲から稲妻がほとばしり、雷が森に落ちた。
「メガトロン様、雷です! これぞ不吉の前兆!」
「黙らんか!」
スタースクリームを殴り飛ばし、メガトロンはとりあえず今あるだけのエネルゴンを持ち帰ろうとした。そこへ、空中からスワープのミサイルが撃ち込まれ、サウンドウェーブとスタースクリームは爆風に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「ダイノボットか……! プレダキング、奴等を片付けろ!」
「わかりましたメガトロン様」
ディセプティコンの兵士をなぎ倒すスラージとスナールに目を付けたプレダキングはビーストモードに変形して飛びかかる。鈍重なスラージはプレダキングと真っ正面からぶつかり合い、互いに一歩も退かない押し合いを開始し、スナールは側面からロケット砲を浴びせた。
プレダキングは吼えると尻尾でスラージの首を叩いて横転させ、スナールに標的を変更した。走りながらプレダキングは右腕から爪にかけてエネルギーを流し込み、輝きを放つ。スラッグを一撃で沈めたこの攻撃も使えるようになったのはついさっきの出来事だった。
スナールが距離を置きながらロケットを撃ち、後退をしたがプレダキングに距離を詰められエナジークローの餌食にされた。空中に残った最後のダイノボット、スワープも火炎に迎撃された。
「いやはや、素晴らしい実力だわい」
厄介なダイノボットを処理するプレダキングにメガトロンも大満足だ。
「プレダキング、奴等にトドメを刺せ!」
そう命令を下した直後、メガトロンに通信が入って来た。
『メガトロン様、助けて下さい!』
相手はディセプティコンの兵士だ。
「どうした。そっちにはブロウルとボルテックスがいるだろう」
『メガトロン様、ブロウルです! 援軍――』
ブロウルからの通信が途絶えた。ブロウルとボルテックスは火山のふもとでエネルギー強奪をおこなっていた。
「オプティマスか……?」
「きっと祟り神ですよメガトロン様! 自然がお怒りなんです!」
スタースクリームは慌てたように忠告したがメガトロンはそれを無視した。
「プレダキング、謎の敵だ。始末しろ」
メガトロンの命令を受けて頷き、動き出す。そこへ、一人のディセプティコンがどこからか投げられて来た。兵士は下半身がなく、無惨に引き裂かれている。
次いで、サウンドウェーブはもちろん、他のディセプティコンが強い生命反応を山のふもとから感じ取り、臨戦態勢を取った。
「プレダキング、迎撃の準備だ。サウンドウェーブ、レーザービークを偵察に出せ。スタースクリームは空からアタックだ」
指示を出したメガトロンはレーダーの方角にカノン砲を向けた。
「レーザービーク、イジェクト。偵察を開始セヨ」
サウンドウェーブの胸から飛び出したレーザービークは山を降りて行った。レーザービークの姿が見えなくなった瞬間にふもとから激しい銃撃が聞こえ、レーザービークは必死に戻って来る。
「何があったのだ!」
メガトロンの腕にレーザービークが止まる。
「メガトロン様、あれを」
サウンドウェーブが指差した先にはプレダキングに比肩する巨躯の何者かが歩いて来る。灼熱の肉体は溶岩のように赤く、目を刺すような赤い光と熱を全身から放っていた。体にはまだ多量の溶岩が付着してその全容を確認出来ないが、その怪物の右手はブロウルの頭を掴み、引きずっている。左手にはボルテックスがぶら下がっていた。
二人が手痛くやられたのは目に見えて分かる。
「ウォォォォォッ!」
怪物が咆哮と共に二人を投げ捨て、全身の溶岩を振り落とした。
そして怪物はトランスフォームする。
赤い体はトランスフォーマーの機構通りに接続を変え、格納と展開を複雑に繰り返した。前傾姿勢で怪物の太く強靭な足が大地とディセプティコンを踏みしめ、太く頑丈な尻尾はピンと伸びている。少し逞しくなった腕、頭には二本の角、鋭利極まる牙、その威力を最大限に発揮する大きな顎を備えた古代の力の結晶を進化させた純然たる力の化身だ。 進化した赤きグリムロックは再度、咆哮を上げ、音圧は木々を揺らして大地に深い亀裂をいくつも入れた。空間はビリビリと震えてスタースクリームはひっくり返った。
プレダキングも負けじと吼えた。
エネルゴンの溶岩を存分に吸ったグリムロックは景気づけに口腔内に莫大なエネルギーを溜め込み、背中や腰のコンバーターから大気中からもエネルギーを吸い込み、体内でレーザーファイヤーと織り交ぜ、グリムロックは発射姿勢を取ると口から膨大なエネルギーの奔流を吐き出した。
