ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は、一夏と明日奈をメインに書きます。

そして、明日奈には、新たなる刺客を用意しました!




第95話 戦場となる街

いちか…………。

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「ん……どうかしたのかい?」

 

「いえ……。あの、プライベート・チャネルとか開いてます?」

 

「んにゃ、オープン・チャネルのままだけど……?」

 

「そうですよね……」

 

 

 

なんだったのだろう……。

そう言いたげな顔で、一夏は首を捻った。

今何か、呼ばれたような……。そんな気がしてならなかった。

 

 

 

「気のせいじゃないかい? っと、それよりも、もうちょっとだけ出力あげてくれるかい?」

 

「あ、はい」

 

 

 

ヒカルノの指示を聞いて、一夏は《白式》のカスタムウイングのブースター出力を上げる。

その出力のデータを、PCの画面に映し出された数字を見ながら経過観察を取るヒカルノ。

 

 

 

「なるほどねぇ〜……うん、オッケー。もう大丈夫だよ〜」

 

「はい」

 

 

 

必要なデータを取り終えたのか、ヒカルノはキーボードを高速で打っていく。

 

 

 

「あの、白式の出力に、何か変なところでもあったんですか?」

 

「うんにゃ、システム自体は問題ない。出力も最高だ。だけど、ちょっとだけ無駄が多いんだよね」

 

「はぁ……無駄ですか?」

 

「うん……一夏くん、駆動系のシステムを何度か調整しなかった?」

 

「えっと……ええ、しましたよ」

 

「そん時に書き換えたデータとか、改良したデータを構成するのはいいんだけど、その分いらないデータとかをまだこの子は覚えちゃってるんだよねぇ……」

 

「へぇ〜…」

 

「だから、そのいらない部分だけを取り除いて、より効率のいいシステムに組み上げるのさ♪」

 

「それはつまり……整理整頓する、ってことなんですかね?」

 

「わかりやすく言うとそんな感じだね。これが出来れば、今まで以上に白式は君の動きについてきてくれるはずだ」

 

「っ……」

 

 

 

ちょっとした事でも、ここまで大きな成果をもたらす。

プロの整備士の姿を見た気がする。

 

 

 

「あっ、それとさぁ〜一夏くん。君の装備品を少し改良してもいいかね?」

 

「装備品? 《雪華楼》のことですか?」

 

 

 

《白式》についている装備はただ一つ。

腰に装備してある四本の刀《雪華楼》だけだ。

以前から装備していた《雪華楼》が、第二形態に移行してからというもの、四本に増えて、完全な近接戦闘型の機体に生まれ変わったのだ。

 

 

「改良って、えっと、どうして?」

 

「どうしても何も、このままいくと、君の力に武器の方が耐えられなくなるからだよ」

 

「《雪華楼》が耐えられない?! そんなまさか!」

 

「んにゃ、事実だよ。現に一度壊れてるんじゃないのかい?」

 

「あ……」

 

 

 

先日、タッグマッチトーナメント戦の決勝戦にて、箒と対決した際に、四本の内の二本を、箒にへし折られてしまっていた。

あれは完全に決まった箒の技に、《雪華楼》が耐えられなくなったのだと思っていたのだが……。

 

 

「君の力も、常に上がっている……。それは白式を見ればわかるよ。でも、いくら白式でも、武器の強度までは上げられないからね……。

だから、最初っから武器を強化しておくのさ。なに、別に刀の形を変えるわけじゃないよ。あくまで一夏くんが最も使いやすい武器である打刀のままで、その強化をするだけだからね……」

 

「そ、そうですか……そうですよね……」

 

 

 

正直、ヒカルノの提案は正しい。

剣士は剣があってこそだ。

だが、《雪華楼》だけは、一夏にとって何よりも大事な武器だった。

ずっと戦場を駆け抜けてきた愛刀が、ここへ来て折れてしまうというのは、少なからず寂しい気持ちになる。

 

 

 

「あの、その……刀の色は、残しておいてくれませんか?」

 

「色? この白色ってことかい?」

 

「はい……その、難しいですか?」

 

