Kranteerl y io kladi'a 作:xelkener
クラディアとアセロアフィスはETCAのユエスレオネ支部ビルの四階、アフの子孫事件対策本部の指示会議室の中に居る。長机が幾つか置かれているが窓から外はのぞけない。ここの階は、ETCAの内部でも極秘の情報任務などを行う。
「イェクトは来ていないが始めるとするか」
アセロアフィスは一番前、議長席から立ち上がりマイクを掴んだ。
「それでは、今回の作戦の概要を説明する。」
集められているのはETCAの関係者か数人と特別警察らしき制服を着た人物、あと謎の私服軍団も居る。
「今回の作戦はあの事件の隠滅のためにXelken平和式典で新総統が押さえられる前に、八ヶ崎翔太を逮捕することだ。どんな犠牲も厭わない。必要であれば誰でも殺せ。いいな。」
その声は厳しいものであった。
静寂が数秒流れたがそれを了解と捕らえたアセロアフィスは話を続けた。
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唐突に会議室のドアが開いた。
「どうも、皆さん、ユエスレオネ連邦国家公安警察のイェクト・ヴィェーナです。」
その青年はドアの前で丁寧にお辞儀した。会議室は氷結のウェールフープにでも掛けられたかのように凍った。席から立ち上がろうとしたETCA事務員が転び、自分の後ろの特別警察らしき人間は咳が止まらなくなっていた。
国家公安警察、ユエスレオネの安全を取り仕切る『本当の秘密警察』だ。軍も特別警察も、その情報収集・逮捕・戦闘能力には勝てないしその全体も特別警察ですら分かっていない。
青年はクラディアの方へ歩いてゆき耳元で囁いた。
「クラディア君、すこし話がしたいから外に出よう。」
その香りからは何か懐かしいものを感じさせた。
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ETCA支部ビルの屋上、強い風がクラディアの銀髪を揺する。
「クラディア君。」
すでに屋上にはイェクトが居た。クラディアを見つけたイェクトは一瞬見た後にここから見える連邦の風景を眺めていた。クラディアもイェクトの横に立つ。
「よく見えるだろう、綺麗な夜空が」
「・・・ええ。」
ETCAの屋上から見る連邦の夜景はそれはそれは綺麗なものだった。連邦高速鉄道の鉄道一つ一つが光の帯となって移動し各地の商業地の明るさに加えて工場の様々な色のコントラスト。こんな夜景が見れるのもETCA事務員の特権だろうか。
「僕はこの夜景を前に見た記憶があるんだ。でも、思い出せない。」
「え?」
「クラディア君、実は僕はイェクト・ヴィェーナなんて名前じゃない。僕の記憶はあの事件以降無くなったんだ。」
あの事件が起きてから記憶喪失を起こした?Xelken平和式典にいたXelken勢力か、いや、名前がそれらしくない。では、紛争によるPTSD発症者かなにかなのか。
「クラディア君、この仕事はすぐに終わるだろう。だけど、それでは僕の記憶が戻らない。」
「…」
「頼む、僕の記憶を取りもどす手伝いをしてくれないか。」
難しい仕事だった、あれがすぐに終わる仕事とはよくも言ってくれる。だが、ここまで来て、頼み込まれて断るほどクラディアの心は腐れて居ない。
「分かりました。業務に支障のない限り協力させていただきます。」
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ユエスレオネの夜景はこれからの出来事を伝えようとしているように見えた。
風が冷たい。クラディアは会議室に足早に戻った。