ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく終わったぜーーー!!

タッグマッチトーナメント戦終了!




第90話 決着

「ぐうううううッ!!!!」

 

「おおおおおおッ!!!!」

 

 

 

日本刀同時がキリキリと音を立てながら唸っている。

たった今、上空では、二人の侍同士の決闘が行われていた。

二刀を振りかざし斬り込むのは、最新鋭の第四世代を駆る篠ノ之 箒。

片や、それを一刀にて巧みに捌き、攻め斬るのは、男性でありながらISを動かし、これまた最新鋭の第四世代型ISに昇華させたイレギュラー中のイレギュラー……織斑 一夏だ。

両者、ともに一歩も譲らない試合展開になってきた。

 

 

 

「っ……!」

 

(っ!? あの構えは……!)

 

 

 

箒が二刀を逆手に持って、上体を屈めながら一夏の間合いに入る。

 

 

「《月影》‼︎」

 

「ちっ!」

 

 

下段からすくい上げるように二刀の斬撃が放たれる。

一夏は咄嗟にバックステップを意識してスラスターを操作し、斬撃の軌道から外れる。

だが、そこから再び回転斬りが迫り来る。

 

 

「兵の舞《楼嵐》ッ!」

 

「《龍巻閃・凩》ッ!」

 

 

回転斬りを回転斬りで返す。

篠ノ之流も、元は古流剣術の一つだった。

ならば、一夏の使うドラグーンアーツとも、その技の出し方や動き自体は似ている部分が多いはずだ。

 

 

 

「戦の舞《裂姫》ッ!」

 

「っ!」

 

 

 

回転斬りに回転斬りを重ねる。

四連続の斬閃が放たれるが、一夏はこれを上に跳ぶことで回避し、そこから斬りつける。

 

 

「《龍槌閃》ッ!」

 

「《月影》ッ!」

 

 

対空の技として迎え撃つ箒。

両者の刀が何度となく斬り結ぶ。

 

 

「《朧月》ッ!」

 

「《龍翔閃》ッ!」

 

 

今度は逆に、箒の方から渾身の一撃を放つが、これも一夏が返す。

 

 

(ちっ、このままでは埒が開かないか……!)

 

 

箒は意を決して、高速回転から放たれる斬撃を放つ。

 

 

「《百花繚乱》ッ!」

 

 

高速の回転十連撃が放たれる……だが……。

 

 

「くっ、おおおおっ!」

 

「なにっ!?」

 

 

一夏も箒の回転に合わせて、自分も回転することで攻撃を躱し、刃で打ち払い、最終的に箒を強引に斬り払った。

箒はそれを二刀で受けて後ずさるが、渾身の技を防がれたことに驚きを隠せない。

 

 

「ば、馬鹿なっ……!」

 

「今のはちょっと危なかった……。だが、あそこで《百花繚乱》じゃなくて、《十六夜桜花》を放っていれば、あるいは……だったかもな」

 

「くっ……!」

 

「箒、忘れてるのかもしれねぇから、一応言っておくぜ? 俺はもうずっと、二刀流使いと何度となく打ち合ってきてるんだぜ?」

 

「っ!?」

 

 

 

箒以外の二刀流使い…………それは紛れもなく和人のことだ。

そして和人の力量は、箒でも凄いと思えるほどのもの。

その彼と日々剣を交えてきた一夏の力量もまた、箒の考えていたものよりも上回っているということだろう。

 

 

 

「確かに、力も気合も、キリトさんに劣らないものがあるが、速さまではキリトさんに及んじゃいない……。

なら、こっちは速さと技術でカバーすれば、たとえ《十六夜桜花》でも、俺は打ち返してみせるっ……‼︎」

 

「っ……」

 

 

 

知っていた……一夏が、とてつもなく強い剣士になっていた事は……。

こうして打ち合っている今でも、一夏の強さに感嘆としてしまう。

昔から、一夏の事は、自分が一番見てきて、わかっているつもりでいた。

剣道を通じて、いろんな一夏を見てきた気がしてきた。

だが、6年も会わなかっただけで、ここまで変わってしまったのだから、時の流れ、または人の成長と言うものは、本当に不思議だ。

 

 

 

 

「そうか……そうだったな……」

 

 

 

寂しく感じるし、何故だか嬉しく感じる。

こうして刃を交えているからなのか……昔の記憶と、今の一夏の姿が被って見える。

いつでも剣道に対する態度は真面目で、父以外の男で、ある意味敬意を持っていたのは、一夏だけだった。

 

 

 

「ならば、生半可な剣では……お前には通用しないな。わかった、私も出し惜しみなしで、お前に食らいついていくだけだ……っ!」

 

 

 

再び半身の姿勢になり、箒は二刀を構えた。

しかし、その構えが、今までと違っていたのだ。

《空裂》の切っ先を一夏に向けているのは変わらない。

だが、右手に持っている《雨月》を、まるで体に隠しているかのように構えているのだ。

 

 

 

(空裂に惑わされると厄介だな……さて、どこから斬りかかる…? 上か、下か、右か、左か……それとも……)

 

 

 

右手の《雨月》が隠されている為、どこから攻撃を出してくるのかがわからない。

箒の表情などを見れば、動きの先読みはできるだろうが、そのまま《空裂》で刺突を放ってくるという手段も残っている。

それに、ここへきて、箒が何の策もなしにただ突っ込んでくるとは思えなかった。

 

 

 

「ーーーー行けっ‼︎」

「っ!?」

 

 

 

だが、《雨月》《空裂》での攻撃予測ではなかった。

その背部……箒の背中から切り離された展開装甲のパーツが、ビットとなって一夏に迫ってきた。

 

 

「くっ!」

 

 

一夏はビットの軌道から外れて、急いで上昇した。

しかし、その回避行動をとった一夏の頭上を、影が覆い尽くす。

 

 

 

「っーーーー!!!!」

 

「逃がすかッ!!!!!」

 

 

激しい剣戟の音が、アリーナ上空で響き渡る。

一夏が回避行動を取る度に、箒がそれを追いかけ、斬撃を放つ。

一夏も負けじと応戦するが、先ほどと戦い方が違ってきた箒の様子を伺っている。

 

 

 

(剣の軌道が少し見づらくなったなっ……!)