「いや、それくらいの注文なら、お安い御用だよ」

 

「っ……そうですか、ありがとうございます!」

 

「なんだい? この刀には、思い入れでもあるのかな?」

 

 

 

含みのあるような笑みで笑うヒカルノ。

一夏は「まぁ……」と言って、肯定の意を示す。

当然だ。

この刀には、いろいろな思いが詰まっているのだから……。

 

 

 

「まぁ、改良って言っても、より耐久性を高めるために補強するようなものだから、打ち直すような事にはならないよ」

 

「ええ……ありがとうございます」

 

「と、いうわけで、あともう少しかかるから、君はお茶でもしててねぇ〜」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 

手をひらひらと振りながら、ヒカルノは作業に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日奈さんは、ISの操縦をしているのですよね? いやぁ〜、凄いなぁ〜!」

 

「今や世界の中軸とも言えるものを扱ってるんですからねっ……! そんな人と知り合いだなんて、本当に光栄な事ですよ!」

 

「そ、そうですか? 私は別に、そんな風に思ったことは……」

 

「いやいや! 実際に凄いことですって!」

 

「うんうん!」

 

「あっははは……」

 

 

 

 

京都にある結城家の本家にて催されていた結城一族が一堂に会した集会。

その場に集まる若者たちは、皆親が有名企業の総帥やら代表取締役やら、はたまた銀行や病院のトップに居座っている者たちの子だ。

かく言う明日奈もまた、元がつくとはいえ総合電子機器メーカーのCEOの父親と、大学の教授をやっている母親の子であるため、あまり物言うこともできない。

ただ、こういった雰囲気には、あまり馴染めない。

どこかよそよそしく、また、相手を見定めているような……。

真に心からの気遣いという物をしてくれる者など、誰もいない。

ただ単に、結城家の令嬢、世間での優位を主張するISに乗り、それを操縦できるという明日奈に興味があるだけであって、明日奈の内面までを知った上で近づく者もまた、誰もいない。

そして、先ほど母親である京子の言葉が、今もなお明日奈の心に残っている。

 

 

 

 

(こんな人たちが私の婚約者候補……。冗談じゃないわっ……! 私には、もうキリトくんと言う素敵な人がいるのにっ!)

 

 

 

和人の事は、両親には詳しく話したことはない。

ただ、数ヶ月前に、レクトのフルダイブ技術顧問として在籍していた須郷の企みによって、ALOに閉じ込められ、現実への復帰が叶わなかった頃には、和人は父親である彰三には何度も会っている。

父親の彰三も、初っ端から和人のことを否定するような事は言っていなかった。

むしろ毎回お見舞いに来てくれた事と、事実上、明日奈を救い出してくれた張本人という事も会って、少なからず和人のことを認めてはくれている。

兄も同意見のようなのだが、問題は母親の京子だ。

 

 

 

(また、お母さんのいいなりに、ならなきゃダメなのかな………)

 

 

 

昔から、母親の言うことには従ってきた。

中学も私立の女子校へと受験して入学した。

結城家での習い事や、塾通いも当然の如くやってきた。

それもこれも、全部京子がやれと言ったからだ。

高校に入る前から、高校生の習う範囲の勉強をしていた。

いい高校に入り、いい大学を出て、いい就職をする……。そんな漠然とした作業をずっとやってきた。

そんな明日奈に転機が訪れたというのならば、それは間違いなく、SAO事件だろう。

囚われてしまった当時の事は、母からは何も聞いてない。

ただ、なぜナーヴギアに手を出したのかわからないと、そう言ったような事は聞いた。

確かに、二年間という時間は失った。

そのおかげで、明日奈は高校一年、他の者たちは、今年卒業し、来年には大学に進学する。

ほとんどの者たちが、有名大学へと進学するだろう……。そうでない者たちは、親の跡取りとして、会社を継いでいくだけだ。

しかし、明日奈自身、どうなりたいのか……。それを見いだせていないのが現状だった。

今後どうなりたいのか……ただ、唯一決めていることは、和人と幸せな家庭を築いていく事。

そのために、彼らとの関係を深めることはできない。

 

