だから彼女は空を飛ぶ   作:NoRAheart

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だから彼女は決着をつける

なんで私は、また、まだ、戦場に立っているのか?

自分の今現在の行いに、可笑しな話だが疑問を抱く。

いまさらな話、滑稽で不思議な話ではある。

しかし、いやいやどうして、我が事ながら本当に可笑しな話だが、解答を持つ者がいるのなら尋ねたい。

どうして私は、また、まだ、戦場に立っているのか?

 

 

「はて?」

 

 

気付いたら、またネウロイと空でダンスを踊っていた。

それもまた、両脇にはFM mle1924/29軽機関銃とボーイズ対戦車ライフルを抱えて。

寝ぼけた? 夢遊病?

いつの間に?なんてツッコまない、ツッコみたくない。

だけどツッコまななければ気が済まない。

 

私は何故、また、まだ、戦場に立っているのだ?

 

笑うしかない。

エヴァンス中佐との通信からの、前後の記憶が酷く曖昧なのだが。

しかし僅かにもその時、自らの定義した筈の勝利を自ら捨て、勝手に要請を受け入れ。

更には私のバカげた行いに正しく憤慨し、問い詰めたルクレール中尉に何事かの罵倒を、己の口から紡いだことは、覚えている。

 

だから、嗚呼。

何てことをと、己で己を嘲り笑う。

 

 

「クソッ!!」

 

 

思わず吐き捨て、発砲。

馬鹿か。

 

 

「クソッ!!」

 

 

歯ぎしり、発砲。

ボケたか、私。

 

 

「クソッたれ!!」

 

 

憤り、発砲。

我ながら、取り返しのつかないことをしてくれたものである。

台無しだ、全て。

 

まとわりついていたネウロイ群を退けて、一度民家の屋根上に着地する。

それは自らの荒い呼吸を整える為であった、が。

泣きたい、なんて。

同時に思わず弱音まで漏れてしまう。

 

 

「何故だ!!」

 

 

どうしてこうも、上手く行かない!!

その思い、そして漏らした弱さを想い、髪をくしゃりと搔き、潰す。

 

………思考の件は置いておくとしても。

自己の行動まで制御できないとなると、これはいよいよ重体。

早急に、精神科に向かった方がいいのかもしれない。

信じたくはないが、問題は、それほどのレベル。

 

 

「ああそうだ………」

 

 

確かパリには父の知り合いに高名な精神科の医師がいた事、幸いな事にその医師とは面識がある事を思い出す。

己が正常でないのなら、パリまで逃げられたのなら、その人に診察と検査をお願いしよう。

そうしようと、決意。

 

 

『主、――――』

「黙れ」

 

 

カルラの言葉を、何を語るのかさえ分からぬまま、拒絶した。

無意識下での自己防衛、とでも言うべきか。

ともかく、私は彼女の言わんとしたことを拒絶した。

今の私には心の余裕がない、それ故に。

 

今の私の異常が、精神的な何かであるだけで済むのであれば、まだいい。

ずっと戦場で命のやり取りをして、何百もの人間を殺してきたのだ。

護ろうと備え、愛していた両親を、少しの抵抗の努力も許されずに呆気なく殺されたのだ。

目の前の他者を救う為に、大切な人を見捨てるような事を選んだのだ。

とうとうか? それとも今更と言うべきか?

己が壊れていたとしても別に驚く事ではない。

ただその異常が私の思いもよらず、理解が及ばない。

そして自分ではどうしようもないような超常的な何かだとしたら。

 

今の己の異常性は、どうしようもなく恐ろしい。

 

私の及ばぬところで、誰かを巻き込んで、破滅に進ませているのではないのかと。

それを考えれば、カルラさえぞんざいに扱ってしまう。

それほどまでに。

 

 

『気にしてない』

 

 

………そうか。

 

ひとまず、その話もまた一度脇に置くとしよう。

それよりも、今は眼前の敵である。

ネウロイと交戦する中で、いや、それ以前に薄々と感じていた事だが。

街の中央、正確には本体があると思しきネウロイに近づけば近づくほどに、分体たるネウロイの機動もまた良くなっている。

分裂型である仮説が、また一つ信憑性が増したわけだ。

 

 

「さて」

 

 

この街全てのネウロイが、一個のネウロイ。

コアに支配され統制されている分裂型、これをどのように打破するか。

厄介な相手に、どのように仕掛けるかを思案する。

 

