デート・ア・グリムロック   作:三ッ木 鼠

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23話 ダイノボット

 ラボの映像ではショックウェーブが丹精込めて育て上げたインセクティコンが町を這い出して、建造物やバンダースナッチ、ASTを襲っていた。天宮市の山から出現したタワーはただの飾りではない。既にタワーの登頂からエネルギー波を絶えず送り出している。

 このエネルギー波は、ASTのCR-ユニットを起動不能にするだけでなく、精霊の霊力を阻害する効果があった。捕らえたASTとスタースクリームがくれた精霊のデータを用いて、このエネルゴンタワーが完成したのだ。

 背の高いビルにはインセクティコンが集り、地球のムカデをモチーフにした巨大なインセクティコン“メガピート”はビルや大地を掘るように動き回って、目につく物を食らっている。

「メガトロン様、もう少しでこの星は我々の物です」

 ショックウェーブは不気味な笑い声を小さく漏らしながら言った。

「いってー、ショックウェーブ、お前はこんなところにいたのか」

「スタースクリーム? どうしたんだ?」

「ジャズを逃がしたからよ。ついでに怪我したから休もうと思ってな」

「休んでいる暇はない、見ろ」

 ショックウェーブがモニターを指差すとスタースクリームは覗き込むようにモニターに目をやった。そこに映っているのは光学迷彩が解けて姿を見せたラタトスクの空中艦フラクシナスだ。フラクシナスもショックウェーブのエネルゴンタワーの影響を酷く受けているのだ。

「あれを落として来い」

「人使いが荒い野郎だ」

 そう言うと被弾した足にエネルゴンを注入してからラボを飛び出して行った。

「グリムロック……これに対抗は不可能だ……!」

 

 

 

 

 突如、地上から溢れ出したインセクティコンにASTもDEMも混乱状態だ。ジャズとオプティマスは背中合わせになって襲って来るインセクティコンを撃ち抜き、叩き潰してと処理して行くが、相手は数が圧倒的過ぎる。

「まずいですねオプティマス」

「ああ……」

 数の暴力に押されているとインセクティコンの大軍に砲弾を撃ち込みながら前進して来る戦車が確認出来た。その後ろでアイアンハイドとパーセプターが構えているという事はあの戦車がワーパスだと言うのがわかった。

「オプティマス! 大丈夫ですか!?」

 アイアンハイドは駆け寄り様に二、三匹を撃ち殺しながら手を振った。

「アイアンハイド、ワーパス、パーセプター、お前達は平気なのか?」

「ええ、なんともないですよ」

「元気もりもりだぜ! ようやくディセプティコンの野郎をぶちのめせるぜ! イェェア!」

「私の予測ではあのエネルゴンタワーでしょうね。あれの影響でCR-ユニットや精霊の力が働かなくなったと思われます」

「なら人間達が危ない。オートボット、この町を全力で守るぞ!」

「はい!」

「各自、散会して撃ちまくれ!」

 オプティマスの命令を受けてオートボットはこの町を人間を救うべく各方面へと散った。だが、ジャズはまだ動かずにオプティマスの側に立っている。

「どうしたジャズ?」

「オプティマス、この戦い……援軍が必要です。グリムロックだけでは戦況をひっくり返せない」

「そうだ、だが我々に退く道は残っていない」

 ジャズは一拍置いて。

「私に援軍の心当たりがあります! グリムロックを連れて行ってもよろしいでしょうか?」

 今、グリムロックは戦力の要だ。戦場を離れるのは著しい戦力ダウンとなる。それでもオプティマスはジャズの目を見ながら答えた。

「許可する。私達とこの町の運命を君とグリムロックに託す」

「ありがとうございます」

 ジャズはビークルに変形すると一目散に走り出し、グリムロックのいる所へ向かった。流石のオプティマスも無策で許可を出した訳ではない。通信をオートボット基地に接続してオプティマスは命令した。

「テレトラン1、ジェットブースターを送ってくれ」

 オプティマスの指令を受け、オートボット基地、もとい精霊の特設マンションが左右に展開し、そこからジェットブースターをオプティマスのいる地点へ向けて発射した。

 到達まで十秒程だろう。

 その間にオプティマスは迫り来るインセクティコンを倒しながら無力化されたASTの援護をしながら一人でも多くの人名を救助していた。士道も気になるしフラクシナスも気になる。気にしていては切りがない。キィィッ、という風切り音が聞こえるとオプティマスは空を見上げた。ジェットブースターが到着したのだ。

 落下の衝撃を緩和するバーニアを噴かしながらオプティマスの背後に着弾し、オプティマスは自分の背丈よりも大きな箱に声紋と視覚を合わせて開く。箱の内部で待っていたのは巨大な二対の翼と大型ブースターだ。

 ジェットブースターは即座にコードを伸ばしてオプティマスの背中へと接続されて行き、顔や腕も飛行に適したシャープな姿へと配列を変えた。箱の中に入っているありったけの弾薬と武装を持ち出して、ブースターが点火する。

「さあ、出動だ!」

 とてつもない風圧と衝撃を吐き出してオプティマスは空へ駆け出した。

 

 

 

 

 士道は腹を貫かれた傷を押さえながらなんとか立ち上がって見せた。琴里の再生能力が働いたおかげであるが、これからはもうその再生能力に頼れない。スターセイバーを握り直し、士道は辺りを確認した。十香は気を失って床に伏せて、エレンはCR-ユニットは無し、美九は相変わらず堂々と立っている。何が起こったのか理解出来ていないが、一命は取り留めたのはよくわかる。

「はぁ……はぁ……撤退しろ、今すぐ」

 士道はスターセイバーをエレンに突きつけて言った。

「バカにしないで下さい。何の小細工か知りませんが、私をこの程度では止められない!」

 封じ込められた筈のペンドラゴンが再び始動した。白銀の鎧を装着したエレンはブレードを抜いて士道に突き付ける。

「待てエレン、ここは退こう」

 エレンを止めたのはアイザックだ。

「今回は邪魔が入ったが次は無い。それまでその命を取っておくと良い」

 アイザックがアクリル板を取り払うと士道は十香の下に駆け寄った。エレンはアイザックの隣に立つと目に見えない力が二人を包んで空中へと浮かび上がって行った。

「また会おう、五河士道。プライムが残した最後の希望よ」

「こっちは会いたかねーよ」

  アイザックとエレンが見えなくなるまで上昇してから緊急脱出用の小型船へ乗り込み、二人は去った。士道はスターセイバーを放り投げて十香を抱きかかえた。

「十香、十香! 大丈夫なのか、おい!」

 肩をパンパンと叩いて呼びかけていると十香は徐々に瞼を開けた。

「十香!」

「し、シドー?」

 いつもの十香だとわかると士道の表情に安堵の色が現れる。十香はと言うと腹の虫が鳴って、空腹であると訴えていた。

「シドー、お前は……平気か?」

「ああ、なんともない!」

「そうか……」

 腹の傷が塞がっている事を確かめて十香は安心してにっこりと笑った。十香を無事、取り戻したがさっきのショックウェーブの言葉が気になっていた。士道は外の状況を確認するべくスターセイバーを握り、分厚いコンクリートを切り刻み、壁に穴を空けた。

