ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく最新話投稿できる(つД`)ノ

今回は刀奈、和人の電脳世界での行動も書きました。




第94話 ワールドパージ

「来ましたわっ! 11時、80度!」

 

 

遠方からの狙撃に当たっていたセシリアから、そんな通信が入った。

敵は国籍不明、所属不明のIS部隊。

その数15機。

それに対するこちらの戦力は、専用機持ちを含めると、およそ20強。

近接戦闘型の機体と、中距離戦闘型の機体でタッグを組み、その後方から遠距離狙撃を行う機体が集結している……。

という布陣で、IS学園側は陣取っていた。

セシリアをはじめとした、遠距離からの狙撃部隊は、一箇所に留まらず、己の判断で支援狙撃を行っていた。

 

 

 

「ちっ、洒落臭いわね……! シャルロット、箒! 行くわよっ!」

 

「了解!」

 

「了解した!」

 

 

 

先行して敵の本隊へと向かう鈴、シャル、箒の三人。

接近戦に強い箒と鈴、中距離からの支援に徹するシャル。

先に動いたのは、箒と鈴……幼馴染コンビだった。

 

 

 

「あたしが敵を引きつけるから、箒はサイドに回って!」

 

「ああっ!」

 

 

 

鈴の指示で、箒は右から回り込む。

そして鈴は、右手を宙にかざす。

するとその手に、大型の大刀が現れた。

 

 

「ぶった斬るッ!」

 

 

青い対艦刀……《青龍》だ。

強化パッケージだった《四神》の装備の一つで、鈴が機体に残していた唯一の武器だ。

《青龍》を片手に取り出すと、それを肩に担ぐようにして両手で持ち、イグニッション・ブーストで一気に間合いに入る。

 

 

 

「くらえッ!」

 

 

 

思いっきり振りかぶって、《青龍》を振り下ろす鈴。

しかし……。

 

 

 

「□□□□□ッーーーー」

 

「っ!?」

 

 

 

鈴の渾身の一撃を、片腕に付属するように展開したブレードだけで受け切ったのだ。

目の前の光景に、鈴が驚きの声を上げる。

しかしそんな事にも取り繕わない敵ISは、鈴の対艦刀をはじき返すと、今度はこちらの番だと言わんばかりに、肩口にある銃口にエネルギーを充填し始めた。

 

 

 

「っ、まさかっ……!」

 

 

嫌な予感がした。

鈴は咄嗟に回避行動を取った。

そして、先ほどまで鈴がいた場所に向かって、高出力のビームが放たれた。

 

 

 

「っ!? 総員退避ぃぃぃぃッ!!!!!」

 

「「「「ッ!!!!!???」」」」

 

 

 

鈴の声が響いた。

鈴の鋭い一言を聞いた面々は、即座に回避行動を取った。

大きな光の奔流が、空を横切り、そのまままっすぐ港の防波堤に着弾。

大爆発を起こし、防波堤の一部を跡形もなく吹き飛ばした。

 

 

 

「なっ……!?」

 

「なんなの、あの出力……っ!」

 

 

 

間近で見ていた鈴だけではなく、その次に近くに居た箒とシャルも、敵ISの攻撃に呆然とした。

その破壊力は、この場にいるどのISをも凌いでいる。

 

 

 

「なんなんですのっ、あの出力はっ!?」

 

「IS一機が持てるほどの火力なのか、あれは……?!」

 

 

 

遠距離から狙撃していたセシリアも、砲撃態勢に入っていたラウラですらも、驚きの声を上げる。

そしてそれは、対策本部で状況を確認していた簪もまた同じ。

 

 

 

「これほどの火力を、たった一機のISがっ……」

 

 

 

火力的な問題ならば、簪だって先日行われたタッグマッチトーナメント戦の際に砲撃パッケージを装備し、アリーナの地面を吹き飛ばしたのだが、敵ISからは、そのような特殊武装らしきものが見当たらない。

ただ単に、ISの初期装備とは思えないような武装をしているということと、もしもこの火力を所持しているのが、今撃ってきた一機だけでないとしたら……。

 

 

 

『各員っ、敵ISの武装は、拠点攻略兵装だと思い、対処してください!』

 

 

 

