ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

98 / 118

長くなってしまいましたね( ̄▽ ̄)




第97話 鋭風、再び!

「くっ……!」

 

「あっはははッ! 凄いっスよっ、アスナさん! 殺すのに一分以上かかったの、アスナさんが初めてっス!」

 

 

 

突如として、日本の古の都である京都上空で始まった、IS同士による戦闘。

街中でも、その事態がテレビやネットを介して、京都市内及び、隣接する兵庫、大阪、奈良、三重、和歌山、滋賀県の住民たちにも知れ渡り、地上はパニックに陥っていた。

 

 

 

「あなたっ! 自分が何やってるか分かってるのっ!? こんな人の多いところで、そんなものを平気で撃つなんてっ……!」

 

「だからなんだって言うんスかっ?! 自分は楽しんでるだけっスよ、今この瞬間の殺しをねッ!!!!!」

 

「っ……イかれてるっ……!」

 

 

 

手に持っているビームライフルを撃ちながら、時折砲身を傾けて、大出力のビーム砲撃を放ってくる。

しかも驚異なのは、その連射性能だ。

大きな砲撃をしておきながら、そこからビームライフルでの射撃を行って時間を稼ぎ、再び砲撃が来る。

スピード重視の接近戦を最も得意としている明日奈と《閃華》では、最悪の相手だと思っていい。

 

 

 

「そらそらそらぁーーーーッ!!!!!」

 

「うっ!?」

 

 

 

立て続けに撃ってくるレーナ。

それを躱し続ける明日奈。しかし、レーナの放ったライフルの弾が、京都タワーの天辺にある鉄骨に当たる。

爆発を起こし、鉄骨がそのまま展望台エリアの屋根に落ちてしまった。

 

 

 

「っ!? なんて事するのよっ! 人がいるかもしれないのにっ!」

 

「だってしょうがないじゃないっスかぁ〜、アスナさんが避けるからっスよ〜」

 

「避けなきゃ死ぬでしょうっ!」

 

「でもその代わり、アスナさんが当たらないと、別の人に当たるってことっスよねぇ〜?」

 

「くっ……!」

 

「ふふっ……♪」

 

 

 

狂気に満ちた眼だ。

明日奈よりも歳が若そうな少女は、歪んだ笑みを浮かべながら、銃をこちらに向けてくる。

一体、彼女はどのように今までの時間を生きていたのか……?

全ての人間が幸せになるなんて事はできない……それは明日奈自身も理解はしている。

だが、だからと言って、ここまでの狂気に堕ちいる人間を見るのは初めてだった。

しかも、それがまた少女という点も……。

何が彼女をこんなにしたのか……? 彼女は何のために生きて、何のために戦うのか……?

明日奈には到底わからない話だった。

 

 

 

(とにかく、ここから離れないとっ……!)

 

 

 

市街地での戦闘は、はっきり言って危険過ぎる。

京都や滋賀には、自衛隊の基地もあるため、今はスクランブル状態になっており、あと数分もすれば、応援に駆けつけてくる軍事IS部隊が来るだろうが、その数分だけでも、目の前にいる少女のISは街を壊滅させられるだろう。

ただ離れて、逃げるだけではなく、適度に足止めしなければならない。

 

 

 

(人の少ない山間に誘い込んで、適度に時間を稼ぐしかないっ!)

 

 

 

 

明日奈は思い切って行動に出た。今まで回避行動しか取っていなかったが、ここでようやく、自分から接近戦を試みた。

 

 

 

「おっ? やる気になったっスか?! なら、自分も負けてらんないっすねっ!」

 

 

 

レーナはライフルを量子変換して格納すると、今度は右手に黒い筒状のものを取り出した。

すると、その筒からは、ビームと同じ赤黒い光が飛び出し、まるで細剣のような形状をとったのだ。

その武器を、明日奈は以前……というより、先日間近で見ていた。

 

 

 

「シャルロットちゃんと同じ武器っ!?」

 

 