本来なら、単独戦闘を避けるべき敵だ。

分裂型それ自体の厄介さはあるが、何より問題なのは、本体と思しきネウロイに随伴する数多の飛行小型ネウロイにある。

数の問題もあるが、本体に近い事で統制が格段に上がり、遅滞戦闘戦時よりも脅威程度は確実に増している筈だ。

しかしこれをどうにか突破しなければ、本体には近づけない。

だからこそエヴァンス中佐が語ってくれた、梯団が「囮となる」と言う言葉には大いに期待している。

が、しかしはたして航空戦力無しで、それを有言実行できるのか。

疑問ではある。

 

 

「?」

 

 

と。

私は口笛を想起させるような、空気を切り裂く音を聴く。

それはこの街にネウロイが飛来してきたときのものよりも、より甲高い音であった。

見上げれば、放物線を描いている、ナニカ。

それは彼方より飛来し、本体と思しき大型ネウロイに落下したと思えば、瞬間、火炎と轟音と化す。

空間を震わせ、紅蓮を作り上げるのは。

 

 

「なるほど、迫撃砲か」

 

 

この短時間でよくもまあこんな支援を考えたものだと感心する。

迫撃砲は面制圧兵器であるが、迫撃は初弾から大型ネウロイからの誤差少なく、あの梯団が抱える部隊の練度も確かだと見て取れる。

あれならば確かに十分な支援であり、あれだけの威力はネウロイの注目を集めざるを得ないモノ()となれる。

 

支援だ。

彼らの迫撃による打撃は一見威力があるが、しかし撃破には到底届かないものでしかない。

 

迫撃は、空しくもコアがあると思しき大型ネウロイに随伴する小型ネウロイに食い止められているが、彼らが迫撃を続ければその破壊力は、いずれ小型ネウロイ群の回復力を上回り、確かに大型ネウロイを撃破することが敵うだろう。

だがもとから梯団単独で撃破できたのならば、もとより私の出動は不要だ。

故に私は彼らが行う迫撃を、撃破を目的としない、支援と取った。

彼らは迫撃砲、それに戦車等の打撃力のあるモノを保有しながらも、私の協力を求めたのだ。

それは彼らの継戦能力、主としては弾薬類が芳しくない事、それに伴って明らかな決定打がない事を匂わせる。

 

私の前進に合わせた迫撃、此処にきての大盤振る舞い。

それはあの梯団が、この一戦に全てを掛けている意思の表れで、そして私に決着の一手になる事を掛けている事の証左………いや、それは流石に言い過ぎだろうが。

しかしながらあの分裂型を打破する作戦の軸として、少なからず私を組み込んでいるのは、これで明らかである。

 

 

「まさか、大佐の過保護でもあるまい」

 

 

あちらの梯団の支配は、大佐と呼ばれていたあの人にあるのだろう。

この局面、そのような事ができるのは、あの人くらいだ。

私の戦闘ぶり、大型ネウロイに確実に大打撃を与えうる能力があることは、あちら側にも勿論見られていたとは思う。

だが私のような得体のしれない小娘に、大隊以上の戦力、そして少なからず抱えているだろう民間人の命運を任せるには、些か信用するには足らない。

大佐が私を知るからこその、個人的信用、信頼。

そして信用と信頼の上で、たとえ私が失敗したとしても最低犠牲は私というひとひとりで済むと考える、私にとっては非情で、しかし梯団の戦力保持と民間人の事を考えた上では合理的なこの判断は流石だ。

おそらくは私が負けたとしても、梯団が勝つ次の作戦、漁夫の利を得る作戦は既に展開してあるのだろう。

私なら、そうする。

 

 

「………はっ」

 

 

少しばかり胸に苦しさを感じて、息を吐き、胸を押さえる。

物理的な苦しさではない。

私の胸は、幼いから。

そう、まだ己が幼いから、母の軍服に収まっている。

 

思うのは、大佐の事、あの人の事。

 

私は彼を見捨てようとしていた。

その判断を、今でも間違いだとは思っていない。

それはドモゼー姉妹の為、逃げ遅れた民間人の為、ルクレール中尉のような残された兵士達の為の判断だった。

同じことを、し返された。

その程度で悲しく思うのは、我ながら、自分勝手だ。

それ以前に、私はあの人の娘を守れず、むざむざ死なせてしまったのだ。

私に悲しむ権利なんて、どうしてあるだろうか?

