地球の危機はいつの間にか起こっていつの間にか去っている。多くはその危機を知らずに明日を迎えていつもの日常を繰り返すのだ。
鳶一折紙はDEMが手配した旅客機に乗り、今はイギリスに向かっている所だった。小さな島国日本に残った士道に思いを馳せ、己の悲願を成就すべく折紙はDEMに入ったのだ。
ファーストクラスの席に座る折紙は、座り心地の良い椅子に深々と腰掛けていた。DEM社の技術力が高いのは折紙もよく知っている。この会社を利用すれば復讐が完遂出来ると折紙は信じていた。
その時である。
折紙が乗る旅客機の屋根が突如として引き剥がされた。
「いたいた。テメェは確か俺がぶっ殺した筈なんだがなぁ……。まあいい」
折紙は突風に抗いながら天井に目を向けるとスタースクリームが腰に手を当てて見下ろしていた。
「あなたは……」
「お前は確かASTだったよなぁ? 何でDEMの旅客機なんかに乗ってんだ? まあいい、お前俺様と一緒に来てもらうぜ」
「断る」
「良いのか断っても? 短期間だけと言っても俺はDEMにいたんだぜ? とてもDEMに精霊を倒す技術力は無いな。それなら俺のディセプティコンに来い」
スタースクリームは折紙についてもしっかりと調べている。折紙が復讐に取り憑かれて周りが見えていない事も全てだ。
人類の科学力の最高峰のDEMよりも先の科学力を誇るディセプティコンの力なら精霊を倒す確率は増す。折紙の目的は精霊の絶滅、その過程は気にしない。
「分かった、あなたと一緒に行く」
「良い答えだ」
スタースクリームは折紙をつまみ上げて空中へ放り出すとジェット機に変形してコックピットに乗せるとDEMの旅客機をミサイルで撃ち落としてようやく月面基地へ帰投した。
ロジャー・マードックの謀反を知ったアイザックは意外にも冷静で怒る素振りもせずに不気味にただ笑っていた。アイザックとエレンが本社に戻るとマードック以下反乱分子は全員、DEMの監禁室へ送られていた。その反乱分子の中にDr.アーカビルは含まれていない。アイザックから見てもアーカビルにはまだ利用価値があるのでここで処刑するのも監禁するのも自身に利益が無いと考えたからだ。
「Dr.アーカビル、今回の君の裏切り行為と地球を滅ぼしかねないミス……特別に見逃そう」
アーカビルは何も言えない。裏切り行為は完全にアイザックに筒抜けで言い訳のしようがないのだ。アイザックは心を読ませないような笑顔でいたがエレンは違った。アーカビルの胸元にレーザーブレードを突き付けてドスの利いた声で言う。
「もしも、次に同じ事があれば容赦はしませんよ」
「わ、分かっておる。早速なんじゃが、北極大陸で興味深い信号を発見した」
アイザックが日本にいて、マードックが反乱を起こしている最中でもアーカビルは自分の仕事は全うしていた。
「北極大陸だって?」
アイザックは机から身を乗り出して聞き返した。
「そうじゃ」
「エレン、すぐに準備だ。アーカビルを連れて北極大陸に行く」
「正気ですか? ついさっきまで反乱があったばかりですよ?」
「ラタトスクが発見する前に回収したい。アーカビル、その信号の詳しい事は分からないのかい?」
「間違いなくトランスフォーマーじゃ」
トランスフォーマーの信号なら一刻も早くに向かいとアイザックは思った。出来れば機能が停止していれば嬉しい。本来はスタースクリームからトランスフォーマーの情報を得るつもりだったが、上手い具合に逃げられてしまった。
トランスフォーマーの構造を解析してエレンの“ペンドラゴン”や他の
月面基地に帰還したスタースクリームは真っ先にメガトロンから顔面へパンチをもらって床を転げ回った。
「イッテェ! 何するんです!?」
「何するんですじゃないぞスタースクリーム! 貴様また儂を裏切る腹だったろう」
メガトロンが言うとサウンドウェーブはレーザービークが回収したスタースクリームの独り言を流した。
「め、メガトロン様、それは何かの間違いなんです!」
「スタースクリーム、儂から一つアドバイスをくれてやろう。独り言を言う癖、直した方がいいぞ」
「お、お許し下さいメガトロン様、二度と、二度と逆らいません!」
「貴様の謝罪は聞き飽きたわい!」
「そんなメガトロン様、あれはほんの冗談でさぁ!」
またも顔にパンチを受けた。
「今回はこれで勘弁してやる! それで人工精霊の素体は見つかったんだろうな?」
「当たり前ですよ。これを見て下さい!」
スタースクリームは折紙の背中を押してメガトロンの前へ押し出す。小さな人間の女が出て来るとメガトロンは腕のカノン砲をスタースクリームの頭に向けた。
「儂は冗談が大嫌いだ」
「冗談じゃありません。本気ですって!」
「貴様のおふざけはもう我慢ならん! やはりここでバラバラにしてくれるわ!」
「や、やめてメガトロン様ー!」
「お待ち下さい、メガトロン様」
フュージョンカノン砲にエネルギーが集束した所でショックウェーブから声がかけられてメガトロンはカノン砲を下ろした。
