人が自身の力で空を飛ぶことはできない。
それは太古から現在に至り、そして未来永劫、恒久不変として変わらぬ事実なのだろう。
しかしそれでも人は太古より空を目指した。
イカロスが、ダ・ヴィンチが、ライト姉妹が。
様々な偉人たちが空を目指した訳とは一体全体何なのだろう。
地の覇者といっても過言ではない人類が、空を、翼を求めたる理由とは?
「それは単なる欲から来たものではないか?」
向かい側より凛とした声が鳴る。
私は文字の海より顔を出すと、私と同じように本を読みふける一人の少女が座っていた。
いつの間に座っていたのかと一瞬こそ思いはしたが、恐らくそれは単に私が本に熱中して気づかなかっただけ。
いつものことだ。
それよりもなんで私の考えていたことが分かったのか?
そちらの方が私にとって重要な問題だった。
「貴女の口から問われたものに私はただ答えただけ……なにか拙かったか?」
それを聞いた私は「ああ、それは恥ずかしい」と少し顔が熱くなってしまう。
が、しかし対面の彼女は私の羞恥など気にした様子もなく、文字に目を落として書を読み進めるだけ。
そんな彼女の反応に、子供だったその時の私はむくれ、けんか腰で「欲とはどういうことか」と言い返す。
「……私はただ持論を言っただけ。不快に思ったのであれば謝る」
ゆっくりと面を上げた彼女の、空のように透き通った碧眼が私を
「どういうこと?」
彼女の言う持論というものが気になり、彼女に説明を求めるが彼女は少し困った顔をした。
なんでも、人に持論を語る事が恥ずかしいとのことだ。
私はそれでも是非にと彼女に頼むと、彼女は少しばかり悩み、そしてゆっくりと語りだしてくれた。
「人とは業の深い生き物。我々の持ちうる欲は枚挙に遑がない。そして人の欲というものは自然を、動物を、果ては人間同士さえにも影響をもたらす。これほどのものは人以外にはいないだろうと私は思っている」
そう言って彼女は木製のテーブルを二度、軽くノックしてみせた。
「人は利便を求めて道具を作った。強き獣や他者を降す為に武具を作った。人は地を総べる為に車や戦車を作った。海を総べる為に船を作った。全ては人の欲によって生み出されたもの。欲とは、言葉自体は単に悪いイメージを受けやすいが、しかし欲が無ければ人類の文明は此処まで発展する事は無かったのもまた然り」
「……」
「えっと、少し難しかったか?」
彼女の問いに私は首を横に振るが、正直に言うと、彼女の考え方は私にとって難しいモノであった。
彼女の考え方は、とても同年代とは思えないほど難しい。
私は、歳はきっと、まだ私とあまり変わらない筈なのに、そんな考え方が出来る彼女に感心するのと同時に、少しばかりの悔しさを覚える。
「そう」
しかし彼女は気づいていないのか、はたまた私の事など歯牙に掛けていないのか、彼女が私の感情の起伏に反応を示す様子はない。
「人は空を飛べない。飛ぶ必要もない。地を、海を総べた人類はそれで事足りた筈。それなのに人が空を飛ぶことを求めたのは何故か。輸送の利?重力からの脱却?考えてみれば答えはいくらでもあり、故に最終的な答えは私には分からないが……」
ふと彼女は、窓から外に視線を移す。
彼女の、その視線の先に一体何を見るのか?
