Kranteerl y io kladi'a   作:xelkener

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反撃の灯火
10.汚染防護


アレスは自分たちを連れて研究室の地下に招き入れてくれた。そこにはさまざまな計器類が並べられ、そのうちに"Faimiess ailyriaut"(ヴェフィス語で武器倉庫という意味らしい、イェクトに教えてもらった。)という部屋がありそこへ入っていった。

 

「ここにある武器を持っていけるだけ、もって行きなさい。多分、八ヶ崎翔太の制圧には時間がかかるし、私たちの軍も多く死ぬわ。」

 

そこには、WPライフル、歩兵用NZWPミサイルなどがあった。アレスについていくと奥にガレージがありそこには幾つかの車両が置いてあった。

 

「ここにある車両は全部対WPo透過装甲の車両よ。これの中なら、安全に彼らの元へ近づけるわ。」

 

そこにあったのは重々とした装甲車、何機もの機銃を車体に着けた戦闘車両、ユエスレオネ軍が使いそうな兵器が大量においてあった。クラディアたちがそれらを見ていると後ろにあるガレージへのドアが開きサングラスにインカムの不恰好な男が入ってきた。

 

「アレス・ラネーメ氏、表によく分からん少女がいる。通すか?」

アレスは悩んでいる表情をしていたが、暫くするとその顔色を変えてインカム男に言った。

 

「本研究所研究員、全員は装備を着け研究所玄関に集合。それまで、玄関は開けないで。」

アレスの顔から自信の表情が消えていた。アレスはクラディアたちの方を向いて一言だけ告げた。

「付いて来て。」

 

--

 

その部屋はそれほど明るくなかった。画面が並べられ研究所の各所、外側、遠隔地までの映像がここに写されていた。しかし、幾つかの画面は砂嵐になっており回復の気配はない。きっと、翔太の軍勢がこれらのカメラを壊したのだろう。

 

「ここは研究所のコントロールルーム、通常は私しか入れないけれど今回は、危険だから君たちをここに居させている。」

そう言いアレスは目の前にあるヘッドセットを付け電源を入れ全館放送のラベルが上についているスイッチをパチッと上げ言った。

「全館全研究員に告ぐ、部外者を確認、容姿は少女だがWP波汚染の可能性がある。前班は標準対WPo透過防護服に着替え、A班からB班はWPライフルを装備、C班はWP波汚染者チェックリストと機器を準備せよ。D班は、そのまま防護装備で待機せよ。以上。」

全館放送のスイッチを下げ、次に外部放送のスイッチを入れる。

「部外者へ告ぐ、本研究所は連邦勢力下に存在する。もし、連邦勢力に属さない勢力の者であれば、射殺も辞さない。今ならまだ逃げられる。これから、10秒待つから、連邦勢力の人間でなければ逃げなさい。」

 

映像から見れる少女は、ラネーメ人かハタ人である事は分かった。服はぼろぼろになっており意識はあるものの肩からの出血が確認された。

 

…10秒経過した。少女は何処へも行かず小さな体を揺らしながら待っていた。アレスが全館放送のスイッチを入れる。

「研究所のドアの開閉を許可する。そこの人を入れてWP波検査しなさい。」

全館放送のスイッチも外部放送のスイッチもアレスは切った。映像で研究所のドアが開いたことが確認されとぼとぼと少女がその中へ入っていくのが確認された。その下の画面には、研究所の玄関が写されておりその少女がちゃんといた。防護服を着た人間たちが少女を囲んでいる。少女の正面には、WPライフルを持った防護服の人間が八人ほどいた。WPライフルを持った防護服たちが少女の入場とともにWPライフルを構える。その瞬間、少女が後すさりした。アレスがマイクを握る。何人かの機械を持った防護服の人間らが少女に近づいて話しかけている。少女は意識朦朧になりながら受け答えは一応できているようである。防護服を着た研究員らが機械を少女に当てて何かを調べている。数分経って機械が少女から離されると一人の防護服が奥へ行った。その直後、クラディアたちの居る部屋に若い男性のものと見られる声が響いた。

 