「何だショックウェーブ?」
「その少女は人間にしては強靭な肉体と精神力を兼ね備えており、人工精霊の素体には打って付けです」
メガトロンは再度、折紙を見下ろす。目を合わせている内にメガトロンは不敵に笑う。折紙の瞳の奥から感じられる禍々しくねじ曲がった憎悪は気にくわないが、目的を成し遂げようとする信念は大いに気に入った。
「鳶一折紙、儂は破壊大帝メガトロン様だ。ここに来たという事は儂に誓うのだ。忠誠をな。そうすればお前の望む力、武器、全てを手伝おう」
折紙は躊躇わず、片膝をついて頭を下げた。
「私は……精霊を倒したい……。その為に力が欲しい。何でもする。私に力を貸して欲しい」
メガトロンは満足げに頷く。
「スタースクリーム、丁重にもてなしてやれ」
「うぇ? 何で俺が……?」
「ゴタゴタ言わず行け!」
スタースクリームは折紙を手に乗せるとメガトロンに指示された部屋に連れて行った。あいにくネメシスに人間用の部屋は無く、空き部屋も無いので相部屋となった。
折紙が部屋に連れて行かれるとスタースクリームは足早にその部屋を去って行った。やけに広く、他の部屋とは段違いに頑丈に作られた部屋の主はゆっくりと四本の足で動き出した。プレダキングは喉を鳴らして威嚇した。
ここはプレダキングの縄張り、今の折紙は縄張りを侵す無法者という事だ。プレダキングは咆哮を上げて室内をビリビリと震わせた。
折紙は動じる様子も見せずに反対にプレダキングを鼻先を撫でてみせた。プレダキングは目を細めて、折紙と同じ位置に頭を持って行く。プレダキングの目は大切な人を失った目だ。折紙も両親を失った。プレダキングも同胞を失っている。人間とトランスフォーマー、人間と獣、姿形や種族に違いはあれど同じ境遇の者と会えば自然と惹かれ合う。
『折紙、時間だ。力を今からくれてやる』
室内にショックウェーブの声が響くとプレダキングは尻尾を振って喜びを表現した。ディセプティコンの兵士が恐る恐る部屋に入ると折紙を連れて出て行ってしまった。
ショックウェーブの研究室には人間用の実験台が用意されてある。折紙はそこに横になるとギュッと目を瞑った。
「ショックウェーブ、これから何をするの?」
「新しいCR-ユニットや武器の類をキミに付けるのではない。人工精霊をキミに備え付ける」
「人工精霊?」
精霊と聞いて折紙は吐き気がした。己が最も忌み嫌う存在に今からなってしまうのだ。それでも折紙はこらえてショックウェーブの手術を受ける事にした。
手術の時間は三時間程、その間にショックウェーブの部屋から悲鳴が途切れる事は無かった。
ゆっくり、目を開けた折紙の目の前には鏡が置いてあり、自分の姿が殆ど変わっていない事に驚いた。姿は醜悪なバケモノくらいになるのを覚悟をしていた分、拍子抜けだ。唯一変わったとしたら、折紙の右肩に紫色で刻み込まれたディセプティコンのエンブレムだ。スタースクリーム、ショックウェーブ、サウンドウェーブそしてメガトロンにもあるディセプティコンのシンボルを折紙はその身に宿したのだ。
「気分はどうかな?」
「変わりない」
「それは良かった」
手術が無事に終わって研究室にメガトロンが入って来た。
「大事ないな折紙?」
過酷な手術を遂げた折紙にメガトロンは労いの言葉を投げかけた。
「平気」
「そうか。ショックウェーブ、あの人工精霊の名前は何だ?」
「まだ決まっておりません」
「なら儂が決めよう。ダーク――」
「ダークは止めましょうメガトロン様」
「何故だ?」
ネーミングセンスをとやかく言うと何をされるか分からない。
「せっかくですのでメガトロン様の名前から参考にさせてもらいまして…………ギガ――いや、メタトロンというのはどうでしょう?」
「メタトロン? 儂の名前と似すぎてないか?」
「メガトロン様の威厳も残った良い名前です。メガトロン様から文字ってメタトロンに。メタトロンは人類の天使の名前であるらしくメタトロン様の威光が良く浴びています」
「ショックウェーブ、貴様名前を間違えんかったか?」
「気のせいでございますメタ――メガトロン様」
「どうやら名前を間違えかけられているらしいじゃないですか。名前も覚えてもらえないような奴がリーダーというのはおかしな話ですねぇ? という事はリーダーはこのスタースクリーム様になるな!」
何故かいつの間にかスタースクリームも研究室にいる。
「黙れ、黙れ若造。リーダーはこの儂メガトロンだけだ!」
「あの、メガトロン。早くこの力を試したい」
様を付けないのは気にくわないが、メガトロンはそれを聞き逃した。
「早速、力を振るいたいのだ? 良いだろう、プレダキングと共に地球に行き、精霊を倒せ!」
「分かった。精霊は一匹残らず血祭りにあげる」
プレダキングに跨り、折紙はスペースブリッジを使って地球に送り届けられた。
「私は飛びながらネメシスから飛んで来るありったけの弾を全部かわした。そう、全部だ。そこから回転したり旋回したりしながらネメシスの甲板に着地したんだ。メガトロンと手を組み、最後は人工衛星をドカンというわけだ」