しかし、シャルが使っていたのは、電気を高密度に圧縮して作られたリニアサーベルだ。

しかしレーナが使っているのは、電気よりも高熱のビーム。

さしずめ、『ビームサーベル』と呼べるものだ。

 

 

 

「だありゃあああッ!!!!!」

 

「はあああああッ!!!!!」

 

 

 

ビームと鋼の刃が交錯する。

高密度に圧縮したビームサーベルと、デスゲームの舞台となった城の中で、共に生死を賭けた戦場を駆け抜けてきた愛剣《ランベントライト》が、幾度となく斬り合う。

型は無茶苦茶だが、戦闘技能の面では先行するレーナ。

しかしその攻撃は、明日奈にだって躱せれる。

アインクラッドの中で、常に経験してきた事だ。一夏ほどではないにしても、相手の動きを見て、予測して、裏をかいて……。

そして今度はこちらがそれを行う。

相手の動きに合わせて、攻撃を仕掛ける。

突き技が主体である細剣は、連撃が素早く行える。

ましてや明日奈の剣速と正確性は、和人たちも認める技量にまで達している。

 

 

 

「はあああああッ!!!!!」

 

「おおっ?!」

 

 

 

《ランベントライト》が閃く。

水色のライトエフェクトが放たれ、連続8回攻撃が繰り出された。

細剣スキルの上位スキル《スター・スプラッシュ》だ。

高速の連続刺突技の為、威力自体はそれ程与えられなかったが、初めてソードスキルを見るレーナにとっては、そのインパクトは計り知れないものだろう。

 

 

 

「へぇー……。それがゲームの技っスか……? いやはや、まさかこんな凄いものだとは思ってなかったっスよ」

 

「その割には、よく防いだものね……。この剣技は、早々に防げるものじゃなかったんだけど……」

 

「やっぱりそれはほら、経験あっての物種ってやつっスかねぇ〜。

自分とて、半端な覚悟で殺し合いしてるわけじゃないんで……っ!」

 

「っ……!」

 

 

 

殺し合い。

そうだ……彼女は殺し合いをしてきたのだ。

明日奈とて、生死を賭けた戦いをしてきた……。だがその相手は、モンスターという名のプログラム。

0と1とで構成されたデータの集合体との戦いだ。

無論、対人戦闘だってしてきた。だが、相手の命を奪うような行為はしてこなかった。

だが、彼女は違う。

常に己と相手の命を天秤にかけ、相手の天秤を崩すために……相手の命を奪うために、人と人の……本当の殺し合いをしてきたのだ。

 

 

 

「いいっスねぇ……アスナさんの眼。正義感溢れる綺麗な眼をしてるっスよ……。

でもねぇ……そんな眼をしている内は、自分には、到底敵わないっスけどねぇッ!!!!」

 

「ッ!」

 

 

 

レーナが高速で接近してきた。

明日奈も負けじと向かっていく。そして、再び刃を交えた。

 

 

 

「ぐっ、くうっ……!?」

 

「こっからホントのホントの本気で行かせてもらうっスッ!!!!!」

 

 

 

剣撃の重さが、先ほどまでと変わっていた。

一撃一撃が重く、明日奈の細剣では、まともに受ければ両断されるほどの強さにまで上がっていた。

 

 

 

「ほらほらっ、行くっスよぉーッ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 

 

鍔迫り合いから一転、レーナによる前蹴りが明日奈にヒットする。

強制的に距離を開けられて、そこから砲撃を仕掛けるレーナ。

即座に回避行動を取るが、明日奈の横を通り過ぎたビームは、京都の街へと降り注いでいく。

 

 

 

「っ……!」

 

「あっはははッ! 凄いっスねえ! これも躱すんスかっ!?」

 

「くっ……!?」

 

「まだまだッ!」

 

「っ……いい加減にっ!」

 

 

 

再び砲撃を仕掛けてきた。

だが、今度は予備動作を完全に見切っていたため、避けることは容易かった。

そして、明日奈はイグニッション・ブーストで急加速し、その勢いを利用した最高速にして最強のスキルを発動した。

 