プレダキングはなんとかかわし、サウンドウェーブも真横に飛んで避けた。メガトロンはスタースクリームを蹴り上げてどかしてから自身も回避に成功した。
グリムロックの攻撃が山頂を易々と蒸発させて空の彼方へ消えるとその余波が嵐のように吹き荒れた。
空に消えたので威力が分からなかったが、DEMが以前落として来た人工衛星を瞬間的に消滅させる威力はあっただろう。
「リベンジだ、プレダキング!」
グリムロックが言うとプレダキングは当然、それに応じた。
二人は吼えながら威嚇を続け、迂闊に踏み込まぬようにした。グリムロックが側面を取ろうと右へ横歩きするとプレダキングはそうはさせまいと常にグリムロックを正面に置くように移動した。
睨み合いを続ける二人。その間にエネルゴンキューブを運び込もうとメガトロンは動きだした。
「そこまでだメガトロン!」
「お?」
声がした方を振り向くとサーフボードに乗ったオプティマスが飛びかかっていた。悲運にもサーフボードがメガトロンの顔面に直撃して倒れ込み、オプティマスはパスブラスターの銃口をメガトロンの額に突きつけた。
「エネルギーの略奪はさせないぞメガトロン」
「邪魔をするなオプティマス!」
メガトロンは足払いでオプティマスを転かせると立ち上がった。オプティマスもすぐに持ち直してメガトロンと向き合った。
ジャズと士道がオートボットとディセプティコンの戦地へ既に足を踏み入れていた。真那は空からアタックを仕掛けるつもりだったが、真那の進行を阻む者が上空からゆっくりと降下して来るのが見えた。
白銀の装甲を持つCR-ユニット、それを見た時に真那は足を止めて即座に戦闘態勢に入った。
「お久しぶりですね崇宮真那。行方を眩ましてどこへ行ったのかと思えばやはりラタトスクにいましたか」
「エレン……。一体、何の用でやがります? ここにはDEMの好きな精霊はいやがりませんよ?」
「今回は精霊の捕縛が目的ではありません。私の機体のテストです」
真那は腐食砲を構えた。
「良いです。私の“センチネル”とあなたのペンドラゴン、どっちが上か試してやるです!」
「今までのペンドラゴンと思えば怪我をしますよ」
エレンが背面のスラスターを噴射して躊躇いもなく真っ正面から突撃すると真那は腐食砲を撃った。エレンは一切の回避行動を取ろうとした。
腐食砲の腐食液が命中する寸前、エレンの肉体は一瞬にして細かな粒子と化して細分化されて腐食液を避ける。粒子となって拡散した体は再び結合を始めて瞬時にエレンに戻った。
「今のは……!?」
真那は驚きを隠せないような顔をした。
エレンは大振りのブレードを作り上げ、真那を斬りつけた。盾で受け止めたが、エレンの攻撃は重く、受け止めきれなかった。
地面へと叩きつけられた真那は腐食砲をしまって二ヶ所に刃が付いたブレードを振り回し、エレンの剣と競り合った。CR-ユニットの性能では両者は同等と見て構わないだろう。
その性能を生かすも殺すも装着者の実力に左右される。
盾でエレンを押し込み、姿勢を崩すと横っ腹に蹴りが入った。同時にエレンの切っ先が真那の頬を掠める。
後退などしない。真那もエレンも痛みを押し殺してスラスターで前進した。真那の剣が先に振り抜かれるとエレンは粒子化して背後を取る。
「もらった!」
攻撃が来る方向を予想していた真那は盾で防御し、腕を引いてブレードで突き刺した。だがエレンは剣で防いでから退いた。
CR-ユニットはエレンに対して撤退の命令を出していた。未だテスト機体である所為か活動時間を制限されているのだ。
「良い勝負でした。再開が楽しみです」
「これで人生終了にさせてやります!」
真那が斬り込んで来るとエレンはまた肉体と細分化して真那の剣は空を打った。
「チッ……逃げましたね」
真那は切り替えると火山を目指した。
グリムロックとプレダキングの戦い。
地形に影響を与える激突は山のふもとの森を瞬時に焦土に変えて小山は更地になっていた。
プレダキングは翼を広げて空から仕掛けようとするとグリムロックは背中のハッチが開き、そこからスラスターの噴気口を突出させ、土煙を吹き上げグリムロックも空に舞い上がる。
ロボットモードだけでなくビーストモードでも飛行が可能となった。それでも空中戦は苦手らしく、空中のプレダキングに突進して迎撃して、地上へ叩き落とした。
上手く着地したグリムロックへプレダキングの牙が首に迫る。地面に固定して首をねじ切ろうとするプレダキングだが、相手の装甲は予想以上に固い。
その隙にグリムロックの尻尾が腹を貫き、引き剥がすと全身を使って身を捻り、突き刺さったプレダキングを岩盤に叩き付けた。