オプティマスは宇宙空間であった事を土産話としてオートボットや精霊達に語っていた。
「俺、グリムロック。戦いの話もっと聞きたいの!」
オプティマスは自分から戦いの活躍を話すタイプではないが、十香に耶倶矢に宇宙での戦いの話をせがまれて話していた。
「宇宙とはどんな所なのだ? 私も一回行ってみたいぞ!」
「特別面白い所ではないな。無重力と言って体がふわふわするが」
「むじゅーりょく?」
十香には難しい言葉だったのでパーセプターが説明をした。
「地球には重力が働いているので私達は地面に立っていたり出来るんだよ。つまり我々は地球に引き寄せられているんだ。そして無重力とは特に遠心力と地球引力が平衡している人工衛星の内部などに現出するんだ」
「……?」
十香はますます混乱している。
『体がふわ~って浮かぶ空間だよん』
よしのんが適当に説明すると十香はようやく納得した。
「うむ……宇宙とは謎が深いな……。では星は、あれは何なのだ?」
パーセプターは十香の頭のレベルを考えて適当に説明した。
「あれはホタルだよ。宇宙ホタルが至る所で光っているのである」
「おぉー! あれはホタルだったのか! てっきり私は何億光年も向こうで地球と同じような固まりが燃えた光が何百年もかけて地球に見えるようになっていると思っていたぞ!」
大正解だ。十香は頭は悪いが勘は良い。
「俺、グリムロック! 星の話なんかいい! 戦いの話聞かせろ!」
興奮したグリムロックが尻尾をブンブンと振り回してそれがスラッグの頭に当たった。
「イテッ! グリムロック、何するんだ!」
「スラッグ、お前、そこにいるから悪い」
怒ったスラッグはグリムロックに体当たりすると姿勢を崩されてグリムロックはパーセプターの機材の上に倒れた。
「私の発明品がッー!」
「やったな、スラッグ!」
「何々、喧嘩か? キャッホー! 俺も混ぜてくれよう!」
スワープも無理矢理二人の喧嘩に参加した。グリムロックとスラッグが狭い基地で喧嘩をしているとグリムロックは近くにいたスナールの尻尾を踏んでしまった。スラッグはスラージの尻尾を踏み、更に二人も追加で喧嘩を始めた。
「まずい、このままじゃ基地をバラバラにされてしまう!」
パーセプターは焦ったように叫んだ。
「コラッ、グリムロック! 喧嘩はやめろ!」
士道が声をかけてもあっさり無視されてしまった。グリムロックが火を吐くとスラッグは身をかがめてやり過ごすと、グリムロックの火炎はテレトラン1に命中した。
「大変だ。テレトラン1が爆発する! 逃げろ!」
皆に逃げるように士道が促した。
「
爆発の寸前、四糸乃の氷がテレトラン1を凍らせて何とか爆発せずにすんだ。そしてダイノボットの頭から水を降らしてみんなの目を覚まさせた。
『キミ達一体何回、基地を壊す気なの! よしのんもそろそろ怒っちゃうよん!』
「ごめん……」
ダイノボット達は大人しく反省した。
「やはり、増改築してもダイノボットにこの基地は狭いかもしれないね。もっと広々とした所で訓練出来れば良いかもしれないね」
ダイノボット達が好きに暴れられて、更に人間に見つからない場所などそう都合良く見つかるとは思えなかった。
「ちょうど良い訓練場ならあるよ」
ジャズは何か思い出したかのように言うとみんな、初めは疑わしそうに考えた。
「最近、日本近海にね謎の大陸が出現したらしいんだ。そこは強力な磁気嵐の所為で飛行機やヘリは近付けないそうだよ」
「なるほど、無人島か……そこならダイノボットの訓練にもちょうど良いな」
オプティマスもそこでダイノボット達が力を調節させて帰って来れれば毎回、基地を壊される心配も無いのだ。
「さっそく下見に行ってもらおう。ジャズ、君は士道と共にダイノボットを連れてその島に行くんだ」
「わかりました」
「あ、はいはい! その変な島あたしも行きたい!」
同行を希望したのは七罪だ。その隣で本当に小さく手を挙げた四糸乃もオプティマスは見逃さなかった。七罪が行きたがるのは皆、予想外だ、
「お前が行きたがるとは思わなかったぞ」
「うん、どうせ私なんてあれだけ迷惑かけたし。ちょうどその島に左遷出来てみんなもせいせいするかなって」
ネガティブ思考はまだ治っていない様子だ。
「そんなせいせいする何て思わないから!」
「そうであるぞ七罪、我や夕弦ももう貴様には怒っておらぬ」
「杞憂。考え過ぎです」
「まあ……新居の見学以外にちゃんと興味本位って言う理由もあるから」
七罪が言うと本当に新居を探しに謎の大陸に行ってしまうのではないかと怖くなる。
「話は済んだな。ジャズはジェットパックで飛行してダイノボットをその島まで案内するんだ」
「了解しました」
ジャズはビークルモードになると士道と四糸乃、七罪を乗せると車体の上部にジェットパックを取り付けてもらった。ダイノボットの中でも飛べない者は背中にジェットパックを背負って九人は基地から飛んで行った。飛行中を誰かに見られるか心配だが、深くは考えないようにした。