「さっきの放送なんだったんですかぁ? また変なのが増えてましたけど」

「下を見て見ろ」

 士道に言われて美九が下を見下ろすと地面には無数のインセクティコンが這い回っている。

「天央祭の生徒はまだシェルターに逃げてない。美九、みんなを避難させてくれ」

「ああ~避難なら私がここに来る時に邪魔なんでシェルターに放り込みましたよぉ~。まあ今は何でか知りませんけど私の能力が使えませんし」

「能力が使えない?」

「はい」

 士道はビルから見える巨大なエネルゴンタワーを見て、原因はあれだろうと考えていた。

「そうだ、四糸乃達は!?」

「あ、外で戦っていますね!」

「精霊の力が使えないんじゃあいつ等が危ない!」

『士道、士道聞こえる!?』

 インカムに琴里の声が聞こえて来た。

「琴里か? お前、もう平気なのか?」

『うん、さっきはあんな事言ったけど……本心じゃないから……』

「わかってるよ。それより四糸乃や耶倶矢達を助けないとダメだ」

『それなら大丈夫よ』

 琴里の声に元気が戻って来た。

『さっき、ジャズが四糸乃達を助けてくれたからもう回収したわ』

 士道はホッとして胸をなで下ろした。

『士道さん……私達は……大丈夫です』

『よしのんも元気いっぱいだよん!』

『士道よ、我は無敵であるぞ自分の心配がするがよい!』

『無用。私達は既に正気です』

『兄様! 聞こえやがりますか!? 真那も全然、傷なんてありませんからね!』

「みんな無事で良かっ――」

 安心したのは束の間、DEMのビルが大きく揺れている。いや、揺れているだけではない。徐々にビルが傾いているのだ。窓際に立ってバランスを崩した美九の手を直ぐに取って引き戻し、落ちないようにしっかりと抱えた。

「ど、どさくさに紛れて触らないで下さい!」

「悪かったな。でも、今は精霊じゃなくて普通の女の子だ。気をつけろよ」

 美九を窓際から離して士道はビルから下を覗き込むと巨大なムカデのロボットがビルを食い、縫うようにして上って来ているのが見えた。今まで見たどのトランスフォーマーよりも大きなメガピートに圧倒されながら士道は美九の手を引いて寝ている十香を背負った。

「直ぐにここから脱出するぞ!」

「脱出って……どうする気ですか!?」

「跳ぶ!」

「はぁっ!?」

 美九も驚きを隠せない。士道が手を引いたまま走り出そうとするが美九はこんな高さから跳ぶ事に尻込みして動こうとしない。

「頼むよ急がないとあいつが来るんだ!」

「あいつって誰ですか!」

 そう言っている内にメガピートは大きな顎で床を砕きながら長い胴体を動かしてうねる。メガピートの胴はこのDEM社のビル全体に巻き付き、締め付けている。直にこのビルは倒壊するだろう。士道は十香をまた床に下ろすとスターセイバーを握り、美九を庇うようにして身構えた。メガピートから見た士道等など蟻同然だ。視覚センサーが三人をスキャンすると一直線に食らいついて来た。

 スターセイバーにエネルギーを蓄積させてメガピートの顔ほどある光波を放ち、怯ませる。初めて使った時のようなパワーが出ず、士道は苦い顔をした。巨大なムカデは数え切れない足の内の一本を伸ばし、士道の死角から攻撃して体が弾き飛ばされてしまった。他の足も同時に攻撃すると士道は身をかがめて回避し、一ヶ所に集まった足をまとめて両断した。メガピートが腹を立てた様子で奇っ怪な声を上げた。

「美九、ついて来い!」

 士道は十香を小脇に抱え、美九を肩に担ぐとビルの外へ走り出した。

「ちょっと死んじゃう死んじゃう! 死んじゃいますぅ! ぺしゃんこですよ!」

 ポカポカと背中を叩いて逃げようとするが士道はそんなのはお構い無しに何もない宙へとダイブした。体全体が浮遊感に覆われ、股から頭にかけて気持ちの悪い感覚が駆け巡った。とんでもない速度で落下しだし、美九は「ひぃっ!」と短く呻いてから盛大に悲鳴を上げた。

「キャァァァァ! 落ちるぅぅ!」

「今だ琴里、転送してくれ」

 士道がインカムに向かって叫ぶと三人の体は上へ引っ張られる力が働き、気がつけばそこは何もない空中ではなく、フラクシナスの船内であった。

 放心状態の美九を優しく肩から下ろすが目に涙を浮かべてガクガクと膝が笑いっぱなしだ。

「危なかった」

「当たり前でしょ、アホ!」

 琴里が固いブーツで士道のスネを蹴り、思わず飛び上がって悶絶した。神無月は羨ましそうに指をくわえて見ている。

「よくあそこから飛べたわね! おめでとう士道、将来はスタントマンよ!」

「こう見えてビビってるんだけどな。あのムカデと戦うって考えたら飛んだ方がマシだな」

 大した奴だ、と褒めたい所だったが士道のビックリな行動に流石のみんなも呆れ気味だ。十香は呑気に寝ており、さっきのダイブでも目を覚ましていない。

「そういやフラクシナスは平気なんだな。今、精霊やらCR-ユニットが使えなくて大騒ぎなのに」

「ああ……魔力が生成出来ないのはやっぱり故障じゃなかったのね。でも大丈夫よ、フラクシナスはスラスターで飛行してるし。多分、普通の電子機器への影響は少ないんじゃないかしら?」

 士道はポケットからケータイを出すと画面が少しぼやけていたが、確かに使える事を確認した。

「そうなのかな」

 電気関係は士道はあまり詳しくないのでハッキリとした事まではわからない。そんなある時、フラクシナスの船体が大きく振動してクルーはどこかしらに掴まって倒れないように踏ん張った。

「今のは?」

「総員、原因を調べなさい!」

「ハッ!」

 スクリーンに映像が出るとフラクシナスの後方の装甲に穴が空いている。攻撃を仕掛けて来たのは、赤い見たこともない戦闘機だ。翼にはくっきりとディセプティコンのマークを刻んでいる。

「スタースクリームだ!」

 士道は声を上げてから嫌な汗が全身から滲んだ。防性の随意領域(テリトリー)を晴れないフラクシナスは自分の装甲だけで身を守る。ところが装甲の一部はスタースクリームに破壊されてしまった。

 つまり、スタースクリームに攻撃がフラクシナスに通用する。スラスターを狙われたらこの艦は落ちるしかない。士道はスターセイバーを片手に艦橋を飛び出した。

「ちょっと士道、どこ行くのよ!」

 琴里が呼び止めたがそれを無視した。エレベーターを上がるとデッキへ躍り出て空に向かって叫んだ。

「やめろ、スタースクリーム!」

 士道のいるデッキからはスタースクリームを叩き落とそうとあらゆる対空砲の洗礼が浴びせられている。それでも航空参謀の名に恥じぬスピードと小回りで弾幕を回避、一発のミサイルを発射してまた装甲を吹き飛ばした。

 士道はもう一度叫んだ。

「やめろスタースクリーム! 俺と戦え!」

 スタースクリームは笑うと士道の申し出を無視してフラクシナスの背後へ回り込むとスラスターにミサイルをたっぷり撃ち込み、破壊を成功させて空に高笑いを残してスタースクリームは去って行った。

 フラクシナスはぐらつき、操縦桿の操作に反して高度が下へ向いて行く。

「みんな、どこかに掴まりなさい! フラクシナスが墜落するわ!」

 脱出ポットには到底間に合わない。運が良ければ墜落でなく不時着して助かるかもしれない。

 フラクシナスが地面に向かって落ちて行く最中、また赤い飛行体が飛んで来るのが見えた。スタースクリームが戻って来たのかと思ったがそれは違った。

 オプティマスだ。

「今行くぞ!」

 ブースターが赤熱し、今にも焼き切れそうな程に火を噴き、遠くからならば流星のようにも見えた。オプティマスは落下していくフラクシナスの船体の下に潜り込み、更に強くブースターを噴く。せめて、不時着をさせるべくオプティマスはフラクシナスの向きを調整しようとするが、出力が足りない。