すぐさま通信で呼びかける。

拠点攻略兵装といえば、高火力の武器、弾薬を用いて行われる戦略戦の事だ。

ある意味一方的な殲滅兵装だと思ってもいい……。

 

 

 

「冗談じゃないわよっ……こんなのが学園に向かってポンポンぶっ放してたら、学園は壊滅よ……っ!」

 

「それだけはなんとしてもっ……」

 

「止めなきゃね……っ!」

 

 

 

再び鈴、箒、シャルが動く。

シャルと鈴のツーマンセルで正面から当たる。

鈴が《青龍》で斬り込んでいくが、敵ISは軽々とこれを躱す。

だが、それを見越していたかのように、シャルはリニアマシンガン二挺で迎撃。

しかし、放った雷弾は、敵ISの装甲に弾かれてしまう。

 

 

 

「くっ! 装甲が厚い……っ!」

 

「なんなのよ、こいつは……!」

 

 

 

二人が驚いている隙に、箒は敵ISの背後に回っていた。

前面や腕などの装甲は暑くとも、背後ならば……。

 

 

「はああッ!」

 

 

二刀で背後から斬りつける。

だが……。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

完璧に決まったと思った。

しかし実際には、装甲を軽く傷つけただけで終わる。

 

 

 

「なんなのだ、こいつは……っ!」

 

 

驚きの連続。

しかし、敵ISはそんな感情など御構い無しに、箒に対して斬撃を放つ。

箒は二刀で斬撃を受けるが、今までに受けたことのない衝撃を受けた。

 

 

「ぐっ!? な、なんだっ、この力は……っ!」

 

 

二刀で受けていながら、その斬撃はとても重かった。

ジリジリと迫る刃。

あと数センチも近づけば、箒の頬の肌を斬り裂くかもしれないというほどに迫る。

 

 

 

「下がってっ!」

 

「下がっていなさい」

 

 

そこに二つの斬閃が走った。

それと同時に、敵ISの装甲を斬り裂き、同時に吹き飛ばす。

箒の前に現れた二つの機影。

そこには打鉄の日本刀型ブレード《葵》とリヴァイヴのナイフ型ブレードの二刀流を構えている生徒二人の姿があった。

 

 

 

「っ!!? 白坂先輩と、河野先輩っ!?」

 

 

 

先のタッグマッチトーナメント戦において、準決勝で箒と戦った白坂 麻由里と、一夏と戦った河野 時雨の姿が見えた。

 

 

「単純な攻撃は、こいつには効かないみたいだね……!」

 

「そのようですね。ならば、攻撃が通るまで何度でも斬り伏せるまでです……っ!」

 

 

二人はイグニッション・ブーストで一気に肉薄する。

敵ISがこれに反応して、再びビーム砲撃を行ってくるが、二人は軽く躱し、一気に懐に入る。

 

 

「はあっ!!!!」

 

「《雲耀 疾風》ッ!」

 

 

麻由里の連撃と、時雨の一斬が閃く。

相手の攻撃を既の所で躱し、反撃を入れている。

 

 

 

「すごいっ……!」

 

「さすがは三年生……って言ったところかしらね。まぁ、あたし達に比べれたら、まだまだだけど……」

 

「じゃあ、僕たちはもっともっと敵を倒さなきゃね」

 

「わ、わかってるわよ……っ!」

 

『お前達、話してないで速く迎撃しろ!』

 

 

 

通信から少し怒ったような声が聞こえた。

その送り主は、今もなお敵ISと戦っているラウラからのものだった。

 

 

 

「あら、珍しいわね、あんたが苦戦してるなんて」

 

『苦戦ではない、間合いを見計らっているだけだ!』

 

「って言っても様子見でしょう?」

 

『っ〜〜〜!! ええいっ、黙って体を動かせ! その足りないお頭に、砲弾を撃ち込まれたくなければなっ!』

 

 

 

そう言って、ラウラはレールカノンの砲口を鈴たちに向けて、砲弾を放つ。

鈴たちはそれを軽く躱すと、その後方から来ていた敵ISに命中。

黒い爆煙を上げる。

 

 

 

「ほ、本当に撃ってんじゃないわよっ!?」

 

『うるさい!』

 