 

 

今まで使っていた剣舞も、型にはまり過ぎてない故に、攻撃パターンが絞り込み難かったが、今はさらに読みづらくなった。

それこそ剣舞の特徴なのだろう。

ただ単に回転運動を用いているだけなのだが、それに故に防御に徹しているのか、あるいは攻撃に転じているのか、それが読み取りづらい部分ではある。

 

 

 

「《犀牙》ッ!」

 

「くっ!」

 

「はああッ!」

 

「ぐうっ!?」

 

 

 

《犀牙》による刺突を回避した瞬間に肘打ちの《砕破》へと繋げる技の連携。

咄嗟に腕を割り込ませることで直撃は避けたものの、その衝撃までは殺せずにいた。

 

 

「くそっ」

 

「まだまだ!」

 

 

 

一夏が大勢を崩した瞬間を逃さず、箒は果敢に攻める。

 

 

「《一刀華閃》ッ!」

 

「ちぃっ!」

 

 

 

右手に持っている《雪華楼》では間に合わないと判断し、咄嗟に左手で新たに二本目の《雪華楼》を抜く。

その瞬間に袈裟斬りが放たれ、続いて横薙ぎに一閃。

その二撃を防いだ……と思った時だった。

 

 

 

「はあっ!」

 

「なにっ?!」

 

 

視界の下から、すくい上げるような斬撃が飛んできた。

今振り抜いた《雨月》ではない。しかし、左手の《空裂》で斬りあげたものでもない。

では何で……。

 

 

「くっ、脚部ブレード……っ!」

 

 

右足のつま先から、紅いレーザー光の刃が現れていた。

あの瞬間に展開装甲を起動させ、蹴り上げたのだろう。

一夏はその衝撃をくらって、左手の《雪華楼》を弾き飛ばされてしまった。

蹴りならば、腕の力では出せないほどの威力が出せる。

 

 

 

(くそっ、忘れてた……紅椿って、ほとんど全身が武装に変化できるんだった……)

 

 

 

展開装甲という第四世代型の新装備。

一夏の《白式》は、翼だけが展開装甲になっているが、箒の《紅椿》は、それが全身に施されている。

しかも、その特徴が如実に表れているのが、他の世代のISとは違う形態変化……《無段階移行(シームレス・シフト)》が可能であり、経験値を積むことで、《紅椿》が独自に進化し、性能強化やパーツ単位自己開発が行われるというもの。

ゆえに、今後、どのような装備が出てくるか、一夏にも、搭乗している箒にもわからない。

 

 

 

(距離を取られたら、こちらが圧倒的に不利……。向こうにはクロスボウ型のブラスターライフルがあるし、ビット兵器が二機……雨月、空裂の二振りはエネルギー刃が射出可能……)

 

 

ましてや、一夏から刀を一本弾き飛ばした。

未だに剣舞の太刀筋を見極めることも至っていない上に、オリジナルとしてISの性能をフルに使ってきているとなると、一夏にとっては分が悪い。

 

 

(俺もエネルギー刃を出せるとはいえ、雪華楼の残数は三本。シールドエネルギーにはまだ余裕があるとはいえ、《極光神威》を使えば、たちまち消失してしまう……)

 

 

 

脳内で可能な戦術を考えていく。

その様子を箒も最大限の警戒を持って見守っていた。

 

 

 

(刀一本を弾き飛ばしたとは言え、まだ余力が残っている様子だな……。最後の蹴りも、本当は胸部を狙ってのものだったんだがな……一夏に同じ手はあまり通用しない。

《犀牙》からの《砕破》の連携は警戒されてるし、《朧月》などの斬撃術も対応される。

ならば、遠距離からの射撃戦に持ち込むか……?)

 

 

 

だが、あのセシリアでさえ、一夏を追い詰めておきながら、得意な射撃戦では勝てなかった。

ビットと実射撃の同時操作を会得してもなお、周囲を囲んでからの一斉砲撃をしてもなお、一夏は落ちなかった。

いくら《穿千》の攻撃力が高いといえど、その攻撃が当たらなければ意味はない。

そして、射撃訓練における箒の評価は、限りなく低い。

 

 

 

(なら、取るべき戦術はーーーーッ!!!!)