ビークルモードで空を飛ぶというのは慣れないとジャズは感じていた。そもそも空を飛ぶ事自体が初めてであるが、そつなくこなして見せた。飛ぶという感覚をジャズは好きになりそうだった。
士道は時々、後ろを振り返ってダイノボットがちゃんと付いてきているのを確かめた。
「な、なあジャズ」
「どうしたんだい?」
「一つ聞きたいんだけどさ。グリムロック達って昔から恐竜の姿じゃなかったんだろ?」
「……そうだ」
「グリムロック達に何があったのか教えてくれるか?」
チラッと後部座席に目をやり、外の景色に夢中になっている四糸乃を意識した。
「どうしてまた、そんな話をするんだい?」
「スラッグがさ、俺達は改造されたって言ってさ」
ジャズは口を紡ごうと一瞬、躊躇ったが話す事にした。
「特に、四糸乃には内緒だよ士道。グリムロックもあまりみんなに話したがらないんだ」
「分かった」
士道が承諾すると車内のラジオの所から一本のイヤホンが伸びて来た。士道はそれを耳に当てて、話を聞いた。四糸乃や七罪に声が聞こえないように配慮したのだ。この世には知らなくて良い事もある。この話を聞いたからと言ってグリムロックと四糸乃の関係に亀裂が行くとはとても考えられないが、グリムロックが話したがらないのなら無理に辛い話を四糸乃に聞かせる必要は無い。
「グリムロックがかつてオプティマスと対立していたのは知っていたっけ?」
「知ってるよ」
その件については昔、グリムロックがセイバートロンに関する動画を見せてくれた際に知った。
「グリムロック達が対立して彼等はオートボットから離れて別行動を取り始めたんだ。その際にインセクティコンの集団に襲われ、ショックウェーブに捕まった」
ショックウェーブがイカレた科学者という事はこの間の天宮市の事件で良く分かっている。
「ショックウェーブに捕まってグリムロック達は実験の材料にされたらしい。元々、彼はティラノサウルスじゃなくて戦車に変形していたんだ」
「……改造、か」
当人達はどう思っているのか知らないが、士道は酷く胸が痛くなった。
尤も、全員今の姿は何かと気に入っているが。
結果、みんなダイノボットとして強く生まれ変わり、当人達は今の姿を気に入り、ショックウェーブをいつかぶちのめすと意気込んでいるので何もなかったように進んでいるが、士道はもしも知り合いが同じような目に合えば、どう思うか想像も出来なかった。
怒り狂うか、消沈するか、どこか頭のネジが外れるか……。
「士道、見えたぞあの島だ!」
ふと我に返るとフロントガラスの向こうに島が見える。ほどほどの大きさがあり、これならダイノボットが暴れても心配ないと安心出来た。
ジャズを先頭にして高度を下げるとグリムロックもそれに合わして高度を下げ出した。途中、スワープが渡り鳥と一緒にどこかへ行きそうになった以外は順調に進んでこれた。
「はい到着~皆様、お足元にお気をつけてお降り下さい。ジャズ航空からでしたってね」
ジャズから降りた士道達は目の前に広がる現代とは思えない太古の景色に息を呑んだ。およそ今の時代では見られないような昔の草木が生い茂っていた。
「この地層からして数千万年前の地層だね」
ジャズは土を手ですくっていつの物なのか解析した。地上に降りたグリムロック達はさっそくビーストモードに変形して背伸びをしたり、翼を遠慮なく広げて伸び伸びとしていた。
「凄い……タイムスリップしたみたいだな」
『わぁーお、これならいくら暴れても平気だねい!』
「あたしの物件にしたらちょっと荒いかな……」「タールの沼地、爆薬の草原、エネルゴンの溶岩、無数の火山に可燃性の湖、ここには全てが揃ってるな!」
感心したようにジャズは何度も頷いた。これだけ高密度なエネルギーがもしも丸々手に入ればセイバートロンを満たすのは楽勝だ。
「素晴らしい! なあ、士道? あれ……士道? 士道どこに行った!」
気が付けば士道がいない。四糸乃はグリムロックと一緒だし、七罪もそこにいる。しかし士道の姿は確認出来ない。
珍しい空間に胸を躍らせた士道は探検したくてたまらない気持ちになり、単独で歩き回っていた。
「恐竜までいるのか。本当にここは面白い島だなぁ」
初めて見る草や大人しそうな小さな恐竜に触れてみたりと観察を続けていると頭上で甲高い鳴き声を響かせて一匹の恐竜が飛んで来た。
「あれはスワープそっくりだな」
呑気にそんな事を思っていると一匹の翼竜は急降下して士道を掴み、飛び去った。
「おい、離せよ! 助けてー! スワープ!」
士道の言葉など理解出来ないプテラノドンは士道を巣にまで運ぶと荒っぽく巣の中に落とした。巣にはたくさんの大きな卵が置いてあり士道は身震いした。この卵からあの翼竜が産まれると思えばゾッとする。
「士道、今助ける待ってろよー!」
さっきの士道の声を聞きつけてスワープが空からアタックを仕掛けた。スワープと本物のプテラノドンの珍しい戦い! 果たしてどちらに軍配が上がるのか。
