ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回から、本格的にワールドパージ編スタートです!





第92話 強襲

週末。

それも、土曜日ともなると、IS学園の校舎や寮の中はひときわ静けさを増す。

その理由というのも、土日はたいていの学生が学園の外に出て行っているということが関係している。

学園から家が近い者たちは、外泊許可の申請書を書いた上で、土日の休日を楽しんでいたり、その他の者たちは、部活動の練習や、テストなので点数が悪かった者たちには、特別授業という事で、別棟にて勉強会が催されている。

そんな暇なひと時を、学園内の食堂で過ごしていた鈴とシャルの二人。

 

 

 

「はぁ〜……暇ねぇ〜」

 

「鈴は、ラクロス部の練習とかないの?」

 

「うーん……今日は休みって昨日言ってたしねぇ〜」

 

「そうなんだ……。僕のいる料理部も、この間発表会したばっかりだからって、部長さんが休みって言ってたし……」

 

「それに、こうも平和だと、ISの訓練とかもする気になれないしねぇ」

 

「あっはは……それはまぁ、確かにそう思うかな……」

 

 

 

一応二人は、この間のタッグマッチトーナメント戦で、新パッケージに新装備をつけて戦った者同士。

それらを慣らすために、模擬戦をやってみるのも一興だと思うのだが………。

 

 

 

「そういえば、鈴のあの新パッケージ、どうだったの?」

 

「どうって?」

 

「今後も使っていく予定とかあるの?」

 

「うーん……確かに色々と使いようはあるけど、逆にやりづらいのよねぇ……。

そして何より重いし……」

 

「あー、僕も見たときは、かなり重そうだなぁって思ってたよ」

 

「まぁ、個別に使えば何とかなるもんよ? あたし、《青龍》だけは、インストールしたままだし」

 

「えっと、あのでっかい剣だよね? あれって、簪に吹き飛ばされたんじゃなかったけ?」

 

「まぁ、その後に本国に申請したら、新しいの作ってもらっちゃってね。他のは要らないから、《青龍》だけちょうだいって言ったら、すぐに送ってくれたわ」

 

「ご、ごり押しだなぁ……」

 

「そういうあんたは? あの装備、使いこなせてるの?」

 

「うん。実弾使ってる時よりも反動はないからね。あとはまぁ、剣術を、もうちょっと頑張ってみようかなって……」

 

「剣術ねぇ〜……あんたフランス人なんだから、だいたいやってるのって西洋剣術よね? フェンシングとかだったら、明日奈さんじゃない?」

 

「うーん……でも僕、フェンシングはやったことないんだよねぇ……」

 

 

 

シャルが主に受けたのは、総合格闘術と射撃技術だ。

無論、その中にはナイフを扱う技術もあったが、接近戦よりも、射撃戦に特化している。

故に、改めて剣術というものを学ぼうとした時、何を参考ししていいのかがわからない。

 

 

 

「和人の二刀流、明日奈さんの細剣スキル、一夏の抜刀術……」

 

「剣で言ったら、和人の剣よね」

 

「うん。でも、僕は和人のように一撃重視のような剣じゃないんだよね」

 

「じゃあ、一夏で決まりでしょ」

 

「うーん……そうなっちゃうのかなぁ……」

 

 

 

 

すでに一夏には、自称弟子のラウラがいる反面、どうにも自分に剣を教えて欲しいとは言いにくい。

そもそも一夏と自分の剣技の差は一目瞭然だ。

一夏に習ったからといって、それが必ず発揮できるわけでもない。

 

 

 

「うーん……」

 

 

 

 

そんな困り果てていたシャルに、一縷の希望が現れた。

 

 

 

「どうしたのだ、シャルロット……。悩み事か?」

 

「あっ、箒……」

 

 

 

お盆に和菓子とお茶を乗せて現れた黒髪ポニーテールの少女。

篠ノ之 箒その人だった。

 

 

 

「うん。ちょっと、剣術に関することで、気になったことがあってね」

 

「ほう? シャルロットからその話題が出るのは意外だったな」

 

「そう、かな?」

 