気になって、私も追いかけると、番らしき二羽の鳥が窓辺で楽しそうに宙を踊っていた。
「もしかしたら単に、鳥のように自由に空を羽ばたける翼が欲しかっただけだったのかもしれない」
「……」
「またそれも欲、最初に話した私の持論になる」
それからしばらく、彼女は本を再び読むことをせず、外で、空で舞う鳥を眺め続けている。
外を眺める彼女のその瞳の色は羨望にも、郷愁にも見える。
そんな彼女に私は声を掛ける事が出来ず、しかし彼女のことが気になって再び本を読み進めることもできず、時間ばかり過ぎてゆき。
そしてとうとう、お昼休みの終わりを告げる、鐘が鳴った。
彼女はゆっくりと席を立ち、「ではまた、ハルトマン」と私に別れを告げて図書室を去っていった。
静かになったこの学校の図書室に残るのは、私だけ。
一人になった図書室で、どうして彼女は私の名を知っていたのだろうとふと思う。
しかしそれよりも――
「綺麗な髪……」
私の目の裏に残る白銀色の残滓。
それは彼女が去ってなお、強く私に刻む。
私もまた午後の授業に出る為に席を立ち、図書室から去るのだけど。
図書室から出てすぐ、私は廊下を右左と見た。
もしかしたら、まだ彼女の後姿を捉えることができるかもしれないと期待したけれど。
しかし私の視界には先に出た筈の白銀糸の彼女の後姿は何処にもなく。
その事に、少しがっかりとしてしまっていた自分がいる事に驚いた。
家族以外の人に興味を持ったのは何時ぶりだろうか。
また、会えるだろうかと。
そんな淡い期待を持って、私もまた、自分の教室へと戻っていった。
「エーリカさん、それとヴィルヘルミナさんまで宿題を忘れたのですか!?廊下に立ってなさい!!」
「ごめんなさいぃ……」
「こんな歳にもなって、忘れ物なんて………不覚だ」
私が白銀糸の彼女と、実は同じクラスだったという事を知るのはそれからすぐ後の授業の時だったりする。
コトコトと鍋が煮え、ザクザクと野菜を切る音。
フライパンに引いた油のジュッと自己主張をする音。
さまざまな音が台所を支配し、反響し、壮大な音楽、オーケストラを奏でている。
「くっ……」
しかし楽しげな音楽に反比例するように、そのオーケストラの指揮者たる料理の作り手、ヴィルヘルミナは苦悶の表情で指揮棒を振るう。
額には大粒の汗。
まるで長距離を全力疾走しているかのように、彼女は肩で呼吸を繰り返す。
「ミーナ……」
後ろで見ていたエーリカの不安げな声が掛けられる。
それは彼女を心配してのことか、はたまた料理を心配してのことか。
「大丈夫だエーリカ・ハルトマン。心配せずともすぐできるから、席で待っていてくれ」
「でも……」
「む、エーリカは私の料理の腕を疑っているのか?」
ヴィルヘルミナは笑みを浮かべながら彼女にそう問いかけると、彼女は「違うよ」と首を横に振りながら強く否定し、逆に彼女はヴィルヘルミナにこう問いかけた。
なんで料理を魔法でしてるのさ、と。
「何故、か。言ってしまえばこれは訓練だ、魔法のな」
「訓練?」
「そうだ」
ヴィルヘルミナには生前より、常人より高い魔法力を保有してはいたが、本人の未熟さ故にそれを十全に扱い切れていなかった。
彼女は今世こそはと魔法の訓練を常日頃行っていたのだが、いかんせん彼女には魔法に関してのノウハウというものが全くなかった。
書籍においても魔法のコントロールに関しては色々と意見がありすぎて参考にならない。
結局魔法のコントロールは自己の感覚に依るしかないと両親に内緒で、ヴィルヘルミナは一人隠れ、訓練していた――内緒にするのは、まだ幼い自分が魔法の自主訓練なんかしていたら十中八九不審がられるだろうと想像に易いからである――が、しかし先月、不覚にも魔法の訓練をしているところを母に見られてしまったのだ。