「何よっ! やろうってぇのっ!」

 

『貴様が望むのならばそうしてやるが?』

 

「上等ッ!」

 

「ち、ちょっ、鈴っ!?」

 

「ラウラもっ、やめんかお前たち!」

 

 

 

 

鈴とラウラが急接近する。

鈴の手には《青龍》が握られており、ラウラは両手のプラズマ手刀を展開済み。

一気に加速して、接近戦をすると思いきや……。

 

 

 

「「邪魔だ……っ!」」

 

 

 

二人に接近する二機の敵IS。

しかし、鈴とラウラは止まらない。

二機の敵ISが二人の後方から接近し、ビーム砲を放とうと、エネルギーを収束させていく。

 

 

 

「ラウラっ!」

「鈴っ!」

 

 

 

シャルと箒が叫んだ。

だが、ビーム砲が放たれる寸前……。二人は入れ違いに通り過ぎた。

 

 

 

「「失せろッ!!!!」」

 

 

 

《青龍》で袈裟斬りを放ち、プラズマ手刀が胸部を斬り裂く。

互いに背中からやってくる敵に、一撃を加えたのだ。

 

 

 

「とりあえずこいつを片付けるわよ……っ!」

 

「ああ……。そしてこれが終わったら……」

 

 

 

二人は再びイグニッション・ブーストで敵ISに肉薄する。

 

 

「今度はあんたの番だからねっ!!」

「今度は貴様の番だっ!!」

 

 

 

勇猛果敢に斬り込んでいく二人。

それを見ながら呆れたように笑う箒とシャル。

 

 

 

「全く、仲が良いのか悪いのか分からん奴らだな……」

 

「ふふっ……そうだね。でも、良いのかもしれないよ……ああ言いながらも、ちゃんと連携は取ってるんだし」

 

「だといいがな……。では、私たちも……」

 

「そうだね……! 負けてられない」

 

 

 

箒は二刀を握りしめ、シャルは両手にアサルトカノンとサブマシンガンをコールして構える。

 

 

「行くぞ!」

 

「了解!」

 

 

 

鈴とラウラを追うようにして、二人も戦列に加わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園地下区画。

和人と刀奈が電脳ダイブしている一室からは遠く離れた場所では、一機のISが佇んでいた。

息を潜め、周囲を索敵し、敵の有無を確認している。

 

 

 

(ここが、IS学園の地下区画……。軍の秘密基地でもあるまいし、なんなのだ、この場所は……?)

 

 

 

学園……つまり、学問を習う園。

ここはIS……インフィニット・ストラトスという特殊過ぎる超科学の兵器を扱うために設立された世界でたった一校しかない学園だ。

だがそれでも、この地下区画については疑問を浮かべざるをえない。

 

 

 

(学園生たちがここの存在を、どれだけ知っているだろうか……?)

 

 

 

この場にいる女性……アメリカの特殊部隊隊長の彼女は、暗視スコープとなっているアミュスフィアに似た物を頭に被っている。

今回、彼女がIS学園に潜入したのは他でもない……今年の四月……IS学園に入ってきたイレギュラーに関することで、あまりにも衝撃的なことがあった……。

それはもちろん、男でISを動かせるというイレギュラーもイレギュラーな存在。

かのブリュンヒルデの弟である織斑 一夏と、世界で話題になったSAO事件の英雄である桐ヶ谷 和人が入学したことだ。

そして、その翌月には、IS学園に新たな事件が舞い降りた。

学園側は隠していたみたいだが、全てを隠しきるには、時間と規模が足りていない。

故に米軍もそれには気づいていた。

“IS学園に強襲してきたのは、『無人機』だった” という事実を……。

その無人機に使われていたコアは、登録がされていない……つまり、篠ノ之 束が新たに作成した機体のコアだということだ。

ならば、そこから新たなコアの作成も出来るのではないか……? というのが、技術部門の見解だった。

そして、無人機とは別に、世界でも貴重だとも言える男性IS操縦者二人のISコアを持ち帰れば、今までにない性能を引き出せるかもしれない。

ましてや、女性にしか動かせないはずのISを、男性が動かせれる秘密が解き明かされ、男性も動かすことが可能になるかもしれない。

と言っても、その場に潜入している隊長は、そんな事を気にする必要もないし、元々興味もなかった。

ただ言われた指令や任務を、忠実にこなしていくだけだ。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

と、そこでISが何かをとらえた。

鳴らしてくる警告音を聞き、意識を戦闘モードへと移行する隊長。

 

 

 

(これはっ、生体反応っ!?)