 

 

「ごめんなさい、ちょっと席を外してきてもよろしいですか?」

 

「あ、はい!」

 

「明日奈さんがそう言うのでしたら」

 

「あっ、ははは……」

 

 

 

 

一言一言が物腰の低いような喋り方だ。

明日奈はそそくさとその場を離れていき、別の場所で会話している母親の方へと向かう。

 

 

 

 

「お母さん」

 

「ん……少し失礼致します」

 

 

 

京子は会話していた親戚の男性に断りを入れて、明日奈とともに会場の端の方へと移動していく。

 

 

 

「なに、どうしたの?」

 

「ごめんなさい、私今日はもう席を外していい?」

 

「なに言ってるの……そんな事したら、他の出席者たちに対して、失礼になるでしょう……」

 

「それは……でも、なんか、私ちょっと体調が悪くって……」

 

「……はぁ〜……仕方ないわね。部屋は用意してあるから、そこで休んでおきなさい」

 

「わかったわ……」

 

 

 

 

体調不良を言い分に、明日奈はその場を後にした。

本家にいる侍女の人達に聞き、用意されている部屋に向かった。

 

 

 

 

「はぁ〜あ……。帰りたいなぁ〜、学園に」

 

 

 

部屋に入るなり、いきなりため息が漏れる……。

着物の帯を緩め、上着を脱いで専用の衣桁に掛ける。

代わりに、ここに来る前に来ていた洋服を着なおし、そのままベッドに倒れ込む。

 

 

 

「はぁ……。まだ昼前だって言うのに、なんでこんな集会に出なくちゃ……。

親同士て会食でもしてればいいのに……」

 

 

 

全くもって納得がいかない。

そして、いきなり婚約者の話を持ち出されて、いい気分になど絶対になれない。

 

 

 

「キリトくん……」

 

 

 

想い人の名前をつぶやく。

そして、ふと何気なく自身のスマフォを見る。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

電源を入れ、まず最初に飛び込んできた文字に、明日奈は疑念を抱いた。

 

 

 

(不在着信……23件っ!?)

 

 

 

誰からなのかという情報がないため、明日奈は改めてアプリを表示する画面を開けて、『電話』と表示されているアプリをタップする。

そして、『履歴』の欄を見る。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

見慣れない番号……というよりも、パソコンを使う時などに見たことがあるパスコードのような英単語や記号の様な物の羅列が表示されていた。

それが23件も来ているのだ……。

ある意味奇妙であり、不気味である。

 

 

 

〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜♪

 

 

 

「うわっ?!」

 

 

 

突然鳴り渡る着信音。

それも同じ相手からだ。

明日奈は不審に思ったが、意を決して、その電話に出た。

 

 

 

「も、もしもし……?」

 

『っ!? ママッ!』

 

「っ!? その声……ユイちゃん?」

 

 

 

なんと、声の主は最愛の娘であるユイだった。

しかも、どことなく慌てた雰囲気だった。

 

 

 

「ユイちゃんどうしたのっ?! っていうか、この番号って何?!」

 

『ママっ! 大変です! パパがっ、パパがっ!』

 

「パパっ……!? キリトくんがどうかしたのっ?!」

 

『たった今IS学園が、国籍不明、所属不明の敵IS部隊に強襲されています!

それと同時に、学園のシステムにもハッキングがかけられていて、システムの主導権を奪還しようとしたパパとカタナさんが、今敵のトラップに引っかかて……!』

 

「えっ……」

 

 

 

愛娘の口から発せられた言葉に、明日奈は息を飲んだ。

敵ISが強襲……? システムにハッキング……? そして何より、和人が敵の罠にかかったと……。

 

 

 

「ユ、ユイちゃん、それどういうことっ!? なんで、学園がっ……なんでキリトくんがっ……!」

 

『いきなりの強襲で、休日の学園には、パパ達専用機持ちの皆さんと、上級生の皆さんしか残ってなくて……。

だからママっ、パパが危険なんです! 急いで戻ってきてくださいっ!』

 