 

 

「いっ、やあああああッ!!!!!」

 

 

 

《ランベントライト》から光が溢れる。

まるで明日奈の体を包み込む彗星のように、輝きを増していく。

細剣スキルの最上位スキル《フラッシング・ペネトレイター》。

最高速に乗った《閃華》から放たれるその一撃は、まさしく『光速』だった。

 

 

 

「ッーーーーーー!!!!」

 

 

 

レーナの機体に向けて、一筋の光が走った。

二機が衝突し、拡散する光と衝撃。時間を稼ぐところか、そのまま倒してしまった……。

と、思われたが……。

 

 

 

「いやぁ〜、ホント、びっくりしたっスよぉー」

 

「え……っ?!」

 

 

 

 

確かに突き刺さった様な感触があった。

しかし、ISの戦闘は基本的に、シールドエネルギーを削り切ったほうが負ける。

そのため、シールドエネルギーが切れない限り、操縦者には絶対防御が発動し、絶対に傷つけることができない。

だが……。

 

 

 

 

「あ……ぁあっ……!?」

 

「いやぁ……この傷みは……尋常じゃないっスね……っ!」

 

「ひっ……!?」

 

 

 

 

光り輝く《ランベントライト》。

その美しい刀身は、鮮血の色に染まっていた。

 

 

 

「あ、あっ……あなたっ、何をしているのっ!!?」

 

 

 

目の前の光景に、明日奈は驚愕の表情と共に、恐怖の戦慄を受けた。

絶対防御が作動しているはずの機体……しかし、目の前の少女の左腕を、《ランベントライト》の刀身が、確実に貫通していたのだ。

 

 

 

「な、なんでっ、絶対防御が……!」

 

「ああ……そんなもの切っちゃってるっスよ?」

 

「はっ……はああっ!!?」

 

「ヤダなぁ〜アスナさん。ISはシールドエネルギーが切れたら終わりなんスよ?

絶対防御なんて発動させちゃったら、今ので一気にエネルギーが消滅しちゃってたじゃないっスか」

 

「っ〜〜〜〜!!!!」

 

 

 

 

この少女は一体何を言っているのだろう。

明日奈の頭の中は、その疑念だけで埋め尽くされた。

操縦者の安全性を保証するための絶対防御。

それを、エネルギー切れになるからと、自らの意志で断ったという少女の姿は、明日奈には “化け物” に見えているのかもしれない。

 

 

 

 

「でも、これなら、逃げられないっスよね?」

 

「っ!!?」

 

 

 

がっちりと突き刺さった《ランベントライト》。

しかもそれを抜くどころか、逆に締め付ける様にして筋肉を収縮させるレーナ。

確かに彼女の言う通り、剣を引き抜くことが出来なくなっていた。

 

 

 

「ううっ!?」

 

「逃がさないっスよ……っ!」

 

 

 

レーナは左腕を強引に動かし、がっちりと《ランベントライト》を掴む。

そして、右手に持っていたビームサーベルを、頭上へと高く掲げた。

 

 

 

「っ……ぁあっ……!」

 

 

 

 

頭上で閃く赤黒い光剣。

その光景に、明日奈はさらなる恐怖に見舞われた。

 

 

 

「はっ……、ぁあっ……!」

 

 

 

その光景は “あの時” の記憶を呼び覚ました。

自分を殺した、あの最後のソードスキルを……。

 

 

 

「くっーーーーッ!!!!」

 

 

 

頭上からまっすぐ振り下ろされるビームサーベル。

しかし、それよりも早く、明日奈は回避行動を取っていた。

高軌道パッケージ《乱舞》の出力を、自分の前方に最大出力で噴射し、急速のバックステップで回避した。

さすがに掴まれた《ランベントライト》は、手放さざるを得なかったが、それでもなんとか回避した。

 

 

 

 

「はぁっ……! はぁっ……!」

 

 

 

 