 

 

 

暗闇に紛れて、何かがいる。

自身が身につけているIS、アメリカ製の第三世代型IS《ファング・クエイク》。

特殊部隊仕様のネイビーブルーのカラーリングに、ステルス性能を合わせ持つ機体だ。

そんな機体が、その生体反応の指し示す場所を映し出す。

素早く、その人影の輪郭を映し出した。

 

 

 

 

「参るっ……‼︎」

 

「っ!?」

 

 

 

突如、短く、そして鋭い声が聞こえたと思ったら、すぐさま光が閃いた。

隊長は咄嗟に、ナイフ型のブレードを呼び出し、この光を弾いた。

とてつもない衝撃が、ブレードから腕へと伝わってくる。

突然のことに驚きつつも、何とか態勢を整えた隊長。

そして、改めて、その人影と向き合う。

 

 

 

「っ……《ブリュンヒルデ》っ!?」

 

「ふっ……」

 

 

 

不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見ている人物。

全身をボディースーツで覆い、露出しているのは背中と顔だけ。

その手には格闘用グローブと、鋭利な刃をもつ日本刀二振り。

そして一番驚くべきところは、その人物がISを装備していないことだった。

 

 

「っ!」

 

「ほほう? さすがは米軍特殊部隊員ということか……。その身のこなしは、通常の者とは明らかに違うからな……」

 

 

 

侵入してきた隊長に対して、あくまでも余裕の表情で迎える千冬の姿に、隊長はさすがに身構えた。

しかし、そんな隊長を嗤うかのように、千冬は挑発的な態度をとる。

 

 

 

「どうした? さっさとかかってこい……! お前が目にしているのは、世界で初めて『最強』の名を手にした女だぞ?」

 

 

 

シュラン……と、日本刀の刃が音を奏でる。

その切っ先を隊長に向け、千冬はニヤリと笑った。

 

 

 

「全身全霊でかかってこい、ソルジャー……ッ!」

 

「っ……!!」

 

 

 

 

千冬の言葉を受け、隊長は即座に行動に出た。

言われた通り、全身全霊を込めて斬りかかる……。

ISと生身の人間という、果てしなく無理ゲーに近い戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

 

 

 

電脳世界の入り口……。

そのドアを潜り抜けた刀奈は、その目を疑った。

 

 

 

「この景観……っ、この街並みは……っ!」

 

 

 

ドアを潜り抜けて、最初に目にしたのは黒く大きな神殿だった。

そして、刀奈が今いる場所は、その神殿の前にある広場だった。

空は不気味なほど紅く、周りもそれに当てられて、黒ずんで見えてくる。

 

 

 

「《始まりの街》……っ?!」

 

 

 

そう、目にした事がある。

この景観、この景色は、自分たちがよく知っている世界だ。

二年前に見た、あの頃と同じ場所、同じ空で、刀奈は立っていた。

SAOプレイヤーの『カタナ』として……。

唯一違うのは、武器だろうか。

今持っているのは、第一層攻略の際に使っていた武器。

ある程度の力をつけて、初めて最前線の戦いに挑んだあの時と同じ武器。

 

 

 

「どうして、この街が……?」

 

 

 

電脳ダイブをして、システムハッキングが行われている二つの起点の内の一つに刀奈は侵入した。

そのはずなのに……。

 

 

 

「なんで、あの時と同じ……っ」

 

 

 

あの時の光景、過去の記憶がいくつかフラッシュバックした。

一万人……いや、あの時はすでに死亡者が出ていた為、一万人はいなかったはずだ。

そんな数のプレイヤーたちが、今刀奈の立っているところで、一様に絶望した。

突然告げられた死の宣告……。

脱出するには、100層もある凶悪なモンスターがひしめくダンジョンを突破し、階層主であるフロアボスのモンスターを倒し、上り詰めなければならない。

そんな、絶望という名をつけた絵画のような光景。

あの時の瞬間に、再び自分は立っている。

そう思ったら、背筋が凍えるように冷たくなった。

 

 

 

 

(っ……いや、もうあの時のことは起きないわ……。それよりも、原因を突き止めないと……!)