「動けェェェ!」

 オプティマスは体を軋ませ、琴里は操縦桿が折れんばかりに引いて吠えた。

 するとどうだろうか、フラクシナスの船体の角度が緩やかになり、真っ先に激突したのが地面でなく、ビルに突っ込みながら家屋を何軒も踏み潰してなんとか止まった。

「あ~いったー」

 不時着したフラクシナスの内部で琴里は小さな体を起こして頭をさすった。

「みんな怪我はない?」

「大丈夫です司令」

「中津川、破損状況は?」

「はい、スラスターが全て大破、主砲が中破、後各所に穴が空いています」

 主砲以外の防衛装置は奇跡的に生きている。それでもインセクティコンがはびこる地上で飛べないフラクシナスなど直ぐに食い散らかせられるだろう。

「総員、これからは防衛戦よ」

 琴里の声が艦橋へ響いたと思うとDEM社のビルが倒壊し、メガピートは続いての標的を一番目立っているフラクシナスに定めた。そこへ、オプティマスがビル群の間を飛行しながら現れると両腕を二連装バルカン砲へ切り替え、メガピートの大きな体に弾を撃ち込み、オプティマスを捕まえようと無数の足が迫ったが、悉くそれらを迎撃した。

 メガピートが巻き付いたビルにミサイルを放ちオプティマスは天高く舞い上がる。崩れた瓦礫に体の半分が埋まったのを見るとオプティマスは急降下しながらブレードを伸ばし、メガピートの固いの頭をブチ抜いて破壊した。頭部を破壊されればいくら体で巨大であろうと果てるしかない。メガピートは頭を割られて体をビクビクと震わせるとそのまま動かなくなった。

 オプティマスは続いての標的を目指して飛ぼうとするが、インセクティコンを率いているハードシェルは偶然にもオプティマスを見つけ、地上から良く狙いを定めた。

「くたばれ、オプティマス!」

 ハードシェルが放ったライフルの弾は飛行するオプティマスの足に命中し、バランスが崩れ、近くの建設用クレーンのワイヤーに絡め取られた。

 

 

 

 

 フラクシナスを撃墜したスタースクリームは戦況は有利だが、オプティマスの存在を警戒していた。それにフラクシナスはまだ完全に死んではいないし、人間もまだ現代兵器で抵抗をしている。臆病者だが、指揮官としてはある程度の実力はあるスタースクリームは、一切の不安要素を取り払うべく次の命令を出した。

「コンバッティコン、集結せよ!」

 

 

 

 

 天宮市の町外れの廃車場の中で一台の装甲車に光が灯った。地球上には存在しない装甲車は腹立たしそうに喋りだした。

「悲報だ。スタースクリームのバカから招集命令が来たぞ。コンバッティコン、天宮市に乗り込め」

 コンバッティコンのリーダーオンスロートはスクラップになった車達を跳ね飛ばしながら動き出した。

 

 

「こちらスィンドル、天宮市に入った。作戦を開始する」

 警察のバリケードを弾き飛ばしてスィンドルはいち早く戦場へ参加した。

 

 

 自衛隊駐屯地のフェンスを押し倒し、一台の鈍重なスペースタンクがキャタピラを動かして走り出す。

「ブロウルだ。これからぶっ壊しレースに参加するぜ!」

 

 

 天宮市の上空を飛ぶヘリコプター、最も地球の乗り物に近いがボルテックスのようなデザインのヘリは存在しない。

「ボルテックス、急行する。メガトロンに栄光あれ……!」

 

 

 一番、行動が遅れたのはブレストオフだ。しかしコンバッティコン一のスピードでその遅れを取り戻した。雲を切り裂き、空を駆けるブレストオフは空中へ変形し、足からブースターを噴射してスタースクリームの隣にゆっくりと降りて来た。

 その直後にボルテックスが到着しスィンドル、オンスロートと続き、最後にブロウルが参上した。

「オレ達を呼んだからにはひと暴れして良いんだよな!?」

 ブロウルは拳を握ってニヤリと不敵に笑う。

「そうだとも、あそこで寝転がっている戦艦があるだろ?」

 スタースクリームが指差すとフラクシナスの周辺にはインセクティコンに加えて原種の三人が攻撃を加えていた。

「あるな」

「あれをぶち壊せ! 中に人間の小僧がいるから丁寧に扱えよ?」

「了解した」

 オンスロートは一歩前へ出て、小高い岩の上に立つとメンバーに指令を下した。

「ブロウル、お前はここから砲撃だ」

「やりぃ!」

「スィンドル、お前は地上から防衛兵器の破壊だ」

「引き受けた」

「ボルテックス、ブレストオフ、二人は空からアタックだ。対空砲を破壊しろ」

「オートボットの輸送機の時を思い出すなボルテックス」

「だな、じゃあお先にどうぞブレストオフ」

「よし、ではコンバッティコン作戦――」

「作戦開始だテメェら!」

「……」

 オンスロートが指令を下そうとしたのにスタースクリームが見事に割り込んで来た。

 皆、呆れながらも作戦を開始した。ブレストオフが先行しボルテックスはトランスフォームして空へ、スィンドルは急斜面を難なく駆け下りて進み、ブロウルは砲台モードで狙いをつけた。

 

 

 

 

 時間は少しだけ遡ってジャズとグリムロックは四糸乃達をフラクシナスに届けた後だ。二人はある所に向かっていた。

「俺、グリムロック。ジャズ、どこに向かってるんだ?」

「スタースクリームの隠れ家さ」

「隠れ家?」

「DEM社のビルから抜け出す時にね、スタースクリームの翼に発信機を取り付けていたんだ。スタースクリームは山の中、本来は何もない筈の所にいる」

「……? 俺、グリムロック。わからない。何でそれが援軍になるんだ?」

「スタースクリームやショックウェーブはどうやって地球に来たと思う? アイツ等は飛べるがセイバートロンと地球の間を飛べる力は無い。考えられる線はスペースブリッジさ。この地球にはエネルゴンがゴロゴロしている。資源に技術が充実していればこの地球にもスペースブリッジを作っている。そう考えたのさ」

「……あ? まあいいや」

 グリムロックに理解させるなら後五回の説明は必要だろう。二人は山の中に入ると同時に変形してロボットモードになった。グリムロックに身を屈めるように指示してジャズは腕についた小型モニターでスタースクリームの位置を見ていると、綺麗にカモフラージュされた山の斜面がゲートになって開くとそこからスタースクリームが飛んで行くのが見えた。

「今だグリムロック」

 ゲートが閉じる前にジャズとグリムロックは滑り込む。内部は一目見るだけでトランスフォーマーが作ったと分かる造りをしている。丁寧に入り口のゲートの裏側にディセプティコンのマークを刻んでくれている。スタースクリームの隠れ家と読んでいたジャズだったが、通路を進んで行くうちにインセクティコンに関する実験室やラボが多く用意されているのに気付き、ここがショックウェーブの臨時基地だと確信した。

「相変わらず趣味の悪さだ」

 大量に並んだどのカプセルにもインセクティコンは一匹たりとも居なく、その全てが地上へ出て行ったのだ。一体いつのまにこの様な巨大なラボを建設していたか、検討がつかない。幸運にもラボは殆ど空っぽで二人は部屋を一つ一つ、念入りに調べていた。部屋の殆どがインセクティコンを育てるカプセルの置き場だった。多数、存在する部屋の中から二人は一際大きくて頑丈なゲートに守られた部屋を見つけ出した。

 侵入にはパスワードが必要で、更にディセプティコンの証明も必要だ。ジャズはなんとかしてシステムへのハッキングを試みた。ロックの解除に時間がかかっているとだんだんイライラして来たグリムロックは、ゲートを思い切り蹴ってヘコませると左右に割れたドアを引きちぎって中へ入った。