 

 

箒が決心し、行動に打って出た。

《紅椿》の背部展開装甲を稼働させ、紅いエネルギー翼を展開させた。

 

 

「っ!?」

 

「これで終わらせる……っ! いくぞ、紅椿ッ‼︎」

 

 

剣技でも切り抜けない、射撃でも落とせないのであれば、圧倒的なスピードで相手を封じ込める。

 

 

「くそっ!? ぐあっ!!」

 

 

背部展開装甲を稼働させた事で、《紅椿》の機動力は通常の倍以上のものになった。

一夏はそれを躱し、エネルギー刃を飛ばしたりなどして抵抗するも、それよりも速く、箒の方が動いている。

 

 

「はあッ!」

 

「くっ!?」

 

 

下から勢いよく《月影》を放つ箒。

一夏は左手にもう一本の《雪華楼》を抜き放ち、再び二刀スタイルで攻撃を受ける。

だが、それで止まるほど、箒は優しくはなかった。

 

 

「このまま決めるっ!」

 

 

《一刀華閃》《戦の舞 裂姫》《百花繚乱》と、次々に剣舞を叩き込む。

一夏は必死にそれを受け止めるが、とても苦しそうな表情をしていた。

 

 

「はああああッ!!!!」

 

 

二刀でガードしているところへと、箒は何度も何度も斬撃を加えていく。

全力全開の攻撃が、刀を通して、一夏の両腕にも伝わってくる。

 

 

「ぐ、くうっ……!?」

 

 

一度離れた箒は、再度出力を上げ、渾身の《朧月》を放つ。

 

 

「スキありぃぃぃッ!」

 

 

全体重、全加重を乗せた《朧月》を両手の二刀で受け止める一夏。

だが、そのあまりの重さに、苦悶の表情がより一層増した。

 

 

「くっ、くああ……っ!!」

 

「斬り捨て、ごめぇぇぇぇんッ!!!!!」

 

 

 

箒の刃が、どんどん自分に迫ってくる。このままでは、一気に箒に飲み込まれてしまう……。

そう思った時、一夏は覚悟を決めた。

 

 

 

「くっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

箒の斬撃から逃れるように、一夏は刃を弾いて、咄嗟に地上へと落ちた。

重力を利用すれば、一気に距離を取るのは簡単だったからだ。

そして、その覚悟を表した姿を、《白式》が現した。

 

 

 

「《極光神威》ッッッーーーー!!!!!!!!」

 

 

鎧に紅い線が走り、背中の翼がスライドし、大きな蒼色の翼が現れる。

高速機動形態になった一夏は、後退から一転……超高速で箒に斬りかかる。

 

 

「くっーーーー!!!!」

 

「っ! なんのぉぉぉッ!」

 

 

箒も一夏に対抗して、高速機動で斬り込む。

 

 

「おおおっ!!!!!」

 

「はああっ!!!!!」

 

 

二刀と二刀がぶつかり合う瞬間、とてつもない光がスパークする。

鋼と鋼とが、とてつもない力でぶつかり合っている為なのか……紅と蒼の光も凄まじい勢いで四散していく。

 

 

「ぐっ!」

 

「ぬっ!」

 

 

 

互いの力が強すぎたのか、二人は突如として弾かれてしまった。

だが、ここで足を止めるわけにはいかない。

二人は再び意識を集中し、ブースターを集中稼働させた。

 

 

 

「くっ、ぉぉぉおおおっーーーー!!!!!!!!」

 

「だあああああああッーーーー!!!!!!!!」

 

 

 

超高速機動に入った二人は、再び激しくぶつかった。

今までになかった衝撃が、再び波となってアリーナを揺らす。

紅と蒼のエネルギーの光も、波動となって観客席まで届いた。

圧倒的な光景に目を奪われる観客席にいる生徒及び職員たち。

まだ荒削りな部分があるとはいえ、もはや学生同士の決闘をはるかに超えた戦いに、魅了されているのだ。

 

 

 

「うおおおおおッ!!!!!」

「ぬあああああッ!!!!!」

 

 

 

何度目かの鍔迫り合い。

鋼同士が奏でる甲高い音も、そろそろ聞き慣れた頃に、箒から勝負に出た。

 

 

「でええやあああッ!!!!!」

 

「うっ!?」

 

 

力任せに強引に一夏を引き剥がすと、《雨月》と《空裂》を左の腰に溜めるようにして構える。

 

 

「篠ノ之流剣舞ッ! 《月華十字衝》ッ!!!!!」

 

 

《雨月》を横薙ぎ一閃。《空裂》を逆風に一閃。

十字を描くように放たれる力技だった。

その衝撃は凄まじく、一夏の持っていた《雪華楼》二振りが、刀身の半ばでへし折れてしまった。

 

 

 

「なーーーーっ!!!???」

 

 

 

《雪華楼》を弾かれて、今度は二本ともへし折れた。

箒の力技に、一夏の剣が耐えられなかったのだ。

その事実に、一夏は唖然とした……。そして、目の前に迫り来る箒の気迫に、飲み込まれそうだった。

 

 

 

「覚悟おおおおっ!!!!」

 

 

 

《空裂》を投げ捨て、両手で《雨月》を握りしめる。

上段に持ち上げた《雨月》。

そこから一閃……上段唐竹で止めを刺すのだろう。

一夏の視界は、今にも振り下ろそうとする箒の姿と、迫り来る刃が、ゆっくりと見て取れた。

 

 

 

ーーーこのままじゃ、殺られる……っ!

 

 

 

両手の刀は使えない。

使ったとしても、渾身の一撃の前では、鈍も同然だろう……。

では捨てて、残った一刀にて箒の胴を一閃するか……? だが、今から動いても、間に合わない。

 

 

 

ーーー負ける……のか?

 

 

 

全力で戦った。

相手があの箒だったから、いつも以上に全力で挑んだ。

箒の新しい剣術をみて、箒の成長を知って、ならば、全力で戦わなければ、それは無礼に値すると……そう思って戦ったのだ。

だから、それゆえの敗北なら、納得できる……だが、まだ心のどこかでは、諦めきれていない。

 

 

 

ーーーくそッ……負けてたまるかぁぁぁっーーーー!!!!