 

 

 

刀奈は首を振り、改めて気を引き締めた。

背中に背負っていた槍を抜き、右手に持ってあたりを見渡した。

 

 

 

(景色や構造は、《始まりの街》そのものね……)

 

 

 

驚くことに、ALOにある新生アインクラッドと、かつての舞台だったSAOの旧アインクラッド……その二つのアインクラッドの《始まりの街》に全く同じ街並み。

そんな中を、刀奈は走り、周りを警戒しながら見て回る。

そんな時だった、ふと、銀色が見えた。

 

 

 

「っ!? 今のは……?」

 

 

 

こんな紅と黒で彩られた世界で、全く景観に合わない銀色が見えたのだ。

こんな違和感、早々にないだろう。

 

 

 

「逃がすかっ……!」

 

 

 

銀色の後を追う。

街を縦横無尽に走り回る銀色。

だが、そんなものは全く意味をなさない……。何故なら、こちらは、その銀色よりも、この街の事を知り尽くしているからだ。

 

 

 

「この角を右に曲がって、一段降りる!」

 

 

 

電脳世界での身体能力は、どうやら現実世界とほぼ同じようだった。

だがそんなことは、ほんの些細なことだった。

壁に槍を突き立て、颯爽と壁を登り越え、銀色を視界に収めた。

 

 

 

(銀髪ストレート……?)

 

 

見えていた銀色の正体が分かった。

それは髪の毛だった。

とても綺麗な銀髪で、長く腰のあたりまで伸びている。

それが一つの癖っ毛もなく、真っ直ぐに伸びているのだ……。

それに、その姿からして、相手は女だった。

白いブラウスに濃い紺色のスカート。

細い体つきに、あまり高くはないがヒールを履いている。

歩幅や走る速度から女性であることは確認できる。

残る問題は、相手が武装しているかどうかだが……。

 

 

 

「まぁ、それも含め、叩き伏せればいいだけだしね……っ!」

 

 

 

一気に跳躍し、銀髪女の前に飛び込んだ刀奈。

槍を地面に突き立て、女の脚を止めた。そしてその槍の前に着地し、槍を引き抜き、頭上で回転させると、一気に穂先を女に向けた。

 

 

 

「止まりなさい」

 

「…………」

 

「どこの誰だか知らないけど、よくもまぁ、やってくれたわね……。今回のハッキング、あなたの仕業でしょう?」

 

「…………」

 

「まぁ、答えるわけないわよね……。でもね、これだけのことをやってくれたんだもの……償いは絶対にさせてもらうからねっ」

 

 

 

外では今、妹の簪を含め、大勢の仲間たちが戦っている。

そう、命がけでだ。

それが、彼女一人の手によって引き起こされた事だったとしたら、許しがたい事実だ。

 

 

 

「…………」

 

「何を黙っているのかしら……? 言っておくけど、許すつもりも、逃がすつもりもないわよ?」

 

「…………そうですね」

 

「っ……」

 

「しかし申し訳ありません。あなたに今回の目的を話す理由はありませんし、あなたに捕まるわけにもいきませんので……」

 

 

 

静かな、凛とした声だった。

どことなく幼さのような物も感じたが、今はそんな事どうでもいい。

今彼女は、今回の騒動に対する関連性を肯定した。

そして、それでもなお、敵対することも……。

 

 

 

「それに、言っておきますが……」

 

 

 

彼女は、ゆっくりと、閉じていた目を開けていく。

 

 

「っ!?」

 

 

 

今まで目を瞑っていたのか……?

その状態で、自分から逃げていたのか……?