当然ヴィルヘルミナは魔法を使っていた事を母に問いただされるが、今までしてきたことを正直に、理由は暈し、話すと。
『なら、私が先生になってあげましょうか?』
怒られるかもと身構えていたヴィルヘルミナに、意外な事に彼女はヴィルヘルミナの頭を優しく撫でながらそう答えたのだ。
母は治癒魔法の使い手として地元では名の知れている人物であった。
魔力量こそ常人とあまり変わらぬ量なのだが、彼女の魔法のコントロールは、彼女のお父さん、詰りはヴィルヘルミナの祖父に――祖父は世界でも珍しい男性ウィッチであった――厳しい師事を受けた為に繊細かつ無駄のないものであったことを、前世の頃よりヴィルヘルミナ自身がよくよく知っていた為、そんな彼女に指導をして貰えることはこの上なくありがたい事だった。
魔法を使って料理を行う。
これは祖父が母に嘗て課した、魔法コントロールの特訓の一つだったそうだ。
一見語ってみれば簡単そうな事ではあるが、その実かなりの魔法を持続させる為の集中力と、料理と正確な魔法の腕が必要になってくるので如何せん難しい。
そもそもこの世界で魔法というものは基本、固有魔法等の例外を除き、
が、しかし彼女のそれについての疑問は母に言われた通りの訓練を始めてすぐ、彼女はその理由を納得した。
魔法を使って物を浮かせるのは、自分の手で物を持って運ぶ事の何十倍、何百倍に集中力のいる事だったのだ。
この特訓をやってみると分かる事だが、
故に
だがそれは、魔法のコントロールが未だ下手な証拠であると、母はヴィルヘルミナに教えた。
要は小さく軽い物を持ち上げるのに両手で、しかも全力で持ち上げなくてもいいように、魔法を
ヴィルヘルミナがこの訓練を行うようになって実は一年以上が経つ。
しかしヴィルヘルミナがこの訓練に対して大粒の汗をかき、息を切らしている事から分かるように、未だ余裕を持って取り組めていなかった。
つまり、ヴィルヘルミナの魔法はまだまだコントロールが下手なのだということである。
もしも何の知識もなく取り組めていたならば、此処まで苦労する事はなかっただろうが。
しかしなまじ前世で魔法を下手に使っていた感覚があるだけに、正しい使い方に矯正するにはまだ時間のかかる事だった。
指揮者が未熟で、徐々に慌ただしく乱れ始めた音、
己の未熟さ故に乱れたそれを、ヴィルヘルミナは悔しそうに見、うなだれた。
――治癒魔法
外的ダメージを受け、傷ついた者を魔法で以って治癒し、人を死より遠ざけんとする固有魔法。
使い方や、込める魔力量によってはどんな瀕死の重傷を負っても正常な状態まで回復させる事が可能であるそれは、紛う事無く「神の御業」であると言え、きっとこの魔法は神様が私たち人間の為を思い、与えてくださった素晴らしいギフトなのだろうとマリー・F・ルドルファーはふと思う。
そして今、彼女の両手を光源に、優しくも、暖かな
それに伴って目の前で腕を抱えて苦しむ患者も少しずつ、少しずつだがその表情は穏やかなものになり、そして。
「もう大丈夫ですよ」
彼女の慈愛の微笑みとともに、神の奇跡は今ここに成ったのである。
近場の工場で起こった転落事故によって複雑骨折をしてしまった急患の治療を終え、家に帰りついた私を最初に出迎えてくれたのは、白衣を纏った夫のレオナルド。
「お帰りなさい」
彼の男性特有の落ち着いた声色が、私の鼓膜をくすぐってこそばゆい。
彼の優しげな微笑みが、私の視界を満たしてついつい嬉しくなる。
だから私も微笑んで彼に返す。
「ただいま、レオ」と。
レオと共にリビングに近づくにつれ、次に私を出迎えてくれたのはフワッと仄かに温かい、家庭料理のいい匂いだ。
スンスンと、我慢できずに私はその仄かな匂いをつまみ食いしてみる。
「ん、はぁ~……ふふ、いい匂いね」
「ああ、そうだねマリー」