 

 

 

一夏の中で、再び、何かが弾けた。

 

 

 

「チェェェストォォォッ!!!!!」

 

「ッーーーーくうっ!!!!!」

 

 

 

両手の二刀を捨てた一夏。

迫り来る箒の一撃。

その一刀が、一夏の頭上へと迫って…………

 

 

 

バシィィィィィーーーーッ!!!!!

 

 

 

「なにっ!!!??」

 

 

 

驚愕に目を剥く箒。

渾身の一撃……最強の一刀を、目の前にいる一夏は……

 

 

 

「真剣白刃取りだとッ!!!??」

 

「っ〜〜〜〜!!!!」

 

 

 

両手の手のひらを合わせ、合掌するように箒の一刀を受け止めていた。

 

 

 

「うおおおおおおッーーーー!!!!!!!!」

 

 

 

メキメキッ、という音が聞こえた。

徐々に徐々に、一夏の両手に力が入っていく。

ならば、この音を鳴らしいている物体は……

 

 

 

「まさかーーーーッ!?」

 

「はああッ!!!!」

 

 

 

バキィィィィィーーーーン!!!!

 

 

 

「なっ……!!?」

 

 

 

両手を思いっきり捻り、《雨月》の刀身を、強引にへし折った。

 

 

 

「馬鹿なッ!?」

 

「ッーーーー!!!!」

 

 

へし折った刀身を投げ捨てた一夏は、即座に左腰に残っていた最後の《雪華楼》を握りしめる。

 

 

「抜刀術スキル……烈の型ッーーーー!!!!」

 

 

 

蒼穹に染まった瞳で睨みつける一夏。

その姿を見た箒は、ゾッとしてしまった。

今までに見たことのない、一夏のその表情に、箒は寒気を感じた。

 

 

 

「一夏っ……お前は……!」

 

「ーーーー《神風》ッ!!!!!」

 

 

 

蒼に染まった刀身が、目にも止まらぬスピードで抜かれた。

その瞬間、体全身がいくつもの斬撃で斬り裂かれるような衝撃を、箒は体感した。

 

 

 

「ぐっ、ああっ?!」

 

 

抜刀術スキル 《烈の型 神風》。

抜刀の瞬間に風を巻き込み、目に見えぬ風刃の太刀で相手を斬り刻むスキル。

これは溜める時間が長いため、迎撃か、初撃の奇襲にしか使えないが、決まれば決定打にもなり得る一撃だ。

それをまともに食らった箒は、そのまま後方へと吹き飛ばされてしまい、《紅椿》のシールドエネルギーも消失してしまった。

 

 

「っ!? 箒ッ!」

 

 

振り抜いた後、我に返った一夏は、急いで箒を回収しに飛んだ。

 

 

「箒! 箒っ!」

 

「う…………」

 

 

箒は気を失っているようで、目立った傷などをなかった。

だが、《紅椿》の装甲には、多少の傷跡が見て取れた。

 

 

「…………」

 

 

また、あの感覚になってしまった。

全てを打ち倒す……全てを破壊する……そんな感覚が、時折一夏の意識を染めていく。

 

 

(何なんだ……この感覚は……)

 

 

学園祭の時にオータムが侵入し、それを撃退した。

その時からだ。

二回目は、この大会でセシリアと戦った時……。

セシリアの新たな戦術に追い込まれて、敗北を覚悟した。

その時、初めて意図的にその力を発現したようにも思えた……。

 

 

 

ーーーー戦いを求める本能。普段はおとなしいのに、戦いや血を見ると興奮して強くなる……まるでバーサーカーだな。

 

 

 

マドカの言葉を思い出した。

バーサーカー……北欧神話に登場する狂戦士。

 

 

 

(俺は…………)

 

 

 

 

 

バアァァァァーーーーンッ!!!!!

 

 

 

 

「っ!? な、なんだっ!?」

 

 

 

箒を抱えたまま、アリーナの地上に降りてエネルギー隔壁のところまで回避していた一夏は、突然の衝撃波が襲った。

 

 

「カタナと……簪か……っ!?」

 

 

衝撃波を生んだ方角に視線を向ける。

そこには、ボロボロの状態になった刀奈と簪の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とてつもない衝撃波が起こる数十分前の事……。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 

地上に足をつけ、両手のライフルやその他の銃器を上空にいる複数の刀奈に向けていた。

 

 

「止まってていいのかしら?」

 

「簪ちゃん」

 

「撃ってこないのなら」

 

「こちらから行くわよ……!」

 

 

刀奈が《霧幻分身》を使ってから、未だに二人しか撃ち落とせていない。

《バイタル・スパイラル》と《蒼流旋》を持った刀奈を撃ち落とせたが、その二人は水で作った分身だった。

その他の刀奈を撃ち落とそうにも、他の四人……いや、本物と分身体三人の動きは、とてもレベルの高い操縦技術を持っていた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……ただの水で作った分身体じゃ、ないね」

 

「私の動きを擬似的にトレースしてあるからね。もうわかってると思うけど、武器だってどれも本物だからね?」

 

 

 

言うのは簡単だが、その分身体の制御に、いったいどれほどの集中力を割いているのだろうかと思うと、改まって姉の凄さを感じてしまう。

 

 

 

「操縦技術じゃ劣る……ならっ」

 