そんな疑問よりも先に、目の前にいる彼女の眼に、刀奈は意識を持って行かれた。

 

 

 

「あ、あなたっ、その眼っ……!?」

 

 

彼女の両眼が、完全に露わになった。

眼球は黒ずんでおり、瞳の色は、この世のとは思えないほど綺麗な金色。

その眼の持ち主を、刀奈は知っている。

 

 

「《ヴォーダン・オージェ》っ……!?」

 

 

 

そう、ラウラと同じ眼だ。

ラウラの場合、眼球は黒ずんではいないし、左眼だけなのだが、間違いない……彼女の眼は、《ヴォーダン・オージェ》のそれだった。

そして、その眼と、銀髪ストレートの髪……この二つの要素が、よりラウラとの関係性を促してくる。

 

 

 

「あなたっ、一体……!」

 

「あなたでは、私は捕らえられませんよ」

 

「なんですって……」

 

「……さて、そろそろ私は行かせていただきます」

 

「っ!? させない!」

 

 

 

彼女の言葉に反応し、刀奈は槍を持って突撃する。

たとえ、傷を負わせてでも、この場で彼女を止めなくてはならない。

槍を突き出そうとしたその時、彼女の右手が、クリップ音を鳴らした。

 

 

 

パチンッ…………!

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

槍の穂先が彼女の左肩あたりを貫くかと思いきや、その槍が……いや、体自体が止められていた。

 

 

 

「こ、これは……?!」

 

 

 

体に巻き付いた、無数の黒い手のような物体を見た。

地面から生えてきて、手足、槍、腰……体全体を、黒い手が掴んでいた。

 

 

 

「なによっ、これっ……!」

 

「あなたには、ここで留まってもらわなければならないので、それでは……」

 

「っ!? 待ちなさい! まだ話はっ……!」

 

 

 

動こうとしたが、微動だにしない。

それどころか、どんどん地中に吸い込まれて行っている。

 

 

 

「っ……! くっ、このっ、」

 

「往生際が悪いですね」

 

 

 

女は再びクリップ音を鳴らす。

すると、地中に吸い込まれる速度が速まった。

 

 

 

「くっ!? ううっ!!」

 

 

 

体の約3分の1……膝あたりまで吸い込まれたところで、刀奈は気づいてしまった。

自身の体が、恐怖しているのだということを……。

心は……理性は保っている。

だが、体が既に気づいてしまったのだ。

汗が額から流れ落ちる。体中が血の気が引いていくように冷たくなっていく。

そこでようやく、心が脆くなり始めた……。

 

 

 

「ううっ、チ、チナツッ……!! 助けてっ、チナツッ!!!!」

 

 

 

愛する人の名を呼ぶ。

だが、ここに一夏はいない。

今朝方学園から離れていった。

その事実が、刀奈をさらに恐怖へと誘う。

 

 

 

「チナツッ! チナツゥゥッ!!!!!」

 

 

 

空に向かって手を伸ばした。

だが、その希望ごと、刀奈は闇に呑まれてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

「かつての貴女ならば、こんなに感情を露わにすることは無かった……のでしょうかね?」

 

 

 

 

銀髪の女性はそうやってボソッ、と呟いた後に、その場を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……ここは……!」

 

 

 

 

同時刻。

刀奈とともにダイブした和人は目の前の景色に目を奪われた。

街明かりが灯り、空からは雪が……。

独特の音楽。

この音楽は、仮想世界特有のものではない……。

そう、現実世界でも聞いたことのある曲だ。

その名も『ジングルベル』。

 

 

 

「こ、ここは……っ!?」

 

 

 

見覚えのある街並み。

そして『ジングルベル』に合わせてるかのように降る雪。

この曲が流れるという事は、この場ではクリスマスが祝われているという事だろう。

クリスマス、雪、そしてこの街の景観……。

和人にとって……いや、キリトにとっての、心に住み着いた過去の悪夢を彷彿とさせる。

その街の名は…………第49層《ミュージエン》。

 

 

 

 

「なんでっ……なんで、この街が……?」

 

 

 

過去の記憶がフラッシュバックした。

そう、この場所には、以前から何度も来た事があった。

ちょうど最前線で戦うプレイヤーとして、前線に出てくる事が多かったため、この街に来た事もある。

だが、それだけじゃない……。

ここには、ある目的があってここに来たことがあった。

 

 

 

「サチ……」

 

 

 