「うむ。シャルロットは銃撃戦仕様の機体だったからな……どちらかというと、接近戦のイメージがあまりなかったから……」

 

「うーん。まぁ、それも一つの要因ではあるんだけど……」

 

「どういう事だ?」

 

 

 

 

詳しい内容を、シャル本人から聞く。

箒は鈴の隣に座り、改めてシャルの抱えている悩みを聞いた。

新装備で使ったリニアブレード……今まで短剣型のブレードは使ってきたが、リーチの長い武器を使うのは、あまり慣れていないため、誰かに師事しようとしていた事を、箒は真剣に聞いていた。

 

 

 

「なるほど……たしかに、短刀と長刀では、その動きは変わるな……」

 

「あたしのは力任せに感覚で振ってるからねぇ〜。それに、あたし教えるの苦手らしいし」

 

 

 

箒の隣にいた鈴がそういう。

まぁ、以前一夏と和人に対してISの操縦に関する技術指導をした事があったが、鈴の場合は、すべてが感覚がものを言うような言い回しだったため、非常に分かりづらいところがあった。

まぁ、それは箒も同義なので、この件に関しては、箒は何も口を挟まなかった。

 

 

 

「だから、少しでも剣術の動きがわかれば、戦い方がわかるんだけど……」

 

「ふむ……。あぁ、その、シャルロット」

 

「な、なに?」

 

「私でよければ、その、剣術の指導を手伝えるかもしれんぞ?」

 

「え?」

 

「だから、私は一応、剣道部だからな。稽古はしてやれると言っているのだ」

 

「っ……ああっ!」

 

 

 

今更になって気づいた……と言わんばかりに驚くシャル。

 

 

 

「なんだ、忘れていたのか?!」

 

「いや、剣術の事で囚われすぎてて、ずっと一夏や和人の事ばかり考えてたよ……!」

 

「なるほど……まぁ、たしかに、それも間違いではないが……」

 

 

 

剣道部所属という肩書きが弱かったのか、そもそもあまり関心されていなかったのか……少しばかりショックな箒。

 

 

「でもよかったじゃない。思わぬところで指導者がいてくれて……。

こういうの、日本じゃ『灯台下暗し』って言うんだっけ?」

 

「まぁな……。それで、シャルロットは、どうする? 迷惑でなければ、私が少し剣術を見てみるが……」

 

「ううんっ! 迷惑だなんて思ってないよ! むしろありがたいよ!」

 

 

 

シャルは両手で箒の手を取り、感謝の意を表す。

 

 

「ま、まぁ、そこまで言うなら、私もしてやらない事もないがな!」

 

 

 

箒は照れ隠しのつもりなのだろうか、そっぽを向いてツンデレ上等な態度をとる。

それを見た鈴は呆れたような表情で、シャルはニコニコとした表情で見ていた。

これから色々なバリエーションでの戦闘が可能になり、自分の成長を促せれると思えたシャル。

と、その時だった。

 

 

 

 

ドオォォォォォーーーーッ!!!!!

 

 

 

「「「っ!!!?」」」

 

 

突如として、大きな爆発音が聞こえた。

爆発のした方角を見る。

どうやら、学園の敷地内、港の方で爆発があったようだ。

 

 

 

「な、なんだ……っ!?」

 

「港の方からよ……っ」

 

「事故かな……っ?」

 

 

 

黙々と黒煙を上げる箇所を見て、これはただ事ではないと察した三人。

すると、校舎や食堂の窓に、防壁シャッターが下ろされ、あたりは真っ暗になる。

 

 

 

「………なぁ」

 

「うん、わかってる……」

 

「こんな事態だってのに、非常用電源に切り替わらないし、緊急避難用の電灯も点かない……これ、単なる事故じゃなさそうね……っ!」

 

 

 

箒の疑問を、シャルと鈴もすぐに察知した。

IS学園は、たとえ日本国の支援が絶たれたとしても、自力で稼働できるほどの施設を備えている。

電気、食料、水、エネルギー……それらを自発的に補給できる術を持っているからだ。

しかし、それも中枢たるシステムが働かなければ意味がない。

 

 

 

『学園内にいる専用機持ちに通達ッ!』

 