「相変わらず強引だ」

 重厚な部屋の中にはグランドブリッジの何倍もある大きな設備と円形に縁取られた門が頑として構えている。ジャズは制御装置をいじりだした。

「どんぴしゃだ。これはスペースブリッジだ」

「スペースブリッジ?」

 グリムロックもジャズもスペースブリッジと言われれば巨大なタワーで惑星の軌道上に穴を空けるという大層な装置だ。こんなコンパクトな形ではなかった。

「グリムロック、君に頼みがある。今からスペースブリッジを開く。君はセイバートロンに戻って援軍を連れて来るんだ」

「援軍? セイバートロン、オートボット、殆ど残っていない」

「確かにオメガスプリームは休眠、メトロフレックスはステイシス状態、残るオートボットも非戦闘員だ。でもまだいるだろ、君の部隊が」

 グリムロックはダイノボット達の顔が瞬時に頭をよぎった。

「アイツ等、会える?」

「会える。だから連れて来てくれ。連中に命令出来るのは君しかいないのさ」

 ジャズはスペースブリッジを起動させ、円形の門に光のゲートを作り出した。その先には懐かしのセイバートロンが待っているのだ。

「私はここでスペースブリッジを見張る。頼んだぞグリムロック」

 グリムロックはゆっくりと頷くとゲートを通り抜け、光の中へと消えて行った。ジャズは出来るだけ早く戻って来る事を祈り、グリムロックを見送った。ダイノボットがこの戦況をひっくり返す最後の希望なのだ。

 

 

 

 

 CR-ユニットを封じられたASTは、甚大な被害を受けていた。隊員の半数は負傷し、DEMの魔術師(ウィザード)を入れても大した戦力とはならなかった。自衛隊駐屯地を取り囲むインセクティコンの群れ、それらに抗うのは通常兵装を纏うAST隊員達だった。

「くそぅ! トランスフォーマーってのはこんなにいやがるのか!」

 燎子はグリムロックとは随分勝手の違うインセクティコンと戦いながら愚痴をこぼした。戦車を操り、主砲を叩き込むとインセクティコンはバラバラになって吹き飛んだ。

「よっしゃ! ブチのめすのは気分が良いわ!」

 砕け散った残骸をキャタピラで踏み潰しながら燎子は次の弾を装填し、側面から迫って来たインセクティコンにお見舞いした。標準型のインセクティコンは装甲が脆く、人間の兵器でも容易に破壊出来る。

『日下部一尉!』

「はい、桐谷陸将どうされましたか?」

『もうしばらく、耐えてくれ! 今町へ援軍を要請した』

「わかりましたよ!」

 援軍が来るまで保つか不安だ。燎子はのぞき穴からインセクティコンとは違う別のトランスフォーマーが見えた。顔馴染みの部下に操縦を代わり、ハッチを開けて顔を出した。その瞬間に空中から飛行型のインセクティコン“スピッター”が燎子を襲うが重機関銃を握りしめてスピッターを穴だらけにして返り討ちにした。燎子が見たのはビルの上、建設用クレーンのワイヤーに引っかかっているオプティマスだ。

 燎子の記憶にはオプティマスやその他のトランスフォーマーがインセクティコンと戦っているのを見かけているし、部下の何名かもオプティマスに救われているのだ。

「あんた達! あのビルのクレーンを狙いなさい!」

「く、クレーンですか?」

「そうよ、早く!」

 一〇式戦車の砲身が上へと傾き、オプティマスを捕まえるクレーンを良く狙った。距離は離れているが、問題なく当てられる距離だ。

「撃て!」

 燎子の命令で砲撃され、砲弾は真っ直ぐに飛びオプティマスが引っかかるクレーンを撃ち抜き破壊した。たわんだワイヤーを払いのけてオプティマスは自由になるとブースターを再点火させて自衛隊駐屯地の方へやって来る。

 燎子の乗る戦車に四方から集るインセクティコンをバルカン砲で粉々にしてから腕をミサイルに背中から多連装ロケットを展開して手の届かない空中からロケットを降らせた。ある程度、減らせはしたがまた湧いて来るだろう。その間に戦線を立て直す事を祈ってフラクシナスへ戻って行った。

 

 

 

 インセクティコンの大半はフラクシナスへ集まりつつあった。各地へ散ったアイアンハイド等もそこへ集結して苛烈な攻防戦が繰り広げられている。フラクシナスの内部では力を使えない十香達は身を寄せ合って怯えており、この苦しい状況に琴里は険しい表情をしていた。

「琴里さん、あの男は……?」

 やっと放心状態から解放された美九は真っ先に士道の事を思い出した。

「目が覚めたのね、美九。士道なら……わからないわ」

「わ、わからない!? フラクシナスが墜落した時にはもう……」

 士道の安否がわからないのは不安要素でもある。フラクシナスが落ちる際に士道はデッキにいた。琴里の能力があるなら死んではいないが、今は精霊の力を封じられている。

「琴里さん、私をデッキに出して下さい」

「はぁ!? 何を言ってるの!?」

「皆さんはあらかじめ、力を封印された状態で更にヘンテコな機械の所為で力が全く出せてないんでしょ? 私はまだ少しなら使えますぅ」

「協力的ね、美九」

「彼をまだ見届けていませんから。命を懸けて私を守ってくれるかどうか」

 また何か約束したな、と琴里は心の中で呟く。

「手伝うなら感謝するわ。でも出る必要はないわ。神無月!」

「はい!」

「スピーカーを用意しなさい!」

 フラクシナスに搭載された巨大スピーカーのスイッチを入れて、神無月は「あーあー」とマイクのテストをした。

「いつでもオーケーです!」

「だ、そうよ美九」

 スタンドマイクを置かれると美九は力を振り絞る。

破軍歌姫(ガブリエル)行進曲(マーチ)! 鎮魂歌(レクイエム)!」

 光の鍵盤を出現させて美九は美しい音楽を奏で、外にいるオートボットを支援した。

「オォウ! イェア! 何だか力がモリモリ湧いてくるぜ! サンキューな美九!」

「痛みが和らぐ……鎮痛効果とはありがたいな」

 ガトリング砲を更に軽快に撃ちまくり、ハンマーでインセクティコンを叩き潰しながら空から強襲を仕掛けるブレストオフを狙った。相手は速い為、スルリと弾を回避してフラクシナスに爆撃を成功させ、ボルテックスの機銃が対空砲を破壊して行った。そして、絶えず丘の上からブロウルがインセクティコンを巻き込みながら砲撃を仕掛けて来る。

「このままじゃ保たないよ! 司令官はどこにいるんですか!? う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 果敢に戦いながらもパーセプターの絶叫が響く。

 

 

 

 

 別件でDEM社の中で士道と分かれた狂三も勿論、ショックウェーブのエネルゴンタワーの被害を受けていた。歩兵銃と刻々帝(ザフキエル)の能力を一つだけ残した状態で狂三はインセクティコンの執拗な追撃を逃れて、今も見つからないようにして逃げていた。【一の弾(アレフ)】で逃げるのが現実的だが、力を制御された状態ではその効果も時間も驚く程に弱まっている。かと言って【七の弾(ザイン)】は対象を一つしか止められない。

 ズキンと足の太ももに痛みが走り、狂三は建物の壁にもたれた。逃げる際にインセクティコンの牙が足に刺さり、足からはダラダラと血が流れている。

「まさか、こんな所でわたくしが……!」

 インセクティコンを憎々しく思いながら痛みを我慢して再び歩き出すと建物と道路を遮っていた塀を壊してインセクティコンが狂三を見つけて来た。

「っ……!」

 本能で動くインセクティコンは一目散に駆け出して狂三を食らおうとした――。

「狂三ぃぃ!」

 不意に聞こえた士道の声、それは幻聴でもない紛れもなく本人の声だ。士道は大きく跳躍するとスターセイバーをインセクティコンに投げつけて串刺しにしてから着地と同時に剣を抜いて刃にエネルギーを溜めて一気に解放した。狂三と士道の周りにいた敵を一掃すると士道は、負傷した狂三へ駆け寄った。