「う、うん! わかった、すぐに戻るからねっ!」

 

 

 

通話を終え、明日奈は急いで荷物を纏めた。

出していた洋服や着替え、泊まりになるかもしれないと思い、一応持ってきておいたアミュスフィアもバックの中に入れる。

 

 

 

「忘れ物は……無しっ!」

 

 

 

明日奈は部屋を飛び出し、本家の廊下を一目散に走り抜ける。

角を曲がり、来た道を逆に走る。

ようやく玄関が見えてきたと思った、その時だった……。

 

 

 

「明日奈ッ!!! どこに行くのっ!?」

 

「っ!?」

 

 

 

突然背後から聞こえた怒号の様な声。

この声の主は、明日奈は後ろを見らずともすでに理解していた。

母である京子のものだと……。

 

 

 

「お母さん……」

 

「明日奈、荷物なんかまとめて、どこに行こうとしているの?」

 

「……ごめん、お母さん。私、学園に戻らなきゃいけない事情ができた……」

 

「…………」

 

「今、学園が襲われてるのっ! 今からでも間に合うから、私も加勢にいかなきゃ!」

 

 

 

明日奈の言葉に京子は短くため息をついて、そして、冷酷という言葉が似合う様な視線とともに、明日奈に言った。

 

 

 

「だからこそ、あなたを行かせるわけにはいかないわね」

 

「っ?! な、何を言ってるのっ!? 学園のみんなが、襲われているだよっ?! お母さん、それわかって言ってるのっ?!」

 

「当然じゃない。私はいつだって真面目に、冷静に物事を言ってるわよ……。

明日奈……今、その学園は、攻撃を受けているのよね?」

 

「だから、そう言ってるじゃない!」

 

「そんな危険な場所にっ! 自分の娘を行かせる思うのっ!?」

 

「っ……!」

 

「明日奈っ……。あなたをIS学園に行かせたのは、あなたがリハビリを兼ねているということで入学させたのよ? 学園の授業項目も、ある程度の進学校と同程度だったから、さすがは国立校だと思ったけど!

なのにっ、あんなおもちゃみたいに扱う野蛮な兵器に乗って、危険な戦いをさせてるなんて……っ!

あの人にそれを聞いた時には、ほんとっ、引っ叩いてやろうかと思ったわよ……っ!」

 

 

 

 

あまりの激怒に、明日奈もさすがに反論できなかった……。

母の……京子の言っていることは、実に的を射ている。

誰しも戦快く自分の子供を戦場へと送る親なんていない……。

いくらISが絶対防御という無類の強さを誇る障壁があったとしても、戦場では何が起こるのかわからない。

元に、絶対防御だって完璧ではない。

あれは、最低限で操縦者を守るためのシステムだ。

つまり、その絶対防御をも超える攻撃を受けたのならば、それはすなわち操縦者の死ということにもなる。

 

 

 

「明日奈……私は、戦わせるために、IS学園に入らせたんじゃないんですからね。

IS学園も、言ってしまえばかなりのエリート校。そこから、どんな道にだって進めるし、キャリアとしては十分なものだと私も思っているわ……。

けれど、自らの命を賭けてまで戦う理由は何? あの学園とて、防衛設備くらいあるでしょうに……。

それにそんな事すらも収拾がつけられないのであれば、あの学園の教員たちは、取るに足らないということよ」

 

「っ、お母さんっ、いくらなんでもそれはーーーー」

 

「教師が戦うならまだしもっ、生徒に戦わせるなんて、言語道断でしょうッ!!!」

 

「っ……!」

 

「明日奈。あなたは今日一日ここにいなさい。外に出ることはもちろん、学園に帰ろうだなんて、思わないことね……!」

 

 

 