「「「っ!?」」」

 

 

 

突如として響き渡る館内放送。

この声は、紛れもなく千冬のものだった。

 

 

 

『緊急事態につき招集をかけるっ! 五分以内に、指定された緊急対策本部に集合ッ!』

 

 

 

そう言い渡されたあと、各自のISの待機状態に、場所と今自分たちがいる場所から、集合場所までの最短ルートが記述されたデータが送られてきた。

 

 

「とにかく、急ぐわよっ!」

 

「うん!」

「ああ!」

 

 

 

 

鈴を先頭に、シャルと箒も、急いで対策本部へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園が緊急事態になった数時間前。

一夏は、学園の外へと出て、とある施設を目標に、脚を進めていた。

 

 

 

「確か……ここのあたりのはずだが……」

 

 

 

手に渡された紙の地図。

普通ならISの待機状態にそのまま地図データを転送してもらえるはずなのだが、今回に限ってそうではなかった。

手にしている地図に書かれていた目的地の場所に書かれた名前……。

 

 

 

「『倉持技研』……か……」

 

 

 

日本のIS開発を行っている研究所であり、一夏の《白式》と簪の《打鉄弐式》の開発元でもある所だ。

もっとも、《白式》は開発を断念して廃棄するはずだったものを、レクトが貰い受け、基本システムを復元させた物に、束が少しいじって作られた物であり、《打鉄弐式》に至っては、簪と整備科の生徒たちによって完成させたため、ほとんど倉持技研の力を使ってはいないのだが……。

しかしそれでも、IS開発の研究所であるため、一夏の《白式》のデータは非常に重要なものだということを理解している。

今回は、一夏の《白式》のデータを収集することと、ちょっとしたチューニングをすることになっている。

 

 

 

 

「えっと……あ、あった……!」

 

 

 

モノレールに乗り、電車などを乗り換えてやってきた山の中。

全体的に白で統一された施設が見えてきた。

外観からの光景は、白一色の壁がそびえ立つ、まるで砦のような設計。

遠目から見れば、中の施設の一部……壁の上部からわずかに見える屋上辺りが見えるが、それ以上のものは何も見えない。

特に代わり映えしたものはないが、ただただ山の景観とはあまり合わないような気がした。

 

 

 

「しかし、これどうやって入るの?」

 

 

 

ゲートの前まで来たのはいいものの、取っ手のないドアがあるだけで、チャイムも、ましてやカメラすらない。

どうやって入ろうか迷っていた時、ふと、何かの視線を感じた。

 

 

 

「っ…………」

 

 

 

こちらを見ている。

だが、殺気立ったものはない。

 

 

(どこに……)

 

 

しかしそれはすぐに姿を現した。

自身の背後から、妙な気配を感じたからだ

 

 

「っ!」

 

「おおっ!?」

 

 

 

 

とっさに距離をとるようにして飛んだ。

すると、ばれたと言わんばかりに驚く声が聞こえた。

声質からして女性。それも年上の女性の声だった。

一瞬『亡国機業』の面々の事が頭に過ぎったが、その正体を見て、一夏はその考えを否定した……いや、むしろ否定せざるを得なかった。

何故なら…………

 

 

 

「っ…………」

 

「おやおや? どうして固まってるのかな、少年?」

 

 

どうしても何も……。

水中メガネ……つまりはゴーグル(サングラスバージョン)をつけて、紺色のISスーツをまとい、頭には麦わら帽子、右手にモリ、左手に淡水魚を五、六匹持った女性が、ニヤニヤとした表情で近づいてきているのだ。

そんな奇怪な姿をした人間を見て、固まらずにはいられないだろうに……。

ただ、わかったことならある。

それはISスーツの胸元あたりにあった。

スーツを押し上げるように存在する豊満な胸の所に、ゼッケンが貼ってあり、そこには『かがりび』と平仮名で書いてある。

つまり、この女性の苗字は『かがりび』ということになる。

 

 

 

「ふーむ」

 

「…………」

 

「ふむふむ……なるほどねぇ〜」

 

「…………何がですか」

 

 

 