 

 

簪はライフルとレールガンの銃口を刀奈に向けた。

 

 

「ファイヤッ!」

 

 

四門の銃口から、ビームと電磁砲が放たれる。

しかし、刀奈はなんて事ないと言わんばかりに軽く躱し、簪に肉薄する。

 

 

「まだまだッ!」

 

 

何度も何度もライフルとレールガンを連射しながら、今度は背部のガトリングガンを起動させて撃ち続ける。

 

 

「操縦技術が劣ってるなら、それを埋め合わせるほどの圧倒的物量で押し切るッ!」

 

 

 

砲撃を続けながら、次第に刀奈との距離をとっていく簪。

そして、一定の距離をとった瞬間に砲撃をやめて、アンロック・ユニットにある二門の砲身を刀奈に向けた。

 

 

「ダブルブラストッ!」

 

「っ!」

 

 

 

高出力のビーム砲が放たれ、旋回していた刀奈の分身体二体に当たる。

これで、残すところは後二人。

本物と分身体一体……。

二分の一の確率だ。

 

 

「これは……ちょっと本気を出そうかな……」

 

「今までが本気じゃなかったみたいな言い草だね」

 

「まさか……。それでも頑張って簪ちゃんを攻めまくってたんだから……。

ただ、その砲撃はちょっと厄介だなぁ〜って思ったので、戦い方を改めようと……」

 

「っ……!」

 

 

 

分身体を自身に近づける刀奈。

すると、分身体の水を吸い上げて、《ミステリアス・レイディ》のアーマースカートの中に水を収めた。

そして、分身体が持っていた《煌焔》を左手に持ち、右手に持っていた《龍牙》をくるくると回しながら、簪と向き合う。

しかも、その周りを六本の《蜻蛉切》が浮遊し、近接格闘モードへと切り替えた。

 

 

「行くわよ、簪ちゃん……!」

 

「っ……!」

 

「その心臓を、貰い受けるっ!」

 

「撃ち落とすっ!」

 

 

二人が一斉に動き始め、刀奈は槍の穂先を、簪はたくさんの銃口を向ける。

まっすぐ向かってくる刀奈に対して、簪は遠慮なしにビームやら電磁砲やらガトリングやらを撃ち出す。

ガトリングの連射性能、電磁砲の貫通性能、ビームライフルの精密射撃性能。

それを巧みに使いながら、簪は刀奈を追い込んでいく。

だが、その刀奈は、あまりその事に対しての危機感を感じてはいなかった。

砲弾の来ない箇所、躱せる軌道、着弾地点などを瞬時に把握し、迫り来る砲撃の雨を掻い潜っている。

その様はまるで、シューティングゲームでもやっているかのようだ。

 

 

 

「くっ、これでも落ちない……っ! ならばっ!」

 

 

 

アンロック・ユニットを動かし、高出力ブラスターを放つ。

 

 

「威力は落ちるけど、連射だってできるっ!」

 

 

 

両手のライフル二挺に、二門のレールガン、ガトリングガン二門に、高出力のブラスターライフルが二門。

そのすべての銃口から、おびただしい数の砲弾が放たれる。

再び圧倒的物量で刀奈を押し切る作戦に出る。

 

 

 

「なるほどぉ〜……。そっちがその気なら、真っ向勝負ッ!!!!!」

 

 

 

向かってくる砲弾の嵐に、刀奈が取った行動は、真っ向から受けて立つという攻めの姿勢だった。

 

 

 

「はああああッ!!!!!」

 

 

降り注ぐ数多の砲弾を、刀奈は両手の槍を振るい、的確に斬り裂いていく。

 

 

「っ!? そんな強行策、いつまで保つ?」

 

 

《龍牙》や《煌焔》だけではない、《蜻蛉切》をも巻き込み、槍を持ち替えては、簪の放った砲撃をことごとく斬り裂き、弾き流している。

 

 

「さあっ、来なさいっ! この程度じゃ私に傷一つ付けられないわよっ!」

 

「っ!? ならっ、圧倒するっ!」

 

 

 

もう、簪に油断はなかった。

配慮や躊躇もない。

目の前にいる刀奈を、対戦相手を、撃ち落とすために、簪は引き金を引く。

 

 

 

「いっけぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

「まだまだあぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

簪が撃ち、刀奈が斬る。

どちらかというと、一方的に撃ちまくっている簪が有利に見えるが、刀奈は砲撃を斬り、弾き、躱す。

自然と刀奈の方が、簪を翻弄しているようにも見えなくない。

 

 

 

「っ……!」

 

 

このまま押し切れば、勝機は見えてくるかもしれない。

だが……

 

 

(エネルギー残量が……!)

 

 

一番の心配事だったエネルギーの問題。

バッテリーパックを積んではいたものの、これだけ撃ちまくっていたら、自然と底がつく。

何より、一番燃費の悪い《ダブルブラスト》を連射してしまっては、エネルギーを早々に使ってしまう。

最初の方は、その辺を気にして《ダブルブラスト》の使用を控えていたが、いつの間にか、刀奈のペースに引き込まれ、火力を持って対処していた。

 

 

(残りの残量は三分の一……このまま押し切ってもいいけど、お姉ちゃんのことだから、何か対策してるはず……。

そんな時にエネルギー切れしたら、間違いなく私の敗北っ……!)