呼吸が荒くなっているのが、自分自身でもわかる。

体全身から冷や汗が吹き出し、血の気が引いていく様な感覚。

それは正しく、死への恐怖によるものだった。

真紅に染まった剣が、上段から振り下ろされた……そして、この身を斬り裂く感覚があった。

愛する人を守るために、その身を犠牲にしたあの時の事……。

忘れていたわけじゃない。

だが、思い出したくもなかった記憶だった。

しかし、それを思い出してしまった。

 

 

 

「痛たぁ〜……しかも逃げられるって……。しくじったっスねえ」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「でも、剣は離してしまったスね? どうします? 返した方がいいっスか?」

 

 

 

呑気にそんな事を聞いてくるレーナに対し、明日奈は無言で新たな剣を呼び出した。

《ランベントライト》がかつての愛剣ならば、今の愛剣はこれだ。

 

 

 

 

「ほう? なんか、そっちの方が綺麗っスね?」

 

 

 

白い鋼でできた、一本の細剣。

ALOで新たに活動しているアカウント……ウンディーネのアスナが使う武器《レイグレイス》だ。

 

 

 

「っ……!」

 

「うわっ、怖いなぁー……。そんなに睨まないでくださいよ……」

 

 

 

明日奈は今までにない殺気と警戒心をレーナに対して放った。

レーナはふざけた態度で言ってくるが、そんなものに、いちいち反応もしない。

仕方がないと、レーナは左腕に突き刺さった状態の《ランベントライト》を引き抜くと、それを右手で握り潰すように強く握りしめた。

次第にメキメキッと鋼が悲鳴をあげるような音が聞こえてきて、そして、とうとう折れてしまった。

 

 

 

「さて、アスナさん……再開といきますか?」

 

 

 

まるで三日月のように反り返るレーナの口元。

その姿は、“化け物” というよりは、“悪魔” だと感じてしまった明日奈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カタナっ……! くそっ、何がどうなっているだ!?」

 

 

 

 

一方、IS学園へと急行していた一夏。

先ほど感じたテレパシー的な何かを確認するため、刀奈にプライベート・チャネルで通信しようと思っているのだが、刀奈からの返事は一向にない。

 

 

 

「他のみんなはっ……」

 

 

 

《白式》のレーダーを使って、他の専用機持ちのメンバーたちの居場所を探る。

すると、思いの外早く結果が出た。

専用機の反応を示す点字模様が、学園内にある三つと、学園外に数機。

その他にも、学園所有のISの反応と、敵IS勢力の反応も察知した。

 

 

 

「これはっ……学園が襲撃されてるのかっ?!」

 

 

 

事実を知った一夏は、システムを改善した《白式》のスラスターを全開にし、急いで学園に向かった。

 

 

 

 

ーーーー右方前方 熱源接近!

 

 

 

「っ!!?」

 

 

 

《白式》からの警告。

とっさに回避行動をとった一夏。

すると、一夏の目の前を、青紫色のビームが通り過ぎていった。

 

 

 

「っ!? なんだっ、どこからっ!」

 

 

 

ビームの発射角を《白式》で割り出し、発射された方角を見る。

場所は海のど真ん中であり、どうやら1000メートル以上の場所から狙撃されたようだ。

 

 

 

(狙撃型のISか? でも、ビーム兵器を使うISで、1000メートル以上からの精密射撃ができる機体なんて……)

 

 

 

そんなISは存在しない……。

と、思っていたのだが、一夏はハッと気づく。

ここ最近で、同じ条件に当てはまるISと、その操縦者の存在に。

 

 

 

(まさかっ……!)