ゴーグルを取りながら、ズズズッと顔を突き出し、一夏の全身を見回す女性。

なんだろうと思いながら、この状況をどう変えてやろうかと悩んでいると…………

 

 

 

「所長! 何やってるんですかっ!」

 

 

 

そこに第三者の声。

やってきたのは、三十代の男性だった。

一夏を見るなり、「あっ!」と声を出し、こちらに向かって走ってくる。

 

 

「織斑くんだね?! えっと、織斑 一夏くん!」

 

「はい……そうですが……」

 

「そうかそうか! ごめんね、本当は所長が迎えに行くはずだったんだけど……ほら、見ての通り変態だからさ」

 

(そんなバッサリ言っちゃうっ!?)

 

「黙れ、おっさん」

 

 

 

そう言いながら、女性は男性に手にしていたモリを投げつける。

男性はそれをヒョイっと躱し、なおも一夏に謝る。

 

 

 

(この人いい動きするなぁ……。しかし、確かにこれは……変態だし、危険人物だな……)

 

 

 

再び女性の方を見るが、やはりどう見ようが『変態』という言葉しか浮かんでこない。

その他で言うと……『公然猥褻人』?

 

 

 

「なぁなぁ、美少年。私の部屋でイイコトしようぜぇ〜!」

 

「イイコト……とは?」

 

「ババ抜き」

 

「いや、二人でしたところでつまらないでしょう……」

 

「じゃあ、エロいこと!」

 

「しませんよ……」

 

「なんだよぉ〜、つれないなぁ〜」

 

「いやすいません、俺、彼女いるんで……」

 

「なにぃ〜っ!? ちぇっ、もう唾つけてあるのかぁ〜〜、つまんないなぁ〜」

 

 

 

出会い頭に何を言っているんだろう、この人は……。

呆れてものも言えない一夏に、男性が再び耳打ちしてきた。

 

 

 

「えっと、ごめんね。この人は無視して、中に入ろうか。研究室の中で待っててよ。中に置いてあるジュースとかコーヒーは自由に飲んでていいからさ」

 

 

 

うん。この人いい人だ。

一夏は言われるがまま、研究所内へと脚を踏み入れる。

そして、男性職員の案内の元、今回検査が行われる研究室へと入った。

部屋の中は白一色で、いかにも研究室……といった雰囲気だ。

だが……。

 

 

 

 

ビチャ……ビチャ……ビチャ……ビチャ……

 

 

 

 

「所長! 体拭いてから入ってくださいって!!」

 

 

背後から聞こえる水音。

そういえば、全身水浸しで、モリと魚を持っていたっけ……。

ということは釣りをしていたということになる。

だが、背後からそんな音が聞こえて来るのだから、もう軽くホラーだよ。

 

 

 

「いやいやすまないねぇ〜」

 

「もう、毎回毎回掃除するこっちの身にもなって下さいよぉー」

 

「そうかそうか、すまないねぇ〜。じゃあ乾くまでここで待っていよう」

 

「どれだけ時間かかると思ってるんですかっ!」

 

「にゃっはは〜♪」

 

 

 

自由人……猫みたいな人。

こういう風に捉えると、恋人である刀奈と少し被るのだが、いや、刀奈はこんな変態じゃない。

うん、彼氏目線とか無視しても、刀奈はこんな変態じゃない。

断言する!

 

 

 

「じゃあ着替えてくるから〜、待っててねぇ〜?」

 

「あ、はい」

 

 

 

そう言って、女性は奥の部屋へと向かっていった。

その後を男性職員が床をモップで拭きながらついていく。

ほんと、変な人の部下って大変なんだなぁ〜と思う一夏だった。

 

 

 

 

 

「ふっふーん♪」

 

「所長、ご機嫌なのはいいですが、体をちゃんと拭いてくださいね」

 

「わかってるわかってるぅ〜♪」

 

 

 

今日は一段と気分がいい。

それは何を隠そう、あの織斑 一夏がここにきたからだ。

 

 

 

「さっすが、千冬さんの弟さんだぁ〜。しっかりとデータは取らせてもらうからね、弟くん♪」

 

 

 

 

その表情はとても楽しそうで、そして、とても小悪魔的な表情でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜……」