「狂三、怪我をしてるな」

「ええ、士道さん。へ、平気ですわ」

「バカ言うな」

 士道はシャツの袖を破ると狂三を座らせてスカートを少し捲って出血の酷い患部に当てて、ギュッとキツく縛った。

「んぁっ!」

「ご、ごめん。痛かったか?」

「お気になさらず……。それにしても士道さん、かなり大胆ですわね?」

「へ?」

 狂三の傷の方に気が行っていたが、士道の視線の先にはスカートを捲られてかすかに狂三のセクシーな黒い下着が見えていた。

「うっ……ごめん狂三! そう言うつもりはないんだ! お、俺は助けようって気持ちでやましい気持ちは一切無いぞ!」

「ふふっ、士道さんったらこんな時でもウブですのね……」

 縛り終わって士道は狂三に手を差し出そうとすると、フラッと足がもつれて自分の意思に反した方向へと倒れてしまう。直ぐに起き上がりはしたが、士道の傷はそろそろ命に関わるレベルまでに達していた。

「士道さん! あなた、ご自分の心配をしたらどうですの!? 傷だらけですわよ!」

「問題……ない」

「大ありですわ!」

 スターセイバーを長い間使い過ぎた反動で腕や足、全身の至る所の肉が裂けて赤黒い血が流れている。琴里の再生能力も働かず、このままでは死ぬしかない。狂三は歩兵銃を出すと今、使える刻々帝(ザフキエル)の力で何を使えば良いのかが決まった。

刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)】」

 銃口を士道に向け、弾丸を撃ち込む。反射的に目を閉じてしまうが、痛みは無くむしろ今までの痛みすらも感じなくなった。まぶたを開けると、自分の体がやけに軽い。それにさっき狂三の傷を塞ぐ為に使った袖も戻っており、体中の傷も綺麗さっぱり無くなっていた。

「狂三……何をしたんだ?」

「時間を巻き戻しましたの。今から五時間前、わたくしと士道さんが再開した頃に」

 あの時は確かに無傷だった。これで士道はまだまだ戦える。

「狂三、ありがとう」

 士道はまだ自由には動けない狂三を背負うとフラクシナスに向かって歩き出した所で瓦礫の中から腕が飛び出すと士道の足を掴んで来た。

「ひっ!?」

 何事かと思い、素っ頓狂な声を上げると瓦礫の中から衰弱した折紙が出て来た。

「折紙!」

「し……どう……」

 もはや声も出せぬ程にまで弱り、早く手当てをしなければいけないのは目に見えていた。

「狂三、さっきの弾を折紙にも使えないか?」

「申し訳ありませんが、士道さんに使ったのが最後の力ですわ。士道さん、わたくしよりも彼女を背負ってあげて下さいまし」

 狂三は士道から降りると瓦礫から折紙を掘り出して担ぎ上げると狂三の手を引いてフラクシナスに向けて全速力で走る。途中、妨害をして来るインセクティコンは全て斬り倒して行きながら空から降るスピッターの酸をかわし、ブルーザーという大型インセクティコンの突進を上手く避けながら逃げた。

 フラクシナスが見えると戦況が絶望的であるのが一目で分かる。複数回の爆撃でフラクシナスの上面装甲は焦げ、後一回でも爆撃されたら琴里達のいる艦橋が丸見えになってしまう。士道は空を見上げ、フラクシナスの上空のスピッターを排除していたオプティマスに助けを求めた。

「オプティマァス!」

 士道の声を聞き、オプティマスは急降下で地面に着地しながらインセクティコンを踏み潰し、身を回転させながらバルカン砲やミサイルを辺りに撒き散らして敵を破壊して行った。ジェットブースターをパージするとオプティマスは腕から剣を伸ばし横薙に振るい、目に見える敵を両断した。オプティマスを撃退しようと攻撃して周りに爆発や弾痕が残るもオプティマスは、構わず進軍を続けて手当たり次第にインセクティコンを切り裂く。

 オプティマスの目の前にハードシェルがいる。ハードシェルはサーモロケットキャノンで狙いを定めて来るが、オプティマスは前転してハードシェルの懐へ飛び込み、砲口を腕でかち上げてズラし、腹に強烈なパンチを繰り出してえぐった。

「ぐおぉッ!」

 体から部品が散らばるハードシェルに反撃の機会すら与えず、頭を掴んで地面に倒した。

「くたばるがいい!」

 怒りに満ちた声でそう言いながらオプティマスはハードシェルの顔面にパスブラスターの銃弾を撃ち込み、胴体から頭を引っこ抜いた。そして、力尽きたハードシェルの武器を使って丘の上に立っているスタースクリームを狙い撃つ。

 発射されたミサイルは呑気に戦場を眺めていたスタースクリームに見事に命中し、スタースクリームは吹っ飛ばされた。

「くっ……やりやがったなオプティマス・プライムめぇ!」

 不意打ちを受けて怒り出したスタースクリームはコンバッティコンに次なる命令を出した。

「コンバッティコン! もう手加減無用だ! やっちまえ!」

「手加減しているつもりはないんだが……」

 オンスロートは聞こえないように呟く。

「コンバッティコン、早々に決着をつける。ブルーティカスに合体だ!」

 オンスロートが指示を出すとまず、スィンドルとブロウルが変形し、両足の役目を担い、そこへオンスロートが胴体として乗ると複雑な変形プロセスにより三人の体がしっかりと頑丈に接続された。素早くブレストオフが右腕となり、最後にボルテックスが左腕となって繋がった。五人のトランスフォーマーが合体して出来る合体兵士ブルーティカスの誕生だ。

 グリムロックよりも大きなその巨人に味方のインセクティコンですら萎縮して道を開ける。

「さぁて、あの小舟を挨拶代わりにぶっ潰せば良いんだろ? オレの挨拶は手荒いぜ?」

 合体兵士ブルーティカスはフラクシナスの機銃やオートボット達の銃撃を避けもせずに悠々と受けきると勝ち誇ったかのように笑った。

 

 

 

 

 グリムロックを送り出したジャズはまだそれ程時間が経っていないのに早く帰って来ないかとそわそわした様子で制御装置の前をウロウロとしていた。

「おや、誰かが私のスペースブリッジを使っていると思えば……まさか君とはね」

 ジャズは入り口の方を見て、そこに堂々と立つ単眼のトランスフォーマーに対して恐怖心を感じていた。

「スペースブリッジを使い、仲間を呼ぶつもりだろう……。向かったのはオプティマス・プライムだろうな。だが、無意味だ。我々を止める事は不可能だ。お前も私の実験材料になれ」

 ショックウェーブを見て青ざめていたジャズは次第に口を吊り上げ、意味深ににやける。

「スペースブリッジは私が預かっている。なら、私が今すべき事は分かるだろうショックウェーブ?」

 両腕をサブマシンガンに切り替えてジャズはショックウェーブを撃ちながら接近した。ショックウェーブも左腕のキャノンをジャズに撃ち、かわされると隙を突いてジャズは腹にパンチを入れて来た。そこから続いて顎にアッパーをヒットさせた。

 のけぞりながらも、ショックウェーブは大きな左腕の銃身を棍棒のように振り回してジャズを殴りつけ、蹴り上げ、そして頭を掴んで無造作に叩きつけた。頭を踏み潰さんとショックウェーブは足を上げると、体を横へ転がし、ジャズはスポーツカーにトランスフォームした。

 ショックウェーブのキャノンを右へ左へと急なカーブで避けながら、距離を置いたかと思うとジャズは真っ直ぐ、ショックウェーブ目掛けて走って来、ビークルモードのまま体当たりをかました。ショックウェーブは呻きながら突き飛ばされるとジャズは再びロボットの姿にトランスフォームして、ショックウェーブに馬乗りになると顔を執拗に殴りつけた。

「このイカレた科学者め、覚悟しろ!」

 あらゆる方向からジャズのパンチが降り注ぎ、頭を掴んで何度も地面にぶつけたりと止むことのない打撃を浴びせられた。トドメを刺そうと右腕を剣に変えて顔を貫こうとした瞬間、ジャズは腹に走った耐え難い痛みに表情を崩した。