見たこともない金属の翼竜にプテラノドンは声を上げて威嚇し、スワープは躊躇いなくミサイルを撃ち込んだ。当たらないように手加減をしてプテラノドンの付近でミサイルが爆発すると慌てて逃げて行った。巣から見事、士道を救出するとスワープはどこか、近くの地上に下ろした。
「今度は気をつけろよう! またなー!」
「ありがとう、助かったよスワープ!」
間一髪、助かって士道はホッと一安心したそんな彼の背後、湖の中から長い首を伸ばし、一頭の首長竜が現れると士道の襟首を口でくわえて、持ち上げた。
「うわっ!? 俺は餌じゃないぞ! だ、誰か、助けてー! スラージ!」
首長竜に持ち上げられた士道は湖の中央にまで連れて行かれ、空高く投げ飛ばされて水面ギリギリでキャッチされたりと恐竜のおもちゃにされていた。
「離せ! 体がバラバラになりそうだ!」
士道の危機、湖の岸には士道を探しにみんながやって来ていた。
「士道! ダイノボット、士道を、助けるぞ!」
スラージが先に湖に入り、スワープが空から士道の救出を開始した。
ダイノボットに不可能はないのだ! 首長竜がスワープに気が行っている隙にスラージが士道を取り返すと背中に乗せてやり岸へ引き返して行った。
「ハァ、ハァ、ありがとうスラージ。この島は俺には荒々し過ぎる」
力のコントロールをこの島でしてもらうという理由でダイノボットにはここに留まり、士道は見送りが終わったという事でそろそろ帰ろうとしたが、四糸乃と七罪はまだ残りたいと言い出したのだ。
無理に連れ帰る理由は無いので士道は夕方に迎えに来ると告げて、ジャズと共に帰って行った。
「オレはここ結構気に入ったな。どんだけ突進してもぶっ壊れないしな」
「オレも体重を遠慮しないで歩けそうだ。基地の床はオレにしたら脆すぎる」
「あぁ~、伸び伸び出来るのは最高だな」
スナールは体を伸ばし、肩の力を抜いた。
『ねえねえ、みんなは今日はどこに寝るの?』
「俺、どこか、洞穴、探す」
「うげっ、洞穴かぁ~、熊とか出るんじゃない?」
七罪はそう言ってから思い出した。この島で熊など小動物に過ぎないと。
「ごめん、今のなし」
「グリムロックさん……今から……何かするんですか?」
「うーん……」
力をコントロールしろと言われたが、具体的に何をすれば良いか分からない。
「よーし、射撃訓練だ!」
グリムロックは号令をかけてロボットモードに変形して各々、飛び道具を用意した。グリムロックは銃を所持していない。
「じゃあ、あの、岩を撃て!」
剣を振り下ろす合図と共に一斉に発射したが、銃弾は岩に一発も命中していない。
「ひどい射撃です……」
四糸乃がそう漏らした。
「次は――」
「グリムロック、あれを見ろ!」
射撃訓練は諦めてお次にする事を言おうとした瞬間にスラッグは空を指差した。このダイノボットアイランドの上空、大きな翼を広げて何か竜のような生物が降下して来た。グリムロックはそれがプレダキングだと分かった。
「散会!」
グリムロックが命令したが、もう遅い。プレダキングは落下の力を利用してスラージにのしかかり、あの巨体を楽々と投げ飛ばした。
「スラージをよくも!」
スナールはロケット砲を撃ち込み、そこから単身で仕掛け、体を高速で前転させて背中の板でプレダキングに連続的に斬りつけ、トゲのついた尻尾で顔面を狙ったが、プレダキングは前足で尻尾を受け止めると片腕だけでスナールを持ち上げ、宙に投げ出されたかと思うと地面に叩きつけられた。
「このぉ……!」
スワープとスラッグが同時に仕掛けようとした時だ。
「やめろ!」
グリムロックが怒鳴った。
「スラッグ、四糸乃と七罪、頼む」
手の上でしっかりと守っていた二人をスラッグに託すとグリムロックは変形しながら前へ進み、ティラノサウルスの姿になった。
「プレダコン、俺と、戦え」
プレダキングは低く唸る。そして、プレダキングは立ち上がった。肉体を構成する金属の配列を変え、翼を格納し、前足は腕になり完璧に人型となって立ち上がったのだ。
「私の名前はプレダキングだ。覚えてもらおう」
プレダキングが喋った。その事にその場に皆は驚いた。プレダコンは動物のような物で人語を解さない生物として見なされていた。だが、プレダキングはしっかりトランスフォームも会話が可能なレベルにまで進化していた。この短期間に驚異的スピードでだ。
「憎き、ダイノボットのリーダー。お前を倒してみせる!」
プレダキングはビーストモードに変形して襲いかかった――。
士道がダイノボットアイランドから帰って来る随分と前になる。十香、耶倶矢、夕弦、そして美九は買い物の帰りだった。士道がダイノボットアイランドに行っている間に十香にお使いを頼んでおいたというわけだ。しかし、十香一人では酷く心配なので後の三人にも同行をお願いしていた。
「うむ! 我ながらなかなか買い物が上手く行ったぞ。これは士道に頭を撫でてもらわねばならぬな」