 

 

 

意図したものか、それとも偶然なのかはわからないが、刀奈の思惑に乗せられてしまったことは否めない。

ならば、ここは一息に決着をつける他ない。

 

 

 

「ありったけの出力で、薙ぎ払うっ!」

 

 

 

簪は一旦距離を取ると、砲撃をやめて、アリーナの地面へと完全に降り立った。

刀奈は槍を振るいながら、それを眺めていた。

 

 

 

(さぁ〜て……次は何をしてくるのかしら?)

 

 

 

正直あのままやっていても良かったが、一方的な攻撃を躱し続けるのにも限界があった。

ゆえに、簪のこの行動には、少なからず幸運だと思ってしまった。

 

 

(わざわざ地上に降りた……何をするつもりなのかしら)

 

 

刀奈も残りのエネルギー残量を確認する。

だいたい残量は半分くらいといった所だろうか……。だが、簪の砲撃をまともに食らえば、そんなエネルギー量は簡単に吹っ飛ぶ。

そしておそらく、簪にもエネルギー切れの心配が出てきたんのだろう。

ならば、取るべき行動は、自ずと分かる。

 

 

 

(決めに来たわね……っ!)

 

 

 

その推測を悟ったかのように、簪は地面に足を固定した。

そして、《絶天》の砲撃装備すべての砲口の照準を、刀奈へと合わせた。

 

 

「ならこっちも、一撃にて仕留めるわっ!」

 

 

刀奈も距離を取り、《龍牙》を格納すると、新たに大きなランスを呼び出した。

《蒼流旋》……《ミステリアス・レイディ》の主武装になるはずだったランス。

そんな槍をわざわざ呼び出したのは、《ミステリアス・レイディ》本来の最高火力で、この勝負の決着をつけるためだ。

 

 

 

「行くわよ、ミステリアス・レイディッ!」

 

 

 

機体のパーツから、象徴とも言える《アクア・ヴェール》が消えていく。

そして、たった一本のランスに、すべての水が集まった。

 

 

 

「全砲門の開口完了、出力ゲージオールグリーンっ、照準ロック、目標捕捉ッ!」

 

 

 

対して簪の準備も整ったようだ。

全砲門からエネルギーが収束されていくのが目に見えて分かる。

この様子から、会場に詰めかけていた面々も、決着の時なのだと悟った。

 

 

 

「ミステリアス・レイディの最大火力ッ!《ミストルティンの槍》っ!」

 

「行くよっ、打鉄弐式ッ! 最大出力ッ!」

 

 

エネルギーの収束と、水、ライトエフェクトの収束が臨界点まで達した。

 

 

 

 

「《ミストルティンの槍》+《ゲイ・ボルグ》ッ!!!!!」

 

 

 

水刃と化した大型のランスと、《煌焔》《蜻蛉切》六本による対軍技《ゲイ・ボルグ》が放たれた。

 

 

 

 

「《絶天》ッ、フルバァーーーストッ!!!!!」

 

 

 

 

大出力による全砲門フルバースト。

そのあまりの衝撃に、《打鉄弐式》の両脚が地面に食い込む。

空中から地上へと落ちる “八つの槍” と地上から天空へと昇る “八つの閃光” が、アリーナ内部で、激しくぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

バアァァァァーーーーーンッ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

とてつもない爆音と爆風。

衝撃が波となって押し寄せ、アリーナの地面、防護壁、観客席に至るまで、その衝撃を轟かせた。

 

 

 

 

「くっ……二人は、大丈夫なのかっ……?!」

 

 

 

箒を抱き抱えたまま、一夏は爆発を起こした二人に視線を向けていた。

互いに肩で息をしており、その衝撃の凄さを物語っていた。

 

 

 

「んっ、んん……」

 

「っ、箒、大丈夫か?」

 

「んっ……一、夏?」

 

「あぁ……俺がわかるなら、大丈夫そうだな」

 

「私は、一体、なに……を……?」

 

 

 

ようやく意識を取り戻した箒。

しかし、周りを見回しながら確認している時に、自分の今の状態に驚いた。

 

 

「なっ!? ななっ……!」

 

「ん? どうかしたのか?」

 

 

 

よくよく考えてみれば、箒は気を失っていた為、当然ISは解除されている状態だ。

いわば、生身の状態なわけだ。

そんな箒を、一夏はお姫様だっこをした上に、先ほどの爆発で箒を守る為に、強く抱きしめているような状態であるのは、言うまでもない。

ゆえに、一夏の体には、箒の豊満すぎる我がままボディが押し付けられているという事で………。

 

 

 

「ばっ、馬鹿者ッ! は、離れんかっ!」

 

「でっ!? な、何すんだよ! 助けてやったのに!」

 

「そ、そそその事には礼を言うが、こ、この体勢はっ、はうっ〜〜!?」

 

 

 

なんとも箒らしからぬ物言いや反応に、一夏は思わずドキッとしてしまい、箒に言われるがまま、その場におろした。

 

 

 

「すまん、箒。その、ちょっと力を入れすぎて、お前の事滅多斬りにしてしまって……」

 

「構わん……真剣勝負の最中のことだ。私はむしろ、本気で戦ってくれた事に、感謝しているくらいだ。

しかし…………」

 

 

 

 

箒もまた、凄まじい爆発の起こった跡を見ていた。

肩で息をする更識姉妹を見て、息を飲んだ。

 

 

 

「アリーナが壊滅してないのが不思議なくらいだな……」

 

「あぁ……」

 

 

 

気を失っていた箒ですらその身で感じた衝撃。

それを間近で受けていた二人は、もっと強い衝撃をその身に受けているはずだ。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……槍が全部破壊されるっていうのは、予想外だったかな……」