 

ある訳がない。

 

迫撃は、未だ続く。

梯団の迫撃によってネウロイ群の動きは拘束され、戦力を削いでくれている事で、幾らか接近の難易度は下がってはいるだろう。

だが、それでも私があのネウロイを撃破できる確率は、低い。

これまでの戦闘で、私のコンディションが著しく低下しているのは明らかだ。

可笑しなことに、枯渇寸前であった筈の魔力残量が何故か二割ほど回復しているが、体力、そして私の固有魔法による無茶な機動に、これ以上は体が持たない事は自覚している。

全力で戦える、つまり、分裂型に接近を図れる機会はおそらく一度きりだろう。

 

コアのあるネウロイ撃破の鍵を握るのは、右手に持つ、ボーイズ対戦車ライフル。

シャルロットを発見した際に放った一射。

あれは無意識に力み、たまたま完成した高純度の魔法弾と、固有魔法で加速させたことで生まれた偶然の一発だったが、あれを再現し当てる事が叶えば、魔力もまた枯渇するだろうが、上手く行けば大型ネウロイとて一撃で屠れる可能性が高い。

ボーイズ対戦車ライフルの有効射程は、使用した感覚からして、おおよそ90、100mほどか。

ならば、外すことなく確実に仕留める為には最低50m圏内には接近する必要があるだろう。

 

50mのキルレンジ。

 

それは簡単に届きそうで、しかしそこはもう、大型ネウロイの懐なのだ。

そこまで近づく道のりは、困難を極めるのは考えるまでもない。

大型ネウロイのビームによる迎撃能力は、生前の頃より熟知している。

小型ネウロイ群に包囲され、四方八方からビームを撃ち込まれる恐ろしさは、さきほどの戦闘で身をもって知っている。

寧ろ、あれよりも統制された迎撃をされるのだ。

果たして、私は生き残る事ができるだろうか?

正直に言えば、生き残れる自信は、ない。

 

 

「………いや」

 

 

寧ろ。

この結末は、私にとっては好都合なのかもしれないと考える。

ちらりと視線を移せば、此処からでも見える、軍立病院。

私の大切な両親の、墓場。

 

 

 

 

 

私は、弱くなった。

 

 

 

 

 

死の恐怖を感じるのは、いつ以来だろうかと嗤う。

死にたくない。

感じるそれは、人として当然の思いだ。

死んでほしくない。

伝えられて、受け止めたそれは、人として当然の願いだ。

けれどそんな当たり前の感情を感じて、受け止められたのは、大切な人達のおかげだろう。

両親がいたからこそ、私は弱くなれた、弱くなることが出来た。

大切な人を護る強さを求める中で、私は、再び人になれた。

それは喜ばしくも、悲しい事。

 

赤の他人を救う為には、軍人でなければならない事を私は知っている。

 

だけどそれを今、この瞬間だけは、忘れる。

軍人であるのなら、私は今すぐにでも踵を返すだろう。

ルクレール中尉らに頭を下げて、梯団を無視してでも。

あの人が死ぬことになろうとも、それさえ無視して撤退を指示するのだ。

それが、救う事の出来た他者を、確実に生かす道だ。

 

それをしないのは、私が弱いから。

 

弱いから、両親の仇討ちが出来る。

二度と来ないだろう、思わずも巡ってきた機会を前に、だから個人感情を優先してしまうのだ。

それがたとえ、あのネウロイと刺し違える事になろうとも、だ。

死にたくないという思い、死んでほしくないという願いとは些か矛盾しているだろう。

だけど、その根幹にあったのは、両親。

だから。

 

 

「嗚呼、なんだ」

 

 

私が此処にいる、異常だと思っていた行動の正体。

今思えば、それはなにも。

 

どこも。

 

異常も。

 

矛盾も、なかった。

 

両親の敵を討ちたい。あの人の助けになりたい。

軍人になり切れていなかった、弱くなった私の心の何処かでその思いがあったから、今ここにいるのではないのか?

 

 

『主』

 

 

カルラが心配そうに、私を呼ぶ。

呼ぶ、それだけの行為。

しかしそれだけで、私にその先に進むなと、警告をしているかのように思えた。

カルラ自身の感情なんて、そっちのけだ。

 

 

「カルラ、ありがとう」

 

 

彼女が本当は何を望んでいるのかなんて、繋がっているのだから分かっている。

彼女が私と共にいたいと心から思っている事も知っている。

 

 

『主………』

「これが私の意志で無かったとしても、私はこの結末を心の何処かで期待していた。納得しているよ」

 

 

だから。

 

 

「カルラ」

 

 

残酷な事を願う。

 

 

「私と、心中してくれ」

 

 

迫撃が、止む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫撃が止むと同時にヴィルヘルミナは駆け出し、飛ぶ。

彼女の背には白く、天使の翼を連想させるような固有魔法が現れ、飛び出す彼女を後押しする。

 

彼女の淡い蒼眼に唯一映るのは、コアがあるであろう大型ネウロイ、ただひとつ。

 