京子の言葉が、胸にぐさっと突き刺さったような気がした……。

そして、京子は本家に使えている侍女を呼び、明日奈を部屋に戻そうとする。

しかし、明日奈だって譲れない……。

あそこには、あの場所には、守りたい大切な人たちがいるのだ……。

最愛の人と、最愛の愛娘。ともに同じ時間を過ごすクラスメイトや同級生……仲間たち。

危険なのは、みんな同じだ。

専用機持ちは、絶対に前線で戦っているに違いない。

ISを纏って戦わせるなんていなくとも、和人だって、刀奈とともに前線で戦っているのだ……。

ならば、妻として……恋人として……ずっと背中を守りあってきたパートナーとして、ここで逃げ出すわけにはいかない。

そんな事、していいはずがない。

 

 

 

「…………ごめんなさい、お母さん」

 

「ッ?! 明日奈! ちょっと待ちなさい!!」

 

 

 

明日奈は振り返りもせず、そのまま一直線に玄関の方へと走って行った。

靴を履き、玄関のドアを開け、邸宅のようになっている本家の庭を走り抜け、門を出る。

 

 

 

「待っててねっ、キリトくん、ユイちゃん!」

 

 

 

街道を走り抜け、少し人気の少ない場所に移動する。

最近では観光目的で京都にやってくる外国人が多い。

しかし、彼らが回るところといえば、有名な観光スポットくらいなもので、裏路地などは、本当にコアな人しか入らないだろう。

その裏路地へとつながる通路へと入り、人の気配が消えた時、明日奈は自身の指輪に意識を持っていく。

 

 

 

「お願いっ、《閃華》ッ!」

 

 

 

眩い光が明日奈の身を包んだ。

光が収まった後には、明日奈の体を、白色の鎧が包み込んでいた。

明日奈の専用機《閃華》。

スピード重視の設計思想であり、元々の機体は機動性にすぐれた《テンペスタ》を使用しているため、単純な機動力ならば、第三世代型の中ではピカイチだ。

 

 

 

「この子なら、一直線でIS学園に戻れるっ……!」

 

 

 

イグニッション・ブーストを使用しなくても、ISの機動性があれば、京都から東京に行くのは造作もない。

ましてや《テンペスタ》譲りの機動力ならば、さらに速く着くことができるはずだ。

 

 

 

「《閃華》、もっと飛ばしてっ!」

 

 

 

高機動パッケージ《乱舞》も搭載しているため、さらに速度が上げられる。

このまま京都を抜けようとした、その時だった。

 

 

 

ーーーー警告 高エネルギー反応!

 

 

「っ!?」

 

 

 

《閃華》から発せられる警告音。

明日奈はとっさにブレーキをかけ、回避行動をとった。

その瞬間に、高出力レーザービームが横切った。

 

 

「っ……!!? な、なんなの、この出力っ!?」

 

 

 

赤黒い色をしたレーザー。

それが発射されたのは、京都の北東付近にある有名山……比叡山の辺りからだった。

《閃華》のレーダーを使って調べてみても、やはり比叡山付近からの砲撃だと出ている。

しかし、驚くべきは、レーザーの出力よりも別にあった。

 

 

 

(私がいるの、平安神宮に近い場所のはずっ……! 比叡山からは結構離れていたのに、どんな精密射撃を……!?)

 

 

 

出力も驚きだが、もっと恐るべきなどは、その精密性……。

離れた場所から正確に敵を狙い撃てる技量の持ち主だとすれば、その人物は、IS世界大会である『モンド・グロッソ』に出場できるほどの腕の持ち主か、《ヴァルキリー》の称号を持っている可能性が高い。

そんな風に警戒していると、比叡山の方から光が見えた。

先ほどのビームと同じ赤黒い色をした光だ。

再び砲撃かと思い、明日奈は身構えたが、どうやら違うようで………。

比叡山の頂から、一機のISが現れた。

 

 

 

「何っ……あの機体……?!」

 

 

 

全身のカラーリングは黒。

どことなくラウラの《シュヴァルツェア・レーゲン》を彷彿とさせる。

しかし、外部装甲などのパーツが大きな《シュヴァルツェア・レーゲン》に対し、前方からやってくるISは思いの外スマートな感じを見受けられる。

 

 

 

『いやぁ〜……あれを避けちゃったっスか〜。なかなかにいい反応っスねぇ〜』

 