お腹もいい具合に減っている私はついつい駆け出したくなる、逸る気持ちを抑え、私たちはリビングへ。
「あっ……こんにちは、おばさま」
「おじゃましてま~す」
リビングには、テーブルに皿を並べているハルトマン家の双子と。
「お帰りなさい、母さん」
娘のヴィルヘルミナが、その両手に抱えた料理と共に私を出迎えてくれた。
「ただいま、ヴィッラ。ウルスラちゃん、エーリカちゃんもいらっしゃい」
「ちょうどお昼ご飯ができたところですが、母さんもいただきますか?」
「勿論よ、もうお腹ぺこぺこだわ」
「分かりました、すぐに用意しますので待っていてください」
「私、お皿取ってきます」
「ああ。頼むよウルスラ」
席に着いた私の前に並べられる美味しそうな料理。
焼きたてのパンに濃い赤色をしたグーラッシュ。
それともう一品、様々な野菜等の上に半透明の黄金色のカーテンを被せた何か。
私がヴィッラにそれは何かと尋ねると、ヴィッラは「
「ハッポウサイ?」
「有り合せで作った贋作ですが、野菜を多く、美味しく摂れるという事でチャレンジして作ってみました」
「ハッポウサイ……発音からしてこれは扶桑の料理かい?」
「いえ、これは中華……」
そこまで言いかけたヴィッラは何故か言葉を詰まらせ、咳込み、そして「おそらく扶桑の料理です」と改めて答えた。
「おそらくとは……また曖昧だね」
「ごめんなさい父さん、作り方はしっかり見ていたのですけど何処の国の料理かまでは……」
「ああ、別に責めている訳じゃないのだから、落ち込まなくてもいいんだよヴィッラ」
レオの言葉に申し訳なさそうに答えるヴィッラ。
そんな彼女を見て、レオは苦笑いをしながら私にチラッと視線を向ける。
私も彼に微笑み返す事で応える。
――ヴィッラは私たちに、何かを隠している
根拠はない。
しかしどうしてかな、私たちにだけ分かる、愛しい娘の小さな隠し事。
何か悪い事をしでかした訳では無い。
本当に小さな、小さな隠し事。
それでも、ヴィッラに隠し事をされるのは悲しいけれど、それでも私たちは気長に待っていくつもりだ。
彼女が隠している事を私たちに気兼ねなく語ってくれるようになるまで。
私たちはヴィッラの親だから、少しくらいの隠し事ぐらい許容しないとね。
思わず「中華料理」と言いかけた私の口から出たのは、心苦しい嘘だった。
ポーカーフェイスを顔に貼り付ける私だが、その実、内心ではかなり冷や汗をかいていた。
「中華」という言葉は、この世界においては通用しない。
それはその言葉を指すべき“国”が存在していないから故ではあるのだが、それは生前その土地に存在した国とこちらの世界の国との乖離によるものではなく、生前の世界の“中国”という国のあった土地に国自体が存在していないからである。
今現在、元の中国があった土地は、過去に巨大国家があったとされる記録はあれど、異形の怪物――恐らく怪物はネウロイを指すと思われる――に蹂躙されてノーマンズランドになっている。
存在しない国の名をあげる訳がなく、だから私は慌てて八宝菜を扶桑料理と誤魔化した。
料理なんて、その1国とっても地方ごとに在り過ぎるし、扶桑人に「嘘だ」と指摘を受けても扶桑のローカル料理と誤魔化せば、言い逃れとしてはある程度何とかなる筈である。
しかし仕方のない事とはいえ、自分の不手際の上に嘘を重ねるとは、私はなんて浅はかな人間なのだろう。
自己嫌悪はあまりよくないが……今後はボロが出ないように、これ以上嘘を重ねないようにもっと自分の発言には注意しないといけない。
「まあ、このハッポウサイ、おいしいわ」
「そうだね、流石ヴィッラだ」
「あ、有難うございます」
しかし……もしかしたら両親には私の嘘はバレてるかもしれないなと私は思う。
二人とも私が嘘を吐いた時、二人そろって私に優しげな顔を見せるのだから、もしそうなら二人には申し訳ないとしか言いようが無い。