プレダキングが悲鳴を上げ、鋭い爪でグリムロックの胸を切り裂いていた。プレダキングは右腕にエネルギーを溜め込み、エナジークローを発動させる。歩調を早めて加速を付けるとプレダキングは前方へ飛び込みながら前足を振りかぶった。
ただでさえ赤いグリムロックの肉体が光を帯びた。全身が炎のように燃え上がり、グリムロックはプレダキングを迎え撃った。
激しい金属音が轟くと二人は交差し終えていた。
グリムロックの横顔から足にかけて切り傷が生じている。手痛い傷だがグリムロックの口にはプレダキングの右翼がくわえられている。どちらが重傷かは一目見れば分かる。
プレダキングは倒れ込んだ。
「プレダキング!」
メガトロンは思いもよらないプレダキングの敗北を目にして悔しいが撤退を指示した。
「撤退だ。サウンドウェーブ!」
「ハイ」
ネメシスに連絡を送ると帰還用ダクトが降りて来た。
「待てメガトロン!」
オプティマス達がダクトに向かって乱射したが、弾は全て弾かれた。ディセプティコンの幹部達が回収が完了するとネメシスはあっという間に宇宙空間まで飛んで行ってしまった。
「オプティマス」
グリムロックは変形するとオプティマスに声をかけた。
「無事だったんだなグリムロック」
戦いが終わった所へジャズと士道が乗り込んで来た。
「お待たせしたねオプティマス!」
「ディセプティコンはどこだ!」
ロボットの姿になったジャズとスターセイバーを構えた士道がポーズを決めた。
「おせぇよ二人とも! ディセプティコンならあっこだぜ!」
ワーパスが空を指差した。
「え、戦いはもう終わったのか!?」
「そうだ。グリムロックが勝利を収めたおかげだ」
グリムロックは誇らしげに胸を張った。
「グリムロック? お前本当にグリムロックかよ!?」
知らない間に赤いカラーリングに変わったグリムロックを見て士道は目を疑った。
「それよりもこの島が自壊しようとしている。あのエネルゴンキューブを早く島に戻すんだ!」
「戻すって……どうやるんだよオプティマス!」
士道が疑問の言葉を述べた。
「こうするんだ!」
山積みになったエネルゴンキューブをオプティマスは火口に蹴落とした。吸い上げたエネルギーを元の場所に戻すというのは間違ってはいない筈だが、何か違う気がした。
しかし、四の五の言っていられないのでみんなキューブを火口に叩き落とした。
するとどうだろうか、地震や地割れは収まり、空を覆い隠す黒雲は霧散して皓々と太陽の光が差し込んで来た。
「助かったようだ」
「ああ……うん……」
ダイノボットアイランドは救われた。数日後には日本近海にあったその島は消えてなくなり、元の時間へと帰っていたのだ。
さて、医務室で目を覚ました四糸乃はまず先によしのんを探して左手にハメた。四糸乃は今、フラクシナスの医務室で治療を受けていた。
あの時、意識が全て負の感情に支配され反転したが、その被害を最小限に抑えられたのはプレダキングが即時、四糸乃を撃破したからだろう。
「四糸乃……グリムロックさんは……?」
『わかんない』
プレダキングの言葉を思い出して四糸乃の目頭が熱くなった。そして目に涙を蓄えた時だ。
医務室の壁を金属の腕が突き破り、四糸乃が座っていたベッドごとフラクシナスの外に引っ張り出して来た。
「な……何ですか……?」
「四糸乃、俺、グリムロック。強くなって復活した!」
グリムロックはフラクシナスの外装に張り付いている。
「グリムロックさん……本物……?」
「本物だ」
さっきまで泣き出しそうだった感情が嬉しさに変わり四糸乃は涙を流し、風で涙は流れて行く。
「良かったです……生きてて……生きてて本当に……良かったです……!」
「泣くな、俺、生きてる。ピンピンだ!」
『コラ、グリムロック! フラクシナスの外装に穴空けたでしょ!』
通信で琴里の怒鳴り声が聞こえて来た。
「ごめん、俺、早く会いたかった」
『わかったから外装から離れてちょうだい!』
「うん」
グリムロックはフラクシナスから離れ、落下と同時にビーストモードになると四糸乃をくわえ、背中のスラスターを使って基地へと飛んで帰って行った。
基地に戻ると改めてグリムロックの復活を喜んだ。
「やっぱりダイノボットは五人じゃないとダメだな!」
重傷だったスラッグはすっかり元気になっていた。
「俺、グリムロック。ヒーロー! 俺、最強のロボットだ!」
ダイノボットアイランドが無くなってしまったので五人は再び基地に住まう事になった。基地は前よりも頑丈に大きくなってだ。
今回の一件でグリムロックはオートボットの切り札としての存在を確固たる物にした。
次こそ宿敵、プレダキングを討つとグリムロックは己に誓った。