今はもう、会う事のできない少女の名を呼んだ。

サチ……。

かつてキリトが所属していたギルド《月夜の黒猫団》に所蔵していた少女だった。

内気そうな性格で、本当は戦うのも怖がっていたが、周りの仲間たちが戦う事を決めたために、それについて行っていた。

そんな彼女は、もうこの世にはいない。

ダンジョンにある隠し部屋に入り、トラップに引っかかった為、リーダーとキリト以外の全員が死亡した。

そんな中で、死んだプレイヤーを蘇生できるアイテムがあると聞き、そのアイテムをゲットする為に、この街へとやってきた。

 

 

 

「っ……?」

 

 

 

和人は、ある事に気がついた。

 

 

 

「プレイヤーがいない……NPCも……ならここは……」

 

 

 

街は明かりが点いているが、肝心の人の気配が全くない。

流れる音楽も、降りやまない雪も、どこか妖しさというものを感じさせる。

 

 

 

 

ーーーーキリト

 

 

 

 

「っ!? 今のは……!」

 

 

 

 

呼ばれた。

確かに今、聞き覚えのある声で、『キリト』と聞こえた。

そのか細い声は、聞き間違えるはずもない。

あの少女のもの……。

 

 

 

「サチッ!」

 

 

 

和人は駆け出した。

街の中を思いっきり走り抜ける。

人っ子一人もいない街の中にいるかもしれない少女を探す為に……。

 

 

 

「サチっ、君なのかっ?! どこにいるんだっ!」

 

 

本当はもう、この世にはいない。

だが、もしも、あの茅場 晶彦と同じ事が起きていたとしたら……?

茅場 晶彦は、自身の脳に、大出力のスキャニングを行い、ネット世界に自身の意識をコピーして見せたという。

その成功率は、限りなく低いものだがそれでも……あの茅場は、それを成功させたのだ。

ならば、もしかすると……。

 

 

 

「っ! サチっ!!!!!」

 

 

 

街を抜け、森の中へと続く道に出た瞬間、その少女の姿を目にした。

あの時と、ほとんど何も変わっていない。

切り揃えられた黒いショートカットの髪、薄い青色をした服装に、大人しい雰囲気が漂う背中。

どれもこれも、サチのものだった。

 

 

 

「っ……サチ………」

 

「久しぶりだね、キリト」

 

「っ!!!?」

 

 

 

今度ははっきりと、彼女自身から声が聞こえた。

間違いなく、彼女は和人の知っているサチだった。

 

 

 

「サチっ……どうして、どうして君が、ここにっ……?!」

 

「どうしてって……そうだね……。キリトに会いたかったから……」

 

「俺に……?」

 

「うん……キリトに会いたかった」

 

 

 

未だに背中を向けているだけのサチ。

しかしその声はとても穏やかで、優しげだ。

 

 

 

「サチ……俺はっ、俺は君にっ、謝らなくちゃならない……っ!」

 

「…………」

 

「俺はっ、君を守るって言ったのにっ……! なのにっ、君を……っ!」

 

 

 

サチは何も言わない。

黙ったまま、キリトの言葉を聞いている。

サチを守る。

かつて、和人は彼女にそう言った。

あの世界で、アインクラッドという世界に囚われてしまい、戦いを強制されてしまったあの日から、サチはずっと怯えていた。

どうしてこんな事になったのか、どうしてこんな事をしなければならないのか……。

だだ本当に、高校の部活仲間と一緒に、ゲームをして遊びたかっただけだったのに……。

だが、その約束は……儚くも夢のように覚めて消えてしまった。

彼女を守れなかった……いや、彼女だけではない。《月夜の黒猫団》のメンバー全員は、自分が殺してしまったようなものだった。

その後悔から、和人はギルドに入ることをずっとためらってきたのだ……。

もう謝ることも、言葉を交わすことも、会うこともできないと思っていたサチに、和人は精一杯の後悔の念と誠意をもって、謝罪をした。

 

 

 

 

 

「…………本当に……なんで、助けてくれなかったのかな……」

 

「っ!!?」

 

 

 

 

冷たい言葉が投げかけられた。

それは当然、サチの言葉だった。

 

 

 

「どうしてなの、キリト……。あの時、キリトは絶対に守るって、言ってくれたよね?