 

 

 

《ミステリアス・レイディ》本来の最大火力である《ミストルティンの槍》。

それに付け加え、ソードスキルによる追加火力を賭しての二重攻撃。

和人でさえ倒し切った《ゲイ・ボルグ》で投じた槍全てが破壊されたのだ……。

これは、正直に言って驚愕している。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……オーバーロード……。ダブルブラスト、レールガンともに冷却モードに移行しないと……」

 

 

 

 

片や、簪も最大出力で放射したフルバーストの影響で、銃身がオーバーロードを起こしていた。

大出力のブラスターライフルであるダブルブラストは、今の段階では使えず、レールガンもまた今のうち冷却しておかなければ、即時使用は不可能だ。

使える武装は両手のビームライフルと、背部のガトリングガン二門。

だが、ガトリングガンにも弾数は限られている上に、先ほどのフルバーストで概ね使い尽くした。

撃てるとしてもほんの少ししか撃てないだろう。

となれば、両手のビームライフル二挺という事になるのだが、それだけで攻め切れるほど、姉は甘くはない。

 

 

 

 

 

(さて……私の武装もほとんどないし、龍牙とラスティー・ネイル、バイタル・スパイラル……でも、今更遠距離戦に持って行ったところで、簪ちゃんの射撃装備には敵わないしなぁ〜)

 

 

 

ならば、ここは自分が一番得意なもので勝負するしかない。

 

 

 

 

「やっぱ、最後はこれよね……!」

 

 

 

刀奈は右手を伸ばすと、そこに一本の紅い長槍が現れた。

《龍牙》……刀奈が最も使いこなしてきた槍だ。

それをまるでバトンのように回しながら、右脚を一歩引いて半身になる。

槍を自身の顔の高さまで上げて、槍の穂先を簪に向けたまま、左手を添えるように柄を握る。

 

 

 

「っ!……お姉ちゃん」

 

 

てっきり、遠距離からの狙撃をしてくるかと思った簪。

だが、姉は槍を取り出し、接近戦に持ち込むようだ。

どちらかといえば、《バイタル・スパイラル》の狙撃モードで狙い撃てば、姉の有利な状況になっていたであろうが、どうやら、その戦術は、お気に召さないようだ。

 

 

「お姉ちゃんは、槍で来るんだね……なら……」

 

 

簪は、両手のビームライフルを量子変換で格納して、新たに薙刀を呼び出した。

超振動高周波ブレードの薙刀《夢現》だ。

そして、背部のガトリングと、アンロック・ユニットのダブルブラストをも格納して、少しでも身軽にしたかのように振る舞う。

 

 

 

「っ〜♪ さすが、私の妹だわ。簪ちゃんなら、そう来ると思った」

 

「私は意外だった。お姉ちゃんなら、わざわざ接近戦じゃなくて、狙撃戦を仕掛けてくると思ってたから」

 

「ふふっ……。たしかに、そうかもね……。昔の私なら」

 

 

 

まるで、昔の自分を懐かしむように、刀奈は笑う。

 

 

 

「でもね。二年もこの子と戦ってきたんだもん……なんだか、こればっかりは、他の物に変えられなくなっちゃってね。

だから、昔の自分が愚かだと思っていても、今の私は、この槍に自分の全てを賭ける事に、なんの躊躇もしないかもね」

 

 

本当に、二年間で、姉は変わったように見える。

いや、変わったと言うよりは、昔に戻ったかもしれない。

更識家の当主に選ばれてからは、どこか自分を狭い檻に閉じ込めていたような雰囲気のようなものを感じていたが、今の姉は、昔のようになんでもハツラツと、やりたい事を即座にやりたがる子供のような顔をしている。

これもまた、あの世界での影響であり、姉の恋人……一夏の存在が影響しているのだろうか……。

 

 

「あら、そういう簪ちゃんだって、昔とは比べものにならないほど、イキイキとしてるじゃない」

 

「えっ?!」

 

 

 

思っていた事が口に出ていたのだろうか?

それとも、表情に出ていたのだろうか?

刀奈からの指摘に、簪は慌てた。

 

 

 

「昔のあなたは、何に対しても内気だったじゃない。なのに、今のあなたは、私にだって勝負を挑んできた。

自ら進んで、前に向かって歩き出したのは、簪ちゃんの凄いところだと思う……。

だからお姉ちゃんは、そういう簪ちゃんが好きだよ♪」

 

「お姉ちゃん……」

 

 

 

簪は、無言のまま《夢現》を構える。

八相の構えのように、半身の姿勢から右手は肩の位置に、刃は返して、下から上へと向くように下段の位置に。

 

 

「さぁ、始めましょうか」

 

「うん」

 

 

静かに構えた二人。

静寂が二人の周りを包んだ。

そして、それはすぐに破られる。

 

 

「行くよっ、お姉ちゃん!」

 

「来なさいっ、簪ちゃん!」

 

 

 

二人はほぼ同時に動いた。

互いの刃が迫り来る。

先に仕掛けたのは、刀奈だった。

 

 

「はあっ!!」

 

「っ!」

 

 

素早く出された刺突を《夢現》の刃で下から斬りあげる。

軌道を逸らした後に、返しの袈裟斬り。

だが、これは刀奈に受け止められた。

刀奈は槍を右に薙ぎ払い、簪との距離をあけると、瞬時に間合いを詰めて連続で刺突を放つ。

簪は刃と石突を交互に振るいながら、この猛攻を受け切り、自身の体を左回りに回転させ、遠心力を利用した回転袈裟斬りを放つ。

 