迫撃を耐えきったと思っていた大型ネウロイは、此処にきて再び現れた敵に、人間の感情で言うところの驚きに近いモノを抱く。

残りわずかになった、分体、小型飛行ネウロイ群。

それを差し向け、盾にし、壊れてしまった自らの分体の修復を急かす。

 

本体に近ければ、分体の動きが向上するというヴィルヘルミナの推測は、間違いではなかった。

残された小型ネウロイ群は少数であれど、彼女が遅滞戦闘時よりも小型ネウロイ群、分体群の動きが良くなっているのは明らかで、その脅威は、遅滞戦闘時よりも確実に上であった。

しかしヴィルヘルミナは、大型ネウロイへと迫る。

 

遅滞戦闘戦時と、現在の彼女には大きな違いがあった。

それは抱えているモノの、違い。

 

遅滞戦闘時は囮として護るべきモノがあったが、今の彼女にはそれがなく。

それは決死の機動ができる事を意味し、無茶な突貫ができる事もまた同様。

その違い。

かつて戦場に死を振りまいた死神に枷があるか、ないかの違いは、あまりに大きすぎた。

 

天使のワルツを思わせた先ほどまでのヴィルヘルミナの飛び方は、今では打って変わって暴風のように荒々しい。

小型ネウロイ群は、四方八方放たれる弾丸の暴風に飲まれ、為すすべなく次々と砕けていく。

暴風を抑えようと、捕らえようと、囲ってみても抑えられない。

背中に目でもついているのか?

背後から仕留めようと動いた分体には、その瞬間、銃弾が叩き込まれた。

 

ノールックショット

 

彼女が背面に迫る分体の位置を、一切、一度として見ることはない。

彼女の目は、顔についた双眼だけではないのだ。

危機察知能力。空間認識能力。

長く空で戦争し、不利的状況下で戦って、生き延びてきた結果か。

彼女のソレは、常人と比べると異常なまでに発達し、対多数戦闘下ではこれ以上ない武器となる。

彼女にとっての武器は、ネウロイにとっての凶器である。

そしてその凶器は、そのままネウロイにとっての、脅威。

 

 

『―――――――――――――――!!』

 

 

ネウロイは、迫る脅威に噛みつくように、吠えた。

ネウロイの咆哮は空間を大いに震わせ、遠くにいながらも、それを聴いた人々にこの上ない恐怖感を与える。

しかし、飛び、迫る彼女は止まらない。

大型ネウロイは、直感する。

 

己にとっての紛れもない、死が、来る。

 

最大の脅威だと感じていた先ほどまでの迫撃さえ、迫る目の前の敵と比べたら生ぬるい事であった。

他の大型ネウロイの応援は、間に合わない。

壊れた分体の修復をあえて少数に絞って急がせ、己は敵の接近を防がんと光線を放とうとする。

が、光線が狙い通りにいかぬほどの衝撃が、大型ネウロイを襲う。

原因は、分かっていた。

目の前の忌々しき白銀である。

 

ヴィルヘルミナと大型ネウロイの相対距離は、残り100mをきっていた。

 

ヴィルヘルミナは大型ネウロイの攻撃を、ボーイズ対戦車ライフルを用いて妨げる。

流石に陸戦型、魔力をさほど込めずに放たれた13.9mm弾では装甲を貫けず、撃破とはならない。

だが13.9mm弾のストッピングパワー、そして大型ネウロイの体勢を意図して崩す為に放たれたそれは、大型ネウロイに思う通りの攻撃をさせる事はない。

しかし大型ネウロイも、ただ黙ってやられる事はない。

ヴィルヘルミナがボーイズ対戦車ライフルを構えた銃口、その直線上に分体群を動かすことで、対策とした。

 

相対距離、残り75m。

 

ボーイズ対戦車ライフルへの防御対策が立てられたことによって、大型ネウロイは何十条もの光線をヴィルヘルミナに向け、放つことが叶う。

互いの距離が近い事、大型ネウロイの光線が大口径であることもあって、ヴィルヘルミナの接近はここで足踏みする。

それでも少しずつ、身を削り、焦がしながらも。

ヴィルヘルミナは大型ネウロイに迫る。

 

相対距離、残り60m。

 

此処にきて遂に、小型ネウロイ群を抑えていた機関銃の弾が尽きる。

ヴィルヘルミナは弾の切れた、機関銃を放棄。

無論、それを見過ごす大型ネウロイではなかった。

大型ネウロイは機関銃の拘束を解かれた分体群を前面に押し出し、ヴィルヘルミナの視界と退路を素早く遮る。

遮って、大型ネウロイは間髪容れずに最大火力で以て、集束して完成した巨大な光線を放った。

斜線上に己の分体群がいる事も構わずに。

 