そして同時に感謝したい。
嘘を笑って許容する包容力、これが親かと私は素直に感心する。
前世では、二度とも幼い頃に両親と死別、又は生き別れてしまったものだから両親がいるありがたみやぬくもりと言うものは全く分からなかったが、今世は精神年齢が成熟している分、それらを確かに、はっきりと感じることが出来る。
親がいるという事は、なんと素晴らしく、心地よいものかと常々思う。
……将来私が親離れできるかどうか、それが不安でならない。
「モグモグ……ほんとだ、これ美味しい。モグモグ……と言うか全部美味しいよミーナ!!」
「姉さま、お願いですから食べるか喋るかどっちかにしてください」
私の嘘という無粋な出来事はあったが、その後の昼食は何事もなく、楽しく賑やかに進んでいく。
そうして賑やかな昼食は恙無く終わるかに思われた。
「ヴィッラ、それとエーリカとウルスラも、おじさんからお話、いいかな?」
「おじさん?」
和やかな雰囲気は、父さんの真面目な物言いに止められる。
はてさて一体何用だろうかと、私たちは父さんに顔を向ける。
「父さん、話とは?」
「うん、三人とも突然こんな事言われて戸惑うかもしれないけれど」
――僕たち、ガリアに引っ越す事になったんだ。
「……」
いつかは来るであろうと覚悟していた事とはいえ、父さんのその言葉は本当に唐突過ぎて、返答に困る。
ウルスラは目を見開いて驚いているし、エーリカに至っては。
――カラン
その手から食器を落とすほど驚いているみたいだった。
「引っ越しとは……本当に唐突ですね」
「ごめんよヴィッラ、僕たちも昨日決めたことなんだ」
「おじさま、何故ガリアに引っ越すのですか?」
「ガリアに暮らしているお母さんが倒れたんだ。しかも入院している病院からの知らせでは、お母さんの病名は未だ分からないらしい。僕たちはお母さんの治療を手伝うためにガリアに、というのもあるけどこれを機にいっその事ガリアのお母さん達と一緒に暮らそうと思ってね」
「分かりました。それで、引っ越すのは何時になるのですか?」
「ミーナ?」
私の言葉に何故か皆驚いている。
逆に私は何故皆が驚いているのか、正直言うと分からず戸惑ってしまう。
「ヴィッラ、いいのかい?」
「? 何がでしょうか」
「ヴィッラは別に無理をして僕たちについてくる必要はないんだよ?」
父さんの言葉に、ああ、そういう事かと私は合点した。
「大丈夫です、私は父さんたちについていきますよ。それにお祖母さまの事も心配ですから」
「そうか。うん、分かったよヴィッラ」
驚きこそしたが私は今世では、今世こそ両親についていくと、大切にすると、既に決心していた事だった。
今更それを変えるつもりも、理由も、私にはなかった。
ふと、正面に座っているウルスラの顔が目に入る。
少し悲しげな表情を浮かべているが、致し方なしと私は引かれる後ろ髪を振り切るように彼女から目を逸らした。
目を逸らした先にはエーリカがいた。
彼女もまた悲しんでいるのかと思ったが、彼女は小さく、本当に小さく笑っていた。
「そっか、そっかぁ………ミーナ引っ越しちゃうのか。寂しくなるなぁ」
「エーリカ?」
「あ、あれ?………私いつの間にスプーン落としたんだろう。あはは、馬鹿だな私……ごめんね、ちょっとスプーン取り替えてくるよ」
そう言って席を立ったエーリカはキッチン――ではなく、反対の玄関方向に走る。
何故にと、私はエーリカの行動に首を傾げていると、母さんにそっと背中を押される。
「追いかけなくてもいいの、ヴィッラ?」
「……行ってきます」
エーリカの駆け出した訳は分からないが、ここで私が追いかけないとどの道拙いだろうと私も駆け出す。
家の外に飛び出し、私は遠くなっていくエーリカの背中を急いで追いかけた。