「指摘。ぶっちゃけほとんど十香は遊んでいただけです」
「ぬ!? 違うぞ、私はただ試食して欲しいと店員さんにお願いされたのだ!」
「十香ったら全部食べちゃったもんね」
「店員さん、呆然としてましたよぉー?」
四人が和気藹々と話していると、その道の先で白髪、無口無表情、鳶一折紙が佇んでいる。その目は前以上に沈み、ドロッと感情が濁っていた。
殺気に漲り、復讐に心を操作された折紙は俯いたままだ。
「鳶一折紙。貴様、私に何か用なのか? 残念だがシドーは遠くに行って会えんぞ。残念だったな。ワッハッハッハ!」
「そう、それは好都合」
折紙が顔を上げた。その瞬間、四人は全身をおぞましい感覚が駆け抜けた。折紙が笑っている。それも優しい微笑みではなく、狂気の孕んだ笑みだ。
僅かに萎縮した隙に折紙から何か攻撃が放たれた。謎の遠距離攻撃を受けた美九は吹き飛び、地面を転がり、民家の壁に打ち付けられて止まった。
「何をする鳶一折紙!」
十香が怒って抗議の声を上げた。折紙は構わずにその身に宿した人工精霊の力を解放した。
「メタトロン――」
折紙を中心に凄まじい閃光と突風が吹き抜けた。十香や耶倶矢と夕弦は足に力を入れて踏ん張り、なんとか転けずにこらえた。光が収まると折紙の姿は変わっていた。ASTのワイヤリングスーツでもCR-ユニットでもない。しかし、全体に金属質な衣装だ。
白を基調に折紙は金属製の袖の無いロングコートのような物を着込み、頭全体は保護シールドで守られている。手足も金属のグローブを装着していた。メタリックだが、これが折紙の霊装である。
露出した肩にはディセプティコンのエンブレムが鈍く光り、十香や皆はそれを見ると驚愕の表情を作った。
「鳶一折紙、貴様……ディセプティコンに!」
「懇願。マスター折紙、あなたと戦いたくありません退いて下さい」
「うるさい」
肩のパーツが変動し、スピア型ミサイルが六発撃ち出された。夕弦の逃げ場を無くすように包み込むように上下左右から迂回するミサイルを夕弦は寸での所で天使を限定的に解放し、無数のチェーンで叩き落とした。
「やめて下さい。マスター――!」
ミサイルが撃ち落とされた瞬間には折紙は夕弦の目の前に移動していた。折紙の左腕が変形すると内臓されたモーニングスターが持ち出され、夕弦の腹にヒットした。
「ぐっ!?」
短く呻き、夕弦は民家の壁を貫き、何軒かの家を貫通した所でようやく止まった。
「夕弦に何するんだぁ!」
激昂した耶倶矢はランスを折紙の頭上に突き下ろす。折紙は耶倶矢の動きを見ずに右手首から射出された肉厚のブレードで防いだ。耶倶矢を弾き返すとロングコートの内側に隠し持つグレネードを耶倶矢に投げつけた。
爆発を直接浴びて意識が飛びそうになり、耶倶矢は力を振り絞ってランスを突き出す。十香も
両者の同時攻撃、折紙は表情一つ変えずに耶倶矢をモーニングスターのチェーンで絡め、腹を切り裂いた。十香の足下を肩のミサイルで破砕して転倒を誘発した。
夕弦、耶倶矢は戦闘不能。十香は剣を杖のようにして突き立てながらなんとか立ち上がった。想像を絶する力だ。普段ならばこうして立っているのが十香で地べたを這いつくばっていたのが折紙だったからだ。
折紙は動けない十香を無視して横たわる耶倶矢へ歩み寄った。
「何をする気なのだ……! 耶倶矢から離れろ!」
右腕がブレードになり、その切っ先が耶倶矢に向いた途端、十香の脳裏に最悪の情景が浮かんだ。
「やめろ折紙!」
沸々と湧き上がり、流れ込む力の感覚に身を任せて十香は駆け出した。瞬きの間に十香は現在の服装を破り、あのドレスと甲冑を混ぜたような完璧な霊装と本来の力を手にして折紙へ斬りかかった。
自身と同じくらい強大な力の復活を折紙は喜んだ。そうだ、この最高潮の十香を倒さねば意味が無い。
「徹底的に行く。死ぬなよ折紙……!」
十香の斬撃の直線上にエネルギーの刃が発生した。折紙はブレードで防ぎはしたが、その体は踏ん張り切れずに吹き飛び民家を超えて無人の工業エリアまで飛ばされて止まった。本来の力に目覚めて十香は不思議な気持ちだが、これで折紙の頭を冷やせるならそれで良かった。本来の力が戻った所為で自衛隊に霊力を観測され、空間震警報が鳴った。
住民は近くのシェルターに逃げているので存分に暴れても問題ない。十香は剣を握り直して折紙が飛ばされた工業エリアに足を踏み入れた。
「一対一で勝負だ折紙! 出て来い!」
「夜刀神十香ぁぁ!」
折紙は建物の上にいた。そこから飛び降り、工場と工場を繋ぐ渡り廊下に着地してミサイルを撃ち込み、足下を崩して爆炎と共に落下して来る。
落下物に気を向かせている間に折紙は十香に蹴りを入れてよろめかせる。左手はフックに変化して十香の襟に引っ掛けると軽々と振り回し、適当な壁に頭からぶつけた。
額から血を流し、十香は自分の周辺に霊力の光球をいくつも浮遊させてそれらを一斉に起爆した。一軒の工場が崩れ去る。折紙はマスクのサーモグラフィーで煙の中であっても十香の姿を視認していた。