 

 

 

一方、新幹線に乗り、京都の方へと向かっている少女が一人。

電車内でため息をつきながら、外の景色を眺めていた。

前日の夜、急遽京都へと来いというメールが届いて、しかもその送り主を見た瞬間に、気分は最悪と言っていいくらいに落ちた。

なぜこのタイミングになって、そして、何の用があって呼び出したのか……。

不安と憂鬱な気持ちでいっぱいだった。

栗色の長い髪を緩く一本に纏め、スマートフォンの画面を見る少女、結城 明日奈は、その画面に写っている人物の写真を見ながら、物思いにふけっていた。

 

 

 

「キリトくん……」

 

 

毎日が幸せを感じられる。

学園の寮でも、教室でも、授業のIS実習でも、二人は常に一緒だ。

だが、今回は明日奈一人で京都へ来いと言われているため、隣に和人の姿はない。

昨夜、京都へ向かえとのメールが来た事を、和人にも話した。

その送り主が、母親である事も含めてだ。

何の理由もなしに、母親がそうやって呼び出す事はまずない。

だから、きっと何かを言うために呼んだのだろうとは想像がつく。

だが和人は、「最近実家にも帰れてないんだろう? なら、一目見て安心させてやったらいいんじゃないか?」と言うのだ。

確かにそれはそうなのだが、今回は何だか、別の要件のような気がしないでもない。

そんな気がした。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

何度目になるかわからないくらいに出るため息。

東京を出て、もう関西方面には入っている。

あと数分もすれば京都だろう。

そこには結城家の本家があるのだ。

年明けなどには結城家一同、またその所縁ある者たちが集うために集まる事がある。

昔から堅苦しく思っていたために、あまりいい思い出はない。

 

 

 

「キリトくんは……今なにしてるかなぁ……」

 

 

 

こんな時でも、和人の事が心配になる。

ちゃんと起きれただろうか……ちゃんとご飯は食べているだろうか……変な事に巻き込まれていないだろうか……。

そんな事ばかり考えている。

 

 

 

「……よし! さっさと用件を済ませて、急いで帰ればいいのよね!」

 

 

 

母親の小言なら、聞く気はない。

それに勉学もちゃんとこなしているし、成績だって落としている訳ではないため、なにも後ろめたい事はないだろう。

 

 

 

「今日は晩御飯何にしようしようかなぁ〜。キリトくんの好きな物をいっぱい作っちゃおう♪」

 

 

少しでも気分をあげて、京都に入りたいと思った明日奈。

和人の事を考えれば、気分は必然と上々になっていく。

そして、明日奈の乗った新幹線は、目的地である京都へと辿り着いた。

もう一度だけ気を引き締めて、新幹線を降り、改札を抜けた。

そして駅を出た瞬間に、明日奈は意外な人物に出くわした。

 

 

 

 

「時間ピッタリね」

 

「っ!?」

 

 

 

まさか、こんなところにいるとは、まず思っていなかった。

迎えに来るとしても、別の誰かを呼び出すだろうと思っていたのだが、まさか直々に来るとは……。

 

 

 

「お母さん……!」

 

「早く乗りなさい。行くわよ」

 

「えっ? あ、う、うん……」

 

 

 

結城 京子。

明日奈の母親にして、大学の経済学部の教授をしている。

とても厳格な性格をしているため、明日奈がIS学園にいる事を、今でも快く思っていない。

そんな予想外の人物による迎えに流されて、明日奈は迎えの車に乗った。

白い国内産の高級車だ。

運転手には黒いスーツを来た人が……。ボディーガードの感じだ。

京子は助手席に乗り、明日奈は後ろの席に座る。

 

 

 

「えっと、お母さん……その」

 

「久しぶりね。あまり顔を見てなかったけど、変わりなさそうでよかったわ」

 

「えっ? あ、うん。久しぶりだね、ほんと……」

 

 

 

夏休みの間も、家には帰ったりしたのだが、京子とは入れ違いになっていた。

京子も大学教授という立場であるため、大学に行く事のほうが多かった。

そして、IS学園の寮に住んでいる明日奈も、あまり家には帰ったりなどしていない。

なので、IS学園への入学が決まった、4月以来の再会なのだ。

 