 

 

 

ISの高感度ハイパーセンサーを使い、望遠機能を使って遠方を見る。

するとそこから、高速で移動してくる機影を見つけた。

 

 

 

「《サイレント・ゼフィルス》っ……!」

 

 

 

 

顔の上半分がバイザーによって隠されているため、素顔を見ることはできないが、それもすでに無意味なことだ。

なんせその操縦者の素顔は、すでに見ているのだから。

もっとも、忘れようにも忘れられない顔だったが……。

 

 

 

 

「やろうっ、俺を学園に行かせないつもりかっ!?」

 

 

 

《サイレント・ゼフィルス》の操縦者、織斑 マドカのいる地点からはIS学園は、さほど遠くない距離だった。

ならば、早々に学園を襲撃した方が手っ取り早いというものなのだが、そうはせず、こちらに向かってきたということは……。

 

 

 

「俺との勝負がお望みか……っ!」

 

 

 

相も変わらず薄気味悪い笑みを浮かべながら、こちらに接近してくる。

BT兵器搭載型の試作二号機《サイレント・ゼフィルス》。

こうして戦うのは、学園祭の時以来だっただろうか……。

操縦者のマドカ……他の工作員たちからは『 M 』と呼ばれていた彼女は、《サイレント・ゼフィルス》の基本武装スナイパーライフル『スターブレイカー』でこちらを狙撃してくる。

高速移動中であるにもかかわらず、あくまで正確無比な狙撃をやってのける。

 

 

 

「ちっ、学園に近づけるには、ちょっと危険過ぎる相手だな……っ! ならばっーーーー!!」

 

 

 

 

一夏は新たに生まれ変わった《雪華楼》を両手に抜き放つと、マドカの放ってくるビーム狙撃を掻い潜って、一気に接近する。

 

 

 

「おおおっ!!!!」

 

「ーーーーフッ!」

 

 

 

右手に持った《雪華楼》で斬りつける。

だが、マドカもただで受ける事はしない。《サイレント・ゼフィルス》にも、近接格闘の武装が用意されているため、そのブレードを左手に出して、一夏の斬撃を受け止める。

 

 

 

「っ!? 武装が違うっ?!」

 

「お前のために用意してやったんだっ……早々にくたばるなよっ!」

 

「言ってくれるじゃねぇかっ……!」

 

 

 

以前見たときには、『ブンディ・ダガー』のような形状をした短剣型のブレードだったのだが、今は刀身に若干の黒みがかった片手剣型のブレードに変わっている。

 

 

 

「武装が変わろうが、元々は射撃型の機体だろうっ!」

 

 

 

《雪華楼》でマドカの剣を弾き返して、隙が生じた瞬間に、再び斬り込む。

だが……。

 

 

 

 

「フっーーーー!!!!」

 

「っ!?」

 

 

 

一夏が斬り裂こうとした瞬間、《サイレント・ゼフィルス》のスラスターと脚部からフィンのようなもの現れ、それが真っ赤に光り始めた。

そして、一夏の《雪華楼》が届くよりも速く、《サイレント・ゼフィルス》が動いた。

 

 

 

「なにっ!?」

 

「墜ちろっ!」

 

 

 

いつの間に移動していたのか、先ほどまでゼロ距離と言っていいほどに近かった距離が、一瞬にして離されていた。

マドカは右手に持っていた《スターブレイカー》の引き金を弾いた。

一夏はとっさに左腕にライトエフェクトを生成して、簡易なシールドを作ったが、何分距離が近いために、完全に押された。

 

 

 

「くっ!?」

 

「もう一丁っ!」

 

「チッ!」

 

 

 

後ろに吹き飛ばされて、体勢を整えた瞬間に、背後からマドカの声が……。

目の前で起こっている現象に、一夏は驚愕しながらも、即座に判断する。

体を回転させて斬るドラグーンアーツ《龍巻閃》で、マドカの持つ《スターブレイカー》を斬り裂いた。

一旦距離を開ける両者。

一夏は新たなるマドカのIS操縦技術に、正直感服していた。

《雪華楼》で斬り裂いたと思っていた《サイレント・ゼフィルス》は、いつの間にか距離を開けて射撃に入っていて、それを防いだ後には、今度は背後を取って射撃を行おうとしていた。

あまりにも速く、しかし、謎めいた動きをする。

 

 

 

(まるで、影分身をしたようなっ……!)