そして、折紙が被っていたヘルメットが変形して行く。見れば顔面はロングレンジの大きなライフルの姿を取る。緑のレーザーサイトが十香を捉えて弾丸を放った。
精密な狙いと高火力のライフルの巨大な弾は折紙を見失っていた十香を撃ち抜いた。
「うあッ……!」
十香は前につんのめって転び、連続して飛んで来る弾丸を必死によけた。弾を弾き、よけながら十香は地面を力任せに斬りつけて、とてつもない風圧と衝撃で煙を払い、十香は霊力の光球を握り、もう一本の剣を作り出した。
怒涛のごとく降り注ぐ斬撃の嵐を折紙は冷静に一振り一振りをガードしたり、かわして隙を探った。
折紙はロングコートの内側から再びグレネードを取り出して両者が向かい合う中心で爆発させた。折紙にもダメージは行くが十香程、酷くは無い。
「チィ……! この……!」
十香は周辺に光球を呼び出してそれらを全て剣の形に形成して折紙との周りに千本の剣の壁を作った。
完全なる包囲網に折紙は逃げようとしたがもう遅い、いくら折紙でも千本の剣の攻撃全てを避けるのは不可能であった。
「少し眠れ!」
剣が何かに触れる度に大爆発が起こった。十香は息を切らしながら連鎖的な大爆発が終わるのを待っていた。
攻撃が止み、黒煙が消え去ると折紙はぐったりとして横たわっていた。
折紙の心は屈辱と復讐と怒り、ありとあらゆる負の感情に満ち足りている。憎み、憎み、精霊の存在という物を徹底的に憎みきった。
《メタトロン、最適化完了。メタトロン、第二形態に移行》
折紙の頭の中で声がした。
《メタトロナス、起動。パワー、最大》
倒れていた折紙は意識を取り戻した。メタトロンの力はまだ不完全だった。今の今までは調整段階であり、戦闘経験値を貯めた事でメタトロンは本来の力を発揮する。
《メタトロナス、最終形態に移行。ミッション、プリンセスの抹殺》
追加の武装として錫杖のような杖が折紙の右手に握られている。
《
折紙が腕を振り上げるだけで周辺の民家は持ち上げられ、あらゆる物が重量に逆らって浮かび上がった。十香も例外ではなく見えない力に持ち上げられ、更に体を拘束されると折紙は肩のミサイルを十香に命中させた。
トドメを刺そうと錫杖をくるくると回すが、ここで折紙は耐えられない頭痛に苛まれた。ザ・フォールンの力は強大だ、折紙の肉体ではメタトロンは制御出来てもザ・フォールンまで行くと活動に限界が来る。
歯を食いしばりながら折紙は撤退を余儀なくされた。
ダイノボットアイランドの中央には大きな火山が存在感を主張している。山頂の火口からは黒煙をモクモクと吹き上げている。その火口付近にはグリムロックとプレダキングの両雄の激突が見えた。
プレダキングの力は圧倒的だ。グリムロックが初めて戦った時よりも遥かに強くなっている。グリムロックは生涯で初めて敗北を意識した。自己の勝利こそが絶対に生み出される結果であり、傲慢なまでの自信で敗北など考えた事が無かった。
だが今、予想を超えて進化するプレダキングにグリムロックは防戦一方だ。
グリムロックが噛み付こうとプレダキングに迫る。それを阻止せんと後ろ足で立ち上がり、プレダキングの前足からパンチが頬に決まった。グリムロックが倒れると首に噛み付き、持ち上げると投げ飛ばした。
グリムロックは空中からレーザーファイヤーを吐き、プレダキングはその炎にもノーガードで耐えて余裕を見せる。既にグリムロックは体内のエネルゴンの異常燃焼を続けずっと戦っている。全力で戦えるのも時間の問題だった。
プレダキングは変形して人型になった。
「この程度の男が……私の仲間を絶滅させたのか……!」
プレダキングは悔しく思いながらギリギリと歯を食いしばった。グリムロックは土を蹴り上げながら突進する。
プレダキングはグリムロックの攻撃を僅かに体をズラしてかわして見せるとがら空きの顔面に裏拳が炸裂した。グリムロックはバランスを崩して火口へと落ちた。
プレダキングが火口を覗き込むとグリムロックはロボットモードでなんとか岩肌に掴まっていた。
「仲間の仇だ」
プレダキングはグリムロックの掴んでいた岩をブラスターで壊した。
「ッ――!?」
グリムロックは落ちて行く。掴まる物がなく、そのままエネルゴンの溶岩の中へと沈んで行った。
プレダキングはビーズモードになると勝利の雄叫びを上げた。そして、山のふもとに待機している残りのダイノボットを片付けようとプレダキングは火口に背を向けた。すると、プレダキングの前にはスラッグとスワープが立ちはだかる。いちいち山を降りる手間が省けたとプレダキングは喜んだ。
「よくも……グリムロックを!」
「オレ達の隊長をやってくれたな! 覚悟しろ!」
プレダキングが身構えた。そして炎を吐こうと腹に力を込めると。
『プレダキング、帰還しろ。折紙が任務を続行出来なくなった。回収してネメシスに戻って来い』
