Kranteerl y io kladi'a 作:xelkener
立ち尽くしているとイェクトは、いきなり走り出した。
「クラディア君!式典の状態を確認するんだ!行くぞ!」
「はい!」
そう答えて、Xelken平和式典の行われる大広場の方に向けて走り出そうとしたところイェクトの足が止まったのが確認された。
「なんだ・・・あれは・・・」
大広場の方向から、爆風と共に見えたものは青いキャンバスを塗りつぶす黒煙であった。
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「く、クラディア君、状況を確認しに行く!」
イェクトはまた走り出した。クラディアもまた走り出した。走り疲れた頃には、Xelken平和式典の会場、大広場に近づいていた。
「・・・やられた。」
そう、イェクトが呟いた。式典会場はめちゃくちゃに爆破され鉄製の支柱が折れ曲がっている。しかし、まだ、大広場の中央―式典会場―には着いていない。これから先は危険なのでクラディアの氷結のウェールフープで地面を冷やし、イェクトの電撃ウェールフープで煤塵を吹き飛ばしながら移動する。所々、高温で解けている鉄や硝子があったからである。特別警察防災対策部などの警察官はなかなか許可が下りず中に入れなかったようであるが、慎重に気をつけて先を進んでゆくとその『物体』が明らかになった。
「・・・クラディア君、あれが見えるか・・・。」
それは熱のためか大きく膨張しているようだった。よく分からないが爆発の瞬間に膨張しそのままクラディアのウェールフープで冷えて固まっているようだ。
「・・・骨だよ。」
膨張したその物体には骨らしきくぼみがついていた。これはまさか。
「僕たちを混乱に陥れている間に、奴ら―謎の団体―は翔太を連れ去りXelken平和式典にまで移動させ事件を完遂させた。Xelken新総裁は八ヶ崎翔太に殺された。そういえば、ターフ・リファン・リファーリンが今日は居ないな・・・彼女も殺されたのか・・・」
「いえ、彼女もまた『奴ら』の仲間かと思われます。」
イェクトが目を見開いた。クラディアはリファーリンの正体、雇い主、その他全て昨日あったことを話した。イェクトは真剣に聞いていたがある単語―ユーバリ=ハフールテュ―を聴いた瞬間、イェクトは挙動不審となった。
「ユーバリ=ハフールテュか・・・」
「イェクトさんはハフールテュの事を知っていますか?」
イェクトはクラディアに近づき目を細めていった。
「ここだけの話だが、記憶が無くなってからの僕を助けてくれた人物の名前はユーバリと言う名前だった。彼は僕を国家公安警察に紹介し、何の関わりも無く国家公安警察に就職できた。僕は特別職業就職試験なんて受けたこともないし、その科目選択系統でもない、でも、何故か入れたんだ。」
謎だ。ユーバリ=ハフールテュという人物がさらに分からなくなってきた。記憶をなくしたイェクトを助け、連邦で国家公安警察に人脈で就職させることができ、この作戦を邪魔し、翔太に事件を完遂させた謎のハタ人。翔太のネートニアーの友達にしては人物が大きく見えてくる。
度重なる謎は人物を解明するのではなくクラディアを謎へ突き動かしていた。
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私たち二人は14、12班に後に無事に合流することが出来た。しかし、通信機器や一部のネートニアーの怪我が酷い状態であったためにこの日の一晩を使ってクラディアが回復のウェールフープを発動することで傷を治していた。
イェクトの話だとハフールテュは、ハタ人というよりラネーメ人らしい人物だったらしい。彼は、名前こそハタ人であるが流暢にリパライン語を話し記憶をなくしたイェクトの身を預かり自分の名前が分からないイェクトにイェクト・ヴィェーナという名前を付け国家公安警察に就職させたらしい。イェクトの就職後、ハフールテュは"Raran athimkaree"(新たな時代を)と書いた書置きを残して姿を消したらしい。
イェクトは国家公安警察の仕事をこなしながらもハフールテュに礼を言うためにその人物を探し続けたが、遂にはユエスレオネの社会票台帳にも乗っていなかったそうだ。そんな話をしながらETCAのユエスレオネ支部の長く使われていないほこりまみれの事務室で日が落ちるのを待った。
日が落ちるとイェクトがクラディアの方に歩いて耳元に囁いた。
「リファーリンを消さないと。」
リファーリンの死体を打ち付けにしたまま放置しておくのは危険で自殺行為だった。特別警察に嗅ぎ回られて私たちを見つけられると面倒な事になりそうだった。そこで、事務所の警備を14、13班のチームらに任せて私たち二人は、それを隠滅しにあの丘まで行った。
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森を進んでいくと丘への登り道があった。リファーリンが私を連れて行ったものと同じである。丘に着くとリファーリンが破壊した柵、地面が元通りになっている。
慎重にロープを使って音を立てず下っていく。イェクトが着地コントロールのために電撃ウェールフープでも放てば大きな音を出すだけでなく木に引火して山火事になりかねない。
慎重に降りると、リファーリンの死体が見当たらない。イェクトが「暗いから」と言って木の枝を拾って電撃で火をつけた。すると、イェクトの後ろ側にリファーリンの死体が見えた。
「・・・イェクト、後ろです・・・」
「・・・!?」
イェクトはそれを見て驚きを得て凝視していた。リファーリンの死体の頭は『潰れていなかった』、その体には傷一つ無くリファーリンの着ていたような服ではなく純白のワンピースのみを着せられ岩に手が打ち付けられていた。その形式の意味するもの『純白のシャーツニアー』、昔のフィシャ・フォン・フィアンシャと呼ばれる最高フィアンシャを焼き払おうとし純白のワンピースを着せられアレフィス―神―の前に永遠の眠り、不滅の力を得た者たち。そして、後ろに旧リパーシェ文字が書いてあった。その意味は―
「新たな・・・地獄を・・・」
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リファーリンの死体を破壊し蒸発させた後、これらを考えながら事務所に戻った。明日は、元の時間に戻る日だ。事件が実行された今、戻った先が分からない。まず、技術が成熟していないのもある。
―全ては明日の12:00に決まる。
疲れこみ寝てしまったイェクトを尻目にクラディアは明日の風景を、自分たちの結末を、考え込んでいた。