なのに……どうして私は死んだの? どうしてキリトは生きてあの世界を出たの? どうして……私じゃない女の子を守っているの……?」

 

「っ〜〜〜〜!!!!」

 

 

 

サチの言葉に、和人の心は無数の剣で斬り刻まれたような感覚に陥った。

許してもらえるとは思っていなかった……。

だが、心のどこかでは、許してもらいたいと願っていた……。

しかし、それは叶えられなかった。

 

 

 

 

「アスナさん……だったけ? キリトの恋人さん」

 

「な……なんで、それを……」

 

「知ってるよ……キリトの事なら、私なんでも知ってるんだから……」

 

「サ……サチ……お前、一体……」

 

 

 

恐怖……。

その言葉しか思いつかない。

サチの声は、こんな感じだっただろうか……?

サチの雰囲気は、こんなに不気味だっただろうか……?

サチの姿は、こんなにも禍々しく思えるものだっただろうか……?

目の前にいる彼女の姿を、和人は今までのように見ることが出来なくなっていった。

 

 

 

「キリト……私、キリトにお願いしたいことがあるの……」

 

「お願い……?」

 

「うん……とっても大事なことだから、ちゃんと聞いててね?」

 

 

 

 

不気味さが増す中で、サチは少しずつこちらに顔を向けながら話す。

そして、サチの顔が見えた瞬間、和人はその身全てで、サチという禍々しい存在に気がついた。

 

 

 

「ーーーー死んで、キリト」

 

「っは……!!!!」

 

 

 

禍々しい目をしていた。

眼球が黒く、瞳は金色。

そんな人間、どこにもいないはずだ。

そして、先ほどは持っていなかったはずの刀を抜刀し、サチは和人に斬りかかって来ていた。

 

 

「うっ!?」

 

「ッーーーー!!!!」

 

 

 

 

銀閃が走る。

和人は咄嗟にバックステップを踏み、思いっきり後ろに飛んだ。

足元がおぼつかなかったのか、派手にこけて、なんとか体勢を整え、和人は改めてサチを視認した。

しかし正直、見ないほうがよかったと、すぐに後悔した。

 

 

 

「あっははっ! さすがだねぇ〜、キリト。やっぱりキリトは強いんだねぇ……」

 

 

 

狂気に走ったような目と言葉遣い。

何より手にしている刀の不気味さに、身が震える。

 

 

 

「なんだ、その武器は……っ?!」

 

 

 

日本刀……。それも、真っ白な日本刀だ。

印象的には、一夏の持っていた《雪華楼》を彷彿とさせるが、あれとは全くの別物だ。

なぜなら、その刀からは、まるで吹雪でも出しているかのように、強烈な風と、冷気と、雪が吹き荒れる。

そんな日本刀など、SAO、ALOでは見たことがない。

 

 

 

「すごいでしょう……? この武器、《氷刀・魔鉄》っていうだってぇ〜。

ねぇ、キリト……私、強くなった? 強くなったよねぇ……!」

 

「っ……サチっ……」

 

 

 

うっとりとした表情をとるサチ。

その時点で、和人はもう、彼女がサチではないと思った。

先ほどの斬撃……躱すことはできたが、正直なところサチと似ても似つかないほどに鋭い一撃だった。

ならばもう、和人の知るサチとは別の生き物……怪物だ。

 

 

 

「サチ……ごめんな」

 

 

和人は自身の背中から剣を抜いた。

アインクラッド攻略の際、最初の下層で使い続けた愛剣《アニール・ブレード》。

その切っ先を、怪物に向けた。

 

 

 

「……キリトは、また私を殺すの……?」

 

「っ〜〜!! お前はっ、サチなんかじゃない!!」

 

 

 

きっぱりと言い切った。

そんな和人の言葉に、怪物も黙り込んだ。

 

 

 

「そっか……なら、もういいよね? …………キリト」

 

「っ…………」

 

「私が、殺すね…………?」

 

 

 

 

二人は一気駆け出した。

《アニール・ブレード》と《氷刀・魔鉄》がぶつかる。

ロマンを感じる街並みの中で、場違いな剣戟が、その場を支配したのであった……。

 

 

 






次回は、一夏、明日奈の事も触れつつ、学園での戦闘をもう少し書き上げていきたいなと思っております(⌒-⌒; )

感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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