 

「っ……ふむふむ、さすがは簪ちゃん。そう簡単には攻めきれないか……」

 

「お姉ちゃんは手加減してるでしょう? 今の猛攻なら、もっと私が捌ききれないほどの刺突を放ってたはずだし……」

 

「そんな事ないわよ。これでも全力全開、的確に簪ちゃんを仕留めるために急所となる場所を突いていたんだから」

 

 

 

姉が進化しているのなら、妹だって進化している。

姉がSAOに囚われていた頃から、日々の鍛練は欠かさなかった。

自分が得意な薙刀術も、それ以外も。

姉の残像を自身の中で映し出し、その姉を相手に何度もイメージトレーニングを続けた。

だからこそ、刀奈の槍の猛攻を捌ききれているという事なのだろう。

 

 

 

「自分の事を、あまり過小評価しなくてもいいのよ、簪ちゃん。あなたは、自分が思っているよりも、とても優秀なんだから」

 

「お姉ちゃん」

 

 

 

姉の言葉が、胸に響く。

ずっと前から、そう言って欲しかった……。

優秀な姉と自分を比べて、自暴自棄になって、姉と疎遠になって……二年間の虜囚から戻ってきたときに、自慢の妹と言われた…。

そして今、ちゃんと、姉である刀奈から、認めてもらえたような気がする。

そう思うと、涙が出てきた。

 

 

 

「でぇ〜も、この戦いは、私が勝つからね♪」

 

「っ!?」

 

 

 

あくまで、この勝負は譲る気は無いらしい。

改めて、状況を確認した。

箒はエネルギー切れのため、すでにISを解除している。

一夏もまた同様のようで、ISこそ装備しているが、先ほどの爆発の影響で、シールドエネルギーを完全に消失したらしい。

まぁもっとも、その前に《極光神威》を使った影響で、残りの残量もたかが知れていたみたいなのだが……。

ゆえに、この大会の決勝戦の勝者は、刀奈と簪……二人の一騎打ちによる勝敗で決まると言うわけだ。

 

 

 

「大丈夫。私も、そのつもりだから……っ!」

 

「ふふっ……そう。やっぱりお姉ちゃん、簪ちゃんのこと大好き♪」

 

 

 

改めて構え直した二人。

この立会いで、全てが決まる。

 

 

 

「やあああああッ!!!!!」

 

「はあああああッ!!!!!」

 

 

 

簪の斬撃と刀奈の刺突が交錯する。

バンッ、と鋼を叩いたような音が聞こえ、それと同時に火花が散る。

離れてもう一度斬り込む。

《夢現》が刀奈の足元をすくうように薙ぎ払われると、刀奈は飛び上がって躱し、簪の顔面めがけて刺突を放つ。

簪はそれを躱し、刀奈の間合いに入り込むと、今度は胴一閃に斬撃を放つが、刀奈は槍の柄を割り込ませて受ける。

そんな調子で、互いの間合いの中で、二度三度と刃が交わされていく。

 

 

(逃げるんじゃなく、攻めるっ!)

 

(受け止めるっ! 簪ちゃんの思いを、全てっ……そして、私が勝つ!)

 

 

 

姉妹であるためなのか、相手の攻撃パターン、癖、攻撃予測などは似ている。

だからこそ拮抗するし、どうすればいいのかわかる。

簪は《夢現》を薙ぎ払い、刀奈の《龍牙》を弾いた。

 

 

 

(ここっ!!)

 

 

 

ここを勝負と定め、簪は前に出た。

左へと払った《夢現》を背中に回し、右手に再び持ち直して、そのまま刺突を放つ。

狙いは、《龍牙》を持っている刀奈の右手。

そこを突いて、槍を落とした間に一撃を見舞えれば、こちらの勝ち。

 

 

 

「はあああッ!!!!!」

 

 

放たれた刺突。

《夢現》のエネルギー刃が、まっすぐ刀奈の右手に吸い込まれるように近づく。

だがその瞬間、刀奈は《龍牙》から右手を離した。

 

 

 

(えっーーーー!!?)

 

 

 

驚いた簪。

そして刀奈は、右手を離した瞬間に体を時計回りに回転させ、錐揉み状に飛んだ。

簪の刃を躱したのと同時に、左手で《龍牙》を掴んだ。

 

 

「っーーーーやああああああッ!!!!!!!!」

 

 

 

刀奈の全身全霊の力を込めた刺突が、簪の胸部へと突き刺さる。

一瞬の隙……いや、一瞬の間を突いたのだ。

突かれた簪はそのまま仰向けに倒れ、大の字で寝そべった。

自分自身の荒い呼吸の音と、姉の呼吸の音。

その二つが簪の耳に届いた。

そして、この試合の勝者を宣言する電子音が、アリーナに響くのも、確かに聞き取った。

 

 

 

 

 

『試合終了。勝者 更識 楯無、篠ノ之 箒』

 

 

 

 

 

確かに宣言された。

この試合……今大会の優勝者達の名前を、長い長い戦いの果てに、今回のタッグマッチトーナメント戦は、刀奈と箒、二人の優勝で、幕を閉じたのだった。

 

 

 

 






次回からはワールドパージ編やって、閑話とか挟みたいかな。
そんで京都旅行編やって、いよいよGGO編。
まだまだ長いし、拙い小説ですが、今後ともよろしくお願いします(^O^)/

感想よろしくお願いします!!!!


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