メガトロンから帰還命令が下った。最優先に排除すべきグリムロックは倒したのでプレダキングは我慢して空に炎を吐いてダイノボットアイランドを出て行った。プレダキングが撤退するとスラッグは急いで火口を覗き込んだ。
「グリムロック、今助けに行くからな!」
スラッグがロボットモードに変形して火口の縁から水泳選手のような綺麗なフォームで飛び込んだ。その瞬間にスワープに足を掴まれて縁に戻された。
「何してんだようスラッグ! 死にたいのか!?」
「けどよグリムロックは溶岩の中なんだぞ! 早く助けないと!」
「もう遅いんだ……グリムロックは……」
「言うなスワープ! オレ達はまだ良いけど四糸乃には秘密にするんだ」
「四糸乃に? 何で?」
「琴里から聞いた。精霊は精神的に不安定になると力が逆流するんだ。四糸乃にショックが大きすぎる……」
「うん」
いつかバレてしまう。グリムロックは簡単に死ぬような奴ではない。それでも溶岩に落ちてしまったら生きている望みは絶望的だった。
四糸乃にはグリムロックの事を出来るだけ言わず、七罪と一緒に今日は帰ってもらった。四糸乃は心配していたが、グリムロックは溶岩風呂で傷を癒やしている、とスワープがなんとなくごまかした。
ダイノボットアイランドに残されたスラッグ達はまずはスラージとスナールの傷を癒やしてからプレダキングのリベンジを誓った。
その夜、ダイノボットアイランドには度々、地震が発生していた。
折紙がディセプティコンに行った事を知った士道は言葉を失った。更に人工精霊を身に宿していると聞いて更に言葉を失った。折紙の境遇は気の毒だと士道は思っていたし、折紙は精霊を倒して自分と同じ人間を作らないようにしたいという考えにも尊敬していた。けれども結果はただの復讐鬼に成り下がった。
十香、耶倶矢、夕弦、美九はフラクシナスの医務室にいる。十香が精霊としての本来の威力を示したので士道は再封印し、医務室のベッドに寝かせておいた。
そして士道はオプティマスの所にいた。オプティマスなら折紙の目を覚まさせる何か答えをくれるかもしれないと考えたからだ。
「オプティマス……今、いいか?」
オプティマスは広間でコンピューターを操作していた。
「ああ、良いぞ」
キーを叩く手を止めてオプティマスは士道を見た。
「折紙の事なんだけどさ」
「君の級友だね?」
「うん。あいつがディセプティコンに入ったんだ」
「聞いている」
「あいつは復讐しか頭にないんだ。どうすれば良いんだ……。俺にはわかんないんだ」
「復讐も生きる原動力の一つだ。折紙はその生きる原動力が復讐以外に無い。復讐を止めさせたら折紙は最悪の場合……生きる事を断念するかもしれない」
「じゃあ……十香達の命を差し出せって言うのかよ!」
「復讐以上に生きる目的を与えてやるか……あるいは記憶を消すか……」
後者は選択したくない。前者は難しいが、それしか無い。でもどうやって? 士道はそんな疑問が浮かんだ。五年間、復讐だけを考えて生きてきた折紙をどうやって元に戻すのか。
「一人で考えさせてくれ」
「ダメだ。私も一緒に考える。君一人の問題じゃないんだ」
「…………わかった」
北極大陸に乗り込んだアイザック達は全員、防寒服をしっかりと着込み、作業員はアーカビルの指揮の下に動き、氷の大地を掘り進めていた。
「うう……寒っ!」
アーカビルは身震いしながら探査機を見た。作業員の場所からして信号が出ている地点にはもう少しだった。
「まだですかアーカビル」
「まだじゃ、少し待っとれエレン。というか、そんなに腹を出して寒くないのか?」
エレンのワイヤリングスーツは防寒服より遥かに薄手でボディラインを強調するように作られている。それでも
「私の
「ほうほう、儂もそのテリトリーだか照り鳥だか欲しいもんじゃな」
「改造しますか? 老体にはかなりキツいと思いますが」
「改造は結構じゃ」
そう話していると地上に出来た大きな穴の下から作業員の声がした。
「Dr.アーカビル! 見つけましたトランスフォーマーです!」
「よし来た! へっけー!」
アーカビルは叫びながら氷の穴の中へと飛び込んで行った。年齢に似合わぬ果断な行動にエレンは呆れたように「はぁ」とため息を吐いてからアイザックを呼びに行き、安全に降下用の簡易エレベーターを設置してから下へと降りて行った。
氷の大地の地下は空洞でいくつもの氷の柱によって支えられている。作業員が集まっている所へアイザックは足を進めると作業員は身を案じて止めるが、構わず氷漬けのトランスフォーマーに近付いた。足下にはアーカビルがとっくに調査を始めていた。
「どうだねアーカビル?」
「いや、素晴らしい! 本物だ! これを持って帰れば研究に使えるぞ!」
大量の金と人員を割いた甲斐はあったようだ。アイザックは不気味に微笑んで今回の結果に満足した。氷漬けのトランスフォーマーの肩には赤色のオートボットのエンブレムが刻まれていた。
※フォールンは別にリベンジのあいつじゃありません。マイ伝に出てきたウルトラマグナス的な道具としての役割で出てます。