「くっ……ショックウェーブ……!」

 ジャズの腹、そこには深々とショックウェーブの剣が刺さって、傷口からはエネルゴンが流れ落ちていた。剣を抜き、ジャズを蹴り飛ばすとショックウェーブは手や体の埃を払い立ち上がり、傷を負って動けないジャズを見下ろした。ジャズの始末は後回しにして、ショックウェーブはオプティマスがセイバートロンから味方を引き連れて帰って来ると思っているので早急にブリッジを閉じようとした。

 

 

 

 

 スペースブリッジを抜けた先には視界の全てが金属に覆い尽くされる懐かしの光景が待っていた。グリムロックが現れた場所はオートボットの首都、アイアコンでありそこは未だにディセプティコンから受けた凄惨な攻撃の跡が残っていた。廃墟と化したアイアコンには死んだ同胞達や殺された敵が至る所に転がり、下半身だけ残ったゼータプライムの銅像も目に入った。

 グリムロックは自分の部隊の仲間を探すべくひたすら、アイアコンを歩き回りやがてはアイアコンを出て、錆の海を歩いていた。錆の海での出来事は、鮮明に覚えている。インセクティコンからの襲撃、スラージを失い、グリムロック達ダイノボットはそこでショックウェーブに誘拐されたのだ。グリムロックは何も考えず、センサーだけを頼りにただ歩いた。アイアコンや錆の海を抜け、そしてグリムロックはディセプティコンの領土へと足を踏み入れた。空を見上げれば、グリムロックが破壊したショックウェーブのスペースブリッジが見えた。全てはあのタワーから始まったのだと思えば感慨深い。

 早く帰らなければ士道や四糸乃、それにオートボットは忌々しいショックウェーブの餌食にされる。グリムロックは必死にセンサーの感度を上げて周囲に気を配っていると、グリムロックのセンサーに四つのオートボットの反応をキャッチした。

 故郷に帰ってから初の生命反応にグリムロックの心が躍らない訳がない。センサーの指し示す方角をひたすらに走る。邪魔な壁なんてパンチ一発で破壊し、崩れた金属の瓦礫も蹴っ飛ばして進むと、グリムロックの目に懐かしい顔ぶれが待っていた。同じ荒くれ者同士がチームを組み、苦楽を共にした生涯の仲間が見えた。

「スラッグ、スナール、スワープ!」

 グリムロックがそう呼ぶと三人は驚いたようにしてグリムロックを見た。

「ぐ、グリムロック!?」

「い……生きてやがったのかよう! 心配したよグリムロック!」

「また会えるとは思ってなかったぜ!」

 グリムロックは三人と力強く固い握手を交わして再会を大いに喜んだ。

「マジかー! グリムロック、お前が生きてて本当に嬉しいよ!」

 スワープはビーストモードに変形すると空を飛び回って喜びを露わにした。

「お前達、どうして、ここにいる?」

 グリムロックが気になったのはここ、ショックウェーブの研究所という思い出したくもない場所に三人が集まっていたからだ。研究所の入り口は、固く閉ざされて誰も寄せ付けない雰囲気が漂っていた。

「聞いてくれグリムロック、スラージの野郎が怒って出て来ないんだ」

「スラージ!? あいつ、死んだ筈だ!」

「まあまあ、それはこれから話すよう!」

 スワープはビーストモードのままでグリムロックの肩に留まるとスラージのこれまでについて話し出した。

 グリムロックが消え、オートボットやディセプティコンがこの星を残して去って行った後、残された三人のダイノボットはとりあえず、消息不明のスラージを探しに行っていた。スラージのボディは錆の海に沈み、引き上げるのにかなり苦労したそうだ。ボディはバラバラで劣化が酷くて風化していたが、奇跡的にもそのスパークだけは辛うじて生き残っていた。ダイノボット達は星に残っていたディセプティコンの研究所を襲い、科学者を連れて来ると彼等にスラージを治させたのだ。

 ボディのデータはショックウェーブのラボに残っていたし、スパークにも傷は無く再生は簡単に完了した。だが、問題はそれからだった。スラージは、怒っていた。

 錆の海で力尽きた自分を見捨てたと思い、スラージはグリムロック達に怒りを覚えるとディセプティコンの科学者を踏み潰し、スラッグ達を追い出してショックウェーブのラボに閉じこもり、話しすらも聞いてくれないのだ。

「ってな訳よう! スラージの奴はずっとだんまり状態で近付いたら撃って来るして酷いもんだぜぃ!」

 スワープが語り終わるとグリムロックは肩に留まっているスワープを払いのけてスラージのいるラボへのそのそと近寄って行った。

「グリムロック、危ないぞ!」

 スナールが注意したが、グリムロックは止まらずに進んでラボの入り口の前に立った。

「スラージ、聞こえてるだろ、俺はお前、見捨てたつもり、ない」

 グリムロックが声をかけてもスラージからの返事は無い。すると今度はドアを目一杯叩いて言った。

「スラージ! お前は俺の仲間、俺がお前、守ってみせる!」

『うるさいグリムロック! もうオレに構うな! オレなんて居なくても別に困らないんだろうが!』

「困る! スラージ、いなくて、俺、寂しい」

「なあスラージ、オレ達ぁお前を見捨ててなんていないんだよお! ショックウェーブの野郎の研究所に捕まってたんだ!」

「スラージ、拗ねてないで出て来い! グリムロックが戻ったんだ!」

 と、スラッグ。

「スラージ、オレ達はダイノボット、五人揃ってダイノボットだ。一人でも欠けたらダイノボットじゃないんだ!」

 と、スナール。

『……!』

「スラージ! 俺達、今から地球の、友達、助ける! ショックウェーブも叩き潰しに行く! スラージ、戦うか!? ここで死んでいくか!? 二つに一つ! お前が選べ!」

 グリムロックはそう言い残すとドアから離れた。そして、スラッグ達を連れて来た道を戻ろうとした時だ。 重く、固く閉じたドアがギギギッと錆びた音を轟かせながら開いて行く。四人はそのドアを注視していると大きく立派な姿となったスラージが重厚な歩みでゆっくりと出て来る。

「スラージ……!」

 スワープが喜びで駆け寄ろうとするのをスラッグが止めた。グリムロックはスラージと向き合うと徐々に距離を詰めて行く。

「なあなあ、まさかここで決闘とかないよな? よな?」

「黙って見てろ」

 グリムロックはガシッとスラージと厚い抱擁を交わす。そしてスラージは決意を込めた一言を放った。

「戦おう……!」

 グリムロックは頷くと歩き出し、金属のティラノサウルスに変形してメンバーに号令をかけた。

「ダイノボット、トランスフォーム!」

 リーダーの命令に従い、スラッグはトリケラトプスに、スワープはプテラノドンにスナールはステゴサウルスにそしてスラージはアパトサウルスに変形して大地を揺らしてスペースブリッジのゲートがあるアイアコンに向けて駆け出した。

 

 

 

 

 スペースブリッジを切らせまいと重傷を負いながらも奮闘するジャズだったが、とうとう力尽きて倒れていた。ショックウェーブの予想外の強さにジャズは太刀打ち出来なかった。

「よく保った方だ。メガトロン様には良い手土産が出来たな。オートボットの副官の首を持って帰ればメガトロン様もお喜びになるだろう」

 パンパンと手を払って、ショックウェーブはスペースブリッジの制御装置へ歩く。

「ま、待て……」

 ジャズが必死に手を伸ばすがショックウェーブはそれを無視して制御装置をいじり出した。

「さあ、邪魔なスペースブリッジをさっさと閉じ――。ん?」

 ショックウェーブはスペースブリッジの奥から何かが近付いて来ているのを確認した。数は五人、援軍とは呼べない数に呆れた様子で首を横に振った。

「援軍も大して呼べなかったようだな」

 ショックウェーブはここで片付けてしまおうとキャノンをブリッジに向けると、光のゲートからダイノボットが乗り込んで来た。

「な……! 何だ貴様等、帰れ!」

「嫌だ、俺達、帰らない!」

 グリムロックは吼えるとショックウェーブを踏み潰し、その後に続くスラッグやスナール、スラージに轢かれて行った。スラージは尻尾で負傷したジャズを背中に乗せ、グリムロックに続いてラボを破壊しながら出口へ向かい、カモフラージュされたゲートも突き破って外に出た。