 

 

 

一夏の眼にも、《白式》のセンサーにも、あの一瞬では《サイレント・ゼフィルス》が三機いたように見えた。

疑心の眼をマドカに向けてみると、《サイレント・ゼフィルス》から現れていたフィンから光が消えていた。

そして、《サイレント・ゼフィルス》の装甲の隙間などから、勢いよく蒸気が吹き出る。

つまり、高温になっていた何かを、急冷却したのだろう。

 

 

 

(まさか、駆動系のシステムを改造したのか……っ?!)

 

 

 

《サイレント・ゼフィルス》の急な機動力の向上……。まず間違いなくスラスター系統をいじっているはずだ。

そして、それを支えるために、駆動系のシステムそのものを改造しなければならないはず。

と、なると……。

あの分身して見えたのは、熱によって剥離した金属片。

つまりは……。

 

 

「質量を持った残像……っ。とでも言えばいいのか?」

 

「……ほう? たった二手だけでそれを見破るとは、恐れ入ったよ」

 

 

 

どうやら正解だったらしい。

しかし、学園祭の時から改造をしたと考えても、一ヶ月くらいしか経っていないだろう……。

それでここまで使いこなしていると思うと、改めてこのマドカという少女の技量の高さには驚かされる。

 

 

 

 

「さて、答え合わせは済んだだろう? では、死ねっ!」

 

「断るっ!」

 

 

 

 

マドカはシールドビットを展開し、BT兵器本来の戦い方である包囲殲滅戦を行う。

しかし、この包囲網の攻略は、すでに知っている一夏。

ここ最近腕を上げているセシリアとの勝負を経験したからか、BT兵器に対する耐性が少なからず高くなってきている。

 

 

 

「だがまぁ、さすがのビット使いだな! こんな多くのビット、どうやって使いこなしてんだよっ……!」

 

「貴様のような接近戦バカにわからないだろうさ。それに、まともに射撃武器が使えないお前に説明して、理解できるのか?」

 

「うるせぇっ! 飛び道具なら、こっちにもあんだよっ!」

 

 

 

マドカからの攻撃を交わしながら、一夏は両手に持つ《雪華楼》を振るう。

《雪華楼》の刀身からライトエフェクトが生成されて、それがエネルギー刃となってマドカに向けて放たれる。

その生成スピード、狙いの正確さ……以前よりもかなり良くなっていた。

 

 

 

「刃だけじゃないんだぜっ!」

 

「っ……ほう?」

 

 

 

右の《雪華楼》を振るった瞬間、ライトエフェクトが生成されたのだが、今までのエネルギー刃形態ではなく、レーザー型の放射光が放たれたのだ。

この技は、箒の使う《紅椿》の主要武装である《雨月》の技と同じものだった。

 

 

 

「ふんっ、少しはやるようになったのだな……だがーーーー」

 

 

 

再び《サイレント・ゼフィルス》に光が灯される。

スラスターや脚部に出てきたフィンが高温になっていき、赤く染まっていく。

 

 

 

「この機動性について来られるのかっ!?」

 

「っ、またかっ!」

 

 

 

《サイレント・ゼフィルス》が再び高速移動を開始した。

やはり視界で捉えているのは、《サイレント・ゼフィルス》の残像。

しかもその練度は本当に高く、油断しているとすぐに背後を取られる。

一夏はなんとか振り切ろうとし、IS学園に近づきながらも、人気のない海上での戦闘を行なった。

 

 

 

(このまま長引かせれば、エネルギーの問題で、こちらに有利だとは思うが……っ!)

 

 

 

しかしそうなると、今学園で戦っている仲間や、電脳ダイブしている和人と刀奈の救出に行けなくなる。

 

 

 

「どうしたっ!? 貴様の本気を見せてみろっ、織斑 一夏っ!!!」

 

 

 

 

挑発か……それとも本意なのか……?