 

 

「えっと、どこに行くの?」

 

「結城家の本家よ」

 

「え? な、何でまた……!」

 

「その事は着いてから話すわ」

 

「う、うん……」

 

 

 

久しぶりに聞いた母の声。

しかし、相も変わらず冷徹という言葉が似合うくらい冷静な言葉。

そこ声は、昔から聞いていた。

エリート街道を行かせようと、明日奈自身にかなりの期待を寄せていた。

しかし、当の本人はSAOの虜囚となり、その道を閉ざされてしまったに等しいものとなった。

そんな明日奈を、母の京子は今どう思っているのだろうか……。

そんな不安に苛まれながら、明日奈は結城家本家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『パパ、その道を右に曲がれば、指定されたポイントです!』

 

「オッケー!」

 

 

 

 

明日奈が京都で一人、不安と葛藤している時、和人はIS学園でおきた非常事態に巻き込まれていた。

学園内の寮で休んでいた和人は、いきなりの招集をかけられて、今ユイの指示の下、対策本部のある地点まで全速力で走っていた。

 

 

 

「ったく、一体何が起こってるっていうだよ……っ!」

 

 

 

突然の爆発、電気系統の突発的な停電。

これが偶然だとは思えない。

そしてこんな時に、明日奈がいないのが心配だった。

この混乱した最中、明日奈は学園の外に居て、ここにいるよりも安全なのだが、逆に離れているからこそ、不安な気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

「っ、キリトっ!」

 

「っ……カタナ!」

 

 

 

明日奈の事を考えながら走り続けていると、和人の真正面から同じように走ってくる人物が……。

水色髪の癖毛が外に跳ねた短髪の少女。

一夏の恋人である刀奈だった。

 

 

 

「ギリギリ間に合ったわねっ、早く行きましょう!」

 

「カタナッ、それよりも何が起きているんだ! これは一体ーーー」

 

「わからない。でも、何者かに襲撃を受けている可能性があるわ!」

 

「っ!?」

 

「だからこそ、こうやって対策本部を設置しているんでしょうし、これから私たちには、その襲撃者たちを撃退しなくちゃならないわ……っ!」

 

「くそっ、どうしてこうも争いたがるかな……っ!」

 

 

 

奥歯を噛みしめる和人。

IS学園は、世界中の少女たちが集う場所だ。

それが『亡国機業』のようなテロリストならばいざ知らず、これがもし、国の正規軍や特殊部隊だった場合、それは、IS学園への宣戦布告だ。

 

 

「気持ちは分かるけど、こういう時こそ冷静に、よ?」

 

「っ……あぁ、わかった」

 

 

 

隣を走る刀奈の表情を見て、和人も気を引き締めていた。

いつもの飄々として、どこにでも居そうな可愛らしい少女の顔ではなく、この日本という国の暗部を見て、知り尽くしたかのようなミステリアスかつ、緊迫したような真剣な表情をしていた。

 

 

 

「気を引き締めていかないとな……っ」

 

「ええ……アスナちゃんと、チナツが安心して帰ってこれるようにね……!」

 

 

 

二人は真剣な面持ちで対策本部になっている地下区画の一室に入った。

 

 

 

「遅いっ!」

 

 

 

ドアを開けてからの一言がそれだった。

中にはすでに慌ただしい様子で、パソコンの画面に向かっている三年生の生徒たち。

そして、それを補佐する教師陣。

その切迫した部屋の中央では、いつものレディーススーツ姿の千冬と、すでにISスーツに着替えていた箒たち専用機持ちと、二、三年生が二十人ほど……。

先ほどの怒声は、千冬が発したものだ。

 

 

「す、すみません!」

 

「申し訳ありません」

 

 

 

いきなりの怒声に和人は驚いたものの、刀奈はひらりと謝った。

二人は箒たちが並んでいる列に加わる。

 

 

「では、全員揃ったところで、状況を説明する」

 

 