「っ!? これって、相手からの通信……?!」

 

 

 

 

聞こえてくるのは、やや偏った若者言葉を使う少女の声。

思ったよりも若々しい声に、明日奈も一瞬だけ狼狽した。

 

 

 

 

「あ、あなたっ、何者なの……っ!?」

 

『ん? 自分っスか? うーん……』

 

 

 

いきなり襲いかかってくるのだから、常人ではないのは確かだが、しかしながら、その声質と、ISの操縦技術の高さにギャップがあって、明日奈の中で、何かが腑に落ちないでいた。

しばらく考えていた襲撃者は、「まぁ、いっか」と軽々しくつぶやくと、明日奈の姿がはっきりと見える位置まで移動してきた。

四角い暗視スコープのような機材が量子化して消えた。

よって、襲撃者の顔を、明日奈も確認することができた。

 

 

 

 

「どうもどうも、初めましてっスね。えっと、ユウキ……アスナさんっスよね」

 

「っ………あなたは誰っ……!」

 

「自分、レーナって言うっス。よろしくっス」

 

「レーナ……!」

 

 

 

何の気なしに自己紹介をする少女。

金髪碧眼の白肌。年齢的にはおそらく、明日奈よりも下のような印象を受ける。

名前からすると、欧州やアメリカあたりの人種とも思える。

金色のセミロングの髪をポニーテールのように縛っているため、ポニーテールというよりは、昔の侍たちがしていた髪型である『総髪』っぽくなっている。

 

 

 

「あなたの目的は何っ……!」

 

「目的……そんなの決まってるじゃないっスか。あなたのISをもらいに来たんスよ」

 

「私のISっ?! あなた、『亡国機業』のっ……!」

 

「おおっ、正解っス! 自分『亡国機業』コードネーム『 L 』で通ってるっス。

話が早くて助かるっスよ〜! というわけで、あなたのISもらっちゃっていいっスか?」

 

「あげるわけないでしょう!」

 

「ええ〜。でも、もらってこないと、自分が怒られるんスよ〜」

 

「知らないわよ、そんなのっ!」

 

 

 

何とも気の抜けるような人物だと思った。

しかし、ここで『亡国機業』の工作員が出てくるとは、予想だにしていなかった。

しかも、彼女が駆る機体……授業やIS関連の資料でも見たことがない。

 

 

 

(新型のIS……)

 

 

 

明日奈がレーナを警戒していると、レーナもそれに気づいたのか、一瞬笑顔になる。

 

 

 

「ああ、これっスか? これ、自分だけのオリジナルっス!」

 

「オリジナル……?」

 

「そうっス。イギリスの《メイルシュトローム》を改造して、アメリカ製の装備を強引に取り付けた改造機なんスよぉ〜」

 

「っ……」

 

 

 

 

イギリス製のIS《メイルシュトローム》。

今では第三世代型ISの開発に成功し、その実施試験を行っている段階であるため、その機体の存在は、名前しか知らなかった。

ならば、以前学園を襲撃してきたBT二号機である《サイレント・ゼフィルス》の時同様、強奪したものだと思える。

 

 

 

「第三世代型IS《ラプター》。かっこいいっしょ?!」

 

 

 

意気揚々と話すレーナ。

こうしてみると、とてもテログループの一員だとは到底思えない。

だが、現に彼女は明日奈に対して砲撃を行った。

おそらく、右のアンロック・ユニットである砲身が方なのだろう。

左には盾が付いており、その他にも、右手に銃を持っている。

基本的な装備から、中遠距離射撃型の機体なのではないかとわかった。

 

 

 

「さて、アスナさん。本題に戻っていいっスかね?」

 

「っ……!」

 

「そろそろその機体……《閃華》でしたっけ? それを渡してくれないっスか。

そうしてくれたら、アスナさんの命は保証するっスよ?」

 

「………お断りよ。あなたにこの子を渡す気はないし、私はあなたに構ってる暇はないの!」

 

「………」

 

「学園襲撃も、あなた達の仕業ね? それもこれも、私の機体を奪うためだったのっ?!」

 

「ん? 学園襲撃……?」

 

「そうよ! あなた達の仲間が、今IS学園に襲撃を行ってるそうじゃない!