「スワープ! あの、柱、壊せ!」

「お安いご用だぜぃ!」

 スワープは翼を羽ばたかせて空へ舞い上がると精霊やCR-ユニットの邪魔になっているエネルゴンタワーにミサイルを叩き込んだ。一本のタワーが崩れると隣りのタワーも巻き込んで行く。スワープはそのままエネルゴンタワーの破壊を続けた。

 山を下ったグリムロック達は目に映るインセクティコンを全て倒して行く。グリムロックは尻尾で体を貫き、持ち上げるとレーザーファイヤーで焼き払う。

 クワガタムシを連想させるブルーザーの突進をスラッグは正面から打ち負かす。

 スナールは飛び上がってからインセクティコンの群れに背中から突っ込んで串刺しにして行き、尻尾で何匹かを空中に放り投げ、そこへグリムロックが噛み付いて倒す。コンビネーションも抜群だ。

 スラージは歩くだけでもインセクティコンを十分に撃破して行ってくれる。長い首や尻尾を鞭のように振るい、スラージが暴れる所にインセクティコンが塵のように宙を舞った。

「一匹、残らず、殺せ!」

 グリムロックが突進態勢に入っていたブルーザーに食らいついて、そのまま体を食い千切った。遠慮もなく暴れまわり、五人はフラクシナスに向かう最中に遭遇したインセクティコンは全て狩り尽くした。

 

 

 

 

 合体兵士ブルーティカスの進撃にオートボットは止める方法が無い。ハードシェルの仇を討とうとキックバックやシャープショットはオプティマスが倒れた所を狙って攻撃をするつもりだった。

「ハードシェルの野郎を殺した罪は重いぜ! ぜぇ! ぜぇ!」

「ブルーティカス! 早くやっちまえ! ンハハハハ!」

「うるせぇ虫けらだ」

 ブルーティカスは鬱陶しく撃ってくるアイアンハイドやワーパスに目を付けると腕を振り、簡単に二人を黙らせると足下にいたオプティマスを掴んだ。

「さてどう料理するかー!」

 ブルーティカスが力を込めて握るとオプティマスの体が軋み、全身から火花が飛ぶ。

「ぐおぉっ!」

「じゃあコイツは虫けらに任せるぜ」

 オプティマスをキックバックとシャープショットのいる場所に落とすとブルーティカスはフラクシナスの装甲を掴み、楽に引き剥がした。中にいる琴里やクルー、十香達を見下ろしてブルーティカスは盛大に笑った。

「こんなチビ共が動かしていやがったのか笑えるぜ! まずはさっきから耳障りな音楽を鳴らすテメェからやってやる!」

「総員退避! フラクシナスから逃げなさい!」

 琴里が叫ぶとクルーはその場から逃げ出し、十香等も走り出すが狙われている美九は足が竦んで動けない。

(逃げなきゃ……逃げなきゃ……でも……足が、動かない! 動け動け動け!)

 美九は心で何度も動かそうと念じるのだが、足は凍り付いたようにピタリと止まって一歩たりともそこから動けないのだ。ブルーティカスが拳を振り下ろすのが異様に遅く感じた。美九の脳内では幼少時の頃から今に至るまでの短い人生を思い返していた。もう死ぬ、そう結論が出て美九が諦めたように手を降ろした――。

「美九ぅー!」

 士道は美九の名を叫びながら美九を押し倒しながら滑り込んだ事でブルーティカスの拳をなんとか回避出来た。

「ったく、諦めたような顔しやがってバカ野郎!」

「あ、あなた……どうして!」

「約束したし」

「んだ? このチビ野郎がスタースクリームのお目当てかぁ?」

 士道の顔とスタースクリームが見せた画像が一致するとブルーティカスは嫌々ながらも士道を捕まえる事にした。

 だがそこへ遂にダイノボットが建物を突き破り、インセクティコンの残骸の道を作りながら登場した。現れるなり、グリムロックはシャープショットに食い付き、下半身から上半身を食い千切る。

「シャープショット!」

 キックバックは奇声にも似た声で絶叫してグリムロックに向けて銃を撃つのだが、背後からスラッグがマンションを倒して来、キックバックはその下敷きとなった。

「ふう、お邪魔します」

 スラッグは下敷きにしたマンションの上を歩いていた。

「来たな雑魚共が!」

 ブルーティカスがグリムロックを殴り、少し怯むとその間にスラッグが突進してバランスを崩させる。グリムロックが至近距離から炎を吐いて顔を焼くとブルーティカスは、怒り狂いながら立ち上がってスナールを持ち上げるとスラッグへ投げつけた。

 スラージは巨体を揺らしながら馬鹿正直に真っ直ぐに突っ込み、ブルーティカスにタックルをしかけて鋼鉄の巨人が仰向けになって倒れた。

「マジでムカつくぜ恐竜野郎!」

 スラージの尻尾を掴み、ブルーティカスは振り回してジャイアントスイングでスラージを遠くへ飛ばし、グリムロックへミサイルを浴びせた。倒しても倒してもダイノボットは立ち上がり、ブルーティカスも飽くこと無く再起するのだ。

 トランスフォーマーの目線から見ても規格外の戦いであり、ブルーティカスとダイノボットの周辺にある建物は何も残らず、延々と焦土だけが広がって行った。

『グリムロック! エネルゴンタワーはばっちし破壊してやったぜ! 今からそっちに向かうよ!』

「わかった、スワープ」

 エネルゴンタワーが壊れて力が戻ったのには精霊達本人が一番に気付いていた。霊力がせき止められて内部が熱くなるような感覚が薄れ、美九や狂三に本来の精霊の力が戻り、十香等にはある程度の霊力が戻って来た。

「むむっ!? 夕弦よ何か感じたか?」

「同意。力がちょっと湧いて来ます」

「うむ、何やらドローンとした変なのがなくなって動きやすいぞ!」

『う~ん、よしのん達の霊力が回復したのかなぁ~?』

「かっかっか! 颶風の御子を相手に散々好き勝手やってくれたあのデカブツに灸を据えてやらんとなぁ!」

「同感。あの巨人をコテンパンにします」

 夕弦と耶倶矢はメイド服のまま天使を顕現させて飛び、四糸乃はよしのんに乗ってフラクシナスを出て行くと十香も鏖殺公(サンダルフォン)を抜いてブルーティカスに斬りかかった。

「神無月!」

「はい、司令!」

 琴里は新しいチュッパチャプスを口にくわえると神無月に命令を下した。

「十香達の霊力が戻ったって事は魔力がまた使える筈よ」

「そうですね」

「神無月、ミストルティンを用意しなさい!」

「ハッ!」

 神無月は綺麗に敬礼し、フラクシナスの主砲の準備に取りかかった。

 フラクシナスの外ではダイノボット、オートボット、精霊の三勢力がブルーティカスに絶え間なく波状攻撃を仕掛けているのだが、ブルーティカスはなかなか倒れない。四糸乃が足を凍らせても氷を直ぐに砕いて動き出す。

「オプティマス、あいつの攻略法はないのかよ!」

 士道もスターセイバーの光波を放ちながら聞く。

「ブルーティカスはいつもダイノボットが止めていた。未だに決着はついていない。だから攻略法はダイノボットだけだ」

 いつの間にかグリムロックに似た連中が増えて困惑したが、刻まれたオートボットマークを見ると安心出来た。

 ダイノボットが総出でブルーティカスをあらゆる方向から押さえつけ、拘束しようとしたが力任せに体を回転させてダイノボット達を払いのけた。グリムロックが肉体を赤熱させ、赤く燃え上がるような蒸気を発し、口腔内に大量のエネルゴンを蓄えた。