それから、千冬による現状説明が行われた。

曰く、ただいま、IS学園は所属不明の軍隊に攻め込まれているらしい……。

港を砲撃によって破壊され、制圧には至っていないものの、既に使い物にならない状態のようだ。

そして、それと同時に、このIS学園のシステム領域にハッキングがかけられているようだ。

 

 

 

「現状、三年の精鋭たちによるカウンター・ハッキングをさせているが、システム奪還までには時間がかかる。

そして、そんな事をしている間にも、敵IS部隊による襲撃を受けている」

 

 

 

千冬の言葉に、生徒たちは驚きを隠せなかった。

まさか、IS学園に本気で攻め込んでいる輩がいることに……そして、敵という明確な存在がいて、本気で攻撃していることに。

 

 

 

 

「故に、諸君らには、敵IS部隊の撃退をお願いしたい」

 

「っ……敵部隊の戦力はっ!?」

 

「現在確認できているISの数は、全部で15機」

 

「15機っ!?」

 

 

 

たかが学生のいる学園に対して、15機というのどういうものだろうか。

ISは一機いるだけで、その力は計り知れないものがある。

戦闘機よりも速く飛び、小回りが利いて、機転が利く。

戦車よりも速く、強力な銃火器だって装備すれば、あっという間に殲滅できる。

そして何より、シールドエネルギーが尽きない限り、ほぼほぼ無敵とも言っていいほどだ。

問題なのは、そんなISがIS学園を侵攻するだけで、それほどの戦力を有している部隊があるということ。

それは一国家の部隊でも可能であろうが、こんなにわかりやすく攻撃を仕掛けてくるだろうか……?

 

 

 

「なので、今回は敵勢力を叩くために、最低でも三人一組で敵に当たれ。

間違っても独断先行はするな。相手はプロで、こっちはアマチュアだ。不確定要素を持ったまま戦えば、それはすなわち、死を近づけるものだと思え……っ!」

 

 

 

千冬の言葉は本気だった。

これは模擬戦やイベントではない。

純粋な戦闘……いや、戦争なのだと、だれもが思った。

 

 

 

「各自の指揮は、専用機持ちが行え。では、地下区画の非常用脱出口から出て、それぞれ迎撃に迎え!」

 

「「「「「はいっ!!!!!」」」」」

 

 

 

 

少女たちの強い声が、一室に木霊した。

全員走り出し、専用機持ちは自身の機体を展開し、その他の二、三年生たちは、訓練機のリミッターを解除し、それに乗り込む。

 

 

 

「桐ヶ谷、それから更識姉妹はここに残れ」

 

「っ!?」

 

「は、はい……!」

 

「………」

 

 

 

 

皆が走り出した中、三人だけが残るよう命じられた。

なんだろうと思い、三人は千冬に対して真正面に向き合った。

 

 

 

 

「お前たちには、大事な任務を遂行してもらいたい」

 

「俺たちが……ですか?」

 

「ああ……。むしろ、お前たちが適任だと思っている」

 

「それは、一体……」

 

 

 

簪の言葉に、千冬は頷いて、三人の前の空間に電子マップを表示した。

 

 

「現在IS学園のシステム領域にハッキングが仕掛けられているのは、さっき言ったな。

そこで、お前達にはそのシステム領域を奪還する手伝いをしてもらいたい」

 

「しかし、今は三年生の先輩達がシステムクラックしてるんじゃ……」

 

「ああ……。だが、それも拮抗している状態でな。中々こちらも奪い返せない。

なので、更識妹、簪には、システムクラックの補助を頼みたい」

 

「わかりました……っ!」

 

「そして桐ヶ谷、更識姉、楯無の二人には、別の方法で、システムクラックの補助を頼みたい」

 

「別の方法?」

 

「それで、その方法というのは……?」

 

 

 

 

刀奈の問いに、千冬は目を瞑る。

そして再び見開いて、こう言った。

 

 

 

 

「電脳ダイブを行い、内部からシステムを奪還しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 






原作とは異なる感じでワールドパージを行うストーリーにしてますので、申し訳ありませんが、箒たちのあのムフフッな妄想は出てきません。


中には待ち望んでいた方達もいるかも知れませんが、何卒ご容赦ください(-_-)

感想、よろしくお願いします!!!!


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