「高度にWP波物質に汚染されているようで防護服を着ていても長時間曝露は危険です。シャワールームでもなんでも良いので彼女の除染を許可してください。」

アレスがスイッチを入れてマイクを持ち直す。

「建物内汚染に気をつけて、三階のシャワールームで除染作業を行って」

少女は自分で歩いて周りに防護服らが附きながら三階に上がっていったのが確認された。イェクトが怪訝なおもむきでアレスに向きかえる。

 

「どうして、ここまでやる必要があったんですか?」

アレスが席を立って棚に置いてあるファイルを引き出し何枚か捲ってイェクトたちに見せた。何らかの地図に地名が書いてありその大きく太字で書かれた町―Sysite'd fery―から色の濃さを変えて範囲を書いてあった。

「これは…中央フェーユ…?」

「三日前に中央フェーユに新型のNZWPミサイルが落とされたわ。そのNZWPミサイルには、巨大な爆発を起こすだけでなく爆心地から離れたところでもWP波に汚染された物質を撒き散らす。高度WP波で汚染された人間は、助けを求めて近くの町へ行く。すると、汚染されたWP波に害されて防護服を着ていないネートニアーは死にケートニアーのウェールフープは弱化及び制御困難に陥る。本人は殆どの場合死ぬわ。」

「そんな、じゃあさっきの少女は…」

アレスの目が窄まる。

「爆発時に頑丈な建物の中に居たんでしょうね。そのときは正常であったけれども、それから町を出たときにWP波の影響で肌が焼けたりの症状が出たようね。」

イェクトがアレスを見つめて少し間を空けて言う。

「彼女は…助かるんですか…」

「正直分からないわ。WP波による人体の影響は、今までDAPEのフラストジーケーンWP発電所事故の時の瞬間WP波だけで長期的な人体の影響は検査されていないし情報も少ない。とりあえず、WP可能化剤を投与して一時ケートニアー化して対症療法を行うと思うわ。それでも、結局のところWP可能化剤に適合していなければ死ぬけれど今はそれだけしか治療法が無いわ。私たちも医者じゃないし。」

 

イェクトが部屋の隅の椅子に力が抜けて座り込んだ。

クラディア自身もそこまで破壊活動は出来ないと思っていた。しかし、その予想ははずれ、翔太は新型兵器によってユエスレオネ政府を崩壊させようとしていた。崩壊させた後は、Xelkenの絶滅を目標に殺戮を繰り返すだろう。しかしながら、翔太のみで急速に一国を転覆に近づけるなんてことは出来ないはずだ。何故なら、翔太の特殊なWP追加効力はファルカス戦で切れていた。一人でXelken討伐が出来るほどの力も襲撃時に死なないとの確証も無いまま戦うのは危険すぎる。では、後ろに誰かが居ると考えられるのが自然であろう。では誰であろうか、彼をそこまでバックアップしている人物、組織ならば、何らかの目的があってしかるべきであろう

 

そう、考えてクラディアははっと気づいた。

そうだ、ユーバリ・ハフルテュを忘れていた。ユーバリに雇われたリファーリンは最期に「仮想反理」とか何とか言っていたような。これらの謎を解く鍵になりそうだ。

 

しばらくしてアレスが携帯を取り出して研究員と話していた。アレスは携帯をしまうとクラディアに向きかえり言った。

「除染が終わったらしいわ。もう夜も遅いし研究員に準備させるから明日の出発を目標に頼むわ。」

クラディアは頷いて言う。

「分かりました。こちらも準備を手伝うべきでしょう。ガレージに行きます。」

アレスは「助かるわ」といって、案内の研究員を引っ張ってきた。頬がすこし痩けている男性研究員はクラディアに向かって会釈した後、話し始めた。

「皆さん、こんな物騒なところへ未来からようこそ!ユエスレオネ中央大学WP研究所研究災害対策本部長兼サニス条約機構WP国際研究機構ユエスレオネ中央大学代表のアレス・ティーオヴです。どうぞ、宜しくお願いします。アハハハハハ」

満面の笑みでこの能書きをすらすらと言えるのだから凄いものだ。なんか、最後の方に変な笑い声が聞こえてきたが気のせいだろう。こちらのアレスも主任のアレスもアレスだから紛らわしい。こっちは長肩書きとでも呼称することにしよう。長肩書きとともにクラディアたちはガレージに移動していった。


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