 火力全開、グリムロックのレーザーファイヤーが直撃してブルーティカスは転倒するとスラッグも続いて角からレーザーを撃ち、スナールのロケット砲、スラージの光線やスワープの爆撃を浴びせられた。

 流石に堪えたらしく、ブルーティカスの体の各所から火花が飛び散り、動きが鈍っていた。

『みんな、ミストルティンを撃つわ! 退きなさい!』

 フラクシナスのスピーカーから琴里の声がした。琴里の声に従い、ブルーティカスの周りにいた全員が引き下がった途端、フラクシナスから膨大なエネルギーの奔流が発せられブルーティカスはそれ受けると、強制的に合体を解除させられてしまった。

「ヤベェよオンスロート!」

「わかってる! 撤退だ撤退するんだ!」

 合体も出来ないコンバッティコンがダイノボットに勝てる見込みなど万に一つない。各々がビークルモードに変形して逃げ出すと戦いを傍観していたスタースクリームも一緒に逃げ出した。

「スタースクリーム! これからどうするんだ! 全くお前に付き合うとロクな事がねぇ!」

「やかましい! ショックウェーブの臨時基地まで帰るぞ! あそのスペースブリッジで逃げる!」

 スタースクリームの逃げ足を信じてコンバッティコンはついて行く。臨時基地はさっきダイノボットが暴れた所為でどこもかしこも穴だらけになっていた。スペースブリッジのある部屋にまで駆け込むとそこにはボロボロのショックウェーブが培養液の入ったカプセルを運んでおり、その周りにはありったけのエネルゴンキューブが置いてあった。

 どう見ても荷造りしているようにしか見えない。

「ショックウェーブ、テメェ一人だけ逃げる気か! 俺達はパートナーだろ?」

「パートナーになったつもりはない。それにこの基地はもうお終いだ」

「ショックウェーブ、どの道俺達は終わりだぞ」

 オンスロートが諦めがかった声色で言った。今からスペースブリッジを起動している時間は無いからだ。それでもショックウェーブは落ち着いていた。インセクティコンを全滅させられ、作戦が失敗し、臨時基地が崩壊寸前でもショックウェーブに焦りが全く無いのだ。

「そこまでだお前達!」

 オプティマスの凛とした声が室内に反響した。入り口や部屋の天井があった穴からオートボットやダイノボット、精霊が覗き込んでいる。

「みんなに迷惑かけた事を謝るのだ一つ目ロボー!」

 十香は剣を地面に突き立てて胸を張った。

「投降しろショックウェーブ、スタースクリーム。メガトロンがいない今、意味のない争いは止めよう!」

「メガトロン様が……いない? ふふ、ふふ、フハハハハハハハハハ!」

 初めて見るショックウェーブの高笑いにオートボット以上にスタースクリーム達が不気味に思って少し距離を空けた。

「笑わせるな、オプティマス・プライム!」

(こえー……)

 スタースクリームは心で呟くとまた少し距離を空けた。

「殺しはしない。投降するんだ」

 オプティマスが慎重に近付いて来た所で空から誰でもない謎の攻撃がオプティマスを襲った。一発のエネルギー弾がオプティマスを吹き飛ばし、その直後に見たこともないトランスフォーマーが降りて来た。

 いや、それ以前に空を見上げ時に気付くべきだったろう。月明かりを遮断している物は決して雲ではなかった。士道が山の上から空を見ても空中に浮いている物の全容が分からない。それ程に巨大でフラクシナスが哨戒艇に見える程のサイズの宇宙船だった。

 そして、突如として君臨した銀色のトランスフォーマー。彼が現れた瞬間に確かに場の雰囲気ががらりと変わったのだ。右腕に装着された大きなキャノンが特徴的で全てを威圧する圧倒的な大帝の風格。

 初めてアイザックを見た時よりも不気味で奥深く、冷酷で強い熱意を兼ね備えたそのトランスフォーマーは紛れもなく、ディセプティコンのリーダー“破壊大帝”メガトロンだ。

「メガトロン!?」

 オプティマスは身を起こしながら旧友であり仇敵であるメガトロンの姿に驚きを隠せなかった。

「オプティマス……こんな辺境の惑星で生きていたか」

 メガトロンは天井へ向けてフュージョンカノンを撃ち、山を崩して落石でオートボット達を生き埋めにした。

「サウンドウェーブ、こいつ等を回収する。帰還用ダクトを降ろせ」

『了解しましたメガトロン様』

 エフェクトのかかった声で情報参謀サウンドウェーブは答えると戦艦ネメシスからメガトロンやスペースブリッジをダクトで取り囲み、引き上げて行った。

 落石を勢い良くどけてグリムロックは天に向かって吼えた。

「あの狸め……今度は何を仕出かすつもりだ!」

 アイアンハイドは憎々しげに飛び去るネメシスを睨んだ。

「メガトロン……」

 オプティマスは考えたくなかった最悪の人物の登場に今以上に熾烈な戦いを予感していた。

 

 

 

 

 ショックウェーブとインセクティコンの攻撃はダイノボットの活躍により阻止する事が出来た。幸いにもシェルターの人間には被害は無く、人的被害はアイザックに見捨てられたDEMの魔術師(ウィザード)や自衛隊から僅かに出ただけであった。

 町の復興にかなりの時間がかかったのでその間はシェルターの人は窮屈な思いをしていた。

 天央祭は結局、中止となり残りの日は休日と化して士道は自宅にてその休日を満喫していた。

「あーあ、長い一晩だったなぁ~」

 週刊誌を読みながら士道はソファーに寝転がって完全にだらけていた。戦いが終わる頃には狂三は忽然と姿を消してしまい、ショックウェーブの臨時基地は爆破され、インセクティコンの死骸は時間と共に溶けてなくなり、トランスフォーマーの証拠が何一つ残らなかった。

「やっぱ休みは良いよな~」

「ダァァァリィィィン!」

 綺麗な声が玄関から聞こえたかと思うと美九はリビングを開けて士道にのしかかって来た。

「美九!? どうしたんだ。それにだーりん!?」

「はぁい! だーりんです! だってだーりんは私の約束を破らずに守ってくれた恩人ですぅ! だ・か・ら……だーりんにだけなら全てを委ねても良いんですぅ!」

 出会った時とは一八〇度反対な性格に士道は困った顔をしたが、心を開いてくれたので悪い気はしない。

「まあ、他の男……オートボットにもそう接してくれたらありがたいんだがな……」

「あ、オートボットの皆さんも平気ですよぅ!」

「え? 何で?」

「あの戦いの次の日に聞いたんです。オートボットの皆さんの事。私も辛い経験をしました。でもそれ以上に辛い経験があるオートボットの皆さんは明るく元気に生きている……あの人達みたいにくよくよしない様に生きようって決めたんですぅ」

 美九は士道から降りて続けた。

「みんな一人じゃあ生きていけませんし、自分の重荷を背負ってくれる仲間についてもグリムロックさんが話してくれました……オプティマスさんが通訳して、ですけど」

「そう言ってくれて嬉しいよ美――」

 士道の言葉を遮って、美九は唇を重ねた。柔らかくてとても良い匂いがした。そして次の瞬間には美九の服が光り輝き、粒子となって消えてなくなる。

「もうっ、だーりんのスケベ!」

「ち、違うぞ今のは通過儀礼というか……深ーい意味があるんだ!」

「見ろよグリムロック! お前の認めた男って昼間から女の子ちゃんを脱がしてっぞ!」

 士道はギョッとして庭の方を見るとスワープが指を差して見ており、他のダイノボット達もぞろぞろと集まって来た。

「うわーグリムロック、お前の友達は変態だな」

「士道の趣味が分からないな」

「うーん、オレもこれはないなー」

 スラッグ、スナール、スラージは順番に率直な感想を述べた。

「俺、グリムロック。士道が痛い奴なのは前から知ってる」

「お前等なぁ~! 言いたい放題言ってんじゃねぇ~!」

 泣きたくなりながら士道はやけくそになって叫んだ。

 


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