しかしここは、マドカの言った通りにするほかない。

時間はかけられない……そして、この状況を見過ごすマドカでもないだろう。

以前はなんの躊躇もなく殺しにきた相手だ。

ならば、ここで自身を殺そうとするに決まっている。

 

 

 

「いいぜっ……! かかって来いよっ!!!!」

 

 

 

 

海上で刀を下段に構えた一夏。

それを見て、マドカもスラスターを全開。

上空から一気に下降し、手に持っていた片手剣を握りしめる力を強くする。

 

 

 

 

「「ッーーーー!!!!」」

 

 

 

 

接近する二人。

どちらも油断も戸惑いもない。だだ一刀にて斬り伏せると思わせるほどの濃密な殺気と斬鬼だけが、二人を覆っていた。

 

 

 

「はあああぁぁぁぁッーーーー!!!!」

 

「ふんっーーーー!!!!」

 

 

上段から斬りつけてくるマドカと、それを迎え討つ一夏。

凄まじい衝撃によって、海面が大きく揺れた。

 

 

 

「ぬうううっーーーー!!!!」

 

「くっ、おおおおおーーー!!!!」

 

 

 

激しい鍔迫り合いが続く。

そのたびに鋼同士が削り合うような金切り音がなり、火花が散る。

 

 

 

「もらったあっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

マドカの言葉に、一夏は周囲の気配を探った。

すると、《白式》がしっかりと捉えていた。

一夏の背後や両サイドを囲むようにして、展開していた《サイレント・ゼフィルス》のシールドビットを……。

 

 

 

「チィッ!」

 

 

 

一夏はとっさに、ブースターを吹かせた。

それとほぼ同時に、シールドビットからレーザーが放たれた。

無数のレーザーは、一夏のいる地点に向けてまっすぐと向かっていく。

しかし、一夏は飛んでくるレーザーに対して、後方に飛んだ。

しかも背後からくるレーザーを避けるために、海面とほぼ平行になるくらいに上体をそらした状態で飛んだのだ。

咄嗟の機転で、レーザーは一夏に当たることなく、全てが海面に着弾。

大きな水の柱が、一夏とマドカの間で現れた。

大量の水が宙を舞い、落ちてき始めた瞬間、水の柱の向こうから、蒼白の刃が飛んできた。

 

 

 

「おおおっ!!」

 

「遅いっ!」

 

 

 

完全に死角を突いた状態で放った《雪華楼》の斬撃を、マドカは高速移動で躱した。

 

 

 

「チィッ……このままじゃ埒があかないかっ……!」

 

 

 

水の柱が水飛沫に変わった時、一夏の姿を視認できるようになっていた。

ギリギリのところで攻撃を躱したマドカの技量に驚きながらも、もう時間がないことに、少し焦ってきている。

マドカとの戦闘を早々に終わらせたい……。だが、半端な攻撃では、倒すどころか逆に倒されかねない。

ならば、残る手段は……。

 

 

 

 

「本気で行くぞっ、白式っ!」

 

 

 

一夏の言葉に呼応するように、白式のシステムが起動した。

そんな一夏に、マドカはレーザーを掃射する。

 

 

 

「っーーーー《極光神威》!!!!」

 

 

 

翼がスライドし、蒼い粒子が飛び出る。

体に纏っている装甲の鎧に赤いラインが入っていく。

高機動に特化したワンオフ・アビリティー《極光神威》だ。

飛んでくるレーザーよりも速く、一夏の姿が消えた。

 

 

 

「クククッ……! それを待っていたぁっ!!」

 

 

 

マドカは狂気の笑み浮かべ、再び高機動に入った。

学園を目の前にして、一夏とマドカ……織斑の性を持つ二人の再戦が開始された。

互いに高速移動をしながら、射撃・格闘・特殊武装……その全てをぶつけて戦っている。

本来ならば学園側に通達が入り、即座に迎撃部隊が派遣されるだろうが、今は学園側も謎の敵勢の迎撃に当たっているため、一夏とマドカの勝負に水を指す者たちいない。

 

 

 

「はあああああっーーーー!!!!」

「おおおおおおっーーーー!!!!」

 

 

 

 

激しい鍔迫り合い。

しかし、一瞬の攻防をしたあと、マドカの姿が消えた。

そして、いつの間にか背後を取っている。

 