言っておきますけど、学園のみんなは、そう簡単にやられるような子たちじゃないからねっ!」

 

「いや、あの……ごめんなさい。一体何の事っスか?」

 

「なっ……惚けるつもりっ!? 平気でビーム砲を撃っておいて、シラを切るのもいい加減にしなさいよ!」

 

「いや、襲撃するなんて、自分聞いてないっスよ?」

 

「えっ……?」

 

「自分も今回はアスナさんの機体を奪ってこいって言われただけっスからねぇ〜……。

別の部隊が動いているのかもしれないんスけど……。いやでも、学園に攻撃するなんて言ってたかなぁ〜?」

 

 

 

 

 

頭を捻りながらそう言うレーナ。

どうやら、シラを切っているわけでもなさそうだった。

では一体何者が?

学園のセキュリティーシステムやメインシステムにハッキングを仕掛けて、ISを使った襲撃を行っているいるのは、一体どこの誰なのか……?

いや、そもそも、これは組織で行っているものなのか、それとも何者か……一個人が動いているのか……。

どちらにしても『亡国機業』がその原因だと思える可能性は低くなった。

ならば、その実態を直接確かめるしか方法はないだろう。

 

 

 

 

「なら尚のこと、あなたに構ってる暇はなくなったわ……。悪いけど、通させてもらうわよ……っ! 力づくでもね!」

 

「へぇー……」

 

 

 

 

レーナの目が、卑しいほどに細くなる。

これまで変に天然っぽい雰囲気だった少女が一転、かつて感じた事のある雰囲気に変わった。

そう……あの雰囲気……アインクラッドで味わった、狂いに狂った者たちと同じ感じ……。

 

 

 

(こんな歳の子が……っ。まるで《ラフコフ》のメンバーみたいにっ……!)

 

 

 

 

アインクラッドの中において、『最凶のギルド』と持て囃されていたギルド、殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》。

彼らのギルドによって、犠牲となったプレイヤーは数多くいる。

かつて、恋人である和人も、その凶刃の餌食になるところだった。

そして、そんな彼らの始末をしていたのは、同じギルドに所属し、共に前線を戦い抜いてきた一夏だった。

 

 

 

「なるほどぉ〜。さすがは騎士団副団長をやってたって感じっスか?」

 

「っ!? あなた、私の過去をっ……!」

 

「知ってるっスよ〜。あなただけじゃなく、キリガヤ カズトくん? と、オリムラ イチカくん……えっと、あともう一人居たんスけど、その人は情報が入って来なかったみたいなんスけどね〜」

 

 

 

それはおそらく、刀奈のことだろう。

対暗部の家系である彼女の家ならば、ある程度のことは秘匿されているはずだ。

ゆえに、レーナたちにも情報が入って来ないのだろう。

 

 

「まぁ、んなことどうでもいいっスけどね。さて、交渉が決裂しちゃったわけっスけど……。

アスナさん、覚悟だけはしておいてくださいね? 自分、命令されたからには、全力で執行するんで……ッ!!!!!」

 

「っ!」

 

 

 

とてつもない殺気を当てられた気がした。

明日奈は《ランベントライト》を抜き放ち、一気に戦闘モードへと意識を持って行った。

 

 

 

「んじゃあ、殺し合いを始めるっスッ!!!!!」

 

 

 

レーナの《ラプター》が動いた。

右のアンロック・ユニットが稼働し、先ほど明日奈に向けて放った高出力のビーム砲撃が行える砲身の砲口を、明日奈に向けて照準を合わせた。

 

 

 

「《マキシマムカノン》発射ァァァッ!!!!!」

 

「っ!!!??」

 

 

 

赤黒の閃光が閃き、歴史の街『京都』の空に、戦火の焔を掲げた。

 

 

 

 






次回は、学園でのバトル風景を書いた後に、そろそろ一夏を動かします。

感想、よろしくお願いします(⌒-⌒; )


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