その時点でのヴィルヘルミナと大型ネウロイとの相対距離は、残り55mであった。

 

しかし光線の斜線上で、爆発と、悲鳴。

そして光線の後には、光線と分体群の残滓が降る中には、白銀の姿は見えない。

 

死は去った。

 

 

『―――――――――――――――!!』

 

 

その事を喜び、ネウロイは、勝利を高らかに吠えた。

己の勝ちだと、世界に知らしめるかのような咆哮は、また世界を震わせる。

 

遠くから見ていたものらは、ヴィルヘルミナが敗北したかと、絶望した。

近くから見ていたものらは、ヴィルヘルミナが落ちた事に、驚愕した。

 

相対距離は、残り50m。

 

 

「じゅう………ぶん、だ」

 

 

大型ネウロイが蒼く輝くヴィルヘルミナの姿を認めたのは、安堵し咆哮を上げた、刹那の後。

ヴィルヘルミナは、確かに落ちた。

正確に言うなれば、光線を回避する為に己もまたダメージを受ける事も覚悟した上で、持っていた全ての手榴弾をばらまき、突破口の出来た下へと彼女は飛んで、光線を逃れていたのである。

そして、相対距離50m。

大型ネウロイを仕留めるのに十分なキルレンジに、瀕死の状態でも、彼女は届いたのである。

 

そしてありったけの魔力を弾丸に込め、ヴィルヘルミナは、ボーイズ対戦車ライフルを大型ネウロイへと向け………

 

 

 

「ぐふっ!?」

 

 

しかし同時に、ヴィルヘルミナの身体も限界を迎えた。

身体が悲鳴を上げ、耐え切れず、彼女は崩れるように倒れていく。

倒れる寸前のところで手を着き、完全に倒れる事は免れた彼女だが、口からは多量の血が溢れる。

今までの出血。

さらに手榴弾による負傷。

そして軌道を無理矢理変更し、飛ぶことも叶う彼女の固有魔法。

本来そのような飛び方を続ければ、少女の身では無論命にかかわる。

保護魔法で軌道に耐えてきた彼女だが、最後の光線を逃れる為に行った軌道変更はほぼ直角。

その決死の軌道が、ヴィルヘルミナの命運を分けた。

 

 

 

 

 

結果、彼女の最期の一歩は、ネウロイには届かなかった。

 

 

 

 

 

大型ネウロイは眼前で這う忌々しき死の白銀にとどめを刺す為に、迫る。

ヴィルヘルミナはもがき、何とかボーイズ対戦車ライフルの銃口を大型ネウロイに向けんとするも。

 

だが無力にも。

 

しかし無慈悲にも。

 

そして残酷にも。

 

光線が発射されるその瞬間までに、再び銃口がネウロイのその身の位置まで持ち上がる事は、無かった。

 

 

 

 

 

そしてヴィルヘルミナの決死も空しく、大型ネウロイの光線は、彼女に向けて発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその光線は狙いは逸れ、彼女の後方を撫でた。

 

 

「撃て」

 

 

光線発射直前の事。

 

 

「撃て!!」

 

 

迫撃を避ける為に後退していた梯団の戦車部隊の前進、合流が、ヴィルヘルミナが落下した時点で間に合っていたのだ。

ヴィルヘルミナの落下を遠くで見ていたものらが、ルクレール中尉らなら。

近くで見ていたものらとは、彼ら梯団戦車隊の事。

 

 

「彼女を死なせてはならん!! 中尉の決死を無駄にしてはならん!!」

 

 

吠えたのは、空軍の将校服に身を包み、白髪交じりの髪を隠す為にかベレー帽を被る初老の男。

彼の号令に戦車隊は一斉に砲撃をはじめ、砲撃は大型ネウロイの身に多大な衝撃を与えた。

故に、ヴィルヘルミナを狙った筈の光線は、大きくその軌道を外した。

 

軌道を外し、ヴィルヘルミナを仕留めきれなかった。

 

その僅かな時をつくってしまったことが、大型ネウロイの命運を分けた。

たとえ僅かでも、ヴィルヘルミナが再び銃口を持ち上げるには、十分な時間。

命を燃やすような蒼い輝きが、ヴィルヘルミナの身から放たれ。

 

 

Auf Wiedersehen(さようなら)

 

 

 

そして魔力の限りを込められ、固有魔法の加速を加えられ放たれた一射は、大型ネウロイの光線に比類するほどの蒼い光跡を描き、大型ネウロイの身を吹き飛ばす。

 




分裂型ネウロイとの戦い、遂に決着。



























































って、思うじゃろ?

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