 

 

「チィッ」

 

 

 

一夏は咄嗟に反応して、体を左回転させると、左に持っていた《雪華楼》で、マドカの放つ斬撃を受け止めた。

しかし、マドカは再び高速機動を行い、再び背後から斬りつける。

 

 

 

「くっ……っ!?」

 

 

 

だが、これも一夏は反応した。

刀での迎撃ではなく、そのままマドカの腹部に蹴りを入れた。

マドカは一瞬苦悶の表情を浮かべたが、すぐにビットを操作し、一夏の目の前で、ビットを自ら斬り裂いた。

ビットは爆散し、あたりは黒い煙に覆われた。

そこから抜け出そうと、一夏は上昇し、爆煙から現れた。

そして、その隙の大きい背後を取らないマドカではない。

 

 

 

「死ねぇっ!」

 

 

 

再び残っていたビットによる斉射。

しかし、またしてもレーザーが着弾するよりも速く、一夏が速く動く。

まるで空中でムーンウォークをしたかのように、滑らかで素早い動きで横に回避すると、そのままマドカに斬りかかる。

 

 

 

「おおおおおおっーーーー!!!!」

 

「くっ!」

 

 

 

一夏の渾身の上段唐竹を受け止めるマドカ。

その表情は苦悶の表情に満ちていたが、すぐに一夏の斬撃をはじき返した。

 

 

 

「織斑 一夏ぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

マドカが力一杯に斬撃を放つ。

だが、その斬撃が一夏に届くことはない。

空を斬り、隙ができたマドカの背後を、今度は一夏が取った。

左の《雪華楼》を振り抜くと、先ほど放った四本のレーザー状のエネルギー弾が発射される。

そのエネルギー弾全弾が、《サイレント・ゼフィルス》の装甲や、スラスターに直撃し、マドカは体勢を崩した。

 

 

 

「ちっ! このっーーーー」

 

 

 

背後を振り返った。

しかし、またしてもそこに一夏の姿はない。

 

 

 

「悪いなっーーーー」

 

「ッ!!!!??」

 

「お前に構ってる暇はないんだッ!」

 

 

 

マドカは再び背後を取られていたのだ。

振り返った瞬間、一夏は右手に持っていた《雪華楼》を振り上げていた。

 

 

 

「そこをどけぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

 

 

 

素早く、そして鋭い一撃がマドカに放たれた。

その一刀には、バリアー無効化も付与して……。

 

 

 

「がっ、はあっ!!?」

 

 

 

 

袈裟斬り気味に放った斬撃は、直接マドカを斬り裂きはしなかったものの、《サイレント・ゼフィルス》の左手装甲、スカートアーマー、左のスラスターを斬り裂いた。

 

 

 

「ぐっ……くうっ…!」

 

「もういいだろう……。お前の負けだ!」

 

「ぐっ……敵にとどめを刺さずに、勝ったつもりか……!?」

 

「あいにく……誰かれ構わず人を殺して来たことはないんでな……!俺が人を殺すのは、必殺を誓った時のみだ。

今はその時じゃない……」

 

「っ……」

 

 

 

納得がいかない。

そう言いたげな表情で一夏を睨むマドカ。

そんなマドカに、それでも自分の考えは覆すつもりはないと言わんばかりに見つめる一夏。

 

 

 

 

「ふん……いいだろう、今は引こう。だがなぁ……貴様のその甘い考え方が、後に自分の首を締めると言うことを、よく覚えておくんだな……っ!」

 

 

 

 

 

それだけ言い残して、マドカはその場を去っていった。

 

 

 

 

「甘い考え方……か。んなこと、わかったんだよ。それでも、俺は……」

 

 

 

 

自分が信じて来たものは……。

 

 

 

 

「今は学園の援護が先だな!」

 

 

 

一夏は《極光神威》を解除し、そのまま学園へと向かって飛翔していったのだった。

 

 

 

 

 





次回こそは、ダイブさせますね( ̄▽ ̄)

感想よろしくお願いします!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。